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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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【ハロー隣のクラッシャー】オマケとしてこまつながハナノリさんに捧げたもの。
捧げ物のくせに、こちらでのupが見やすいんでない?と提案いただいたので
うちでupしています。

上記シリーズの02.03当たりのマルコサイドです。
番号が2.5というのはそういうわけです。


※話の内容的に、ハナノリさんに頂いた【ウェルカム恋のファンタジスタ 01】を読んでから閲覧ください。
















大人風吹かせて戸締りしろと言ってみたら、ぽかんと口を開けられた。
まるで心配されることに慣れていないかのような顔で呆けていたかと思えば、
すぐに目をそらしてああ、うん、と答えアンはマルコから背を向けた。

階段を駆け上っていく背中は細く、うっすらと角ばった肩甲骨が存在を示している。
ガンッガンッと近所迷惑な騒音を立てながら階段を上るその女は、儚さとは無縁のように思えた。

階段を登り切り部屋へ向かって角を曲がるその瞬間、ちらりと見えた横顔はなぜかしかめっ面で、
その理由を考える間もなく荒々しく扉が開きまた閉じる音が聞こえた。



















「遅ェよい」

「ワリィワリィ、赤髪の野郎が来ててさ。オヤジに呼ばれちまった」


マルコの足元に小さな一山を作った煙草の吸殻たちは、マルコの不機嫌をわかりやすく表していた。
サッチはそれを一瞥して謝罪を述べる。
白ひげの名を出せばマルコもそれ以上言わないことを知っているので、それはしっかりと忘れずに。



「…で、今月のは」

「おう、これこれ」


まあ一通り目ェ通してくれよと手渡された封筒から、数枚のカタログを取り出す。
サッチがマルコに託す仕事は、いわばマルコの息抜きだ。
他にいくつもの契約を結んでいるマルコが書く記事は出版社業界では案外名が通っていて、
引っ張りだこと言うほどでもないが、それなりに仕事の依頼も多い。

だが難点は、マルコがえり好みすることである。
気に入らなければバッサリ切る。
書きたいものだけを書く。
それができないならあんたんとこはもう用がないとでも言うように、さっさと背を向けてしまうのである。
金に頓着しないと言えば格好は付くが、それで生活に困るようでは元も子もない。

そんなマルコの性格を一から十まで理解した白ひげが、マルコが気に入りそうな仕事を
たとえマルコでなくとも間に合う内容でも、マルコに託すのである。
そうすればマルコが気に入らないと言って仕事を切り続けても、白ひげからの仕事があるので
それをこなせば金が入るし、マルコも好きなものを書けて一石二鳥と言うわけである。

サッチやその他社員含め、マルコのことを息子と呼んで猫かわいがりする白ひげの究極の甘やかしである。





「やるだろ?」

「…オメェんとこのだ、当たり前だろい」


このお偉いさんとのアポとんなきゃなんねぇってのが面倒だがねい、とマルコは頭の中でその日程、
今後の算段をしっかりと予定として埋めていく。


ふと、視線を感じて顔を上げれば目の前の男の瞳とかち合った。



「……なに見てんだよい、気持ちワリィ」

「…いや、なんか今日ご機嫌じゃん。インタビューある奴だからまたブツブツ小言言われるかと思った」


まあ機嫌いいならそれにこしたことはないわな、と朗らかに笑ったサッチは
じゃあオレの仕事しゅうりょーと歌うように言い、ひらりと手を振って愛車で走り去ってしまった。



マルコの何をもって機嫌がいいと悟ったのかは、マルコ自身もわからなかったが
あながち間違ってはいないと思った。




















仕事机の前で先ほどの仕事の約束を取り付け終わった時にはもう日はとっぷりと沈んでいた。
ああ腹が減ったと思ったが相も変わらず冷蔵庫にはおそらくマヨネーズくらいしかないので、買いに出なければならない。
面倒だ、だが腹は減る、と椅子の背にだらしなくもたれながらうだうだ考えていたのだが、
食欲には勝てず仕方がない買いに行くかと腰を上げたその時、壁を超えた向こうの空間からそこそこ激しい衝撃音が聞こえた。
そしてそのすぐあとに届いたのは小さな叫びと呻き声。

ここ半年、隣家は空っぽだったためあそこに人がいるのだということに未だ慣れない。
人がいなくなるのに慣れるのはあんなにも簡単だったのにと思うと単純に不思議だった。


あの落ち着きのない小娘と、今の打撃音らしきものを思い起こすと先の出来事が容易に想像できる。
くっと笑いを漏らすと壁の向こうからクソッという悪態が聞こえてきて、
そのすぐあとにふははっと笑い声が聞こえたので
一瞬自分の笑い声までむこうに聞こえていたのかもしれないと考えて、また笑った。




















翌朝部屋の扉を開けて階段のほうへと顔を向ければ、
ずっしりと中身の詰まった袋を半ば引きずりながら歩いていく小娘の背中を捉えた。

事務服で、数センチのヒール靴を履いてしかし大股でゴミを引っ張っていく姿は何とも男らしい。
引っ越し早々楽しいやつだと内心笑いながら、後ろから近づきごみ袋を持ち上げた。




慌ててオレの後を追ってきた女は申し訳なさそうに眉を寄せていたが、
素直に助かったありがとうと言うのでこちらも気が軽い。

ふと目の前に立ったその姿を不躾に眺めてしまったが、騒々しくガキくさいわりには事務服も様になっていた。



だが次の会話で尋ねられた言葉はまるで小学生が「おじさん何の仕事してるのー?」と尋ねるような口ぶりで、
軽く驚きのような呆れのような顔をしてしまったのも致し方ないだろう。



だからというわけではないが、冗談交じりに耳元に口を寄せた。








「そんなことより、昨日ぶつけた所、大丈夫かよい」








途端にばっと顔を引いたそいつは咄嗟に耳を押さえていて、
こちらがなにを言う間もなく大丈夫!と叫んだかと思えばくるりと背を向けて、
ダッカダッカとヒール靴にしては珍しい足音をさせて歩いて行った






予想以上の反応にしばらく呆気にとられていたのだが、自然に漏れ出したのはやはり笑いで。




ああこれは手放したら退屈して死にそうだと、今朝方部屋に届いた緑色の封筒の行く末をぼんやりと考えた。

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マルアンサイト同士あらゆる妄想を披露しあい悶えあう仲である
ハナノリさまのおたく【トリトネコ。】が一万ヒットを迎えたことを記念して、
この現パロシリーズの最終回を彼女に捧げました。



【ハロー隣のクラッシャー】12.世界を反転させる人




ハナノリさん宅で公開してもらっているので上のリンクからどうぞ!




彼女のおうちで読んでもらっても大丈夫なように、できるだけ現パロ連載から引き続いた感じにならないように頑張ったつもりだったんだけど。(あれー?)
丁寧にうちにもリンクしてもらえました。



さらになんということか、その後の小ネタ(では収まりきらないオマケ)を頂いて、
まったくどっちが祝われてるんだか。←





上記のお話を贈った数分後に莫大な量の感想レポートが提出され(笑)
それを採点したこのわたくし(笑)

こっちでも載せようかとおもいましたが、ハナノリさんがおはなしのあと追記で載せてくれてあるので
そちらをお楽しみ下さいな。





頂いたオマケはぞくぞくとこまつなのパソコンに投下されつつあるので、
随時12話の下に更新していきます。


ハナノリ氏→12話その後のおはなし
こまつな→1~12話までの細かいおはなし


的なね!
おまけを二人でえいやあと送りあっている最中です。

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布擦れの音。
掠れた小さな呼吸音。
パソコンが自動更新される無機質な起動音。
冷蔵庫が思い出したように大きな音を出した。




いつもの雑音に交じった微かな音が、今日ばかりはやたらと神経に触れた。

少し視線をずらせば、犬か何かのようにうずくまる物体がソファの上にこじんまりと乗っていた。
それは規則正しく縦に上下し、この部屋に自分以外の生物がいることを視覚的にも認めざるを得ない。

いや、認めたくないわけではないが、落ち着かないのは確かだ。
たとえ一方が安らかに健やかに睡眠中だとしても。
















数時間前に遡ると、マルコとアンはふたり手にはシーツを握りしめて、狭い室内に立ち尽くして睨み合っていた。



「オレの部屋だい。オレの言うとおりにしてもらうよい」

「やだ!ここ気に入った!ここで寝る!!」

「ベッドで寝ないとてめぇの部屋に押し返すよい」

「うぁ…!…う、でも、マルコの部屋なんだからマルコがベッドで寝るべき!」

「だからてめぇがソファで寝てたらオレが安眠できねぇっつってんだよい」

「なんで」

「…そういうもんなんだよい」

「わけわかんない!!」



かれこれこういうやりとりが半時間は続き、ぎゃあぎゃあと言い合っているうちに日付も変わった。

しかし持久戦になりかけてきたそのとき、不意にアンがソファに上り、くるりと自身をシーツでくるんだかと思えばそのままうずくまって動かなくなった。



「…おい、何勝手に終わらせてんだよい」

「オヤスミナサイ」

「…こンのクソガキ…」



シーツごとアンを引っぺがしてベッドに放り込んでやろうかとも思ったが、それはそれで絵面的にまずい気もしたので思いとどまった。




「明日勝手に起きろよい」




「起こさない」という釘を刺してアンとの攻防を諦めたマルコは軽く着替え、風呂は朝だなと頭を掻きむしる。
アンがソファで寝ると言い出したときに一度つけた灯りを消せば、ばちんとこれまた「切れましたよ」と言わんばかりの切断音が部屋に鳴り響いた。
それと共に、白いシーツの塊もといアンがぴくりと反応を見せる。


ぽこっとシーツの隙間からアンの顔が覗いた。




「…ち、ちっちゃい電気ないの…?」

「ちっちゃい電気ぃ?」

「真っ暗やだ!!」



必死の形相で顔だけ出して叫ばれては、このまま暗闇で就寝するほどマルコも残酷ではない。
溜息と共に電灯の紐を引けば、ぼわっとオレンジ色の光が部屋の真ん中に浮かんだ。



「これでいいかよい」

「あんがとー」



至極満足と言った顔でにへりと笑ったアンは、再びもぞもぞと身じろいですっぽりとシーツにその身を隠してしまった。




いくつだ、とか本当に女か、とかいろいろ言いたいことはあったが、すでにアンの動きが人間らしくないのだから仕方ないかと、妙な納得ができた。
















(…寝らんねェ…)


むくりと上半身を起こしたマルコは、ぼんやりと宙を見つめた。
この室内で発される音と言う音が耳に襲い掛かり頭の中を駆け巡っている感じがする。


そしてしばらくの間、音源のひとつであるソファのほうを見つめていた。



(…よく寝る奴だよい…)


しかもヨソの男の部屋で。
というよりアンの「ヨソ」の境界はどこにあるのだろうかと、マルコは上体を起こしたまま霞んだ頭で考えた。
少なくとも、自分は間違いなくアンにとって「ウチ」の人間である。













「…んぅぁあ…」



見つめていた先が不意に無意味な呻き声をあげた。
それによってハッとマルコの頭が覚醒したと同時に、狭いソファの上で寝返りを打ったアンは自然とソファの端に移動する。


ずり、ずり、とシーツと共にアンの体がずり落ちていく。


動く気にもならなくて、ああこりゃまずいなとマルコが呑気に思っているも束の間、アンの体は重力に負けて床に落ちた。
どん、というよりべちゃ、と不格好な音がした。





(…ああ…もう…)





どこまでコイツは、と聞こえてもいない小言を吐きかけたマルコは、自分の溜息に励まされるようにして重い腰を上げたのだった。

















白い光がつんつんと瞼を刺激して、それが眩しさだと脳が理解したころ、アンはゆっくりと目を開けた。



(…ここ…、あぁマルコの…)



上体を起こし一周部屋を見渡して、昨日の記憶も取り戻したアンはぼんやりとする頭をそのままにあくびをひとつ漏らした。



(…マルコは…?)




ああベッドにいるのか、とあたりを見渡すが、すぐにあれ、と脳が停止した。



アンが想像していた景色と違う。
予定では自分の右側にベッドが見えるはずなのに、いや、寝る前までは確かにそうだった。

だが今は右側にあるのは白い壁で、左側にソファがあるのだ。





(…なんであたしベッドにいんだろ…)







あと、あたしの隣にいる動かない大きいのはなに。







その大きな白い塊は間違いなくシーツで、ゆっくりと上下に動いている。

好奇心の働くがままアンがそれに手を伸ばしてシーツを捲れば、俯せの背中が見えた。







「…マルコ…?」




ぴく、と角ばった肩が揺れた。
もぞりと白い塊が動いて、マルコの顔が現れた。

うっすらと目が開いたかと思えば一気に眉間に皺が寄り、マルコの手が自身の顔に影を作る。



「…朝かよい…」

「…うん…?」

「…なんで疑問形…」

「…いや、なんか…」

「…」

「狭い…」





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「おいアン、肉ばっか食うなよい。野菜を食え、野菜を」

「ひゃはいもはべてふ(野菜も食べてる)」

「アンちゃんぽんずとゴマダレどっちがいい?」

「ん、んぐ、あー、どっちも。マルコ、お皿二つ欲しい」

「・・・めんどくせぇ・・・」






白い蒸気が七畳の狭い室内を満たして、三人の鼻先を濡らしていく。
サッチが冬を偲んで投入した白菜やら白ネギやらそのほか多くの野菜が鍋を彩り、アンとサッチの絶え間ない会話によって唐突に始まった三人鍋は上々の出来だった。



「ていうかこの狭さに男二人の時点できついんだけど」

「同感だよい。お前が出てくかい」

「これ作ったのおれ!ちなみに材料もおれ!」

「なんでマルコはここに住んでんの?」




マルコとサッチのくだらない応酬を肉をつまみながら聞いていたアンは、思ったままの質問を口にした。
マルコはアンに少しの視線をくれてから、すぐに首を振った。


「・・・別に。知り合いの編集者が近ぇし、そこそこの収入が入る前から住んでるからなんとなくそのまま住んでるだけだい」

「・・・ふーん」



ほら野菜食え、とマルコはアンの器に適当な野菜を投入する。
マルコがアンの質問に答える前、一瞬だけアンに視線を合わせたことが、アンにはマルコが言い淀んでいるように思えた。
サッチは特に何を思う風もなく新しく野菜を鍋に投入しているし、人の私生活を詮索するのはよくないよねえ、とアンはひとり納得する。




「サッチはどこに住んでんの」

「おれ?こっから車で20分くらいんとこ」

「ひとり暮らし?あ、サッチなんで結婚してないの」

「・・・アノネ。結婚になんでとかないの!もうアンちゃんお口にチャック!!」
















あれから三人で後片づけをして、サッチが材料と一緒に買ってきていたゼリーを食べた。


サッチが帰る際、お前が来たから手間が省けたと、マルコはサッチの手に一本のUSBを握らせた。
それを見てサッチは口の端を引きつらせる。


「・・・お前、これまさか」

「再来月号の原稿」

「おれにどうしろと」

「入稿完了だよい」

「ちょっと待て!おま、これまさかおれに持ってけとか言うの!?」

「メールで送るの嫌いなんだよい。信用ならねぇ」

「知ってるけど!おれ直接お前からもらうといっつも怒られんだよ!私事をはさむなっつって!」

「さっさと起こしといてくれよい。原稿料早く振り込んでもらいてぇ」

「人の話をっ・・・、あぁ、もう、しょうがねぇな・・・」



溜息と共にUSBを無造作にポケットへ突っ込んだサッチは、アンに特大笑顔で手を振りながらマルコの部屋を去って行った。
なんだかんだ言いながらのいつもの光景であることを、マルコとサッチもわかっていた。
アンもそろそろ目に馴染みはじめている。













あれだけ騒がしかったはずの室内は今はマルコとアンの二人だけで、二人から発せられる音は皆無だ。
マルコの部屋に響く音はパソコンから流れるBGMと鼻にかかったような人の声だけで、部屋の照明は落とされパソコンの画面からのみ光が漏れる。



「う、わっ!まる、まるこ!あそこ絶対なんかでる!!」

「出るだろうねい」



アンが無意識に抑えた声で隣のマルコに話しかけるので、マルコもつられて小声で返す。
マルコとアンは、サッチが置いて行ったDVDを鑑賞していた。



「・・・だからこっちのアクションにしようっていったのに・・・」

「嘘つけよい。お前がこれ見たいって言ったんじゃねぇか」

「だってサッチがあんまり怖くないって言っ…っぁあああ!まままるこ!あそこにぃいいい!!」



片手はマルコのシャツの裾を、もう片方は画面を指差して絶叫するアンをマルコは呆れたように横目で見やった。
頭からすっぽりシーツをかぶって震えるアンも相当ホラー要素たっぷりだと、マルコは思う。

 








「やだやだやだもうやだ、マルコ消してそれ消して!!」

「あと30分で終わるよい」

「つづきは明るい時にみるの!」


既にすっぽりシーツで顔も覆ってしまったアンはもうDVD鑑賞をすっかり拒否していて、その姿を確認したマルコはため息とともにマウスを動かしDVDを止めた。








途端にしんとなる室内。
ソファにゆるりともたれて足を組むマルコと、その隣には白い塊もといアン。





静謐が、今の状況をありありと伝えた。
 




 



「…アン」


マルコが声をかければ、シーツの盛り上がりがぴくりと動く。
その動作が、この状況に対してアンがそれなりに理解していることを示していた。



「お前もう帰れよい」

「・・・う、ん・・・」





肯定の返事をしたものの、アンは一向にそれ以降のアクションを見せない。
マルコが再び声をかければ、アンの顔がちらりとシーツの隙間から覗いた。







「・・・帰らなきゃなんないのはわかるんだけどね・・・こわい」





 



暗闇に慣れてきたマルコの目が、アンの歪んだ口元を捉えた。

そんな顔でそんなことを言われたら、返す返事も与えられたようなものじゃねぇかと、マルコは内心ここぞとばかりにため息をついた。














「じゃあこっちで寝てくかよい」





躊躇いもなく返ってきた頷きにマルコは今度ばかりは紛れもなく本物の溜息が零れたのだが、アンは気づかなかった。 




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「マールコー、マァーールーー」
 
「…うるせぇ…」
 
 
 
険しい顔つきで扉を開ければ、にかりと歯を見せて笑う小娘一匹。
胸の前で組まれた両腕の中には、数枚の紙切れとノートパソコンが抱かれていた。
 
 
 
「パソコン教えて」
 
「…あぁ?」
 
 
 
 
とりあえずと部屋にあげれば、会社から頼まれた仕事を持ち帰ってきたらしいのだが、いざやろうとしたらてんでわからないのだという。
 
 
 
「…お前いままでよく仕事してきたな」
 
「会社は教えてくれる人いるもん」
 
 
小さな会社で、同じ部署の上司50、40代の男三人女一人の中に放り込まれた。
荒波に揉まれるのかと思いきや、ほんわかした中年たちに囲まれて可愛がられるはめになった。
 
 
 
「『手が空かない』って困ってたからさ、張り切ってやってきます!とか言ったんだけどさ、」
 
 
やっぱわかりませんでしたーとかできないじゃん、とこれも笑顔付きで言われてしまえば、マルコは文句やその他諸々の小言よりさきに溜息が漏れ出してしまう。
格好つけた体裁を守ることはきっちり考えているのに、隣人に無関係の仕事を教えろと申し出るのは厭わないのかと。
思うところは多々あるが、その全てが口にするのも労力の無駄というもの。
数ヶ月足らずでよくもまぁと目頭を抑えたくなるマルコだが、それもアンだから成せる技だと割り切ってしまう自分も大概だと、こっそり思う。
 
 
 
 
 
「…オレにわかんのかよい」
 
「だいじょうぶだいじょうぶ!」
 
 
 
なにを根拠にと口を開いたマルコだが、会社で充電したからバッテリーたっぷりなんだ!と嬉しそうにパソコンを開くアンの姿を前にして、もうひとつ溜息を吐くと同時にその画面を覗き込んだのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
いつもより多めにカタカタとキーを叩く音が室内に充満している。
マルコは仕事机で、アンが訪ねてきたときに書いていた原稿の続きを、アンはそのうしろ、ローテーブルに置いたパソコンを食い入る様に見つめながら慎重にキーを押していた。
 
原稿にキリが付いたマルコがもう一人の存在を思い出して振り向くと、ノートパソコンの背中とアンの頭上部が見えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…でき、た…」
 
「おつかれ」
 
 
 
アンが深く息を吐いたと同時に顔の横に差し出されたグラスには、なみなみとベージュ色の液体が注がれていた。
アンが振り返ると、マルコはアンの後ろに備えられたソファに腰を下ろして自身のコーヒーを飲み下していた。
 
 
「…いつからそこにいた?」
 
「お前が最後の資料捲る少し前」
 
「…全然気付かなかった」
 
「すげぇ集中してたよい」
 
 
 
資料とパソコンを適当に片付けて冷えたカフェオレをぐっと喉に通せば、文字ばかりを追ってガチガチに固まっていた頭にすっと芯が通った気がした。
 
 
 
「…もう夜だね」
 
「…腹減った」
 
「…なんかある?」
 
「なんもない」
 
「…」
 
「…」
 
「…あたし今お金あんまりないんだよね」
 
「奇遇だ、オレもだよい」
 
「給料日前だからね」
 
「入稿前だからよい」
 
「…」
 
「…」
 
 
 
マルコが突然、机の上に置いてあった車のキーを掴み立ち上がった。
 
 
 
「出るよい」
 
「え、どこに」
 
「サッチにたかりにいく」
 
 
 
 
 
ためらうことなく上着を羽織り玄関に向かうマルコを慌てて追いかければ、重い扉の向こうでぴんぽーんと気の抜ける電子音が鳴った。
 
 
アンはマルコの脇の下から、マルコとふたり玄関口から右手に顔を覗かせると、アンの部屋の前で首をひねるサッチを発見した。
 
アンとマルコが無言でその姿を見つめているのに気付いたサッチは、顔をこちらに向けておっと声を発した。
 
 
「なんだこっちにいたのかよアンちゃーん。あんまりおっさんの部屋ほいほい入っちゃダメなんだぜ?」
 
「…お前なんでオレんちじゃなくてそっちのインターホン鳴らしたんだよい」
 
「え?アンちゃんと過ぎ去った冬を思い返しながら鍋パーティーしようと思って」
 
 
ガサッと、サッチが持ち上げたビニール袋からは太いネギが覗いていた。
 
 
 
「しゃーねぇなぁ、マルコにばれちまったからお前も仲間に入れてやるよ」
 
 
ほらガスコンロと鍋出せ、とマルコの部屋に乗り込んで材料を取り出すサッチに視線をやってから、アンが隣に並ぶ男の顔を覗き見ると、そこには世に出すべきではないと思わせるほど物騒な顔があって。
 
アンが思わず吹き出せば、後頭部に容赦無い一撃が飛んできた。

 


 

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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一声いただければ喜んで遊びに行きます。

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