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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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外出した分の仕事をする、とマルコは言ったがその前に死ぬほど腹が減ったと言いだした。

お前らのお陰で仕事が進まなかった、とは元凶が自分なので口にはしない。
その位の分別はあるマルコだが、昼前から物理的に何も口にしていないのは確かなので、
空腹を訴えるのは至極当然とも言えた。


「・・・あー、でもあたしもなんかお腹空いて・・・あぁっ!!!」

「何だよぃ」

「サッチのとこに、お土産のごはんと、明日焼けばいいだけの肉と、あとなんか色々あったのに」
忘れて来た、とアンはぺしょんと床に座ったままこの世の終わりのような声を出して、うううと涙まで浮かべ出している。

あの時はそれどころじゃ無かったし、とウダウダ床に崩れていくアンを見ながら、
それでも菓子の袋は忘れなかったじゃねぇか、とマルコは内心で突っ込んだが、それも言わないでおく。


「とりあえずサッチに残しといてって電話しよっと・・・」

よいしょ、と体を起こしたアンは携帯携帯、とポケットを探り、
昼間アパートの階段を下りて以来、久々に電源を入れた。

履歴から折りかえそうと思い、画面を切り替えて馴染んだ三文字のカタカナの洪水にうげ、とちょっと引く。

掛け過ぎだろ、と内心で突っ込んで目の前の男の顔を見るが、何の変化も見られない。

この涼しい顔をしたマルコに、相当気を揉ませたのかと思えば、
一応の関係修正が済んだ現在ではちょっと嬉しいような気もする。

「何にやにや笑ってんだよぃ」
「・・・何でも無い」

へへ、とアンは誤魔化してサッチに電話をかけた。




**




「もしもし?」

『おー!アンちゃん、どうよ?マルコの野郎から仕事干して欲しくなったか?』

「うぅん、それはまた今度でいいや」

ぶはっとサッチが吹き出す音が受話器の向こうから聞こえる。
まだこの先その可能性があるというということだ。
なんて楽しいお嬢さん!とサッチはいつもの調子を取り戻したアンに、よかったな、とだけ言った。

「うん、サッチのお陰」

ありがと、とアンは照れたように言って、えぇと、と肉とご飯の行方についてを伝えようとする。

『あ、そうだ、いろいろ仕込んでた飯、どうする?届けてやろっか?』

「え、あ、いいよ、悪いって」

『にゃにおぅ!?俺がアンちゃんの為に作ったスペッシャルな料理を無駄にしろってか!?』

「い、いやそうじゃなくって、また明日とかでもよかったら取りにッ?!」

突如サッチの耳には、ガサッとかうわ、とかマルコ!とかの声が響き、
おーい、とサッチが呼びかけた瞬間に受話器から聞こえて来たのは大変大変嬉しくないハイパー低音ボイス。


「お前ェんとこの原稿上げた。持ってくついでに飯食わせろ」

うーわー、どうよこの傍若無人な唯我独尊オッサン。

背後でアンちゃんが、携帯返せ!と叫んでいるのが聞こえるので、
恐らくアンちゃんはぴょこたんぴょこたんとマルコに飛びついているに違いない。


『・・・ウチには失礼なオッサンに食わす食事はありません!』

そう言いながらサッチはこの台詞には何の効力もないのだとわかっている。
クソッタレ!

「も、もしもしサッチ?ごめんね、いいよ、マルコの言うこと気にしないで」

息が切れているのは携帯をようやく奪還できたかららしい。

『あー、大丈夫よ、来てくれる方がいろいろ詰めたりする手間省けるし、』
だいじょーぶ!キッチンでは俺が法律なので、あんまりマルコが酷かったらお湯しかだしません、
と続けたサッチにアンはふはっと笑った。

やっぱりサッチのこういう変に気を使わせない優しいところがとても好きだ。

「ありがと、サッチ大好き」

『おお、俺も・・・?!』

ブチッ・・・ツーツーツー





この街中で突然電波状況が悪くなるわけもないが、
アンの傍には人為的な要因が眉間にしわを寄せているはずなので、
サッチはどんだけー、と苦笑するしかない。

この歳で、ドツボにハマった野郎を見られるとは・・・・いや正確には今のは見えてないけれども、
見えなくても想像出来過ぎるのでもはや見えていると言わせていただきたい。




そいじゃ、あと20分で何人前を準備しましょうかね、とサッチは携帯をパチンと閉じて、
今度はジーンズの尻ポケットにそれを突っ込むと、
とりあえず野郎の嫌がらせから仕込むか、と包丁を動かし始めた。









**



アパートを出れば先ほどまでの雨は霧雨程度に収まっていた。


話してる途中で勝手に切るとか信じらんねェ!と憤慨するアンを助手席に放りこんで、
マルコはエンジンを回す。


本来であれば仕事も押しているのに再び時間をかけてヤツの家へ出向くなど、したくもないのだが、
アンへの詫びやら懺悔やら、そういう諸々の意味でマルコは現在ハンドルを握っている。

その位アンのサッチ料理への未練は見ていて哀れだったのだ。

まぁ、自身の空腹も満たす必要はあるので、
どちらにしても出かけなければならなかったわけだから、マルコに取ってもまったく不本意と言うわけでもない。


ただ一点、マルコは嫌な展開に予測がついていて、
その元凶となるべくのアンの服の一部に嘆息をする。


サッチにも見せる、とアンは引っ越し先の物件情報を丁寧に折りたたんでポケットに入れていて、
恐らく向こうに着くなりそれをサッチへ披露する筈だ。



別に引っ越すこと自体はサッチに隠す話でもない。
大体便乗して嫌がらせを散々してきている時点で隠すどうこうのモンでもなくなっている。


問題は、アンが選んだ物件だ。


女編集者とサッチとは裏で繋がってるんじゃないのか、とマルコはそれを見た時に唸ったのだが、
結局客観的な条件もろもろで最後まで候補に残さざるを得なかった。

そして何の因果か、アンが選んだのはその曰く付きの方。

マルコにはアンが何故それを選んだのか、本人は気づいていないだろうが何となく察しはついている。



そんな事を考えながら車を走らせれば、あっというまにサッチの住むマンションが見えてきてしまった。





**




さっきはサッチと一緒だったので押さずに済んだチャイムをアンが押すと、
どーぞ、と返って来たので二人は揃って上がり込む。
鍵は開いていた。




「鍵持ってねェお前がそのまま出てくとかホント最低」

キッチンカウンターの向こうで缶ビールを煽っていたサッチは、
迎えに出るでもなくマルコの顔を見るなり悪態をついた。


「別にすぐその辺に居たんだろぃ」

「そういう問題じゃねぇ!」


ったく、と煽ったビール缶はどうやら空になったようで、サッチはそれをキッチンにコンッとぶつけて置く。


何かいろいろ悪かったなぁ・・・とアンはサッチに何と声をかけようか悩み、素直にこれかな、と思いついた事を言った。



「ただいま、サッチ」

何となく照れ臭くて、アンは頬の辺りを掻きながらサッチに告げる。


「あー、もうアンちゃんはいいの。いつでもウェルカム!てかただいまっていいな」

もっかい言って、と笑うサッチの顔にアンはもう一度笑ってただいまと言った。


「ああああすげぇ幸せ」

「煩ェ、サッチ飯よこせ」
「・・・っとにお前はよぉ!!」

これでも食ってろ!とサッチはマルコがさっさと座ったダイニングテーブルの前にどかんと器を置いた。


「・・・パイナップル?」

いきなりデザートとは一体、と思いつつ、アンもひょいとつまんだ。
うん、甘くて美味い。


「マルコ食べないの?」

「・・・・・飯にゃ不向きだろぃ」


んじゃお前ェは湯でも飲んでろ!とサッチは本当にマルコの目の前に湯を出すと、
悪態をつきつつ、それでも何かしらの料理を出すために再びカウンター向こうへ回り込んだのだった。



*



ひと心地つきました、とアンはパチンと両手を合わせてごちそうさまでしたと空にした皿たちへ頭を下げる。
散々食べたのだが、気持ちを塞いでいた物が何もなくなった状態で味わうサッチの料理は別腹だ。

サッチ天才、最高、大好き、を連呼し、サッチの顔を大変だらしなくさせると同時に曇りゆくマルコの顔には気づいていない。
アンの正面にはサッチ、そして横にはマルコが居るので視界の端には入っているはずなのだが。

それどころか、マルコもサッチにちゃんと礼言え、とビシッと顔を指さして命令を下す始末だ。


アンの前にはビール缶がいくつも転がり、サッチの前もそれは同じ。

この後運転をせねばならないマルコは当然飲めないので、酔い行く馬鹿二人を目の前にせざるを得ない状況だった。

とはいえ、サッチはこの程度で酔うわけもないので、酔っ払いなのはアンだけだが。



「あ、そーだ、忘れてた、サッチサッチ」

「んー?」

「あのね、あたしね、引っ越す・・・んだ・・よね?」

「・・・・・・・いや、俺に聞かれてもね」

まだ状況がよく呑みこめていないと言った風のアンは、サッチに嬉しそうに報告する途中で迷子、という謎の行動に出て、
隣の男を大変げんなりさせている。

「何でそいつに確認すんだよぃ」
するならこっちだろうが、と言ったマルコはアンの脳天を掴んでグキッと自らの方を無理やり向かせて『アホ』と口を動かした。


「アホゆーな!」

「じゃ馬鹿でもいいよぃ」

うがー!と脳天を掴まれたままジタバタ暴れる様子を見せつけられては、
今度はサッチの方がげんなりし始めてしまう。



「まぁまぁ、そっかよかったじゃん」

「う、うん、・・・でもサッチびっくりしないんだね」

掴まれていた頭が離されたので、アンはぷるぷると頭を振ると、
もしかしてマルコが先に話してたの?とマルコの顔とサッチとを行き来して、
知らなかったのはあたしだけかと沈みかけた。

おっと、それは大変な濡れ衣ですことよ、とサッチは慌てて全力の否定を返す。


「いやいやいやいや、違う違う、言ったでしょ?アンちゃんが全部話したらちゃんと解決するって」

「・・・うん」

「マルコなら、そんくらいの解決法用意するだろうって予測してただけよ」

「そなの?」


「その割にゃ、気合入った嫌がらせ仕込みしてくれたじゃねぇかよぃ」

「お前、飯食っといて作った人間落とすとかいい根性してるよなぁ」

うるせェ、いやお前が煩ェ、と言い合いだしたオッサン二人をアンはよくわかんない、と眺めつつ、
まぁいいや、と放置した。


「んでね、ココなんだよ」

よいしょ、とアンはポケットからちょっとよれた紙きれをとり出すと、
テーブルの上の皿を端に寄せつつ四つ折の皺を一度伸ばす様にしてサッチに手渡した。


「お、どれどれ・・・・」


へぇ・・・・・・・・・・・

十文字に折れ痕の付いた不動産情報を受け取ったきり、サッチはパチクリと目を瞬いて固まっていた。


「あーらまー・・・・」


これは、アレか、何と言う面白い展開!と万歳しておくべきか?




サッチの横に寄って来たアンは、そんなサッチの様子には全く気付かず、
缶ビールと共に横から覗きこみつつえへへー、と笑っている。


「ここが飯食うとこでー、ここはテレビで―、あとこれはあたしが寝るとこでー、こっちはマルコの寝るとこでー」

ありゃ、マルコの仕事部屋が足りない、とアンはおっかしいなーとけらけら笑っている。


いやそれは寝る場所一緒にするから問題ないんじゃね?とサッチは喉まで出かかって、
そしてずっと黙ったまま、非常に面白くない表情をしている斜向かいのマルコを見やる。


もはや湧き上がるにやけた笑いを止められなかった。



*



「アンちゃん、あれだな、ここ、俺んとことちょっと間取り似てんだな」

「お?・・・おぉ・・・?」

アンは紙の上の間取り図と、実際のサッチの部屋を何度も見比べて、
くるくると位置関係の確認をしている。


「ホントだ!」

あ、そっかー、だからマルコにどっちって聞かれた時、なんかこっちの方がいいなって思ったのか、
うんうん納得、とアンは非常に嬉しそうに頷いて、それをそのままマルコにももう一度話している。


机を挟んだ斜め向かいに、マルコは憮然と座ったままなのだから、
別にアンがもう一度話さなくとも充分伝わるのだが、
まぁ酔っ払いのすることに道理は通じないことの方が多い。

そしてマルコも案の定そうかよぃと適当に流した返事をしていた。



「んでよ、アンちゃん」

「んー?」

「住所見た?そこの」

「うん、でもよくわかんなかった」

「んじゃ、いい事教えちゃる」

きょとん、とますます不思議そうになったアンと、比例するように不機嫌顔になっていくマルコ。

その両者のコントラストをサッチは視界に入れながら、非常ににやけた顔のまま、
アンに取っておきの秘密を打ち明けるように言う。



「それ、ここの隣のマンションよ」



クックック、ともう我慢できませんと言った風でサッチはアンの頭をくしゃくしゃにかき混ぜると、
斜め向かいの男に向って、ザマ―ミロと言い放ったのだった。









**





同系列のタイプのマンションで、多分ここよりはちょっとだけ広いっぽいけどな、と付け加えたサッチの情報に、
アンは盛大に驚いて、そしてマルコをゆさゆさと揺すりながら、知ってた?を繰り返していた。

知ってたから嫌だったんだ、と口にはしないながらマルコは表情で応えているのだが、
酔っ払い娘にそれを察する力はもはやない。


すごい!じゃぁじゃぁ、サッチとご近所さんになるの?!

それは何て楽しい生活だ!とアンはやったやった、とダイニングを跳ねまわり、
最終目的気をソファーに決めたらしく、ぼすん、とそこへ着地した。

そして、興奮と跳ねた所為でアルコールが回ったのだろう、
30秒もしない内にコテン、とアンは眠りに落ちると言うもはや何たる酔っ払いぶり。



「心配事無くなったとたんに、こんな顔で寝ちゃってまぁ」

素直すぎてオッサンには眩しい!そう言いつつサッチは呑み残しのビールを煽っている。

テーブルからの二人の視線は交差することなくアンの小さく丸まった姿に注がれて、
そしてその視線のままサッチは言った。


「言っとくが、別に俺は何の工作もしてねぇかんな」

一応ライバル会社の同業、なお且つあのタイプの女は敵にするとやっかいだし、
下手にこちらの情報を与えるのも面倒故、サッチだって避けて通れるなら通りたい相手なのだ。


「裏がありゃ最初っからアンに選ばす候補から意地でも外してるよぃ」

ひょいと肩をすくめたサッチは、そらそーか、と呟く。


「俺としちゃ、うちのマンションの空き部屋物件選ぶっつーミラクル展開でもよかったんだけどなー」

ハァ、とマルコはそれを聞き、見ないままゴミ箱に突っ込んだサッチの封筒の中身が予想通りだったことを悟った。


それを機に、マルコはポケットからUSBメモリをとり出すとサッチの前へトン、と置く。
そして立ち上がりながら邪魔したよぃ、とだけ言った。

ソファーで絶賛!夢の中ツアーをしているアンを起こすわけでもなく、そのままひょいと横抱きに抱える。


「どーっせこれから明日まで缶詰めなんだから、その可愛いお嬢さん置いてってくれても別にいいのよ?」

もちろん冗談に決まっている。
忙しかろうが構ってもらえなかろうが、アンはマルコの隣が好きなのだろうし、
今だって無意識にマルコにきゅぅとくっついてますます気持ちよさそうに眠っているのだから。


「・・・・テメェとしょっちゅう顔合わすのは、後しばらく先でいいよぃ」

諦めた、と言った風のマルコは、それでもリビングのドアと玄関ドアを塞がった両手の代わりに開けてくれたサッチに
目線一つで礼らしきものを返すと、そのままスタスタと去っていった。




サッチに残されたのは、空き缶と空の皿で溢れかえったキッチンテーブル。


そして冷蔵庫にマグネットで留めてあるレシート。


ピッと取り裏返せば、アンの字が並んでいる。


マルコが見つけていたら処分確実だ、とサッチは苦笑しながら肩をすくめ、それを再びマグネットでそこに留め直す。
ただし今度は裏面が見えるようにして。



ご近所さんになって、しょっちゅうここへ出入りをされるまで、
しばらく貼らせてもらうのも悪くない。










 ― 『サッチ、ありがと、また来るね』











ハナノリさんのあとがき

拍手[28回]

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「・・・何?」


「こっから引っ越すよぃ」


え、とアンは背中に氷を詰められたような気がした。


マルコが引っ越す?ここから?
いなくなる・・・の?


「候補は二つで、場所はこっから15分か20分そこら動く、駅は近い」

アンはマルコの説明をただの音でしか聞けなかった。


一回断った話、あれ、まだ続いてたんだ・・・

あたし来たから引っ越し止めたって言ってたけど・・・

そうじゃ、なかったの?


「んで、お前ェは仕事先がちょっと遠くなるが、通えねェ距離じゃねぇと思う」

「・・・へ?」

ぱちくりと瞬きをした小娘の顔を見て、マルコはとたんに嫌な顔をした。
これはアホらしいが、非常にアホらしいが、確認しなければならないらしい。


「・・・何で俺一人でこっから出る話になんだよぃ」

「?」

「お前ェも一緒に決まってんだろうが」

「へ?あれ・・?あたし?・・・引っ越すの?」


嫌って言っても連れてくよぃ、と言ったマルコは立ち上がると机横の棚の端から何やら引っ張り出し、
再び戻ってアンの前に座る。
きっちり立ち上がる前と同じ体勢、つまりは足の間で捕獲状態に戻したマルコはアンに二枚の紙を見せた。


「払う家賃は今と殆ど変らねェ、どっちがいい?」

アンはよくわからないままマルコから差し出された紙を勢いで受け取ってしまった。


1つはキッチンとダイニングが広め、もう一つは角部屋でベランダが広めというのが売りの様だった。

アンは選択肢を出された条件反射で、どっちだろうと悩みかけたが、
いや待て、と根本的な事に気付いた。


どうみても、今よりも数段広くて何か部屋もいっぱいある。

食べるとことテレビのとこ、あと1つの部屋では寝るとして・・・もう一つで何すんだ?

家賃変わんないのに、今より広くなるってものすごく不便ってことか?いやいやでも駅近いって・・・

うーん、と眺めているうちに、キッチンが広めの方は何故だかストンと心に落ちた。
理由はよくわからないけれど。


眺めている長さから、マルコはアンの返答を得たとばかりにそっちかよぃ、と1つ息をついた。
そして落選した方の紙を回収する。

微かにマルコの態度にはマイナスの気持ちが含まれていて、アンはパッと紙から目を上げるとううん、と首を振った。

「いや、別にマルコがこっちがいいんなら、あたしはそっちでいい」
そっち、とたった今マルコに回収された方の間取りを指さしてアンは慌てて訂正をした。

「あ?」

「いや、だから、別にあたしは隣同士ならどっちでもいいから、マルコの選ばなかった方でって・・・・・・マルコ?」

はぁぁぁぁ、とマルコは今世紀最大のため息とでもいうようなシロモノを己の口から吐き出すと、
何でお前ェは、と呟いて首のあたりをさすっていた。

 

アンにはマルコの行動がサッパリわからない。

もう一度アンがマルコの名前を呼ぶと、マルコはもう一度二枚の紙をアンに持たせ、トンと二か所を指さした。

それはアパートの住所。


「・・・・・・・何で隣同士で住所違うの?」

「別の建物だからに決まってるだろぃ」

「でもどっちがいいって・・・」

「聞いたよぃ。んで、お前はこっち選んだんだろぃ」

「いや、選んだっつーか、別に・・・・へ?」

 


「一緒にここ出るっつって、嫌でも連れてくって、そんで何でわざわざ『お隣さんゴッコ』継続しなきゃいけねェんだ」

アホ娘、とマルコは不要になった方の物件情報を丸めると、
筒状になったそれでアンの頭をはたく。

たかだか紙一枚の威力ではポコッという間抜けな音しか発しなかった。


「え?じゃ、じゃぁ、あたしとマルコ、一緒に・・・」

住むの?と告げたアンの迷子になった様な台詞に、
マルコはだから最初からそう言ってんだろぃ、と今度はペチッと額を叩かれた。


「イテッ!最初からも何もそんな風に言ってねぇじゃん!ちょ、気軽に叩くな!」

「動きが鈍いモンは叩くと直るのが定石だよぃ」

「あたしは旧式のテレビか何かか」

「テレビのが素直にこの技が効くよぃ」

「うっさい!マルコが分かりにくい言い方ばっかりするからだ!」

「言葉が足りねェのは悪いっつって、先に謝ったろーが」

「全っ然悪いって思ってねー顔で言うな!」


マルコの首にかかったタオルを奪い、それを顔に投げつけながら、
アンはぎゃぁぎゃぁといつもの調子で騒ぎ出す。

非常に煩いが、ようやく戻った日常にマルコはぶつけられたタオルを払いつつ喉の奥でクッと笑う。

こんな馬鹿みたいなガキのやり取りが戻ってよかったなど、と思う日が来るとは。

焼きが回ったとか、骨抜きになったとか、ドツボにハマったとか、
まぁ世間曰くのそういう類なんだろう。

もう一つ信じられないことに、それはそれほど嫌な気分でもなかった。


「あ!こら、マルコ離せ!」

折角のこの距離を有効に使わない手は無いと、
暴れるアンの両手をそれぞれ掴むと、意地の悪い顔で聞いた。


「返事がまだだよぃ」


「・・・嫌っつても連れてくとか抜かしたオッサンが、返事聞く意味ねぇだろ!?」

死んでも言わない、と恨めしそうに向かいあった下から睨まれても、
マルコは楽しそうに笑うだけ。


そして、片方の唇の端を上げたまま、マルコは契約印とでもいうようにアンにキスを一つ落とす。

 

「そいじゃ、契約完了だよぃ」

 

拒否されなかったことを揶揄するようにアンの耳元でマルコが低く笑う。
腕に囲われながらもアンは手探りでマルコの額辺りめがけてペチッとその小さな掌を振り下ろしたのだった。

 

 

→

拍手[24回]






カチャリとリビングのドアを開けて戻ってきた気配に、アンは振り返る事も出来ずに固まっていた。
足音はそれ以上しないので、部屋の入り口近くに佇んでいるらしい。


マルコが来たのはサッチの口ぶりで分かった。
けれど、そのサッチはどこかへ行ってしまったらしい。



「サッチ・・は?」

「足りねェもん買ってくるってよぃ」

「・・・・そ、う」



それっきり沈黙が訪れた。


アンにはその沈黙がマルコの怒りを示しているのだと思えて、
ますます自分からは何も言えなくなる。

嘘をつこうと思ってついたわけじゃなくて、
単に部屋から出たい理由をマルコには言えなかったから・・・
ああ、でも気付かれないように振る舞ったのは、あれはもう嘘つきたくてついてたことになるのかもしれない。


サッチは、全部言ったらアッサリ解決って言ったけど・・・


「出がけに、何か変だと思ったんだよぃ」
「え・・・・・・・?」


マルコの声は思いのほか静かで、アンは思わずテーブルの上ばかり見つめていた視線を上げた。


「お前ェの態度がどっか変だって思ったんだが、よぃ」
特に理由も見当たらねェし、思い過ごしだっつってそのままにしたんだが・・・・、

マルコはそこまで言うと、後悔していると言った風でハァとため息を吐いた。


「俺には言えねェ泣くほどの事って何だよぃ」


本当に心当たりがないという様子でマルコはじっとアンを見る。

外の雨は酷いのだろうか。あちこち濡れた姿のマルコ。

その顔にアンはマルコの怒りがない事を読みとってホッとしたけれど、同じだけ落胆した。


マルコは何にも分かっていない。
けれど分からないようにしてきたのは自分なんだし、それも仕方のないことかもしれなかった。



「何でも、ないよ」
ちょっと困らせたくなっただけ、マルコ仕事忙しそうで構ってくんなかったし、
それに泣いたとかもサッチの嘘だから。

ごめんね、とアンはマルコの視線から逃げるようにそう言った。


「・・・そうかよぃ」
「うん」



「って納得するわけねェだろが」

トッと足を踏み出す音を聞いた時には体がもう浮かんでいた。
グイと攫われたアンの体は、そのままあろうことかキッチンカウンターの上に乗せられる。

「う、わ、!?」

目線がマルコよりほんの少し上にきて、覗きこまれるようにされた青い目とまともにぶつかった。



「勝手に隠されて、勝手に納得されて、勝手に逃げられて、」
「ちょ、下ろせって」

カウンターについたマルコの両腕に囲われるようになり、
アンには逃げ場がない。
マルコの肩口を押しても当然目の前の男が揺らぐはずも無かった。


「そんで勝手に他の男んとこで泣くなんざ、」


ずるいにも程があんだろぃ、と言われた台詞にアンはカチンと来た。

マルコがずるいを言えた義理か。


「じゃぁ、さ」

こうなったら全部吐き出してやると、アンは半ばやけになってマルコへと告げる。






「・・・てていい?!」

「?」


「捨てていい?」

「・・・何をだよぃ」

「マルコんとこにある紅茶」

紅茶?そんなものが存在していたかとマルコは首を捻る。

あるとすればキッチンか?

記憶を巡らせても、コンビニに行くたびに増える菓子のオマケやら、ペットボトルのキャップやら、
応募券のシールやらが並んでいる記憶しかない。

一貫性の無いキャラクターの色や形は思い出せる癖に、マルコにはアンの言う紅茶がわからなかった。

ともあれそれがあるとして、
アンのおかしな態度がたかだか紅茶ごときなのかと、
マルコは話の見えなさ加減に眉を寄せた。


「そんなモンに覚えはねェが、お前がそうしたきゃすればいいよぃ」
ってか俺にいちいち聞くことでもねぇだろうが。こんな顔してまで。

呆れた様な声を出せば、アンは瞬間でだって、と言い募った。

「その紅茶あたしんじゃないもん!」
マルコの、前の、カノ

アンの口はそこまでを音にするのが精いっぱいだった。

けれどマルコはそれだけで言いたい事がわかったらしい。
アンの態度も、そして今の表情の意味も。


明らかにアンの瞳は傷ついていて、
マルコは先ほどサッチに言われた『反省しろ』の意味をようやく理解する。


アンが隠すようにした事も、よりにもよってサッチに吐きだした事も。

もろもろ全てに予測が付いた。




アンは思っているより恋愛情緒丸ごと欠如、というわけでもないのか、
と頭の隅でしっかり上書きをしつつ、さて、とマルコは独りごちる。


言い訳も、説明も、機嫌取りも、
そして何より反省も、

女との付き合いでした覚えがない手前、
なかなか貴重な体験をさせてもらえるもんだ、
と心の中で言ったのは逃げに近いのかもしれない。



マルコはアンの腰辺りを持ち上げて、カウンターからストン、と下ろした。

今までほんの少しだけ見上げていた角度が、すぐさま随分と下にさがる。

そして下げたところにはアンの黒曜石はなく、ただ俯いたアンの黒い柔らかなくせ毛が見えるだけだった。





*



「悪かった、よぃ」



マルコは俯いたアンの頭に向ってそう言った。


「俺は、どうでもいいモンに意識払う性質じゃねェから、
後生大事に取ってたわけでも棄てられなかったわけでもねぇよぃ」

「・・・・・そんなもん気にせず好きに棄てりゃよかった?」



さっきの発言がこうやって戻ってくるとは、
相当拗らせたらしいとマルコはうっかり発言をした数分前の自分の口に、
ガムテープを張ってこればよかったと思った。

そして、ふ、と息を吐くと答えた。

「考えなしに言って悪かったよぃ。お前ェが他人のモン勝手に捨てられねェ性質ってのは知ってたのにな」

「・・・・・・・・」

「それに、そういう曰く付きのモンだって分かった以上、お前の態度責めるのは筋違いだよぃ」


マルコの口から語られる言葉はとても静かで、
そしてとても真摯だった。


だからアンは聞いている途中から非常に居たたまれなくなっている。


とるに足らないたかだか小さな紅茶のことで変な態度をとって、

そしてそれをきちんと話さずに居たのは自分。


勝手に逃げ出しといて、
結局責めるのは、都合がよすぎるような気もしていた。




まるでものすごく小さい子供みたいな・・・。





「・・・ごめん」

「何でお前ェが謝んだよぃ」

完全にマルコの言葉は苦笑交じりになった。


「だって・・・すごく、下らないことであたし・・・
たまに、気になるだけであとは全然平気だったし、
だから、ちょっとだけ気のせいだったかもしれないし、」

何故かアンが弁解するようになった口調を、マルコは一度名前を呼んで遮った。
が、アンの言葉は止まらない。

「しょうもないこと、で、嘘、ついて、ごめん」


口に出したら、とたんに力が抜けた。

同時にくしゃりと頭を撫でる手を感じて、うっかりまた鼻の奥がツンとし始める。



「ったく、何でこんな時ばっかり聞き分けがいいんだよぃ」


責めようが拗ねようが、もっと存分にやったとしてマルコはそれを甘受する気でいるのに、
アンは喚くどころか、自身の気持ちを抑え込んであろうことが自分が反省するというミラクルをしでかしていた。


「しょうもなかったのは俺の方だよぃ」


責められたほうがマシだ、などと自分が思う日が来るとは、
とマルコは目の前で小さくなってしまったアンへ再度悪かった、と告げた。

そして体の脇できゅぅと握ったままの小さな手をとると、
つい、と引いて玄関へ向かう。


「帰るよぃ」

「!?え、でも、サッチ買い足しって」

「いらねェって連絡しとく」

「けど」

「どうしてもやることがあんだよぃ」


それは一体なんだとアンは思ったが、すぐさま仕事のことだろうと思いなおす。
そもそも今日は手が離せないはずだったのだから。

(居ない間に姿消すなんて、サッチに悪すぎる・・・・)

ただ、真剣な言い様のマルコにそれ以上言い募って帰るのを拒否することはできなかった。
マルコの様子が気になって、アンは最終的にはマルコの後に続くことを了承する。


引かれた手を一度ほどいてもらって、
机に放置した自分の携帯と、サッチに買ってもらった菓子の入った袋を持ち上げた。

そして転がっていたペンで書き置きを残そうと思ったが、
メモ的な何かは見つからなかったので丸まったレシートの裏へ皺を伸ばして文字を書きいれた。




*



路上に乱暴に停めました、といった態の車にはよくぞ違反切符が貼られなかったものである。


マルコの運転は荒くは無いのでその停め方には少々違和感があったが、アンはとりあえず助手席へ乗り込む。

乗り込む時の傘の開閉が嫌なんだよな、とそんな事を思っていると、
マルコは傘も持たずに来たのか既に乗り込んでエンジンを回していた。



車が走り出すとアンはとたんに息苦しくなった。

それは相変わらず降り続けている雨のせいではない。


謝って謝られて、
これがサッチの言う解決なんだろうか。

スッキリした気持ちにはならないのが解決だってことなんだろうか。
わからないがこれ以上どうしたらいいのかはアンにはお手上げ状態だ。


この狭い密室状態ではまだまだ空気がぎこちないことが嫌でも実感できて、
アンは膝の上に載せた菓子の袋の中、適当にガサガサと漁りつつ眺めている。


見た事の無い外国の物がいくつか在る袋の中、
手にとっていたのはいつも行くコンビニでもよく買うものだった。

アンが何をしているかなど、この距離だ。運転をしながらのマルコにも全て見えている。

マルコは信号待ちの間、ふとアンの手元に眼をやると、
また買ったのか、と少しだけ笑った。

そこには責めている風はなく、当然怒ってもいない。


「へ?」

「俺の冷蔵庫んとこにベタベタ貼ってあんだろぃ、それのオマケだか何だか同じのが」

菓子のオマケの王道がキャラクターもののシールなのは分かる。
が、それをいい歳した男の冷蔵庫へ貼る行動は理解不能だ。




『三歳児かお前ェは、貼りたいなら自分のとこに貼って来い!』

数を増やす度にマルコはアンの頭を叩くが、アンは一向に聞き入れない。

『やだよ、別にこれ好きじゃねぇもん』

『俺だってお前に輪をかけてお断りだよぃ!』

そういいながら、冷凍庫の扉に2つ、冷蔵扉の隅に3つ。
それが何のキャラクターなのかは知らないが、
マルコの頭では現在アンの手の中にあるものと同じだとの判別は付いた。




「何で同じのばっか」

「・・・そう、だっけ?」

覚えてない、と呟いたアンの台詞に、マルコはついにクッと吹き出した。


伝わると思ったのは自分が甘い。

似合わない様だと思いつつ、それでも懺悔のつもりでマルコは続けた。



「お前ェが忘れてても、覚えがなくても」


紅茶どうのは知らないが、アンがしでかしたことや、
持ちこんだものなら馬鹿みたいに、


「俺は全部覚えてるよぃ」




「お前ェのことならバカみてェに」


全部な、と言ったところで信号の色が変わる。

アンはびっくりしたようにマルコの横顔を見て、そしてすぐに手元の菓子へ目線を落とす。

言われたことを反芻して、そして何とか理解しようとしている様子が、
運転中のマルコの視界の端へ全部映り込んでいた。






**






車で20分。

アパートの姿が見えて、アンは少しだけ気が重たい。


昨日からずっとまだ心に引っかかってることのうち、
紅茶の事はマルコに伝えた。

伝えたけれど、この状態が解決なのかはわからない。

そして、まだ言っていないことがひとつ。



(天気がよかったら、まだ気持ちもこんなに沈まなかったかなぁ・・・)

アンが傘を開いて車を降りた時、マルコは傘もささずにそのままアパートに向っている。

昼前にアンがアパートを出た時から、降り方は変わらずかなりのもので、
マルコはあっという間に濡れていくシャツには一向に構わず、さっさと階段を上がっていた。


ガチャリとキーを回すと重たい扉をマルコは引く。

そしてアンが付いてきているのかも確認せず、真っすぐキッチンへ向かうと、
少しだけ視線を彷徨わせ、目的のものを目にすると驚いたように瞬きをした。


そして躊躇なくそれを掴むと、ゴミ箱に投げ入れあっという間に口を縛るとそれを掴み、
玄関に立ったままポカンとしているアンの横を通り過ぎてカンカンと階段を下りて行ってしまった。


(・・・え?)




手ぶらで戻ってきたマルコの顔を、アンはただ見つめるしかできずにその場に立っていた。


「やるこた済んだ。上がれよぃ」

「へ?」

たった今何をしてきたのか、全く頓着すらしていないといった風のマルコは、
相変わらず傘をささずに往復したため、頭から綺麗にずぶ濡れとなっていた。

玄関を上がり、シャツを脱いでガシガシと頭を拭くマルコに、
つられるように上がり込んだアンは今一つ理解できないままおずおずと聞いた。


「やること、済んだって・・・」

「お前に捨てさせるのは筋が違ェだろぃ」

「いや、そこじゃなくて、」

どうしてもというから、サッチには悪いと思いつつアンは共に戻ってきたのに、
それがたったこんな、自分が捨てたいと言ったそれをすぐさま実行に移すためだけに、
マルコは帰って来たというのだろうか。


アンのそんな表情へ、マルコは拭いていたタオルから顔を出すと、


「やんのが遅ェだとか、とっととやっとけとか、何で言わねェんだか」

「え、あ、いや、だって別に」

「別に、じゃねェ。大したことでも、しょうもなくもねェ」


アンが言おうとした端から、マルコはその全ての言葉を先回りで否定してしまった。


「言葉が足らねェのは俺が悪い。けど、我慢されて他の男んとこに避難されんのはごめんだよぃ」


責められていはいない。それはわかる。
わかるけれど、アンの口から出たのは、ごめん、の言葉だった。


それを聞き、マルコはあー、と首のあたりを擦りながら言い方を間違えたと唸った。


その場に胡坐をかくようドサリと腰を下ろすと、アンにも座れと促す。

目の前にぺしょん、と座ったアンを見ながら、マルコは一つ息を吐くと言った。




「お前ェが、泣くとか、怒るとか、他でやられんのは俺が嫌なんだよい」


「・・・・・」


「俺はどうやらお前ェが思ってる以上にしつけぇし、嫉妬もするし、大人げねェ」


「・・・・・」


「だから言いたい事があんなら、」


「・・・・」


「我慢する必要はねェんだよぃ」



別段大人でもないのだから、遠慮をする必要はないというマルコの理屈を聞きながら、
アンは何も言えなかった。

珍しく、というより初めてマルコが自分の内情を明かしてくれたのに驚いたのもあるし、
ずっと話してくれているマルコの声が静かで、
ただそれだけのことで何故だが泣きそうになっていたから。


「まだ、何かあんだろぃ?」

ビク、とアンの肩は跳ねて簡単に肯定の返事となってしまった。

そのことを理解しつつもアンはふるふると頭を振る。


どうしてわかってしまうのだろう。
大人げない、と称したマルコは嘘を吐いているに違いない。

大人だから、こうやって言いたくても言えないことを上手に見抜くことができるのだから。





「・・・ない」

「言え」


アンは頑なに首を振る。

だって、言っても今度はさっきの紅茶みたく、簡単に捨てられっこない。


それでもマルコ相手にこの問答がいつまでも続けられるとも思えなかった。


いつの間にか、マルコは立てた膝のあいだにアンを囲うほど近くにて、
アンはマルコと向き合うしかない。

濡れたシャツを脱いでしまっている状態では、アンは目の行き場に困り、
仕方なくマルコの首からかかっているタオルの先端を見ているしかなかった。


アンは何度目になるかわからないが、名前を呼ばれる度に首を振る。

マルコが先ほど言った、しつこい、ということに関しては確かにそうだと思うし、
この体勢は大人げないとも思う。


言わなければ終わらないと、アンは嫌でも悟ることとなった。




*





「前のひと、と、同じとこにいるのが、嫌」


終わらないやりとりに、ついにアンが根を上げてそうポツリと呟いた。

顔を見てなど言えるわけもなく、タオルの先端を見たまま一言だけ。

口に出せたのは半分自棄になった所為もあるが、
サッチの言っていた『全部話したらすっかり解決』をほんの少しだけ信じてみる気になったからでもある。


マルコが何と言うのか聞く前に、アンはこの場から逃げ出したい気持ちになっている。

前の彼女と同じ場所に居るのが嫌であれば、
アンがこの部屋を出て、どこか違う場所へ行けばいいだけだ。

けれど、
マルコの傍、声をかけたらいつでもそこに居るこの場所は、
どうしても簡単に棄てられなかった。

棄てられなかったのは自分で、
それなのに、ここに居るのが嫌とか・・・



「・・・そうかよぃ」


わかった、とマルコは一つ息をついた。


それを聞いて、アンは思わず小さく笑ってしまった。

一体何がわかったって言うんだろう。


アンは仕方の無い事を言ったと自覚があるし、
マルコだって言われて困るに決まっている。




「そんじゃ、お前も同意ってことで」

聞く手間が省けたよぃ、とマルコはとんちんかんなことを言い、
そして何故かそれはとても嬉しそうだった。




ハナノリさんのあとがき
→

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『・・・・遅ェ』
「悪ぃ、携帯放置でした」

この通話は俺のライフラインカット行為なんじゃ、
とサッチは嫌な汗をかきつつ思うが事実を言うしかない。



『いつまでほっつき歩いてんだよぃ』


ここまで不機嫌な声を、マルコとの付き合いではまだ聞いた事がない。
初体験おめでとう俺、と頭の隅で笑うしかないが、いや、ちょっと待て。

「へ?ほっつき歩く?」
『買い出し行って、飯作るって、2時間かかる買い出しなんざ海にでも出て漁でもしてんのかよぃ?』
「何キレてんだよ。だから飯作ってんだろが」
『あぁ?』
「・・・・?ちょ、待て、お前、え!?聞いてねェの!?」
『何が』
「嘘だろ、アンちゃん、そりゃ駄目だ」
『煩ェな、何だってんだよぃ』
「お宅のお嬢さん、買い出し行って俺んちで飯作るって言わなかった?」
言わなかったんだわな、そうだよな、とサッチはあっちゃーと額を押さえている。

『テメェん家だァ?』
「マルコにゃ言って来たっつーからてっきり・・・」

とサッチは口に出してすぐに、
ああまずった、アンに責がある言い方になったと後悔した。


誰が好き好んで火種落として掻きまわすか、と言い募っても、
相手が歳甲斐もなく小娘に堕ちたオッサンではそれも通らない気はする。



(何で隠すとかしちゃったのよ・・・)


「まさかと思うけど、アンちゃんの携帯は」
『・・・切られてるよぃ』

オーマイガー、とサッチは天を仰いだ。
恐怖の着信数の予想に、これで裏が取れてしまったではないか。


行き先は別の男の部屋。
そしてそれを彼氏には内緒。
さらに携帯の電源はオフ。


どんな王道修羅場コースだとサッチは通話をしつつリビングに引き返すことにする。
当然げんなり溜息付きで。


「浮気相手とか俺まっぴらごめんよ」
『当たり前だよぃ』


友人(という単語はいささかそぐわない気もするが)の彼女に手を出す男だと思われるのは心外すぎる。
まぁマルコだってそんな事は思っていないのかもしれないが、
あの着信の数がそれを否定する。

そもそもあのマルコはこんなに何かに執着するタイプじゃねぇのに、

まぁ、そういうことなんでしょう。



この事態を引き起こしたお嬢ちゃんは、
大変面倒な男に掴まったと、そういうことなんでしょう。


(いつもなら、あーら楽しいで終わるんだけどさー)



サッチはテーブルの上、パキンと固まった様なアンを見て、
玄関での会話のいくつかは聞かれたのだと理解した。

そして通話中のサッチを見上げる迷子になったような縋る瞳。

ふるふると首を振ったのは、電話を代わる事を恐れたからか。
アンは椅子の上で膝を抱いて小さくなってしまった。

「代わって・・・あー、今トイレみてェ。・・・ん、はいはい、食ったらすぐ帰すって」

んじゃ、とサッチはアンを困った様に見ながらマルコへ返事をする。

パチンと携帯を二つ折りにして、それをポケットにしまいながら、さてアンちゃんよ、と声をかける。


「おにーさんにお話をしてちょーだい?」














**





ごめん、とアンはまず呟いた。

何やらとてもまずい事になったのが空気で分かる。

トイレになんて行ってないのに、サッチは何かあたしを庇ったってことだろうか。



「・・・マルコ、怒ってた?」
「あー、そうね、いい具合に」

どうしよう、とこれまた所在なさげに呟くアンはさらに小さく膝を抱える。
その怒りは心配だからだとは伝わらないか、とサッチは苦笑を禁じ得ない。


「どしたよアンちゃん、マルコに言わずにとからしくないじゃん。ほんとは喧嘩してたんか?」

「うぅん、ホントに、何にもないよ」

「アホマルコがアンちゃん困らすこと仕出かしたんじゃねぇの?」

「・・・・・・ち、がう」

違わないでしょその返事は、とサッチはいいから言え、
つーか部屋離れたいってのも気になってんのよおにーさんは、と続けた。

アンはうろうろと迷った挙句、またポツリと言った。




「サッチ、この部屋に彼女のモノある?」

この小娘今俺がフリーだと知っての嫌味か、と一瞬思ったがどうもそうではないらしい。

「俺は感傷に浸らないタイプだから終われば一切合切処分しちゃいます」

それを聞いてアンは絶望的な顔をした。
いやいや、俺別に普通の回答よね?とサッチはまるでマズイ事でも言ったのかと思わず自問自答する。



「紅茶があるの」
「へ?」
「マルコの部屋にね、紅茶のパックがあるの」
「・・・あー・・・・そういや、あった・・かな」
「マルコ飲まないの」
「だからアンのじゃねぇの?」
「ううん、あたしんじゃない」

へ?とサッチは首を傾げた。
マルコが不要なものを自分で買い置くわけがない。
そしてアンも自分のものではないと言う。

「前のね、彼女のなんだよ、多分」

死ね、オッサン。

サッチは内心で盛大に言い放った。
このままこの可愛いお嬢さんをこのテーブルに釘づけにして、
死ぬほど食わせて、デザートまでやって、甘やかしまくって、帰りたくなくしてやろうか。

マルコも少しはダメージ受けるだろう。

ああ、チクショウ。
そんな背景だって分かってたらマルコとあんな会話ぜってぇしなかったのに!



多分、いや恐らく十中八九、マルコにはその紅茶が見えていない。
いや目が悪いと言うレベルではなく、
生活に不要なものに意識を払わないという言いかえればよっぽど冷酷な対応なのだが・・・


(アンちゃんにはそう見えないわなァ・・・)

オッサンの内情を斟酌してやって、とこのお嬢さんに頼むのはそれこそ酷い話で、
これはどう考えてもマルコが悪い。世間一般の常識に照らしあわせてちったァ動け。
翌日、いやせめて三日後あたりまでに始末しとけ。


サッチは目の前の椅子のアンをものすごくぎゅむーーっとしてやりたい気持ちにかられた。
・・・いや、堪えましたけれども。





「たまにね、そうやってね、気になっちゃうんだ」

そんなのもう全然なんとも思ってないってマルコは言ったんだけど、
それちゃんとわかってるんだけど、

でも、たまに駄目で。


だって、その人が居たとこに、今あたし居るから・・・


語尾がぐしゅと滲んだ。


「考えたら、止まんなくて、あそこに居たくなくて、だから・・・」



「ごめんね、サッチ、嘘ついて来ちゃって」


完全に涙声になったアンの隣へ、サッチはよいしょと移動してきた。
椅子をカタンと引いて座り直す。


「ま、嘘っつーか言わなかったことがあるだけ、だろ?」

屁理屈を用いてアンを追いつめないサッチの甘さはとんでもなく優しくて、
アンはますます膝に深く顔を埋めた。

サッチはぽすんとそんなアンの黒髪へ手を置く。


「ちょっとびっくりしたけど、あれよ?最初から俺に全部それ吐いてたら、
もちょっと上手に今日のデートは算段できたのに、それだけが悔やまれる」

あーしくった、馬鹿正直にお前帰すとか言っちゃった。


悪戯っぽく言われた台詞にも、アンは笑わなかった。
相変わらずの滲んだ声でサッチに聞いたのは二度目の質問。


「マルコ怒ってた?」

「いいって、怒らせとけ」

「・・・サッチも怒ってる?」

「おう」
「ご、ごめ」
「ただし、マルコの馬鹿さ加減にな」

お前の所為じゃねェから心配顔はやめなさい、とサッチは少しだけ顔を上げたアンの髪をかき混ぜた。
そのことでアンはふにゃっと顔が崩れて、慌てて椅子の上で抱えた膝に頭を落とす。

サッチはポン、とアンの頭で掌を弾ませると同じ手でおもむろにポケットから携帯を出す。
慣れた手つきで操作すると、相手に構わず喋り出した。


「悪い、気変わったわ。アンちゃんしばらくここに置いとく」

サッチの声にアンは弾かれたように顔を上げた。
相手は、誰?マルコ?どうして?

「・・・あ?黙れこのアホ。お前が色々言わない所為でなぁ、アンちゃん一人で抱えて、」

待って、いい、そんなことマルコに言わないで。

アンは絶望的な表情でサッチに向かって首を振る。
その姿は絶対に視界の端に入っているはずなのに、サッチはそれをあえて無視しているようだった。

「サッチ、やめて」


「泣かせてんじゃ、」
「サッチ!」

ツーツー、とアンの手の中で無機質な音がする。

奪い取ったサッチの携帯は衝撃で切れていた。
その事にアンはホッとして、そして同時に何かとんでもない事をしたのではないかと怖くなる。

どうしたらいいのかわからないから、ただ手の中に持っていると言った風のアンから、
サッチは自分の携帯をひょいと回収すると、終話ボタンを押した。

そしてそれを机へ置きアンの顔を覗き込んだ。

「今度はアンちゃんが怒る番か?」

勝手にアンの状態を告げようとしたことを指して、サッチは言った。
そこにからかうような響きはなく、だからアンは首を振った。

実際何をどう言葉にしたらいいのかわからないのだ。

サッチが何故マルコにそんな事を言ったのかもわからない。
けれどどう見ても喧嘩腰だった。

その前の電話では普通だったのに。
どうして?



「マルコの野郎は言葉が足りなさすぎなんだよな」
あんな仕事してるくせして、とサッチはヤレヤレと首を振る。

「だからアンちゃん、ものすごい面倒かけて悪いけど、ちゃんと思った事は言ってやって」

「・・・・・でも」

「ホントになぁ、こーんな可愛い子に気ぃ遣わせるとかもうマジ信じらんねェ」
いっぺん死ねあの野郎。

サッチはぐしゃぐしゃとアンの頭を掻きまわし、ニッと笑ってアンにしっかり目線を合わせた。

「さっき俺に言ったこと、全部マルコに言ってみ?そしたらアッサリ解決するから」

サッチがそう請け負う根拠が判らなくて、アンは微妙に首を振った。

「お、信じてないな?紅茶のことも、アンちゃん悩ましてるお部屋から逃げたい病も、
全部まとめて解決するって。サッチ様保証付き」


「で、も、マルコ怒って」
「だいじょーっぶ!マルコがちょびっとでも怒ったら、俺がアイツの仕事全部干して灸据えてやっから!」

編集サンが本気出せば結構シャレになんないこと出来ます!

ピースサインをアンに送って悪戯っぽく笑うサッチに、アンもとうとうつられて小さく笑ってしまった。


「すごい、頼もしいね」
「だろー」

ふっふっふ、と自慢顔をするサッチは当然と言わんばかりに宣言する。


「俺アンちゃんの味方だもんよ」
「あり、がと」


よしよし、とサッチは散々ぐしゃぐしゃにした頭を多少撫でつけて体裁を整えると、
というわけで飯の続きだ、と立ち上がった。




**

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「あ、あのさ、サッチ」
「んー?」

「えっと、あの、食べたら、駅まで送ってもらって、いい?」

冷めた炒め物はサッチの手でざっと再び油に通され既にアンの口に消え、
同じく煮込んでいたもの消えている。
ものの15分で平らげた量にサッチはうんうんと満足そうに頷いた。

そして今アンはアイスのカップを持ちながら、
カウンター向こう換気扇の下で一仕事終えた合図の煙草に火が付いたのを見た。

「帰る、ね」

アンは酷く言いにくそうにそう告げた。
サッチにはその素直さが眩しくて、そして本当に可愛いと思う。


「あのな、家まで送るに決まってんでしょ・・・って言いたいとこだけど、」

何故だかサッチはチラリと壁にかかった時計を見て、
椅子の上きょとんとした顔のアンに悪戯っぽく笑いかけた。

「多分、俺の出番ナシ」


ガンッ!

アンがどういう意味だ?と首を傾げた瞬間、玄関からものすごい音がする。


「へ?な、何?」

サッチの発言と、そしてこの物音。
その両方が理解できずにアンはサッチに問いかける。

もはや借金の取り立てでももう少し上品な叩き方をしそうな具合に、
ドアが悲鳴を上げていた。







**




「チャイム使わねェとかどんだけ」


もちろんわざとの所業だと理解しているのだが、
この音から想像するに、手も使わずの脚蹴りかよ・・・


サッチは「さいてー」と呆れた声を出しながら、
事態を飲み込めないアンを置き去りにして咥え煙草のまま玄関へとスタスタ歩いて行った。




*





新聞も保険のセールスもお断りでーす、あと借金もしてませーん、と軽口を叩きながら、
サッチはドアの鍵をパチンと外す。

とたんにノブが回って、史上最悪に人相の悪い借金取り、もといただのオッサンが現れた。



「あーらら、来ちゃったの?」


「あんなに分かりやすい煽り方しといてよく言うよぃ」

苦虫を噛み潰したような顔でマルコは低く吐き出す。
それを受けてもサッチは涼しい顔で何の事だかとニヤッと笑っただけだった。

「本気で帰さねぇつもりだったけど?」

「アンが帰るっつったろぃ?」

「かーっ!お前マジいっぺん死ねその傍若無人ぶり!」

さも当然の様に言うマルコにサッチは心底腹立たしさを覚えた。
なんでこんな性悪がいいのよアンちゃん、と思わず心の中で天を仰ぐ位には。



「アンは?」
「泣き顔も超可愛い」

見たものを反芻するようにサッチはうっとり目を閉じる。
当然マルコの問いがそんなことを聞いているのではないと百も承知の上での嫌がらせだ。


「・・・いっぺん死ぬかよぃ」


玄関先でサッチとのらりくらりな会話をするために、
ここまですっ飛んで来たわけがない。
さっさと家に入れろ、とマルコが溜息をついた瞬間、すいとサッチの目がマルコを捕えた。

珍しく笑っていない。


「殺してやりてぇのはこっちだ」


「泣かすな、あんないい子。
己の不甲斐なさを膝が折れるまで反省しやがれ」

ケッとサッチは毒づくと、玄関の上に放置しっぱなしの残り、
すなわち財布と車のキーをまとめて掴むとマルコの横をすり抜けながら言った。


「ほいじゃ、ちょっと足りない食材買い足し出るわ」
「・・・・・」


「俺の部屋で不埒な真似しやがったら仕事全部切るからな」

舐めてんじゃねーぞ、とサッチは最後まで目の光を消さないまま言うと、
そのままスタンスタンと足元のコンクリートを響かせながら姿を消した。



マルコは足音が遠ざかるのを耳の端でとらえつつ、玄関扉の内側へ体を滑り込ませた。





ハナノリさんのあとがき
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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



我が家は同人サイト様かつ検索避け済みサイト様のみリンクフリーとなっております。
一声いただければ喜んで遊びに行きます。

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