OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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ミラが優しく緩慢な手つきであたしの髪を撫でる。
その手の動きに寄せられるようにして、いつのまにか床に座ったまま彼女の膝に頭を乗せていた。
「…いつ、産まれるの?」
「そうですね、あと7ヶ月くらいかしら」
「…長い、ね」
「ふふ、お腹大きくなったらとてもじゃないけどあの靴は履けませんわ。アン隊長いりませんか?あのブーツ」
「はぁっ!?」
ミラが目線で示した物を自分でも確かめ、慌てて首を振る。
可愛らしいブーツ立てが差し込まれて、ひっそりと部屋の隅を華やかにしているヒョウ柄のニーハイブーツ。
「いらないっ、ていうか履けないし履かない!」
「でしょうね」
ふっと少しの間があって、くすくすと細い笑い声が二人分こぼれ出る。
「…すごく、おかしな感じなんです」
ふっと笑い声が途絶えたとき、ミラはポツリとそう言った。
「自分の中にもう一人人間がいるって…まだ信じられない」
ミラの細くしなやかな指があたしの耳の後ろを滑り、それから前にきて顔にかかった跳ねた髪の筋を耳にかけてくれる。
少し視線を上へとやると、ミラの形のいい顎が見えて、彼女がまっすぐ前を見据えているのだとわかった。
「最初から嬉しかったわけじゃないんです」
「え?」
「だって突然ここに子供がいるのよって言われても、実感湧かないじゃないですか、」
「…そう、なのかな」
「えぇ、でもね。彼が喜んだんです、すごく」
電伝虫で、陸にいる父親となる男に伝えたのだという。
「ありがとうありがとうって、泣いて喜んでて。そのとき結婚しようって言われたんですけど」
ふふっと小さく肩が揺れて、視線を上に上げてみれば少し赤に染まる頬が見えた。
「そのときになってやっと、ああこれは本当に嬉しいことなんだって、思って」
そうしたら、じわりじわりと広がっていくの。
暖かいお腹も、陸での新しい生活への期待も不安も、彼と過ごす未来も、全部この子がくれたんですよ。
そしたらもう、愛しくて、愛しくて仕方がないんです。
そう言って、ミラの指先があたしの頬を滑る。
その指先までもが暖かい。
それが母親っていうものなんだろうか。
「…ミラの子だもん、きっとみんなが大好きになるようないい子が産まれるよ」
「ふふっ、ありがとうございます。パパさんがね、この子が大きくなった頃にまた島に寄ってくれるって仰ってるんです。家族の子供は家族だからって。だからアン隊長も、そのときは愛してあげてくださいね」
「…うん…でも、どうやって?」
問うようにミラの膝の上で小さく首を傾げれば、あたしの髪を梳く指がぴたりと止まった。
あれ、あたし変なこと言った?と思わず膝から顔をあげれば、少し驚いたように眼を丸くする整った顔。
「…ミラ?」
自分の失言のせいで彼女が固まってしまったのかと思い、やたらと緊張する。
思わずミラが腰掛けるベッドのシーツを固く握りしめた。
するとミラはふぅっと息を吐き出すのと一緒に笑い、またあたしの頭を撫でてくれた。
「隊長が、してもらっているようにすればいいんですよ」
「…して、もらって…?」
それはつまり、あたしが愛されているように愛してあげればいいってこと?
じゃあ愛されているようにって、みんながあたしのこと、愛して…
ああもうっ!と自分の頭を掻き回す。
愛されるとかなんだとか、あたしの日常生活とは程遠すぎてわからないんだ。
しかもなんだか無意味に小っ恥ずかしくなってきて、ぽすんと目の前の膝に再び頭を預けた。
「…それってなんか、よくわかんない!」
膝に顔をうずめてごにょりとそう呟くと、頭の上からぷっと噴き出す声が届いた。
「すぐにわかりますよ」
だって私もあなたをとても愛してる、と。
頭の上からまろびでた言葉はどこまでも柔らかくて、あたしは只々顔を伏せるばかりだった。
ナース部屋からの帰り、今日まったく仕事をしていないことを思い出した。
やっばい今日3番隊に回す書類あったのに…!と慌てて自室へ戻る。
何にも手を付けていないから、今からガリガリやっても昼ご飯に間に合うかどうかだ。
食いっぱぐれるとか最悪!と内心毒付いて、仕事用のデスクの上を漁り回して書類を探す。
…え、ないんだけど。
さあっと血の気が引く音が聞こえかけたとき、ふと机の端に見慣れないファイルを捉えた。
なんだこれ、と持ち上げてみるとぺらりと一枚の紙切れが舞い落ちる。
慌ててそれをぱしんっと両手で捕えた。
…あった。
探していた書類だ。
『次の隊に回せ』と右上がりの整った字体で走り書いてあるから間違い無い。
でもこんなファイルにいれた覚えないなあと書類とファイルを同時にぺらぺらと煽ってみると、ファイルの中からもう一枚、小さな紙切れがするんと落ちてきた。
床に滑り落ちたそれに手を伸ばしたときにみえた文字。
書類の走り書きと同じ右上がりでそれは書かれていた。
"今月の報告書け"
腰をかがめた状態のまま、は?と思わず口に出して、それからはっとして渦中の書類を顔の前まで持ってきた。
下の方、枠で囲まれた二番隊の仕事の進行報告部分は空白のままだ。
でもややこしくて嫌いな経費の計算も、今月の隊の費用の合計も全部埋めてあった。
全部全部、右上がりの字体で。
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太い喉にくっついた喉仏がこくりと動いた。
「…何、言ってんだい」
視線を掛け布団に固定したままじっと待つ。とても長い時間だった。
さっきの一言でマルコは全部わかってしまっただろう。
マルコの論理的な頭が今必死で整理をつけているのが感じ取れた。
「へ、へ…笑っちゃう…実は敵の娘でしたー、なんて」
乾いた笑い声は行き着く場所もなく、拡散して消えていった。
マルコはさっきから黙ったまま、じっとあたしの横顔を眺めている。
その視線があたしから「アイツ」の面影を探しているようで、いたたまれなくて口を開いた。
「オ、オヤジは知ってるんだ、言ったから…ほら、でも敵だったんでしょ?やっぱその、殺し合いとかしただろうし…あたしは顔も知らないんだけど、似てる?似てたらやだなぁ、なんて…」
空回りし続ける言葉が紡がれる間もマルコは黙ったままで、ついにあたしの口も閉じてしまった。
ほたり、と手の甲にひとつ水滴が落ちた。
「い、いまさら敵の娘だなんて言え、なくて」
「…アン」
「止まらないの、血、が、止まらない」
「アン」
「…あたしは鬼の子だ…!」
鬼の子だと、小さい身体を震わしてそう言った。
知っている。オレはその男、ゴール・D・ロジャーという男を知っている。
20年以上前、オレはその男に殺されかけたことだってある。
時代を開いた大悪党、この世界を変えた男。
それは一般人からしたら恐怖の幕開け以外の何物でもない。
ちっぽけなアンがその世界に突然放り出された時、世間の空気はどれだけ鋭かったかなんて想像も容易い。いや、もしかするとオレなんかの想像も及ばない…
「アン」
「…?」
「お前は誰の娘だって?」
「…だから、海賊お」
「じゃあお前がその背中にしょってるモンはなんだってんだい」
「…オ、オヤジ…!」
「ああそうだい、お前はオヤジの娘で、オレたちの妹だ。それ以上の肩書きがいるかい」
「ううぅ」
ぶんぶんと激しく首を振ったアンは、額をオレの肩にぶつけた。
「あ、あたしの血、汚い…!」
「バカタレ。それを言うならオレもこの船に乗る奴らみんなそうじゃねぇかよい」
囚われるな、縛られるな。
お前が思っているより世界はもっと広いことをどうかわかってくれ。
コンコン、と柔らかく木の音が響いた。
ゆっくりと開いたドアの向こうからナースが顔をのぞかせる。
「ごめんなさい、ちょっといいかしら」
「あぁ、」
「来てほしいの。アン隊長に、マルコ隊長にも」
オレの肩から顔をあげたアンは、崩れた顔で不思議そうにユリアを見つめた。
片やオレも同じく、ユリアの意図はわからなかったのだが。
連れてこられた部屋はめったに用のない女部屋、つまりはナースたちの寝床。
少し憚られたが促されるままアンとそこへ入る。
ナースの部屋にしてはやたらとこざっぱりしたそこのベッドには、一人の若いナースが腰掛けていた。
そいつはオレたちを見上げて少しだけ目を見張り、それから柔らかく笑った。
「彼女、船を降りるのよ」
オレたちに続いて部屋に入ってきたユリアはごく淡々とそう言った。
「え!?」
「…ほう」
そうなのかいと座るナースに問いかけると、彼女は穏やかに笑って頷いた。
「ごめんなさい、パパさんには言ったんですけど」
「いや、構わねぇがよい」
この船のナースたちも、他のクルー同様オヤジに惚れて乗ったも同然の奴らばかりで、めったにナースが入れ替わることはなかったため半ば驚いた。
「…なんで?」
遠慮がちにアンがそう問うと、ナースは軽く頬を染めて笑った。
「結婚するんです」
「え!?」
大声出して驚くアンを尻目に、ナースはゆるりと自身の腹部を撫でた。
「…子供が、ね」
それにはオレも目を丸めた。
聞くところによると、以前立ち寄った島で再会した男とそういうことになり、次の島で船を下りたらその男が迎えに来てくれるのだそうだ。
「…そりゃ、めでたいよい」
「ありがとうございます、マルコ隊長」
いつもの身体の線がはっきり出るようなナース服とはうってかわって、ゆったりとしたワンピースを着た彼女はお世辞なく綺麗だった。
「…ミラ、」
掠れた声でナースの名を呼んだアンの横顔は、何かが零れそうに揺れていた。
「…嬉しい…?」
一瞬きょとんとしたナースは、小さく笑ってからアンを手招いた。
「マルコ隊長も」
そう呼ばれアンと彼女に近づくと、ナースは一言失礼、と断ってからオレとアンの手をとった。
「わわっ」
ナースがアンの手を引っ張り自身の腹部に添えさせる。そしてその上にオレの手が重ねられた。
アンの薄っぺらい手を通して熱が伝わる。
「暖かいでしょう」
「…うん」
「まだぺったんこなんですけどね、生きてるのよ、ここに」
すごいでしょうとほほ笑むナースを、オレとアンは固まったまま見つめた。
「…嬉しくないわけがない。だって私の子ですもの」
理由なんかない、今ここに存在している、ただそれだけで愛しいんです。
そう言ってナースは笑った。
「ごめんなさい、ちょっと聞いちゃったから」
「…あぁ…別にいいんじゃねぇかい」
ユリアと二人、ナース部屋から戻る際ユリアが謝罪した。
しかし彼女一人知ったからと言って、いやおそらくこの船の誰が知ったとしても何一つ変わるものなどないだろう。
アンはまだあのナースと二人でいる。
静かに涙を零しながら、よかったねと呟いてナースを抱き締めていた。
「お節介だったかしら」
「いや…ありがとよい」
ユリアは声を出さずに笑った。
優しい鼓動は愛の音
小さく身をよじって寝返りを打つ。いつもは被らない掛け布団のつるりとした生地が適度に心地よくて、頭まで布を引っ張りあげた。
「いつまで寝てるの、ねぼすけさん」
再び夢の中にゆるゆると思考が落ちかけたとき、べりりと掛け布団が身体から剥がされた。
「…うわっ!」
驚いて上体を起こすと、呆れたようにこちらを見遣るナイスバディ、もといユリア。
「調子はどう?」
「ちょう、し…?あ、あたし…」
昨日の夜自室で呼吸のコントロールができなくなったことを思い出した。
確かユリアやジョズ、他のクルーたちが心配げに自分を覗き込んでいた。
手を目の前に持ってきてにぎにぎと開いたり握ったりを繰り返すが、昨夜のようなぴりぴりとした感覚は消えている。思わずほっと息が漏れた。
「…も、大丈夫…」
「そう、よかったわ」
今日はあまり無理しないでねと釘を刺され、一応愛想笑いで頷いておいたらじとりと睨まれた。
「みんな心配してたわよ」
「…うん、知ってる…」
「一人になりたいかしら、」
そう言ったユリアの顔をぱっと見上げると、オヤジと同じ金の瞳がまっすぐあたしを捉えていた。
「考えること、あるでしょう」
それはまるでちゃんと考えなさいと言われているようで、あたしはおずおずと頷いたのだった。
ひとり残された医務室はいつもの景色より幾分白くて、つんと鼻をつく消毒液の匂いが慣れなかった。
身体が頭がバラバラ、なんて、自制が効かないもいいとこだ。
仮にもこの船に居て、背中には誇りを背負うひとりの海賊が、なんてザマ。
それもひとりの男のせいで。
「もうやだ…」
弱々しく零れ出た自分の声にも辟易する。
怖かったと口に出してしまえばあまりに簡単だ。
逃げ出そうと力を込めた際に微動だにしなかった腕も、見下ろしてきた細い目の隙間からぎらつく瞳も、知らない人のようだった。
そして何より本能的に危機を感じた。
あのあと続いていたかもしれない行為の意味がわからないほど子供じゃないし、その結果起こりうることも知っている。
それが何よりのタブーだ。
絶対に、それだけはあってはならない。
無限ループに陥ってしまう。ぐるぐるぐるぐる回り続けるのだ。どす黒い血は薄くなっても消えはしないから、あたしで最後にしなきゃならない。
「あーあ、終わったなー…」
ぱたりと後ろに倒れこみ、四肢を伸ばす。白い天井が眩しかった。
嬉しかった、単純に。
ただいまと言える場所があることも、おかえりと言ってくれる家族がいることも。
(アンは可愛いなぁ、)
(ほらもっとこっちこい)
(好きだぜ、アン)
ひとをすきになるのはなんてすてきなんだろう。
生まれて初めて、そう思った。
「だあぁぁー…」
「何奇声発してんだい」
「っわっ!?」
声の方向に頭をのけぞらせると、呆れたような眠そうな顔で立っている男。
「マッ、マル…」
「座ってもいいかい」
視線であたしが寝転ぶベッドを示されて、おずおずと頷く。ぼすんと重たい音とともにベッドが軋んだ。
「…もう大丈夫なのかい」
「…あ、うん、全然…」
「そうかい」
海よりも深い沈黙が落ちた。
上体を起こしたあたしは所在なく掛け布団の端を指先でもてあそぶ。
マルコは何を考えているのか、膝の上で組んだ両手をじっと見つめていた。
「あっ、のさ、」「オレァよい、」
高低差のある音が綺麗にかぶった。
きょとんと二人で視線を交わし、マルコがふっと鼻から抜けるように笑ったのであたしも釣られて少し笑う。
「…なに?」
「…いや、おめぇこそなんだい」
「マルコが先言ってよ」
「お前が先に言え」
「…」
「…」
「…頑固者」
「意地っ張り」
「っ、パイナップルのくせに…」
「うるせぇガキが」
「…よいよい魔人め…」
「ああん?」
ぴくりと片眉をあげてから、マルコはふうと息をついた。
意味のない応酬も、マルコのため息も、いつもと同じだ。
それなのになんでこんな気分になるんだろう。
「っ…、」
「…なんで泣いてんだよい…」
「…泣いてないっ…」
「、そうかい」
いつもなら嘘つけ、と追及してくるマルコが何も言わなかったことに甘んじて、あたしは手の甲で目をぎゅっと押さえた。
もう逃げられない。
逃がさないよう、マルコはここに来たんだ。
「…マルコ…」
「あぁ?」
「…もし、海賊王に子供がいたらどうする…?」
昔話をしよう
夢も希望もすべて失った頃の話
声の方向に頭をのけぞらせると、呆れたような眠そうな顔で立っている男。
「マッ、マル…」
「座ってもいいかい」
視線であたしが寝転ぶベッドを示されて、おずおずと頷く。ぼすんと重たい音とともにベッドが軋んだ。
「…もう大丈夫なのかい」
「…あ、うん、全然…」
「そうかい」
海よりも深い沈黙が落ちた。
上体を起こしたあたしは所在なく掛け布団の端を指先でもてあそぶ。
マルコは何を考えているのか、膝の上で組んだ両手をじっと見つめていた。
「あっ、のさ、」「オレァよい、」
高低差のある音が綺麗にかぶった。
きょとんと二人で視線を交わし、マルコがふっと鼻から抜けるように笑ったのであたしも釣られて少し笑う。
「…なに?」
「…いや、おめぇこそなんだい」
「マルコが先言ってよ」
「お前が先に言え」
「…」
「…」
「…頑固者」
「意地っ張り」
「っ、パイナップルのくせに…」
「うるせぇガキが」
「…よいよい魔人め…」
「ああん?」
ぴくりと片眉をあげてから、マルコはふうと息をついた。
意味のない応酬も、マルコのため息も、いつもと同じだ。
それなのになんでこんな気分になるんだろう。
「っ…、」
「…なんで泣いてんだよい…」
「…泣いてないっ…」
「、そうかい」
いつもなら嘘つけ、と追及してくるマルコが何も言わなかったことに甘んじて、あたしは手の甲で目をぎゅっと押さえた。
もう逃げられない。
逃がさないよう、マルコはここに来たんだ。
「…マルコ…」
「あぁ?」
「…もし、海賊王に子供がいたらどうする…?」
昔話をしよう
夢も希望もすべて失った頃の話
頭がぐちゃぐちゃして、身体と頭がバラバラになったかのようなわけのわからない感覚に襲われて、アンはただひた走った。
角をいくつか曲がってやっと目に飛び込んできた扉を掴みかかるようにして開け、中に飛び込んだ。
長く走ったはずなのに誰にも会わなかったのは幸いというもの。
甲板からは賑やかな笑い声や怒号のような叫びが聞こえてきたので、きっと毎夜の如く至る所で酒盛りが行われているのだろう。
そんな中、自分だけがものすごい非日常に浸っているような気がした。
「…う、ぁっ…!」
ドアに背中を預けると自然と口からは呻き声が漏れ出る。
膝がわななくように震えて、ドアを背にずるずるとしゃがみこんだ。
「っは、ぁ」
喉の奥から鋭い空気が昇ってきて思わずむせ返る。すると呼吸がままならなくなり肺がきゅっとすぼまるのがわかった。ひゅー、ひゅー、と呼吸音が頭の中で響き続ける。酸素を求めて息をすればするほど苦しくなり、徐々に視界は霞んでいった。
「ぁ、っか…はっ」
ばさばさと雑な音を立てて抱き込んでいた書類が床に落ちる。くらりと頭に靄がかかり、気付けば横に倒れこんでいた。
(あ、苦し、い)
喉を引っ掻き頭を反らせ、自ら気道を確保しようともがくが一向に楽になる気配はない。
なにこれなにこれ、とショートを起こした脳内が悲鳴を上げたそのとき、控え目にノックが響いた。
「…アン隊長、いるんでしょう…?」
ユリアの澄んだ声が耳に滑り込んできた。
「っか、…りあっ…!」
掠れた声は届かなかったようで、再びこんこんと木の優しい音が響く。
「…いないのかしら、」
溜息と共に吐き出されたその言葉が諦めを含んでいたことに焦り、なんとかして自分の存在を知らせなければと思ったアンは、痺れ始めた脚を思いっきりドアにぶつけた。
どかんという荒っぽい音と共に激しくドアが軋む。
「…隊長?アン隊長!?」
鍵のかかっていない扉が開き、その先にうずくまるアンの背中にすぐにぶつかった。
「隊長!!どうしたの!?ちょ、誰か!!あぁっ、ジョズ隊長!早く来て!!」
ユリアが力強くドアを押し開け、アンの身体をずりずりと動かして行く。
その間もずっとアンの不気味なほどの呼吸音は止まらない。
やっとのことで人が入れるほど開いたドアの隙間から、ユリアの身体が室内に滑り込んだ。
「アン隊長!…過呼吸だわ!ジョズ隊長このドアをもっと開けて!!あと他のナースを!」
そういうや否やものすごい勢いでドアが開き、アンは危うく吹っ飛びかける。しかしおかげでドアは大きく開き、ジョズの巨体が廊下を行ったり来たりするのをアンの目は捉えた。
すっとアンの顔全体を影が覆う。そのままひゅーはーとおかしな呼吸を続けると、かすかに甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐり、自分の吐いた暖かな息が再び気道に戻ってきた。
その匂いが夕食後ビスタにもらったチョコレートの香りだと、アンの五感が告げる。
駆け込んできた寝巻き姿のナースがうずくまっていたアンの身体をゆるやかに伸ばして重たいベルトを抜き取った。
すると、掠れた呼吸音が次第に穏やかなものと変わり、アンの瞳を覆っていた涙の膜が崩壊して一粒ほろりと頬を滑った。
ぴりぴりと痺れていた指先にゆっくりと感覚が戻ってくる。
「…もう、大丈夫よ」
ユリアの柔らかい声が発せられると、辺りからほうっと安堵の吐息が漏れる。
隊長の異変を聞きつけた二番隊に始まりその他隊長たちまで、このときばかりは役に立たない立派な身体を持て余して廊下に立ち尽くしていた。
「念の為医務室に運びましょう。ジョズ隊長、お願いします」
「あぁ」
アンの身体の下にしっかりと腕を差し込んだジョズは、しなやかにしかし力強くアンを抱き上げた。
その腕の中から重力に従うようにしてアンの腕がたらりと垂れると、部屋を取り囲む男たちは苦々しく顔を歪めた。
海賊だとはよもや思えないような弱々しいいくつもの声が、愛しい妹の名を呼ぶ。
ぱさりとアンの胸に布が載せられ、ユリアがアンの口元に袋を固定したまま視線で道を開けるよう示した。
男たちは巨体を縮こませて道を開けたが、やはりどうしてもアンの顔が見たくて、みんな一様に首だけ伸ばすといった珍妙な格好をする。
ジョズによって速やかに廊下を進んで行くアンの目は先程の荒々しい呼吸が嘘だったかと思うほど静かで、流れすぎて行く景色を只々眺めていた。
仕事机で朝を迎えたオレは軋む身体を反らせて背中の骨を鳴らし、倒れるようにしてベッドに横たわった。
時計に目を遣ると起きるには早すぎひと眠りするには遅すぎる、腹が立つほど微妙な時間。
しかし一睡もせずに一晩越したというのに眠気は一向にやってこず、結局こうしてうだうだといつもの起床時間までの時を過ごすのだろう。
「あぁー…」
意味もなく声を発して、それからちくしょう、と呟いてみる。
虚しくなって寝返りを打ったときノックの音が飛び込んだ。
「よう、起きてたのか」
ドアを開けると現れたのはサッチで、いつもの如く目元の傷を上げるようにしてにっと笑っていた。
「あぁ、まぁねい」
室内に戻り、朝日が滲み出した窓辺のカーテンを開きながら何の用だと問うてみて、出てきた言葉に耳を疑った。
「アンが過呼吸で倒れた」
「…は?」
振り返り聞き直したが、サッチの目が言葉のとおりだと告げている。
「お前に襲われて、パニックで過呼吸んなったんだよ」
とんとん、と己の首筋を指し示しながらそう言うサッチを見て否応なしに昨夜の記憶がぶり返し軽く吐き気がしたが、それどころではない。
「…いつの話だよい」
「昨日の9時くらい」
アンがオレの部屋を飛び出してすぐだ。
「…なんで、なんでもっと早く言わねぇんだよい!!」
噛み付くようにサッチに詰め寄るとサッチは顔色一つ変えず、ただ近づいてきたオレを鬱陶しそうに押し返した。
「言ったらどうするつもりだよ」
「っ、」
その通りだ。オレのせいで取り乱したアンがオレの姿を見て安心するはずがない。
胸の内で小さく舌を打ち、ベッドに深く腰を下ろした。
やり場のない思いが隠しきれず、膝に肘を付き顔を手で覆う。
サッチが仕事机の椅子に腰掛けて木の椅子が軋んだ。
「…あいつは」
「落ち着いて、医務室で爆睡中」
そうかい、と呟くと今度はサッチが息を吐いた。
「オレァよ、別にお前を責めに来たわけじゃねぇぜ」
俯いていた顔を上げると、サッチはリーゼントになる前の伸びた髪を弄くっていた。
だってお前の言い分も結構わかるし、と。
「マルコが好きだ好きだ好きだ言いながらいざお前が一歩踏み込むとそれ以上はダメ、みたいなことするだろ、あいつ」
「…」
「お前はそれがなんでかわかんねぇ。で、アンは言おうとしない。そりゃねぇわな」
「…だがオレァ、」
「待てるってんだろ?おっさんだしなー」
わかるわかると感慨深げに頷くサッチは、つと動きを止めてオレを見据えた。
「でも、男だ」
ただのエゴってわけでもなくね?
はぁっ、と熱い息を吐き出すと、マルコのそれと混じった。
天井を背景にマルコの顔が見える。
ぎゅっと眉根に皺を寄せて、怒っているというより苦しそうだ。
薄ぼんやりと霞む視界の向こうをみながら、そんなことを思った。
「…泣いたってわからねぇよい…」
「…ごめ、」
「そうじゃねぇっつってんだろい!!」
びくっと自然に肩が跳ねる。
こんな風に怒られたのは初めてだ。
あたしがごめんと呟いたその刹那、マルコが突然立ち上がった。その勢いに驚いて一歩脚が後ろに下がったが、それよりも早くマルコの大きな手があたしの腕を掴み、一方向に放り投げる。
バランスを崩したあたしが倒れこむのをマルコのベッドはやわらかく受け止め、それからあたしの上に被さるように倒れてきたマルコも受け止めた。
ベッドに倒れこんできた衝撃に備えて閉じていた瞼を持ち上げると、存外近くにあるマルコの顔。
こんな顔のマルコ、あたしは知らない。
あたしがごめんと呟いたその刹那、マルコが突然立ち上がった。その勢いに驚いて一歩脚が後ろに下がったが、それよりも早くマルコの大きな手があたしの腕を掴み、一方向に放り投げる。
バランスを崩したあたしが倒れこむのをマルコのベッドはやわらかく受け止め、それからあたしの上に被さるように倒れてきたマルコも受け止めた。
ベッドに倒れこんできた衝撃に備えて閉じていた瞼を持ち上げると、存外近くにあるマルコの顔。
こんな顔のマルコ、あたしは知らない。
あたしの手首を押さえ付ける力が強まった。
マルコはあたしの肩に額を押し付ける。
「…なぁ、オレには言えねぇのか、理由くらい、」
「…っ、」
不意に顔を持ち上げたマルコと視線が絡む。
まるで、そんなことが言いたいんじゃないとでもいうようにしかめた顔をしている。
マルコに触れられるのはすごく好きだ。
めったに触れてくることなんてないから殆どあたしから飛び付いているけど、それでもあたしに触れる指先はびっくりするくらい優しい。
それでも駄目なものは駄目なわけで、それはなぜかと言われても上手には言えない。
それ以前に、まだ言っていないことがありすぎる。
あたしは言っていないことを知られるのが怖いんだと、マルコの眉間に浮かんだ皺を見ながら思った。
突如、鎖骨の上あたり、首筋の下のほうに電気のような小さな刺激が走る。
「った・・・!な、何…?」
返事のないマルコの髪がふわりと顎の辺りを掠める。手首を掴む力はますます強くなる。
つ、と鎖骨をなぞる柔らかさと裏腹に、マルコはあたしをきつくベッドに縫い付けた。
(あぁ駄目だ駄目だ)
雰囲気が違う、あたしの知ってるマルコじゃない。
そう思う一方で、痺れを切らしたというやつか、と考えるどこか冷静な自分がいた。
「ねぇっ!マルコ!・・・やだっ・・・!・・・っつ!!」
あたしの抗議に耳も貸さないマルコが、突然あたしの首筋に噛み付いた。
まるであたしなんか簡単に食べてしまえるんだというように。
(こわい、やだやだやだ、)
あたしの両手首を片手で纏め上げ、マルコの空いたほうの手が背中に回る。
布が擦れる音がして、胸元の締め付けが一気になくなった。
「やだぁっ!!!」
振り上げた脚の、膝の部分がマルコの脇腹に食い込む。いくら不死鳥でも、きっと、絶対、痛い。
あたしに蹴り飛ばされたマルコは、ずり落ちるようにゆっくりと背中から床に落ちた。
どすんと重たい音がして、あたしの呼吸音が室内に響く。ひゅーひゅーと、秋島の風の音のようにそれは止まらない。
上体を起こすとはらりと布が落下して、あたしはあわててそれを掻き抱く。
そんなあたしをベッドの下から真っ直ぐ見つめる視線に出会った。
「・・・っ・・・」
「・・・アン、」
何を考えているのかまったくわからない瞳のまま、マルコはゆっくりと腰を上げた。
無意識のうちにベッドの端まで後ずさっていたあたしの頬に、ゆらりと大きな手が差し出される。が、それはあたしに触れることなく下ろされた。
「・・・マ、ル・・・」
「・・・悪ぃ・・・」
くるりと背中を向けたマルコは、仕事机に戻りごそごそと書類を数枚引き出すと再びベッドまで戻ってきてそれをあたしに押し付けた。
「・・・明後日、期限だよい」
『出て行け』と暗に示されているのに気付いたあたしは、押し付けられた書類を布もろとも抱き込み、逃げるようにして部屋を飛び出した。
ボキッと、人聞きの悪い音を立てて羽ペンの上部が落ちる。コレで4本目だ。
だが仕事の進みは信じられないほど良かった。
というより、単に頭がそれ以外のことを考えるのを拒否している。
机に置いてある懐中時計に目をやると、いつのまにか日付が変わっていることに気付いた。
仕事の進みも良いし、今夜はもう眠る気分でもない。
コーヒーでも入れようとメーカーに手を伸ばしたそのとき、アンがいつか置いていったままのココアのカップが茶色い染みをつけたままそこにいるのに気付いてぐんと気が滅入った。
「・・・ガキかオレは・・・」
コーヒーを飲む気も失せたオレは再び机へと向かったが、すぐに5本目の羽ペンが折れた。
脇腹痛ェ
でもそれよりも痛いところがある
それでも駄目なものは駄目なわけで、それはなぜかと言われても上手には言えない。
それ以前に、まだ言っていないことがありすぎる。
あたしは言っていないことを知られるのが怖いんだと、マルコの眉間に浮かんだ皺を見ながら思った。
突如、鎖骨の上あたり、首筋の下のほうに電気のような小さな刺激が走る。
「った・・・!な、何…?」
返事のないマルコの髪がふわりと顎の辺りを掠める。手首を掴む力はますます強くなる。
つ、と鎖骨をなぞる柔らかさと裏腹に、マルコはあたしをきつくベッドに縫い付けた。
(あぁ駄目だ駄目だ)
雰囲気が違う、あたしの知ってるマルコじゃない。
そう思う一方で、痺れを切らしたというやつか、と考えるどこか冷静な自分がいた。
「ねぇっ!マルコ!・・・やだっ・・・!・・・っつ!!」
あたしの抗議に耳も貸さないマルコが、突然あたしの首筋に噛み付いた。
まるであたしなんか簡単に食べてしまえるんだというように。
(こわい、やだやだやだ、)
あたしの両手首を片手で纏め上げ、マルコの空いたほうの手が背中に回る。
布が擦れる音がして、胸元の締め付けが一気になくなった。
「やだぁっ!!!」
振り上げた脚の、膝の部分がマルコの脇腹に食い込む。いくら不死鳥でも、きっと、絶対、痛い。
あたしに蹴り飛ばされたマルコは、ずり落ちるようにゆっくりと背中から床に落ちた。
どすんと重たい音がして、あたしの呼吸音が室内に響く。ひゅーひゅーと、秋島の風の音のようにそれは止まらない。
上体を起こすとはらりと布が落下して、あたしはあわててそれを掻き抱く。
そんなあたしをベッドの下から真っ直ぐ見つめる視線に出会った。
「・・・っ・・・」
「・・・アン、」
何を考えているのかまったくわからない瞳のまま、マルコはゆっくりと腰を上げた。
無意識のうちにベッドの端まで後ずさっていたあたしの頬に、ゆらりと大きな手が差し出される。が、それはあたしに触れることなく下ろされた。
「・・・マ、ル・・・」
「・・・悪ぃ・・・」
くるりと背中を向けたマルコは、仕事机に戻りごそごそと書類を数枚引き出すと再びベッドまで戻ってきてそれをあたしに押し付けた。
「・・・明後日、期限だよい」
『出て行け』と暗に示されているのに気付いたあたしは、押し付けられた書類を布もろとも抱き込み、逃げるようにして部屋を飛び出した。
ボキッと、人聞きの悪い音を立てて羽ペンの上部が落ちる。コレで4本目だ。
だが仕事の進みは信じられないほど良かった。
というより、単に頭がそれ以外のことを考えるのを拒否している。
机に置いてある懐中時計に目をやると、いつのまにか日付が変わっていることに気付いた。
仕事の進みも良いし、今夜はもう眠る気分でもない。
コーヒーでも入れようとメーカーに手を伸ばしたそのとき、アンがいつか置いていったままのココアのカップが茶色い染みをつけたままそこにいるのに気付いてぐんと気が滅入った。
「・・・ガキかオレは・・・」
コーヒーを飲む気も失せたオレは再び机へと向かったが、すぐに5本目の羽ペンが折れた。
脇腹痛ェ
でもそれよりも痛いところがある
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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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