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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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**






サッチとの買い物は楽しかった。
車で15分ほど走ったところにある何だかお洒落な建物。
レトロっていうのかな、こういうのって。

一歩入ってビックリした。
知らない野菜とか、見たことない色の果物とか、よくわからない調味料だとか、
普段のスーパーとはちょっと違う。
何か外国みたいだ。

そう言うとサッチはそうだろうそうだろう、と満足げに笑う。
輸入食品を沢山置いているその店はサッチのお気に入りだという。

「すっごいね、こんなとこでいつも買い物してんの?」
「いんや、普段使いにゃ向かねェっしょ、このテの店は」
んじゃ何で、と言う顔をアンはして、その表情にサッチはにかりと笑った。

「楽しいだろ?」
ん?と聞かれてアンはコクリと素直に頭を振る。
よしよし、とよくわからない顔のままくしゃくしゃと頭を撫でられた。

「んじゃ買うぞー!今日はもう何でも買ってよし!お菓子も解禁!
「マジで!?3個でもいいの!?」

ズコッと入れた気合が空回りとなったサッチは、何よその3個ってと突っ込んできた。

「あ、いや、だってマルコがいっつも2個までって怒る」

・・・どこのお母さんか。

「・・・まぁ、好きに」
「でも、いいや、うん、今日は居ないもんね。よーっし!」

アンはふるふると頭を左右に振って、パッと笑った。

「怒られた時にはサッチがいいって言ったって言おう」
うん、と頷く小娘はすでに菓子売り場へ向かおうとしている。

いやいやそれはちょっと勘弁と思いつつ、サッチはひとまず食材コーナーへ行きませんか?とアンの後姿に声をかけた。







「サッチすごい、天才、カッコいい、最高」
「おお、もっと褒めて褒めて」

ダイニングのテーブルでひと匙すくって口に入れたアンは、足をバタバタさせて身悶えていた。

スープをすすりながらのアンを微笑ましく見ながら、サッチは向かい合わせのキッチンカウンター向こうでずっと作業をしている。

作りながら食わせながら、たまに自分もつまみながら、
行儀は悪いかもしれないが、楽しいのは断然こっちのほうである。

「それ食ったらお前はプチトマトのヘタを取れ」
「はーい」

イモの皮剥きはどうやらなくなったらしい。
アンは上がり込んだサッチの家、テーブルの椅子へ座りつつ、
じゃんじゃん出される料理を着々と食べ、たまに出される手伝いの指示をこなしている。


家に入ってすぐにキッチン以外の場所はいろいろまずいもんがいっぱいなので漁っちゃ駄目よ、
とウィンク付きで言われたが、アンは至極あっさりはいそーですか、と返しただけだった。
誰もいい歳こいたオッサンの部屋を漁りたくはない。

けれど珍しいには違いないのでくるくるとあちこち見回して、少々面食らった。

「・・・意外に片付いてて綺麗だね」

素直に口に出すと後頭部をぽすんとはたかれ、失礼なとしかめっ面をされた。
もちろんふざけているに決まっている。

「はいはい、アンちゃんがそこ入るといろいろ問題出るからキッチン行け、キッチン」

サッチはアンの視界からパタンとベッドのある部屋の扉を閉じて、きょとんとしたアンをダイニングに追いやる。

そうして今に至るのだが、
独り暮らし(・・・だと思う)にしてはキッチンが大きくて、アンはものすごく納得をしてしまった。

サッチの担当している雑誌にはグルメなんとかとか美味しいレシピなんとかとかもあるらしいので、
このレイアウトには大層説得力がある。
単なるお料理好きのおっさんではないということだ。



ジュワーッという食欲をそそる音がしてきた。
同時にものすごくいい匂い。
二口のコンロの片方では何かが炒められ、もう一方では油で揚げられている。
何だろうとアンがキッチンへ意識をやる。

「油跳ねっからこっち来んなよー」
「うん、何揚げてるの?」
「カエル」
「!?」

アンはさっきの店の冷凍コーナーで見かけたラベルのラインナップが一気に脳内によみがえってきた。
さすが輸入系、と恐る恐る手に取ろうとしてちょっと腰が引けた事もついでに思い出す。

「うそうそ、ワニもスズメもカエルも買ってませんって」
「買う奴いんのかな・・・サッチ食ったことある?」
「おー、あんぜ」
「ど、どう?」
「ま、普通?」
「ふ、普通?」
「俺は鶏のが好きってくらいかな、へいおまち」

ぎゃー!唐揚げだ!唐揚げって考えた奴天才!いただきます!
とアンは一気にしゃべって箸で塊を掴むと口へ放り込んだ。

「おわ!お前揚げたて」
熱っの声とともにピクピクと痙攣する小娘一名。

だから言わんこっちゃない、とサッチはコンロの火を止め、ちょうど炒め上がったものを皿に移し終えると、
冷凍庫を開けてアンに氷の塊を差し出した。
四角くない、酒とかに入れるようなごつごつした透明の塊。

舐めとけ、と言いつつアンの口には少々大きかった事を悟り、
押し当てる為のタオルを取りに一度キッチンを離れた。

すると玄関から微かにダースベイダーのテーマが聞こえる。何で玄関?

気持ちが沈む着メロはマルコの設定で、同時に思い出す。

そういえば帰宅した際、車のキー置いたついでに財布携帯全部下駄箱の上に置きっ放しだった。

サッチはとりあえずアンにタオルを渡すのが先だと脱衣所へ行き、ひとつとってリビングへ戻る。
案の定溶けた水滴をどうしたらいいかわからず氷を握りしめたアンが居た。
その姿に苦笑して悪い悪いとタオルを投げ、サッチは玄関へ向かう。




アンを迎えに行ってから2時間程。

(さすがお姫様盗られりゃ死ぬ気で仕事もするか)


サッチはマルコの仕事がやたら増えた事に気付いていた。
あの選好みの激しいオッサンに何があったのかは知らないが、
・・・というのは嘘で、当然最近の封筒攻撃の結果だろう。

マルコの腹は決まったというわけだ。

まぁ、もともとの仲介はあそこの出版社との話だったようだから、サッチの封筒は面白半分の単なる便乗。
義理欠くとあとあと面倒になる業界なのも織り込み済みなので、別段スルーされても痛くない。
アンの部屋に置き忘れを装ってまで追加で投入したものも、マルコの事だ読まずにその辺に放置だろう。

そして、アンの元気の無い理由はこのあたりにあるのでは、とサッチはにらんでいる。


(にしても、やりゃァできる癖によ)

サッチはちょくちょく締め切りに無理を言うマルコの言い分を、
次からは絶対に聞かないと心に決めた。
そして原稿欲しい時にはアンの連れ出しに限るな、とも。

そもそもそんな理由など抜きでサッチはアンを構いたいのだが、
マルコへのいい建前だ。

まぁ、封じられそうではあるが。


「へいへい、今出るって」


扉を一つ開けると、遮られていた音量が玄関でこだましている。

下駄箱の上で主張する暗黒卿のテーマは正直テンションあがらないので変えようと思うのだが、
設定対象とすばらしくマッチングしていると思うので長い事そのままだ。


電話はこちらに向かう車内からなのかもしれない。
追加で買うモンあるかよぃ、とかまぁそんなとこだろう。

サッチは呑気に通話のボタンを押そうとしたが、
タッチの差で切れてしまう。

「ありゃ」

すぐさま着信アリの表示を押して、リダイヤルにつなげようとしたその時、

何気なく履歴を見て、思わず唸った。



(・・・冗談)


性別が女だったら、間違いなく通報レベルのこの着信の数。

携帯放置かつキッチンでの作業音でまったく気付けなかったとはいえ、
この数はなんだ。


男でもこれは怖ぇよ、と突っ込んだところでハタと思った。

そういえば、机の上に出しっ放しで飯を食ってたアンの携帯は、
一度だって鳴ったか?




背筋にじわりと嫌な気配を感じた瞬間、
再びサッチの手の中で、マルコからの着信に携帯が大きな音を立てた。






ハナノリさんのあとがき

拍手[35回]

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また雨だ・・・。



アンはどんより気分に輪を駆けるニュースを眺めながら、
テレビに背を向けるようにして転がる。

昨日までは雨で、今日は一日降りそうで降らなくて、
そして天気予報が外れないなら、あすからの週末二日ともが雨らしい。
土曜日のバイトはシフトの調整で丸々休み。
日曜日はもともと休み。
ので、2日連続の休みと言う非常に素敵な具合なのに・・・



アンは床に寝そべったまま適当に手を伸ばして、酷い体勢のままベッドの上のタオルケットを探す。
何度もやるのにちっとも手が届かない。グキッと肩が変な風にねじれて、痛っと声を上げた。

横着をしただけ損だったことにより一層苛立ち、アンは意地でもその体勢のままタオルケットを引きずり下ろすと、
それに包まって丸くなった。



心臓がじくじくする。

お腹の辺りもモヤモヤする。




滅多に調子を崩すことなんてないのが売りの自分だったはずなのに
一体どうしたっていうんだろう。



アンはマルコの部屋で夕飯を食べて、そして今日は早々に自分の部屋に戻ってきている。
このところマルコは異常に忙しそうなのだ。








(この辺、重い)


アンは繭の中で体を一層縮めながら胸のあたりを抱きしめるようにして眉を寄せた。



最近、ちょくちょく感じるこの重さ。

最初に感じたのはいつだろう。



ああ、あれだ、


マルコに好きだと言われる前、
この部屋に、あたしが来る前に住んでいた人の事を聞いた時、

それがマルコの彼女だと知った時。



勘違いだと分かって、マルコの大事にしたい相手が自分だと聞かされて、

それからもうひと月近く経つのに・・・・



アンがずっとずっと気付いていて、
そして気付かないフリをしていることがひとつ。




あの紅茶のティーバックは相変わらずマルコのキッチンのところに置かれたままだ。






紅茶全般が嫌いになってしまいそうなそれ。
中身がどれだけあるのかもしれない、ただの小さな紙の箱。


たとえマルコが清算済みの関係だと整理をつけていても、

過去ここに誰か別の女の人が、自分と同じようなポジションで存在していた証なんて、




(あれ、もう、・・・・見たくない)



捨ててしまおうかと思った。

マルコはコーヒーしか飲まないのだから、
別段これが無くなったとして何も困らないだろう。


けれど、どうしてもできなかった。


マルコがどういう意図でそれを残しているのかが分からない以上、
アンには迂闊に手が出せない。
それに飲食物を気軽に破棄することは躊躇われる性質なので余計だ

手を出して、捨ててしまえば、
その行動自体が些細な嫉妬か子供っぽい駄々だと思われそうで。



このひと月、嬉しい事がいっぱいあった。
落ち着かなくて、でも顔がにやけるようなこともあった。
得意じゃないけど、でも嫌じゃない。そんなことが沢山。



けれどそれ以上に面倒で、投げ出したくなるような事もいっぱいあった。


紅茶の事だけじゃない。




ふとした瞬間、アンはマルコの昔の彼女の影を見る。


それは完全に妄想で、マルコには恐らく何も見えていない影。





同じ部屋に住み、同じように暮していれば、
同じシチュエーションが前にもあったんだろうか。

その時もやっぱりマルコは今みたいに笑ったり、
その人の頭を撫でたり、
ご飯を食べたりしていたんだろうか。


この部屋で。



そんなことを一度考えれば、
その日はもう止められなくなる。



マルコはよくアンを丸めこもうとするけれど、
正面からの告白と、
そして半年以上も前に終わって未練のみの字も無いと言ったことは掛け値なしで本当だろう。

それを疑うのはマルコに酷い。
そのくらいアンだってちゃんとわかっている。


だから、勝手に見える彼女の影が嫌だなんて、


・・・・・マルコには言えない。






「でも、・・・・ヤなんだよ」




頭を撫でてもらうのも、
ご飯を食べるのも、
低く笑ってしょーがねぇよぃって言われるのも、
抱きしめられるのも、キスをされるのも、

この部屋とマルコの部屋でされること全て、

前例があるのかもしれないとそう思う環境が嫌で、


そう思ってしまう自分がもっと嫌で、


ここに引っ越さなければマルコと会えてもいないのに、
アンは最近ここから別のどこかへ逃げてしまいたい気持ちになっている。






てってれれー、と携帯がアンの気持ちとは裏腹に、間抜けな音を出した。

この音は・・・・


(サッチからのメールだ)

アンは相手ごとに音を変えるなんて機能は使った事も無い。
が、以前サッチが遊びに来ていた時に勝手に設定をしていった。

それ以来サッチからのメールと電話だけは確認しなくてもすぐわかる。
案外この機能は便利なものだ。

というわけでアンはマルコではなくサッチだけは識別可能仕様という、
世間的に見ればいささか不思議な携帯を丸くなった中から探し当てる。


ローテーブルの上に置いてあったので、タオルケットよりは簡単に手元に持ってこれた。

パチンと開くと、新着メールのマーク。

開けばそこにはまるでいつもの調子でしゃべってるかのようなサッチの文章がある。
絵文字や顔文字がたくさんで、どこの女子高生かと最初は驚いたが今ではすっかり慣れたもの。

アンは少し気持ちが和んだものの、返事を打とうとして気力が萎えた。
面倒になってサッチの番号へ電話を掛けると、2コールで受話器の向こうから声がする。


『アンちゃーん、たまにはメールで返事ちょーだい。受信ボックスに潤いがないのよ俺』
「打つの面倒なんだもん」
「どっかのオッサンみたいなこと言わないの」
似て来たとかやめてー、とサッチが電話口で苦笑しているのが判る。
アンはこっちだって願い下げ、と普段なら言えるのに今日はマルコを引き合いに出されても身体がまた沈むだけ。

『どしたのアンちゃん、何か声こもってねぇ?』
「あー、うん、いま布団の中だから」
『・・・ってことはこれはピロートークか!?』
「何それ」
『ああ、いや、うん、まぁいいや』

サッチは適当に誤魔化して、メールの返答を聞く為にアンへもう一度同じ内容を問いかける。
アンはサッチへの来訪お料理リクエストには答えずに、遠慮がちに切りだした。

「あのさ・・・」
『?』
「サッチ、明日マルコに用事ある?」
『あー、まぁあるとすりゃ原稿早く寄越せって言う程度?ま、当然効力ゼロだから言うだけ無駄、よって俺超暇』
だからアンちゃんにメールしたんですよー?とサッチは笑う。

アンはサッチのこういう気の遣わせない上手なところがとても好きだった。
ホッとして、何でも話してしまいたくなる。


「だったらさ、あたしがサッチの家、行っちゃ・・・」
駄目かな?と語尾が小さく聞こえてくるのは何も布団の中で声がこもって聞き取りにくいからだけではなさそうだ。

うっわ!何この破壊力、そんな可愛いおねだり、こんなオッサンにしちゃ駄目!
しかも無自覚で!なんて恐ろしい子!

サッチは一瞬ウェルカム万歳を叫びそうになり、慌てて気持ちを宥める。

そしてマルコにお宅のお姫様もうちょっとちゃんと教育しなさいよ、と言いたくなった。
無自覚で男のお家に行きたい発言とか安易にするのは駄目だろう。
相手俺だからこれ穏便に済むのよ?
なんて危なっかしいのを抱えたんだかザマ―ミロ、じゃねぇご愁傷さまマルコ。

さらにアンには、そういう技はマルコにだけ使いなさい、とも言いたくなった。
てかそれは死ぬほど羨ましいじゃねぇかマルコのド畜生、とも・・・駄目だこれは終わらねェ。


さて、
しかし今までにこんなことを言いだした事の無いアンには何か理由があるに決まっている。
声に元気がないのだってそのせいなんだろう。


サッチは電話口でふっと笑うと、聞いた。

『マルコ忙しくて構ってくんねぇの?』
「そんなんじゃ・・・ない」

ふむ、とサッチは見えるはずはないが片眉を上げる。

『じゃ喧嘩したんか?』
「うぅん」

おや、外れた。

いよいよこれは何だろうとサッチが首を捻っていると、

アンからポツリと呟きが返る。

「・・・この部屋、ちょっと離れたい」

それっきりアンは黙ってしまった。

要するに、どっかへ行きたいと。


可愛い妹のようなアンが言うのなら、サッチがすることはただ一つ。

『よっしゃ!んじゃ明日昼前に迎えに行っちゃる!んでスーパーでしこたま買い出し!んでゴージャスにクッキング!
死ぬほど食わせてやるから覚悟しろ?何て素敵な雨のお休み遊び!とサッチはうきうきと声を弾ませてアンに提案した。

アンは美味しいもの三昧の予定よりも、
何より出かけられるその事にホッと息をつく。

「ありがとサッチ」
『礼はいいから明日ものすごい気合で芋の皮を剥け』
謎の指令をして、あ、とサッチは最後にひとつ付け足しをすると電話を切った。
アンはその付け足しには曖昧に返事をして同じく通話のボタンを切る。


何で芋?とアンは少しだけおかしくなって笑った。
点けっぱなしになっていたテレビの左上隅には、また小さい天気予報が出ている。

けれど明日を示す傘マークを、先ほどよりは体を沈めずに眺める事が出来た。






**




ガチャ、バタン、という重たいドアの開閉音。
聞こえたそれに、マルコは当然玄関のチャイム音が続くと思っていた。

マルコは時間の感覚が昨夜からおかしいよぃ、と時計を見る。
深夜まで書いて、少し寝て、なぜかすぐに目が覚めて、そこから気付けば今に至る。

筆が乗る時にはそれを止めないというよりは止まらないのがモノ書きの性なのか、なんと時刻は11時前。


夜・・じゃねェ・・・飯、より眠ぃ

そうぼやけた頭の隅で思い、そういえばチャイムが鳴らねぇな、と気付いた。


買いだしなり、様子見なり、必ずと言っていいほどひと声かかる日常で、
それは少し異質なことだった。


凝り固まった体を机から引き剥がしてドアを押せば、そこにはどこかに出かける恰好をしたアンが立っていた。

むわっとする湿気は当然雨が降り出したからで、マルコはまずその事に眉をひそめる。
そしてビクリと驚いたようにマルコを見るアンの態度にも眉根は寄った。

「・・・どっか出んのかよぃ」
「あ、うん」

こっちの都合を考えずにどこかへ引っ張り出そうとやってきたのかと思ったが、どう見ても変な態度で、
アンの身体は階段の方へ流れかけている。

「サッチと買い出し行って飯作る」

その名前に階下を見下ろせば、見慣れた車が雨の中停車していた。

そんな予定は聞いてねェ、と思いかけたが聞いてやる時間を作っていないのはこちらの落ち度だと思いなおし、
マルコはそうかよぃ、と頷いた。

ヤツは何だかんだとアンを構うが、
そもそも厭わしいというのは今に始まった事ではない。


「・・・俺ァ仕事が詰まってて」
「わかってる、眠くて死にそうって顔してるもん」

アンはピッとマルコの鼻先に指を示すと少し笑った。

とりあえず死なない程度に頑張ってね、と言うと同時にポンとワンタッチのビニール傘を開いて、
ひらひらと手を振ると階段を下りていく。

その何とも色気のない励ましに、よいと適当に相槌を打ちながら、マルコは違和感を感じた。



機嫌を損ねた、というわけでもない。
至っていつも通りの、普通のアンだ。


昨日飯を食ってる時も別に普通、
だったはず。


玄関まで見送った際に交すやりとりやらあれやこれやも別に普通、
だったはず。

別れ際にちょっかい掛けんな、といちいち照れて噛みつくのも、
最後だから構うのが普通だろぃ、と笑ってやれば、怒った様にバタンとドアが閉まる、
第三者が傍で見ていれば大層げんなりするに違いないやりとりも、

もはやここひと月での立派な『普通の日常』だ。


なのに、今のアンは・・・どこか


(俺がおかしいのかねぃ)


決してスッキリしているとは言い難い脳みそなので、
マルコはふ、と息を一つ吐くとちょうどそこにサッチの車のエンジン音が重なる


他の男と二人っきりでどこかにやるというのは、
非常に面白くない。

が、今日も明日も残念ながら自分がそれに応えてやれないのも事実だ。

数を増やした仕事は予想以上に面倒で、マルコはペースをつかむまで久々の缶詰め状態を味わっている。



(ま、買い出しじゃすぐに戻ってくんだろぃ)




隣の部屋でぎゃーぎゃーと賑やかに昼飯を作られるまえに、
マルコはあと少し筆を進めるかと部屋へ戻る。

車が走り去った後姿は最後まで確認しなかった。





そして1時間経っても二人は戻らなかった。



アンの携帯は繋がらない。


(・・・電波の届かない買い出し先ってのはどこだよぃ)




フランスパンは呼び出し音は鳴るくせに、一向に出る気配がない。






マルコの原稿が全く進まなかったのは言うまでも無かった。



ハナノリさんのあとがき

拍手[36回]


【ハロー隣のクラッシャー】続編オマケとして、ハナノリさまにいただきましたよ!














ウェルカム恋のファンタジスタ







郵便受けにしろ表札にしろそれらは家屋に比例しての付属品だから
当然このアパートの物も例にもれず申し訳なさ程度のブツ。

仕事上大判の郵便物が多いので大抵がドアの下、よくある隙間から玄関の中に突っ込まれている方が多いのがマルコの常だ。

よって鍵を開けてまずする事は狭い玄関に落ちている届け物を拾うことから始まる。
よっぽど大事なものは手渡しされるので、別段困る事もない。

全くもって困ることはなかった。



・・・・・・ほんの一週間ほど前までは、だ。








(いよいよ嫌がらせじゃねェか)


マルコはサンダルと靴とが窮屈そうに並んだ玄関の上、
いくつも散らばる封筒を鬱陶しそうに回収した。

宛名は見なくても分かる。
出版社は一目でわかる様に封筒の色に違いをつけている事が多い。
薄いグリーンの封筒と、同じく薄い水色の封筒。

こんなことをするのはあいつんとことあいつんとこくらいだ。


大事な仕事の書類をこんな風に投げ込む事はありえないので、
マルコは開封しなくともその中身を悟る。


グリーンの方があの女編集者で、水色の方はフランスパン頭。

二人がその場に居たら、ピンポンピンポンと正解音を笑顔全開で言ったに違いない。

うっかり幻聴でその音が聞こえそうになり、マルコはチッと舌打ちをする。



女編集者の方は現場(というほど大層なものでもないが)を見られたとはいえ、
別にナニをしていたところを目撃されたわけじゃなし、
いくらでも訂正はできたが言い募ればそれだけ不利な要素を与えるしかないので放置していた。

ムキになっていると思われたくもないので適当な時間を空けて、
握りつぶして多少不格好になった契約破棄の書類を返送し終える。

と、入れ違いで新たな書類攻撃が始まった。


最初は何かと思い開封した。


出て来たのは不動産情報。

仕事部屋と、寝室、リビング、キッチン


どう考えても一人で暮らすには設備が整い過ぎてやしないか?


その意図くらい聞かなくても分かる。

分かるがこれ幸いと乗り換えるほど単純な作りはしていないつもりだ。
この手のことは無視するに限るが、一度正面からキッチリ断らなければ止みそうもない。

水色の封筒と違って、子供じみた嫌がらせをするほどあの女性編集者は馬鹿ではないので
マルコは最初の封筒の中身を確認してすぐに編集者の番号を呼び出した。



『はい、お疲れ様です』
「どういうつもりだよぃ」
『届きました?あ、っとその前に契約破棄の書類は確かにウチに頂きましたので』
「だったら」
『何か問題ありました?』
契約破棄した時点で引っ越す気はねェって空気は読んじゃくれなかったわけか?」

電話口の向こうでは、心外だとでも言うように女編集者が溜息をついている。

『空気読んでそういう条件の物件にしたつもりですけど?』
「・・・いらねェ世話だよぃ」
『マルコさんのとこ行くの結構遠くて面倒なんです』

編集者が足の苦労をサラッと仕事相手に愚痴るなと内心で突っ込んだが、
じゃぁもういいと手を切るほどマルコも生活にゆとりがあるわけではない。

「家賃だけで原稿何回分が飛ぶか、そっちがよっぽどキッチリ把握してんだろうが」
それとも何か、突如原稿料が三倍四倍にでもなる案が社内会議で通ったかぃ?

マルコの嫌味にも電話口の声は押されなかった。
むしろいい笑顔をしていると声だけで分かる位の音が返ってくる。

『ええ、通りましたよ』
「・・・は?」

『とりあえず今抱えてるコーナーが好評なので、そっちを週刊誌の方へ回すのと、あ、これもう決定ですから』
「おい」
『あとは新しく創刊する雑誌があるのでそっちで一本。
で、あと新しい試みで対談形式の依頼がいくつか、で・・・三倍四倍どころか五倍も全然イケますね』

はい退路断ちました、と言わんばかりの口調にマルコは始終渋い顔で黙るだけ。
この沈黙がどんな表情の元繰り出されているのかは、短くもない仕事付き合いのお陰で正確に伝わっているだろう。

それだけのものを新たに抱えれば、当然今までの物に支障が出てくる。
当然それは別の出版社のものでしかないので、この女にしてみれば『じゃぁそっち切って下さい』と言うだけだろうが。


「・・・即断できる話じゃねェよぃ」
『そうですね』
「また電話する」

お待ちしてます、とにこやかに告げられた声に久々の交渉負けを悟って、マルコは携帯をベッドに投げた。









引っ越し、ねェ・・・


一度はするつもりだった。

極論住んでいる場所はどこだってかまわないし、土地や家屋に執着する性質でもない。

女と別れてからでも別にそこに面影の何やらを見るわけじゃなし、
住み続けるのに何ら不都合は無かった。

ただ仕事の資料で手狭になって来た気はして、ついでに編集部も近くなるならと、
たったそれだけの理由で転居を決めていたのに。



隣に越してきた馬鹿はそんな計画を見事にブチ壊した。

・・・まぁ、本人には壊した気はないのだろうが、
結果として見事に綺麗サッパリの大破だ。



マルコは靴を脱ぐのに邪魔だ、ということと、隣のバカがやってきたときに確実に下敷きになるので、
とりあえず薄いグリーンの封筒は回収する。
チャイムの音と名前を呼ぶ声とノブを回して鍵が空いてれば突撃突進の娘に、足元の確認を期待するのは無駄なだけ。

水色封筒の方は放置しようかと思ったが、残念ながらこの安アパートの玄関は狭すぎた。

ばさりとまとめてベッドの上に放る。


(物件の条件変えたって、俺一人で決めていい話じゃねェだろうが)

腕時計を外し、机に置いたついでに煙草を取る。
火をつけ、深く吸い込むと長く吐いた。



何を思ったのかは知らないが、隣人に別の関係性が付属したのはほんの一週間前。
たかだかそんな時間経過で一体何の決断をしろと?

マルコは内心でアホらしいと吐きながら、
頭の一方ではいつからの関係なのか向こうは知る由もないのだから、やむなしかとも理解はしている。

だから許容できる、とはならないが。



カラカラ、と安いサッシの音をさせながら窓を開ければ、外は夕暮れ間近。

(飯、どうすっかねぃ)

そんな事を考えていたときに、外から何故か声がする。


「マルコ飯!」

白い衝立の向こうでサンダルをつっかけたような音がしたので、マルコもついでにベランダに出る。

「俺はお前ェの飯じゃねェよぃ」

人を丼物のように呼ぶな、とマルコはいい、そしてアンはそれを想像したらしい。
げらげらと笑う声とすげー不味そう、絶対ェ食べないという声。見えないが頭は激しく横に振られていることだろう。


「ね、そっち行っていい?一緒に飯食お?」
「・・・って何食うってんだよぃ」
「職場の人からおすそ分け貰ったんだ」
「?」
「何かお祝いでちらし寿司たくさん作ったんだって」

ていうか顔見ずに話すのって変だな、と続いた声はマルコの了承を聞かずに既に部屋に引っ込んでいる。
そして10秒もしない内にアンの部屋の玄関扉が開閉する音が聞こえた。

続いてマルコの玄関ノブが回りかけて、そして途中で止まる。

そして何故かまたアンの玄関がガチャ、バタンと開く音がして、薄い壁の向こうからはドタバタと部屋を動く物音がした。


マルコは何やってんだと首を捻りつつ、とりあえずベット上に放りっぱなしだった封筒類を棚の隙間に押し込む。
そうこうしているうちにアンが色々抱えてやって来た。

テーブルの上に頂き物の折り詰めを大事そうに置くと、(それはアンの大食を知っているからなのか4つほどあった)、
脇に挟んだ水色の封筒をアンはマルコへ渡す。

「はいコレ」
「・・・何だよぃ」
「知らない、サッチが何か忘れてったみたい」
宛名にマルコって書いてあるからマルコにだよね、とアンは言っているが何故かマルコは嫌そうな顔だ。

今までに封筒に名前を書かれたことなど一度もない事実をアンに言えば何か得られるだろうか、いや何にも無ェ。

マルコがフランスパンへの報復をどうするか考えているとも知らず、アンは着々と夕食の態を整えていた。

ストンとローテブルにスタンバイしたアンは、頂きますと手を合わせようとして、
あ、お茶お茶、と立ち上がり水切りかごにマグカップを探しに行く。


「・・・あれ?マルコ、あたしのマグはー?」
「昨日部屋戻る時に一緒に引き上げてったんじゃねェのかよぃ」
「げ、そうだっけ?」
「つーかお前ェは自分のモンをこっちに置き過ぎなんだよぃ」
「いいじゃんマルコのとこのキッチン殆ど使わないんだし」
サラッとアンはマルコの苦言を聞き流し、んじゃマルコの借りよっと、とガチャガチャと水切りかごを漁っている。

「?マルコのもないよ?机?」
コーヒーをいれっぱなしで机に放置ということはよくあるのでアンはそう聞いた。

「いや?・・・あー・・・そういやこの2,3日見てないねぃ」
紛失する類の物でもないので、机とキッチンになければ後は考え得るのは1つ。

「お前んとこで飯食った時に、マグが足りねェってこっちからそっちにお前が取りに来たままじゃねェのかよぃ」

カチカチカチ、チーンという音がしそうな程アンは首を傾げて考えて、
とりあえず見てくると言ってその場に立ちあがった。

「それにしてもさァ」

ああもう、と何故かアンは投げやりな雰囲気だ。
壁越しに自室のキッチン辺りを見やって、この辺と指さしながらマルコに言う。

「いちいち靴履いて玄関回って取りに行くとかすげー面倒!ここにドアあったらいいのに」
そう思わねェ?と言うアンにマルコは何故か妙な表情で黙ったままだ。


「ベランダの衝立無くしても、結局サンダル履かなきゃだし」
やっぱ部屋が繋がるのがベストだよなぁ、うんうんと頷きながらアンはしょーがねーと言って玄関でサンダルをつっかけている。


「じゃちょっと見てくる」
そう言ってバタンとマルコのドアは閉まった。






「部屋が繋がる・・・ねェ」


隣人からクラスチェンジした後に、
本人から脱隣人を所望されるとはなかなか喜ばしいが、アンにはそんな気など一切ない。

単に面倒が減るだけという非常に合理的な理由だろう。
その下地にしょっちゅうこの部屋に来ることがあり、
来たいと言う気持ちがあるのはわかってはいるが。



さて、とマルコは棚に突っ込んだ封筒の数々を一瞥する。

そこにアンから渡された水色も追加で突っ込もうとして・・・・・それだけはゴミ箱へ突っ込んだ。





ハナノリさんのあとがき

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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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