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マルアン連載【それは狂気に満ちている】の【08はじめて】 のマルコサイドです。
活気ある呼子の声、漂う食い物の匂い、どこからともなく流れる音楽は酒屋から零れる宴の音頭だろうか。
昼飯を終え中心街を一通り見て回った頃には、すでに日が傾きかけていた。
右手にはこの島の名物と歌われていた肉を、左手には串刺しにされたこれまた違う種類の肉を持ったアンは、あちこちに連なる屋台をひっきりなしに往復して、機嫌よく腹を満たしていた。
あああれもおいしそう、こっちもいい匂い、と尻尾を振るアンには、だらしなく引き締まらない表情筋同様に財布の紐もゆるっゆるな男がついているので、金に困ることもない。
オレはその二人の後ろをたらたらついて行って、たまにアンが呼ぶ際にだけそれに応える。
そんな風にして久々の停泊、そして休日を過ごしていた。
*
「ねェマルコ!鳥!鳥売ってる!!」
「買わねぇよい」
鉄の檻に入った毛染めされた小鳥を指差すアンに即座に釘を刺せば、アンはすぐさま口を尖らせ不満を示し、するりとオレの腕に自分のそれを絡ませた。
「マルコも仲間増えたほうが楽しいじゃん」
絡んだ温度はあまりに馴染みすぎていて、振りほどくのを忘れた。
馴染んでいることにさえ気が付かないほど、そこは、オレの左腕は『アンの場所』で。
しかし「鳥扱いすんじゃねェ」と口を開いたその矢先、アンは熱いものに触れたかのように素早くオレの腕から手を引いた。
思わず目を軽く見開いたままアンを見下ろせば、アンは困惑したように視線を彷徨わせ、行き場に困った両手をさっと後ろに回した。
そして頼りなく眉を下げたまま、笑った。
「ごめん」
遠くでサッチがアンを呼ぶ。
アンはこれ幸いとばかりにオレに背を向けて、サッチのほうへ駆けて行った。
オレは一気に温度を失った腕を持て余して、その後ろ姿を眺めていた。
*
「おいマルコー!ちょっとこれ見てみなさいよ、すんげぇの」
サッチがげらげらと笑いながら店の中を指差して見せる。
道の真ん中で叫ぶんじゃねェよいと小言を呟いてそいつのもとに近づこうと歩んで数歩、気づいた。
オクターブ高い歓声が、日の光を吸い込んだオレンジのテンガロンが、少し前から見当たらない。
「ほら来れ、お前にそっくりじゃ」
「アンは」
「アン?さっきまでそこの店の前に」
そういってサッチが指差す場所には、当然アンの姿はない。
そう言えばどことなく人の数もまばらになってきた。
空は少し白っぽい橙に色づき、西日がきょとんと立ち尽くすサッチの顔を光らせる。
「いねぇ」
「…まじで」
「いねぇよい」
しばし目の前の男の面を見つめていたのだが、オレたちが佇んでいるそこに店を構える主人が「兄ちゃんたちもう店閉めるけど」といぶかしげに声をかけたことによって、久しぶりの休日に終わりが告げられたことを悟った。
*
初めは二人で適当に街をぶらつき来た道を戻ったりして、アンを探した。
どうせその辺で食いもの屋の屋台に張り付いて、早く店じまいしたい店主に煙たがられているだけだろうと思っていた。
だが結局アンは見つからないまま港まで戻ってしまい、おれたちは立往生せざるを得なくなったというわけである。
「アンの奴、街から出ちまったんじゃね?」
「食い物もねぇのにかよい」
「うちの子ネコちゃんに理屈は通じねぇだろ」
「…オレァ空から探すよい」
「ああその方がいい。俺はもっかい街に戻る」
しっかり頼むぜと笑ったサッチにテメェもなと視線で返し、オレは地を蹴り空へと舞いあがった。
*
探さずとも、そのうちひょっこり帰ってくるのかもしれない。
一ケタのガキでもあるまい、ましてや一隊長を務める奴を男二人で探すのも、馬鹿げているかもしれない。
ただオレもサッチもそれを口に出さないところを見ると、すでにオレたちは後戻りのできないところまで来ているらしい。
それはモビーに乗る野郎共、誰一人として漏れることなく当てはまるのだが。
「…とんだ厄介の種だよい」
全体的に影が落ちてきた街の上空を火の粉を散らしてひとつ旋回したその時、数百メートル離れた山のふもとで猛々しい音と共に業火と熱風が舞い上がるのが見えた。
(・・・)
まったくなんというべきか。
ことあるごとに面倒事を引っ掻き回すその癖は才能というか天性というか。
また豪勢にやったもんだと上がった火柱を眺めながらため息ひとつ吐き出して、オレはその火種のもとへと高度を落としていった。
ふと、オレの眼下に転がるようにして山を下っていく数人の男たちが映る。
服の焦げ具合からして、アンの相手か。
山賊だ。
必死の形相で逃げていく男たちをまぁ可哀相にと見送って、オレはさらに高度を落とした。
「アン!」
へたりこむアンのつむじをみた瞬間、何も考えることなくその名を呼んでいた。
弾かれたようにオレを見上げたその顔は、いつもに反して血の気が引いていて、青白い。
目の前に降り立つと、アンは揺れる瞳でおれを見上げてそれからぎゅっと目を閉じた。
怒られるのを待つ子供のようにこぶしを握って、微かに睫毛を震わせる。
どこまでも呆れた。
だがそれについて口うるさくするのは後でいい。
アンの前にしゃがみ込むと、アンは気配で顔を上げた。
「心配したよい」
怒っているかのごとく眉間に皺が寄るのはもう見逃してほしい。
均衡が崩れたのかほろりと一筋泣いたアンは、今のオレの顔をどう思っているのだろう。
泣くなよいとすすけた頬を拭ってやると、ギュっと下唇をかみしめて涙をこらえるふりをした。
その様の幼さに、思わず頬が緩んだ。
俗に言う女にしかできない座り方で地面に座り込んだアンのふとももはぱっくりと切り裂かれ、鮮やかな赤が流れ続けている。
だが見たところ傷は深くなさそうで、皮膚が裂かれただけらしい。
しかし物理的な切り傷を受けたのなど久しぶりなのだろう、オレがその傷口を指摘してもアンはいやなものを見るかのようにそこから顔を背けた。
「ごめん」
「何謝ってんだい、ほら乗れ」
帰るぞと背中を向ければ、少しの間の後とさりと背中に重みかかかる。
その重みを落とさないよう、オレは形状を変えて空へと舞いあがった。
*
薄い青に浸透するように伸びていた橙は、群青色に飲み込まれていく。
そしてその下に続く黒い海には、ぽつんとひとつオレたちの船が浮いていた。
空から見るとそれはとても小さくて、頼りなくすら感じる。
ただ近づくにつれて大きくなり白鯨の船首がぼんやりと浮かび上がって、そこは間違いなくオレたちの家だった。
アンと二言三言かわしていれば、不意に沈黙が訪れた。
アンの視線の先がどこなのかはわからないが、オレの背中の羽を握りしめる手の温度が伝わる。
「マルコ、すき」
ぽんと、放り出されるように言われた。
受け取ってもらうことを期待していないように無責任に発された言葉は行き場がなく、オレたちの間をゆらゆら彷徨っているような感じがした。
ただ、いつものようにあしらいつっぱね返すことはできない重みだけはしっかりと持っていた。
「…知ってるよい」
アンが小さく息をのむ。
オレは聞こえないふりをして、目先の船を見つめていた。
ああこれで、逃れる術も理由も、ついになくなってしまった。
焦げたカラメルを、もっともっと透き通らせたような甘い香りが厨房の至る所に充満する。
しっかりと甘さは強いのにくどくなくて、いわゆる「上品な甘さ」というのを持つ摩訶不思議な糖類が、今オレの手によってちりちりと蕩けていく。
鍋の中では焦げ茶色の光るそれがくつりくつりと気泡を沸かせ、ますます甘い香りを濃くしていた。
砂糖菓子で船を作る
「黒糖」と言うらしいそれは、この島の名産だ。
なんか珍しい砂糖買ってきたぜと食堂に持ち込めば、そこで一服していたイゾウがひょいと覗き込んで、こりゃあ黒糖じゃあねェかいと声を上げた。
「おお、なんかそんな名前だったな。イゾウ知ってんのか?」
「ああ、ワの国にもあってねェ」
砂糖よりしつこくなく、健康にもいいとのことで重宝されていたらしいそれを、イゾウが珍しく熱のこもった瞳で見やる。
どう食うのがうまいと聞けば、溶かして蜜にするといいとのことで。
んじゃあそうするかと言うと、イゾウの奴は本当に珍しく嬉々とした表情で、
「牛乳でアイスクリームも作っとけ。アンが喜ぶ」
そして俺は白玉粉を買いに行くから後で作れ、と偉そうに命令を下し、船を下りて行った。
そういうわけでおれはあいつの命を大人しく受け入れ、こうして黒みつを作っているわけである。
ああけなげ。
厨房と食堂を隔てるカウンターの向こうでは、人影のまばらな中おれからよく見えるテーブルに二つの横顔がある。
アンのほうは頭を抱えながらテーブルの上に広げた紙切れに何かを書き込み、それを頬杖ついて眺めるマルコは時たまトントンと紙を叩いてアンに何か言っていた。
それに対しアンは笑ったり、いやそうに思いっきり顔をしかめたり、コロコロと表情を変えてはマルコに反応を変えす。
そしておれの位置からはよく見えないが、マルコはいつもの笑い方で笑い、呆れたり、はたまた青筋立てたり、してるんだろう。
くぷっと茶金色の液体が泡を上げる。
おれはもう一回へらを回して、その純度が高く、そしてとびっきり甘くなるよう鍋の中をかき混ぜた。
テーブルに座る二人のわきには、それぞれ一つずつカップが置いてある。
マルコの右側には濃いめの青、コバルトブルーの縦長のマグカップが。
アンの左側には赤とオレンジと黄色が彩られた幅広のマグカップ。
前者の中にはベージュ色の液体が。
後者の中にはチョコレート色の液体が入っている。
おれが淹れたものだ。
アンが飲むココアは、おれが淹れた時と同じ色のまま、時々アンがかき混ぜることによってミルクとココアがマーブルに混ざり合う。
だがあの鳥野郎が、ほら今この瞬間口に運んでいる液体は、おれが淹れたものとはもはや違う物質だ。
おれは「コーヒー」を淹れたんだ。
口うるさいアイツのために、豆を引いて、ドリップして、奴が常に使っている青のマグカップに注いでやったそれを、マルコは表情一つ変えずに異物へと変える。
まず角砂糖を数個、コーヒーを軽く跳ねさせながらそこに落とす。
そしてそれだけでは飽き足らず、ミルクをこれでもかと言うほど注ぎいれるのである。
もうおれは目を瞑って唸るしかない。
それじゃコーヒーの味なんかわかんねぇだろ!
オレの思いやりを返せと一度怒ってみたら、真っ黒なあるべき姿のコーヒーを指差して奴は言った。
「こんなの苦くて味もクソもねぇだろい」
この時ばかりは、こんな風にマルコを育てたオヤジに文句を言いたくなった。
おれは火を止めて、熱い鍋をそのままに冷凍庫の扉を開けた。
蜜を溶かす前に作っておいたバニラアイスを取り出して、冷えた皿へぽこりぽこりと一つずつ乗せていく。
そして鍋からまだ熱い黒みつを掬い出した。
一層濃く、重く、そして甘い香りが熱い空気と共に立ち上ってきた。
もう既にこの香りはあの二人へ届いているのだろう。
ちらりとそちらに視線をやれば、アンが嬉しそうに机の上を指差していて、その頭の上にはくしゃりと黒髪をなでるマルコの手。
遠くで食堂の扉が開き、イゾウが帰ってきた。
まったく、あいつは俺にどれだけの白玉を作らせる気だ。
なんだその量。
おれはスプーンを皿の上で傾けて、冷たいアイスに熱々の蜜を落とす。
さあオヤツの時間だ。
厨房も、食堂も、どこもかしこも甘さで満たされていた。
ああ あまいあまい。
イゾウが持ってきた酒は、途中から味がわからなくなった。
上等な奴だと嬉しそうに言っていたイゾウに多少の申し訳なさを感じたが、味を殺した一因がアイツにもあるのだと考えれば罪悪感は薄まった。
久しぶりに回った酔いは重く重く体の中に残って思考をのろくした。
いつのまにかお開きになった酒盛りはオレの部屋に酒臭さだけを残して、飲みかけの酒瓶がひとつふたつ転がっていた。
片づけて帰れよいあのアホ共、とひとり悪態づいて酒瓶を拾おうとかがめば途端に視界が霞んでふらついた。
こんな酷い酔い方をするのは本当に久しぶりだ。
そう思うとますます楽しげに口角を上げていたあの薄い唇が憎らしく思えてきた。
イゾウは、オレとアンをどうしたいんだ。
アンの肩を持つというのならおれはアンに応えることをアイツは望んでいるんだろうか。
だがイゾウもオレを含め他の奴らに違うことなく、この家族を愛してる。
それならこの関係を変えることは、均衡を崩すことだ。
…もとより、イゾウが望もうが望むまいが決めるのはこのオレなのだが。
もういい片づけは明日だと手に取りかけた酒瓶を放り出して身をベッドに沈めた。
体を横にした瞬間自然と口から酒臭い息が漏れ、辟易する。
どうしてオレたちは、ただの兄と妹になれないんだ。
関係を壊したのは間違いなくアンのほうから。
だがそれを修正することもできないのはオレのほうだ。
変化を恐れて何が悪い。
ごまかしてなんかないと自分をごまかしてやり過ごせればそれが一番いいのだ。
きっとオレにとっても、アンにとっても。
時計は夜中の二時を示し、波に任せて船体が揺れると同じように体も揺れた。
このまま揺蕩う波に思考ごと呑まれてしまいたいなどと、らしくないことを思う。
後悔するぞと牽制かました男の姿を思い出した。
ああもうそれなら、早くオレからアンを攫ってくれ。
世界は終末を迎え、そして始まる
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S | M | T | W | T | F | S |
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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