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「っ何してんだよい!」
果汁が垂れたのと反対の腕を荒々しく引かれてアンが後ろによろめくと、ぽすんと背中に固く広いものが当たる。
見上げると、イゾウに強い視線を送るマルコの顎が見えた。
「…? マルコもたべる?」
あからさまに怒気を孕んだ声をしているマルコに、アンが首をかしげつつマンゴーをマルコの眼前まで持ち上げれば無言で押し返される。
いらないの、と軽く口を尖らせてから、アンはマルコの胸板に背中を預けたまま呑気に再びマンゴーを食べ始めた。
「…行くよい」
「え?うわっ」
ひとくち噛り付いた途端にマルコに掴まれた腕を引かれ、アンは半ば引きずられるように船内へと歩いていく。
「ちょっ、も、マルコ!?」
すたすたと歩いていく背中に問いかけても返事はなくて、遠くなっていくサッチとイゾウに視線で助けを求めても、サッチは苦笑まじりに、イゾウは涼やかな笑顔で、手を振ってアンを見送るだけだった。
「…お前なぁ、こっちがびっくりするだろ!」
「でもおめぇさんよ、あのまんまだとアンが自分の腕舐めてただろうが。正視に耐えねぇだろ」
「・・・たしかに、いや、でも・・・あぁ、うん・・・でも手首って、」
掴んだ腕をそのままに自室まで戻ったマルコは、自室のシャワー室の入口に掛けてあったタオルをアンに差し出した。
「拭けよい」
「あぁ、うん…」
引きずられながらマンゴーを完食したらしいアンは、数個の種を近くにあったゴミ箱に投げ入れてから右腕全体をタオルで拭った。
マルコはその姿を確認して、ベッドへと腰を下ろす。
スプリングの軋みとため息が混じって大きな音を立てた。
両手を組んで足に肘をつき、額をその手で支えたまましばらく心落ち着かせる。
少し視線を上げればばっさばっさとタオルを動かし果汁を拭い取るアンの姿が確認できて、またひとつ深い息が漏れた。
「…お前よい、」
「うん?」
「…あー…いや……タオル貸せ」
「?」
差し伸ばされた手に促されてそこにタオルを乗せれば、腕を引かれてそれと同時に口元にタオルがあてがわれる。
「っふが、いたっ、」
険しい顔のマルコに口元を荒く拭われてアンの頭がガンガン揺れる。
なんだか自分が小さいころのルフィみたいだと思わずほんわりしかかって、しかし子ども扱いしないでほしいとタオルの上からマルコを睨めばマルコの額にさらなる皺が増えた。
・・・子ども扱いでいいからもう少し優しくしてほしい。
「できたよい」
「…あー、うん。ありがと」
心なしかひりひりする口元に手をやっていれば、ベッドの上にタオルを放ったマルコは後ろに手をついてあからさまな溜息をついた。
「・・・やっぱマルコも食べたかった?」
マルコの溜息の原因を思いつくままそう言うと、マルコの口が一度開いて、逡巡するかのように固まっていたかと思えば何を言うこともなくまた閉じた。
帰ってこない返事に首をかしげれば、唐突に腕を引かれる。
ずいと寄った顔に驚いて身を引いたが腰を抱き込まれて動けなくなった。
「食わせてくれんのかよい」
え、と声を発せば右腕をぐいと引っ張りあげられて、手首を強く掴まれる。
「…されるがままにしてんじゃねぇよい」
その言葉とマルコの視線が行き着く先を見て、さすがのアンもああさっきのことかと合点がいった。
「だっていきなりだったんだもん…って、あ。意味、聞き忘れた」
「…何がだよい」
「だから、キス、手首の意味、」
「・・・」
返事が返ってこないと思えばなぜかちっと舌打ちされて、え、なんで怒ってんのとアンが怪訝な顔をする。
「もしかして手首に意味とかない?」
「・・・」
「・・・あるんだ」
明後日な方向を向き顔をしかめていたかと思えば、マルコはアンの右腕を開放し代わりにそれと逆の手を取った。
取られた手をさらに引っ張られ、バランスを崩したアンは深く座るマルコの脚の間に膝をつく。
ほえ、と目を丸めたアンの目の前でマルコが左手首に唇を寄せるので、途端に顔に熱が昇った。
「ママママルコ!」
「…手首は、『欲情』」
「ちなみにここは、わかるかよい」
マルコが口を開いて喋ればその都度微かに唇が触れ合って、でもぴたりと合わさることはなくて、そのもどかしさにアンの背中が粟立った。
「…わっ、わかんないよ!」
こんなにも近くにいるのにやたらと大声でそう言えば、ぼんやりとした視界のなかでマルコが笑うのがわかった。
そしてアンが何を言う暇もなく今度は隙間なく口を塞がれる。
いつまでたっても余裕なんてものが身につかないアンは肩を強張らせてマルコのシャツの肩口を掴むと、アンの腰に回された腕の力がさらに強くなった。
食むようにやわやわと唇をはさまれて、離れた口の隙間から慌てて息を吸い込めばまたマルコが喉で笑った。
「…で、意味は?」
「言わなきゃわかんねぇかよい」
う、とアンが言葉に詰まればくるりと世界が反転し、ふかりと弾むベッドがアンの背中を受け入れる。
ぱちくりと目の前の顔を見つめれば不意に耳元にマルコの唇が寄せられて、ぽそりと低く囁かれた。
「~~~っ!!・・・っ、マルコはずるい!」
「なんとでも言え」
まさしくにやりと。
口角を上げたマルコはまた軽くアンに口付けて、そこから伝うように唇を下ろしていく。
頬も顎のラインも首筋も、とあますことなく口付けを落とし、次いで耳の下あたりにも顔を埋めるようにして口付ければ、あ、と相も変わらず空気を読まない声が聞こえた。
「・・・なんだよい」
「ね、そこは?今したとこ全部」
「・・・また意味かよい」
「うん」
「・・・いい加減そこから頭離せ」
「わかった、で、意味は?」
「・・・意味なんてねぇよい」
えぇー、と不満げに眉を寄せるアンをいい加減黙らせようと、もう一度深くキスをした。
Please kiss me!
(唇は愛情)
(それ以外は)
(狂気の沙汰)
またキスされるのかとアンは身構えたが、頬に当たったのはそれよりも面積のあるもの。
「うわっ、サッチ、ヒゲが痛い!」
「時には愛って痛いもんだぜっ」
(…まったく、ほんとに…)
どこまで可愛いんだこの人たちは。
マルコを除き、クルーたちは揃いもそろってアンを猫可愛がりするが、アンからしてみればこんなに可愛いおっさんたちは他にいない。
「…ひりひりする…」
「んひひ」
「…ふふっ、」
耳のすぐ横でサッチが嬉しそうに独特の笑い声を出す。
それにつられるようにして、思わずアンからも笑みが漏れた。
ふたり顔を寄せたままくふくふと笑うと、それが囁くほどの小さな声でも、じわりと温度のように甲板に広がった。
通り過ぎるクルーたちは、場合によっては冷や汗ものの光景であっても、今のこの状況に半ば苦笑混じりの、それでいて微笑まずにいられないといったように笑みを零すのだった。
しかしそれも長くは続かず、上空から飛び降りたように高くカンッと靴底が鳴ったことによってその状況は一変した。
所謂、冷や汗ものの光景に。
「で、また興のある遊びが流行ってるらしいじゃねぇか」
「っ!!・・・イゾウまで知ってんの?」
「さっき船に上がる前にラクヨウに会ってな」
心当たりあるその名前にアンが顔をしかめれば、マルコが何の話だよいと目を細めた。
「隊長格の野郎どもがアンにキスを迫ってるってぇ話」
「・・・は?」
ゆらりとマルコの背後、厳密には空気が揺らぎ、先ほどのアンとサッチの光景に納得がいったマルコはついと視線をサッチに移す。
険のある視線を受けたサッチは、焦るように口を開いた。
「バッカ、遊びっつったろうが!あそび!」
「男の悋気は見苦しいねぇ」
「りんきってなに?」
「イゾウもアンも余計なこと言うな!!」
馬鹿馬鹿しいと口では言いながらも、マルコはしっかりと視線でサッチにくぎを刺す。
サッチは半ばあきれたように苦笑しつつもその視線をしかと受け止めた。
受け流せる程度の牽制ではなかったゆえ。
「馬鹿らしい遊び流行らせてんじゃねぇよい」
「発端オレじゃねぇもーん、ジョズだもーん」
「そうそう、ジョズはゆーじょー」
マンゴーに齧り付きながら怪しい呂律でアンがそういえば、マルコは友情?と眉を寄せた。
「ほら、キスは場所によって意味があるとか言うだろ?」
「ジョズはおでこだったから、ゆーじょー」
「『友情』な、アン」
またもやマルコは馬鹿馬鹿しいと呟くが、ということは他の野郎どもがアンの至る所にキスしたってことかよいと内心穏やかではない。
「そう、あとまだ聞いてないとこあった。瞼は?」
「瞼ぁ?意味なんてねぇだろ」
「・・・いや、瞼は確か『憧憬』、じゃねぇか」
ショウケイ?とアンが首をかしげれば、憧れ、とイゾウが注釈を入れる。
瞼へのキスは、ブラメンコとキングデュー(まぁ事故ではあるが)。
「・・・そういうことって、なんでみんな知ってんの?ジョーシキ?」
「常識ってか、男の嗜み」
なぜか胸を張るサッチに、ふんとマルコが鼻で笑った。
「ひっかかりもしねぇ女のためにたしなんでても仕方ねぇよい」
「辛辣!」
どすっとたわわなリーゼントがマルコの肩に刺さるが、マルコは鬱陶しさを前面に押し出した顔でそれを手で払った。
ふうん、たしなみ、と呟いたアンは、また半分ほどになったマンゴーに齧り付く。
じゅるりと果汁が切り口から染み出した。
「アン、手ぇ」
「? おぉ、」
イゾウが視線で指し示すのはアンの手首。
果実から指先を辿り滴った果汁がアンの手首を滑り落ちて行く。
勿体ない!とアンが慌てて滑り落ちる液体に顔を近づけたそのとき、ぐいと別の力がアンの腕を引っ張り上げた。
「イゾッ、垂れるっ、勿体な、」
離してという意味を込めてそう言った矢先、不意にイゾウが小さく屈んだ。
前腕の裏側、その中央あたりに生暖かい感覚を捉え、それがつ、と上へと昇っていく。
イゾウの高い鼻が手のひらにぶつかって止まると、とくとくと脈を刻む手首の上にひとつキスを落としてイゾウの舌先が離れた。
アンはただそのイゾウの動きを辿るようにぼんやりと眺める。
サッチがんひゃーと素っ頓狂な声を出す。
マルコの細い目がこれでもかと開いた。
「おう、いい味してんじゃねぇか」
「あ、うん」
Please kiss me!
(ちょっと待て、今の軽くスルー!?てかマルコ息しろ!!アンも「うん」じゃなくて・・・あぁもうツッコミが追いつかない!)
マルアン連載【それは狂気に満ちている】から始まって
続編含め全30話、ここまで読んでいただき
まっことにありがとうございます!
とりあえずなんだか偶然区切りがついちゃったので、
とっても唐突ですがマルアン続編これにて終了とさせていただきマッシュ!
・・・え?
ってなったヴァナータ!
いや、もうほんとありがとうございます。べたっ(三つ折り)
前々、更新履歴やらあとがきやら小ネタやら好き勝手やらかしているもう一つのブログのほうで言ったんですが、
このままじゃマルアン続編だらだら続いてきそうで、
それはなんだかなぁと思っていたのでこういう形になりました。
最初の10作でマルコとアンちゃんの駆け引き
次の20作でふたりがなんらかの壁超える
ってな感じで綺麗にまとまってしまいましたので。いやはや
んで、もちろんこれでうちのマルアンが終わったりはしません。
つづきますよ。
えぇもちろんつづきますとも!
こんなにも熱く滾ってるのに!!!うおおお
展開は、前にもうひとつのブログのほうでちろっと呟いたので今回は黙っておきますが!
しばらくマルアンは、1万打企画と小ネタ現パロのほうを書いていこうかとおもっておるよ。
とか言ってすぐ第三部始まったりもするよ。
わかんないよ。
とにかく、30話も続いた話を根気よく読み続けてもらって、
本当に本当に本当にありがとうございます・・・!!!
なにがメインなんだかわからんサイトですが、
ちょっとでもマルアンすきーさんが増えてもらえると嬉しいな!
うちでマルアンにはまった!とかってコメントもらうと
もう液晶の前で涙にじませて悶えていましたよ!
たくさんたくさんコメントありがとうございました!
これからもいっぱいしてね。
返事させてええええ
んでは、ここまで読んでくれたみなさまがたに最大級のハグをして
これにてしつれい!
11.04.21 こまつな
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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一声いただければ喜んで遊びに行きます。
足りん
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