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焦げたカラメルを、もっともっと透き通らせたような甘い香りが厨房の至る所に充満する。
しっかりと甘さは強いのにくどくなくて、いわゆる「上品な甘さ」というのを持つ摩訶不思議な糖類が、今オレの手によってちりちりと蕩けていく。
鍋の中では焦げ茶色の光るそれがくつりくつりと気泡を沸かせ、ますます甘い香りを濃くしていた。
砂糖菓子で船を作る
「黒糖」と言うらしいそれは、この島の名産だ。
なんか珍しい砂糖買ってきたぜと食堂に持ち込めば、そこで一服していたイゾウがひょいと覗き込んで、こりゃあ黒糖じゃあねェかいと声を上げた。
「おお、なんかそんな名前だったな。イゾウ知ってんのか?」
「ああ、ワの国にもあってねェ」
砂糖よりしつこくなく、健康にもいいとのことで重宝されていたらしいそれを、イゾウが珍しく熱のこもった瞳で見やる。
どう食うのがうまいと聞けば、溶かして蜜にするといいとのことで。
んじゃあそうするかと言うと、イゾウの奴は本当に珍しく嬉々とした表情で、
「牛乳でアイスクリームも作っとけ。アンが喜ぶ」
そして俺は白玉粉を買いに行くから後で作れ、と偉そうに命令を下し、船を下りて行った。
そういうわけでおれはあいつの命を大人しく受け入れ、こうして黒みつを作っているわけである。
ああけなげ。
厨房と食堂を隔てるカウンターの向こうでは、人影のまばらな中おれからよく見えるテーブルに二つの横顔がある。
アンのほうは頭を抱えながらテーブルの上に広げた紙切れに何かを書き込み、それを頬杖ついて眺めるマルコは時たまトントンと紙を叩いてアンに何か言っていた。
それに対しアンは笑ったり、いやそうに思いっきり顔をしかめたり、コロコロと表情を変えてはマルコに反応を変えす。
そしておれの位置からはよく見えないが、マルコはいつもの笑い方で笑い、呆れたり、はたまた青筋立てたり、してるんだろう。
くぷっと茶金色の液体が泡を上げる。
おれはもう一回へらを回して、その純度が高く、そしてとびっきり甘くなるよう鍋の中をかき混ぜた。
テーブルに座る二人のわきには、それぞれ一つずつカップが置いてある。
マルコの右側には濃いめの青、コバルトブルーの縦長のマグカップが。
アンの左側には赤とオレンジと黄色が彩られた幅広のマグカップ。
前者の中にはベージュ色の液体が。
後者の中にはチョコレート色の液体が入っている。
おれが淹れたものだ。
アンが飲むココアは、おれが淹れた時と同じ色のまま、時々アンがかき混ぜることによってミルクとココアがマーブルに混ざり合う。
だがあの鳥野郎が、ほら今この瞬間口に運んでいる液体は、おれが淹れたものとはもはや違う物質だ。
おれは「コーヒー」を淹れたんだ。
口うるさいアイツのために、豆を引いて、ドリップして、奴が常に使っている青のマグカップに注いでやったそれを、マルコは表情一つ変えずに異物へと変える。
まず角砂糖を数個、コーヒーを軽く跳ねさせながらそこに落とす。
そしてそれだけでは飽き足らず、ミルクをこれでもかと言うほど注ぎいれるのである。
もうおれは目を瞑って唸るしかない。
それじゃコーヒーの味なんかわかんねぇだろ!
オレの思いやりを返せと一度怒ってみたら、真っ黒なあるべき姿のコーヒーを指差して奴は言った。
「こんなの苦くて味もクソもねぇだろい」
この時ばかりは、こんな風にマルコを育てたオヤジに文句を言いたくなった。
おれは火を止めて、熱い鍋をそのままに冷凍庫の扉を開けた。
蜜を溶かす前に作っておいたバニラアイスを取り出して、冷えた皿へぽこりぽこりと一つずつ乗せていく。
そして鍋からまだ熱い黒みつを掬い出した。
一層濃く、重く、そして甘い香りが熱い空気と共に立ち上ってきた。
もう既にこの香りはあの二人へ届いているのだろう。
ちらりとそちらに視線をやれば、アンが嬉しそうに机の上を指差していて、その頭の上にはくしゃりと黒髪をなでるマルコの手。
遠くで食堂の扉が開き、イゾウが帰ってきた。
まったく、あいつは俺にどれだけの白玉を作らせる気だ。
なんだその量。
おれはスプーンを皿の上で傾けて、冷たいアイスに熱々の蜜を落とす。
さあオヤツの時間だ。
厨房も、食堂も、どこもかしこも甘さで満たされていた。
ああ あまいあまい。
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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