OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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「イゾー…さんは、」
「イゾウ」
「…イゾウも、ここの編集者なの?」
「いんや、オレァここに世話んなって契約してるモンだ。 ちぃとばかし今は暇ができてね」
こうしてコーヒー飲んでられるわけだ、 とイゾウは手元のカップに唇を当てた。
マルコもたしかサッチんとこと契約してるって言ってたっけと思い 起こしながら、アンはふうんと相槌を打つ。
しかし実際のところ目の前にこんもりと積まれるように置かれた細 かい菓子類に気を取られていて、 アンにとってイゾウの回答は二の次である。
アンが目を離そうとしないそれらの物資はこの会社の各フロアから 送られてきたもので、 アンを捕まえておくには十分すぎるほどだった。
そんなアンの様子を特に気にするでもなく、 むしろ至極楽しげにイゾウは目の前でコロコロと変わる表情を見つ めていた。
「おおおおおこれは期間限定のプチシュー抹茶味…!!あ、 こっちはずっと食べたかったやつ…んぅ、うまい!」
「そりゃよかった」
「イゾウも、はい」
「おうサンキュ、」
アンが差し出してきたクッキーを受け取れば、 そばかすの散った頬がきゅっと動いてその顔がにしゃりと笑う。
それにイゾウが笑い返したが、 アンはオレンジジュースをすすっていて既にもう見ていない。
仕方がないのでイゾウはクッキーの包みを開けた。
一方サッチはソファの背もたれにだらりと両腕を乗せ、 首も後ろ側へかっくりと折れている。
いたわりのつもりでアンがビスケットをサッチの口元へ持っていけ ば、 サッチは餌付けられるように口を開くのでそれを放り込んでやる。
だらしなく四肢を伸ばしたまましゃくしゃくと咀嚼する音だけが隣 から聞こえてくる様はいつものサッチとはかけ離れていて、 悪いと思いつつアンはふはっと笑ってしまった。
*
「アン、お前さん歳は」
「21」
「へぇ…」
アンの答えに対しイゾウが楽しげに口角を上げると、 サッチが蒼い顔を起こしてイゾウをいさめるように睨んだ。
「…イゾウ。だからお前その目ヤメロって」
獲物見つけた獣じゃねェんだから、 とサッチはこめかみを押さえる。
エモノ?と首をかしげるアンにイゾウは人のいい笑みを見せて、 胸にかかった髪を後ろに払った。
「アンはOLなんだって?」
「うん、何で知ってんの?」
アンの当然な問いかけは綺麗に流して、 イゾウはいまだ笑顔のまま呟いた。
「勿体ねぇなあ、こんな別嬪堅気に放っておくったぁ」
「堅気っておま、」
違ぇだろうがと突っ込むサッチを傍らに、 アンはますます首をかしげた。
「何の話?」
イゾウはすっとなめらかな動作でアンの顔に腕を伸ばし、 その口元についたクッキーの欠片を指先で取ってやった。
「アン、オレァ写真を扱うモンでね」
「写真?…カメラマン!?」
すごい!かっこいい! と声を上げるアンににっこり笑い返したイゾウは、 ちょいと失礼とばかりに煙草を取り出し火をつけた。
「オレァ物書きからこっちの世界に転がりこんだ野郎だからな、 物書きで食ってるお前さんとこのマルコとも面識あるってわけだ。
それにあれだ…あいつも、一度オレが撮ったことがあんだぜ」
「マルコ!?え、なんで!?」
どうしよう笑える。
「イゾウ… それじゃまるでマルコがモデルやってたみてぇに聞こえんだろ… アンちゃん、あれだよ、雑誌のインタビューがあってさ」
こっから上が載ったってだけよ、 とサッチは胸のあたりに片手を水平にかざして見せた。
「インタビュー?」
「あれぁ…マルコの記事がちぃと話題んなった時じゃねぇか。 おう、そういやサッチ、 その雑誌お前さんのとこじゃなかったかい。ねぇのか今」
「あるの!?みたいみたい!!」
「んー…相当前だぜ、あるかなバックナンバー」
ちょいと待ってろとサッチはだらけきっていた体を起こし、 フロアの隅でパクリと口を開いている小部屋へと入っていった。
さっきまでもう動かんと言うように沈んでいたサッチの体が今はき びきび動くのは、 腐れ縁野郎のしかめっ面の想像に拍車がかかるからか。
当人に知られりゃしばかれっだろなあと思いつつ、 楽しいのだから仕方がない。
数分後、 サッチは一冊の雑誌を手にアンとイゾウの座るソファへ戻ってきた 。
「これよこれ」
サッチが開いたそのページの上に、三つの影が落ちる。
ページの右上にはマルコの名と、少し質の粗い写真。
そこに陣取るのは、予想通りの見慣れた顔。
「うわっ!マルコ若い!」
「今から…15年くらいか?」
「でもすっごい機嫌悪そう」
眉間のしわは今と一緒だとアンが笑った通り、 その写真のマルコの額には見慣れた皺が1,2本。
「オレも若かったからなぁー…」
インタビューの顔写真といえど上手いことこいつを引っ張れねぇで 、と懐かしげに呟くイゾウの声を耳にして、 アンは思わずイゾウの顔をまじまじと見つめてしまった。
口ぶりだけはやけに古っぽいというか江戸っぽいというか… なのに、見た目はモデルと見紛うような美しさ。
マルコやサッチより年下だと思っていた。
そうか、 マルコの15年前ということはイゾウの15年前なんだから二人の 歳はそう変わんないのか、とアンはひとり納得した。
あ、でも、
「15年前かぁ…あたしまだ6歳だよ」
変なの、とアンが笑ったその瞬間、 目の前のイゾウはぱちくりと目を見開いた。
そして隣のサッチはもたげていた頭を起こし、6歳… と掠れた声で呟く。
「?」
「…こりゃあ立派な犯罪者だな、あいつも」
「? だれが?なにが?」
「・・・ろくさい・・・」
可笑しげに目を細めたイゾウとは対極的に、 サッチは再びばふんっとソファへ頭を沈めた。
「ちっちぇぇアン、見てみてぇなぁ」
「えぇ、やだあ」
間違いなくクソガキだもんとけらけら笑うと、 イゾウもははっと声を上げた。
「あ、アンちゃん、マルコにはコレ、内緒な?」
サッチがだらけった腕を伸ばして指さすのは渦中の雑誌で、 しぃっと口元に人差し指を当てるふりをするのでアンも同じように して頷いた。
「わかった!」
にししっと肩を揺らして笑う隣の女の子を目の端に移して、 信用ならねェなぁとサッチが苦笑を漏らしたそのとき、 若い声が遠くから飛び込んできた。
「サッチさーん!ここ1ページ余るんすけどー!」
呼ばれた当人サッチはその声の主を振り向き、 ひらりと手を振った。
「おーおー、今いくってんだよ」
まったくオレッチ引っ張りだこで困っちゃう、 とサッチはため息とともにゆっくり重い腰を上げた。
しかしその顔には疲ればかりではなくて、 仕方ないとでもいうような苦笑も乗っている。
「ごめんなアンちゃん、ちょいと行くわ」
「あ、うん、こっちこそごめん、もうすぐ帰…」
「それは駄目。こんなに早く帰っちまったらつまんねぇじゃん」
オレが。
という心情は含めずにそう言えば、アンはほっと顔を綻ばせた。
自宅の隣でマルコが苛立たしげに机を叩いていることなどすっかり 忘れて、あたしもほんとはもう少しここにいたいんだと、 にっと歯を見せて笑った。
さあ1ページどうしよっかなーと呟きながら、 雑然としたデスクに戻っていくサッチのよれたシャツの背中を見送 っていれば、アン、と低く通る声が耳に滑り込んだ。
「携帯、光ってんぞ」
そういってイゾウが指差すのはアンのちょうどお腹のあたり、 ジーンズのオーバーオールの膨らんだ前ポケット。
黄色い光がピコピコと漏れていた。
「あ、ほんと」
「マルコか?」
「たぶん」
ぱかりとそれを開けば、 ただの文字のはずがどこか物々しさすら感じさせる、「早く帰れ」 の一言が。
「どうせ早く帰ってこいとかそんなんだろ」
「…うんビンゴ」
ははっと乾いた笑いを零すアンを眺めながら最後の一口をすすった イゾウは、なぁアンと口を開いた。
「今日昼から用あるか?」
「うん?用?もうないよ」
そりゃいいとイゾウが口端を上げる一方で、アンは話が読めず、 んっ?と首をかしげる。
「じゃあ腹のほうはどうだ、すいてっか」
「あー…そう言えば。あ、でもほら、お菓子食べたし」
もう帰るだけだからがんばれる!と笑顔付きで返答すれば、 そうかとイゾウは満足げに頷いた。
「よしじゃあちぃとばかし待ってな」
「? どっか行くの?」
「いいもん持ってきてやっから、いい子で待ってな」
すぐ戻る、と踵を返したイゾウは、 長い脚を持て余すように歩いていきアンの視界から消えた。
なんのこっちゃとアンがひとりつくねんと座っていたのはものの2 ,3分で、イゾウは言葉の通りすぐに戻ってきた。
「ほらよ」
ぽいと膝の上に置かれた紙のボックスに、アンは目を奪われた。
「…これ!駅前の開店同時に並ばないと買えないドーナツ!! しかもこんなにいっぱい!」
なになになんでどうして、と食いつくアンに、 イゾウは紫煙を吐き出しながらにぃと笑って見せた。
「昼飯代わりになるかはしんねぇが、 アンくらいの女ってのぁこういうのが好きじゃあなかったかい」
「すき!だいすき!」
食べていいの!? と既にぱかりとふたを開けたボックスを抱え込んだアンにイゾウが 頷きかけると、すぐさまいただきます! と威勢のいい声が飛んできた。
「うーまーいー!!」
最高!ドーナツ最高!イゾウ最高!
感動のあまり目の端に涙を浮かべながら手の中のそれを味わってい れば、何がおかしかったのか突然イゾウが噴き出した。
あっはっはとこれも見目に似合わない豪快な笑い方である。
「あー、やっぱアン、お前さん最高だわ」
「?」
なにがと問いかけたアンの声を遮ったのは、 甲高い女性の声だった。
声のほうを振り向けば、Tシャツにジーパンと言ったラフな姿の、 しかしきれいな女性が慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「ちょ、イゾウさん! モデル一人足んないって今バタバタしてんのに、 何やってんですか!?」
「あぁ?だから口説いてる」
さらりと返答したイゾウは、 呆気にとられている女性からアンに視線を戻した。
しごとのはなしか、 たいへんだなあと呑気にドーナツを頬張っていたアンが最後の一口 を口の中に放り込んで、 丁寧に指についた粉砂糖を舐めとるまで見届けたイゾウは、 常に絶やさないゆるい笑みのまま口を開いた。
「アン、お前さんモデルんなってくれやしないか」
ちゅぱっ、と景気のいい音が辺りに響いた。
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