OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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外出した分の仕事をする、とマルコは言ったがその前に死ぬほど腹が減ったと言いだした。
お前らのお陰で仕事が進まなかった、とは元凶が自分なので口にはしない。
その位の分別はあるマルコだが、昼前から物理的に何も口にしていないのは確かなので、
空腹を訴えるのは至極当然とも言えた。
「・・・あー、でもあたしもなんかお腹空いて・・・あぁっ!!!」
「何だよぃ」
「サッチのとこに、お土産のごはんと、明日焼けばいいだけの肉と、あとなんか色々あったのに」
忘れて来た、とアンはぺしょんと床に座ったままこの世の終わりのような声を出して、うううと涙まで浮かべ出している。
あの時はそれどころじゃ無かったし、とウダウダ床に崩れていくアンを見ながら、
それでも菓子の袋は忘れなかったじゃねぇか、とマルコは内心で突っ込んだが、それも言わないでおく。
「とりあえずサッチに残しといてって電話しよっと・・・」
よいしょ、と体を起こしたアンは携帯携帯、とポケットを探り、
昼間アパートの階段を下りて以来、久々に電源を入れた。
履歴から折りかえそうと思い、画面を切り替えて馴染んだ三文字のカタカナの洪水にうげ、とちょっと引く。
掛け過ぎだろ、と内心で突っ込んで目の前の男の顔を見るが、何の変化も見られない。
この涼しい顔をしたマルコに、相当気を揉ませたのかと思えば、
一応の関係修正が済んだ現在ではちょっと嬉しいような気もする。
「何にやにや笑ってんだよぃ」
「・・・何でも無い」
へへ、とアンは誤魔化してサッチに電話をかけた。
**
「もしもし?」
『おー!アンちゃん、どうよ?マルコの野郎から仕事干して欲しくなったか?』
「うぅん、それはまた今度でいいや」
ぶはっとサッチが吹き出す音が受話器の向こうから聞こえる。
まだこの先その可能性があるというということだ。
なんて楽しいお嬢さん!とサッチはいつもの調子を取り戻したアンに、よかったな、とだけ言った。
「うん、サッチのお陰」
ありがと、とアンは照れたように言って、えぇと、と肉とご飯の行方についてを伝えようとする。
『あ、そうだ、いろいろ仕込んでた飯、どうする?届けてやろっか?』
「え、あ、いいよ、悪いって」
『にゃにおぅ!?俺がアンちゃんの為に作ったスペッシャルな料理を無駄にしろってか!?』
「い、いやそうじゃなくって、また明日とかでもよかったら取りにッ?!」
突如サッチの耳には、ガサッとかうわ、とかマルコ!とかの声が響き、
おーい、とサッチが呼びかけた瞬間に受話器から聞こえて来たのは大変大変嬉しくないハイパー低音ボイス。
「お前ェんとこの原稿上げた。持ってくついでに飯食わせろ」
うーわー、どうよこの傍若無人な唯我独尊オッサン。
背後でアンちゃんが、携帯返せ!と叫んでいるのが聞こえるので、
恐らくアンちゃんはぴょこたんぴょこたんとマルコに飛びついているに違いない。
『・・・ウチには失礼なオッサンに食わす食事はありません!』
そう言いながらサッチはこの台詞には何の効力もないのだとわかっている。
クソッタレ!
「も、もしもしサッチ?ごめんね、いいよ、マルコの言うこと気にしないで」
息が切れているのは携帯をようやく奪還できたかららしい。
『あー、大丈夫よ、来てくれる方がいろいろ詰めたりする手間省けるし、』
だいじょーぶ!キッチンでは俺が法律なので、あんまりマルコが酷かったらお湯しかだしません、
と続けたサッチにアンはふはっと笑った。
やっぱりサッチのこういう変に気を使わせない優しいところがとても好きだ。
「ありがと、サッチ大好き」
『おお、俺も・・・?!』
ブチッ・・・ツーツーツー
この街中で突然電波状況が悪くなるわけもないが、
アンの傍には人為的な要因が眉間にしわを寄せているはずなので、
サッチはどんだけー、と苦笑するしかない。
この歳で、ドツボにハマった野郎を見られるとは・・・・いや正確には今のは見えてないけれども、
見えなくても想像出来過ぎるのでもはや見えていると言わせていただきたい。
そいじゃ、あと20分で何人前を準備しましょうかね、とサッチは携帯をパチンと閉じて、
今度はジーンズの尻ポケットにそれを突っ込むと、
とりあえず野郎の嫌がらせから仕込むか、と包丁を動かし始めた。
**
アパートを出れば先ほどまでの雨は霧雨程度に収まっていた。
話してる途中で勝手に切るとか信じらんねェ!と憤慨するアンを助手席に放りこんで、
マルコはエンジンを回す。
本来であれば仕事も押しているのに再び時間をかけてヤツの家へ出向くなど、したくもないのだが、
アンへの詫びやら懺悔やら、そういう諸々の意味でマルコは現在ハンドルを握っている。
その位アンのサッチ料理への未練は見ていて哀れだったのだ。
まぁ、自身の空腹も満たす必要はあるので、
どちらにしても出かけなければならなかったわけだから、マルコに取ってもまったく不本意と言うわけでもない。
ただ一点、マルコは嫌な展開に予測がついていて、
その元凶となるべくのアンの服の一部に嘆息をする。
サッチにも見せる、とアンは引っ越し先の物件情報を丁寧に折りたたんでポケットに入れていて、
恐らく向こうに着くなりそれをサッチへ披露する筈だ。
別に引っ越すこと自体はサッチに隠す話でもない。
大体便乗して嫌がらせを散々してきている時点で隠すどうこうのモンでもなくなっている。
問題は、アンが選んだ物件だ。
女編集者とサッチとは裏で繋がってるんじゃないのか、とマルコはそれを見た時に唸ったのだが、
結局客観的な条件もろもろで最後まで候補に残さざるを得なかった。
そして何の因果か、アンが選んだのはその曰く付きの方。
マルコにはアンが何故それを選んだのか、本人は気づいていないだろうが何となく察しはついている。
そんな事を考えながら車を走らせれば、あっというまにサッチの住むマンションが見えてきてしまった。
**
さっきはサッチと一緒だったので押さずに済んだチャイムをアンが押すと、
どーぞ、と返って来たので二人は揃って上がり込む。
鍵は開いていた。
「鍵持ってねェお前がそのまま出てくとかホント最低」
キッチンカウンターの向こうで缶ビールを煽っていたサッチは、
迎えに出るでもなくマルコの顔を見るなり悪態をついた。
「別にすぐその辺に居たんだろぃ」
「そういう問題じゃねぇ!」
ったく、と煽ったビール缶はどうやら空になったようで、サッチはそれをキッチンにコンッとぶつけて置く。
何かいろいろ悪かったなぁ・・・とアンはサッチに何と声をかけようか悩み、素直にこれかな、と思いついた事を言った。
「ただいま、サッチ」
何となく照れ臭くて、アンは頬の辺りを掻きながらサッチに告げる。
「あー、もうアンちゃんはいいの。いつでもウェルカム!てかただいまっていいな」
もっかい言って、と笑うサッチの顔にアンはもう一度笑ってただいまと言った。
「ああああすげぇ幸せ」
「煩ェ、サッチ飯よこせ」
「・・・っとにお前はよぉ!!」
これでも食ってろ!とサッチはマルコがさっさと座ったダイニングテーブルの前にどかんと器を置いた。
「・・・パイナップル?」
いきなりデザートとは一体、と思いつつ、アンもひょいとつまんだ。
うん、甘くて美味い。
「マルコ食べないの?」
「・・・・・飯にゃ不向きだろぃ」
んじゃお前ェは湯でも飲んでろ!とサッチは本当にマルコの目の前に湯を出すと、
悪態をつきつつ、それでも何かしらの料理を出すために再びカウンター向こうへ回り込んだのだった。
*
ひと心地つきました、とアンはパチンと両手を合わせてごちそうさまでしたと空にした皿たちへ頭を下げる。
散々食べたのだが、気持ちを塞いでいた物が何もなくなった状態で味わうサッチの料理は別腹だ。
サッチ天才、最高、大好き、を連呼し、サッチの顔を大変だらしなくさせると同時に曇りゆくマルコの顔には気づいていない。
アンの正面にはサッチ、そして横にはマルコが居るので視界の端には入っているはずなのだが。
それどころか、マルコもサッチにちゃんと礼言え、とビシッと顔を指さして命令を下す始末だ。
アンの前にはビール缶がいくつも転がり、サッチの前もそれは同じ。
この後運転をせねばならないマルコは当然飲めないので、酔い行く馬鹿二人を目の前にせざるを得ない状況だった。
とはいえ、サッチはこの程度で酔うわけもないので、酔っ払いなのはアンだけだが。
「あ、そーだ、忘れてた、サッチサッチ」
「んー?」
「あのね、あたしね、引っ越す・・・んだ・・よね?」
「・・・・・・・いや、俺に聞かれてもね」
まだ状況がよく呑みこめていないと言った風のアンは、サッチに嬉しそうに報告する途中で迷子、という謎の行動に出て、
隣の男を大変げんなりさせている。
「何でそいつに確認すんだよぃ」
するならこっちだろうが、と言ったマルコはアンの脳天を掴んでグキッと自らの方を無理やり向かせて『アホ』と口を動かした。
「アホゆーな!」
「じゃ馬鹿でもいいよぃ」
うがー!と脳天を掴まれたままジタバタ暴れる様子を見せつけられては、
今度はサッチの方がげんなりし始めてしまう。
「まぁまぁ、そっかよかったじゃん」
「う、うん、・・・でもサッチびっくりしないんだね」
掴まれていた頭が離されたので、アンはぷるぷると頭を振ると、
もしかしてマルコが先に話してたの?とマルコの顔とサッチとを行き来して、
知らなかったのはあたしだけかと沈みかけた。
おっと、それは大変な濡れ衣ですことよ、とサッチは慌てて全力の否定を返す。
「いやいやいやいや、違う違う、言ったでしょ?アンちゃんが全部話したらちゃんと解決するって」
「・・・うん」
「マルコなら、そんくらいの解決法用意するだろうって予測してただけよ」
「そなの?」
「その割にゃ、気合入った嫌がらせ仕込みしてくれたじゃねぇかよぃ」
「お前、飯食っといて作った人間落とすとかいい根性してるよなぁ」
うるせェ、いやお前が煩ェ、と言い合いだしたオッサン二人をアンはよくわかんない、と眺めつつ、
まぁいいや、と放置した。
「んでね、ココなんだよ」
よいしょ、とアンはポケットからちょっとよれた紙きれをとり出すと、
テーブルの上の皿を端に寄せつつ四つ折の皺を一度伸ばす様にしてサッチに手渡した。
「お、どれどれ・・・・」
へぇ・・・・・・・・・・・
十文字に折れ痕の付いた不動産情報を受け取ったきり、サッチはパチクリと目を瞬いて固まっていた。
「あーらまー・・・・」
これは、アレか、何と言う面白い展開!と万歳しておくべきか?
サッチの横に寄って来たアンは、そんなサッチの様子には全く気付かず、
缶ビールと共に横から覗きこみつつえへへー、と笑っている。
「ここが飯食うとこでー、ここはテレビで―、あとこれはあたしが寝るとこでー、こっちはマルコの寝るとこでー」
ありゃ、マルコの仕事部屋が足りない、とアンはおっかしいなーとけらけら笑っている。
いやそれは寝る場所一緒にするから問題ないんじゃね?とサッチは喉まで出かかって、
そしてずっと黙ったまま、非常に面白くない表情をしている斜向かいのマルコを見やる。
もはや湧き上がるにやけた笑いを止められなかった。
*
「アンちゃん、あれだな、ここ、俺んとことちょっと間取り似てんだな」
「お?・・・おぉ・・・?」
アンは紙の上の間取り図と、実際のサッチの部屋を何度も見比べて、
くるくると位置関係の確認をしている。
「ホントだ!」
あ、そっかー、だからマルコにどっちって聞かれた時、なんかこっちの方がいいなって思ったのか、
うんうん納得、とアンは非常に嬉しそうに頷いて、それをそのままマルコにももう一度話している。
机を挟んだ斜め向かいに、マルコは憮然と座ったままなのだから、
別にアンがもう一度話さなくとも充分伝わるのだが、
まぁ酔っ払いのすることに道理は通じないことの方が多い。
そしてマルコも案の定そうかよぃと適当に流した返事をしていた。
「んでよ、アンちゃん」
「んー?」
「住所見た?そこの」
「うん、でもよくわかんなかった」
「んじゃ、いい事教えちゃる」
きょとん、とますます不思議そうになったアンと、比例するように不機嫌顔になっていくマルコ。
その両者のコントラストをサッチは視界に入れながら、非常ににやけた顔のまま、
アンに取っておきの秘密を打ち明けるように言う。
「それ、ここの隣のマンションよ」
クックック、ともう我慢できませんと言った風でサッチはアンの頭をくしゃくしゃにかき混ぜると、
斜め向かいの男に向って、ザマ―ミロと言い放ったのだった。
**
同系列のタイプのマンションで、多分ここよりはちょっとだけ広いっぽいけどな、と付け加えたサッチの情報に、
アンは盛大に驚いて、そしてマルコをゆさゆさと揺すりながら、知ってた?を繰り返していた。
知ってたから嫌だったんだ、と口にはしないながらマルコは表情で応えているのだが、
酔っ払い娘にそれを察する力はもはやない。
すごい!じゃぁじゃぁ、サッチとご近所さんになるの?!
それは何て楽しい生活だ!とアンはやったやった、とダイニングを跳ねまわり、
最終目的気をソファーに決めたらしく、ぼすん、とそこへ着地した。
そして、興奮と跳ねた所為でアルコールが回ったのだろう、
30秒もしない内にコテン、とアンは眠りに落ちると言うもはや何たる酔っ払いぶり。
「心配事無くなったとたんに、こんな顔で寝ちゃってまぁ」
素直すぎてオッサンには眩しい!そう言いつつサッチは呑み残しのビールを煽っている。
テーブルからの二人の視線は交差することなくアンの小さく丸まった姿に注がれて、
そしてその視線のままサッチは言った。
「言っとくが、別に俺は何の工作もしてねぇかんな」
一応ライバル会社の同業、なお且つあのタイプの女は敵にするとやっかいだし、
下手にこちらの情報を与えるのも面倒故、サッチだって避けて通れるなら通りたい相手なのだ。
「裏がありゃ最初っからアンに選ばす候補から意地でも外してるよぃ」
ひょいと肩をすくめたサッチは、そらそーか、と呟く。
「俺としちゃ、うちのマンションの空き部屋物件選ぶっつーミラクル展開でもよかったんだけどなー」
ハァ、とマルコはそれを聞き、見ないままゴミ箱に突っ込んだサッチの封筒の中身が予想通りだったことを悟った。
それを機に、マルコはポケットからUSBメモリをとり出すとサッチの前へトン、と置く。
そして立ち上がりながら邪魔したよぃ、とだけ言った。
ソファーで絶賛!夢の中ツアーをしているアンを起こすわけでもなく、そのままひょいと横抱きに抱える。
「どーっせこれから明日まで缶詰めなんだから、その可愛いお嬢さん置いてってくれても別にいいのよ?」
もちろん冗談に決まっている。
忙しかろうが構ってもらえなかろうが、アンはマルコの隣が好きなのだろうし、
今だって無意識にマルコにきゅぅとくっついてますます気持ちよさそうに眠っているのだから。
「・・・・テメェとしょっちゅう顔合わすのは、後しばらく先でいいよぃ」
諦めた、と言った風のマルコは、それでもリビングのドアと玄関ドアを塞がった両手の代わりに開けてくれたサッチに
目線一つで礼らしきものを返すと、そのままスタスタと去っていった。
サッチに残されたのは、空き缶と空の皿で溢れかえったキッチンテーブル。
そして冷蔵庫にマグネットで留めてあるレシート。
ピッと取り裏返せば、アンの字が並んでいる。
マルコが見つけていたら処分確実だ、とサッチは苦笑しながら肩をすくめ、それを再びマグネットでそこに留め直す。
ただし今度は裏面が見えるようにして。
ご近所さんになって、しょっちゅうここへ出入りをされるまで、
しばらく貼らせてもらうのも悪くない。
― 『サッチ、ありがと、また来るね』
ハナノリさんのあとがき
お前らのお陰で仕事が進まなかった、とは元凶が自分なので口にはしない。
その位の分別はあるマルコだが、昼前から物理的に何も口にしていないのは確かなので、
空腹を訴えるのは至極当然とも言えた。
「・・・あー、でもあたしもなんかお腹空いて・・・あぁっ!!!」
「何だよぃ」
「サッチのとこに、お土産のごはんと、明日焼けばいいだけの肉と、あとなんか色々あったのに」
忘れて来た、とアンはぺしょんと床に座ったままこの世の終わりのような声を出して、うううと涙まで浮かべ出している。
あの時はそれどころじゃ無かったし、とウダウダ床に崩れていくアンを見ながら、
それでも菓子の袋は忘れなかったじゃねぇか、とマルコは内心で突っ込んだが、それも言わないでおく。
「とりあえずサッチに残しといてって電話しよっと・・・」
よいしょ、と体を起こしたアンは携帯携帯、とポケットを探り、
昼間アパートの階段を下りて以来、久々に電源を入れた。
履歴から折りかえそうと思い、画面を切り替えて馴染んだ三文字のカタカナの洪水にうげ、とちょっと引く。
掛け過ぎだろ、と内心で突っ込んで目の前の男の顔を見るが、何の変化も見られない。
この涼しい顔をしたマルコに、相当気を揉ませたのかと思えば、
一応の関係修正が済んだ現在ではちょっと嬉しいような気もする。
「何にやにや笑ってんだよぃ」
「・・・何でも無い」
へへ、とアンは誤魔化してサッチに電話をかけた。
**
「もしもし?」
『おー!アンちゃん、どうよ?マルコの野郎から仕事干して欲しくなったか?』
「うぅん、それはまた今度でいいや」
ぶはっとサッチが吹き出す音が受話器の向こうから聞こえる。
まだこの先その可能性があるというということだ。
なんて楽しいお嬢さん!とサッチはいつもの調子を取り戻したアンに、よかったな、とだけ言った。
「うん、サッチのお陰」
ありがと、とアンは照れたように言って、えぇと、と肉とご飯の行方についてを伝えようとする。
『あ、そうだ、いろいろ仕込んでた飯、どうする?届けてやろっか?』
「え、あ、いいよ、悪いって」
『にゃにおぅ!?俺がアンちゃんの為に作ったスペッシャルな料理を無駄にしろってか!?』
「い、いやそうじゃなくって、また明日とかでもよかったら取りにッ?!」
突如サッチの耳には、ガサッとかうわ、とかマルコ!とかの声が響き、
おーい、とサッチが呼びかけた瞬間に受話器から聞こえて来たのは大変大変嬉しくないハイパー低音ボイス。
「お前ェんとこの原稿上げた。持ってくついでに飯食わせろ」
うーわー、どうよこの傍若無人な唯我独尊オッサン。
背後でアンちゃんが、携帯返せ!と叫んでいるのが聞こえるので、
恐らくアンちゃんはぴょこたんぴょこたんとマルコに飛びついているに違いない。
『・・・ウチには失礼なオッサンに食わす食事はありません!』
そう言いながらサッチはこの台詞には何の効力もないのだとわかっている。
クソッタレ!
「も、もしもしサッチ?ごめんね、いいよ、マルコの言うこと気にしないで」
息が切れているのは携帯をようやく奪還できたかららしい。
『あー、大丈夫よ、来てくれる方がいろいろ詰めたりする手間省けるし、』
だいじょーぶ!キッチンでは俺が法律なので、あんまりマルコが酷かったらお湯しかだしません、
と続けたサッチにアンはふはっと笑った。
やっぱりサッチのこういう変に気を使わせない優しいところがとても好きだ。
「ありがと、サッチ大好き」
『おお、俺も・・・?!』
ブチッ・・・ツーツーツー
この街中で突然電波状況が悪くなるわけもないが、
アンの傍には人為的な要因が眉間にしわを寄せているはずなので、
サッチはどんだけー、と苦笑するしかない。
この歳で、ドツボにハマった野郎を見られるとは・・・・いや正確には今のは見えてないけれども、
見えなくても想像出来過ぎるのでもはや見えていると言わせていただきたい。
そいじゃ、あと20分で何人前を準備しましょうかね、とサッチは携帯をパチンと閉じて、
今度はジーンズの尻ポケットにそれを突っ込むと、
とりあえず野郎の嫌がらせから仕込むか、と包丁を動かし始めた。
**
アパートを出れば先ほどまでの雨は霧雨程度に収まっていた。
話してる途中で勝手に切るとか信じらんねェ!と憤慨するアンを助手席に放りこんで、
マルコはエンジンを回す。
本来であれば仕事も押しているのに再び時間をかけてヤツの家へ出向くなど、したくもないのだが、
アンへの詫びやら懺悔やら、そういう諸々の意味でマルコは現在ハンドルを握っている。
その位アンのサッチ料理への未練は見ていて哀れだったのだ。
まぁ、自身の空腹も満たす必要はあるので、
どちらにしても出かけなければならなかったわけだから、マルコに取ってもまったく不本意と言うわけでもない。
ただ一点、マルコは嫌な展開に予測がついていて、
その元凶となるべくのアンの服の一部に嘆息をする。
サッチにも見せる、とアンは引っ越し先の物件情報を丁寧に折りたたんでポケットに入れていて、
恐らく向こうに着くなりそれをサッチへ披露する筈だ。
別に引っ越すこと自体はサッチに隠す話でもない。
大体便乗して嫌がらせを散々してきている時点で隠すどうこうのモンでもなくなっている。
問題は、アンが選んだ物件だ。
女編集者とサッチとは裏で繋がってるんじゃないのか、とマルコはそれを見た時に唸ったのだが、
結局客観的な条件もろもろで最後まで候補に残さざるを得なかった。
そして何の因果か、アンが選んだのはその曰く付きの方。
マルコにはアンが何故それを選んだのか、本人は気づいていないだろうが何となく察しはついている。
そんな事を考えながら車を走らせれば、あっというまにサッチの住むマンションが見えてきてしまった。
**
さっきはサッチと一緒だったので押さずに済んだチャイムをアンが押すと、
どーぞ、と返って来たので二人は揃って上がり込む。
鍵は開いていた。
「鍵持ってねェお前がそのまま出てくとかホント最低」
キッチンカウンターの向こうで缶ビールを煽っていたサッチは、
迎えに出るでもなくマルコの顔を見るなり悪態をついた。
「別にすぐその辺に居たんだろぃ」
「そういう問題じゃねぇ!」
ったく、と煽ったビール缶はどうやら空になったようで、サッチはそれをキッチンにコンッとぶつけて置く。
何かいろいろ悪かったなぁ・・・とアンはサッチに何と声をかけようか悩み、素直にこれかな、と思いついた事を言った。
「ただいま、サッチ」
何となく照れ臭くて、アンは頬の辺りを掻きながらサッチに告げる。
「あー、もうアンちゃんはいいの。いつでもウェルカム!てかただいまっていいな」
もっかい言って、と笑うサッチの顔にアンはもう一度笑ってただいまと言った。
「ああああすげぇ幸せ」
「煩ェ、サッチ飯よこせ」
「・・・っとにお前はよぉ!!」
これでも食ってろ!とサッチはマルコがさっさと座ったダイニングテーブルの前にどかんと器を置いた。
「・・・パイナップル?」
いきなりデザートとは一体、と思いつつ、アンもひょいとつまんだ。
うん、甘くて美味い。
「マルコ食べないの?」
「・・・・・飯にゃ不向きだろぃ」
んじゃお前ェは湯でも飲んでろ!とサッチは本当にマルコの目の前に湯を出すと、
悪態をつきつつ、それでも何かしらの料理を出すために再びカウンター向こうへ回り込んだのだった。
*
ひと心地つきました、とアンはパチンと両手を合わせてごちそうさまでしたと空にした皿たちへ頭を下げる。
散々食べたのだが、気持ちを塞いでいた物が何もなくなった状態で味わうサッチの料理は別腹だ。
サッチ天才、最高、大好き、を連呼し、サッチの顔を大変だらしなくさせると同時に曇りゆくマルコの顔には気づいていない。
アンの正面にはサッチ、そして横にはマルコが居るので視界の端には入っているはずなのだが。
それどころか、マルコもサッチにちゃんと礼言え、とビシッと顔を指さして命令を下す始末だ。
アンの前にはビール缶がいくつも転がり、サッチの前もそれは同じ。
この後運転をせねばならないマルコは当然飲めないので、酔い行く馬鹿二人を目の前にせざるを得ない状況だった。
とはいえ、サッチはこの程度で酔うわけもないので、酔っ払いなのはアンだけだが。
「あ、そーだ、忘れてた、サッチサッチ」
「んー?」
「あのね、あたしね、引っ越す・・・んだ・・よね?」
「・・・・・・・いや、俺に聞かれてもね」
まだ状況がよく呑みこめていないと言った風のアンは、サッチに嬉しそうに報告する途中で迷子、という謎の行動に出て、
隣の男を大変げんなりさせている。
「何でそいつに確認すんだよぃ」
するならこっちだろうが、と言ったマルコはアンの脳天を掴んでグキッと自らの方を無理やり向かせて『アホ』と口を動かした。
「アホゆーな!」
「じゃ馬鹿でもいいよぃ」
うがー!と脳天を掴まれたままジタバタ暴れる様子を見せつけられては、
今度はサッチの方がげんなりし始めてしまう。
「まぁまぁ、そっかよかったじゃん」
「う、うん、・・・でもサッチびっくりしないんだね」
掴まれていた頭が離されたので、アンはぷるぷると頭を振ると、
もしかしてマルコが先に話してたの?とマルコの顔とサッチとを行き来して、
知らなかったのはあたしだけかと沈みかけた。
おっと、それは大変な濡れ衣ですことよ、とサッチは慌てて全力の否定を返す。
「いやいやいやいや、違う違う、言ったでしょ?アンちゃんが全部話したらちゃんと解決するって」
「・・・うん」
「マルコなら、そんくらいの解決法用意するだろうって予測してただけよ」
「そなの?」
「その割にゃ、気合入った嫌がらせ仕込みしてくれたじゃねぇかよぃ」
「お前、飯食っといて作った人間落とすとかいい根性してるよなぁ」
うるせェ、いやお前が煩ェ、と言い合いだしたオッサン二人をアンはよくわかんない、と眺めつつ、
まぁいいや、と放置した。
「んでね、ココなんだよ」
よいしょ、とアンはポケットからちょっとよれた紙きれをとり出すと、
テーブルの上の皿を端に寄せつつ四つ折の皺を一度伸ばす様にしてサッチに手渡した。
「お、どれどれ・・・・」
へぇ・・・・・・・・・・・
十文字に折れ痕の付いた不動産情報を受け取ったきり、サッチはパチクリと目を瞬いて固まっていた。
「あーらまー・・・・」
これは、アレか、何と言う面白い展開!と万歳しておくべきか?
サッチの横に寄って来たアンは、そんなサッチの様子には全く気付かず、
缶ビールと共に横から覗きこみつつえへへー、と笑っている。
「ここが飯食うとこでー、ここはテレビで―、あとこれはあたしが寝るとこでー、こっちはマルコの寝るとこでー」
ありゃ、マルコの仕事部屋が足りない、とアンはおっかしいなーとけらけら笑っている。
いやそれは寝る場所一緒にするから問題ないんじゃね?とサッチは喉まで出かかって、
そしてずっと黙ったまま、非常に面白くない表情をしている斜向かいのマルコを見やる。
もはや湧き上がるにやけた笑いを止められなかった。
*
「アンちゃん、あれだな、ここ、俺んとことちょっと間取り似てんだな」
「お?・・・おぉ・・・?」
アンは紙の上の間取り図と、実際のサッチの部屋を何度も見比べて、
くるくると位置関係の確認をしている。
「ホントだ!」
あ、そっかー、だからマルコにどっちって聞かれた時、なんかこっちの方がいいなって思ったのか、
うんうん納得、とアンは非常に嬉しそうに頷いて、それをそのままマルコにももう一度話している。
机を挟んだ斜め向かいに、マルコは憮然と座ったままなのだから、
別にアンがもう一度話さなくとも充分伝わるのだが、
まぁ酔っ払いのすることに道理は通じないことの方が多い。
そしてマルコも案の定そうかよぃと適当に流した返事をしていた。
「んでよ、アンちゃん」
「んー?」
「住所見た?そこの」
「うん、でもよくわかんなかった」
「んじゃ、いい事教えちゃる」
きょとん、とますます不思議そうになったアンと、比例するように不機嫌顔になっていくマルコ。
その両者のコントラストをサッチは視界に入れながら、非常ににやけた顔のまま、
アンに取っておきの秘密を打ち明けるように言う。
「それ、ここの隣のマンションよ」
クックック、ともう我慢できませんと言った風でサッチはアンの頭をくしゃくしゃにかき混ぜると、
斜め向かいの男に向って、ザマ―ミロと言い放ったのだった。
**
同系列のタイプのマンションで、多分ここよりはちょっとだけ広いっぽいけどな、と付け加えたサッチの情報に、
アンは盛大に驚いて、そしてマルコをゆさゆさと揺すりながら、知ってた?を繰り返していた。
知ってたから嫌だったんだ、と口にはしないながらマルコは表情で応えているのだが、
酔っ払い娘にそれを察する力はもはやない。
すごい!じゃぁじゃぁ、サッチとご近所さんになるの?!
それは何て楽しい生活だ!とアンはやったやった、とダイニングを跳ねまわり、
最終目的気をソファーに決めたらしく、ぼすん、とそこへ着地した。
そして、興奮と跳ねた所為でアルコールが回ったのだろう、
30秒もしない内にコテン、とアンは眠りに落ちると言うもはや何たる酔っ払いぶり。
「心配事無くなったとたんに、こんな顔で寝ちゃってまぁ」
素直すぎてオッサンには眩しい!そう言いつつサッチは呑み残しのビールを煽っている。
テーブルからの二人の視線は交差することなくアンの小さく丸まった姿に注がれて、
そしてその視線のままサッチは言った。
「言っとくが、別に俺は何の工作もしてねぇかんな」
一応ライバル会社の同業、なお且つあのタイプの女は敵にするとやっかいだし、
下手にこちらの情報を与えるのも面倒故、サッチだって避けて通れるなら通りたい相手なのだ。
「裏がありゃ最初っからアンに選ばす候補から意地でも外してるよぃ」
ひょいと肩をすくめたサッチは、そらそーか、と呟く。
「俺としちゃ、うちのマンションの空き部屋物件選ぶっつーミラクル展開でもよかったんだけどなー」
ハァ、とマルコはそれを聞き、見ないままゴミ箱に突っ込んだサッチの封筒の中身が予想通りだったことを悟った。
それを機に、マルコはポケットからUSBメモリをとり出すとサッチの前へトン、と置く。
そして立ち上がりながら邪魔したよぃ、とだけ言った。
ソファーで絶賛!夢の中ツアーをしているアンを起こすわけでもなく、そのままひょいと横抱きに抱える。
「どーっせこれから明日まで缶詰めなんだから、その可愛いお嬢さん置いてってくれても別にいいのよ?」
もちろん冗談に決まっている。
忙しかろうが構ってもらえなかろうが、アンはマルコの隣が好きなのだろうし、
今だって無意識にマルコにきゅぅとくっついてますます気持ちよさそうに眠っているのだから。
「・・・・テメェとしょっちゅう顔合わすのは、後しばらく先でいいよぃ」
諦めた、と言った風のマルコは、それでもリビングのドアと玄関ドアを塞がった両手の代わりに開けてくれたサッチに
目線一つで礼らしきものを返すと、そのままスタスタと去っていった。
サッチに残されたのは、空き缶と空の皿で溢れかえったキッチンテーブル。
そして冷蔵庫にマグネットで留めてあるレシート。
ピッと取り裏返せば、アンの字が並んでいる。
マルコが見つけていたら処分確実だ、とサッチは苦笑しながら肩をすくめ、それを再びマグネットでそこに留め直す。
ただし今度は裏面が見えるようにして。
ご近所さんになって、しょっちゅうここへ出入りをされるまで、
しばらく貼らせてもらうのも悪くない。
― 『サッチ、ありがと、また来るね』
ハナノリさんのあとがき
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