OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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長が目を細めてほほ笑んだサマに、アンの背筋に戦慄が走った。
「貴女様をここまでお連れして我らの儀式を始めるまで──邪魔が入るわけにはいきませんでしょう。
…寝酒にでもと、昨晩船長殿に渡した酒を覚えておいででしょうか」
寝酒…?
アンは記憶を巻き戻し、昨日の夜のことを思い浮かべた。
数人の島民が抱えた大きな酒樽。
それを船に積み込むクルーのすがた。
にやりと嬉しそうに笑った白ひげの顔。
まさかと、口にするのもおぞましかった。
真っ黒な憎悪が全身を駆け巡り、瞼の裏が真っ赤に染まる。
ジワッと、アンの手から流れる血の川に水量が増した。
力の入るすべての部位に満身の力を込めて、痛みを分散させ、張り付いた手のひらを力の限り上へと引っ張り上げた。
「…くぅ…っ…!」
ボタボタボタボタ、悲惨な戦いを思わせるほどの血が真っ白な台座に落ちて広がり湖面を造る。
しかし長がその様に目もくれないように、アンもそんなことはどうでもよかった。
──オヤジッ…!
薬を盛られた酒に誰が気付くだろうか。
今まさにアンがその薬に冒されている状況を誰も知らないというのに、誰がただの寄港地で手に入った酒をわざわざ疑うだろうか。
白ひげの健康診断が終わった。
白ひげまだ日も高いうちから酒を手放さないが、健康診断の日は昼間からの酒はナースによって取り上げられている。
だからこそ、きっと今日の晩酌を楽しみにしているはずだ。
そう考えると奥歯がぎりりと軋んだ。
もう日が沈む。
モビーでは夕食時だ。
オヤジが酒を飲んでしまう。
世界最強の男に効くはずがないと楽観視できる体でないのは、家族である誰もがわかっていた。
ただの痺れ薬でも、他の薬を処方されている身体に入れてどうなるかなど考えたくない。
焦燥がアンの身体を焦がした。
怒りは手の傷よりも熱い。
身動きの取れない腹立たしさで胸が爆発しそうだった。
息苦しい。
どす黒い感情で視界が歪むのはとても久しぶりだった。
そして歪んだ視界の向こう側で、一番大きな木が倒れてきた。
*
「誰でもいいから隊長呼んで来い。見たまんま伝えろい」
「…は、い」
「早く行け!!」
弾けるように踵を返した隊員の足元で土がはねた。
長の目配せによって数人の島民があとを追っていったが、マルコの脚に遅れながらもついてきた男だ、追いつくことはないだろうと放っておいた。
もしアンに何かあれば、むしろこの状況で何もないことなどありえないのだからすでに確定事項として、アンを持ち帰るついでにこの島もろとも沈めてやろうと思っていた。
しかしそのアンからマルコの耳に届いた言葉は「戻れ」。
耳を疑うというものを、初めて体験した。
内側で揺らめいていたマルコの炎も、戸惑いのせいでゆらっと横になびいた気がした。
アンから再びマルコたちの方へと振り返った老人は変わらぬ冷静な顔をしていたが、マルコはその下の表情が崩れたのを見逃さなかった。
「面倒なことに…しかしこのお方の仰せのとおり、早く貴様らの船に戻るがいい。あの大男が大事なら、今すぐに」
マルコはアンに視線を走らせた。
顔を歪めて、濡れた瞳でマルコを見つめ返している。
「──酒だ。酒に薬を混ぜた。貴様も早く船に戻れ」
今や長は焦りを隠そうともしていなかった。
船員の誰かがここへ行きついてしまうことはおそらく長の想像の範疇だったのだろう。
そのために、ここへ行きついた者を再び遠ざけるためにかけられた人質が、白ひげ。
長が苛立たしげに眉をひそめるのがマルコにも見て取れた。
長は、アンがマルコにとってただの同船員、仲間の一人として見ているだけではないと感づいている。
恐れている。
マルコが白ひげではなく、アンをまず助け出そうとすることを恐れていた。
しかしマルコは長のその考えを覗き見るようにわかったというのに、身体が動かなかった。
動かせなかった。
心臓が、コンマ1秒ほど動きを止めた。
かと思えば早鐘のように心音を打ち鳴らし始めた。
いつのことだっただろう。
随分前のことのように思う。
あの日だ、アンとの関係が変わってオヤジと話をした、あの日。
オヤジはアンを守ってやれと言った。
だがオレはなんと言った?
一番に守るべきはアンタだ。
オレは白ひげを何よりも優先する。
いつか、アンとオヤジを選ぶべき時が来たとしたら。
オレは迷うことなく、オヤジを選ぶ。
ついに来てしまった。
そのときが、アンとオヤジを秤にかける時が来たのだ。
あまりに惨い。
あのとき想像したこと、覚悟したことを今目の当たりにしてみれば、それは想像以上に胸をえぐった。
どうしてあのときもっと深刻に、リアルに考えなかったのだろう。
それを悔やむような精神をマルコは持ち合わせてはいないが、それでも考えずにはいられない。
家族を秤にかけること自体間違っていると、正論を吐かれたら返す言葉はない。
そんなものに言葉を返す気もないが、自然と付いた優先順位は覆らない。
オレたちの絶対は白ひげだ。
オヤジを愛している。
誰よりも、誰よりも、あの人が自分のすべてだと豪語できる。
──じゃあアンは──?
二人を秤にかけてオヤジの方に1ミリだろうが10センチだろうが重く下がったからと言って、あっさりと手放すことができるようなモノなのか──?
できるわけがない。
できるわけがないのに。
「──アン」
すぐに戻る。
すぐに戻るから。
「ちょっと待ってろよい」
ひく、とアンの頬が小さく動いておなじみの笑い皺を描いた。
──待ってるよマルコ。
ぶわりと上がった青の炎は一瞬のうちに空へと舞いあがり、燃える羽毛を散らしながら弾丸のように風を切った。
青い塊と化した鳥が1グラムの重さも持たないかのように飛んでいく。
しかし心は鉛よりも重たい。
堕ちてしまわないよう自分を律して、自制心のタカが外れてしまわないように律して、マルコは飛んだ。
「マルコ隊長!今2番隊の…」
「酒蔵ン中全部ひっくり返せ!!」
「は?」
「いいから酒蔵にある酒、昨日手に入れたモン全部海に捨てるんだよい!!
飲んじまった奴がいたら医務室で診察を受けろい!
医療班に連絡して薬の成分調べさせて、オヤジに報告だ!
オヤジの部屋にある酒も食い物も昨日のだろうとなんだろうと全部下げて捨てろい!」
帰ってきた2番隊員の騒ぎをなんだなんだと首を伸ばして聞いていたクルーたちが、ぱちくりと瞬いた。
そしてマルコがはぁっと荒く一息をついたその時にはもう、蜂の子を散らすようにクルーが動き始めた。
マルコの怒声を聞きつけた隊長たちが自らの部下に指示を飛ばし役を割り振る。
一瞬で統制がとられた船上は秩序ある戦場のように走り回る男たちであふれた。
マルコは自分の指示に従う隊員たちにすぐさま背を向け、甲板の端へと走った。
「オヤジ!」
「マルコ」
数人のナースに囲まれた白ひげは、騒がしくなった甲板を面白そうに見遣っているところだった。
白ひげの目の前に立って、マルコは告ぐ言葉もなく呼吸を繰り返した。
その目はまっすぐ白ひげの金の瞳を見上げている。
子供の頃に戻ったような気分だった。
自分のしたことが間違いだと言われるのが怖くて、早く誰かに、オヤジに「お前は間違ってなんかいやしない」と言われたくてすぐさまオヤジのもとへと走っていた。
それが大人になって、迷うことが許されなくなって考える余地も少なくなると、『思い込む』ことができるようになった。
「オレは正しい」んだと。
それが今はとてもじゃないができない。
頭は不安一色で、黙って白ひげを見上げるその心は父の言葉を心待ちにしていた。
──喋ってしまえば、そんなわけはないのに、泣いてしまいそうで。
白ひげは真摯な瞳でマルコを見下ろした。
「迷うな」
重たい言葉は重力に逆らわず、マルコの胸の内にすとんと落ちた。
マルコは俯いたまま黙って笑った。
やっぱり許しちゃくれねぇかよい。
そりゃそうか、オレはもうそんな歳じゃない。
「…行くよい」
「ああさっさと行けこのアホンダラ。アン死なせたら承知しねぇぞバカ息子」
「アイツァ殺したって死ぬもんか」
グララララ、と豪快な笑い声が船を揺らす。
ナースの一人がマルコたちのやりとりに呆れたように首を振った。
マルコが翼を広げ床を蹴ると、白ひげは思い出したようにマルコを呼び止めた。
「そういやアンのところにゃ、サッチが行ったぜ」
兄走る
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