OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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光る白浜が目に痛いほど白い。
サッチはその白を蹴散らしながら森の中へと頭を突っ込んで構わず駆けた。
──まったくうちのおバカちゃんは心配かける天才で、困っちゃうんだから。
口先では軽口を呟きながらも、頭の中は今後の算段でギュルギュル音を立てて回転していた。
困っちゃうどころではない。
胸は心労でつぶれそうだった。
眼前に村の入り口、そそり立つ二本のトーテムポールが見えてきた。
強面のその顔を横切って村に入ったが、誰もいない。
2番隊員がまくしたてていた通り、この先の神殿へ島民全員が頭を揃えているのだろう。
サッチは人のいない空間に一瞥をくれて、足を止めることなくそこを突き抜けた。
家畜は所在無げに柵の向こうでつくねんと座っていた。
島特産の豆畑は潮風にふわふわと揺れている。
木の壁とヤシの屋根で造られたいくつもの家たちが、帰らない主を待っていた。
それなのに、この村は生きてる匂いがしない。
この島の人間は誰一人海賊にゃあなれねぇなとひとりごちた。
村を抜けてすぐ、どこから異質な音が聞こえた。
弾けるような、荒々しい音。
サッチは足を速めた。
これは弾ける音じゃない。
火が爆ぜる音だ。
どうかそれがアンの炎であってほしいと願ったものの、見上げた木々の頭上から上がる火の粉を見てその願いはすぐに潰えた。
アンの炎は狙いを定めて打ち抜く弾丸だ。
アンに何かを燃やそうという意図がない限り、火の粉は上がらない。
先程からまぶたの裏でチロチロとうろつく映像を、予感を、サッチは走りながら振り払った。
帰ってきた妹が焦げているなんて、冗談じゃない。
火が爆ぜる音が近くなった。
と、急に視界が開けた。
まるで道を開拓したかのように、目の前の木が倒れているのだ。
開拓者であるマルコに心の中で礼を告げて、サッチは群衆の中に飛び込んだ。
飛びこまなくてもわかった。
広場の中心は炎で包まれていた。
「ア、」
火の粉が容赦なく降りかかる。
サッチはそれを振り払うのも忘れて、目の前の光景にほんの数秒見入った。
すっかり夜の帳が下りた空の下、赤い光が照らす広場の中心に向かって、あまたの人々が跪いている。
舌のようにチロリチロリと動く炎が空高く伸びていた。
「アン!!」
広場の人々が一斉に顔を上げた。
昨日見た、この島の長を名乗ったジジイが突然現れた無法者を指さして何かを叫ぶ。
サッチは飛びかかってきた男の顔面に拳を突き刺して、迷うことも忘れて、口を開けた真っ赤な炎の中に飛び込んだ。
一瞬にして周囲の雑音が消えた。
身体にまとわりついた炎は広場の中心を広範囲で燃やしているのかと思いきや、実際燃えているのはそのさらに中心に一つと、四隅だ。
それぞれの炎が大きすぎて、全体が燃えているように見えたのだ。
サッチは燃えていない足場を選び進んだが、地獄のような灼熱がちりちりと服を、肌を焼くことに変わりはない。
あまりの熱に髪をまとめていたワックスが溶けて、髪がほどけてきた。
「アン!くそ、アン!!」
襟元に結んだスカーフで喉に入り込もうとする炎と煙を防ぎ、くぐもった声でアンの名を呼ぶ。
大いに燃え盛っている中心は、真っ赤で何も見えやしない。
サッチは炎の中に手を突き入れた。
「…!!」
鮮烈な熱が腕と顔を焼く。
サッチの手に固い感触が触れた。
(石…!?)
炎の中心であり、火種であるはずのそれは燃えることのない石のようにつるりと固かった。
じゃあ火種はどこにと少し視線を落とすと、サッチは自分が燃えくずのようなものを踏んでいることに気付く。
おそらくこの石に敷き詰められた藁か枝か何かが火種だったのだろう。
そこまで推測して、サッチの意識はあらぬ方向へ飛んでいきかけた。
あまりの熱に息ができない。肌がただれていくのがわかる。
それでもだめだ、まだアンがいない。
飛びかけた意識を叱咤して引き戻し、瞳を焼かないよう目を瞑ってさらに炎の中へ一歩踏み出そうとしたその時、ぐいと別の力がサッチの肩を掴んだ。
「サッチ!!」
振り向いて目を開けて、サッチは目を見張った。
しかしサッチが何を言う間もなくアンはサッチを炎の中心から引きずり出した。
アンは自分の腕より幾回りも太いサッチの腕を肩に回し、白色の台座を蹴った。
大の男を担いでいるとは思えない軽やかさでアンは炎の中を抜け出し、騒然とする島民の真っただ中へと飛び込む。
島民の多くが慄くように後ずさった。
アンはサッチの腕を肩からははずして顔を覗き込み、息を呑んだ。
夜目でもわかる火傷は、サッチの顔全体を覆っていた。
「サッチ!っ、かお、が」
「は…、だいじょうぶだ、ってんだよ…」
サッチは動かない頬の皮を無理にひきつらせて笑みを作った。
アンは座り込んでサッチの頭を抱えた。
(ごめん、ごめんねサッチ)
「アン、それより、おまえ、ど…やって、」
二番隊員から伝えられたのは、海楼石の釘が打ち込まれ薬を含まされたアンの姿。
ところが今(うれしいことに)サッチに抱き着いてくるアンは自由の身であり、はたまた痺れている風もない。
アンはにぃと笑ってサッチの前にあるものをかざした。
二本の五寸釘。
アンの背後で島民が目を見張った。
「抜いちゃった」
お転婆でごめんねとでも言うようにえへへと笑うアンの両手は、しかし紛れもなく穴が穿たれていた。
「釘が抜けたらさ、ほらあたしも火だから、へっきじゃん。んで、こいつらみんな頭下げてて見ちゃいないしと思って、あんま燃えてないとこで弁当食べてた」
アンの目線につられてサッチが燃え盛る炎へ目をやると、確かに白い台座の上で銀の弁当箱が空っぽのまま放置されている。
「そったら、動きにくいのなんか治っちった」
にゃっはっはーと笑うアンをぽかんと見上げていたものの、あまりにあっけらかんとしたその姿に思わずサッチも噴き出した。
まったく、うちの妹はこれだから最高だ。
「サッチが作ってくれた弁当だよ」
「…そか」
「ありがと!」
ん、とサッチが答える。
アンがにこりと笑った。
「…なんという…!!」
背中から聞こえてきた震える声にアンが振りむく。
長は今にも卒倒しそうなほど顔を赤紫に染めて二人の海賊を見据えていた。
どちらかと言うと、サッチに。
「貴様、神に手を触れるな!!」
「はあ?」
おお、神への冒涜だ、神域が穢れる。
長の強い語気に煽られるように、一斉にして島民たちが広場の中心、サッチに向かってヤジを飛ばしはじめた。
一方その標的であるサッチは腕を支えにして半身を起こした。
はあ?の形で固まった口はひんまがり、眉がつりあがって目の上の傷口がぴくぴくしている。
サッチのこんなにも機嫌が悪そうな顔、初めて見た。
いや「悪そうな顔」はいっぱい見たことあるけど。
アンは間近その稀有な顔をまじまじと見つめた。
サッチは顔の痛みも忘れて大きく口を開いた。
「人んちの娘炙りにかけて何が神だふざけんなブァーーーーーカ」
「なっ」
子供かあんたは。
アンさえも呆れたそれにサッチはいたく満足したようで、ふんっと鼻息荒く、なぜか胸を張った。
「よし帰んぞアン」
「うん」
ういしょと立ち上がるサッチをアンは腕を支えて手助けする。
自慢のリーゼントはもはや影もない。
墨っぽくなった服を気にするふうもなく、サッチはぱぱっと服をはらった。
「…なぜ…」
聞き漏らしてしまいそうな呟きは、それでもしっかりアンの耳に届いた。
見れば、先ほどまで赤黒くなっていた長の顔色は今や青い。むしろ白い。
怒気をはらんでいた声は、しぼんだように小さかった。
長はかくりと膝をついた。
「なぜ、お帰りにならないのです。我らは、貴女様を、天にお送りして差し上げたく…」
とても小さく見えた。
子供のようだ。
この島の人たちはみんな、信じるものをはき違えている。
故郷を大切にすることと、すがりつき取り込まれることをはき違えている。
「だってあたし、人間だから」
アンは立ち上がったサッチの腕から手を離して、長に対峙した。
見下ろすその目は、真っ黒で、まっすぐだ。
「神様の力なんかじゃないよ。呪われてるの。悪魔に、呪われてる。
あんたたちのいう神様と一緒で、あたしも泳げないの。…呪いだから」
でも、とアンは言葉を区切った。
静かに紡ぐアンの言葉に、今や島民全ての耳が傾けられている。
「あたし海だいすきだよ。海で溺れ死んだって、わざわざ空に帰りたいなんて思わない。
あんたたちの神様もきっと一緒だよ」
人間みんな、海の子だもん。
アンは島民たちに背を向けて、未だメラメラ燃える炎の中にすたすた入っていった。
そしてなにやら拾い集めていたかと思うと、溶けかけた弁当箱を黒焦げのリュックに詰めながら戻ってきた。
「帰ろ、サッチ」
「…おう」
サッチはリュックを背負い直すアンを不思議な気持ちで見下ろした。
子供のような、大人のような、たまにとても達観したようなことをいう。
アンと言う生命体は未だきわめて不可解だ。
二人は呆然とたたずむ島民たちの間を通り抜けていった。
「…お待ちください」
長が膝をついたまま二人を呼び止めた。
振り向くと、長も同じように振り向いている。
「自然の神はいつでも我々を守ってくださった。彼の言い伝えと、我らの伝統にさえ従っていれば何も困りはしなかった。
…貴女様はそれさえも間違っていると」
「…そうじゃないよ」
そうじゃなくてただ、とアンが言葉を続けようとしたその瞬間、ブワンと空気が揺れた。
「わっ」
「…ンだ?」
地が揺れているのではない。
大気の揺れは波紋のように広がって幾度もアンたちの身体にぶつかってくる。
島民たちも同じようにそれを感じ、ざわめきあった。
「…ね、これって…」
アンがサッチをちろりと見上げる。
「…あぁ、間違いねぇな…」
サッチも苦笑を交えてアンを見下ろした。
とても身に覚えのある、振動だった。
門限
サッチはその白を蹴散らしながら森の中へと頭を突っ込んで構わず駆けた。
──まったくうちのおバカちゃんは心配かける天才で、困っちゃうんだから。
口先では軽口を呟きながらも、頭の中は今後の算段でギュルギュル音を立てて回転していた。
困っちゃうどころではない。
胸は心労でつぶれそうだった。
眼前に村の入り口、そそり立つ二本のトーテムポールが見えてきた。
強面のその顔を横切って村に入ったが、誰もいない。
2番隊員がまくしたてていた通り、この先の神殿へ島民全員が頭を揃えているのだろう。
サッチは人のいない空間に一瞥をくれて、足を止めることなくそこを突き抜けた。
家畜は所在無げに柵の向こうでつくねんと座っていた。
島特産の豆畑は潮風にふわふわと揺れている。
木の壁とヤシの屋根で造られたいくつもの家たちが、帰らない主を待っていた。
それなのに、この村は生きてる匂いがしない。
この島の人間は誰一人海賊にゃあなれねぇなとひとりごちた。
村を抜けてすぐ、どこから異質な音が聞こえた。
弾けるような、荒々しい音。
サッチは足を速めた。
これは弾ける音じゃない。
火が爆ぜる音だ。
どうかそれがアンの炎であってほしいと願ったものの、見上げた木々の頭上から上がる火の粉を見てその願いはすぐに潰えた。
アンの炎は狙いを定めて打ち抜く弾丸だ。
アンに何かを燃やそうという意図がない限り、火の粉は上がらない。
先程からまぶたの裏でチロチロとうろつく映像を、予感を、サッチは走りながら振り払った。
帰ってきた妹が焦げているなんて、冗談じゃない。
火が爆ぜる音が近くなった。
と、急に視界が開けた。
まるで道を開拓したかのように、目の前の木が倒れているのだ。
開拓者であるマルコに心の中で礼を告げて、サッチは群衆の中に飛び込んだ。
飛びこまなくてもわかった。
広場の中心は炎で包まれていた。
「ア、」
火の粉が容赦なく降りかかる。
サッチはそれを振り払うのも忘れて、目の前の光景にほんの数秒見入った。
すっかり夜の帳が下りた空の下、赤い光が照らす広場の中心に向かって、あまたの人々が跪いている。
舌のようにチロリチロリと動く炎が空高く伸びていた。
「アン!!」
広場の人々が一斉に顔を上げた。
昨日見た、この島の長を名乗ったジジイが突然現れた無法者を指さして何かを叫ぶ。
サッチは飛びかかってきた男の顔面に拳を突き刺して、迷うことも忘れて、口を開けた真っ赤な炎の中に飛び込んだ。
一瞬にして周囲の雑音が消えた。
身体にまとわりついた炎は広場の中心を広範囲で燃やしているのかと思いきや、実際燃えているのはそのさらに中心に一つと、四隅だ。
それぞれの炎が大きすぎて、全体が燃えているように見えたのだ。
サッチは燃えていない足場を選び進んだが、地獄のような灼熱がちりちりと服を、肌を焼くことに変わりはない。
あまりの熱に髪をまとめていたワックスが溶けて、髪がほどけてきた。
「アン!くそ、アン!!」
襟元に結んだスカーフで喉に入り込もうとする炎と煙を防ぎ、くぐもった声でアンの名を呼ぶ。
大いに燃え盛っている中心は、真っ赤で何も見えやしない。
サッチは炎の中に手を突き入れた。
「…!!」
鮮烈な熱が腕と顔を焼く。
サッチの手に固い感触が触れた。
(石…!?)
炎の中心であり、火種であるはずのそれは燃えることのない石のようにつるりと固かった。
じゃあ火種はどこにと少し視線を落とすと、サッチは自分が燃えくずのようなものを踏んでいることに気付く。
おそらくこの石に敷き詰められた藁か枝か何かが火種だったのだろう。
そこまで推測して、サッチの意識はあらぬ方向へ飛んでいきかけた。
あまりの熱に息ができない。肌がただれていくのがわかる。
それでもだめだ、まだアンがいない。
飛びかけた意識を叱咤して引き戻し、瞳を焼かないよう目を瞑ってさらに炎の中へ一歩踏み出そうとしたその時、ぐいと別の力がサッチの肩を掴んだ。
「サッチ!!」
振り向いて目を開けて、サッチは目を見張った。
しかしサッチが何を言う間もなくアンはサッチを炎の中心から引きずり出した。
アンは自分の腕より幾回りも太いサッチの腕を肩に回し、白色の台座を蹴った。
大の男を担いでいるとは思えない軽やかさでアンは炎の中を抜け出し、騒然とする島民の真っただ中へと飛び込む。
島民の多くが慄くように後ずさった。
アンはサッチの腕を肩からははずして顔を覗き込み、息を呑んだ。
夜目でもわかる火傷は、サッチの顔全体を覆っていた。
「サッチ!っ、かお、が」
「は…、だいじょうぶだ、ってんだよ…」
サッチは動かない頬の皮を無理にひきつらせて笑みを作った。
アンは座り込んでサッチの頭を抱えた。
(ごめん、ごめんねサッチ)
「アン、それより、おまえ、ど…やって、」
二番隊員から伝えられたのは、海楼石の釘が打ち込まれ薬を含まされたアンの姿。
ところが今(うれしいことに)サッチに抱き着いてくるアンは自由の身であり、はたまた痺れている風もない。
アンはにぃと笑ってサッチの前にあるものをかざした。
二本の五寸釘。
アンの背後で島民が目を見張った。
「抜いちゃった」
お転婆でごめんねとでも言うようにえへへと笑うアンの両手は、しかし紛れもなく穴が穿たれていた。
「釘が抜けたらさ、ほらあたしも火だから、へっきじゃん。んで、こいつらみんな頭下げてて見ちゃいないしと思って、あんま燃えてないとこで弁当食べてた」
アンの目線につられてサッチが燃え盛る炎へ目をやると、確かに白い台座の上で銀の弁当箱が空っぽのまま放置されている。
「そったら、動きにくいのなんか治っちった」
にゃっはっはーと笑うアンをぽかんと見上げていたものの、あまりにあっけらかんとしたその姿に思わずサッチも噴き出した。
まったく、うちの妹はこれだから最高だ。
「サッチが作ってくれた弁当だよ」
「…そか」
「ありがと!」
ん、とサッチが答える。
アンがにこりと笑った。
「…なんという…!!」
背中から聞こえてきた震える声にアンが振りむく。
長は今にも卒倒しそうなほど顔を赤紫に染めて二人の海賊を見据えていた。
どちらかと言うと、サッチに。
「貴様、神に手を触れるな!!」
「はあ?」
おお、神への冒涜だ、神域が穢れる。
長の強い語気に煽られるように、一斉にして島民たちが広場の中心、サッチに向かってヤジを飛ばしはじめた。
一方その標的であるサッチは腕を支えにして半身を起こした。
はあ?の形で固まった口はひんまがり、眉がつりあがって目の上の傷口がぴくぴくしている。
サッチのこんなにも機嫌が悪そうな顔、初めて見た。
いや「悪そうな顔」はいっぱい見たことあるけど。
アンは間近その稀有な顔をまじまじと見つめた。
サッチは顔の痛みも忘れて大きく口を開いた。
「人んちの娘炙りにかけて何が神だふざけんなブァーーーーーカ」
「なっ」
子供かあんたは。
アンさえも呆れたそれにサッチはいたく満足したようで、ふんっと鼻息荒く、なぜか胸を張った。
「よし帰んぞアン」
「うん」
ういしょと立ち上がるサッチをアンは腕を支えて手助けする。
自慢のリーゼントはもはや影もない。
墨っぽくなった服を気にするふうもなく、サッチはぱぱっと服をはらった。
「…なぜ…」
聞き漏らしてしまいそうな呟きは、それでもしっかりアンの耳に届いた。
見れば、先ほどまで赤黒くなっていた長の顔色は今や青い。むしろ白い。
怒気をはらんでいた声は、しぼんだように小さかった。
長はかくりと膝をついた。
「なぜ、お帰りにならないのです。我らは、貴女様を、天にお送りして差し上げたく…」
とても小さく見えた。
子供のようだ。
この島の人たちはみんな、信じるものをはき違えている。
故郷を大切にすることと、すがりつき取り込まれることをはき違えている。
「だってあたし、人間だから」
アンは立ち上がったサッチの腕から手を離して、長に対峙した。
見下ろすその目は、真っ黒で、まっすぐだ。
「神様の力なんかじゃないよ。呪われてるの。悪魔に、呪われてる。
あんたたちのいう神様と一緒で、あたしも泳げないの。…呪いだから」
でも、とアンは言葉を区切った。
静かに紡ぐアンの言葉に、今や島民全ての耳が傾けられている。
「あたし海だいすきだよ。海で溺れ死んだって、わざわざ空に帰りたいなんて思わない。
あんたたちの神様もきっと一緒だよ」
人間みんな、海の子だもん。
アンは島民たちに背を向けて、未だメラメラ燃える炎の中にすたすた入っていった。
そしてなにやら拾い集めていたかと思うと、溶けかけた弁当箱を黒焦げのリュックに詰めながら戻ってきた。
「帰ろ、サッチ」
「…おう」
サッチはリュックを背負い直すアンを不思議な気持ちで見下ろした。
子供のような、大人のような、たまにとても達観したようなことをいう。
アンと言う生命体は未だきわめて不可解だ。
二人は呆然とたたずむ島民たちの間を通り抜けていった。
「…お待ちください」
長が膝をついたまま二人を呼び止めた。
振り向くと、長も同じように振り向いている。
「自然の神はいつでも我々を守ってくださった。彼の言い伝えと、我らの伝統にさえ従っていれば何も困りはしなかった。
…貴女様はそれさえも間違っていると」
「…そうじゃないよ」
そうじゃなくてただ、とアンが言葉を続けようとしたその瞬間、ブワンと空気が揺れた。
「わっ」
「…ンだ?」
地が揺れているのではない。
大気の揺れは波紋のように広がって幾度もアンたちの身体にぶつかってくる。
島民たちも同じようにそれを感じ、ざわめきあった。
「…ね、これって…」
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
@kmtn_05 からのツイート
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足りん
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