OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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ふんわりと身体を包む素材のぬくもりに、アンはぼんやりした頭のまま本能的にそれに体をすり寄せた。
決して手触りがいい毛布ではないけれど、むしろ少しガサガサしているが、何故だろう安心する。
しかしすぐにその状況の「おかしさ」に気付いて、がばっと身を起こした。
どこだここは。
ベッド、ベッドだ。そんでどこかの部屋の中…
少し埃っぽいけど、不潔だとかすぎたないわけではない、小さな部屋。
アンは警戒する野生動物さながらの鋭い視線で辺りを見渡し、とりあえず危険がないと分かって肩の力を緩めた。
──本当は、危険なんてここにはないのかもしれないと薄々気づいてはいたのだけれど。
それを認めてしまえばこの『船』に屈してしまうことになるような気がして、なかなか簡単に認められることではなかった。
それに──船の上に女は御法度だと、古臭い考えを持つ輩がこの海にはまだゴマンといる。
『女は船に乗せてはいけない、海の女神が嫉妬して、船を沈めてしまうから』
そんな言い伝えの裏に隠された、船乗りの男たちの汚い欲望の塊をアンはよく知っていた。
(…それにこの船の船長はジジイだしっ…)
古臭さから行ったらピカイチだ。
『オレの娘になれ』
あの言葉の意味はまだ分からないけど。
不意に、アンは扉の外に人の気配を感じた。
身体を包むベールのようにアンの周りに張り巡らされた警戒心は、数メートル離れドアを隔てたところにあるヒトの息遣いさえ敏感に感じ取った。
アンは膝にかかっていた毛布を取り払うと、ベッドの上で跪くような形になって扉を睨んだ。
ドクンと心臓がはねる。
「もっしもーし、サッチの宅配サービスでーす。仔猫ちゃん起きてる?」
間延びした男の声がドアの向こうから聞こえた。
アンの口が小さく「は?」の形で開く。
お邪魔しマース、と扉が開いた。
「お、起きてる起きてる。おはようさん。ってなんて格好してんだ」
部屋の中に入ってきた男は、臨戦態勢のアンを目にしてぱちくりと瞬いた。
男がドアを開けた瞬間から、いろんな匂いがアンの鼻腔に飛び込んできた。
香ばしいパンの香り、温かいスープの湯気とスパイスの香り、甘いにおいもする。
アンの意識は自然とそっちに引っ張られた。
男はそれに気付いたのか、気さくな顔つきでにかりと笑った。
「腹ァ減ったろ?昼飯だ」
ベッドの上で固まったままのアンそっちのけで、サッチという男はサイドテーブルに大きな木のトレーを置いた。
匂いの発生源は言われずもがなこれだ。
アンの視線はトレーとサッチの間を行ったり来たりしてせわしない。
「すきっ腹に詰め込みたいのはわかるけど、それじゃ腹壊すといけねぇ。そういうわけで今日はサッチのスペシャルメニューだ」
アンの前に仁王立ちで腰に手を当てたサッチは、トレーの中身について堂々と説明し始めた。
パンは胃にやさしくふっくらやわらか、ビタミンを取るために人参が練りこんである。
スープは玉ねぎトロットロ、たまごでとじたあっさりめの味わい。
デザートはおなかにやさしいホットプリン。
アンの視線は、もはや動くことをやめていた。
トレーの中身に釘づけだ。
サッチは、まあごたくはいっかと小さく笑った。
「たんとお食べ!」
アンはサッチを見上げることもせず、というよりも湯気を立てる食べ物たちから目を離せずに、スプーンを手に取った。
スープ皿を手に取ると、じんとぬくもりが冷えた指先から手のひら全体に伝わって、スプーンですくって唇をつけると味うんぬんよりその暖かさに鳥肌が立つように体中が痺れた。
なにかを口にしてやっと気づいた。
おなかがぺこぺこだ。
「うまい…」
思わずこぼれた一言に、目の前の男が破顔した気配が伝わった。
それでようやく、アンはサッチの存在を思い出した。
サッチは、旨いかそりゃ当たり前だと一人頷きながらアンが座り込むベッドにすとんと腰かけた。
アンはぎょっとして身を引いた。
皿の中身が大きく波打つ。
「なっ…なんっ…!」
「いんや、構わず食ってくれ」
サッチはにこにこ顔を崩さずにアンを促した。
アンは怪訝な顔でサッチを横目に捉えたまま、スープ皿を置いてパンを手に取る。
かじるとほのかに甘い。
隣のサッチは鼻唄交じりにリーゼントを手で撫でつけていた。
アンが食事をするその間、何をするでもなくずっとそこに座っていた。
『出てけよ』と、アンののど元まで出かかった。
しかし結局、それが口からこぼれ出ることはなかった。
なんでだろう、と自分に尋ねる気持ちは、「これおいしい」「こっちもおいしい」そんな思いが覆いかぶさるように邪魔をするのでうまく考えられなかった。
「…おまえさあ」
アンがプリンの最後のひと口を口に含んだその時、サッチが口を開いた。
不意を突かれたアンは驚いて最後のひと口を味わう暇もなくごくんと飲み込んでしまう。
アンは黙ったままサッチのほうを見やった。
子供が怖いもの見たさに壁の向こう側を覗く仕草に似ている。
いつのまにかにこにこ顔を消したサッチは、腰かけたままベッドに後ろ手をついて自分のつま先を眺めていた。
唇を突き出しているのは拗ねているわけではなく、この男の子供くさい癖だ。
「呑めるほう?」
「は?」
今度こそ声に出して聞き返してしまった。
真面目な顔で何を言うのかと思えば、むしろ説教でも垂れ始めるのかと身構えていたにもかかわらず、サッチの言葉はアンの意表をついたところからでてきた。
アンが返事に窮してサッチの横顔を見つめていると、サッチはちらりと横目でアンを捉えた。
ぴくっとアンの小鼻が動く。
「いやだからさ、呑めるかって聞いてんの」
「…は?なに…酒?」
そうそうとサッチは頷いた。
「近いうちに宴すんだろうしさ、酒の好みくら知っとかねぇと」
「うたげ…?」
「おめーさんたちの歓迎会ってんだよ」
かんげいかい、と一句ずつその言葉を飲み込んで、アンは持っていたスプーンを目の前の男に投げつけてベッドの上に立ち上がった。
「かっ…!勝手なこと言ってんじゃねぇ!!誰がいつアンタらの仲間になるなんて…!!」
サッチは立ち上がり左肩にぶつかって転げ落ちたスプーンを拾い上げると、それと同時にサイドテーブルからトレーを持ち上げた。
壁に張り付いて息を切らすアンを静かに見上げた。
「鐘が鳴ったらメシだから、今度は食堂来いよ」
さっと掻き消えるように見えなくなった男の笑みは無表情に近くなり、そのまま扉の向こうに消える男の背中を、アンはただひたすら睨んだ。
ぱたんと丁寧に扉が閉まると、アンは壁に背中を預けたままずるずるとその場に腰を落とした。
なんであんなにも腹が立ったのか。
ごちそうさまも、ありがとうも言えなかった。
すごくおいしかったのに。
アンは跳ねるような動作でぼふんとベッドの上にうずくまった。
正座のまま腰を折って前に倒れ、両手で前髪辺りをわしづかむ。
先程食べたパンが喉元をせりかえしてきてもおかしくない体勢だったが、食べたものたちはすんなりと胃へ吸収されてしまったらしくその予兆もない。
ぽんと片手に乗ってしまうようなサイズのパンも、一皿のスープもアンの胃袋をいっぱいには満たさなかった。
それでも、あのときのように、もう一人の男が差し出した一杯のスープの時のように、胸だけはいっぱいになった。
あの男の料理には、アンの知らないものがたくさん詰め込まれていて、それでびっくりしたのだ。
当たり前のように受け入れてくれたって、こっちにはその準備ができていない。
アンはその日の夕方、食堂に行かなかった。
*
扉の横、壁に背を預けていたマルコは、部屋から出てきたサッチに何食わぬ顔で「怒らせてどうする」と言った。
「おっさん趣味わりぃなあ、盗み聞きかよ」
「てめぇの声のボリュームじゃ筒抜けだ、なにも盗んでなんざいねぇよい」
サッチは空になったトレーを左手のひらで支え、ほりほりと額を掻く。
「おれ早まった?」
「いいや、妥当だ」
サッチはちらりと横目でマルコを見遣ったが、マルコはまっすぐ前の壁を見ているだけでサッチの視線を受け流す。
部屋の中から、ばふんぼふんとベッドにとっては哀れな音が聞こえてきたが、暴れているわけではないのだろう。
興奮した猫が唸りながら悶えている様子が想像できた。
あの娘が一つ首を縦に振ればなんと簡単に事は済むことかなんて、思ってはいるが誰も口にはしない。
きっとそれが近い未来のことだろうといくら確信に近くても。
もはやひとりずもうで悩み悶えるあの娘を抱える準備は万端で、こちらはそれを望んでいるというのに。
ただその望みをうまく伝えることはマルコには難しくて、きっとサッチにも難しくて、まだ手が出せずにいる。
*
次にハッと目を覚ました時、アンは自分の目が開いているのか閉じているのかわからなかった。
一面真っ暗だったからだ。
しかしがばりと身を起こした瞬間、鮮烈な痛みが両足の膝から下を襲い、ぐあ、とカエルがつぶれたかのような声を上げてアンは倒れ伏した。
「つあぁっ…!」
ぴりりっと走った痛みの後に、ジーンと鈍い痺れが足先から太ももにまで伝わった。
どうやら奇妙な格好のままいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
アンは膝をついた四つん這いのような格好のまま、じんじんと音を立てて足を駆け巡る血の流れに歯をくいしばって耐えた。
痛いような、こそばゆいような痺れがアンに声も出させない。
(かっ、かっこわるっ…!)
しばらくそうしていると、痺れは少しの余韻を残してゆっくりと引いていき、アンはフッと詰めていた息を吐き出した。
すると考える余裕が出てきて、アンは未だ耐えの姿勢のままではあるが現実的なことに頭が回りだした。
今、何時だ?
夜、そう、夜だ。
少しずつ暗闇に慣れてきた目が小さな窓を捉えたが、そこから明かりが入ってこない。
ぬらぬらと黒い闇しか四角いそこからは見えない。
眠りにつく前にこなれたお腹がまたペコペコになっているから、数時間は眠っていたはずだ。
そこまで考えてはたと気づいた。
…ここはどこだ?
一度起きてリーゼント男が持ってきたスープやパンを食べた時、あれは何時のことだったんだ?
アンが自分の意思で行った行動は、ずいぶん昔のことのようで思い出せない。
分かるのは、少なくともアンは自分の脚でこの部屋へは来ていないということだ。
暗闇にすっかり慣れた目をしばたかせて、アンはゆっくりと上体を起こした。
「どこ行くんだよ」
何もない空間から突然聞こえてきた声に、アンはハッと身構えた。
しかしすぐに、あぁと肩の力を抜く。
なじみの声だ。
「どこにも行かないよ」
吐き捨てるように言ったつもりが、自分の口からこぼれ出た声は今にも消え入りそうで辟易とした。
「行く場所なんてないもんな」
からかうような、そして蔑むようなざらついたその声はどこまでもアンのカンに障ったが言い返すのもバカらしくて口をつぐんだ。
「図星でだんまりかよ」
「うるっさいな…」
声はきゃらきゃらと笑った。
「餌付けられて居座るの?スペード海賊団は終わるの?船員たちは」
「うるせぇな!わかってるっつって、」
「まさかあのジジイたちの情にほだされたの?」
アンは真っ暗な暗闇に、手元にあった枕を掴んで投げつけた。
白い塊はそのまま向こう側の壁にぶつかって、ぼとんと落ちた。
声はそれっきり聞こえなくなった。
苛立ちだけを残されたアンはベッドの上に膝立ちのまま落ちた枕を睨んだ。
わかっているけどわかりたくないことを、自分の声に告げられるほど腹立たしいことはない。
あぁ、とため息に交じって声が漏れた。
いつのまにか汗をかいている。
風呂に入りたいなあと霞がかった頭で思った。
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