OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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【それは狂気に満ちている 第三部 あいのことば】 の続編ですが、読まなくても一応大丈夫です。
間接的に性的描写がありますので、お気をつけて、スクロールでどうぞ。
あっとこぼれた声は、塞がれた唇の奥、のどのほうへと吸い込まれるように引っ込んだ。
背中を滑るシーツのなめらかな生地。
冷えたそれが肌に吸いついて、まるで水の中に浮かんでいるような、重力を伴わない心地よさを感じた。
しかし息が苦しい。
本当に水の中のようだ。
ただ実際は、物理的にアンの口がふさがれているだけなのだけれど。
逃げるように顔を背けた。
息が苦しい。
しかし執拗に追ってくるものによってまた塞がれる。
くるしい、と目を開けたところで、自分が目を閉じていたことに気付いた。
瞬間飛び込んできたのは焦点の合わないぼやけた世界だ。
じわじわと焦点を重ねはじめた目が唯一捉えたのは、眉間の皺。
すぐに合わさる唇の角度が変わって、思わず目を閉じてしまった。
手足が自由なことに気付いた。
ただし、起き上がることはできない。
頑丈そうな両腕が、アンの顔の両脇に置かれている。
大きな右手によってアンの頭の左側が支えられ、左手によって右肩が押さえつけられていた。
自由な両手を、自分の身体と、それに覆い被さる厚い胸板の間に差し挟んだ。
思い切って、押す。
ふさがっていた唇が離れた。
「こ……殺す気か!」
「まさか」
淡い薄明りの中、ぼんやりと弧を描く口元が見えた。
ひとりだけ平気な顔しやがって、と心の中で悪態をつきながら呼吸を整える。
途中でむせた。
ふと、アンの左側頭部を支えていた手が動いて、アンの頬に指の腹が触れた。
「……?」
視線を上げる。
マルコの目は、アンの目を見返してはおらず、自分の指の先を見つめていた。
感情の読みにくい細い目。
マルコの指先は、アンの頬に線を引くように、こめかみのあたりから口元までなぞった。
二本の指がさらに顎先まで到達すると、またこめかみへと戻る。
それを何度も繰り返す。
その淡々とした仕草を、アンはただ黙って受け入れた。
マルコの目がまるで書類にひたすらサインしていくときのようであれば、「なにしてんの」と声をかけることができたかもしれない。
それができなかったのは、マルコの目が、アンさえも見たことのないものだったからだ。
いつのまにあたしは、マルコの細い目の奥でちらつくほんの少しの変化を捉えることができるようになっていたんだろう。
「……マルコ?」
おそるおそる、名前を呟くと、マルコはゆっくりとアンに視線を合わせた。
そして、子供をなだめすかせるときに浮かべるような笑みを浮かべた。
思わず息を呑む。
しかし次の瞬間に煌めいた凶暴にさえ見える目の光が、またたくまに再びアンを飲み込んだ。
マルコの高い鼻先が、アンの頬骨にぶつかる。
口の中で蹂躙する舌が、逃げるアンを絡め取る。
頬に添えられていた手のひらが、アンの首筋に貼りついた。
熱い。
マルコの4本の指が首裏に回り、アンの細い首は大きな手に握られていた。
このまま、マルコが親指に力を込めれば、あっという間にアンは絞殺される。
ロギアだという逃げ道は、覇気を使うマルコには通用しない。
命が素手で握られている感触がした。
マルコはきっと今、アンの命を握る手触りを感じているに違いない。
マルコに殺されて、ここで命が終わるとしたら、あたしは赦せるだろうか。
今死んだことを。
マルコに殺されたことを。
それでいいと思った自分を。
そんなわけあるかバカヤロー、と細首を握るマルコの手首を、アンは思いっきりつかんだ。
一瞬、深く差しこまれていたマルコの舌が驚いたように身を引いたが、すぐにまた深く侵入を続けた。
マルコの口角が、少し上がっているような気がする。
マルコの手首をつかんだものの、どうすればいいのかわからない。
太くは見えないのに、アンの指が作る輪の中にマルコの手首は収まらなかった。
硬い骨の感触が、手のひらにじかにつたわる。
ふと握る力を弱めて、マルコの手首から肘へと伝う血管を手探りで探した。
あった。
筋肉の盛り上がりに沿うように、緩やかなカーブを描きながら肘へと上がる太い血管。
それを人差し指で辿りながら、マルコの腕を擦るように上っていく。
肘に到達した。
肘の曲がる部分の内側が、汗で少し湿っている。
アンがそこを指でなぞると、まるで写し鏡のようにマルコの指もアンの首をなぞった
そのまま下へと降りていき、指は鎖骨の辺りにかかる。
いつのまにか、唇が離れていた。
とても近くに、マルコの静かな目がある。
マルコの腕に触れていたアンの手が、重力に負けて少しずり落ちた。
マルコの大きな手のひらは開いたまま、アンの胸の少し上、平らな部分に落ち着いた。
マルコの手は、珍しく熱い。
こくんと小さく喉を動かしたが、その動きはマルコの手のひらにすべて余すことなく伝わっているだろう。
ぱたんと、アンの手はシーツの上に落ちた。
「まだ、死にそうかよい」
しっとりと、湿った声だった。
アンはへへっと目を細くして、笑みを作る。
「ヨユー」
「言ってくれるよい」
マルコが不敵に笑い返したと思った瞬間、鎖骨の下にあったはずの手がアンの前髪を掴み、思いっきり下へと押し付けられた。
驚きに大きく見開いたアンの視界からマルコが消え、あっと思った瞬間には喉に鮮烈な痛みが走った。
「だっ……!!」
前髪もろとも額を押さえつけられて、頭は後ろへ反り返り、喉元がさらけ出されている。
マルコはそこにかぶりついたのだ。
いたいと言っているのに、喉に触れる硬い歯の感触が遠ざかることはなく、むしろより一層深く食い込んでいく。
マズイマズイこれはマジでダメだってマルコいたいいたいいたい血ィ出るダメヤバいいたいマルコもうムリやめていたい──
「っあ」
思いがけず、高い声が鼻から抜けるように出た。
その瞬間、首筋に食い込んでいたものがすっと離れた。
同時に押さえつけられていた額の手も離れる。
しかしきっと大きく歯形を残しただろうそこは、まだじんじんと鈍い痛みを残している。
アンは無意識にそこに手をやって、マルコを睨みあげた。
「なっ……なんなの!?ものすっごい痛かった!」
「その割にはいい声出てたよい」
「ハァ!?」
なんのこと、と問いかけた矢先、再びマルコが視界から消えた。
しかし今度は前髪を押さえつけられたわけではなく、マルコの頭が下へと引っ込んだのだ。
頬と顎のあたりにマルコの髪が当たるくすぐったさを感じたのと同時に、首筋を抑えていた手の指と指の間、魚人ならば水かきがあるだろうそこを生暖かいぬるりとした感触が滑った。
アンが驚いて手を浮かせると、すかさずマルコの手がそれを掴みシーツへ縫い付ける。
そして生暖かいものは、アンの首筋に直接触れた。
それがマルコの舌だと思い当たった瞬間、歯型のある部分を舐め上げられた。
うわぁともぎゃぁともつかない、もっと甲高いような声が喉の奥からほとばしった。
聞いたこともない自分の声にドキドキする。
「マルっ」
「余裕はどこ行ったんだよい」
首筋に舌を当てたままマルコが喉を震わして笑う。
そんなこといったって、と反論にならない言葉を小さく呟いても、見えるのは天井だけだ。
湿った生暖かさが喉の一番高いところを通って、アンの口から小さな悲鳴が漏れたそのとき、腹の辺りを這い上る何かの気配に気付いて背中が粟立った。
アンの右手を抑え込むのとは逆のマルコの手が、アンの剥き出しの腹を撫でる。
ひぁ、と喉の奥がひくついた。
いつのまにか歯型をなぞっていたはずの舌先が、鎖骨の辺りまで降りている。
アンはまるで天に救いを求めるように、上へと手を伸ばした。
しかし掴んだのは、マルコのシャツの裾。
アンを追い詰めるそのものに助けてとすがるなど馬鹿げている。
そう思いながらも、マルコの舌先が谷間に流れたアンの汗を追いかけるように下へと滑っていく感覚に耐え切れず、アンは手にした布地を強く引っ張った。
カクン、とマルコの腰が数センチアンの方へと引き寄せられる。
「う……」
「どうしたよい」
「うぅ」
至近距離で問われた声に、アンは呻き声でしか答えられない。
堅く目を閉じて、ひたすら首を横に振った。
手に握りこんだシャツを離すことができない。
アンはマルコが解放した手を顔の前に持っていき、腕で顔を隠した。
もうなにもわからない。
マルコのキスや身体を撫でる手のひらが、アンの五感をすべてどこかへ持って行ってしまう。
脚の先から頭のてっぺんまでぞわぞわと細かな粒が這い登るような、慣れない感覚に戸惑って、力は入らず、変わらず息が苦しい。
腕で顔を隠していても、じっとマルコが見下ろす視線は肌に沁み込んでいるように感じられた。
不意に、アンの手首にマルコの指が触れる。
折れやすい小枝をそっと持ち上げるときのような柔らかい触れ方。
アンの腕が、マルコによって顔の前から外された。
「マル…」
「よっと、」
マルコの小さな掛け声とともに、ふわりと体が浮かんだ。
えっと声を出す暇もなく背中がシーツから離れ、思わず目の前にあった肩に手を置いた。
アンの足はマルコの腰をはさむような形で、いつのまにかアンはマルコに向かい合って、マルコの胡坐をかいた足の上にぺたんと座り込んでいた。
マルコが持ち上げてそうしたのだと気付くのに、一瞬の間があった。
「マルコ?」
マルコは笑っているようにも、怒っているようにも困っているようにも、はたまた無表情のようにも見えた。
いろんな感情が混ざると、表情はなくなるのかもしれない。
マルコの手のひらが頬に触れた。
アンの顔は、マルコの手のひらの付け根から指の先までの間に収まってしまう。
軽く見上げる形でマルコと視線を合わせると、ゆっくりと唇が重なった。
先程の、貪り食われるような勢いはなく、ゆっくりと、唇の表面を食まれる。
それがマルコの気遣いだとしたら、本当に器用な人だと思った。
アンはそろそろと腕を伸ばし、マルコの首に両腕をかける。
そのまま抱き込むように引き寄せると、マルコのほうもアンの腰に手を回して引き寄せた。
身体の表面がすべてくっついているような感じがした。
構造も違う、凹凸のあるべき場所も互いに違う、感じ方も、呼吸のリズムも、目に映る景色も重なることはない。
それでも、どこか一部でも重なっていなければ、こんなに温かい気持ちにはなれない。
その一部が目に見えるところとは限らないからわからないだけで、きっとマルコとはどこかが重なっているに違いない、とアンも柔らかい唇をはさみ返しながら思った。
触れたときと同じく、ゆっくりと離れる。
アンはマルコの胸に顔をうずめて、マルコはアンの頭を胸に抱きこんで、離れたら二度と手に入らないものに執着するように、互いが互いを引き寄せて抱き合った。
厳粛な儀式のように、静かで、声もなく、当たり前に波の音だけが聞こえた。
マルコの肌はアンのそれに良くなじみ、ぴたりと吸いつく。
皮膚の向こう、張り巡らされた細い血管のその先、硬い骨といくつもの臓器に守られてマルコの心臓が動く。
鼓動は血を震わせて、鼓膜を通り抜け、アンの体内を駆け巡る血に溶けあってアンの心臓へと届いた。
シャツが邪魔だ。
アンの手がマルコの腰から、シャツを捲り上げるように背中側に滑り込むのと、マルコの手がアンのホルターネックの頼りない紐に手をかけたのは、ほぼ同時だった。
*
どん、と突き上げるように大きく船が揺れた。
いつのまにかシーツの波へと逆戻りしていたアンはその衝撃を背中に受け、マルコはベッドに片肘をついて体を支えた。
逆の手はアンを抱き込んでいる。
「……なんだろ」
「さぁ、寝ぼけた海王類でもぶつかったんじゃねェか」
「1・2番隊出動、とか言われないよね」
「見張りが何も言わねぇんだ、大丈夫だろい」
それでもアンは耳を澄ますように、窓の外の深い闇に神経を尖らせた。
マルコがよそ見をするなと言わんばかりにアンの太腿の裏を撫でたので、アンの集中はすぐに途切れたのだが。
吐き出す息が熱い。
首筋にかかるマルコの息が熱い。
体中を這い回るマルコの手も熱い。
自分の頬も熱かった。
ずっと、涙の薄い膜が張っているように視界がぼやけている。
ごしごしと目の辺りをこすっても、視界ははっきりしなかった。
マルコの顔がよく見えない。
不意に、腰が持ち上がった。
なんだろ、と問うようにマルコを見ると、霞んだ視界の中でマルコが困ったように眉を下げて少し笑うのが見えた。
なんとなくただならない空気を感じて、アンはごくりと生唾を飲む。
汗に濡れて、海藻のようにうねって頬にかかったアンの髪を、マルコが耳の後ろまで掻き上げてくれた。
同時に頭を撫でるように手が動き、心地よさに目を細めると、マルコは黙って頭を撫で続けてくれた。
自分が猫ならゴロゴロと喉が鳴っているに違いない。
アン、と半分掠れたような声が呼びかける。
マルコの指がアンの目元をぬぐうと、霞んでいた視界が晴れた。
「アン」
マルコが言葉を探しているように見えたので、アンはその顔をじっと見上げて待った。
しかし言葉は見つからなかったのか、必要ないと見限られたのか、マルコは開きかけていた口を閉ざした。
マルコはまずアンの左手を掴み、自身の背中に回させる。
反対の腕も同じようにした。
アンはされるがまま、わけもわからずマルコの背中に両腕を回してすがりつくようになっている。
軽いキスが降ってきて、唇が離れたと思った瞬間、突き上げられた衝撃に体がずり上がり、喉からは音にならない悲鳴が溢れた。
必死で、溺れたときにそうするように、マルコの背中にしがみつく。
しかし手が引っ掛かるところがなくて、考える余裕もなく爪を立てた。
下腹部の、想像も絶する場所の痛みに声も出ず呼吸が難しい。
裂ける裂ける、どこかわかんないけどどっか裂ける、と言葉より先に自身のピンチを知らせる声が脳内に響き渡る。
口を開けてもうまく空気が入ってこないので、逆に強く歯を食いしばってみた。
きゅぅ、と意味のない音が漏れる。
「アン」
遠くから、名前を呼ばれた気がした。
「おい、アン」
遠くない。ものすごい近くだ。
強く瞑っていた目を開けると、今度こそ本物の涙の膜によって遮られながらも、マルコの顔が見えた。
「大丈夫かよい」
必死で首を振る。横に。
意地を張る義理も余裕もない。
マルコは困った顔で、アンの目じりに浮かぶ水滴を、額に乗った汗の玉を拭ってくれた。
「ど……どうなってんの、今」
「入ってる」
端的に帰ってきた答えの意味を理解するのに、数秒要した。
理解したものの、だからと言って返す言葉もない。
金魚よろしくぱくぱくと口を開いたり閉じたりしていると、また名前を呼ばれた。
「もう、やめてもいいけどよい」
「や……やめたらどうなんの」
マルコは一瞬考えるように視線を彷徨わせたが、
「別に、どうにも」
と答えた。
「でも……今、やめたら、さ」
「ん?」
「もう二度とできない気がする」
アンは、自分としては必死の形相のはずなのだが、何故かマルコは一拍きょとんとして、そしてくつくつと笑いだした。
「あァ、そうかい」
「た、達成感ないっていうか……」
マルコはひとしきり笑っていたかと思うと、不意に身じろぎしたので、アンの下腹部にまた鋭い痛みが走った。
ひっ、と思わず声を漏らしてマルコの肩に掴まる。
これからやってくる痛みを、本能に近い部分が察知して、アンに歯を食いしばれと指令を出す。
しかし予知した痛みより先にやって来たのは表面に触れるだけのようなキスで、そちらに意識を引っ張られた瞬間また衝撃がやって来た。
*
マルコの背中を濡らす汗が、アンの手が引っ掛かるのを邪魔するようで憎々しい。
痛みを噛みしめていた口元は、いつの間にか浅い呼吸を繰り返す場所へと変わっていた。
律動が、アンの呼吸と、鼓動と、すべてのリズムを刻むものとリンクする。
その一定の音の狭間で、時折聞こえる苦しげな声がマルコのものだと気付いたときは驚いた。
まるで意思とは別のところから出ているようなその声は、アンの知らないものだった。
もしかしたらマルコ自身、知らないものかもしれない。
突然、マルコがアンの肩を片手で抱き込み持ち上げた。
そして、締め殺されるかという勢いできつく抱きしめられる。
下腹部を貫いていた存在が、音を立ててアンの中から消えた。
終わりを伝えるような深い吐息が耳元に落ちてきて、なぜだか、止まっていた涙が滑り落ちた。
しばらくの間、マルコはアンの肩に額を当てて息を整えていた。
アンも、マルコの背中に回していた手をぱたりとシーツの上に落として力を抜いた。
太腿の間がぬるぬるする。
「マ、マルコ」
マルコは重たそうに、頭を持ち上げた。
虚ろともいえる目が、ゆっくりとアンに焦点を合わせる。
大丈夫か、と問われた気がして、黙って頷くとマルコの目元が少し緩んだ。
「……マルコは?」
「あァ」
大丈夫だと伝えるように、軽く唇が重なった。
その一瞬前、ごめんなと聞こえた気がして、アンはマルコを見上げた。
目で問うアンとわざと視線を合わさないように、マルコはアンの頬にも唇を落とす。
風呂入るかよい、とかすれた声が呟いた。
「うん、汗と……なんかべたべたする」
シーツもそれらにまみれているだろうから、洗わなければいけない。
しかし身体は、いっこうに起き上がって風呂場に向かったりはしなかった。
マルコも起き上がる気配はない。
たとえ汗まみれで不快だとしても、もう少しこのままここにいたかった。
マルコはアンの隣に、ごろんと倒れ込むように横になった。
しかし抱き込んだアンを離すことはない。
そのことが、どうしようもなく嬉しかった。
マルコの手を振り払ったことも、顔を背けたことも、声を荒げて拒絶したことも全部覚えている。
同時に、ひたすら追いかけ続けたことも、厭われてもめげなかったことも、好きだと叫んだことも全部本当のことだ。
頭を反らせてマルコの顔を覗き込むと、マルコが気付いて腕の中のアンを見下ろした。
特にいうことも思いつかなかったので、曖昧に笑ってみた。
マルコは、片眉を上げて応えたが、同時に緩く笑い返した。
この顔だ。
あたしだけのマルコ。
マルコだけのあたしは、きっと同じ顔で笑っているに違いない。
誰かをいつくしむ顔。
いとしいと思うこと。
アン、とマルコが首を縮めるようにして耳元に唇を寄せてきた。
何かが囁き声で呟かれたが、掠れたマルコの声では聞き取れなかった。
もう一度、というつもりで曖昧に笑うと、マルコは静かに口角を上げるだけで、もうなにも言わなかった。
間接的に性的描写がありますので、お気をつけて、スクロールでどうぞ。
あっとこぼれた声は、塞がれた唇の奥、のどのほうへと吸い込まれるように引っ込んだ。
背中を滑るシーツのなめらかな生地。
冷えたそれが肌に吸いついて、まるで水の中に浮かんでいるような、重力を伴わない心地よさを感じた。
しかし息が苦しい。
本当に水の中のようだ。
ただ実際は、物理的にアンの口がふさがれているだけなのだけれど。
逃げるように顔を背けた。
息が苦しい。
しかし執拗に追ってくるものによってまた塞がれる。
くるしい、と目を開けたところで、自分が目を閉じていたことに気付いた。
瞬間飛び込んできたのは焦点の合わないぼやけた世界だ。
じわじわと焦点を重ねはじめた目が唯一捉えたのは、眉間の皺。
すぐに合わさる唇の角度が変わって、思わず目を閉じてしまった。
手足が自由なことに気付いた。
ただし、起き上がることはできない。
頑丈そうな両腕が、アンの顔の両脇に置かれている。
大きな右手によってアンの頭の左側が支えられ、左手によって右肩が押さえつけられていた。
自由な両手を、自分の身体と、それに覆い被さる厚い胸板の間に差し挟んだ。
思い切って、押す。
ふさがっていた唇が離れた。
「こ……殺す気か!」
「まさか」
淡い薄明りの中、ぼんやりと弧を描く口元が見えた。
ひとりだけ平気な顔しやがって、と心の中で悪態をつきながら呼吸を整える。
途中でむせた。
ふと、アンの左側頭部を支えていた手が動いて、アンの頬に指の腹が触れた。
「……?」
視線を上げる。
マルコの目は、アンの目を見返してはおらず、自分の指の先を見つめていた。
感情の読みにくい細い目。
マルコの指先は、アンの頬に線を引くように、こめかみのあたりから口元までなぞった。
二本の指がさらに顎先まで到達すると、またこめかみへと戻る。
それを何度も繰り返す。
その淡々とした仕草を、アンはただ黙って受け入れた。
マルコの目がまるで書類にひたすらサインしていくときのようであれば、「なにしてんの」と声をかけることができたかもしれない。
それができなかったのは、マルコの目が、アンさえも見たことのないものだったからだ。
いつのまにあたしは、マルコの細い目の奥でちらつくほんの少しの変化を捉えることができるようになっていたんだろう。
「……マルコ?」
おそるおそる、名前を呟くと、マルコはゆっくりとアンに視線を合わせた。
そして、子供をなだめすかせるときに浮かべるような笑みを浮かべた。
思わず息を呑む。
しかし次の瞬間に煌めいた凶暴にさえ見える目の光が、またたくまに再びアンを飲み込んだ。
マルコの高い鼻先が、アンの頬骨にぶつかる。
口の中で蹂躙する舌が、逃げるアンを絡め取る。
頬に添えられていた手のひらが、アンの首筋に貼りついた。
熱い。
マルコの4本の指が首裏に回り、アンの細い首は大きな手に握られていた。
このまま、マルコが親指に力を込めれば、あっという間にアンは絞殺される。
ロギアだという逃げ道は、覇気を使うマルコには通用しない。
命が素手で握られている感触がした。
マルコはきっと今、アンの命を握る手触りを感じているに違いない。
マルコに殺されて、ここで命が終わるとしたら、あたしは赦せるだろうか。
今死んだことを。
マルコに殺されたことを。
それでいいと思った自分を。
そんなわけあるかバカヤロー、と細首を握るマルコの手首を、アンは思いっきりつかんだ。
一瞬、深く差しこまれていたマルコの舌が驚いたように身を引いたが、すぐにまた深く侵入を続けた。
マルコの口角が、少し上がっているような気がする。
マルコの手首をつかんだものの、どうすればいいのかわからない。
太くは見えないのに、アンの指が作る輪の中にマルコの手首は収まらなかった。
硬い骨の感触が、手のひらにじかにつたわる。
ふと握る力を弱めて、マルコの手首から肘へと伝う血管を手探りで探した。
あった。
筋肉の盛り上がりに沿うように、緩やかなカーブを描きながら肘へと上がる太い血管。
それを人差し指で辿りながら、マルコの腕を擦るように上っていく。
肘に到達した。
肘の曲がる部分の内側が、汗で少し湿っている。
アンがそこを指でなぞると、まるで写し鏡のようにマルコの指もアンの首をなぞった
そのまま下へと降りていき、指は鎖骨の辺りにかかる。
いつのまにか、唇が離れていた。
とても近くに、マルコの静かな目がある。
マルコの腕に触れていたアンの手が、重力に負けて少しずり落ちた。
マルコの大きな手のひらは開いたまま、アンの胸の少し上、平らな部分に落ち着いた。
マルコの手は、珍しく熱い。
こくんと小さく喉を動かしたが、その動きはマルコの手のひらにすべて余すことなく伝わっているだろう。
ぱたんと、アンの手はシーツの上に落ちた。
「まだ、死にそうかよい」
しっとりと、湿った声だった。
アンはへへっと目を細くして、笑みを作る。
「ヨユー」
「言ってくれるよい」
マルコが不敵に笑い返したと思った瞬間、鎖骨の下にあったはずの手がアンの前髪を掴み、思いっきり下へと押し付けられた。
驚きに大きく見開いたアンの視界からマルコが消え、あっと思った瞬間には喉に鮮烈な痛みが走った。
「だっ……!!」
前髪もろとも額を押さえつけられて、頭は後ろへ反り返り、喉元がさらけ出されている。
マルコはそこにかぶりついたのだ。
いたいと言っているのに、喉に触れる硬い歯の感触が遠ざかることはなく、むしろより一層深く食い込んでいく。
マズイマズイこれはマジでダメだってマルコいたいいたいいたい血ィ出るダメヤバいいたいマルコもうムリやめていたい──
「っあ」
思いがけず、高い声が鼻から抜けるように出た。
その瞬間、首筋に食い込んでいたものがすっと離れた。
同時に押さえつけられていた額の手も離れる。
しかしきっと大きく歯形を残しただろうそこは、まだじんじんと鈍い痛みを残している。
アンは無意識にそこに手をやって、マルコを睨みあげた。
「なっ……なんなの!?ものすっごい痛かった!」
「その割にはいい声出てたよい」
「ハァ!?」
なんのこと、と問いかけた矢先、再びマルコが視界から消えた。
しかし今度は前髪を押さえつけられたわけではなく、マルコの頭が下へと引っ込んだのだ。
頬と顎のあたりにマルコの髪が当たるくすぐったさを感じたのと同時に、首筋を抑えていた手の指と指の間、魚人ならば水かきがあるだろうそこを生暖かいぬるりとした感触が滑った。
アンが驚いて手を浮かせると、すかさずマルコの手がそれを掴みシーツへ縫い付ける。
そして生暖かいものは、アンの首筋に直接触れた。
それがマルコの舌だと思い当たった瞬間、歯型のある部分を舐め上げられた。
うわぁともぎゃぁともつかない、もっと甲高いような声が喉の奥からほとばしった。
聞いたこともない自分の声にドキドキする。
「マルっ」
「余裕はどこ行ったんだよい」
首筋に舌を当てたままマルコが喉を震わして笑う。
そんなこといったって、と反論にならない言葉を小さく呟いても、見えるのは天井だけだ。
湿った生暖かさが喉の一番高いところを通って、アンの口から小さな悲鳴が漏れたそのとき、腹の辺りを這い上る何かの気配に気付いて背中が粟立った。
アンの右手を抑え込むのとは逆のマルコの手が、アンの剥き出しの腹を撫でる。
ひぁ、と喉の奥がひくついた。
いつのまにか歯型をなぞっていたはずの舌先が、鎖骨の辺りまで降りている。
アンはまるで天に救いを求めるように、上へと手を伸ばした。
しかし掴んだのは、マルコのシャツの裾。
アンを追い詰めるそのものに助けてとすがるなど馬鹿げている。
そう思いながらも、マルコの舌先が谷間に流れたアンの汗を追いかけるように下へと滑っていく感覚に耐え切れず、アンは手にした布地を強く引っ張った。
カクン、とマルコの腰が数センチアンの方へと引き寄せられる。
「う……」
「どうしたよい」
「うぅ」
至近距離で問われた声に、アンは呻き声でしか答えられない。
堅く目を閉じて、ひたすら首を横に振った。
手に握りこんだシャツを離すことができない。
アンはマルコが解放した手を顔の前に持っていき、腕で顔を隠した。
もうなにもわからない。
マルコのキスや身体を撫でる手のひらが、アンの五感をすべてどこかへ持って行ってしまう。
脚の先から頭のてっぺんまでぞわぞわと細かな粒が這い登るような、慣れない感覚に戸惑って、力は入らず、変わらず息が苦しい。
腕で顔を隠していても、じっとマルコが見下ろす視線は肌に沁み込んでいるように感じられた。
不意に、アンの手首にマルコの指が触れる。
折れやすい小枝をそっと持ち上げるときのような柔らかい触れ方。
アンの腕が、マルコによって顔の前から外された。
「マル…」
「よっと、」
マルコの小さな掛け声とともに、ふわりと体が浮かんだ。
えっと声を出す暇もなく背中がシーツから離れ、思わず目の前にあった肩に手を置いた。
アンの足はマルコの腰をはさむような形で、いつのまにかアンはマルコに向かい合って、マルコの胡坐をかいた足の上にぺたんと座り込んでいた。
マルコが持ち上げてそうしたのだと気付くのに、一瞬の間があった。
「マルコ?」
マルコは笑っているようにも、怒っているようにも困っているようにも、はたまた無表情のようにも見えた。
いろんな感情が混ざると、表情はなくなるのかもしれない。
マルコの手のひらが頬に触れた。
アンの顔は、マルコの手のひらの付け根から指の先までの間に収まってしまう。
軽く見上げる形でマルコと視線を合わせると、ゆっくりと唇が重なった。
先程の、貪り食われるような勢いはなく、ゆっくりと、唇の表面を食まれる。
それがマルコの気遣いだとしたら、本当に器用な人だと思った。
アンはそろそろと腕を伸ばし、マルコの首に両腕をかける。
そのまま抱き込むように引き寄せると、マルコのほうもアンの腰に手を回して引き寄せた。
身体の表面がすべてくっついているような感じがした。
構造も違う、凹凸のあるべき場所も互いに違う、感じ方も、呼吸のリズムも、目に映る景色も重なることはない。
それでも、どこか一部でも重なっていなければ、こんなに温かい気持ちにはなれない。
その一部が目に見えるところとは限らないからわからないだけで、きっとマルコとはどこかが重なっているに違いない、とアンも柔らかい唇をはさみ返しながら思った。
触れたときと同じく、ゆっくりと離れる。
アンはマルコの胸に顔をうずめて、マルコはアンの頭を胸に抱きこんで、離れたら二度と手に入らないものに執着するように、互いが互いを引き寄せて抱き合った。
厳粛な儀式のように、静かで、声もなく、当たり前に波の音だけが聞こえた。
マルコの肌はアンのそれに良くなじみ、ぴたりと吸いつく。
皮膚の向こう、張り巡らされた細い血管のその先、硬い骨といくつもの臓器に守られてマルコの心臓が動く。
鼓動は血を震わせて、鼓膜を通り抜け、アンの体内を駆け巡る血に溶けあってアンの心臓へと届いた。
シャツが邪魔だ。
アンの手がマルコの腰から、シャツを捲り上げるように背中側に滑り込むのと、マルコの手がアンのホルターネックの頼りない紐に手をかけたのは、ほぼ同時だった。
*
どん、と突き上げるように大きく船が揺れた。
いつのまにかシーツの波へと逆戻りしていたアンはその衝撃を背中に受け、マルコはベッドに片肘をついて体を支えた。
逆の手はアンを抱き込んでいる。
「……なんだろ」
「さぁ、寝ぼけた海王類でもぶつかったんじゃねェか」
「1・2番隊出動、とか言われないよね」
「見張りが何も言わねぇんだ、大丈夫だろい」
それでもアンは耳を澄ますように、窓の外の深い闇に神経を尖らせた。
マルコがよそ見をするなと言わんばかりにアンの太腿の裏を撫でたので、アンの集中はすぐに途切れたのだが。
吐き出す息が熱い。
首筋にかかるマルコの息が熱い。
体中を這い回るマルコの手も熱い。
自分の頬も熱かった。
ずっと、涙の薄い膜が張っているように視界がぼやけている。
ごしごしと目の辺りをこすっても、視界ははっきりしなかった。
マルコの顔がよく見えない。
不意に、腰が持ち上がった。
なんだろ、と問うようにマルコを見ると、霞んだ視界の中でマルコが困ったように眉を下げて少し笑うのが見えた。
なんとなくただならない空気を感じて、アンはごくりと生唾を飲む。
汗に濡れて、海藻のようにうねって頬にかかったアンの髪を、マルコが耳の後ろまで掻き上げてくれた。
同時に頭を撫でるように手が動き、心地よさに目を細めると、マルコは黙って頭を撫で続けてくれた。
自分が猫ならゴロゴロと喉が鳴っているに違いない。
アン、と半分掠れたような声が呼びかける。
マルコの指がアンの目元をぬぐうと、霞んでいた視界が晴れた。
「アン」
マルコが言葉を探しているように見えたので、アンはその顔をじっと見上げて待った。
しかし言葉は見つからなかったのか、必要ないと見限られたのか、マルコは開きかけていた口を閉ざした。
マルコはまずアンの左手を掴み、自身の背中に回させる。
反対の腕も同じようにした。
アンはされるがまま、わけもわからずマルコの背中に両腕を回してすがりつくようになっている。
軽いキスが降ってきて、唇が離れたと思った瞬間、突き上げられた衝撃に体がずり上がり、喉からは音にならない悲鳴が溢れた。
必死で、溺れたときにそうするように、マルコの背中にしがみつく。
しかし手が引っ掛かるところがなくて、考える余裕もなく爪を立てた。
下腹部の、想像も絶する場所の痛みに声も出ず呼吸が難しい。
裂ける裂ける、どこかわかんないけどどっか裂ける、と言葉より先に自身のピンチを知らせる声が脳内に響き渡る。
口を開けてもうまく空気が入ってこないので、逆に強く歯を食いしばってみた。
きゅぅ、と意味のない音が漏れる。
「アン」
遠くから、名前を呼ばれた気がした。
「おい、アン」
遠くない。ものすごい近くだ。
強く瞑っていた目を開けると、今度こそ本物の涙の膜によって遮られながらも、マルコの顔が見えた。
「大丈夫かよい」
必死で首を振る。横に。
意地を張る義理も余裕もない。
マルコは困った顔で、アンの目じりに浮かぶ水滴を、額に乗った汗の玉を拭ってくれた。
「ど……どうなってんの、今」
「入ってる」
端的に帰ってきた答えの意味を理解するのに、数秒要した。
理解したものの、だからと言って返す言葉もない。
金魚よろしくぱくぱくと口を開いたり閉じたりしていると、また名前を呼ばれた。
「もう、やめてもいいけどよい」
「や……やめたらどうなんの」
マルコは一瞬考えるように視線を彷徨わせたが、
「別に、どうにも」
と答えた。
「でも……今、やめたら、さ」
「ん?」
「もう二度とできない気がする」
アンは、自分としては必死の形相のはずなのだが、何故かマルコは一拍きょとんとして、そしてくつくつと笑いだした。
「あァ、そうかい」
「た、達成感ないっていうか……」
マルコはひとしきり笑っていたかと思うと、不意に身じろぎしたので、アンの下腹部にまた鋭い痛みが走った。
ひっ、と思わず声を漏らしてマルコの肩に掴まる。
これからやってくる痛みを、本能に近い部分が察知して、アンに歯を食いしばれと指令を出す。
しかし予知した痛みより先にやって来たのは表面に触れるだけのようなキスで、そちらに意識を引っ張られた瞬間また衝撃がやって来た。
*
マルコの背中を濡らす汗が、アンの手が引っ掛かるのを邪魔するようで憎々しい。
痛みを噛みしめていた口元は、いつの間にか浅い呼吸を繰り返す場所へと変わっていた。
律動が、アンの呼吸と、鼓動と、すべてのリズムを刻むものとリンクする。
その一定の音の狭間で、時折聞こえる苦しげな声がマルコのものだと気付いたときは驚いた。
まるで意思とは別のところから出ているようなその声は、アンの知らないものだった。
もしかしたらマルコ自身、知らないものかもしれない。
突然、マルコがアンの肩を片手で抱き込み持ち上げた。
そして、締め殺されるかという勢いできつく抱きしめられる。
下腹部を貫いていた存在が、音を立ててアンの中から消えた。
終わりを伝えるような深い吐息が耳元に落ちてきて、なぜだか、止まっていた涙が滑り落ちた。
しばらくの間、マルコはアンの肩に額を当てて息を整えていた。
アンも、マルコの背中に回していた手をぱたりとシーツの上に落として力を抜いた。
太腿の間がぬるぬるする。
「マ、マルコ」
マルコは重たそうに、頭を持ち上げた。
虚ろともいえる目が、ゆっくりとアンに焦点を合わせる。
大丈夫か、と問われた気がして、黙って頷くとマルコの目元が少し緩んだ。
「……マルコは?」
「あァ」
大丈夫だと伝えるように、軽く唇が重なった。
その一瞬前、ごめんなと聞こえた気がして、アンはマルコを見上げた。
目で問うアンとわざと視線を合わさないように、マルコはアンの頬にも唇を落とす。
風呂入るかよい、とかすれた声が呟いた。
「うん、汗と……なんかべたべたする」
シーツもそれらにまみれているだろうから、洗わなければいけない。
しかし身体は、いっこうに起き上がって風呂場に向かったりはしなかった。
マルコも起き上がる気配はない。
たとえ汗まみれで不快だとしても、もう少しこのままここにいたかった。
マルコはアンの隣に、ごろんと倒れ込むように横になった。
しかし抱き込んだアンを離すことはない。
そのことが、どうしようもなく嬉しかった。
マルコの手を振り払ったことも、顔を背けたことも、声を荒げて拒絶したことも全部覚えている。
同時に、ひたすら追いかけ続けたことも、厭われてもめげなかったことも、好きだと叫んだことも全部本当のことだ。
頭を反らせてマルコの顔を覗き込むと、マルコが気付いて腕の中のアンを見下ろした。
特にいうことも思いつかなかったので、曖昧に笑ってみた。
マルコは、片眉を上げて応えたが、同時に緩く笑い返した。
この顔だ。
あたしだけのマルコ。
マルコだけのあたしは、きっと同じ顔で笑っているに違いない。
誰かをいつくしむ顔。
いとしいと思うこと。
アン、とマルコが首を縮めるようにして耳元に唇を寄せてきた。
何かが囁き声で呟かれたが、掠れたマルコの声では聞き取れなかった。
もう一度、というつもりで曖昧に笑うと、マルコは静かに口角を上げるだけで、もうなにも言わなかった。
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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