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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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パンパンと手を叩いて、はい注目、とみなに呼びかける。
あるものは口にパンを咥えて、あるものはスプーンを片手に、またあるものは見向きもせずに咀嚼を続けて──
 
 
「注目って言ってんでしょうが食うのをやめろっ!」
 
 
あたしは隣で大忙しに食事を続けるルフィに拳骨を落とした。
その拍子にルフィの口から食べかすがぶっと飛び出し、向かいに座るウソップが悲鳴を上げた。
あぁ収拾がつかない、と頭が痛くなるが毎度のことだ。
あたしは声の調子を整えてから、構わず続けた。
 
 
「このままいけば明日の昼前に、次の島に着きます」
「おぉっ!!」
 
 
ルフィを含む全員の目がきらきらと光り、喜びのどよめきが上がった。
 
 
「なんて島だ!? 季節は!?」
「ちょうどいい、そろそろ刀を手入れに出してェと思ってた」
「火薬が切れかけてたんだ、新しい部品も調達したいところだぜ!」
「ナミ―!オレ本が買いたい!」
「テメェらうるせっ! ちゃんと最後までナミさんの話を聞けっ!」
 
 
好き放題話し始めた男共を、サンジ君が配膳のついでに背後から順に蹴りつける。
それで? と静かでよく通る声が促した。
 
 
「はい、気候は春島季節は冬。医療の研究が盛んで、いくつか病院や施設があるんだって」
 
 
ほんとかナミ! とチョッパーがつぶらな瞳をくりくりと輝かせた。
あたしはまぁ落ち着いて、と立ち上がった彼を座らせる。
 
 
「専門のお医者さんを求めて、患者さん自らこの島に足を運ぶことも多いんだって。症例毎や、子供のための施設もあるみたい」
「うおお、勉強になりそうだ!」
「そりゃまた現代的な島だな」
「街並みの雰囲気は普通の港町みたいだけどね」
 
 
ごほんと咳払いをして、すっとみんなの前に握った右手の拳を差し出した。
6本の細い紙片を握っている。
 
 
「はいいつもの。順番に引いてください」
「なに?」
 
 
疑問の声を上げたのはロビンだ。
あぁロビンはそういや初めてか、とウソップが講釈を垂れる。
 
 
「寄港するときはくじを引くんだ。あれに、上陸中の各自の仕事が割り振られてる。だいたい見張りの当番とかその程度だが、運が良けりゃあ寄港中ずっと自由だし、運が悪けりゃ、ま、引いてみりゃわかるか」
「そゆこと。ちなみにログは6日間で出航は一週間後ね。はいじゃあルフィから」
「おう」
 
 
ぴっとルフィが紙片を引き抜く。
ゾロ、ウソップ、チョッパー、そしてロビンが引いて、最後にあたしの手に残ったものをあたしも覗き込む。
各々の口からそれぞれの感想がこぼれだした。
 
 
「コックさんは引かないのね」
「サンジ君は決まった仕事があるからね、免除。さ、みんな仕事は確認した?」
「おれ三日目の見張り以外自由だ!」
「ちっ、荷物持ち……」
「おれ様も見張りだけ、さすがのくじ運だな」
「買い出しの手伝い、ってことはサンジの手伝いだな!」
「私の何も書いてないわ」
「ロビンのは当たり! あたしも見張りだけっと。はい、じゃあ仕事も決まったところで」
 
 
ロビンを除くみんなの目が、きらりと期待に光った。
ポケットから重たい布袋を取り出す。
 
 
「おこづかいを配ります」
「ィヨッシャー!!」
 
 
わっと歓声を上げて、男共は行儀よくあたしの前に縦に整列した。
こんなときだけ扱いやすい。
 
 
「はいルフィ」
「やった、肉買うぞ!」
「ゾロ」
「少ねェ」
「文句言うな! はいウソップ!」
「お、サンキュ」
「サンジ君。こっちがおこづかいで、こっちが食費用ね」
「ありがとナミさん」
「チョッパー」
「ありがとう、おれ、医学書買うんだ!」
「で、ロビンね」
「ありがとう……でも私の、みんなより少し多いみたい」
 
 
少しどころではなく、ロビンに渡したおこづかいはみんなのものに比べてずっと厚みがある。
えぇーっ! と途端に不満の声が上がった。
 
 
「ずりぃぞ! なんでロビンだけ」
「うるさい! ロビンは今回初めての寄港なんだから、いろいろ買うものがあんの! 女の買い物なめんじゃないわよ」
「それはよぉく知ってる」
 
 
ウソップが呆れ顔であたしを見たので、なによと睨みつけておく。
とにかく、と仕切り直してみんなを見た。
 
 
「いつも通り、無駄遣いはしないこと! ルフィとゾロはちゃんと服を新調してくること! 島の治安は悪くはないけど、駐在所くらいあるでしょうからはめを外さず大人しく楽しむこと。食事の都合はちゃんとサンジ君に伝えて、必要出費があればあたしにきちんと申し出ること。以上、質問は?」
「ナーシ」
「よろしい」
 
 
あたしが席に着くと、みんなもそろって食事を再開した。
そろそろデザート行くか、とサンジ君はテーブルを離れる。
ひとまず任務終了、とスプーンを手に取って、スープに浸かったじゃがいもを口に運んだ。
冷めてもおいしいんだものね、と咀嚼をするあたしに、ロビンがそっと顔を寄せてきた。
 
 
「お願いがあるのだけど」
「うん? なあに」
「またあとで」
 
 
ロビンは伏し気味の目でかすかに笑みを浮かべて、自分の席へと戻っていった。
その姿を目で追って、ううんなんだろうと首をひねった。
あとでと言うからには、あとでなのだろう。
なんだろう、おこづかいがまだ足りないとかじゃないでしょうね、などと思っているうちにデザートが運ばれてきて、そちらを心行くまで楽しんでいれば夕食はいつもの如く驚くほどの速さで過ぎていった。
 
 
 

 
 
「おいナミー、ロビーン、風呂沸いたぞー!」
「はぁい! ロビン先入って来ていいわよ、あたしまだ日誌書きかけで」
「わかったわ、じゃあお先に……ああそう、航海士さん、先ほどの話だけど」
 
 
そうだった、忘れてた。
なあに、と振り返ると、ロビンは少し離れたところで着替えを抱えて突っ立っている。
言い淀むように、下方に視線をさまよわせていた。
 
 
「なによ、もじもじしちゃって」
「もじもじなんて──あの、航海士さん、お願いが」
「それはさっき聞いたわ。もう、さっさと言っちゃいなさいよ」
 
 
じれったいので乱暴に急かすと、ロビンは黒い宝石のような目をあたしに向けて、口を開いた。
 
 
「お買い物に付き合っていただけないかしら」
「え? 買い物?」
「その、あなたも言っていたように、私買うものがたくさんあるでしょう。でもわからないの、私、何が必要なのかわからなくて」
 
 
あたしはぽかんと口を開けて、長身の彼女を仰ぎ見た。
常にしなやかな柳を思わせる彼女の口調が言い淀んでいることに驚いたのだ。
あたしがなにも言わないので、ロビンは困った顔でまた視線を下げた。
 
 
「別に無理にとは言わないの。この船に航海士さんはあなた一人だもの、忙しいのはわかって」
「あ、ヤダちがうって。買い物ね、いいわよ一緒に行きましょう」
 
 
ロビンは見るからに安心して、固い頬をようやく緩めた。
彼女のこんなにも素直な表情の変化を見るのは、初めてかもしれない。
 
 
「それじゃあ私お風呂に」
「うん、いってらっしゃい」
「……ありがとう」
 
 
ロビンは最後に花を思わせる可憐な笑みを見せて、女部屋を出ていった。
彼女を見送ってからも、しばらく閉まった戸を眺めつづける。
 
買い物だなんて、頼むようなことじゃないのに。
そもそもあたしはせっかく久しぶりのショッピングなんだから、女二人でお店めぐりもいいわね、なんて勝手に考えていたりもした。
前もって申し入れないと、一緒に買い物も行けないと思ったのだろうか。
 
何事にも通ずる彼女が、こんな回りくどい関わり方をしてくるなんて。
そう思うと、急にロビンがかわいく思えてきた。
上陸後の買い物では、目一杯ロビンに勧めて買わせてみるのもいいかもしれない。
 
悠長にそんなことを考えていたら、ロビンが風呂から上がってきてしまう。
いけないいけない、と慌ててペンを取った。
 
 
 
風呂上りのロビンが戻ってきて、入れ替わりにあたしもお風呂へと向かった。
春島の海域は夜が冷える。
入浴は欠かせない。
サンジ君を除く男共は毎日入らずに、よくも平気なものだ。
 
ほかほかと蒸気をのぼらせて、夜の甲板を横切った。
やっぱり空気は冷えていたが、外に出たついでにと星と雲の動きを確認しておく。
よし異常なし、と踵を返したところで、ちょうど船室の扉が開いた。
その向こうはキッチンだ。
扉を開けた男は、あたしを捉えた途端相好を崩した。
 
 
「風呂上りのナミさんはますます艶やかだなァ~」
「ハイハイそれはどうも……あ、片づけご苦労様」
 
 
サンジ君は煙草を挟んでいない方の口端をにっと釣り上げて笑った。
 
 
「ナミさんに労わってもらうと明日もますます頑張れるぜ」
「あっそ、そりゃよかったわ」
 
 
じゃあおやすみ、とあたしはさっさと彼の隣を通り過ぎる。
引き止められるかと思ったが、返ってきたのは「おやすみ、また明日」と言う心地いいほど穏やかな低音だった。
思わず立ち止まって、振り返ってしまう。
あああたしのバカ、と思うがもう遅い。
サンジ君はんっ? と目を丸めた。
 
 
「早く中入んねぇと風邪ひくぜ? 今日は一段と冷えるな」
 
 
あぁそういうこと、とあたしは足を止めた自分にせせら笑う。
そうねおやすみなさいと言うと、あぁおやすみ、と彼はまた言った。
しかしあたしの歩はまたたった数歩で止まる。
今度は彼が呼び止めたのだ。
「そうだナミさん」と。
 
 
「なに?」
「賭けしねェ?」
「賭け?」
「そう、おれと」
 
 
真意を測りかねて、あたしは眇めた目をサンジ君に向けた。
サンジ君は依然にこにこと愛想がいい。
サンジ君はおもむろに後ろのポケットに手を突っ込み、何かを引き出した。
お札だ。
あたしが今日渡したお小遣い、否、あれは食費用の方だ。
サンジ君はその数枚の札束からたった一枚を抜き出すと、残りをあたしに差し出した。
ますます怪訝な顔になる。
 
 
「こっちは返す」
「どういうこと?」
「オレは明日の島で、この一千ベリーだけで次の航海分の食料をまかなってみせる」
 
 
は、と口をついた疑問が白い息になって空中に浮かんだ。
ちょうどあたしのはてなマークを表している。
 
 
「何言ってんの、そんなことできるわけ」
「もしおれがそれをできたら、上陸の最後の一日だけ、ナミさんにはオレの言うことをきいてもらう」
 
 
ひゅっと短く、冷えた空気を吸い込んだ。
絶句だ。
あ、あんた、とようやく言葉が漏れるまで、少々時間を要した。
 
 
「あんた、まだ諦めてなかったわけ」
「逆に聞くが、オレがナミさんを諦めると思ってたわけ」
「だ、だって」
 
 
サンジ君は面白がるように片眉を上げて、あたしの顔を覗き込んだ。
だって、に続く言葉を飲み込んであたしは唇を噛む。
そんなあたしを見下ろしながら彼はいつもの苦笑を浮かべて、言い淀むあたしを救った。
 
 
「いや、ナミさんビビちゃんが船降りて、やっぱしばらくへこんでただろ? ロビンちゃんが来てくれたからまだよかったものの、やっぱりな。それからすぐにやれ黄金郷だやれ空島だっつって、ナミさん頭使ってばっかだったし。そんな時に口説いたってうざってぇだけかなぁって」
 
 
彼はへらりと笑って、今まで控えめにしてきたラブコールの理由を打ち明けた。
 
 
「……あんたって、本当変なところに気を回すのね」
「惚れた?」
「なんでよ」
 
 
フンと顔を背けるあたしに、サンジ君は「それで」と一歩詰め寄った。
 
 
「どう? 乗らねェ?」
 
 
あたしはすぐさま、そんなもの、と突っぱねるつもりだった。
それでも口ごもったのは、賢いあたしが待てよとストップをかけて大急ぎでそろばんをはじき始めたからだ。
 
彼がもしその賭けに失敗したとしても、損得勘定で言えば何ら困ることはない。
そしてもし、万一成功したとしたら、つまり千ベリーで次の航海の食費をまかなえたとしたら、それこそ大助かりだ。
問題は彼が出した条件、最終日に彼の言うことにあたしが従わなければならないということで──まったく、なんて俗っぽい条件だろう。
 
 
「計算高いナミさんも素敵だ」
 
 
サンジ君は明らかに面白がって、あたしの言葉を待っていた。
考えて考えて、頭の中のそろばんをこれでもかと弾き、ええいと口を開いた。
 
 
「──わかった、乗るわよ」
「さすが、そうこなくちゃ。言っとくけどナミさん、最後になってトンズラこくとかなしだぜ」
「わっ、わかってるわよ! 女に二言はないわ」
「ヨシ」
 
 
満足げなその顔を、目一杯嫌な顔を作って見上げる。
そしてアッと気付いて声を上げた。
 
 
「そうだ! もしあんたが失敗したときの条件聞いてないじゃない! もしあんたが負けたら、アンタはあたしに何してくれるのよ」
「あぁ」
 
 
まるで考えていなかったというふうなサンジ君に、あたしはああ危ないと息を切らす。
負けるわけがないと自身に溢れたようなその態度が悔しい。
 
 
「なんでもいいよ、そうだな、オレの全貯金はたいてナミさんが欲しいもの、買おうかな」
「言ったわね、絶対よ」
「男に二言はねぇな」
 
 
顎鬚を撫でながらにやりと笑うサンジ君をじと目でにらんでも、その顔は涼しい。
彼はおもむろに手を伸ばして、半乾きのあたしの髪を手に取った。
 
 
「楽しみにしてるよ」
「……無理よ、どうせ」
 
 
サンジ君は不敵にも紳士的にも見える笑みを浮かべて、髪に口づけた。
 
 
「おやすみナミさん」
「たっかいモノ請求してやるわ。……おやすみ」
 
 
彼の手がするりと離れた。
間近で澄んだ碧眼がにっこりと笑い、そのまま遠ざかった。
 
 
部屋に戻ると、ロビンが「ずいぶんゆっくりしてたわね」と微笑んで、ブレスダイヤルを手渡してくれた。
髪を乾かしながら、覚悟しなさいよ、絶対高いもの買わせてやる、と胸のうちでやたらと意気込む。
 
翌日目を覚ますと、ロビンが「あなたダイヤだとかルビーだとかぶつぶつ寝言で、怖かったわ」と寝不足気味の目をしばたかせて言った。
 
 
 

 
昼食を目前にしたその日の昼前、予定通り島を発見した。
浮足立つクルーたちに檄を飛ばして、一斉に寄港の準備を始める。
船は裏海岸の殺風景な入り江に接岸した。
 
 
「よーし上陸だァ!」
 
ルフィが鬨の声を上げ、我先にと船を飛び下りた。
ルフィに続きウソップ、チョッパーが、そしてゾロが続々と船を降りていく。
今日の見張り当番はあたしだ。
上陸初日に、と思うとがっくりするが、半日であることを思えばお得感はあるのでいいとする。
 
 
「私も少し街の様子を見てくるわ」
 
 
そう言って、ロビンも厚いコートを羽織って船を降りた。
振り返って手を振った彼女に、船の上から『買い物は明日ね』と口だけを動かす。
ロビンははにかむような笑みで頷いた。
 
 
さて残るは、と振り返った。
ちょうどタイミングよくサンジ君が、うう寒いと低く唸りながら首をすくめて船室から出てくる。
 
 
「クソ、あいつら何も言わねェけど昼飯いらねぇんだろうな」
「勝手に食べてくるでしょうよ。ね、あたしのは?」
「あぁもちろん、ナミさんのは作ってあるよ。今ならまだ温かい、もう食う?」
「サンジ君は?」
「オレもちょっと出てくるけど、まぁすぐ戻るかな」
「そう、それじゃあそのとき一緒に食べようかな」
 
 
何気なくそう返したのだが、サンジ君の頬がでれんと緩んだのでしまったと思った。
 
 
「んナミさんオレとふたりでランチしてくれるのかい? すぐ帰ってくるよダーリン」
「ふたりで、を強調するな! 先食べちゃうんだからね!」
「あぁ待って待って、本当すぐ帰るから待ってて? オレが温め直すから」
 
 
機嫌直して、と宥めるようにサンジ君はあたしと視線の高さを合わせた。
 
 
「……いいから早く行けば」
「行ってらっしゃいのキ」
「早く行け!!」
 
 
半ば追い出すように船から降ろした。
 
 
 

 
ひとりになったあたしはキッチンでお茶を入れて、すぐさま女部屋に引っ込んだ。
船が錨をおろして静かなうちにできるだけ海図を書き留めておこう。
貴重な時間だ。
見張りと言えどこんな寒い中女の子を外に放り出しておくなんて冗談じゃないわ、と言うのが本音である。
 
カリカリとペン先を動かした。
インクのにおいと、紙をこする乾いた音だけが時折五感を刺激する。
夢中で時間が過ぎていた。
ぐぅとお腹が鳴ったのは、午後の一時を回った頃だった。
 
辺りは変わらず静かだ。
船にはあたししかいない。
完成したジャヤへの海図を紐に吊るすと、ううんと伸びをして出口へ向かった。
そろそろサンジ君に帰ってきてもらわないと、本当に先にお昼を食べてしまいそうだ。
 
甲板に出ると、白い粉がちらちらと舞っていて驚いた。
これを見るのはドラム以来だ。
 
 
「やだ、どうりで寒いと思った」
 
 
独り言だって言いたい放題だ。
腕をこすりながら船首へと近づいた。
 
 
「ねぇメリー、コックさんはまだ帰ってこないの? あたしお腹が空いて」
 
 
まだだね遅いね、ぼくもお腹が空いたよ──
勝手なセリフをメリーにあててみると、本当にそんな声が聞こえた気がして嬉しくなった。
いそいそと、コートを取りに部屋に戻る。
目一杯着込んで、手袋まではめて、船首の横から顔を出すように船縁に肘をついた。
メリーと肩を並べているような気になった。
 
 
「お昼は何なんだろう」
 
──サンジが作ってたね。
 
「温まるものがいいわね、そうね、サンジ君が温めるとか言ってたっけ」
 
──みんなお昼は帰ってこないの?
 
「たぶんね、『冒険』でしょうよ。ロビンが楽しんでるといいけど」
 
──ナミは?
 
「うん、あたしも明日は遊びに行くわ、ロビンと」
 
──サンジとの賭けも楽しみだ。
 
「あんたなんでも知ってるのね、ほんと……」
「ナミさん?」
 
 
完全に気を抜いて、だらりと欄干にもたれていたあたしは大仰に肩を揺らせてしまった。
振り返ると、きょとん顔のサンジ君が片手に袋を提げて立っている。
おかえり、という言葉がなかなかすぐに出てこなかった。
一人でぶつぶつ言っていたあたしはきっとかなり、おかしい。
あたしの独り言は彼にも届いていたことだろうが、サンジ君は少し垂れた目元をさらに緩めて、「ただいま」と笑った。
 
 
「お、おかえり」
「ちと遅くなっちまった、ごめんな。腹減ったろ」
「うん、もうぺこぺこ」
 
 
うわっと焦った声を上げて、サンジ君は「すぐ作るから!」と大慌てでキッチンへと駆けていった。
昨日彼が手にした千ベリーは、いま彼が手にしている袋の中身に変わったのだろうか。
 
 
少し遅れてあたしもキッチンへと出向くと、サンジ君はコンロに鍋を掛けながら、サラダ用のレタスをちぎっていた。
お皿だそうか、と声をかけると、ありがとナミさんと甘い声が言う。
なんかいいな、とサンジ君は呟いた。
 
 
「新婚みてぇだ」
「ハイハイ妄想お疲れさま」
「んナミさん、『ごはんにする?お風呂にする?それともわたし?』って訊いて」
「訊くか!」
「んじゃあナミさん、ごはんにする?お風呂にする?それともオレ?」
「ごはん」
 
 
つれねェなァー、とサンジ君はからから笑った。
彼の笑い声を呆れ顔で聞きながら、テーブルにパンの入った籠を置いてお皿を並べる。
温まったシチューを皿によそいながら、サンジ君はしあわせそうにたった一小節ほど、鼻唄を歌った。
 
 
いつもは7人が掛けるテーブルに、今日は二人分の食事の用意だけが並んでいる。
サンジ君はあたしの前にシチューとサラダを置き、そして自身の席にも同じようにセットする。
向かい合って、いただきますを言った。
 
一口食べて、あぁおいしい、あたたかい、としあわせで心地よい気持ちが溢れた。
いつものサンジ君の料理だ。
それなのに、どうしてだか違和感がふわふわと目の前を漂うような感覚が消えない。
サンジ君はごく普通にシチューを口へと運び、パンをちぎっている。
──あぁそうか。
 
 
「サンジ君がきちんと席について食事するの、すごく久しぶりに見た気がする」
「え、そう?」
「だっていつも給仕してばっかりでずっと立ってるじゃない」
「あぁー、いやそうでもねェよ? ちゃんと座って食ってるって」
「そうかしら」
 
 
彼はいつでも立ち働いていた。
彼の言うように一息ついて座る瞬間があったとしても、すぐさまどこからか「おかわり!」の声が飛んでくるのでゆっくり食べる時間などなかったはずだ。
 
せめて今くらいはゆっくり食べてほしい。
本音でそう思った。
 
 
「それで、買い物してきたの?」
「あぁ、午後はしばらく船にいるから、よかったらナミさん街見に行ってもいいよ」
「おこづかいで、じゃないわよねそれって」
 
 
サンジ君は昨夜の不敵な笑みを見せて、「内緒」と小さく言った。
 
 
「ま、楽しみにしててくれよ。最終日をさ」
「……言っとくけど、万一あんたが勝ったとしてもあんまりふざけた命令なんかしたらぶっとばすわよ」
「もちろん、心得てるさ」
 
 
サンジ君はおもむろにあたしに手を差し出した。
 
 
「おかわり、いる?」
「……いらない、止まらなくなっちゃうもん」
「嬉しいこと言ってくれんね。どう、一杯だけ」
 
 
あたしはおずおずと空のお皿を差し出した。
青い目が嬉しそうに細まった。
 
 
「で、ナミさんは昼間一人で海図描いて?」
「そうよ」
「メリーと話してたんだ」
 
 
あたしは受け取ったシチューの皿を危うく取り落としかけた。
熱ィんだから気を付けて、とサンジ君が慌てて支える。
 
 
「……やっぱり聞こえてた」
「そりゃ、だってナミさん結構でかい声でひとり喋ってんだもん」
 
 
サンジ君はからかうように片眉を上げた。
 
 
「で、メリーはなんて?」
「……サンジ君の貯金をどう使ってやろうかって相談してたの!」
 
 
ハハと笑ってサンジ君は床をとんとんとつま先で叩いた。
おいメリー、と呼びかける。
 
 
「オレが浮かせた金で、お前をクソきれいに治そうな」
 
 
その目は凪のようにやさしかった。
 
 
 

 
 
食事が終わると、サンジ君はあたしにお茶を入れて、自分はキッチンで何やら作業を始めた。
作業と言っても、無論彼のことなのでそれは料理だ。
サンジ君が買ってきた袋の中身を取り出すのを、あたしは後ろから眺めていた。
茶色い紙袋が大中小とみっつ、そしてりんごがふたつ。
たったそれだけだ。
 
 
「そっちの紙袋はなぁに?」
「んー、内緒」
 
 
背中で笑うサンジ君に、あたしは思いっきりかおをしかめて鼻に皺を寄せてみせた。
彼はリンゴを細かく薄切りにすると、それでコンポートを作り始めた。
そしてその片手間で、何やら生地をこねている。
あたしは何となく経過が気になったので、女部屋から一冊本を持ってきて座り直した。
上体全部を使って生地をこねる後ろ姿を、本を読む合間にちらちらと眺める。
どうするつもりなんだろう。
 
次第に、甘くて酸っぱい果実の香りが漂い始めた。
まさか今日のおやつを作っているだけじゃないわよね、とあたしは半目になって考える。
そうこうしているうちに彼は生地とコンポートを完成させると、それらでアップルパイの形成を始めた。
背中から見ていてもわかるしなやかな手つきで丸いパイを形作っていく。
そして、形成されたそれをオーブンに入れて、彼は「はいお楽しみー」と蓋を閉じた。
 
 
「どうするの?それ……」
「ナミさんのおやつは冷蔵庫に入れておくよ」
 
 
あたしの問いをするりとかわすように、サンジ君は見当違いなことを笑顔で答える。
知らないわ、と席を立った。
 
 
「部屋に戻るわ」
「ん、了解」
 
 
甘く焦げたにおいを背に、キッチンを後にした。
 
 
吊るした海図の乾きと出来を確かめてファイリングし、空島の白海、白々海の海図に取り掛かる。
あたしのほかに空に浮かぶ海を地図に描いた人がいるだろうか、と考えるとどうしようもなく胸がときめいて、また時間を忘れた。
あたしを現実に引き戻したのは、サンジ君のノックだった。
 
 
「ナミさん、おれちょっとまた出てくるよ」
「うんわかった……それは?」
 
 
サンジ君は片手で抱えるように、小さな包みを持っていた。
中身はバスケットだろうか、直方体を布が覆っている。
サンジ君はそれをポンポンと叩いて、にっと笑った。
 
 
「オレの秘密兵器」
「……なんだかよくわからないけど、とりあえずいってらっしゃい」
 
 
意気揚々と出かける彼を、あたしはわけもわからず見送った。
 
 
それから数十分後、まずゾロが帰ってきた。
物音で外に出たあたしに、ゾロはよぉと気のない挨拶をする。
腰に提げている刀が見当たらないので、本人が言っていた通り手入れに出してきたのだろう。
ゾロは一人「トレーニングでもするか」と呟いて甲板を横切ったが、不意に「ん」と鼻をひくつかせて怪訝な顔をした。
 
 
「んだ甘ったりぃな、クソコックがいるのか」
「さっきまで何か作ってたみたい。今は出かけてる」
 
 
フーンと鼻を鳴らして、ゾロはさっさと信じられない重さのダンベルを取りに倉庫へと引っ込んでいった。
時計を確認する。時刻はまだ4時前だ。
 
次に、ロビンとチョッパーが一緒に帰ってきた。
 
 
「おかえり、一緒にいたの?」
「帰り道で偶然。ね、船医さん」
「おう! オレは医療施設の見学に行ってたんだ。明日の約束も取り付けてきたから、今度はもっと奥まで見せてもらうんだ! っと買った本しまってこなくちゃ」
 
 
チョッパーは青いリュックを揺らしながら、男部屋へと降りていった。
濡れたように輝くその目は心底楽しそうだ。
表情に違いはあるものの、遺跡を前にしたロビンと似ている。
インテリコンビで気が合うのね、とこっそり笑った。
 
 
「どう、ロビンは楽しかった?」
「えぇ、活気があっていい街ね。食べ物屋さんも多いし、雑貨屋さんも……」
 
 
明日が楽しみね、とあたしが笑うとロビンもにっこり頷いた。
 
 
「コックさんは?」
「さあ、どこか行っちゃった」
「じゃああなた今日はずっと一人で? ご苦労様」
「ううん、お昼はサンジ君と一緒だったから……そうだ、おやつあるって言ってたっけ。食べない?」
 
 
ロビンを目で促してキッチンへと足を向ける。
ロビンは後に続いたが、「あなたのぶんしかないのでは」と淡々と言った。
だいじょーぶよ、とあたしは小さく笑う。
 
 
「あいつがあんたの分を作らないわけないじゃない。ほら」
 
 
冷蔵庫を開けると、琥珀色のゼリーがちんまりと二つ並んでいた。
器用にハート形にくりぬかれたリンゴが水泡のように浮かんでいる。
 
 
「うるさいやつが帰ってくる前に食べちゃいましょ。さ、ロビンスプーン取って」
「なんだか悪いことしてる気分ね」
 
 
そう言って、ロビンはこんななんでもないことにとても嬉しそうな顔をした。
 
 
 
夕暮れ時にウソップとルフィが帰ってきて、そのすぐ後にサンジ君が帰ってきた。
冒険するにはスリルがなさすぎるが、食いもの屋が多くていい街だーというのがルフィの感想で、ウソップはブリキ屋に行ったが閉店していたのでまた明後日に再挑戦だと意気込んでいた。
帰ってきたサンジ君は手ぶらだった。
「遅ェぞサンジ、メシー!」とルフィにへばりつかれてヘイヘイといなす姿はどことなく機嫌がいい。
結局なにをしてきたのかを聞くタイミングも見当たらず、みんなで夕食を取り明日の予定を確認しているうちに、その日は過ぎていった。
 
 
 

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白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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