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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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帰りはまた、ウソップがバス乗り場まで連れて行ってくれた。
ウソップは学校から家まで原付で帰っていく。
重たい原付を引っ張って、ヘルメットをもじゃっとした頭の上に乗せたまま私に手を振った。
 
 
「来たいときはいつでも来いよ。つって、お前も仕事忙しいだろうけど」
「うん、ありがと。またね」
「気を付けて帰れよ!」
 
 
ウソップは私がバスに乗り込むところまで見送ると、バスより先に原付にまたがってどんどん遠ざかっていった。
私はバスの一番後ろの二人席に腰かけて、窓の外を見る。
大きな大学の講堂を横目に、バスは動きだす。
橙色に染まっていく夕暮れ時の景色をうっとりと、というよりもぼんやりと眺めていると微かな眠気に襲われて、私は目を閉じた。
すると途端に、眩しい金色の髪色を思い出して私はハッと目を開けてしまった。
 
なに、いまのはなに、と私は人目を探すように辺りを見渡した。
バスの中は乗客が少なく、数名の美大生が前の方に座っている。
バスは信号に引っ掛かって、エンジン音を低く響かせながら停車した。
私はフラッシュバックのように襲われた映像にひとり驚いて、胸をどきどきさせている。
 
だって、あまりに綺麗な金髪だった。
目の色だって、あんなにはっきりとした青色。
 
私は色に弱いのか。
綺麗な色は好きだけど、だからといって綺麗な配色を持つ人を好きになるとは限らない。
だけどあの青年の持つ色に、私は確実に惹かれていた。
少なくとも、また会いたいと思うほどには。
 
 
 

 
丘の下でバスを降りると、ちょうど帰り道のルフィと行き会った。
 
 
「あ、おかえり」
「ただいま! 珍しいなナミ、どこ行ってたんだ?」
「ウソップの学校。あんた、送別会は終わったの?」
「おー、めっちゃいっぱい食ってきた。いいな、送られる側ってのは!」
 
 
陸上部だったルフィは、たくさんの後輩に別れを惜しまれたに違いない。
ルフィが彼らのセンチメンタリズムを理解できたとは到底思えないが、それなりの寂しさはルフィだって持ち合わせているはずだ。
しかしルフィは、唐揚げのにおいのするげっぷを吐きながら、「晩飯なにかなー」と呟いている。信じられない。
私たちは隣に並んで、丘を登り始めた。
薄緑色の家の壁が遠くに見えている。
 
 
「おれ、仕事始まったら家出ようと思う」
「え?」
 
 
突然の話に、私は思わず聞き返した。
聞こえていたからこそ驚いたのに、聞き返してしまう。
だってルフィがなんでもないことのように話すから。
 
 
「なんで、だってあんた、仕事先家から通えるじゃない」
「でも、街に住んだ方が近いし、それに社長に頼めば、社員の奴らの住む場所いろいろ考えてくれるんだってよ」
「社長さんが社員のためにアパートいくつか斡旋して、融通してくれるってこと?」
「難しいことば使うなよー」
 
 
ルフィが面倒くさそうに話を終わらそうとしたので、私は焦って「でも」と言葉を繋いだ。
 
 
「ベルメールさん、絶対そんなつもりでいないわよ。あんただって家にいたほうが、食べるもの困らないじゃない」
「おばさんにはおれがこれから話す。食いモンは、まあそうだけど。給料出るし」
「それでも」
 
 
私はあからさまに狼狽えて、歩きながら足元をきょときょとと見下ろした。
 
 
「あと、もしそういうアパートに入るんなら、一緒に住むやつも決まってんだ」
「え? 一人暮らしじゃないの?」
「おう。おれと似たようなやつが同居人探してんだってよ。おれはそこに入れてもらうだけでいい」
「なに、そんなの……」
 
 
そんなの、もう住む場所なんて決まってるんじゃないの。
ルフィは私にお構いなく、どこか楽しそうに話を続ける。
 
 
「そいつにも会ったんだ。でっかくてブアイソな感じだったけど、いい奴そうだったなー。おれは気に入ったからいいんだ」
 
 
私はどんどん近づいてくる家の壁を見つめて、ルフィの言葉を左から右に聞き流していた。
ルフィが家を出ていってしまう。
私は、私は──
 
 
「ナミ」
 
 
ルフィが私を呼んだので振り向くと、ルフィは私の一歩後ろで立ち止まっていた。
もうすぐそこに、家があるのに。
ルフィはほんの一瞬だけ、真摯な目をしたが、すぐにいつもの白い歯を見せる笑い方で、私に笑ってみせた。
 
 
「遊びに来ればいいじゃんよ、いつでも」
 
 
さあ腹が減った、帰ろうぜ、とルフィは私の手を取って、ずんずん家へと突き進んでいった。
ドアを開け「ただいま!!」とルフィが叫ぶと、気だるげにノジコが「おっかえりぃ」と返事をした。
夕飯はルフィの卒業祝いを兼ねて、唐揚げだった。
ルフィはとてもうれしそうに、全部平らげた。
 
 
 

 
ルフィの引っ越しは、そのままとんとん拍子に進んでしまった。
ベルメールさんは拍子抜けするほどあっけなくルフィの下宿を許してしまったし、下宿先は既に決まっているしで本当に話の展開は早かった。
引っ越しにはウソップが手伝いに来てくれることになった。
ベルメールさんとノジコは家から荷物をトラックに積むのを手伝い、あたしがトラックを転がしてルフィが助手席に乗る。
引っ越し先までウソップはやって来てくれるし、そこにはすでに住んでいるルフィの同居人がいる。
 
 
「そんじゃま、お世話になりました」
 
 
ルフィは深々と腰を折り、ベルメールさんと、ノジコと、小さな家と、みかん畑に頭を下げた。
ベルメールさんもノジコもなんの感慨もなさそうな顔で、はいはいとルフィの礼を聞き流した。
 
 
「お腹すいてどうにもならなくなったら、帰ってくんだよ」
「おう!」
「元気でな」
「おう!」
「行こうか」
 
 
私が促すと、ルフィは二人に大きく手を振りながら助手席に乗り込んだ。
車で30分もしない近くだ、いつでも会える。
私たちはいくつかの荷物と食料を乗せて、あっさりと丘を下って行った。
 
 
「あー腹減った」
「さっき朝ごはん食べてたじゃない」
「だって今から荷物入れたり、働くだろ? 考えただけで腹減るんだよ」
「あんたこれからそういう仕事するのに、だいじょうぶなの?」
「ううう」
 
 
ルフィは先行きの不安を思ったのか、唸り声をあげて窓に額をくっつけた。
がたがたと道が悪いので、ごつごつ額をぶつけている。
 
 
「あれだろ、引っ越ししたら、そば食うんだろ」
「あんたそういうことはよく知ってんのね」
「そば食いてェなあー」
「全部終わったら、みんなで食べようか」
「いいな、そうしよう!」
 
 
明るい声を上げたルフィと黙々と運転する私を乗せて、トラックは丘を下り、街に入った。
そこからさらに20分ほど車を走らせて、私たちはルフィの住まいへと到着した。
新しいとは言えないアパートだが、しがない新入社員には十分だろう。
2人住まいするのだから、部屋の広さもそこそこあるに違いない。
アパートの階段の傍には、既にウソップが立っていた。
ウソップとルフィは嬉しそうに「よぉ」とあいさつを交わし合う。
ふたりは歳も近いしいわゆるウマが合うというやつで、いつでも仲良くバカをやっている。
 
 
「さあ、ちゃっちゃと運んじゃいましょう」
「待てよ、まずは先に住んでるやつに挨拶すべきだろ」
 
 
ウソップが至極まっとうなことを言った。
それもそうね、と私たちはひとまずアパートの階段を上る。
部屋は二階だ。
ルフィが構わずドアを開けようとしたのを制して、ウソップがチャイムを鳴らした。
2回ほど鳴らしたら、中からドスンドスンと人の動く気配がした。
どん、どん、と重たい足音が近づいてきて、私は思わず生唾を飲み込んだ。
ドアが開く。
 
 
「……よぉ」
 
 
現れたのは、いかにも起き抜けと言った顔の男だった。
まだ若い。歳は私とそう離れていないはずだ。
しかし、印象的な緑色の髪とその険しい目つきに私は息を呑んだ。
ウソップも同じだったようで、固まっている。
ルフィだけが朗らかに「よーっす」と返した。
男は「来たか」と言った様子で、ドアを開け放ったまま中へと引き返していく。
ルフィがそのあとに続いた。
私とウソップは顔を見合わせ、ごくんと唾を飲む。
ルフィはいい奴と言っていたけど、何をもってそう判断したのだろう。
おそるおそると中に入った。
 
 
「あらかたスペースは空けておいたぞ」
「おう、サンキューな! さっそく荷物入れるぞ」
「ああ、手伝う」
 
 
ルフィの後に続いて部屋を出ようとした男は、そこでようやく私とウソップの存在に気付いたようだった。
む、としかめられた眉に私たちは意味もなく悲鳴を洩らしそうになる。
そうだ、とルフィが珍しく気が付いた。
 
 
「こいつはナミ、おれのねーちゃんみたいなもんだ。こっちはウソップ、ともだちだ」
 
 
そうか、と男は頷いた。
 
 
「ゾロだ」
 
 
よろしく、と手を差し出される。
ウソップがおずおずと握り、そのあとで私もなんとなく握手を交わした。
その手の分厚さに驚いた。
 
 
「さあー、そばまでがんばるぞ!」
 
 
ルフィがおかしな気合を入れて、部屋を出ていく。
私とウソップと、ルフィの同居人ゾロもそのあとに続いて、トラックから次々と荷物を運び始めた。
 
 
荷物はもともと多くはなかったが、それでも新生活に必要なものは何かと細々ある。
正直言って、荷物運びに関して私とウソップはほとんど役に立たなかった。
ルフィさえも、アイツすげーと目を剥く手際の良さでゾロがほとんどの荷物を運び入れてくれた。
本職が運び屋なのでそれもさもありなん、しかし速い。
重たい段ボール箱をいくつも重ねて片手で持ち上げ、もう片方の手にはいくつか紙袋をぶら下げ、そのまま階段をひょいひょいのぼっていくのだ。
立派なガタイは伊達ではない。
荷物は20分もしないうちにすべて、ゾロによって運び入れられてしまった。
私とウソップは役に立たなかった分を挽回しようと、荷物の解体に精を出した。
それはここにおいて、これはあっち、とルフィが勝手に場所を指示する。
ゾロは勝手にしろとばかりになにも言わない。
男の二人暮らしには少し手狭かもしれないが、不便はないだろう。
台所も使いやすそうで、清潔だ。
というよりゾロは自炊しないのだろうか、綺麗に片付きすぎている。
まあ男の一人暮らしなんてそんなもんか、と私は物珍しさに遠慮なく部屋の中を見渡した。
 
あらかた片付いたのは、昼の1時を回った頃だった。
 
 
「腹減った! もうだめだ!」
「おつかれー」
「おつかれさん、おれも腹減ったなあ、さすがに」
 
 
へたりこんだルフィとお腹を押さえたウソップ。
ゾロは何も言わないが、ルフィの引っ越しに巻き込まれて昼食を逃している。
私はお財布を持って立ち上がった。
 
 
「おそば作ろうか。買い物してくる」
「ナミが作るのか?」
「そばくらい作れるわよ。台所貸してくれる?」
「あぁ」
 
 
ゾロはどうでもよさそうに頷いた。
これはお腹が空いているに違いない、と私は踏んだ。
腹を空かせた若い男ほど扱いやすいものはない、ルフィを見ていてそう思う。
ここから一番近いスーパーはどこだろう、ゾロに訊いた方が早いかもしれない。
そう思った矢先、家の呼び鈴が鳴った。
私たちは一斉に、外につながるドアへと視線を走らせた。
 
 
「誰だ?」
「さぁ……」
 
 
首を傾げるルフィに、ゾロ自身見当がつかない様子で訝しげながらも腰を上げた。
私たち3人は、首を長く伸ばして玄関の方を覗き込む。
ドアを開けたゾロは、「テメ」と短く声を洩らした。
知り合いのようだ。
訪問者は、「よーっす」と呑気な声を上げている。
その声を聞いて、ウソップは「え!?」と腰を浮かせた。
 
 
「なに?」
「今の声……」
「知り合いか?」
「知り合いって言うか……」
 
 
ウソップは驚いたように目を丸め、玄関を覗き込むがゾロの背が盾になって訪問者はよく見えない。
ゾロは玄関口でその訪問者を追い返そうとしているようだった。
なにやら荒々しい応酬をしている声が聞こえる。
しかし、しばらくするとうんざり顔のゾロが戻ってきた。
そして、その後ろに続いて部屋に入って来た人の姿を見て、私は財布を掴んだ手を膝の上に落とした。
ウソップは「やっぱり」と目を見開いたまま呟いている。
金髪の青年は、「アッレー」と私たちを見てやっぱり目を丸くした。
 
 
「ゾロの同居人って、まさかお前? なんでこの子まで?」
「いや、おれじゃねぇけどよ……なんだよサンジ、ゾロと知り合いなのか?」
「おうよ、こいつが同居人が越してくるっつーし、気のよさそうな奴だって珍しいこと言うからよ。物見ついでに引っ越し蕎麦でもこしらえてやろうかと思って」
 
 
青年は片手にぶら下げたビニールの中身を、ホラと私たちに広げて見せた。
蕎麦麺が4束と、2リットルの容器に入った茶色い液体、そばつゆだろう。
 
 
「多めに持ってきてよかったなコリャ」
「テメェ勝手に……」
「んだよ、祝ってやろうってのに。テメェらも蕎麦食うだろ?」
「食う!!腹減ったー!!」
 
 
遠慮のないルフィの声に、青年は気安い笑顔を見せた。
 
 
「すぐできるからよ、ちょいと待ってろ」
 
 
青年は勝手知ったる人の家、とばかりに台所へ行くと、すぐさま調理を開始した。
私は突然の出来事に頭をクラクラさせながら、大人しく財布をカバンに仕舞った。
この青年の登場に、どうしてこれほど衝撃を受けているのか自分でもわからないまま、彼がそばを作る後姿をぼうっと追っていた。
 
 

 
私たち5人はそばをすすりながら、互いの関係を整理していった。
私とルフィが言わずもがな家族で、ウソップはその二人の友人で。
ルフィはゾロが務める運送屋にこの春就職し、そして今日からゾロと二人暮らしだ。
また、ウソップと青年──サンジ君は同じ学校同じサークルの先輩後輩の仲。
そしてゾロとサンジ君は、高校時代の友人だという。
 
「連絡くらいとってから来い」と不機嫌なゾロに対して、サンジ君はずっと飄々としている。
きっといつもこんな感じなんだろう。
 
「サンジお前、料理得意なんだな……」
 
 
ウソップが意外そうに、ずるずる蕎麦をすすりながら言う。
たしかにそばつゆは持参だったし、ゆでただけとは言えおいしい。
ルフィは3回おかわりした。
だしの効いたつゆに、こしのある麺が絡む。
散らしたねぎはシンプルでおいしい。
しかしサンジ君は「まあな」とあくまでドライだ。
 
 
「言って、そば茹でただけだしよ」
「いやなんつーか、手際がよ」
 
 
そうか、まあよかったとサンジ君は自分の手を握ったり開いたりしながら、軽く笑った。
ふっと鼻から抜ける笑い声に、前髪が揺れる。
それだけのことに私は何故か動揺し、慌てて目を逸らした。
 
 
「ふたり、よく会ってんのか?」
「まさか、気持ち悪ィ言い方すんな」
「でもわざわざ引っ越し蕎麦持ってくるなんてよ」
「コイツがいつも勝手に押しかけてくるだけだ」
 
 
あんなにびびっていたくせに、ウソップとゾロは早速打ち解けたようでくだけた会話をしている。
 
 
「とかいって、テメェおれのメシ大人しく待ってたりすんじゃねぇか」
 
 
歯を見せていたずらっぽく笑うサンジ君に、ゾロはちっと舌を打った。
図星らしい。
あーあ、とサンジ君は後ろに手をついて、天井を見上げた。
 
 
「いいなぁ、一人暮らしってのはよぉ」
「今日からふたりだ」
「あぁそうか……いや、そういうことじゃなくてよ。実家出てるってのが羨ましいっていうか」
 
 
サンジ君は心底羨ましそうに、息をついた。
変わらず実家暮らしの私とウソップは、彼の不満の源がわからず顔を見合わせて軽く首をかしげる。
 
 
「家、出ればいいじゃねぇか」
 
 
ゾロが事もなげにそう言った。
サンジ君は小さく舌を打ち、「簡単じゃねェんだよ」と零した。
 
 
「おまえんち、どの辺だ?」
 
 
一番年下のはずのルフィが怖気づいた様子も見せずにそう訊いた。
サンジ君は煙草を咥えながら面倒くさそうに答えた。
中心街から少し北にはずれた地区だ。
ふうん、とルフィは適当な相槌を打つ。
 
 
「いいじゃんよ、遊びに来いよここに。なぁ!」
 
 
すでに家主面をして、ルフィは事もなげにそう言った。
ゾロはそんなルフィの態度よりセリフに引っ掛かった様子で、「余計なこと言うな、馬鹿野郎」とたしなめる。
ハハハとサンジ君は乾いた笑い声をあげた。
 
 
「お前聞いてたとおり、いい奴じゃん。……っと、おれもう行かねぇと」
 
 
サンジ君は用事を思い出したのか部屋の時計にちらと視線を走らせると、慌ただしく腰を上げた。
 
 
「何かあるのか?」
「まぁな。そんじゃまみなさん、ごゆっくり」
 
 
サンジ君は人好きのする笑顔でにっこり笑うと、ゾロの「何様だテメェは」という威嚇をするりとかわして、さっさと家を出ていってしまった。
「落ち着かない奴だ」とウソップはわざとらしいため息をつく。
 
 
「面白れぇ奴だったな! メシもうめぇし」
 
 
ルフィは一杯になったお腹をさすって、満足そうに笑った。
あんたは美味しいごはん作れる人は誰でも好きだもんね、と私は半ば呆れている。
サンジ君がいた場所がぽっかり空いてしまったのが、私は何となく隙間風を感じるような、寂しい気分になった。
たった二回会っただけなのに。
 
 
「しっかしサンジのヤツ急いでたみてェだったけど、何があるんだアイツ。4年生なんて学校はあってないようなモンだし」
「女だろ」
 
 
腕を組んで思案するウソップに、ゾロがさらりと答えを口にした。
あぁ、とウソップはどうしてかきまり悪そうな顔をする。
それなのに、「納得」という表情で頷いた。
 
 
「もしかしてサンジって、高校の頃からああなのか」
「女好きって意味なら、そうだな」
「モテそうな綺麗な面してっからなー……」
 
 
男たちの会話は、次第にゾロとサンジ君の高校時代の話へと移っていった。
男子校で、これといった特徴もない公立でたらたらと時間を過ごし、ふたりは何度も喧嘩をしたがどういうわけか完全に離れてしまうことはなく、どちらかというとサンジ君の方が懐いているような態で、今もこうしてサンジ君がふらりとゾロのもとを訪れる。
ゾロは始終いやな顔でサンジ君の話をしたが、さっきのように結局は家にあげてしまうのだからゾロもやぶさかではないのだろう。
 
 
「でもあれだろ、男子校って、男ばっかじゃん。サンジのヤツ耐えられてたのか?」
「知るか。んでもどこから連れてくんのか知らねェが、いつも見たことねェ女連れてたな」
 
 
そうして彼は、今日もどこかの女のもとへといそいそ向って行ったのだろう。
男たちはすっかり意気投合して、そう決めつけては楽しそうに話した。
私はぽつぽつと彼らの話に口を挟んで、狭い窓から差し込む光が少しずつ赤く滲んでいくのを眺めていた。
 
 
「いっけね、おれ今日かーちゃんに家でメシ食うって言ってあったんだ」
 
 
唐突にウソップが腰を上げた。
西日が強く、畳の床を焼いている。
お、そういや腹が減ってきたなとルフィまでそわそわし始めたので、あたしは言ってやった。
 
 
「あんたは帰んないのよ。今日からここが家なんだから」
 
 
ルフィはハッとして、大真面目な顔で「そうか」と言った。
まったく心配になる。
 
私とウソップが靴を履いて家を出るのを、ルフィとゾロは玄関口で見送ってくれた。
楽しそうな顔で「またなー」と手を振るルフィを見ていると、私の無意味な懸念はそっと薄くなる気がした。
それでもどこか切ないような気持ちを振り切るように、私はあっさりと「じゃあね」と返し、アパートの階段を下りた。
トラックでウソップを家まで送ってあげると誘い、彼を助手席に乗せる。
シートベルトを締めたウソップが、「寂しくなるな」と呟く。
「やめてよ」と私は笑ったが、それがフリなのは彼にはばれているだろう。
 
 
 

 
ルフィが私たちの家族に加わったのは、私がほんの8歳の頃だ。
ルフィは孤児だった。
理由は知らない。
私だって孤児だった。
そう珍しいことではない。
ただ、ルフィはその腕白っぷりで孤児院1の問題児だった。
あまりある好奇心をもてあましたルフィは7歳の頃孤児院を抜け出し、はるかな丘を登り、私と出会った。
私たちは当然のように一緒に遊び、気付いたらルフィは私の家に住むようになった。
この展開はあまりにも突然すぎるが、幼い私にその間に存在する細かな出来事は理解できなかったのだろう、よく覚えていない。
ベルメールさんがルフィを孤児院から引き取ったことだけは確かだ。
私のときのように。ノジコのときのように。
 
私たちはつぎはぎの家族だ。
ベルメールさんも、ノジコも、私も、ルフィも、誰一人として血は繋がっていない。
それでも私たちは家族で、親子で、兄弟だ。
どんな4人家族でも、もとをただせば1人が4つ集まっているだけの話で、それを嘘だとか本物だとか区別するのは嫌いだ。
いま目に見える関係だけが本物だと、私は信じている。



拍手[17回]

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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足りん
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