OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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ハナノリさんに頂いたセフレサンナミ【37】のつづきです。
前回はこちら→
閉ざされたシャッターの並ぶ商店を通り抜けると、ぼやっとした光の並ぶ細い道がつづいていた。
安い石鹸の香りが外にまで淀んでいるその界隈を、私たちは進む。
小さな看板を出したモーテルの光が目について、ほとんど考えなしにそこへ入った。
サンジ君は連れられるがまま黙っている。
呆れて嫌いになってくれたらいい。
女のくせにいやらしいことばかりしたがってと軽蔑してくれたらいい。
そしたら私は、もうサンジ君にすがったりしない。
きっと、こんなに何かを求める気持ちには二度とならない。
扉を開けると、ぱかぱかと切れかけた電気の下で、おじさんが眠りこけていた。
半ば無理やりたたき起こして部屋を取った。
鍵を受け取り、私たちは狭い廊下を進む。
簡素な造りの部屋はありふれていて、甘い言葉や熱い愛をかわすつもりのない私たちには十分と言えた。
部屋に入り鍵を閉める。
振り返ると、所在なさ気にサンジ君がベッドのわきに立っていた。
狭い部屋だから、どこに立ったってベッドのわきにはちがいない。
電気のついていない、小さな窓から入る薄明りの中、サンジ君が羽織ったパーカーがぼんやりと浮かんでいた。
歩み寄って、顔を見上げる。
いつもはあんなにわかりやすいのに、今ばかりは感情の読めない青い目が怖いほど静かに私を見つめ返していた。
「……脱ぐわね」
「ナミさん」
「……サンジ君も、はやく」
「ナミさん」
彼の声を無視して、キャミソールをむしり取った。
下着一枚になって、ショートパンツに手をかけた。
「……ナミさん」
「もうっうるさいっ」
襟を掴んでベッドに引きずりこみ、一緒になだれ込んだ。
肌が重なった瞬間、スイッチが入ったみたいに体が熱くなり、下腹部のあたりに液体が満ちる。
クソ、
そう聞こえた瞬間、驚くほど一瞬で上も下も衣服をはぎ取られた。
見上げると、もどかしそうに服を脱ぐサンジ君が見える。
影になって顔がよく見えない。
手を伸ばして盛り上がった筋肉をなぞると両腕を押さえつけられ、彼の顎髭がざらりと胸の真ん中をかすめる。
じかに触れた肌が熱くなっている。
首のあたりに、彼が吐き出した深い息を感じた。
やってくるはずの刺激を、息をひそめて待った。
サンジ君は私の腕を押さえつけたまま、胸に顔をうずめている。
うずめている。
ピクリとも動かない。
拍動だけが速く聞こえた。
私を抑え込む力が緩み、腕を撫でるようにやさしく滑り落ちた。
「……サンジ君?」
「……もしおれが来なかったら、ほかの奴を誘ってた?」
今それを訊くの、と思わず息を呑む。
サンジ君も言うつもりじゃなかったみたいに、小さく首を振った。
さらさらと耳の傍で音を立てて、細い金髪が流れる。
薄明りの中にも関わらず、きらきらと光ったそれが綺麗で、思わず手を伸ばした。
「だめだ」
鋭い声が飛び、指先がピクリと驚く。
「触らないでくれ」
行き場を失った両手が宙に浮いた。
悔しさとも恥ずかしさともつかない感情が喉のあたりに迫り上げてくる。
触れることを拒まれて、自分が傷ついたのだと気付くまでずいぶん時間がかかった。
ゆっくりと頭が上がる。
サンジ君は泣きそうな目で、口元を少し歪ませて、「ごめん」と言った。
「ナミさん本当は今日、別にしたいわけじゃねぇだろ」
「……なんで」
「あぁ、だめだおれ、ごめん。ナミさん服着てくれ」
黙っていると、「頼む」と彼が懇願した。
「服着よう。いい子だから、な」
なんだというの、と私が相変わらず黙っているうちに、お腹の上にパサパサと少ない衣服が乗せられていった。
サンジ君は私の上から降りると、背中を向けてベッドに腰かけてしまった。
──なによ。
指に引っ掛かった布きれを、彼の背中に投げつけた。
軽い音と衝撃で彼が振り返り、ベッドに落ちたそれを拾い上げた。
「ちょ、なんてモン投げてんだ」
サンジ君はベッドによじ登り、私に小さなショーツを手渡して、子どもに言い聞かすように「ちゃんと履きなさい」と言う。
フン、と顔を背けて彼の手から逃れた。
「いやよ、なんなの。ここまで来ておいて」
「ごめ、ともかくナミさん、服着ろってば」
「なによ服服って!脱がしたのはあんたじゃない!」
「っだー、もう!」
サンジ君はシーツを引っぺがすと、一瞬で私をくるんでしまった。
そして一切合財を押し込めるように抱きすくめた。
息が止まりそうなほど強い力。
「──話がしたいんだ」
そしてそれはセックスよりずっと大事なことなんだと、サンジ君はゆっくりと言い含めるように口にした。
*
部屋の電気は付けないまま、私はセックスをするでもなく狭い部屋のベッドに腰かけていた。
仕方なく服を身に着けて、もうどうとでもなれという気持ちでぼんやりと床を見つめる。
背中を向けていたサンジ君がそわそわとみじろいだ。
「服、着た?」
「着たわよ」
振り返って私を確認し、サンジ君はベッドに深く腰掛けた。
枕側の壁に背中を預け、私を手招く。
「隣に、ナミさん」
「なに?」
「いいから」
ぽんぽんと自身の隣を叩く顔は大まじめだ。
仕方なしに彼の隣へ腰を落ち着けると、サンジ君はシーツを引き上げて二人のおへそのあたりまでかぶせ、私の肩を引き寄せた。
肩と肩がぶつかって、私はまるで彼に寄りかかっているような形になる。
「なによ」
「このまま話してもいい?」
「……いいけど」
サンジ君は静かに、ありがとうと呟いた。
サンジ君の肩は温かかった。
それなのに、私の肩を引き寄せる指先は冷えている。
「寒くねェ?」
「うん」
彼の火照った体がすぐ隣にあって、私に熱を与えていた。
私の方は、燃え上がりかけた性欲の残り火がちらちらと揺れていたが、サンジ君もそうなのだろう。
二回ほど深い呼吸を繰り返して、自身を落ち着かせているように見えた。
サンジ君がなかなか話し出さないので、妙な沈黙が落ちる。
私はこんなところに気まずくなりに来たわけじゃないのだ。
「それで?」
「うん、うーん……」
煮え切らない声に苛立ちが募る。
まさか単に臆しただけじゃないでしょうね、と訝しむ気持ちになったが、それはさすがに違うと分かる。
苦しげに私を拒んだその顔を、さっき見たばかりだ。
「あの、本当に最初の」とサンジ君が言葉を紡ぐ。
「レストランで初めてナミさんを見たとき」
「うん」
「なんてかわいい子だろうと思ったんだ」
「うん」
「一緒に旅ができるなんて、こんな幸せがあっていいのか、なんて思ったり」
サンジ君は、今までの旅を振り返るように時々目を瞑って、私のことを話した。
私は途中で相槌を打つことをやめ、ただ黙って聞いていた。
甘い思い出に、こっそりと添えられるようにして伝えられる痛みのようなものが、私には重くて苦しい。
恋とはこういうものだ。
見ていたい、そばにいたい、触れたい、触れられたい。
そこにいるなら抱きしめて、会えないときはもどかしさに焦がれる。
日が昇っても沈んでも相手のことばかり考えて、しあわせなのに満ち足りなくて、安心と不安が一度に胸に押し寄せては泣きそうになる。
今のサンジ君みたいに。
これが恋だ。
恋とはこういうものだ。
サンジ君は吐き出すように、ため息に乗せていった。
「好きなんだ」
ナミさん、と私をかすれた声で呼ぶ。
私は恋い焦がれる気持ちを知らない。
焦がれるのは身体ばかりで、いつまで経っても満ち足りることはなく、乾いたのどを潤すものを探してはむさぼった。
私にサンジ君は手に負えないのだ。
本当は初めからわかっていた。
わかっていたのに利用した。
彼の気持ちをもてあそんでは傷つけて、ざっくりと深い傷跡からだらだらと血を流す彼の心を、見て見ぬフリした。
その上私は、その傷をつけたのは自分だと、まるで名前のシールをペタッと貼るみたいに、心のどこかで悦に入ってはいなかっただろうか。
私の肩を抱く彼の指先に、力がこもった。
引き寄せることも、手を離すこともできない微妙な力加減。
「私は」
そんなつもりじゃないのに、乾いた低い声しか出なかった。
「私は」
サンジ君は静かに、続きを待っている。
言え。
私は好きじゃないと、あんたのことなんてちっとも思ってやしないのだと。
「いいんだよ、ナミさん」
「え?」
顔を上げ、横にいるサンジ君を仰ぎ見ると、彼の横顔は少し笑っていた。
「おれがこんなふうだから、ナミさん妙に気を遣って、気まずくさせちまった。オレァナミさんが望むみたいな軽い男でいられなくて、ごめんな」
頭を掻いて、ごまかすみたいに苦笑する。
どうして、どうしてそんなにやさしくいられるの。
私が言える口ではないと知りながらも、口を開いていた。
「……あんた、損してる」
「よく言われる」
いや、そうでもねェか、と自問して首をひねるサンジ君は、まるでちっとも私のことを責めたり、自分を悲しんだりするつもりはないみたいだ。
そんなそぶりが、ますます私を卑小に感じさせた。
不意に、シーツの中で、サンジ君の空いている手が私のそれに重ねられた。
「オレァしあわせだね。考えてみりゃ、こうして手を握ったりする日が来るとは思ってもみなかった。まぁあわよくば……ってとこはあったっちゃ、あったが。なんにせよ、欲が出たんだ。こうやって横にいて、可愛い顔を眺めてられりゃあ十分……」
「うそ」
「え?」
「うそよそんなの! それならなんで私の誘いに乗ったりしたの。どうして一度も断らなかったのよ!」
「そりゃ、ナミさんのことが好きだから」
「ふざけないで!」
サンジ君の手を振り払い、身をよじって彼の傍から離れる。
正面からその顔を見つめると、サンジ君は呆気にとられた顔で私を見つめていた。
「好きだ好きだって言って、セックスまでして、やっぱり怖気づいたからってまた『好きだから』で片付けるつもり? 見てるだけで十分なんて、私によく言えるわね!」
一息にまくしたてると息が切れた。
サンジ君はぽかんと口を開けたまま、「ナミさん」と言う。
「泣いてる」
「は?」
「ナミさん泣いてる」
サンジ君の手が私の頬へ伸びた。
冷たい指先が、頬の表面をかする。
反対側の頬を、液体が流れる感触が伝った。
自分の手で確かめると、確かに頬は濡れていた。
「なにこれ、なんで……」
拭おうと下を向くと、また粒がこぼれてシーツに薄いしみを作った。
理由のわからない涙が睫毛と頬と、シーツを濡らしていく。
「ナミさん」
「うるさい。こっち見ないで」
サンジ君にそっぽを向くように顔を背けると、強引な力が私を引っ張った。
「なにっ……」
サンジ君に倒れ込んだ私を、彼の手がしっかりと支える。
反対の肩に回した手が伸びて、私を抱え込みながら髪に触れた。
「ごめん、しばらくこうさせて」
「なんでよ、いらないわよっ……」
「おれがしたいからするの。大丈夫、見ないから」
サンジ君は、私の頬を自分の胸に軽く押し付けるように腕を回した。
髪を梳く手がゆっくりと頭に触れる。
既にとめどなくなっていた涙が、少しずつ引き潮のように引いていく。
けだるい重さが胸に溜まって、私は抵抗する気をなくして目を閉じた。
最後のひと粒が頬を転がるように落ちていく。
まったく馬鹿みたいだ。
傷つけたくせに拒まれたら傷ついて、好きだと言われれば嘘だと言って信じずに、あげくみっともなく涙まで流して。
もしも私が、こういう形でサンジ君と生活を共にするわけでもなく出会っていれば、彼のことを好きになれただろうか。
刺激はないけど落ち着いていて、どこかけだるい日常を過ごしながら彼のことを考えて、もっと素直に求めたりなんかして。
「ごめん」
ぽつりと、サンジ君が謝った。
なんのこと、と口にはしなかったが代わりに鼻をすする。
「おれもう、ナミさんとはできねェよ」
…したいけど、と続けた声は少ししょぼくれている。
「ナミさんが他の野郎と……って思うとそれもいやだ。でも、これ以上続けるとオレもナミさんもダメになっちまう」
なにが、とは聞かなかった。
はっきりとは私にもわからないけれど、多分、もうきっと、私たちはすぐそこまでダメになりかけていた。
「しばらくは、多分その、余計なこと考えてあーだこーだするし言っちまうかもしれねェけど、がんばるから」
がんばるから。
がんばって、私を諦める?セックスを我慢する?私が他の男に抱かれることを我慢する?
サンジ君の言葉はどれもはっきりしなくていまいち意味を把握しきれなかった。
彼の手が、止まることなく私の髪を梳いているから。
程よい温かさと、頭皮を滑る指の間隔、そのリズムが急激に眠気を誘った。
「本当は」とサンジ君が呟いた。
「こうやってしてみたかったんだ。ナミさんに腕枕したり、肩貸したり。髪も撫でてみたかった」
「叶えちまったよ、おい」と誰にともなく零して、サンジ君はほんの少し自嘲気味に小さく笑った。
サンジ君の胸からは、今夜の夕飯の香りと、染みついたような煙草の香り、そして少し汗のにおいがする。
私も、と心の中で唱えた。
私も、こうやって何でもない時間を過ごしてみたかった。
朝目覚めたときに隣で眠る顔を見てみたり、力を抜いて頭を預けてみたりしたかった。
その相手がサンジ君でも何の問題もない。
むしろ、とそのあとを考えるには勇気がいってやめてしまったけれど。
なんてことはない。
私はただ、こうやって黙ってそばにいてくれる人がいるだけで満たされる。
体温を分けあって眠るしあわせを感じることができる。
強いてまで身体を重ねる必要なんてどこにもなかった。
サンジ君が言う。
「帰ろうか」
「ん……」
心地いい眠気に引きずられそうになりながらも、私は頷いてゆっくりと身体を起こした。
サンジ君から離れる瞬間、彼のにおいがふっと遠ざかるのを感じて思い出した。
キスも、してみたかったな。
→
前回はこちら→
閉ざされたシャッターの並ぶ商店を通り抜けると、ぼやっとした光の並ぶ細い道がつづいていた。
安い石鹸の香りが外にまで淀んでいるその界隈を、私たちは進む。
小さな看板を出したモーテルの光が目について、ほとんど考えなしにそこへ入った。
サンジ君は連れられるがまま黙っている。
呆れて嫌いになってくれたらいい。
女のくせにいやらしいことばかりしたがってと軽蔑してくれたらいい。
そしたら私は、もうサンジ君にすがったりしない。
きっと、こんなに何かを求める気持ちには二度とならない。
扉を開けると、ぱかぱかと切れかけた電気の下で、おじさんが眠りこけていた。
半ば無理やりたたき起こして部屋を取った。
鍵を受け取り、私たちは狭い廊下を進む。
簡素な造りの部屋はありふれていて、甘い言葉や熱い愛をかわすつもりのない私たちには十分と言えた。
部屋に入り鍵を閉める。
振り返ると、所在なさ気にサンジ君がベッドのわきに立っていた。
狭い部屋だから、どこに立ったってベッドのわきにはちがいない。
電気のついていない、小さな窓から入る薄明りの中、サンジ君が羽織ったパーカーがぼんやりと浮かんでいた。
歩み寄って、顔を見上げる。
いつもはあんなにわかりやすいのに、今ばかりは感情の読めない青い目が怖いほど静かに私を見つめ返していた。
「……脱ぐわね」
「ナミさん」
「……サンジ君も、はやく」
「ナミさん」
彼の声を無視して、キャミソールをむしり取った。
下着一枚になって、ショートパンツに手をかけた。
「……ナミさん」
「もうっうるさいっ」
襟を掴んでベッドに引きずりこみ、一緒になだれ込んだ。
肌が重なった瞬間、スイッチが入ったみたいに体が熱くなり、下腹部のあたりに液体が満ちる。
クソ、
そう聞こえた瞬間、驚くほど一瞬で上も下も衣服をはぎ取られた。
見上げると、もどかしそうに服を脱ぐサンジ君が見える。
影になって顔がよく見えない。
手を伸ばして盛り上がった筋肉をなぞると両腕を押さえつけられ、彼の顎髭がざらりと胸の真ん中をかすめる。
じかに触れた肌が熱くなっている。
首のあたりに、彼が吐き出した深い息を感じた。
やってくるはずの刺激を、息をひそめて待った。
サンジ君は私の腕を押さえつけたまま、胸に顔をうずめている。
うずめている。
ピクリとも動かない。
拍動だけが速く聞こえた。
私を抑え込む力が緩み、腕を撫でるようにやさしく滑り落ちた。
「……サンジ君?」
「……もしおれが来なかったら、ほかの奴を誘ってた?」
今それを訊くの、と思わず息を呑む。
サンジ君も言うつもりじゃなかったみたいに、小さく首を振った。
さらさらと耳の傍で音を立てて、細い金髪が流れる。
薄明りの中にも関わらず、きらきらと光ったそれが綺麗で、思わず手を伸ばした。
「だめだ」
鋭い声が飛び、指先がピクリと驚く。
「触らないでくれ」
行き場を失った両手が宙に浮いた。
悔しさとも恥ずかしさともつかない感情が喉のあたりに迫り上げてくる。
触れることを拒まれて、自分が傷ついたのだと気付くまでずいぶん時間がかかった。
ゆっくりと頭が上がる。
サンジ君は泣きそうな目で、口元を少し歪ませて、「ごめん」と言った。
「ナミさん本当は今日、別にしたいわけじゃねぇだろ」
「……なんで」
「あぁ、だめだおれ、ごめん。ナミさん服着てくれ」
黙っていると、「頼む」と彼が懇願した。
「服着よう。いい子だから、な」
なんだというの、と私が相変わらず黙っているうちに、お腹の上にパサパサと少ない衣服が乗せられていった。
サンジ君は私の上から降りると、背中を向けてベッドに腰かけてしまった。
──なによ。
指に引っ掛かった布きれを、彼の背中に投げつけた。
軽い音と衝撃で彼が振り返り、ベッドに落ちたそれを拾い上げた。
「ちょ、なんてモン投げてんだ」
サンジ君はベッドによじ登り、私に小さなショーツを手渡して、子どもに言い聞かすように「ちゃんと履きなさい」と言う。
フン、と顔を背けて彼の手から逃れた。
「いやよ、なんなの。ここまで来ておいて」
「ごめ、ともかくナミさん、服着ろってば」
「なによ服服って!脱がしたのはあんたじゃない!」
「っだー、もう!」
サンジ君はシーツを引っぺがすと、一瞬で私をくるんでしまった。
そして一切合財を押し込めるように抱きすくめた。
息が止まりそうなほど強い力。
「──話がしたいんだ」
そしてそれはセックスよりずっと大事なことなんだと、サンジ君はゆっくりと言い含めるように口にした。
*
部屋の電気は付けないまま、私はセックスをするでもなく狭い部屋のベッドに腰かけていた。
仕方なく服を身に着けて、もうどうとでもなれという気持ちでぼんやりと床を見つめる。
背中を向けていたサンジ君がそわそわとみじろいだ。
「服、着た?」
「着たわよ」
振り返って私を確認し、サンジ君はベッドに深く腰掛けた。
枕側の壁に背中を預け、私を手招く。
「隣に、ナミさん」
「なに?」
「いいから」
ぽんぽんと自身の隣を叩く顔は大まじめだ。
仕方なしに彼の隣へ腰を落ち着けると、サンジ君はシーツを引き上げて二人のおへそのあたりまでかぶせ、私の肩を引き寄せた。
肩と肩がぶつかって、私はまるで彼に寄りかかっているような形になる。
「なによ」
「このまま話してもいい?」
「……いいけど」
サンジ君は静かに、ありがとうと呟いた。
サンジ君の肩は温かかった。
それなのに、私の肩を引き寄せる指先は冷えている。
「寒くねェ?」
「うん」
彼の火照った体がすぐ隣にあって、私に熱を与えていた。
私の方は、燃え上がりかけた性欲の残り火がちらちらと揺れていたが、サンジ君もそうなのだろう。
二回ほど深い呼吸を繰り返して、自身を落ち着かせているように見えた。
サンジ君がなかなか話し出さないので、妙な沈黙が落ちる。
私はこんなところに気まずくなりに来たわけじゃないのだ。
「それで?」
「うん、うーん……」
煮え切らない声に苛立ちが募る。
まさか単に臆しただけじゃないでしょうね、と訝しむ気持ちになったが、それはさすがに違うと分かる。
苦しげに私を拒んだその顔を、さっき見たばかりだ。
「あの、本当に最初の」とサンジ君が言葉を紡ぐ。
「レストランで初めてナミさんを見たとき」
「うん」
「なんてかわいい子だろうと思ったんだ」
「うん」
「一緒に旅ができるなんて、こんな幸せがあっていいのか、なんて思ったり」
サンジ君は、今までの旅を振り返るように時々目を瞑って、私のことを話した。
私は途中で相槌を打つことをやめ、ただ黙って聞いていた。
甘い思い出に、こっそりと添えられるようにして伝えられる痛みのようなものが、私には重くて苦しい。
恋とはこういうものだ。
見ていたい、そばにいたい、触れたい、触れられたい。
そこにいるなら抱きしめて、会えないときはもどかしさに焦がれる。
日が昇っても沈んでも相手のことばかり考えて、しあわせなのに満ち足りなくて、安心と不安が一度に胸に押し寄せては泣きそうになる。
今のサンジ君みたいに。
これが恋だ。
恋とはこういうものだ。
サンジ君は吐き出すように、ため息に乗せていった。
「好きなんだ」
ナミさん、と私をかすれた声で呼ぶ。
私は恋い焦がれる気持ちを知らない。
焦がれるのは身体ばかりで、いつまで経っても満ち足りることはなく、乾いたのどを潤すものを探してはむさぼった。
私にサンジ君は手に負えないのだ。
本当は初めからわかっていた。
わかっていたのに利用した。
彼の気持ちをもてあそんでは傷つけて、ざっくりと深い傷跡からだらだらと血を流す彼の心を、見て見ぬフリした。
その上私は、その傷をつけたのは自分だと、まるで名前のシールをペタッと貼るみたいに、心のどこかで悦に入ってはいなかっただろうか。
私の肩を抱く彼の指先に、力がこもった。
引き寄せることも、手を離すこともできない微妙な力加減。
「私は」
そんなつもりじゃないのに、乾いた低い声しか出なかった。
「私は」
サンジ君は静かに、続きを待っている。
言え。
私は好きじゃないと、あんたのことなんてちっとも思ってやしないのだと。
「いいんだよ、ナミさん」
「え?」
顔を上げ、横にいるサンジ君を仰ぎ見ると、彼の横顔は少し笑っていた。
「おれがこんなふうだから、ナミさん妙に気を遣って、気まずくさせちまった。オレァナミさんが望むみたいな軽い男でいられなくて、ごめんな」
頭を掻いて、ごまかすみたいに苦笑する。
どうして、どうしてそんなにやさしくいられるの。
私が言える口ではないと知りながらも、口を開いていた。
「……あんた、損してる」
「よく言われる」
いや、そうでもねェか、と自問して首をひねるサンジ君は、まるでちっとも私のことを責めたり、自分を悲しんだりするつもりはないみたいだ。
そんなそぶりが、ますます私を卑小に感じさせた。
不意に、シーツの中で、サンジ君の空いている手が私のそれに重ねられた。
「オレァしあわせだね。考えてみりゃ、こうして手を握ったりする日が来るとは思ってもみなかった。まぁあわよくば……ってとこはあったっちゃ、あったが。なんにせよ、欲が出たんだ。こうやって横にいて、可愛い顔を眺めてられりゃあ十分……」
「うそ」
「え?」
「うそよそんなの! それならなんで私の誘いに乗ったりしたの。どうして一度も断らなかったのよ!」
「そりゃ、ナミさんのことが好きだから」
「ふざけないで!」
サンジ君の手を振り払い、身をよじって彼の傍から離れる。
正面からその顔を見つめると、サンジ君は呆気にとられた顔で私を見つめていた。
「好きだ好きだって言って、セックスまでして、やっぱり怖気づいたからってまた『好きだから』で片付けるつもり? 見てるだけで十分なんて、私によく言えるわね!」
一息にまくしたてると息が切れた。
サンジ君はぽかんと口を開けたまま、「ナミさん」と言う。
「泣いてる」
「は?」
「ナミさん泣いてる」
サンジ君の手が私の頬へ伸びた。
冷たい指先が、頬の表面をかする。
反対側の頬を、液体が流れる感触が伝った。
自分の手で確かめると、確かに頬は濡れていた。
「なにこれ、なんで……」
拭おうと下を向くと、また粒がこぼれてシーツに薄いしみを作った。
理由のわからない涙が睫毛と頬と、シーツを濡らしていく。
「ナミさん」
「うるさい。こっち見ないで」
サンジ君にそっぽを向くように顔を背けると、強引な力が私を引っ張った。
「なにっ……」
サンジ君に倒れ込んだ私を、彼の手がしっかりと支える。
反対の肩に回した手が伸びて、私を抱え込みながら髪に触れた。
「ごめん、しばらくこうさせて」
「なんでよ、いらないわよっ……」
「おれがしたいからするの。大丈夫、見ないから」
サンジ君は、私の頬を自分の胸に軽く押し付けるように腕を回した。
髪を梳く手がゆっくりと頭に触れる。
既にとめどなくなっていた涙が、少しずつ引き潮のように引いていく。
けだるい重さが胸に溜まって、私は抵抗する気をなくして目を閉じた。
最後のひと粒が頬を転がるように落ちていく。
まったく馬鹿みたいだ。
傷つけたくせに拒まれたら傷ついて、好きだと言われれば嘘だと言って信じずに、あげくみっともなく涙まで流して。
もしも私が、こういう形でサンジ君と生活を共にするわけでもなく出会っていれば、彼のことを好きになれただろうか。
刺激はないけど落ち着いていて、どこかけだるい日常を過ごしながら彼のことを考えて、もっと素直に求めたりなんかして。
「ごめん」
ぽつりと、サンジ君が謝った。
なんのこと、と口にはしなかったが代わりに鼻をすする。
「おれもう、ナミさんとはできねェよ」
…したいけど、と続けた声は少ししょぼくれている。
「ナミさんが他の野郎と……って思うとそれもいやだ。でも、これ以上続けるとオレもナミさんもダメになっちまう」
なにが、とは聞かなかった。
はっきりとは私にもわからないけれど、多分、もうきっと、私たちはすぐそこまでダメになりかけていた。
「しばらくは、多分その、余計なこと考えてあーだこーだするし言っちまうかもしれねェけど、がんばるから」
がんばるから。
がんばって、私を諦める?セックスを我慢する?私が他の男に抱かれることを我慢する?
サンジ君の言葉はどれもはっきりしなくていまいち意味を把握しきれなかった。
彼の手が、止まることなく私の髪を梳いているから。
程よい温かさと、頭皮を滑る指の間隔、そのリズムが急激に眠気を誘った。
「本当は」とサンジ君が呟いた。
「こうやってしてみたかったんだ。ナミさんに腕枕したり、肩貸したり。髪も撫でてみたかった」
「叶えちまったよ、おい」と誰にともなく零して、サンジ君はほんの少し自嘲気味に小さく笑った。
サンジ君の胸からは、今夜の夕飯の香りと、染みついたような煙草の香り、そして少し汗のにおいがする。
私も、と心の中で唱えた。
私も、こうやって何でもない時間を過ごしてみたかった。
朝目覚めたときに隣で眠る顔を見てみたり、力を抜いて頭を預けてみたりしたかった。
その相手がサンジ君でも何の問題もない。
むしろ、とそのあとを考えるには勇気がいってやめてしまったけれど。
なんてことはない。
私はただ、こうやって黙ってそばにいてくれる人がいるだけで満たされる。
体温を分けあって眠るしあわせを感じることができる。
強いてまで身体を重ねる必要なんてどこにもなかった。
サンジ君が言う。
「帰ろうか」
「ん……」
心地いい眠気に引きずられそうになりながらも、私は頷いてゆっくりと身体を起こした。
サンジ君から離れる瞬間、彼のにおいがふっと遠ざかるのを感じて思い出した。
キスも、してみたかったな。
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