OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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うと、と船を漕ぐ。
ビスタが、そろそろ眠るといいとアンを離した。
アンの背中に頬を寄せるハルタがふわあと可愛らしい欠伸をする。
つられてアンも欠伸した。
*
ビスタの部屋から自分の部屋へと階段を下りて、角を二回曲がる。
アンの部屋へとつながる最後の角を曲がったとき、ビスタとぶつかったときとまったく同じ光景で人影に出くわした。
「っと」
悪い、と断って顔を見上げたアンは、その人物に仰天して目を丸めた。
マルコの細い目にも、少なからず驚きが滲んでいる。
目の前に現れた身体に、思わず反射で抱き着こうと手が伸びた。
「おい」
マルコが嫌そうな声を出す。
手が止まった。
めずらしく自制の効いたアンの行動に、マルコが訝しげに目を細めた。
ついさっきあんなにしんみりしただろうが、とアンは自分を叱咤する。
なんでこんなとこにいるの、とつとめて何でもないように声をかけた。
「お前の部屋に月末提出の書類、置いておいたよい」
「げぇ」
「つーか部屋に鍵くらいかけろ」
鍵かけたらマルコが入ってこられないだろ、と冗談じみた口調で言えば、入るか阿呆といつもの返事が返ってくる。
「あー、ナースたちとのは、終わったのかよい」
「あ、うん。ビスタのとこ行ってた」
「ビスタ?」
「紅茶飲んでて」
「ああ、よい」
適当な相槌を打ったマルコは、ふと首筋を摩る手を止めてアンを見下ろした。
その表情に、アンは既視感を覚えた。
「なんか、あったのかい」
細い目の隙間から、微かに優しい光が届く。
ビスタやハルタと同じ顔をする。
なんかって、あんたのことだよなんて言えるはずもなく、別に何もと首を振った。
「そうかい」
ならいい、と。マルコはふっと口元を緩めた。
笑い返してその脇を通り過ぎる。
マルコが背を向け歩き出した音を背中で聞いた。
きゅううと、その音を聞いて、言いようのない締め付け感に襲われる。
それは空腹感に似ていると、ぼんやり思った。
*
「アン隊長ーっ!起きろーっ!!隊長会議っすよーっ!」
どどどど、と激しくドアを叩かれる。
うるっさいなと悪態づいて布団をかぶりなおした。
「…あと2時間…」
「なげぇよ!!」
ドアを壊す勢いで隊員はドアを叩き続ける。
ああもううるさい!とアンは布団を跳ね飛ばして上体を起こした。
「たーいちょー!起きましたかコノヤロー!」
「起きた起きた!」
「よし」
満足げな足音を聞きながら時計に目をやると、まだまだいつも起きる時間にはほど遠い。
「なんだよまだ早いじゃん…あ、会議か」
ぼりぼりと腹を掻きながらベッドから下りる。
遅刻でマルコからげんこつを喰らうのはごめんだ。
枕元のテンガロンをひったくるように掴んで部屋を出た。
会議室にひょこりと顔を出すと、強面の顔がずらりと並んで圧巻の雰囲気である。
しかしみな一様に、アンを見ると表情を緩めておはようという。
挨拶を返しつつ、アンは自分の隣の席がまだ空席であるのに気付いた。
「あれ、マルコまだ?あたしセーフ?」
「ああ、マルコがこねぇんだ。あいつに限って忘れるわけねぇと思うんだが」
寝坊か?とあちこちから揶愉が飛ぶ。ケラケラと笑いが起こるが、すぐにマルコは姿を現した。
「悪い、遅れたよい」
マルコはぐしゃぐしゃの書類をひっつかんだまま席へ座ると、ふうと息をついた。
「マルコ寝坊?」
「…いや、よい」
「考え事でもして夜更かししたんですかマルコさん」
サッチがからかいまじりにそう言うと、ぎんと睨みながらも決まり悪そうに頭を掻いた。
*
始まった会議の内容は、明日の朝島に着くということ。
普通の街がある島だが、面倒なのは山賊がその街を闊歩しているということ。
いつも通り、その島での各隊の動きを割り振られたのだが、マルコが遅れてくれたせいで怒られずに済んだアンは見張りを免れ、一日目の武器の整理が終われば自由だと言い渡された。
島への上陸というのは、意味もなく胸が踊る。
いくら海が好きだとはいえ、オカも恋しい。
「じゃあ各自、仕事は隊の中で割り振ってくれよい。以上」
マルコが締めると、隊長たちはぱらぱらと席を立ち始めた。
アンは書類を手元にかき集めて揃えながら、美味しいものの多い島だといいなぁと思いを巡らす。
季節はなんだと言っていたっけ、とすっかり意識は寄港へ飛んでいる矢先、頭の上にぽんと重みが乗った。
上から声が降ってきた。
「アン明後日自由だろ?オレとマルコも仕事ねぇから一緒に飲みにいこうぜ」
「ほんと!?やった!」
目を輝かせて頭を反らせると、頭上でサッチがにっと歯を見せて笑う。
「マルコも既に了承済み」
サッチは親指を立てて、わざとらしくアンにウインクを飛ばす。
アンの親指もつられて立ちかけたが、不意に思いだした昨夜の出来事に邪魔をされて、机の上で上がった手は中途半端に空中で止まった。
あたしの心はあれきしで折れてしまったの?と自分に問いかける。
返事のない呼びかけや答えのない質問は大嫌いだ。
サッチがアンの顔を覗き込み、行くだろ?と返事を促す。
曖昧に頷くと、どうしたんだよと頬をつねられた。
いひゃいよとその手を掴む。
「行くけどさ」
「けどなんだよ」
「マルコかぁ…」
思わず渦中の人物の名を口に出していた。
マルコ?とサッチは尋ねるが、思い当たる節があるのか、考え込むようにアンの頬を離した手でサッチは自分の頬を掻くのが見えた。
振り向かないマルコの背中ばかりを追いかけて、なんになるというの、と声が聞こえた。
あたしはどうしたいの? と問いかけたアンに対してやっと帰ってきた自分の声だ。
アンの頭上で髭に手をやるサッチは、アンをけしかけた張本人である。
サッチはどうして、あたしがマルコのことをすきだと分かったの。
自分でも気づかないことをどうして分かったの。
そもそもどうしてマルコなの。
「諦めんの?」
「あき…?」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
サッチの声を反芻して、反芻して、3回目でやっと意味を汲み取る。
諦めるとは、つまり、マルコがアンのことを好きになるわけないという前提のもとに、マルコを好きでいることをやめるということだ。
やめることなんてできるの? とまた自分に問いかける。
サッチがこの気持ちを教えてくれたのに、それを崩す選択肢もあるんだよと教えるのもまたサッチだ。
「わかんない」
口にしてから、同じことを昨日も言った気がすると思った。
「考えることも大事だぜ、アンちゃんよ」
珍しくまじめな顔つきで、サッチがアンの顔を覗き込む。
アンは頭を反らせてサッチを見上げたまま、そうだねと言った。
考えなければならない。
あたしが、あたしの、この気持ちを。
サッチは再びアンの黒髪を掻き交ぜた。
額にかかる前髪を後ろに流すように撫でる。
つやりとしたアンの額の上を、サッチの手が滑る。
跳ねた毛先が太い指に絡まるのが心地いい。
大人しく撫でられて、そうか、これが潮時か、と気づいた。
「よし」
がたんっと音を立て立ち上がると、サッチは驚いて手を引いた。
「考えはまとまりましたか、アンさん」
「うん。これをもって最後だ」
最後? とサッチが眉を寄せる。
わけがわからないとその目が言う。
「最後って、何」
「マルコへの突撃」
まじで、と音にならないサッチの声が紡がれる。
アンはくるりとまわってサッチに向かい合った。
「たとえばさ、アイスがあるとするだろ」
「アイス? は?」
「アイスがあるの、サッチが作ったヤツ、あたしがもらうの」
「お、おう」
サッチは呑み込みが早い。わからないながらも相槌をくれる。
アンは話を続けた。
「サッチが作った牛乳のアイス。すぐできるヤツ。でも一晩凍ってて、すごく固いの。あたしはスプーンで思いっきり突っつくんだけど、削れない」
「たまにあるな」
「でしょ。あたしはめんどくさいとフォークを刺して噛り付いたりもするけど、今回はそれはナシ。頑張って削るの」
「うん」
「溶けるのを待てば食べられるのに、あたしがガツガツつつくから、アイスは滑ってなかなか削れなかったりするじゃん」
「おう」
「今、そんな感じ」
なるほど、とは言ってくれなかった。
わかったようなわからないような、とサッチは腕を組んで考え込む。
「…えーと、つまり、マルコがその固ぇアイスで、つつく行為がアンの押しであって」
「そうそう」
わかってるじゃん、と頷くと、サッチはひらめいた顔でアンを見下ろした。
「じゃあ、マルコが溶けるのを待つってわけか」
「…一生溶けないかもね」
なんだよ、とサッチが鼻白んだ声を出す。
「じゃあ今の話はなんだったんだよ」
自分でもわからない、とアンは軽く肩をすくめた。
アイスの比喩はなかったな、と思ったとき、出ていったはずのマルコが会議室に戻ってきた。
アンとサッチの姿を捉えて、なんだお前らまだいたのかいと気だるげに言う。
サッチがちらりとアンを見下ろした。
最後なんだよ、とサッチに小さく呟いた。
「隊員に掃除させるからよい、ついでだ、その辺の椅子上にあげといてくれ」
マルコは会議室の様子を見に来ただけのようで、そう言ってすぐに背を向けた。
なんとも言えぬ顔するサッチの横で、アンは床を蹴る。
マルコの広い背中めがけて走りだす。
マルコはアンの気配に気がついて、顔をしかめて、さっと避けるに違いなかった。
からぶったアンの身体は何もない宙を抱きしめて、ああ避けられたと悔しがるはずだった。
10メートル足らずのその距離はアンの足であっという間に埋まり、気配を察して気が付いたマルコの少し驚いた顔が一瞬見えた。
どすんとぶつかる。
「…なんだよい」
あれ? と顔を上げた。
アンの腕はしっかりと、マルコの腹に回さされている。
マルコは避けなかった。
「あれ?」
声にも出して尋ねる。
マルコが変わらず眠たそうな目をして、アンを見下ろしていた。
「避けないの?」
「…ぼーっとしてたよい」
ああなんだ、それだけか。
ぐりっとマルコの腕に額を擦り付けると、いつものように手で押し返された。
最後だからとここぞとばかりにマルコの匂いを目一杯吸い込む。
煙草臭さにむせると、失礼なヤツだといやがる声がした。
これは理屈じゃない、と思った。
そうだ、あたしは難しいことや考えることが苦手なのに、どうして理解しようと頑張っていたんだろうと、質問が一周回って回答を持ってやってきた。
マルコがたまらなく好きだ。
この人の顔も体も髪も爪も声も口調も息遣いさえ、全部を取り込んでしまいたいくらい好きなのだ。
そうだ、好きという気持ちは欲求だ。
マルコが欲しいんだよ、と声には出さずに呟く。
「ねぇマルコ」
いい加減離れろ、とアンの腕に手をかけていたマルコに負けないよう、一瞬腕の力を強くした。
溶けるのを待つ気はないが、つつくのはやめだ。
「すきだよ」
なるようにしかならない。
アンを動かすのは頭ではない。
全ては、アンの心がわかっている。
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