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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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大通りに面した一等地にその店はある。
白い外壁、青い屋根、焦げ茶色の看板に木製の立派な扉。
そしてその扉の中と外を繋いで、人がずらりと並んでいた。
 その様子を目の当たりにして、4人で立ち尽くした。

「ナミさんどうやって予約取ったの?」
「……電話」
「本当に取れてるの?」
「たぶんって言ったでしょ」

怪訝な顔で3人に振り向かれて目を逸らす。
とりあえず入りましょうと人の列に沿って店の中へと入った。
レジカウンターにいる男性スタッフと目が合って、彼が最初に電話に出た人だろうと思い小さく会釈した。

「予約されてます?」
「えーっとさっき電話を」
「あぁ、4名さん。ようこそ」

さくっと了解されてあっという間に席に案内されていた。
店の角の窓際の、びっくりするほど良席だった。
壁一面の大きなガラス窓から、綺麗に整理された小庭の緑が見える。

「ナミさん予約してくれてたの?」
「や、さっき電話したのが初めてだけど、実は知り合いがいて」
「えーっそうなの? すごい特別扱いでびっくりしちゃった」

ね、と顔を見合わせ笑うビビとカヤさんに、愛想笑いを返す。
濃いえんじ色の絨毯、ドーム状になった丸いフロア、隙のないギャルソンたちが秩序だってテーブルの間を行き交う。
ただ、他の3人が楽しげに辺りを見渡しているのに対して私一人冷や汗をかいている。
だってこの店すごく高そう。

「ね、ね」

テーブルの真ん中に身を乗り出すようにすると、他の3人もそろって顔をこちらに向けた。

「ごめん、なんかめちゃくちゃお高そうなお店に来ちゃった」
「えー、まぁそうね、ハイソな感じ」
「いいじゃない、たまには。みんな忙しかったんだし」
「そうよ、せっかくなら一番高いコース頼んじゃいましょうよ」

デザートまでたっぷりのやつ、とビビが笑ったところで、ふと隣に影が差した。

「いらっしゃいませレディ達。ようこそバラティエへ」




4人で朝から岩盤浴に行った帰り際、他の3人に隠れてこそこそ電話した。
まだ忙しい時間帯だろうに、電話はたったの2コールで繋がった。
随分野太い声のスタッフが、居酒屋のような威勢の良さで店名を告げる。

「今からランチ4人予約できませんか」
「あいにく満席で、このあとも予約が」
「あぁやっぱり。んーと、じゃあサンジ君はいるかしら」
「サンジ? おたくうちのサンジの知り合いで?」
「ん、えぇまぁ。でもごめんなさい忙しいときに。やっぱりい……」
「あちょいと待ち」

おいクォラサンジィ!! と電話口から少し離れたところで怒声が響き、思わず携帯から耳を離した。
んだクソ野郎、と答える声が確かに知ったもので妙に緊張する。

「はいもしもしお電話代わりました──」

営業用にしては随分低い声に笑いそうになりながら、「仕事中にごめん、私だけど」と抑えた声で言う。

「……え、ナミさん!?」
「ん、本当ごめん、代わってもらわなくていいって言おうとしたんだけど」
「なに、なになになに!? おれの声が聞きたくなった!? 聞きたくなったの!?」
「ちがうから落ち着いて。サンジ君のお店に友達とランチ行きたくて予約の電話したんだけど、今日は無理そうね」

ディナーは数か月先まで予約で埋まっていると聞いた。はたしてランチは、と一縷の望みをかけたのだけど、どうやら難しそうだ。
しかしサンジ君は至極あっさりとした声で「いやいけるよ?」と言った。

「え、でも今満席ってさっき」
「うんでも何人?」
「4人……」
「ん、了解。あとどれくらいで着きそう?」
「近いから15分くらい」
「わかった、気を付けて来て。待ってる」
「ほ、本当に大丈夫なの」
「大丈夫大丈夫、クソうめぇの作るから期待してて」

ナミさんの声が聞けて良かった。そう言って電話は切れた。
なんとなく腑に落ちない思いで出入り口の方へ行くと、すでにみんなきちんと化粧を施して、さっきまでのあどけなさが嘘みたいにきちんと整った姿で私を待っていた。

「ナミさんどこ行ってたの」
「あ、ちょっと電話。ランチのお店予約しとこうと思って」
「あらありがとう。予約できた?」
「うん、たぶん」

たぶん、と歯切れの悪い私の言葉には特に誰も引っかかった様子はなく、みんな一様にしあわせそうなほくほくとした身体でサロンを後にしたのだ。




厨房にいるもんだと思ったのに。
黒いベストに黒いサロンを下げて、きっちりギャルソンの格好をしたサンジ君を呆気にとられて見上げた。
目の前のテーブルにさっとメニューボードがひとつずつ差し込まれる。
サンジ君が4人を見下ろして丁寧に一礼した。

「おすすめのランチコースがそちらのメニューに。本日のメインは甘鯛のポワレか仔羊のグリル、春野菜を使ったストロガノフからお選び頂けます」

彼が顔を上げた瞬間目が合った。
左口の端を少し上げて、ほんの少しそれだけの仕草で私に応えた。
彼がいつも煙草を挟む方の口だと、私だけが知っている。

「じゃあ私、甘鯛」
「あ、私も」
「私はストロガノフを」

とととんと注文を済ませた3人が私を見る。
クリーム色のざらついたメニュー用紙の上を視線が滑る。
ナミさんは? と訊かれるかと思ったのに、サンジ君は黙って私の言葉を待っていた。

「……仔羊のグリル」
「かしこまりました。メニューをお下げしても?」

メニューボードを彼に差し出すと、丁寧な指先がそれを受け取った。
彼が立ち去ると、ビビがきょろりと辺りを見渡してから「ナミさんのお友達は? 厨房にいるの?」と無邪気な顔で尋ねた。

「──ん、そうだったかな」
「料理人なの?」
「うん」

すごーい、とビビとカヤさんは物珍しげにはしゃいだ。
カトラリーのぶつかり合う上品な音があちこちから響いてくる。
別のギャルソンが、私たちのテーブルにもカトラリーを行儀よく並べた。

「男の人?」と唐突にロビンが訊く。

「そう」
「聞いてないわね」

ちらりとロビンを見渡すと、いつかの仕返しだと言わんばかりの目で見つめ返してくる。
「言ってないもの」と小さな声で反抗的に呟いた。

「え、なに、そういう人なの? ナミさんの?」
「別にぃ。ちがう」
「うそ、見てみたいな、フロアにはでてこないのかしら」
「出てこないわ。料理作ってんだもん」

ていうか違うって言ってるのにと反論してみても誰も聞いていない。

「なるほどそれでこんなスムーズに人気店に飛び込めたのね」
「え、ってことはも上手く行ってる人なの?」

それこそ聞いてないわ、とビビが身を乗り出しかけたとき、会話を遮らないタイミングで「お待たせしました」と前菜が運ばれてきた。
かわいらしいカクテルグラスに入ったデザートのような冷菜だ。

「カリフラワーのムースとトマトのジュレのカクテルです」

かわいい、とカヤさんが声をあげた。
もったりとしたムースの上に透明のゼリーがかかっている。
ビビが一口含んで、声をあげた。

「この透明なゼリー、トマトの味がする!」
「トマトの凝縮液なんじゃない。凝縮すると赤くなんないから」
「へー、ナミさん詳しい」

ふるふる揺れるジュレはのど越しよく体の中へ滑り落ちていった。
まだ火照りの残った身体に優しく溶けていくようで心地いい。

「それで、どんな人? どこまで上手く行ってるの?」

忘れてないわよと言わんばかりに、すかさずビビが会話を繋ぐ。
金色のスプーンを咥えて、「聞きたいなぁナミさんの話」とわざとらしくにやけている。

「ちがうってばだから。ここに来たのはたまたま近くだったからで」
「じゃ、付き合ってはないわけね」
「そうよ!」
「ナミこそ特定の誰かと付き合ったりしないものね」
「おいしいごはん食べさせてくれて高いもの買ってくれたらそれでいいんだもん」

すがすがしいのね、とロビンが呆れたように笑った。
薄い橙色のとろりとしたスープがサーブされて、覚えのある舌触りに驚いた。
家の狭い台所で彼は丁寧に下ごしらえをして、店で出すのと同じものを私に食べさせたのだ。

「パプリカ? 甘くておいしー」
「メインまでにお腹いっぱいになっちゃいそう」
「これも噂の彼が作ってるのかしら?」

ロビンが目を伏せたままなんでもないことのように尋ねる。
「知らない」とそっけなく答えると鼻で笑われた。

「なんでそうまで隠したがるの。人のことは根掘り葉掘り聞くくせに」
「別に隠したがってるわけじゃないもん。まだそういう人じゃないだけで」

まだ、と言ってからハッと気付いて、「別に予定があるわけじゃないけど」とごにょごにょ訂正した。

「意地っ張りね」

ロビンが大人びた顔で笑うのが悔しくて、黙ってスープをすすった。
ビビとカヤさんはくすくす笑っている。
底の見えたスープ皿に天井の丸い灯りが映っていた。
サンジ君、ギャルソンの格好だった。
今日は作ってないのだろうか。

メインが運ばれてきて、自分が選んだのがなんだったか思い出せなかった私の代わりにカヤさんが「ナミさんは仔羊のグリルって」と小さな声で教えてくれた。
やわらかくてあたたかい肉を口に含む。
ソースの甘い味が濃い肉汁といっしょにじわりと沁みた。

「あーおいしい」

思わず低い声で呟く。
ふと他の3人の顔を見ると、一様に目を細くして黙って咀嚼していた。
言うつもりもなかったのに、つい口からこぼれ出た。

「おいしいでしょ」
「……うん、びっくり」
「久しぶりにこんなにおいしいもの食べたわってくらい」
「でしょ」

知ってるんだもの、と胸の内で呟く。少しだけ誇らしげに。
私の噂の彼の話からビビのこの間の旅行の話を聞いたり、カヤさんが学会で失敗した話のあとでロビンの年下の男の話題に急展開してみたり、忙しい私たちの会話の間、何度か背後を振り返りそうになった。
実際に数回振り返って、でもそのたびに広いフロアを行き来する黒いスーツのギャルソンたちの中にひときわ目立った金髪は見つけられなかった。

「いない?」

不意に訊かれて、また後ろを見ていたのだとそのとき気付いた。
否定のしようもなくて、苦い顔で「うん」と言う。

「忙しいのね、それに料理人なんでしょう? 手が空かなきゃ出てこられないでしょうね」

デセールの小さなパルフェをつつきながら言うロビンの口調が慰めるようで、落ち着かない気持ちになった。
別に会いに来たわけじゃないのだ。

「ナミさんから顔くらい出しに行ったら?」
「えっいいわよそんなの」
「どうして? 来てくれたら喜ぶわよ、きっと」

そりゃ喜ぶだろう。抱き着くような勢いで飛び跳ねるに決まっている。
でも邪魔をするわけにはいかない。

食後のコーヒーまで飲んで、気付いたら店に入って2時間近くたっていた。
コース料理はゆっくりしちゃうわねと言いながら近くの店員に会計を頼んだ。
しばらくして戻ってきた店員が私の背後に立ったので、お会計を受け取ろうと手を伸ばしたら代わりにギュッと指先を握られたので心底驚いて振り返った。

「お料理はお気に召していただけましたかな、レディ達」
「サッ……!」
「御代は結構です、君たちの顔をまた見せに来てくれたらそれで」

サンジ君はコック服のままだった。
やっぱり、最初はわざわざ着替えてきたのだ。
私の手を握ったまま、サンジ君は呆気にとられる私たちを見渡してにっこり笑う。

「帰り道お気をつけて」

すっと私の手を下ろして一礼すると、サンジ君はフロアの中で目立つコック服を隠すように店の隅を歩いてさっと厨房に続く扉の向こうに消えた。

「──なるほど」

最初に口を開いたのが意外にもカヤさんで、その一言を皮切りにロビンとビビも口を揃えて「なるほどね」と言ったのだった。




夕方から予定があるというビビのために早めに解散し、私も明るいうちに家へと帰った。
帰り道携帯がメールを受信し、相手がサンジ君だったので驚いてすぐさま時計に目を走らせる。
まだ16時で、これからディナーの始まる彼の店はまだまだ忙しいはずだ。

「夜会える?」という短い本文に、こちらも「外でなら」と短く返す。
家には上げないのだ。
付き合ってもない男を私は家に上げたりしない。

「じゃあおれんちに来てくれる? 迎えに行くよ」という返事に、「了解」とそっけなく返した。
家には上げないけど、あっちの家には上がってやってもいい。
何度かごはんを作ってもらった、ただそれだけだから。

23時近くになって、「ごめん遅くなった」と電話がかかってきた。
同時に部屋のベランダ側、道路に面した方から自転車のブレーキが止まる音がした。
テレビを消して、変な柄のヘアバンドを頭から外す。

「ほんっとに遅い。もうお風呂入ろうかと思ってた」
「ごめん、ほんっとにごめん! な、ちょっとだけだから会えね? おれメシ今からだからさ、なんか夜食作るし」

ナミさーん、出てきてー、と電話と窓の外と両方から聞こえる。
「ばか、声がでかい!」と一喝してから手櫛で髪を軽く整えて外に出た。

マンションのエントランスを出ると、サンジ君が咥え煙草で自転車にもたれていた。
「こんばんは」という馬鹿丁寧なあいさつに、「おつかれさま」と返すとほろほろと彼の頬が溶けるように緩んで笑った。

からからと自転車を引いて、私たちは夜道を歩く。

「今日、来てくれてほんっとありがとな。びっくりしたけどめちゃくちゃ嬉しかった。てか先に電話くれて良かったよ」
「や、こっちこそ……そうだお代! 全員分払ってくれなくてもよかったのに!」
「せっかくナミさんが可愛いお友達3人も連れて来てくれたんだもん、奢りてぇよ」
「それにしたって……予約も、無理したんでしょ」

ふわふわと夜闇に溶ける煙草の煙を目で追いながら、サンジ君は「ぜーんぜん」と言った。

「ナミさんのためならいつでも席空けるって前に言ったろ。有言実行」
「そんなことばっかりしてよく首にならないわね。いくら自分の家だからって」
「いやいやこんなことすんの初めてだぜ。さすがにしょっちゅうしてらんねぇよ」

ナミさんだけ、と顔を覗き込まれる。
わざとらしい、と顔を背けると「手厳しいなあ」と彼は朗らかに笑った。

「それにわざわざ出てこなくたってよかったのに」
「だってナミさんに会いてェじゃん。てか帰り際びっくりさせちまったな。言ってなかったの? おれのこと」
「言ってない。あんたこそ」

ビビたちに何か言うかと思ったのに。
私を口説くように軽い口から甘い言葉が音楽みたいに零れる様を想像していたから、昼間は少し拍子抜けした。
私に対してもあくまで客として接して、さっさと奥へと引っ込んだ。

「だってご挨拶するときは『ナミさんの彼氏ですどうも』って言いてェじゃん」

返事をしないでいたら、彼がぎゅっとブレーキを握って足を止めた。

「今度会ったら言ってもいい?」

ふと風向きが変わって煙草の煙が顔に当たった。
サンジ君は慌てて「わ、ごめん」とそばのガードレールで煙草をもみ消す。
夜風で煙たい香りがするする阻まれることなく流れていく。
私が歩き出すと、サンジ君も付き添うように歩き始めた。
夜中の0時まで開いているスーパーの前を通り過ぎたとき、サンジ君がふと「たこ焼き食いてェなぁ」と呟いた。

「買ってく?」
「んー、でもなんか作ろうかと思ってたし」
「仕事終わりだし面倒じゃないの? いいじゃない買ってけば」
「でもナミさんの夜食」
「私別にお腹すいてないし。あんたの買ったたこ焼きちょうだい」

「んじゃ寄ってくかぁ」と軽く方向転換して煌々と明るい店先に向かって歩いていく。

夜中に近い時間のサンジ君は大きな虎のようで、少し疲れた様子で肩を落として、けだるそうに煙草に手を伸ばす。
古びた自転車を駐輪場に停めて、すぐそばの灰皿に煙草を放り込んで、あくびをかみ殺したその顔をスーパーの灯りが白く照らすのを見上げたらとてつもなく不安になった。
いつのまにか巻き込まれて取り込まれてどこかに持って行かれそうな気持ちがした。
それはそれでしあわせなような気もして、それをすごくこわいと思った。

たこ焼きはなくて、焼きそばを買ってふたりで食べた。

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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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