OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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小さく島影が見えてきた頃から、アンは船べりにしがみついて、ショーが始まるのを待つ子供のような顔でそれを見つめていた。
どんと船は大きく揺れて、島の裏海岸に接岸する。
一斉に大勢の男たちが動き出し、タラップをかけ錨を下ろし、と自分たちの仕事を遂行していく。
遊びにきたわけではなく、とはいえ遊ぶなというのも海賊には無理な話で、全員どこか浮き足立っている。
アンも一日目は仕事がある。
非番のクルーが勇み足で街へ降り立っていくのを、そわそわしながら眺めていた。
そして待ちに待った翌日、アンは船べりの上に立ち上がって、大きく叫んだ。
「しっまーーっ!!」
「るせっ」
「…耳元で叫ぶなよい」
ぴょいと船縁から陸へと降り立つと、両脇にマルコとサッチも降りてくる。
アンはきっとマルコを横目でにらんだ。
「マルコ!昨日大変だったんだからねこのヤロウ!」
「へぇそうかい」
「昨日ってアン、二番隊は武器庫の整理だけだったろ?」
マルコはまったく気にした風もなくアンの話を聞き流すので、それも気に入らない。
あぁマルコのそっけない顔も、などと思うのはきりがないのでやめておく。
一昨日言い渡された仕事はサッチの言うとおり武器庫の整理、調達等。
それが終われば後は自由だと言われて素直に喜んでいたのに。
昨日の朝、じゃあ頼んだよいとマルコに渡された一枚の紙切れ。
銃が30丁、剣が10本、短剣30本、火薬が150キロ、その他まだまだ続くといったような紙。
まさかと見上げたその顔は、おなじみのニヒルな笑いを浮かべていて。
「それ調達したら全武器庫の片付け一通り、頼んだよい」
「ぜっ…全部!?二番倉庫だけじゃなくて!?」
「あたりめぇだろい、そもそもなんで今日ログが示していないこの島に立ち寄ったのかわかってんだろうねい」
「うぁ…あたしが冷蔵庫食い荒らしたから…」
「わかってんなら四の五の言わずにやるこった」
ほら行けと追い払われたアンはすごすごと甲板に戻り、二番隊を召集。
本日の仕事を言い渡すと、予想通り烈火の如き非難を浴びた。
そういうわけで、二番隊は昨日島じゅうの武器屋を駆けずり回り、埃臭さが漂うそこで一日を過ごすはめになったアンは鬱憤がたまっていた。
「ああ、昨日のせいで肩ごりごりする」
「オレが揉んでやろう」
「いいサッチはセクハラだから」
どこでそんな言葉覚えたんだ!?と歎くサッチを後ろ目に、あたしたちは街へと歩きだす。
昼前の街は明るく喧騒に溢れていて、活気あって見ごたえがある。
両脇の強面に挟まれて、とにかくいっぱい食べるのみ、と意気込んだ。
*
「あ!ねえアレなにかな」
「特産品?」
「いいにおい」
出店が立ち並ぶ通りはまるで祭りだ。
今日ってなんかの祭り?と街の人間に尋ねたが、いや、毎日こんなもんだと笑われた。
アンはふらふらとにおいの源泉に寄っていく。
店の初老の女性が愛想よく笑う。
鉄板の上で、こんがりと香ばしいにおいを醸しながら焼けているパンを見下ろして、アンは「これ中なに入ってんの!?」と歓喜の声を上げた。
「この島特産の牛肉だよ」
パンはうちの特製さ、と言われ、アンの緩んだ口元からよだれがこぼれそうなのをサッチが指摘した。
うまそうだねいとマルコが横から顔を覗かせる。
「おばちゃんっ、4つちょーだい」
はいよと準備するおばちゃんの手際を見つつ、自然とアンの足元は浮足立っている。
サッチが口をはさんだ。
「なんで4つ?」
「マルコとサッチとあたしとあたし!」
「…なるほど」
はいと手渡して貰ったそれに払うお金を、ズボンのポケットから引っ張り出していると、まいどー、とおばちゃんの明るい声。
顔をあげると、釣銭を受け取るマルコの無表情が見えた。
「わ、マルコあたし今日はちゃんとお金持ってる!」
「別にこれくらいいいよい」
早く受け取れよい、と女性の差しだすパンを顎で指し示す。
アンはにやっと笑い返して手を伸ばした。
「いいねぇ優しいお兄ちゃんたちで」
女性はほのぼのと3人を見渡した。
サッチが「だろーっ!?オレってばまったくいいお兄ちゃん!」と一人悶える。
サッチが買ってくれたわけではない。
「行くよい」
背を向けたマルコの背中を追いかけて、アンはまだ温かいそれに噛り付いた。
*
…しまった。非常にしまった。
ついふらふらとあっちやこっちに目を奪われているうちに、マルコたちと逸れてしまった。
しかもどんどん人通りも店も少なくなっていく。
木や茂みのほうが多くなってきた。
あたりは薄暗く、道もどっちがどっちだかわからない。
島の半分が山になっていると確か昨日航海士が行っていた。ここはすっかり、山の麓なんだろう。
背の高い木々が西日を遮って、あたりは薄暗い。
不気味な鳥の鳴き声が甲高く響いた。
早く合流しないと、せっかく夜は飲もうと言っていたのに。
焦るほど道もわからなくなり、日の傾きは進んでいく。
嫌な汗が肌を伝う。
アンはとりあえず坂を下れば街だろうと踏んで、微かな勾配を下っていくことにした。
おっかしいな、どこで迷ったんだろうと頭をひねりながら足を動かす。
ふと背後、そう近いわけではない背後に人の気を感じて振り返った。
同時に後ろでジャリと砂が鳴った。
*
舐めまわすようにアンの体をつま先からてっぺんまで見る、ヘビのようないくつもの目に囲まれて、アンは肩をすくめることも首を縮めることもなかった。
ただ、ああ鬱陶しいことになりそうな気がすると、ぼんやり思う。
ねぇちゃん迷ったのか、とねっとりとした声が尋ねた。
「うん、迷子」
「そうか、じゃあ送ってってやるよ」
その言葉に、後ろの男たちが顔を歪めて笑う。
あたしはふるりと首を振った。
「いい、帰る」
「んなこと言って、道わかんねぇんだろ?」
「じゃあ教えてよ」
「帰るより、」
オレたちに楽しいこと教えてくれよ、と男はアンの細い腰に伸びた。
その手が触れるか触れないかの寸でのところで、アンの拳があやまたず男の顔にめり込んだ。
「触んな」
ぐしゃりと崩れ倒れる男にそう吐き捨てる。
一瞬呆気にとられた男たちは、たじろぐように一歩下がったものの、次の瞬間には腰のサーベルを抜いた。
薄暗い夕方の空気の中で冷たく光る。
だから上着は嫌いなんだ、とため息をつきながらアンはその手に炎をともした。
*
数人が火の付いた服をそのままに逃げるように山を下って行くのを、アンは黙って見送った。
しゅう、と人が焼けた独特の臭いの中火が収まる。
自ら転んで気絶した者もいれば、顔を焼かれた痛みに悶える者もいたが、とにかく残った男たちも既に戦える状態ではなく地面に転がっていた。
「あ、もう空が」
見上げた空は、ずいぶん紺色が濃くなってきた。
無駄な時間だったと倒れる男を跨いだとき、目の端できらりと銀が光った。
刃。
最後の力とでも言わんばかりに、膝立ちの男がそれを振り下ろした。
ひょいと避けるには近すぎる、しかし飛んで避けるのは面倒だ。
どうせ刃物じゃ切れない体なのだから。
一息にそう考えて、アンはかまわず歩を進めた。
ざくりと肉の切れる音が振動で伝わった。
「え」
じんと痺れが左の足元から駆け上り、一瞬で燃えるような熱が灯った。
男がニヤリと笑う。
海楼石だ。
「クッソ」
アンは反対の足で、男の頭を踏みつぶした。
頭蓋が固い地面にぶつかる。
男はその衝撃で今度こそ完全に気を失ったが、アンは傷ついた足を軸にしたためよろりと左にふらついた。
痛い。切り傷なんて久しぶりだ。
男が握る刃に触れると、へにょんと力が抜けた。
なんで山賊が、なんて思いながらもどんどん熱がそこに集まってくる。
「かっこわる…」
隊員には絶対見られたくない姿だ。
自分の血を見るのは久しぶりだった。
左太ももの外側から膝の側面を伝い、後ろのまわってふくらはぎの裏のふくらみを赤い筋が辿っていく。
汗よりも濃い液体が肌を伝う感覚にぞっとした。
止血ってどうやってするんだっけ? とアンはとりあえずその場に座り込んだ。
「アン!」
座った矢先、遥か上空から聞こえてきた声に、弾かれたように顔を上げた。
空の色より数段鮮やかな青が揺れている。
「…マル、コ」
ばさっと羽音をさせ降り立ったマルコは座り込むアンを見下ろし息をついた。
深い眉間のしわが影を作る。
これはげんこつがくる、そう察しぎゅっと目をつむったが、なかなかいつもの衝撃がやってこなかった。
そっと目を開けると、目の前にはマルコの顔が。
「心配したよい」
怒るのでもなく小言を言うのでもなく、心底心配していたのだと、その声を聞くだけでわかった。
哀しくはないのに、ほろりと涙が零れる。
泣くなよいと無骨な指先が頬を拭う。
アンは泣くまいと唇を噛み締めた。
「ああ、怪我してんのかい」
アンの足に目をやったマルコは、それからちらりと倒れ伏す山賊たちを流し見る。
「ごめん」
「何謝ってんだい、ほら乗れ」
マルコは背を向けた。
アンは鼻をすすって、その首にしがみついた。
*
ボボボッとアンの炎とは質の違うそれが二人を纏う。
ひゅんと飛び上がった空はもう真っ暗に近かった。
あ、海が見える。
呟くと、島だからと当たり前の答えが返ってきた。
あの小さな粒はモビーかな。
そうだろうねい、と律儀に答えてくれる。
水平線近くだけが淡く紫がかり、ぼんやりと港を照らす。
「探して…くれてたの?」
「ん、ああ、サッチは街ん中探してるよい。オレはお前の炎が上から見えたんでねい」
ぎゅっとマルコの首に抱き着くと、マルコは窮屈そうに身をよじったが何も言わなかった。
迎えに来てくれてありがとうと、言いそびれてしまった。
代わりに、ここ最近ずっと、アンをいっぱいにしている感情が喉元までせりあがる。
マルコに出会って気付かされるまで知らなかったその感情は、いいことよりも面倒なことの方が多かった。
ふわりとアンをしあわせにしたかと思えば、まっさかさまに突き落として暗闇に一人ぼっちにする。
それでも手放せないのは、とても大事なものだと自分がわかっているのだろう。
それともマルコだからかな、と温かい羽根を握る。
「マルコ、すき」
ほろりと零れたそれに、慌てて口をつぐむ。
しかし言ってしまったものは無かったことになんてならないのはわかっている。
言わないと決めたのに。
早くも自ら打ち砕いた決心に嫌気がさして、ため息が漏れないようギュッと唇をかみしめた。
「…知ってるよい」
帰ってきた、予想外の返事。
淡泊で、相変わらずなそれ。
でも、はじめて、ちゃんと聞いてもらえた気がした。
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