OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2016.9.4 GLC7の無料配布サンナミの再録です。
最後にkonohaさんから頂いたイラスト付き。
**
夜ふけの2時前、秋島の秋、港町の宿屋の一室。久しぶりに野郎の足が飛び込んでこない、しかも揺れないベッドでひとりゆったり眠るはずの夜だった。
海賊業。金品強奪、詐欺脅迫、誘拐騙取に暴行傷害。とりわけ金品強奪においては殊更頻繁で、彼女の得意分野はとある賭場でもブンブン発揮された。
その手際を初めて間近でみたときは、彼女の細くて小さな背中を眺めていたおれにも最後までなにが起こったのかわからなかった。
イカサマで巻き上げること数十万。トイレに行くと言って戻ってくると数個の見知らぬ財布と一緒だ。臆することなくドレスの胸元を引き下げて色仕掛けをしたかと思えば、見抜かれたらとっとと逃げる。
お付きのおれの仕事といえば、そんな奴らを蹴散らしてトンズラこくくらいで、しいていえば暴行傷害。彼女の悪業に比べりゃチンケなものだ。
稼いだ金の九割九分が彼女のふところに収まるわけだが、その日は稼ぎがよかったからかただの気まぐれか、気の大きくなった彼女はおれたち全員に一人一部屋取らせてくれた。
「たまにはハンモックじゃないベッドで、ひとりぐっすり眠ったら?」
女神かな、と思う。
とはいえ日が変わる頃まで宿の側の酒場で、5人でじゃんじゃん酒を飲み、食らい、騒ぎ尽くした。酒がないからもう出てけと酒場を追い出され、ゾロが使い古しのゴムのようなルフィを、おれが潰れて黙りこくったウソップをそれぞれの部屋に放り込む。
「それじゃまた明日ねー」
「うす」
「おやすみナミさん、いい夢を」
ひらりと手を振って部屋に入る彼女の背中を見送って、おれもその2つ隣の部屋に引っ込んだのだった。
シャワーを浴びて、パンツ一丁で狭い部屋を横切りバルコニーに出る。ぬるくて潮くさい夜風に酔った身体がなぶられる。煙草に火を付けて、なにも考えずに一本吸った。
酒臭い息が胃からこみ上げて、眠いようなだるいようなわかんねぇなと思いながらあくびをする。部屋に戻ると隣からゾロのいびきが粗く聞こえてきた。ハンモックの真下から響きわたるよりましだが、これじゃいつもとたいしてかわんねぇなと苦い思いでベッドに転がった。
ずくっと肋骨が痛む。まだ完全にくっついてない骨が、深く息をするとみしみしとしなるのだ。
あーあ、と声に出してもう一度あくびをしたら、すこんと意識が抜けるように一気に寝落ちた。
細くて高いレディの声がする。
呼ばれたわけではないのにふと目が覚めた。
廊下がやけに騒がしい。うとうとしていたような、深い眠りに落ちていたような、よくわからないまま時計を見たらまだ一時間ほどしか経っていない。
パンツ一丁で転がったので少々腹のあたりが心許なく、持ってきたTシャツを着てズボンを履いた。
どこぞの酔っ払いとそいつが買ったレディが喧嘩でもしてんのかね、と思いながら再びもぞもぞとベッドに戻りかけたそのとき、どん、とドアが鳴った。
は? と首をもたげてドアを見つめる。
と、またどんどん、と今度はよりはっきりとした意思を持って叩かれる。
「アァ?」
この酔っ払いが、部屋間違えやがってといきりたって扉に手をかけた。開ける寸前にまさか海軍じゃねぇだろうなとドアスコープを覗いたそこに、彼女はいたのだった。
少し濡れた髪がしっとりとウェーブを描き、つやつやとオレンジ色に光っている。
目を丸めて扉を開けたおれに、彼女は小さく手を上げて、かわいらしく「ごめんね?」と言った。彼女の少し伸びたTシャツの袖から覗く白い腕に一瞬目を奪われる。
「寝てた?」
「や、うん、え、ナミさんどうした」
「泊めてほしくって」
「泊め?」
うん、と彼女は至極素直な感じでうなずいた。船の上でいつもルフィやゾロにカリカリ怒ってている顔も可愛らしいが、なんだか今は愛玩用のナミさんと言う感じでとてもラブリーだ。
一瞬のうちにそんなことを考えて、彼女の「おねがーい」と言う声で目が覚めた。
「泊めてくれる?」
「え、あぁもちろん、どうぞ」
彼女のために大きく扉を開く。ナミさんはそうなるべきであることを知っていたかのようにひとつ頷いて、「ありがと」とおれの部屋に踏み込んできた。
「スクリンプラーの誤作動で部屋中水浸し。ほんっと最悪。今日買った服だってびしょびしょよ!」
そりゃあ災難だね、と苦笑する。苦笑するしかないだろう。お愛想程度に部屋の隅に置いてある一本足のテーブルにもたれて、仕方なしに煙草を吸う。彼女はたった一つのベッドの上に胡坐をかいて、枕をぼすんと乱暴に叩いた。
「それでナミさんもそんなビショビショに?」
「あ、ちがうの私はちょうどお風呂に入っててね、出たらぶーんってスプリンクラーが回ってたわけ。すぐにフロントに駆け込んだから、髪乾かしそびれちゃった。でももういいや」
半分乾いてくるんくるんと跳ねた毛先を指先でぴんとはじいて、彼女は「ごめんねーほんと」と笑いながら言った。
「寝てたでしょ。せっかく一部屋取れたのにね」
「ナミさんこそ残念だったね」
「ま、ね。でも私は船でもひとり部屋だし」
あそうそう、と彼女は言う。
「だからここの宿代、全員分チャラになったから」
「マジ?」
「うん、だって一人一部屋が、一人部屋に二人押し込められることになったのよ。ほかに部屋も空いてないって言うし……私物も濡れたしどうしてくれんのってすごんじゃった」
おつりおまけしてくれたわ、みたいな口調でとうとうとナミさんは語り、「あー疲れた」とついにはバタンとベットに仰向けになった。
「ちょっと狭いけど、サンジ君細いし。セミダブルだからいいわよね」
「ん、え、あ、ナミさん寝る?」
「うん。あ、サンジ君もおかまいなく」
ごろんと彼女は壁側に身体を寄せ、「あんたも寝るなら電気消してくれる?」と天井を指差した。
その小さな背中を見つめて、首の骨が襟足から覗く頼りなさにぞくっとした。いや興奮している場合か。
なにを試されているんだろう。背を向けた彼女の背中がなにか重要な命題を突きつける。
おれの一挙一動一投足がなにがしかのスイッチを押し、おれを破滅に導く気がする。
考えよう。
選択肢その1.「おれちょっと散歩してくる」
選択肢その2.「おれも隣で寝ていいの?」
選択肢その3.「お邪魔しまーす。いただきまーす」
3はない。まず3はない。いただいちゃだめだ。彼女のそぶりから、一ッッッ切そんな甘いそぶりは出ていない。たとえ甘くなくたってだめだだめだ。なによりおれの矜持に反する。
1は逃げだろう。逃げたいわけじゃない。いや、このにっちもさっちもいかない状況からはいささか逃げ出したい気分ではあるが、眠るレディに背中を向けて逃げるなど言語道断だ。
2、はなんだか情けない。ナミさんの言葉はすでにおれとひとつのベッドで眠ることを許しているのにあえて尋ねるなんて、なんとも情けない感じがするのだ。
結局どの選択肢も自ら潰して、一緒に煙草の先も潰して火を消した。
ナミさんは壁側を向きおれに背を向けて、既にして眠る体勢だ。彼女のためにも、幾分大袈裟でもない決死の思いで灯りを消した。
視界を失うとすっと肌が冷えた。汗をかいていたのだと気付く。数キロ先の港に波がぶつかる音が聞こえ、ふと足の下が揺れているような感覚になった。
手のひらで顔を撫で、たった2歩ですぐにベッドだ。膝からゆっくりと体重を乗せた。古くてかたいマットレスがぐっと物静かに沈む。そして、彼女がそうしているように、おれも彼女に背中を向けて横になった。ナミさんは何も言わない。
風が通り抜けるような細くて柔らかい呼吸の音が聞こえる。寝息なのか、ただの呼吸音なのかわからない。ぽんとベッドが揺れて、必要以上にどきっとする。ナミさんが脚をくずしただけだ。それなのに思わず身じろぎそうになり、強張った肩の力をゆっくりと抜かなければならない。
なにをこんなに、と苦々しい思いで、ああもうああもうと何度も胸の内で繰り返した。
向かい合わせの背中が熱い。
日差しに照らされるようなじりじりとした暑さではなく、それはやっぱり、おれの中から、あるいは彼女の中からじわっと染みだしておれたちの間の空気を熱しているように思えた。
「……眠れない?」
深い暗闇のどこかからスッと登ってくるような声だった。
すぐに答えられず、間をおいて「ナミさんは?」と問い返す。
「眠かったんだけど、フロントに怒鳴り込んだりなんだりで目が冴えちゃった。あとサンジ君が眠れてなさそうだったから」
「あ、悪ィ」
「ちがうちがう。で、サンジ君はやっぱり眠れないのね」
やっぱり? と背中合わせのまま問うと、彼女がくすくす笑ってベッドが小刻みに揺れた。
「うん、うちの誰より繊細そうだから」
だからあんたの部屋にしたんだけどね、とナミさんは変わらず可笑しそうに呟く。
「だから?」
「うん、ゾロとルフィはまず起こしても起きないでしょ。ウソップもべろべろだったし。その点あんたはわりとまだはっきりしてたし、部屋もきれいに使いそう」
「見る目があるね」
「でしょ」
うふふ、とナミさんは笑った。
突然ぐらんとベッドが大きく揺れた。驚いて肩越しにちらりと彼女の方を見ると、爛々と輝いた大きな目が暗闇の中でふたつ、じっとこっちを見ていてぎょっとした。
「え」
「お話でもする?」
お、おはなし? と問い返すと、ナミさんは静かに目を細めて、「眠れないんでしょ」と言った。
おずおずと、おれも彼女の方へ向き直る。
「なんの話?」
「そうね、なんでもいいけど……じゃあ、好きな食べ物は?」
えぇ、と驚いた声をあげると、ナミさんは声を出さずに肩を揺らした。
「好きな食べ物は?」
「えーと、じゃあ海鮮パスタ……辛口で」
「ふぅん」
「ナミさんは?」
「みかん」
「そっか……知ってたかも」
うん、と微笑んだナミさんが思いのほか嬉しそうで、おれまで嬉しくなる。
「じゃあー、今何が一番欲しい?」
「今?」
「いま」
ちらりとナミさんと目を合わせる。暗がりで、合っているのかどうかもわからないが、悪戯っぽく彼女が片眉を上げた気がした。
「……鍵付冷蔵庫かな」
「現実的ね。でも必須だわ」
だろ、と笑いながら、ナミさんは? とお決まりのパターンで問い返す。
「お金……はいつでも一番欲しいから、面白くないわよね」
「面白くなくても」
「じゃあ今はないかな」
意外な思いで目を丸くすると、「今はね」と彼女は念を押した。
「全部だわ、って思ったの」
「全部?」
「うん、7日前にね」
7日前。おれたちはその日、彼女の故郷を後にしていた。
「これが私の全部だわって思ったの。今はこれ以上もこれ以下もない、全部私のもの」
あんたたちのことよ、と彼女は目を伏せて小さく笑った。
「多分これから減ったり増えたりするの。そしたら足りない分が欲しくなったり、欲が増えてもっと欲しくなったりするでしょ? そしたらそのときにまた、欲しいって言うわ」
二の句が告げないおれにかまわず、ナミさんはふわあとあくびをした。
「そしたらサンジ君、そのとき……買ってね……」
ふっと軽い風で飛ばされるみたいに、彼女の意識がいなくなった。同時に瞼がすっと降りた。一瞬だ。
「ナミさん」
つい追いすがるように声をかけ、すぅと伸びたすこやかな寝息に息を呑む。バランスよく並んだ睫毛に目を奪われ、しばらくじっと見つめた。
その造形の美しさに性的な何かを感じないわけでもなかったが、彼女の信頼が圧倒的な強さでがつんとおれにぶつかって、おれはくらくらと、なすすべもなく、黙って彼女を見つめるしかなかった。
信じてるよと言わなくても、人はここまで誰かに何かを預けることができるのだ。
ナミさんは今おれと同じベッドだからこそ、こうして身を横たえて深く深く眠っている。
肩の力を抜き、シーツに頬を付けて彼女と同じ目背の高さになる。少し開いた口からは、歯磨き粉のミント、それに少しだけラムのにおい。
そっと顔を寄せた。
いい子だ。君はいい子だね、と言ってあげたい。手放しで誰かを信頼して、愛して、欲しいものを欲しいと言って泣きたいときに泣き叫ぶ強さを持っている。
どうかおれに守らせて。
いつか迷わず手を伸ばしておれを選んで。
そっと手を伸ばして彼女の手を握る。ほんのりと熱く、やわらかくゆるんでいた。
*
「ギャアア」
がつん、と脳天を揺さぶられて、肩から硬いものにぶつかった。いや、落ちたのだ。あとからぐわんぐわんと後頭部に痛みが広がってくる。
「あっ、あんたどういうつもりよ!」
「えっ、あっナミさんおはよ……」
「おはようじゃないわよ! 誰が抱きしめて服の中に手ェ入れていいっつったのよ!」
「あ、ごめんそんなことまでしてた?」
くわっ、とナミさんが鬼の形相になる。
抱きしめたのはおれの意志だ。手を握るだけでは朝起きたとき彼女がいなくなってしまいそうで、そっと肩と腰を引き寄せたら彼女の方からぬくもりを求めるみたいにすり寄ってきた。
ハー耐え切れんと思ったものの、おれも酒を呑んでいたせいかむくむくと燃えかける性的な欲望よりも眠気の方が勝ってしまい、いつのまにか寝てしまった。
服の中に手を入れてしまったのは、その、おれの手がいけない手だからだ、仕方がない。
彼女はベッドの上に仁王立ちし、Tシャツの胸元をぎゅっと握りしめておれを睨み下ろした。
「信ッじらんない! 女好きなのは知ってたけど仲間にまで手ェ出すなんて!」
「いやいや手ェ出すなんてそんな……てかおれのベッドに潜り込んできたのはナミさんの方で」
「仲間でしょ!?」
「でも好きな女だ」
ナミさんは息を呑み、Tシャツから手を離すと拳を両脇で握りしめたまま、詰めていた息を吐き出した。
「……そう、あんたが女好きで仲間も構わず手を出す最低野郎ってことはよくわかったわ」
「えっ、や、そうじゃなく」
「確かに警戒もせずのこのこあんたの部屋までやってきた私がバカだったわ! でも金輪際あんたのことは信じない! 今夜のことは私のミスもあるから10万ベリーに負けてあげるけど、今度やったらただじゃおかないから!」
そんじゃお邪魔様! と捨て台詞を吐いて、ナミさんはどすどすと部屋の出口へと向かった。
「あ、ナミさん」
「うるさい!」
「欲しいモン決まったら、教えてくれよ」
ナミさんは怪訝な顔で振り返り、虫を見るみたいな目でおれを見て、何も言わずそのまま出ていった。
水浸しの部屋へ戻るのかと思いきや、隣の部屋を蹴破る勢いで叩きゾロを、そしてルフィにウソップをたたき起こしていた。野郎共の呻き声をかき消すように、「さっさと船に戻るわよ!」とナミさんの怒声が響く。
痛む頭を掻いて、よろよろと立ち上がった。
なかなかハードな道のりになりそうだが、道がないよりましだ。このまま父親みてぇな友達みてぇな立場になるよりは、彼女にとってほかの奴らとは違う意味を持つ男になれる方がずっといい。
「燃えるねェ」
煙草に火をつけた。
以下あとがきから抜粋。
新刊が現パロだったので、無配では海賊を…!と思い、実は前々から妄想していた「やんごとなき事情で一つのベッドで眠らざるをえなくなったサンナミ」と言うのを今回消化することができました。
出会ったばかりで、当然のようにサンジはナミさんに恋に落ちてて、しかしナミさんにはまっったくその気がないがゆえの警戒心の無さ!
むしろアーロンの呪縛から解放されたばかりの爽快感から必要以上に開放的になってて、仲間内での男女の線引きなんてものが見えないくらいゆるゆるのガード、そんなナミさんとの苦悩の一夜。ひー萌える(私が
サンジは自分の行動でナミさんとの間に明確な男女の一線を引くわけですが、今後ナミさんを落とす過程でその一線が良くも悪くも作用するのではと考えるだけでごはん3杯行けるのでした。
最後にkonohaさんから頂いたイラスト付き。
**
夜ふけの2時前、秋島の秋、港町の宿屋の一室。久しぶりに野郎の足が飛び込んでこない、しかも揺れないベッドでひとりゆったり眠るはずの夜だった。
海賊業。金品強奪、詐欺脅迫、誘拐騙取に暴行傷害。とりわけ金品強奪においては殊更頻繁で、彼女の得意分野はとある賭場でもブンブン発揮された。
その手際を初めて間近でみたときは、彼女の細くて小さな背中を眺めていたおれにも最後までなにが起こったのかわからなかった。
イカサマで巻き上げること数十万。トイレに行くと言って戻ってくると数個の見知らぬ財布と一緒だ。臆することなくドレスの胸元を引き下げて色仕掛けをしたかと思えば、見抜かれたらとっとと逃げる。
お付きのおれの仕事といえば、そんな奴らを蹴散らしてトンズラこくくらいで、しいていえば暴行傷害。彼女の悪業に比べりゃチンケなものだ。
稼いだ金の九割九分が彼女のふところに収まるわけだが、その日は稼ぎがよかったからかただの気まぐれか、気の大きくなった彼女はおれたち全員に一人一部屋取らせてくれた。
「たまにはハンモックじゃないベッドで、ひとりぐっすり眠ったら?」
女神かな、と思う。
とはいえ日が変わる頃まで宿の側の酒場で、5人でじゃんじゃん酒を飲み、食らい、騒ぎ尽くした。酒がないからもう出てけと酒場を追い出され、ゾロが使い古しのゴムのようなルフィを、おれが潰れて黙りこくったウソップをそれぞれの部屋に放り込む。
「それじゃまた明日ねー」
「うす」
「おやすみナミさん、いい夢を」
ひらりと手を振って部屋に入る彼女の背中を見送って、おれもその2つ隣の部屋に引っ込んだのだった。
シャワーを浴びて、パンツ一丁で狭い部屋を横切りバルコニーに出る。ぬるくて潮くさい夜風に酔った身体がなぶられる。煙草に火を付けて、なにも考えずに一本吸った。
酒臭い息が胃からこみ上げて、眠いようなだるいようなわかんねぇなと思いながらあくびをする。部屋に戻ると隣からゾロのいびきが粗く聞こえてきた。ハンモックの真下から響きわたるよりましだが、これじゃいつもとたいしてかわんねぇなと苦い思いでベッドに転がった。
ずくっと肋骨が痛む。まだ完全にくっついてない骨が、深く息をするとみしみしとしなるのだ。
あーあ、と声に出してもう一度あくびをしたら、すこんと意識が抜けるように一気に寝落ちた。
細くて高いレディの声がする。
呼ばれたわけではないのにふと目が覚めた。
廊下がやけに騒がしい。うとうとしていたような、深い眠りに落ちていたような、よくわからないまま時計を見たらまだ一時間ほどしか経っていない。
パンツ一丁で転がったので少々腹のあたりが心許なく、持ってきたTシャツを着てズボンを履いた。
どこぞの酔っ払いとそいつが買ったレディが喧嘩でもしてんのかね、と思いながら再びもぞもぞとベッドに戻りかけたそのとき、どん、とドアが鳴った。
は? と首をもたげてドアを見つめる。
と、またどんどん、と今度はよりはっきりとした意思を持って叩かれる。
「アァ?」
この酔っ払いが、部屋間違えやがってといきりたって扉に手をかけた。開ける寸前にまさか海軍じゃねぇだろうなとドアスコープを覗いたそこに、彼女はいたのだった。
少し濡れた髪がしっとりとウェーブを描き、つやつやとオレンジ色に光っている。
目を丸めて扉を開けたおれに、彼女は小さく手を上げて、かわいらしく「ごめんね?」と言った。彼女の少し伸びたTシャツの袖から覗く白い腕に一瞬目を奪われる。
「寝てた?」
「や、うん、え、ナミさんどうした」
「泊めてほしくって」
「泊め?」
うん、と彼女は至極素直な感じでうなずいた。船の上でいつもルフィやゾロにカリカリ怒ってている顔も可愛らしいが、なんだか今は愛玩用のナミさんと言う感じでとてもラブリーだ。
一瞬のうちにそんなことを考えて、彼女の「おねがーい」と言う声で目が覚めた。
「泊めてくれる?」
「え、あぁもちろん、どうぞ」
彼女のために大きく扉を開く。ナミさんはそうなるべきであることを知っていたかのようにひとつ頷いて、「ありがと」とおれの部屋に踏み込んできた。
「スクリンプラーの誤作動で部屋中水浸し。ほんっと最悪。今日買った服だってびしょびしょよ!」
そりゃあ災難だね、と苦笑する。苦笑するしかないだろう。お愛想程度に部屋の隅に置いてある一本足のテーブルにもたれて、仕方なしに煙草を吸う。彼女はたった一つのベッドの上に胡坐をかいて、枕をぼすんと乱暴に叩いた。
「それでナミさんもそんなビショビショに?」
「あ、ちがうの私はちょうどお風呂に入っててね、出たらぶーんってスプリンクラーが回ってたわけ。すぐにフロントに駆け込んだから、髪乾かしそびれちゃった。でももういいや」
半分乾いてくるんくるんと跳ねた毛先を指先でぴんとはじいて、彼女は「ごめんねーほんと」と笑いながら言った。
「寝てたでしょ。せっかく一部屋取れたのにね」
「ナミさんこそ残念だったね」
「ま、ね。でも私は船でもひとり部屋だし」
あそうそう、と彼女は言う。
「だからここの宿代、全員分チャラになったから」
「マジ?」
「うん、だって一人一部屋が、一人部屋に二人押し込められることになったのよ。ほかに部屋も空いてないって言うし……私物も濡れたしどうしてくれんのってすごんじゃった」
おつりおまけしてくれたわ、みたいな口調でとうとうとナミさんは語り、「あー疲れた」とついにはバタンとベットに仰向けになった。
「ちょっと狭いけど、サンジ君細いし。セミダブルだからいいわよね」
「ん、え、あ、ナミさん寝る?」
「うん。あ、サンジ君もおかまいなく」
ごろんと彼女は壁側に身体を寄せ、「あんたも寝るなら電気消してくれる?」と天井を指差した。
その小さな背中を見つめて、首の骨が襟足から覗く頼りなさにぞくっとした。いや興奮している場合か。
なにを試されているんだろう。背を向けた彼女の背中がなにか重要な命題を突きつける。
おれの一挙一動一投足がなにがしかのスイッチを押し、おれを破滅に導く気がする。
考えよう。
選択肢その1.「おれちょっと散歩してくる」
選択肢その2.「おれも隣で寝ていいの?」
選択肢その3.「お邪魔しまーす。いただきまーす」
3はない。まず3はない。いただいちゃだめだ。彼女のそぶりから、一ッッッ切そんな甘いそぶりは出ていない。たとえ甘くなくたってだめだだめだ。なによりおれの矜持に反する。
1は逃げだろう。逃げたいわけじゃない。いや、このにっちもさっちもいかない状況からはいささか逃げ出したい気分ではあるが、眠るレディに背中を向けて逃げるなど言語道断だ。
2、はなんだか情けない。ナミさんの言葉はすでにおれとひとつのベッドで眠ることを許しているのにあえて尋ねるなんて、なんとも情けない感じがするのだ。
結局どの選択肢も自ら潰して、一緒に煙草の先も潰して火を消した。
ナミさんは壁側を向きおれに背を向けて、既にして眠る体勢だ。彼女のためにも、幾分大袈裟でもない決死の思いで灯りを消した。
視界を失うとすっと肌が冷えた。汗をかいていたのだと気付く。数キロ先の港に波がぶつかる音が聞こえ、ふと足の下が揺れているような感覚になった。
手のひらで顔を撫で、たった2歩ですぐにベッドだ。膝からゆっくりと体重を乗せた。古くてかたいマットレスがぐっと物静かに沈む。そして、彼女がそうしているように、おれも彼女に背中を向けて横になった。ナミさんは何も言わない。
風が通り抜けるような細くて柔らかい呼吸の音が聞こえる。寝息なのか、ただの呼吸音なのかわからない。ぽんとベッドが揺れて、必要以上にどきっとする。ナミさんが脚をくずしただけだ。それなのに思わず身じろぎそうになり、強張った肩の力をゆっくりと抜かなければならない。
なにをこんなに、と苦々しい思いで、ああもうああもうと何度も胸の内で繰り返した。
向かい合わせの背中が熱い。
日差しに照らされるようなじりじりとした暑さではなく、それはやっぱり、おれの中から、あるいは彼女の中からじわっと染みだしておれたちの間の空気を熱しているように思えた。
「……眠れない?」
深い暗闇のどこかからスッと登ってくるような声だった。
すぐに答えられず、間をおいて「ナミさんは?」と問い返す。
「眠かったんだけど、フロントに怒鳴り込んだりなんだりで目が冴えちゃった。あとサンジ君が眠れてなさそうだったから」
「あ、悪ィ」
「ちがうちがう。で、サンジ君はやっぱり眠れないのね」
やっぱり? と背中合わせのまま問うと、彼女がくすくす笑ってベッドが小刻みに揺れた。
「うん、うちの誰より繊細そうだから」
だからあんたの部屋にしたんだけどね、とナミさんは変わらず可笑しそうに呟く。
「だから?」
「うん、ゾロとルフィはまず起こしても起きないでしょ。ウソップもべろべろだったし。その点あんたはわりとまだはっきりしてたし、部屋もきれいに使いそう」
「見る目があるね」
「でしょ」
うふふ、とナミさんは笑った。
突然ぐらんとベッドが大きく揺れた。驚いて肩越しにちらりと彼女の方を見ると、爛々と輝いた大きな目が暗闇の中でふたつ、じっとこっちを見ていてぎょっとした。
「え」
「お話でもする?」
お、おはなし? と問い返すと、ナミさんは静かに目を細めて、「眠れないんでしょ」と言った。
おずおずと、おれも彼女の方へ向き直る。
「なんの話?」
「そうね、なんでもいいけど……じゃあ、好きな食べ物は?」
えぇ、と驚いた声をあげると、ナミさんは声を出さずに肩を揺らした。
「好きな食べ物は?」
「えーと、じゃあ海鮮パスタ……辛口で」
「ふぅん」
「ナミさんは?」
「みかん」
「そっか……知ってたかも」
うん、と微笑んだナミさんが思いのほか嬉しそうで、おれまで嬉しくなる。
「じゃあー、今何が一番欲しい?」
「今?」
「いま」
ちらりとナミさんと目を合わせる。暗がりで、合っているのかどうかもわからないが、悪戯っぽく彼女が片眉を上げた気がした。
「……鍵付冷蔵庫かな」
「現実的ね。でも必須だわ」
だろ、と笑いながら、ナミさんは? とお決まりのパターンで問い返す。
「お金……はいつでも一番欲しいから、面白くないわよね」
「面白くなくても」
「じゃあ今はないかな」
意外な思いで目を丸くすると、「今はね」と彼女は念を押した。
「全部だわ、って思ったの」
「全部?」
「うん、7日前にね」
7日前。おれたちはその日、彼女の故郷を後にしていた。
「これが私の全部だわって思ったの。今はこれ以上もこれ以下もない、全部私のもの」
あんたたちのことよ、と彼女は目を伏せて小さく笑った。
「多分これから減ったり増えたりするの。そしたら足りない分が欲しくなったり、欲が増えてもっと欲しくなったりするでしょ? そしたらそのときにまた、欲しいって言うわ」
二の句が告げないおれにかまわず、ナミさんはふわあとあくびをした。
「そしたらサンジ君、そのとき……買ってね……」
ふっと軽い風で飛ばされるみたいに、彼女の意識がいなくなった。同時に瞼がすっと降りた。一瞬だ。
「ナミさん」
つい追いすがるように声をかけ、すぅと伸びたすこやかな寝息に息を呑む。バランスよく並んだ睫毛に目を奪われ、しばらくじっと見つめた。
その造形の美しさに性的な何かを感じないわけでもなかったが、彼女の信頼が圧倒的な強さでがつんとおれにぶつかって、おれはくらくらと、なすすべもなく、黙って彼女を見つめるしかなかった。
信じてるよと言わなくても、人はここまで誰かに何かを預けることができるのだ。
ナミさんは今おれと同じベッドだからこそ、こうして身を横たえて深く深く眠っている。
肩の力を抜き、シーツに頬を付けて彼女と同じ目背の高さになる。少し開いた口からは、歯磨き粉のミント、それに少しだけラムのにおい。
そっと顔を寄せた。
いい子だ。君はいい子だね、と言ってあげたい。手放しで誰かを信頼して、愛して、欲しいものを欲しいと言って泣きたいときに泣き叫ぶ強さを持っている。
どうかおれに守らせて。
いつか迷わず手を伸ばしておれを選んで。
そっと手を伸ばして彼女の手を握る。ほんのりと熱く、やわらかくゆるんでいた。
*
「ギャアア」
がつん、と脳天を揺さぶられて、肩から硬いものにぶつかった。いや、落ちたのだ。あとからぐわんぐわんと後頭部に痛みが広がってくる。
「あっ、あんたどういうつもりよ!」
「えっ、あっナミさんおはよ……」
「おはようじゃないわよ! 誰が抱きしめて服の中に手ェ入れていいっつったのよ!」
「あ、ごめんそんなことまでしてた?」
くわっ、とナミさんが鬼の形相になる。
抱きしめたのはおれの意志だ。手を握るだけでは朝起きたとき彼女がいなくなってしまいそうで、そっと肩と腰を引き寄せたら彼女の方からぬくもりを求めるみたいにすり寄ってきた。
ハー耐え切れんと思ったものの、おれも酒を呑んでいたせいかむくむくと燃えかける性的な欲望よりも眠気の方が勝ってしまい、いつのまにか寝てしまった。
服の中に手を入れてしまったのは、その、おれの手がいけない手だからだ、仕方がない。
彼女はベッドの上に仁王立ちし、Tシャツの胸元をぎゅっと握りしめておれを睨み下ろした。
「信ッじらんない! 女好きなのは知ってたけど仲間にまで手ェ出すなんて!」
「いやいや手ェ出すなんてそんな……てかおれのベッドに潜り込んできたのはナミさんの方で」
「仲間でしょ!?」
「でも好きな女だ」
ナミさんは息を呑み、Tシャツから手を離すと拳を両脇で握りしめたまま、詰めていた息を吐き出した。
「……そう、あんたが女好きで仲間も構わず手を出す最低野郎ってことはよくわかったわ」
「えっ、や、そうじゃなく」
「確かに警戒もせずのこのこあんたの部屋までやってきた私がバカだったわ! でも金輪際あんたのことは信じない! 今夜のことは私のミスもあるから10万ベリーに負けてあげるけど、今度やったらただじゃおかないから!」
そんじゃお邪魔様! と捨て台詞を吐いて、ナミさんはどすどすと部屋の出口へと向かった。
「あ、ナミさん」
「うるさい!」
「欲しいモン決まったら、教えてくれよ」
ナミさんは怪訝な顔で振り返り、虫を見るみたいな目でおれを見て、何も言わずそのまま出ていった。
水浸しの部屋へ戻るのかと思いきや、隣の部屋を蹴破る勢いで叩きゾロを、そしてルフィにウソップをたたき起こしていた。野郎共の呻き声をかき消すように、「さっさと船に戻るわよ!」とナミさんの怒声が響く。
痛む頭を掻いて、よろよろと立ち上がった。
なかなかハードな道のりになりそうだが、道がないよりましだ。このまま父親みてぇな友達みてぇな立場になるよりは、彼女にとってほかの奴らとは違う意味を持つ男になれる方がずっといい。
「燃えるねェ」
煙草に火をつけた。
以下あとがきから抜粋。
新刊が現パロだったので、無配では海賊を…!と思い、実は前々から妄想していた「やんごとなき事情で一つのベッドで眠らざるをえなくなったサンナミ」と言うのを今回消化することができました。
出会ったばかりで、当然のようにサンジはナミさんに恋に落ちてて、しかしナミさんにはまっったくその気がないがゆえの警戒心の無さ!
むしろアーロンの呪縛から解放されたばかりの爽快感から必要以上に開放的になってて、仲間内での男女の線引きなんてものが見えないくらいゆるゆるのガード、そんなナミさんとの苦悩の一夜。ひー萌える(私が
サンジは自分の行動でナミさんとの間に明確な男女の一線を引くわけですが、今後ナミさんを落とす過程でその一線が良くも悪くも作用するのではと考えるだけでごはん3杯行けるのでした。
PR
Comment
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
カテゴリー
フリーエリア
麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
@kmtn_05 からのツイート
我が家は同人サイト様かつ検索避け済みサイト様のみリンクフリーとなっております。
一声いただければ喜んで遊びに行きます。
足りん
URL;http;//legend.en-grey.com/
管理人:こまつな
Twitter
災害マニュアル
プロフィール
HN:
こまつな
性別:
女性
ブログ内検索
カウンター