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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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書きかけの手帳から顔を上げる。通りに面したガラス張りの窓の外側で、サンジ君がガラスをコツコツ叩いて私に手を上げてみせる。
乾いた冷たい風のせいで、鼻の頭が少し赤い。
子どもみたいなその様子に少し笑って、「すぐ出るわ」と口を動かした。
カフェを出ると、出入口すぐのところで彼が即座に手を合わせた。

「ごめん、ほんとごめんな」
「30分も待ったんですけど」

ごめんごめんと繰り返し、サンジ君は大げさに手を合わせて拝んで見せる。
コートの内側から覗くシャツの襟はよれていて、この寒いのにボタンもふたつ空いている。
急いだのだろう、と思ったが許さないでおく。
彼が来た今もはやどうでもよかったのだけど、なんとなく怒ったふりをして「早く行きましょ」と彼より先に歩き出した。

今日は仲間内での飲み会で、ウソップが指定した会場は駅のすぐそこだ。
サンジ君以外は皆大学を卒業したばかりで、あたふたと新生活を送っていたところ季節が巡り寒くなってきた今、ようやく生活も落ち着いてきた。ならば久しぶりに会うかといって、サンジ君がディナーのない月曜日に予定を合わせたのだ。
サンジ君はついさっき仕事を切り上げてきたところで、疲れているはずなのにそんなそぶりは一切見せず、るんるんと跳ねるように私の隣を歩いた。
飲み会の前に、彼の買い物に付き合うことになっていた。

「んナーミさーん。怒ってる?」
「うん」
「えぇー。じゃあはいこれ」

突然手を突き出され、思わずこちらも受け取るように手を出した。
紺色の手袋をはめた手の上に、コロンとピンク色のセロハンで包まれたキャンディーが転がされる。

「なにこれ。飴?」
「ううん。ラムネ」
「こんなので機嫌とろうっての」
「あ、やっぱだめだった?」

全然ダメ、と吐き捨てて、ラムネはコートのポケットにしまった。ころんと音もなく転がる。
サンジ君は少し肩をすくめて、でもたいして気に留めたふうもなくまたるんるんとした足取りで隣を歩く。

「店出てすぐのところで配ってた。なんかのキャンペーンだって」
「ふうん」
「ラムネ嫌い?」
「ううん」
「そっかよかった」

サンジ君は声を出さずにひひ、と笑って、「買い物つきあわせてごめんなー」と今度は別の理由で謝った。

「ううん。ごはんおごってくれるって言うし。買い物くらいいいわよ」
「おごるおごる。何がいい? 寿司? イタリアン? 中華?」
「えっ今日の飲み会おごってくれるんじゃないの」
「それでもいいけど……うんやっぱ別の機会におごるからさ。そしたらデートできるだろ」
「はあ」

彼のあくなき執念に呆れつつ、「じゃあ高いの考えとく」と呟く。サンジ君は「わーい」と無邪気を装って声をあげた。
通り沿いに植えられた木々からからからと色づいた葉が落ちて、足元に引っ掛かりながら風で流れていく。
それらを目で追っていたら、「おなかすいたなぁ」と無意識に口からこぼれた。

「えっまじ? なんか食う?」
「いや今から飲み会なんだからいいわよ。もうあと1時間くらいだし」
「え、でも腹減ってんだよな」
「うんでもいいってば」

過剰に反応するサンジ君に少し戸惑い、こちらも声が高くなる。
サンジ君は考えるように視線を横に滑らせると、「じゃあさ」と言った。

「おれも小腹すいたからさ、コンビニでなんか買おうぜ。肉まんとか」
「あ、肉まんいいかも」
「あんまんでもいいけど」
「あんまんはどうかな」
「ピザまんは?」
「アリだわ」
「おれピザまんあんま好きじゃねーんだよ」

そうなの、と答えると彼は神妙な顔つきでうんと言う。

「ケチャップの酸味とあの小麦の生地がミスマッチな気がするんだよなー。具もすくねぇし。チーズの主張が強すぎるし」
「肉まんの方が具は少ないじゃない」
「肉まんはもうそういうもんだろ。でもピザってさ、いろいろ乗ってる方がたのしーじゃん」

なにそれ、と吹き出す。子供みたいな言い分につい笑ってしまった。

「どのコンビニにする? このへん多いよな」

サンジ君はうきうきと辺りを見渡す。確かにこの通り沿いは、あっちにもこっちにもと言う具合でいくつかのコンビニが乱立している。
あそこのは前食ったら微妙だった、とサンジ君がそのうち一つを指差した。

「ふうん。ていうかあんた肉まんとか食べるんだ」
「食べるよそりゃあ」
「毎日フレンチやってるのに?」
「毎日作ってるけど毎日食ってるわけじゃねぇもん。そりゃ味見はするけど」
「こう、舌が鈍ったりしないの? ジャンクなもの食べると」
「さあー。あんま考えてねぇけど。肉まん旨いじゃん」

そうね、と答えて結局私たちは一番近くのコンビニに入った。レジに直行し、3段の保温機の中を覗き込む。
肉まんはあと一つ。中華まんというのがあった。
二人で腰を曲げて中を覗き、「どうする」「どうする」と言い合った末、肉まんと中華まんをひとつずつ買う。サンジ君が買ってくれた。
外に出ると、思いの外もう空は暗い。
そんなに長く中にいたわけではないのでたいして変わっていないはずなのに、コンビニの光に照らされると夜はずっと深くなる。
時間はまだ18時過ぎで、でももう真っ暗だ。

店を出てすぐのところでサンジ君は袋から中を取り出し、一つ私に手渡した。

「それどっち?」
「えーと、中華まん」
「半分こしようか」

うん、と言って中華まんを二つに割ろうとするのだけど、あまりの熱さにすぐ指を離してしまった。
「熱い!」と叫ぶと彼が笑いながら「貸して」と手を差し出してくる。
手渡すと、サンジ君はなんでもないように中華まんを上手に二つに割った。

「はい」
「ありがと。熱くないの?」
「慣れてる慣れてる」

ふーんと言って、かぶりついた。
しゃきしゃきと野菜が口の中で音を立てる。

「あ、おいしい」
「なんか八宝菜の具材を刻んで入れたみたいな感じだな」

温かい温度がすとんすとんと体の中に落ちていく。じわっと温まる。
わけっこした半分はあっという間になくなって、サンジ君は袋に入ったもう一つをとりだして、また上手に半分に割った。

「あーやっぱこっちの方がうめぇ」
「うん、私もこっちの方が好き」
「なー」

白い湯気が私たちをへだてるようにもうもうと立ちのぼり、すぐ目の前にいる彼の顔が白く煙って見えなくなった。
このまま霞んで消えてしまいそう。

「あんたここ、ちゃんと閉めないと」

ずっと思っていた。今日彼が来たときから。冷たい風が私たちの間を通り過ぎるたびに、襟元が寒そうだと。
上からふたつ開いたボタンに手を伸ばし、閉めてあげるつもりもなかったのに開いた襟に触れた。
つるりと磨かれた陶器みたいに彼の鎖骨はなめらかで、その上を指がすべった。
サンジ君がわずかに身を引いて、空いている方の手で私の手首を掴む。
掴まれて、おっと、と思う。
なんてところに触れてしまったんだろう。

「──ナミさん」

引こうとした手を強く引きもどされる。硬い鎖骨の感触がまだ指に残っている。
それぞれ半分に割った肉まんを片手に、私たちは宙で手を引きあって見つめ合う。
離して、という言葉がどうしても出てこない。








「送るよ」と言ったらナミさんは「別にいい」と用意していたみたいに即座に言った。

「ま、って言われても付いてくんだけどねー」
「じゃあなんで訊いたの」
「社交辞令」

意味もなくふわふわと笑い声が飛び出す。たいして面白くもなくても、なんとかしてナミさんを笑わせたいという思いが先走ってそれがたとえ空回りしていたとしても自分だけで笑ってしまう。
アルコールに侵された脳がせめてもの抵抗とばかりにテンションを無駄にぶち上げてくる。
さ、こっちですよ、と彼女の家路を示すように頭を下げて行先を指し示したが、酔わない彼女は覚めた顔で「なんでもいいけど」と歩き出した。
背中側で、「気ィつけてなー」「またなー!」と仲間たちが手を振って声をかけてくる。
うるせぇせっかくの彼女との時間を邪魔すんな、と悪態づきながら酔った口では舌が回らず背中越しに手を上げて答えるにとどめた。
ナミさんは鞄を持った手を行きより大きく振って、ヒールの高さをものともせず大きな歩幅でどんどん歩いて行った。
酔ってるんだろうかとその顔を覗き込むが顔色一つ変わらないままで、よくわからない。
「サンジ君、顔赤い」と逆に言われてしまった。

「飲みすぎなんじゃない?」
「そでもねーよ。すぐ赤くなんだよなー」
「仕事終わりで疲れてんじゃない」

そうかな、と言って疲れ具合を確かめるみたいに肩を上下に揺らしてみる。ぽきぽきと音は鳴ったがナミさんが隣を歩いているだけで疲労の感度などもはやメーターが振り切れたみたいに機能しないのでよくわからない。
ナミさんはおれをちらりと見上げ、「明日は?」と控えめな声で尋ねた。

「明日はディナーから。いつも通りさ」
「じゃあちょっとはゆっくり寝られるのね」
「まあね。昼過ぎにゃ出勤だけど」
「服なんて買ったって、着てる暇ないじゃない」

ナミさんはおれが片手に提げた紙袋に目を落とす。薄茶色に緑のロゴが入ったアパレルの紙袋には、真新しいシャツとカーディガンが入っていた。
飲み会前に寄った店で買ったものだ。

「ん、だからおれ全然服とか買ってなくて。久しぶりに買いもんした」
「ふうん、お金溜まりそう」

何気ない彼女の呟きに妙に力がこもっている。笑ってごまかして、「ナミさんとのデートのときに着ようと思って」と言ってみたが我ながら軽く聞こえてしまったと思った。
実際彼女は真に受けた様子もなく「ふうん」と聞き流している。

「で、デート、いつにする?」
「え、いつ? なにそれ」
「だってメシ、おごるっつったじゃん」
「あそうだった。お刺身食べたいな。高いやつ。うにとかそういうの」
「おーいいねいいね。どこでもいっちゃう」
「本当に奢ってくれるの? そんなお金」
「や、大丈夫大丈夫。ナミさんとのデートぐらいしか使い道ねェもん」

うそばっかり、と彼女がくすくす笑うので「本当だって」とかっこ悪く言葉を重ねた。
ナミさんはなぜかおれが遊んでばかりのろくでもない男だという設定を勝手に掲げていて、おれはいつも「ちがうってちがうって」とその設定からうまく抜け出せないまま足掻いている。

「本当。上手い寿司屋知ってんだ。今度一緒に行こう、な、来週の月曜の夜は?」
「空いてるけど、たぶん」
「んじゃその日な。予約しとく」

ナミさんは少し考えるみたいに口を閉ざして、諦めるみたいに「わかった」と小さく答えた。
もっと嬉しそうにしてくれよ、とおれは焦って言葉を繋ぐ。

「仕事忙しい? ごめんな月曜で、ナミさんは一週間始まったばっかりなのに」
「ん、別に」
「寿司ってそういやおれも久しぶりだわ。光りもんくいてー。おれ昔から安いもんばっか好きで」

ナミさんはおれの話を聞いてやしないのか、前を向いているのにどこかおれの知らない場所を見ているようで怖かった。
街灯の光が彼女の目に照らし出されて頬を白く光らせている。
あと街灯を5つ6つ過ごしたら彼女の家だ。

「ナミさんさぁ」
「んー?」
「おれのこと好き?」

わかりやすく呆れた顔を作って、ナミさんは首をひねりおれを見上げた。
ばかじゃないの、とその目が言っている。
や、ちがくて、と何がちがうのかおれはしどろもどろに言葉を繋げた。

「その、そうだったらいいなって」
「図々しい」

ずばりと切り捨てられて、がくんと肩が落ちた。

「その前に言うことあるんじゃないの」

おれから目を逸らしたナミさんが、どこか暗闇に向かってぽんと言葉を放つ。
一瞬間をおいて、「あ、うん」と答えたもののいや待てよそんなことおれはずっとずっと前から言い続けている、と気付いて「好きだ」と言った。
案の定、彼女は即座に「知ってる」と切り返す。

「うん……だよな」
「うん」
「でも好きなんだ」
「そ」

もう彼女のアパートの玄関口が見えている。
あと数分でこの地から足の浮いた時間が消えて遠くに流れていき、みっともなく酔っ払った一人の男が残される。
みじめだとは思わなかったが、なんとなくつまらない気持ちになった。

「挨拶で言ってるわけじゃねーんだよ」
「──挨拶だなんて思ってないけど」
「じゃあ返事をくれよ」

ナミさんが足を止める。おれも慌てて立ちどまる。
空っ風が通り過ぎ、前髪が目にかかってぎゅっと強く瞑った。

「肉まん、美味しかった」

ナミさんがぽつりと呟く。
聞き逃したわけでもないのにおれは「えっ」と声をあげた。

「来週、連絡してよね」

ナミさんがくるりと方向転換し、さっと彼女のアパートのエントランスの光に溶けていくみたいに消えてしまった。
「うん」とかろうじて返事をしたものの、彼女に聞こえていたはずはない。
尖ったヒールがかんかんと階段を登る音が遠くから聞こえていた。
やがてそれが止むと人通りのない通りにおれはひとりでたたずんで、黄色い街灯に群がる羽虫がじじっじじっと立てる音だけがやけに大きく響く。
そのままじっとそこに立っていた。

数分も立たないうちに、上方でがらっと窓のあく音がする。

「ばか、いつまで立ってんのよ」

ナミさんがベランダから身を乗り出して、こちらを覗き込む。
逆光でよく見えないまま彼女がいる方を見上げた。

「おやすみって、言い忘れたなって」

ナミさんが少し笑ったのがわかった。

「じゃあね、おやすみ」
「──おやすみナミさん」

気を付けて帰ってね、と空から降ってくる声におれはどこまでも行ける気がした。







======================
にっきさんお誕生日おめでとうございました!
「現パロ」で「幸せなサンナミ」で「両片思い」な感じのやつ、というご要望にお応えできたかなぁ。 

実は「午後のプリマたち」シリーズ【夜中の虎のフルコース】【愛って痛いの】に至る前のサンナミのつもりで書いたのでした。

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