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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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私の姉は、誰もが疲れたときに疲れた顔を見せないひとだった。
ああ疲れた、面倒くさい、と彼女が言うときは決まってまだいけるでしょうというくらいで、私がもう無理だと思う頃にふと姉を見ると、けろっとした顔でなにも考えてないふうに前を見ている。
こいつ強い、と気付いたのは随分大人になってからだったけど、その頃にはすでに私もまるで屁でもないような顔で面倒ごとで溢れた日々をやりくりできるようになっていた。
でも、扉の重たい店は嫌いだ。
そのよいしょの力を出すのが億劫なときだってある。

「お疲れさまです」

真正面から聞こえた声に顔を上げたとき、ふっとバターが香った。溶けて焦げた、あの甘ったれた香り。
カウンターの正面から私におしぼりとコースターを差し出して、男はわずかに微笑んだ。
長い前髪が鬱陶しい、でも整えた髭が清潔な印象を与える。唇だけでありがとうと言ってジンを頼んだ。
男がカウンターの奥に立ち去ってから、お疲れに見えたかなと自分の頬を押さえる。日曜日の22時すぎにこんな大きな鞄を持って一人で飲みに来た女なんて、たいてい疲れてるものか。
目の前にナッツの小皿とグラスが置かれて、わりと一気に飲んだ。

「おかわりください」

振り返った男は少しも驚かずに「はい」と低い声で答えた。その手は大きな銀色の袋を持ち上げていて、中身を一気に大きな機械にぶちまける。
ざららららとコーヒー豆が大きな透明のカップに注がれて、やがて大きな音で削られていった。

「うるさくしてすみません」

いつの間にか手元に新しいグラスが届いている。男の手は豆を挽く機械を押さえたままだ。この男がお酒を作るわけではないらしい。
いいえ、と小さく答えた。

大きなコンロから、青い炎がはみださんばかりに燃えている。そこに二つ、ビーカーを思わせるコーヒーポットが危なげに置かれてあっという間にぶくぶくと沸き立ち始めた。
ひょいとそれを取り上げて、男がくるくると腕を回すととたんにコーヒーの香りが流れてくる。
ああいい匂い、と思ったら、あっという間に出来上がったコーヒーは他の席に運ばれていってしまった。
そうだ私のじゃないんだった。
コーヒーの匂いを感じながらお酒を飲んでいると、何か悪いことをしているような気まずさがある。

男はコーヒーを使っていたカウンターの反対側、私に背を向けて、何かフライパンを動かし始めた。
黒いエプロンは店のオレンジ色の光を吸い込んでしまって男がいるキッチンだけやけに暗い。
手元のナッツを無意識に口に運ぶ。しょっぱくてびっくりした。ああでもお酒にあって美味しいな。ポリンといい音がした。
やがてまた流れてくる。バターの匂いだ。甘く焦げて、じれったいみたいな、いい音と一緒に何かが焼けている。水分が染み出しては蒸発するじゅわじゅわした音が耳を通り過ぎて私の喉に直接やってくる。思わず唾を飲み込んだ。
男がフライパンからさっと皿に移してあっという間にどこかのテーブルへ持っていったあれは、フレンチトーストだった。黄色い表面に綺麗な焼き色がついて、ふうわりと湯気のたった美しいそれを思わず目で追い、唇が薄く開く。
ああ、美味しそう。

「何か食べる?」

声をかけられて、男がいつの間にか目の前まで戻ってきていることに気付いた。いつまでもフレンチトーストの残り香を探してしまっていた。
首を振りかけて、思いとどまり、ちらりとあの香りの行く末に目をやってしまう。

「フレンチトースト、食べる?」

まるで友達かと言いたくなるような口調で、男は言った。

「お酒と合わないわ」
「じゃあコーヒー飲む?」

今挽いたところだから美味しいよ、と言って男はコーヒーポットをまた火にかけた。
ごちそうさま、といって客が一人帰っていく。私の背後で扉が開き、また閉まる。
ありがとうございました、と低くはっきりと男は言ってカウンターに置かれた金を片手でさっと掴んで仕舞った。コーヒーを淹れる仕草とは打って変わって随分乱暴な気がして、思わず男の顔を見た。
目があって、前髪の隠さない片方の目が私に向けてそっと細くなる。

「食べようかな、フレンチトースト」
「コーヒーは?」
「……コーヒーも」

当然だとでもいうように、男は頷いた。
半分ほど残ったジンをすすっていると、やがてまたあの香りがやってくる。
バターは濃くて重くてしつこい記憶がからみあう。妙なノスタルジーを感じさせるから、好きじゃなかった。でもこんなにも近くで、すぐそこでじゅうじゅうと音を立てるそれはてらいなくああいい匂い、と思わせる。近すぎて拒めない。

「おまたせしました」

とん、と軽く置かれた大きなお皿に、台形のフレンチトーストがお互いに支え合うようにして二つ。ふわっと香ったのは、いつのまにかバターではなく砂糖とミルクだった。じわりと口の中が湿る。
手元にナイフがなかった。フォークを手に取ったとき、そばにコーヒーが置かれた。
フォークの側面をトーストに沈ませる。むっちりとした感触が手に伝わる。ぷつんときれいに切れた。
口に含む。男が見ている。口の中でも優しい。でも鮮烈な甘さと香ばしさがパンから染み出して、思わず手元のお皿を見下ろした。おいしい。
すぐに次の一切れを口に含む。弾力があるのにどこでこんなにたくさんのミルクを抱えているんだろうというくらい、口の中いっぱいにミルクが香る。追いかけるみたいにバターがやってきて、砂糖の甘さをコーヒーと一緒に喉の奥に流し込む。

「うまい?」

顔を上げると、男が笑った。私は黙ってうなずいて、次の一切れを口に運ぶ。
お腹なんて空いていなかったのに、四つ切りほどの厚さのそれはあっというまになくなった。コーヒーも同じタイミングで。
唇にトーストのかけらがついている。指で拭ってなめると、名残惜しい甘さがすっと舌の上に乗ってすぐに消えた。
しばらく、呆けたようにからのお皿を眺めていた。長くお風呂に使っていたような心地よい疲労感があった。

「傘、持ってる?」

カウンターの内側でカップを拭いていた男が突然尋ねた。
問われたことの意味がわからず少し長く男の顔を見つめる。男は困ったように少し笑って、「雨降ってきたよ」と言った。慌てて振り返って窓を探したが、ここは地下なんだった。持っていない。

「ここ、23時までなんだ。すぐ電車か何か乗る?」
「ううん、歩いて」

んー、と少し男は考えて、「待ってて」と言って奥に引っ込んだ。時計に目をやって、明日もあるしそろそろ帰らなきゃと財布を取り出していたら男は大きな黒い傘を手に持ってやってきた。

「よかったら使って」
「いいの?」
「誰かの忘れ物だから、もらってくれていいよ」

私は少し体を起こして、男を眺めた。コンマ3秒くらい。なにというわけでもなかった。ありがとう、と言ってお会計を頼む。
男は店の出口まで見送りに来た。傘を受け取ろうとしたら「上まで」というので、地上に続く階段を一緒にのぼる。店を出るとき少し周りを見渡したら、いつの間にか私の他に客はなかった。
外は結構な雨が降っていた。こういうところがよくない、と私は自分に顔をしかめる。雨が降るとわかっていたのに、会社に傘もおいていたのに、今日はまっすぐ家に帰れば雨が降り出す前には帰れると思ってあえて傘を持たなかった。結局寄り道をして、あーあと思う羽目になる。
姉は時々言っていた。「あんたって、ときどき自分からハズレくじ引きにいくよね」
たしかに、と思うことがままある。

「気をつけてね」と言って、一段低いところに立った男はわざわざ私のために傘を開いてくれた。
ありがとうと言って受け取ろうとしたとき、私たちは同時に上を見て「あ」とつぶやいた。
骨が折れている。しかも一本じゃなく二本。さらには傘のてっぺんに穴が空いていた。
あっけにとられて黙った私に、男も黙ってそっと傘を閉じた。

「傘、これしかないんだ」

男は傘を持たない方の手で整えた髭を撫でた。

「おれの傘はあるんだけど」
「あんたも傘をささないと帰れない」
「そうだね」

とりあえず、といって男は階下を指差した。

「店で待っててよ」

男がきびすを返すので、私も子供のようにそのうしろをついていった。のぼったはずの階段を、また降りていく。店の入口のオレンジ色のランプがちかっと一度点滅する。
タクシーは呼ばせてもらえないらしい。
私はまたしてもハズレくじを引こうとしてるのだろうかと考えながら、男が開けた店にまた入っていった。


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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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