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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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その日は暑くて、洗濯を回して少し掃除をしただけでとんでもなく汗をかき、背中に張り付いたTシャツは気持ち悪くしわを作って色を変え、フローリングに乗せた足の裏が湿っているのもうんざりして、まだ昼だというのにもう自室に帰って冷やした部屋でシーツをかぶって丸まりたい気持ちになっていた。
でもそんな日に限って、いつ頼んだのかわからない荷物が、それも抱えるくらい大きな段ボール箱で届き、また汗をかきながら梱包を開いたら巨大な寸胴鍋で、二週間ほど前にテレビでどこかの国の老婦人が大鍋で魔女のようにシチューを煮る姿がなぜかとても魅力的に思え、作るあてもないのに彼女を真似て大きな鍋を通販で購入したことを思い出した。

「どうすんのよこれ」

誰にいうでもなくつぶやいて、つるりと輝く赤銅色の鍋肌に自分の顔を映してみる。いびつに歪んだ輪郭がぼんやりとうかびあがったのをため息を付きながら眺め、とりあえず鍋はコンロに置いた。
キッチンの壁にかけたホワイトボードに目を移す。今夜帰ってくるのはゾロだけか。ウソップは職場の飲み会で、ロビンは2,3日あけると言って出たきり帰ってきていない。ルフィもしかり。住人の予定を記すために立て掛けたホワイトボードだけど、まめに予定を書くのは私とウソップだけで、ほとんどが私の仕事上のメモで埋め尽くされている。宅配の予定だとか、家賃を集める日だとか。
冷蔵庫を開けてみたら使いかけの野菜がころころと所在なく横たわっていて、玉ねぎだけ5個入りが二袋も入っている。誰が買ったやつだっけ、と取り出してくるくる回してみるが記名もない。やっぱり各人の仕分けボックスを冷蔵庫内にも入れるべきか、と前から思っていたことを改めて思い直して、キッチンカウンターにとりあえず野菜を出してみる。
窓の外から差し込む光が暑い。ゴミ袋が切れそうだから、近くのドラッグストアに買いに行きたいのに、こんなに暑いんじゃ今日も結局出かけることはしないだろう。
3分の2ほどの人参の皮を向き、一口大に切る。
前に出かけたのは、こんなにも暑くなる前、そうだまだ桜の葉が青々と爽やかに茂っていたときだった。ルフィの大道芸を見るために駅前まで出かけたのが最後だ。
玉ねぎを無心で4つ皮を向き、つるりと美しい白いその実に包丁を差し入れる。しゃりりと心地いい音を手に感じながらまな板からあふれるほど薄切りにする。
今やパソコン一つあれば、ここで暮らす5人の日用品は私が一歩も動かなくたって届けてもらえる。チャイムが鳴ったら玄関を開けて、サイン一つでさっきみたいに荷物を受け取って、あるべき場所にそれらを収めてしまえばもうまるではじめからそこにあったみたい。
にんにくを刻み、油を注いだ鍋に包丁の先で払うようにそのかけらを入れる。威勢よくじゃらじゃらぱちぱちと音を立てて、ふわりと香りがたった。
管理人って楽じゃない。このアパートを引き継いだ当初はそれは大変だった。共用部分の掃除、日用品の補充、ゴミ出し、お金の管理、地域との些末なやり取り。住人同士のトラブルがそうなかったのは幸いだったけれど、自分以外の身の回りの世話をするのはここからここまでという線引が自分の中でできるまで、それは疲弊した。
それが今や、自分の生活の延長線上で管理人が務まっているのだから楽なものだ。瓶に入ったミックススパイスを振り入れて、色の変わった玉ねぎのかさがどんどん減っていくのを面白く眺めた。

「変わったにおいがする」

不意に音もなく開いたドアからゾロが入ってきた。おかえり、とつぶやいた声は炒める音にかき消されたが、ゾロは答えるようにうなずいた。

「んなでかい鍋で何作ってんだ。死体でも煮てんのか」
「そーよ今夜は血のシチューよ」
「そらいいな」

シンクの前でごくごくと水を飲んだゾロはコップを洗わず乾燥棚に戻し、鍋の中を覗き込んだ。

「今日、あいつらも帰ってくんのか」
「ううん。あんたと私だけ」

ゾロは怪訝そうに私の顔を覗き見た。その顔に答えるように言う。

「なんか大きい鍋買っちゃったのよね。あんたも食べるでしょ」
「血のシチュー?」

ぱちっと水分がはねた。あつ、と舐めた指の先をゾロがじっと見ている。その視線を感じる。無視して、わたしは淡々と鍋の中をかき混ぜた。

トマト缶を入れて塩で味を整えて煮込んだカレーを一口食べてゾロは「なんだ、うまいな」と意外そうに言った。

「でしょう。お肉入れなくてもおいしいの」
「辛くなくていい」
「あんた辛いのきらいだもんね」
「ウソップが作るカレーもうまいがなんでもかんでも辛くするから駄目だ」
「あいつ、相当こだわって作ってるわよ。スパイスの調合とか肉の仕入れとか」

6人用の食卓でふたり向かい合って食べるのはさみしいと思っていた。でも今夜は不思議と落ち込んだ気持ちにならない。華やかで慣れ親しんだスパイスの香りがわたしたちの間を元気に行き交うから、ふたりを意識せずに済んだ。
会話がなくても、わたしたちは気にもとめずそれぞれの食事を進めていく。ゾロは何を考えているのか、時折スプーンの動きを止めて宙をじっと見上げた。そういうとき、声をかけても答えはない。
ゾロは造形作家だ。
部屋にはよくわからない針金の人形みたいな骨組みや、大量の粘土や絵の具が散らばっている。売れているのかいないのかその世界のことはさっぱりだがここの家賃は滞りなく支払うし、ときおり豪華な肉や酒を買って帰ってくることもあった。でも、日中でかける仕事の殆どは食いつなぐためのアルバイトで肉体労働をしている。工事とか、足場組みとか。

「ごちそうさま。洗い物はあんたしてよ」

返事は期待していなかった。にもかかわらず、ゾロはいやに明瞭に「ナミ」と私を呼んだ。振り返るとゾロはあと二口ほど残したカレーの皿にスプーンを差すように置いて、まっすぐ私を見ている。
おまえ、とゾロの薄い唇が動く。

「おまえ、おれと寝られるか」

じっとその目を見つめ返すと同じ強さの視線が返ってくる。あと二口だけ残されたカレーがやけに貧相に皿に残っている。ごはんと混ざって、ちっともおいしそうじゃない。

「寝られるけど」
「そうか」

ゾロは残りのカレーをさらさらと流し込むように食べたあと「ごっそさん」と立ち上がり、私の横をすり抜けてたった30秒ほどで私のぶんの皿も洗ってしまうとこちらを振り返って「んじゃ」と言った。

「寝るか」
「……インスピレーション?」

ゾロは本気でわからない、といった顔で首を傾げた。
立ったままカレーの匂いの残る唇を重ね、ゾロの部屋で事を終えた。気だるい頭をぼんやりと持ち上げたら、隣で横たわっていたゾロが唐突に体を起こしてベッドの下に散らばっていた廃材のようなものをかきあつめ、床の上で組み立て始めた。
その丸まった背中を見下ろしながら、芸術家なんて嫌いだとはっきりと感じたことを覚えている。

ゾロに「寝るか」と言われたら寝たし、なんとなくそんな気分になって勝手にゾロの部屋に入ってみたら、始め部屋にいる私を見て一瞬ぎょっとした顔をするものの、ゾロはすぐにその状態を受け入れて当たり前のように私を抱いた。
ゾロに私は必要かといえば必ずしもそうではないだろうし、私にとってもそうだ。お互い、かけがえのない存在にはなりえない。
でも管理人としての私はゾロにとっては必要で、私だってこのアパートからゾロが出ていってしまえばさみしいと感じるだろう。ウソップやルフィ、ロビンでもそうだ。

サンジくんは秋風みたいにするりとこのアパートにやってきた。とらえどころのない身のこなしであっという間に人の懐に入り込む。ホストをしていると聞いて、ああ彼にとってはきっと天職なのだろうと思った。柔らかくほどける笑顔は甘く、低い声は落ち着いていて女性の心を持ち上げる。ひやりと首筋を撫でるような乾いた視線さえ見せなければ、私は誘ったりしなかった。
明らかに酒に飲まれてふらつく姿は夜の仕事をする人間とは思えない頼りなさで、苦しそうにシンクに手を付き水を飲んだサンジくんは酔っ払いらしく顔をほてらせているかと思いきや、存外どこか遠くに体温を忘れてきたみたいな冷えて乾いた目をしていた。
かわいそう。
手を伸ばし頬に触れたらきちんと温かくてほっとした。私の身体を見下ろして上下した喉仏は大きくてその動きを一瞬いとしく思った。
なにかをいとしく思ったことなど、もう、どれくらいぶりだろう。

私は満たされている。
隅々まで知り尽くしたこのアパートと、そこに暮らす人たち。気のいいやつらで、暮らしは快適だ。理解ある女友達だっている。遠く離れたところに暮らす姉は健康で、私を求める男の人はなんとふたりもいる。
どうしてこの場所から動く必要なんてあるだろう?
全部、集まってくるのだから。



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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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