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サッチ。
オレはきっとお前を思い続けて、死ぬまで思い続けて、きっと死ぬ時もお前を思い出す。
なんて残酷な奴だ。
傷跡が消えるころ
目の前には赤なのか青なのか紫なのか、とにかく毒々しい色をした果物が皿の上に鎮座していた。
ある島のとある洞窟の奥深くの古びた宝箱の中にあったそれは、オレとサッチが見つけた。
海賊ならだれもが知っている。
それは恐れでもあり、興味でもあり。
「悪魔」と名付けられるその実をおれたちは手にした。
もちろんすぐにオヤジに一報したのだが、オヤジはいつものように地を揺るがせて笑い、言った。
「そりゃあイイもん見つけたじゃねェか、お前たちの好きにすりゃあいい。食いたくねぇなら兄弟にやるか、売って好きなもんでも買え」
オレはもちろん食う気などなく、サッチもそんな気なかったようで。
「・・・どうするよ、これ」
「売るのが一番だろい。オレは新しいサーベルが欲しかったんだ」
「でもよー、もったいなくねぇか?」
「じゃあサッチ、お前が食えよい」
「イヤイヤイヤ、おれ金槌はいやだ」
「…まあ案外偽物かもしれねぇし」
「じゃあマルコ、お前食ってみろよ」
「は、何でオレが」
「マルコ前に興味あるっていってたじゃねぇか」
「ありゃぁ知的好奇心だよい」
「んだ、マルコも度胸ねぇなあ」
「テメェが言うな」
「じゃあババ抜きで負けたほうが食おうぜ!」
「…今の流れでなんでそうなった」
「はい、お前の札」
そしてオレは、青の鳥になった。
「…うお、マルコか?」
「…そうだよい」
「…すげー」
*
サッチが自分のことのように船中言いふらして回り、オレはすっかり見世物になった気分でぐたりと食堂の机に頭をもたげていた。
サッチは何が嬉しいのか鼻唄交じりにコーヒーをすすっている。
「しっかし動物系とは思わなかったなァ」
「だが鳥って強みがねぇように思えるが」
「鳥頭」
「死ねっ」
オレがサッチに殴りかかると、そいつは嬉しそうに反撃してきた。
子供のじゃれあいのようなものだ、若さゆえ。
そんな中、サッチの爪が一瞬オレの頬をかすった。
「つ、」
小さな痛みが頬をかすったその刹那、サッチの目が青く光った。
「?」
サッチの視線がオレの一点でとまっている。
「お前、傷」
「は?」
顔に手をやると、先ほどの痛みも、その傷の感触もない。
「え」
「すげ、お前傷治ったぞ」
「…まじかよい」
「何の能力だ?超人系なのか?」
「…わからねぇよい」
オヤジにこのことを伝えると、ほうと息をつき、細い目をさらに細めた。
「聞いたことあるが…そりゃあ幻獣系じゃねェか」
「げんじゅう?」
サッチが呆けた声を出す。
「幻獣…不死鳥だ」
「…不死、鳥…」
最期の時が来ると燃え尽き、その灰から再び蘇る。
その涙は、瀕死の傷をも癒す、幻の鳥。
オレの食った実が、ババ抜きで負けて食った実が、そんなものだったとは。
言葉を無くすオレの隣で、サッチが目を輝かせた。
「まじかよ!じゃあお前、不死身なわけ?ちくしょ、おれが食やよかった」
本気かそうでないのか、サッチはそう言ってオレを小突いた。
オヤジは豪快に笑って、分厚い掌でオレたちふたりの頭をまとめてなでてくれた。
「テメェの能力を把握して使いこなすにゃあ時間がかかるだろ。ゆっくり様子見でもしていけ」
オレの能力は、バカな言い方をすればすごかった。
青の炎が傷口を包むと、そこはたちまち再生する。
もちろん傷をするのは痛い。
だが再生した後は、痛みの感覚でさえ忘れさせてくれる。
しかしなにより一番都合がよかったのは、空を自由に飛べることだった。
仲間の救出、敵の確認、空の様子、おれが把握できることがこの船の強みになったと、自負してもきっと許される。
何より、あの空の青と自分の青が一つになる瞬間が心地よかった。
その青はオレ自身であり、オレは自由に空を泳いだ。
*
実を食って二年後、サッチは二つ年をとった。
「もうすぐ俺らもおっさんの仲間入りだなー」
「おう」
「あ、不死鳥って年取るのか?」
「さあ、二年じゃわからねぇよい」
「やだなー、俺だけ歳とんの」
「やっぱり見た目もかわんねぇのかねい」
「いや、マルコ最近老けたぞ」
「・・・んだと」
その時、見張り台から空気を割る大声が鳴り響く。
「敵襲ー!!!!」
「…久々だねい」
「おおっ、今日は何番隊の出動かなァ」
聞くに、敵は一億の首を船長とする海賊らしいが、どうも船のサイズがでかい。
となると、人数は相当なものらしい。
総力戦となりそうだ。
ということで、オレもサッチも出ることになった。
少し離れた海の向こうで、敵船から声が届いた。
「白ひげェー!!この辺りでデケェ面してるようだが、ここで代替わりとさせてもらう!!」
勢い盛んにそう男が叫んだが、我らが船からは思わず失笑が漏れた。
それが聞こえたのか、敵船はぐんぐんこちらに近づき、大声を張り上げて乗り込んできた。
いや、乗り込もうとした。だが乗り込まれる前に、一番隊隊長の命により、オレたちの兄弟が敵船に飛び込んだ。
敵の前線を張っていた数十人は、十人ばかりの白ひげ隊員に一斉にのされてしまった。
オレとサッチはモビーの上からその様子を眺めた。「
おーおー、あっちゅーまだったな」
「だが人数が多い。まだまだいるぞ」
「マルコー!サッチー!出動だー!!」
イゾウが声を張り上げ、おれたちは互いを見合って口角をあげた。
「行きますか」
「楽しそうだねい、サッチ」
「お前もな」
オレたちは一斉に駆け出した。
敵船の中はもうほとんど倒れた人間で埋め尽くされている。もちろんすべて敵だ。
だが奥から次々と敵は出てくる。
オレは五人ばかりを一度に海に落として、周りを見渡した。
サッチは古くから使いなれた大ぶりの刀で敵をなぎ倒している。
その顔はあまりに嬉々としている。物騒な奴だ。
ふと右側に、足をやられたのか苦戦している兄弟が目に入った。
おれはそいつの相手に脇から蹴りかかり、吹き飛ばす。
「大丈夫かい」
「ああ、すまねぇな、マル…マルコォ!後ろ!!」
え、と振り返った瞬間見えたのは、敵の船長、名前も忘れた一億の男の歪んだ顔と、そいつが振りかざす白く光る刃。
よけようと思えばよけれたのかもしれないし、無理だったのかもしれない。
身体が動かなかったのは、その光る白に目を奪われたからなのか、俺の背にいる兄弟をかばったからなのか。
とにかくおれは、動くことができず振り下ろされる刃先を見つめていた。
己の肉が切れる音を想像していたおれは、その代わりにキィンと鋭い音を耳にした。
が、それはすぐに金属の砕ける音に変わり、俺のものでない肉がざくりと切れる音がした。
目の前に立ちはだかった男は折れた刀を投げ捨てて、一億の男の横っつらに思いっきり蹴りを入れた。
男は斬り込めたことに油断していたのか、あっけなく吹っ飛んだ。
それと同時に、目の前の男の血が俺の頬に飛んだ。
「…サッ、チ」
「おいおい、不死鳥さんよォ。治るからって油断してんなよ」
そう言って振り返った男の顔の左半分は、血にまみれて黒い。
「お、お前」
「ほら、まだいるぜ!さっさと片付けようぜ」
言っている傍から残り少ない雑魚が斬りかかってきた。
おれは即座にかわして、そいつらを蹴り飛ばす。
サッチは嬉しそうに笑った。
*
「ほんと、数だけは一人前だった」
ビスタとイゾウが盃をかわしながらそうぼやいた。
「しかしまあおかげでいい酒が手に入ったってことよ」
そう言ってあおるように酒を流し込む。
戦いが終わり、敵船に詰め込まれていた莫大な食糧、金品等をありがたく頂戴して、今はその宴の最中だ。
オレとサッチは相当の数の敵をなぎ倒したことでオヤジにほめてもらい、兄たちに酒を注がれた。
オレはジョッキをもてあそびながら、イゾウにぼそりと尋ねた。
「…サッチは」
「ああ、医務室だよ。少し縫うらしい」
知らず知らず視線を落とすと、イゾウは小さな猪口でおれを小突いた。
「んな顔するな。大丈夫だよ」
そうは言うもののオレは大人しく酒で祝う気分にもならなくて、騒がしい甲板をそっと抜け出した。
木の戸をたたくと、ナースの高い声が返ってきた。
顔をのぞかせると、若いナースが少し驚いてから、にこやかにほほ笑んだ。
「サッチさんなら部屋に戻られましたよ。ひと眠りするとか」
「そうかい」
サッチ目当てで訪れたことを悟られたことがなんとなく癪に障ったが、ナースに礼を言っておれたちの大部屋に歩を向けた。
しかし行って何を言おうと言うのか。
そうこう考えているうちに、大部屋の前まで来てしまった。
仕方がないので戸を開けると、薄暗い部屋の隅でそいつは雑魚寝している。
疲れたのだろう。
医務室から戻って間もないというのに、おれが入ってきたことに気付きもしない。
おれはサッチに近づいて、その顔を覗き込んだ。
サッチの左目の斜め上、目を囲むように弧を描いて縫合の跡がある。
おれは手を伸ばして、その傷に触れた。
生温かい体温と、傷のざらついた感覚が俺の心臓を掴んだ。
「…馬鹿しやがって」
「そりゃねぇなあ」
突然の声におれは思わず手を引く。
「…狸寝入りかい。タチ悪ィ」
気まずさを隠そうとぶすくれた声を出せば、サッチはいひひと歯を出して笑った。
それと同時に目の上の傷が不恰好にひきつる。
「まあそういうなって、心配して来てくれたんだろ」
「…馬鹿野郎と言いに来たんだ」
へぇ、とサッチは目を細めた。
「…おれが斬られても治るのわかってんだろい。なんで庇った」
お前は治らないというのに。
そう言えばサッチは少し考えて、肩をすくめた。
「なんでかね。まあ襲われかけてる兄弟がいたら助けに行くだろ。それに刀が折れたのはおれの不手際のせいだ。もうぼろなのはわかってたんだがなー。無駄に惜しんじまった。あんな終わり方させちまって、かわいそうだったなあ」
感慨深げにうんうんとうなずきながらそう言うサッチに、おれは無性に腹が立って、胸ぐらをつかんだ。
「うお、何」
「…ふざけんじゃねぇよい」
もっといろいろ言ってやりたかったのに、出てきたのはそんなものだった。
サッチは唇をかみしめるおれをまじまじと眺めて、呟いた。
「マルコこわかったのか」
目の前で倒れる仲間をいくつも見た。
敵の血も仲間の血も自分の血も、何度だって浴びた。
だが目の前に散った赤をあんなにも恐ろしいと思ったのは初めてだった。
おれはサッチの問いに答えることなく、掴んでいたやつのシャツを手放した。
立ち上がり背を向ける。
「マルコ」
「…甲板戻るよい」
「マルコ、おれはいつか死ぬんだ」
戸を引きかけた手を思わず止めてしまった。
「おれはいつか死ぬ」
「…知ってるよい」
「でもお前は生きるんだ」
「何を」
「おれが死んだら、オヤジと一緒に泣いてくれよ」
振り返ると、いつものようにふざけた顔で笑っていた。
「頼むよ」
*
オレはサッチを染めた赤を丁寧に拭っていく。
自慢の髭は、口から流れた血でこびりついてしまっている。
朝、無駄に時間をかけてセットしているというリーゼント風味な髪はところどころほどけていた。
甲板からは木槌の無機質な音が続けざまに聞こえている。
きっと兄弟たちがこいつが入るためのものを作っているんだろう。
エースはオレの後ろでずっと黙ったまま立っていた。
サッチを木箱に納めると、周りに敷き詰めた花が中心に集まり、無駄にメルヘンな態をさらしている。
オヤジは大きな体を持ち上げて歩み寄り、太い指でサッチの頬を撫でた。
オヤジの大きな涙の粒が、サッチの白い服に大きなしみを作った。
嗚咽と、こいつの名を呼ぶ声だけが散漫と響く。
イゾウに呼ばれて、オレはサッチのもとへと歩み寄った。
綺麗な面をしている。
オレはいくつもの戦いに使われたこいつの固い手を胸の上で組ませてやった。
結局あの傷は10年たっても消えることはなく、オレの心臓を燻ぶり続けた。
そっと触れると、やっぱりざらついた感触が胸を突いた。
イゾウの白い頬を幾筋もの涙が通った。
サッチは不規則な波に漂い、どんどんどんどん遠くなっていく。
帰るんだな、サッチ。
お前の、もう一つの親のもとに、海に。
皆がお前を見ている。
お前のために泣いている。
オヤジも、エースも泣いているよい。で
もな、
オレはやっぱり泣けそうにないんだ。
約束したつもりはないが、お前が言っていた通りにはしてやれそうにない。
オレはまだ、お前を手放せない。
エースはオレの能面のような面を覗き込んで、唇をかみしめ、オレの肩にぐっと顔を埋めた。
サッチ。
お前の弟はこんなにもお前を思っている。
悪い兄貴だ。
「…サッチ」
エースの細い呟きが肩口からこぼれ出た。
オレはエースの肩を抱き、空を見上げた。
いつか、お前の死を許せる日が来るのだろうか。
そんな日が来るはずがないとも、来なくていいとも思っているオレは。
きっと一生、お前を忘れられないのだろう。
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白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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