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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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【ハロー隣のクラッシャー】続編で、おなじみトリトネコ。のハナノリさんとの合作です。

元ネタ・一部セリフ→ハナノリさん
文→こまつな



という具合です。





スクロールでどうぞ!









































ん、と低く唸るような声がした。



ソファに持たれてサッチに借りたポータブルゲームをしていたアンは、今いるこの部屋の主であるマルコのほうへと顔を向けた。

黒い回転椅子に深く腰掛け手に持つ書類を睨んでいるところはいつもとなんらかわりないのだが、節くれだった大きな手が後頭部あたりに所在なく回されていることとしかめっ面の横顔からして、どことなく困惑しているように見えないでもない。





「どうかした?」
「・・・いや・・・ん・・・アイツんとこに入れなきゃなんねェ記事があるんだがよい・・・忘れてた」





しまったよい、いやでも取りにこねぇアイツも悪い、などとぶつぶつ呟くその顔はどこまでも渋い。

アイツというのはアンにとってもお馴染みのあの人のはずで、確かに「最近超忙しい」という内容の絵文字・顔文字の並ぶ女子高生のようなメールが届いていたなあとアンもそこはかとなく考える。





「今から行く?」
「・・・あぁ・・・いや、明日の正午締切がこっちに・・・だから・・・クソ、あの女・・・」





既にマルコの頭の中では今日を含め明日の締め切りまでの予定が建てられていたはずで、車を出していかなければならないサッチの出版社に出向くとなるとその予定は大幅に後方へ振られることとなる。
生憎そんな想定外をやすやすと許せるような性格ではないのだ。
しかしだからといって入稿を見送れば、来週購入予定だったソフトが手に入らない。
そうなれば次の仕事が遅れて、予定もクソもあったもんじゃないのだ。



またアンは、あの女というのは多分あの人のことだろうなあとその女性の姿を脳内に描いていた。
フレアスカートが薄茶色の髪と共にふわりと舞うのがとても似合う綺麗な人。
それでも笑うときはとても豪快で元気で、マルコには『鬼だよい、アイツァ、鬼。締切一分一秒たりとも許しゃしねェ』と形容されている。
それでもマルコが手を切らないのはそれなりの信頼があるからで、よって悪態を付くくらいしか彼女に打つ手はないのである。



締切が時報のように正確なことに加えてマルコの舌打ちを誘うのは、その女性がマルコに託した仕事の量である。
その仕事に確かな原稿料が約束されていること、そしてその先にある一つの予定によって、こと彼女との仕事に関してマルコは身動きが取れない。





珍しく頭を抱えるようにしてテーブルに臥せってしまったマルコの背中を眺めていたアンは、ふと思い立ってひとりマルコの背中でにたりと笑った。
むくりとソファから体を引きはがし、ぺたりぺたりと裸足の脚をフローリングの上に乗せてマルコの背後へと歩み寄る。
気配に気づいてマルコが振り返るとそこにあるのは嬉々としたアンの顔。




「ね、あたしがサッチんとこ持ってってあげる」
「・・・あ?」
「その間にマルコはそっちの仕事できるし、あたし暇だし。ね、」


なんていい考えだと言わんばかりに顔を輝かせるアンの瞳はもう既に今日の楽しみ見つけたと語っていて、マルコは一瞬言葉に詰まる。
だが口から転び出た言葉は案外簡単だった。



「駄目だ」
「え!なんで」
「・・・だいたいお前足がねぇじゃねぇか」
「じってっんっしゃ!」
「遠いよい」
「前に車で通ったとこじゃん?あたしのバイト先のファミレスとあんまり距離変わんないよ」
「・・・今日は昼から雨降るよい」
「さっきテレビで今日は一日晴天って言ってた!」
「・・・そのうちサッチが取りに来るよい」
「サッチ今日は会社でてんてこまいって朝メールきた!」
「・・・」
「ね、いいじゃん、なくしたりなんかしないからさ、」



こうしてる時間がもったいないよと言うアンを前にして、すでにマルコは今の状態を回避する術をすべて失ってしまった。
別に原稿をなくされることを危惧しているわけじゃない(安心して任せられるとは言い辛いが)。
サッチの会社に行かせたくないのだ。
あそこにはアンには顔合わせさせたくない奴らがうようよしている。
特に、とマルコはある姿を思い浮かべて顔をしかめた。
しかしアンが引く気配は全くないわけで。
自身の仕事の予定と勝手な心配、ふたつを秤にかけた際、軍配は前者に上がった。



「・・・オフィスの4階、サッチの雑誌はわかるな?」
「! うん!」
「ロビーに入ったら正面に受け付けがあるからそこで受付嬢に詳しい場所を聞け」
「うんうん」
「会社の奴が声かけてきても適当にかわして相手にするんじゃねェぞ」
「わかった!」
「迷っても知らない奴には付いていくな。受け付けに戻れ」
「会社の人でも?」
「絶対だよい。食いもんくれるって言われても付いてくんじゃねぇぞ」
「だいじょうぶ!」
「・・・・・・。アイツァ多分自分の席に噛り付いてるたぁ思うが、もしいなかったら直接電話しろ。出なかったり来なかったりしたらもういい、すぐ帰ってこい」
「他の人に渡したら?」
「極力人とは喋るな」




よしわかった、まかせて!と調子よく頷いたアンの顔を座ったまま見上げて、マルコは内心信用ならねぇとため息をつく。
だが背に腹は代えられないというやつで、差し出されたアンの手に小さなメモリをひとつ乗せたのだった。













自分の家から小さなリュック一つ持ってきたアンはその内ポケットに大事なUSBメモリを収めてリュックを背負う。
マルコはその姿をげんなりと玄関口で眺めていた。




「じゃ、行ってきます!」
「・・・おうよい、わかってんな、知らない奴にゃあ」
「付いてかない!お菓子貰っても付いてかない!もうマルコ面倒臭いなあ」




なっ、と声をあげたマルコにアンは既に背を向けて、しっかり届けてくるからねー!とひらひら手を振って階段を下りて行った。
面倒臭いと形容されたマルコはその背中をやりきれない思いで見送ったわけだが、
子供をはじめてのおつかいに行かせる父親でもあるまいし、と胸の奥深くでさわりと揺れる不安を抑えつけながら無理やり納得させたのだった。































見上げたらひっくりかえってしまいそう、というのは誇張が過ぎるが、近くにこれほど高い建物は見当たらない。
白く光るそのビルは高くそびえたち、圧倒的な威圧感を放っていた。
以前マルコの車の中から前を通ったときにもおっきいビルだなあくらいには思っていたが、目の前に立つと一際その高さが目に付く。
大きな会社だということはそこに勤めているサッチも比例して凄いということで、ほおと思わず感嘆の声が漏れた。
会社の入口付近、駐車場あたりを見渡したが自転車置き場は見当たらなかったので、駐車場の隅にこっそりおいておくことにした。



リュックを背負い直し、肩ひもを強く握って自分に喝を入れる。
びびるな、目的はサッチ、4階だ!と強く言い聞かせてアンは自動扉へと足を進めた。














「・・・う、わ・・・」



一歩中に入ればそこはずっと上まで吹き抜けで、ざわざわと人の話し声が混ざり合っている。
せわしく目の前を通り過ぎる人もいれば、数人組で談笑しながら歩いていく人たちもいた。
かっちりとした見た目とは裏腹にそこに存在する人々は顔も服も多種多様で、ああサッチが馴染みそうな場所だと思える。
正面にはマルコの言った通り受け付けがあり、そこには三人、なんとも綺麗な女性が立っていた。



(・・・しゅっぱんしゃ、っていうのは綺麗な人が多いのか、)



別の出版社の女性の姿を思い浮かべて、アンはぼんやりとそんなことを考える。
自動ドアの前に立ち尽くしたままのアンにとっくの前から気づいていた受付嬢たちはアンの視線を捉えてニコリとほほ笑んだ。







「何か御用でしょうか?」
「っわ、あの、サッチ、じゃなくて・・・4階の〇〇って雑誌の編集部に行きたいんですけど!」


慌てて受け付けに歩み寄り早口にそういえば、受付嬢は微笑みを絶やさずにどこからともなく一枚の紙を取り出した。
もうひとりの受付嬢が受話器を取りどこかに電話を掛ける。



「こちらが社内の地図になります。あちらのエレベーターで4階まで昇っていただいて、つきあたりを右に。そしたらすぐ自動販売機のスペースが見えますので、そこを左にお進みください。しばらく行くと印刷室がありますので、その隣の小さな階段を少し降りていただいて、右に曲がったところが編集部になります」
「え、あ、はい。って、勝手に入ってもいいの?・・・ですか、」
「えぇ、マルコさまからお電話いただいておりますので」


おぉさすが、とアンが感動したところで先ほどまで電話をしていた受付嬢がアンのほうを振り向きゆるりとほほ笑んだ。



「編集部のほうへ電話を入れておきましたので、何かあれば迎えがあると思いますわ」



物事が驚くほど滑らかに滞りなく進んでいく様を前にして、アンは目を白黒させた。
大きな会社はこう、物腰と言うか雰囲気と言うか、序盤から何かと違うものだ。
しかし白黒していても仕方ないので、アンはありがとう!と受付嬢に頭を下げてエレベーターのほうへと足を進めた。






ああ楽しいことになりそうだ。





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焦げたカラメルを、もっともっと透き通らせたような甘い香りが厨房の至る所に充満する。
しっかりと甘さは強いのにくどくなくて、いわゆる「上品な甘さ」というのを持つ摩訶不思議な糖類が、今オレの手によってちりちりと蕩けていく。
鍋の中では焦げ茶色の光るそれがくつりくつりと気泡を沸かせ、ますます甘い香りを濃くしていた。








砂糖菓子で船を作る








「黒糖」と言うらしいそれは、この島の名産だ。
なんか珍しい砂糖買ってきたぜと食堂に持ち込めば、そこで一服していたイゾウがひょいと覗き込んで、こりゃあ黒糖じゃあねェかいと声を上げた。


「おお、なんかそんな名前だったな。イゾウ知ってんのか?」

「ああ、ワの国にもあってねェ」


砂糖よりしつこくなく、健康にもいいとのことで重宝されていたらしいそれを、イゾウが珍しく熱のこもった瞳で見やる。

どう食うのがうまいと聞けば、溶かして蜜にするといいとのことで。
んじゃあそうするかと言うと、イゾウの奴は本当に珍しく嬉々とした表情で、
「牛乳でアイスクリームも作っとけ。アンが喜ぶ」
そして俺は白玉粉を買いに行くから後で作れ、と偉そうに命令を下し、船を下りて行った。


そういうわけでおれはあいつの命を大人しく受け入れ、こうして黒みつを作っているわけである。
ああけなげ。













厨房と食堂を隔てるカウンターの向こうでは、人影のまばらな中おれからよく見えるテーブルに二つの横顔がある。

アンのほうは頭を抱えながらテーブルの上に広げた紙切れに何かを書き込み、それを頬杖ついて眺めるマルコは時たまトントンと紙を叩いてアンに何か言っていた。
それに対しアンは笑ったり、いやそうに思いっきり顔をしかめたり、コロコロと表情を変えてはマルコに反応を変えす。
そしておれの位置からはよく見えないが、マルコはいつもの笑い方で笑い、呆れたり、はたまた青筋立てたり、してるんだろう。





くぷっと茶金色の液体が泡を上げる。
おれはもう一回へらを回して、その純度が高く、そしてとびっきり甘くなるよう鍋の中をかき混ぜた。











テーブルに座る二人のわきには、それぞれ一つずつカップが置いてある。
マルコの右側には濃いめの青、コバルトブルーの縦長のマグカップが。
アンの左側には赤とオレンジと黄色が彩られた幅広のマグカップ。

前者の中にはベージュ色の液体が。
後者の中にはチョコレート色の液体が入っている。
おれが淹れたものだ。


アンが飲むココアは、おれが淹れた時と同じ色のまま、時々アンがかき混ぜることによってミルクとココアがマーブルに混ざり合う。
だがあの鳥野郎が、ほら今この瞬間口に運んでいる液体は、おれが淹れたものとはもはや違う物質だ。

おれは「コーヒー」を淹れたんだ。
口うるさいアイツのために、豆を引いて、ドリップして、奴が常に使っている青のマグカップに注いでやったそれを、マルコは表情一つ変えずに異物へと変える。


まず角砂糖を数個、コーヒーを軽く跳ねさせながらそこに落とす。
そしてそれだけでは飽き足らず、ミルクをこれでもかと言うほど注ぎいれるのである。

もうおれは目を瞑って唸るしかない。
それじゃコーヒーの味なんかわかんねぇだろ!
オレの思いやりを返せと一度怒ってみたら、真っ黒なあるべき姿のコーヒーを指差して奴は言った。


「こんなの苦くて味もクソもねぇだろい」



この時ばかりは、こんな風にマルコを育てたオヤジに文句を言いたくなった。



















おれは火を止めて、熱い鍋をそのままに冷凍庫の扉を開けた。
蜜を溶かす前に作っておいたバニラアイスを取り出して、冷えた皿へぽこりぽこりと一つずつ乗せていく。
そして鍋からまだ熱い黒みつを掬い出した。

一層濃く、重く、そして甘い香りが熱い空気と共に立ち上ってきた。
もう既にこの香りはあの二人へ届いているのだろう。

ちらりとそちらに視線をやれば、アンが嬉しそうに机の上を指差していて、その頭の上にはくしゃりと黒髪をなでるマルコの手。





遠くで食堂の扉が開き、イゾウが帰ってきた。
まったく、あいつは俺にどれだけの白玉を作らせる気だ。
なんだその量。





おれはスプーンを皿の上で傾けて、冷たいアイスに熱々の蜜を落とす。

さあオヤツの時間だ。

厨房も、食堂も、どこもかしこも甘さで満たされていた。




ああ あまいあまい。

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**






サッチとの買い物は楽しかった。
車で15分ほど走ったところにある何だかお洒落な建物。
レトロっていうのかな、こういうのって。

一歩入ってビックリした。
知らない野菜とか、見たことない色の果物とか、よくわからない調味料だとか、
普段のスーパーとはちょっと違う。
何か外国みたいだ。

そう言うとサッチはそうだろうそうだろう、と満足げに笑う。
輸入食品を沢山置いているその店はサッチのお気に入りだという。

「すっごいね、こんなとこでいつも買い物してんの?」
「いんや、普段使いにゃ向かねェっしょ、このテの店は」
んじゃ何で、と言う顔をアンはして、その表情にサッチはにかりと笑った。

「楽しいだろ?」
ん?と聞かれてアンはコクリと素直に頭を振る。
よしよし、とよくわからない顔のままくしゃくしゃと頭を撫でられた。

「んじゃ買うぞー!今日はもう何でも買ってよし!お菓子も解禁!
「マジで!?3個でもいいの!?」

ズコッと入れた気合が空回りとなったサッチは、何よその3個ってと突っ込んできた。

「あ、いや、だってマルコがいっつも2個までって怒る」

・・・どこのお母さんか。

「・・・まぁ、好きに」
「でも、いいや、うん、今日は居ないもんね。よーっし!」

アンはふるふると頭を左右に振って、パッと笑った。

「怒られた時にはサッチがいいって言ったって言おう」
うん、と頷く小娘はすでに菓子売り場へ向かおうとしている。

いやいやそれはちょっと勘弁と思いつつ、サッチはひとまず食材コーナーへ行きませんか?とアンの後姿に声をかけた。







「サッチすごい、天才、カッコいい、最高」
「おお、もっと褒めて褒めて」

ダイニングのテーブルでひと匙すくって口に入れたアンは、足をバタバタさせて身悶えていた。

スープをすすりながらのアンを微笑ましく見ながら、サッチは向かい合わせのキッチンカウンター向こうでずっと作業をしている。

作りながら食わせながら、たまに自分もつまみながら、
行儀は悪いかもしれないが、楽しいのは断然こっちのほうである。

「それ食ったらお前はプチトマトのヘタを取れ」
「はーい」

イモの皮剥きはどうやらなくなったらしい。
アンは上がり込んだサッチの家、テーブルの椅子へ座りつつ、
じゃんじゃん出される料理を着々と食べ、たまに出される手伝いの指示をこなしている。


家に入ってすぐにキッチン以外の場所はいろいろまずいもんがいっぱいなので漁っちゃ駄目よ、
とウィンク付きで言われたが、アンは至極あっさりはいそーですか、と返しただけだった。
誰もいい歳こいたオッサンの部屋を漁りたくはない。

けれど珍しいには違いないのでくるくるとあちこち見回して、少々面食らった。

「・・・意外に片付いてて綺麗だね」

素直に口に出すと後頭部をぽすんとはたかれ、失礼なとしかめっ面をされた。
もちろんふざけているに決まっている。

「はいはい、アンちゃんがそこ入るといろいろ問題出るからキッチン行け、キッチン」

サッチはアンの視界からパタンとベッドのある部屋の扉を閉じて、きょとんとしたアンをダイニングに追いやる。

そうして今に至るのだが、
独り暮らし(・・・だと思う)にしてはキッチンが大きくて、アンはものすごく納得をしてしまった。

サッチの担当している雑誌にはグルメなんとかとか美味しいレシピなんとかとかもあるらしいので、
このレイアウトには大層説得力がある。
単なるお料理好きのおっさんではないということだ。



ジュワーッという食欲をそそる音がしてきた。
同時にものすごくいい匂い。
二口のコンロの片方では何かが炒められ、もう一方では油で揚げられている。
何だろうとアンがキッチンへ意識をやる。

「油跳ねっからこっち来んなよー」
「うん、何揚げてるの?」
「カエル」
「!?」

アンはさっきの店の冷凍コーナーで見かけたラベルのラインナップが一気に脳内によみがえってきた。
さすが輸入系、と恐る恐る手に取ろうとしてちょっと腰が引けた事もついでに思い出す。

「うそうそ、ワニもスズメもカエルも買ってませんって」
「買う奴いんのかな・・・サッチ食ったことある?」
「おー、あんぜ」
「ど、どう?」
「ま、普通?」
「ふ、普通?」
「俺は鶏のが好きってくらいかな、へいおまち」

ぎゃー!唐揚げだ!唐揚げって考えた奴天才!いただきます!
とアンは一気にしゃべって箸で塊を掴むと口へ放り込んだ。

「おわ!お前揚げたて」
熱っの声とともにピクピクと痙攣する小娘一名。

だから言わんこっちゃない、とサッチはコンロの火を止め、ちょうど炒め上がったものを皿に移し終えると、
冷凍庫を開けてアンに氷の塊を差し出した。
四角くない、酒とかに入れるようなごつごつした透明の塊。

舐めとけ、と言いつつアンの口には少々大きかった事を悟り、
押し当てる為のタオルを取りに一度キッチンを離れた。

すると玄関から微かにダースベイダーのテーマが聞こえる。何で玄関?

気持ちが沈む着メロはマルコの設定で、同時に思い出す。

そういえば帰宅した際、車のキー置いたついでに財布携帯全部下駄箱の上に置きっ放しだった。

サッチはとりあえずアンにタオルを渡すのが先だと脱衣所へ行き、ひとつとってリビングへ戻る。
案の定溶けた水滴をどうしたらいいかわからず氷を握りしめたアンが居た。
その姿に苦笑して悪い悪いとタオルを投げ、サッチは玄関へ向かう。




アンを迎えに行ってから2時間程。

(さすがお姫様盗られりゃ死ぬ気で仕事もするか)


サッチはマルコの仕事がやたら増えた事に気付いていた。
あの選好みの激しいオッサンに何があったのかは知らないが、
・・・というのは嘘で、当然最近の封筒攻撃の結果だろう。

マルコの腹は決まったというわけだ。

まぁ、もともとの仲介はあそこの出版社との話だったようだから、サッチの封筒は面白半分の単なる便乗。
義理欠くとあとあと面倒になる業界なのも織り込み済みなので、別段スルーされても痛くない。
アンの部屋に置き忘れを装ってまで追加で投入したものも、マルコの事だ読まずにその辺に放置だろう。

そして、アンの元気の無い理由はこのあたりにあるのでは、とサッチはにらんでいる。


(にしても、やりゃァできる癖によ)

サッチはちょくちょく締め切りに無理を言うマルコの言い分を、
次からは絶対に聞かないと心に決めた。
そして原稿欲しい時にはアンの連れ出しに限るな、とも。

そもそもそんな理由など抜きでサッチはアンを構いたいのだが、
マルコへのいい建前だ。

まぁ、封じられそうではあるが。


「へいへい、今出るって」


扉を一つ開けると、遮られていた音量が玄関でこだましている。

下駄箱の上で主張する暗黒卿のテーマは正直テンションあがらないので変えようと思うのだが、
設定対象とすばらしくマッチングしていると思うので長い事そのままだ。


電話はこちらに向かう車内からなのかもしれない。
追加で買うモンあるかよぃ、とかまぁそんなとこだろう。

サッチは呑気に通話のボタンを押そうとしたが、
タッチの差で切れてしまう。

「ありゃ」

すぐさま着信アリの表示を押して、リダイヤルにつなげようとしたその時、

何気なく履歴を見て、思わず唸った。



(・・・冗談)


性別が女だったら、間違いなく通報レベルのこの着信の数。

携帯放置かつキッチンでの作業音でまったく気付けなかったとはいえ、
この数はなんだ。


男でもこれは怖ぇよ、と突っ込んだところでハタと思った。

そういえば、机の上に出しっ放しで飯を食ってたアンの携帯は、
一度だって鳴ったか?




背筋にじわりと嫌な気配を感じた瞬間、
再びサッチの手の中で、マルコからの着信に携帯が大きな音を立てた。






ハナノリさんのあとがき

拍手[35回]


【ハロー隣のクラッシャー】オマケとしてこまつながハナノリさんに捧げたもの。
捧げ物のくせに、こちらでのupが見やすいんでない?と提案いただいたので
うちでupしています。

上記シリーズの02.03当たりのマルコサイドです。
番号が2.5というのはそういうわけです。


※話の内容的に、ハナノリさんに頂いた【ウェルカム恋のファンタジスタ 01】を読んでから閲覧ください。
















大人風吹かせて戸締りしろと言ってみたら、ぽかんと口を開けられた。
まるで心配されることに慣れていないかのような顔で呆けていたかと思えば、
すぐに目をそらしてああ、うん、と答えアンはマルコから背を向けた。

階段を駆け上っていく背中は細く、うっすらと角ばった肩甲骨が存在を示している。
ガンッガンッと近所迷惑な騒音を立てながら階段を上るその女は、儚さとは無縁のように思えた。

階段を登り切り部屋へ向かって角を曲がるその瞬間、ちらりと見えた横顔はなぜかしかめっ面で、
その理由を考える間もなく荒々しく扉が開きまた閉じる音が聞こえた。



















「遅ェよい」

「ワリィワリィ、赤髪の野郎が来ててさ。オヤジに呼ばれちまった」


マルコの足元に小さな一山を作った煙草の吸殻たちは、マルコの不機嫌をわかりやすく表していた。
サッチはそれを一瞥して謝罪を述べる。
白ひげの名を出せばマルコもそれ以上言わないことを知っているので、それはしっかりと忘れずに。



「…で、今月のは」

「おう、これこれ」


まあ一通り目ェ通してくれよと手渡された封筒から、数枚のカタログを取り出す。
サッチがマルコに託す仕事は、いわばマルコの息抜きだ。
他にいくつもの契約を結んでいるマルコが書く記事は出版社業界では案外名が通っていて、
引っ張りだこと言うほどでもないが、それなりに仕事の依頼も多い。

だが難点は、マルコがえり好みすることである。
気に入らなければバッサリ切る。
書きたいものだけを書く。
それができないならあんたんとこはもう用がないとでも言うように、さっさと背を向けてしまうのである。
金に頓着しないと言えば格好は付くが、それで生活に困るようでは元も子もない。

そんなマルコの性格を一から十まで理解した白ひげが、マルコが気に入りそうな仕事を
たとえマルコでなくとも間に合う内容でも、マルコに託すのである。
そうすればマルコが気に入らないと言って仕事を切り続けても、白ひげからの仕事があるので
それをこなせば金が入るし、マルコも好きなものを書けて一石二鳥と言うわけである。

サッチやその他社員含め、マルコのことを息子と呼んで猫かわいがりする白ひげの究極の甘やかしである。





「やるだろ?」

「…オメェんとこのだ、当たり前だろい」


このお偉いさんとのアポとんなきゃなんねぇってのが面倒だがねい、とマルコは頭の中でその日程、
今後の算段をしっかりと予定として埋めていく。


ふと、視線を感じて顔を上げれば目の前の男の瞳とかち合った。



「……なに見てんだよい、気持ちワリィ」

「…いや、なんか今日ご機嫌じゃん。インタビューある奴だからまたブツブツ小言言われるかと思った」


まあ機嫌いいならそれにこしたことはないわな、と朗らかに笑ったサッチは
じゃあオレの仕事しゅうりょーと歌うように言い、ひらりと手を振って愛車で走り去ってしまった。



マルコの何をもって機嫌がいいと悟ったのかは、マルコ自身もわからなかったが
あながち間違ってはいないと思った。




















仕事机の前で先ほどの仕事の約束を取り付け終わった時にはもう日はとっぷりと沈んでいた。
ああ腹が減ったと思ったが相も変わらず冷蔵庫にはおそらくマヨネーズくらいしかないので、買いに出なければならない。
面倒だ、だが腹は減る、と椅子の背にだらしなくもたれながらうだうだ考えていたのだが、
食欲には勝てず仕方がない買いに行くかと腰を上げたその時、壁を超えた向こうの空間からそこそこ激しい衝撃音が聞こえた。
そしてそのすぐあとに届いたのは小さな叫びと呻き声。

ここ半年、隣家は空っぽだったためあそこに人がいるのだということに未だ慣れない。
人がいなくなるのに慣れるのはあんなにも簡単だったのにと思うと単純に不思議だった。


あの落ち着きのない小娘と、今の打撃音らしきものを思い起こすと先の出来事が容易に想像できる。
くっと笑いを漏らすと壁の向こうからクソッという悪態が聞こえてきて、
そのすぐあとにふははっと笑い声が聞こえたので
一瞬自分の笑い声までむこうに聞こえていたのかもしれないと考えて、また笑った。




















翌朝部屋の扉を開けて階段のほうへと顔を向ければ、
ずっしりと中身の詰まった袋を半ば引きずりながら歩いていく小娘の背中を捉えた。

事務服で、数センチのヒール靴を履いてしかし大股でゴミを引っ張っていく姿は何とも男らしい。
引っ越し早々楽しいやつだと内心笑いながら、後ろから近づきごみ袋を持ち上げた。




慌ててオレの後を追ってきた女は申し訳なさそうに眉を寄せていたが、
素直に助かったありがとうと言うのでこちらも気が軽い。

ふと目の前に立ったその姿を不躾に眺めてしまったが、騒々しくガキくさいわりには事務服も様になっていた。



だが次の会話で尋ねられた言葉はまるで小学生が「おじさん何の仕事してるのー?」と尋ねるような口ぶりで、
軽く驚きのような呆れのような顔をしてしまったのも致し方ないだろう。



だからというわけではないが、冗談交じりに耳元に口を寄せた。








「そんなことより、昨日ぶつけた所、大丈夫かよい」








途端にばっと顔を引いたそいつは咄嗟に耳を押さえていて、
こちらがなにを言う間もなく大丈夫!と叫んだかと思えばくるりと背を向けて、
ダッカダッカとヒール靴にしては珍しい足音をさせて歩いて行った






予想以上の反応にしばらく呆気にとられていたのだが、自然に漏れ出したのはやはり笑いで。




ああこれは手放したら退屈して死にそうだと、今朝方部屋に届いた緑色の封筒の行く末をぼんやりと考えた。

拍手[14回]






また雨だ・・・。



アンはどんより気分に輪を駆けるニュースを眺めながら、
テレビに背を向けるようにして転がる。

昨日までは雨で、今日は一日降りそうで降らなくて、
そして天気予報が外れないなら、あすからの週末二日ともが雨らしい。
土曜日のバイトはシフトの調整で丸々休み。
日曜日はもともと休み。
ので、2日連続の休みと言う非常に素敵な具合なのに・・・



アンは床に寝そべったまま適当に手を伸ばして、酷い体勢のままベッドの上のタオルケットを探す。
何度もやるのにちっとも手が届かない。グキッと肩が変な風にねじれて、痛っと声を上げた。

横着をしただけ損だったことにより一層苛立ち、アンは意地でもその体勢のままタオルケットを引きずり下ろすと、
それに包まって丸くなった。



心臓がじくじくする。

お腹の辺りもモヤモヤする。




滅多に調子を崩すことなんてないのが売りの自分だったはずなのに
一体どうしたっていうんだろう。



アンはマルコの部屋で夕飯を食べて、そして今日は早々に自分の部屋に戻ってきている。
このところマルコは異常に忙しそうなのだ。








(この辺、重い)


アンは繭の中で体を一層縮めながら胸のあたりを抱きしめるようにして眉を寄せた。



最近、ちょくちょく感じるこの重さ。

最初に感じたのはいつだろう。



ああ、あれだ、


マルコに好きだと言われる前、
この部屋に、あたしが来る前に住んでいた人の事を聞いた時、

それがマルコの彼女だと知った時。



勘違いだと分かって、マルコの大事にしたい相手が自分だと聞かされて、

それからもうひと月近く経つのに・・・・



アンがずっとずっと気付いていて、
そして気付かないフリをしていることがひとつ。




あの紅茶のティーバックは相変わらずマルコのキッチンのところに置かれたままだ。






紅茶全般が嫌いになってしまいそうなそれ。
中身がどれだけあるのかもしれない、ただの小さな紙の箱。


たとえマルコが清算済みの関係だと整理をつけていても、

過去ここに誰か別の女の人が、自分と同じようなポジションで存在していた証なんて、




(あれ、もう、・・・・見たくない)



捨ててしまおうかと思った。

マルコはコーヒーしか飲まないのだから、
別段これが無くなったとして何も困らないだろう。


けれど、どうしてもできなかった。


マルコがどういう意図でそれを残しているのかが分からない以上、
アンには迂闊に手が出せない。
それに飲食物を気軽に破棄することは躊躇われる性質なので余計だ

手を出して、捨ててしまえば、
その行動自体が些細な嫉妬か子供っぽい駄々だと思われそうで。



このひと月、嬉しい事がいっぱいあった。
落ち着かなくて、でも顔がにやけるようなこともあった。
得意じゃないけど、でも嫌じゃない。そんなことが沢山。



けれどそれ以上に面倒で、投げ出したくなるような事もいっぱいあった。


紅茶の事だけじゃない。




ふとした瞬間、アンはマルコの昔の彼女の影を見る。


それは完全に妄想で、マルコには恐らく何も見えていない影。





同じ部屋に住み、同じように暮していれば、
同じシチュエーションが前にもあったんだろうか。

その時もやっぱりマルコは今みたいに笑ったり、
その人の頭を撫でたり、
ご飯を食べたりしていたんだろうか。


この部屋で。



そんなことを一度考えれば、
その日はもう止められなくなる。



マルコはよくアンを丸めこもうとするけれど、
正面からの告白と、
そして半年以上も前に終わって未練のみの字も無いと言ったことは掛け値なしで本当だろう。

それを疑うのはマルコに酷い。
そのくらいアンだってちゃんとわかっている。


だから、勝手に見える彼女の影が嫌だなんて、


・・・・・マルコには言えない。






「でも、・・・・ヤなんだよ」




頭を撫でてもらうのも、
ご飯を食べるのも、
低く笑ってしょーがねぇよぃって言われるのも、
抱きしめられるのも、キスをされるのも、

この部屋とマルコの部屋でされること全て、

前例があるのかもしれないとそう思う環境が嫌で、


そう思ってしまう自分がもっと嫌で、


ここに引っ越さなければマルコと会えてもいないのに、
アンは最近ここから別のどこかへ逃げてしまいたい気持ちになっている。






てってれれー、と携帯がアンの気持ちとは裏腹に、間抜けな音を出した。

この音は・・・・


(サッチからのメールだ)

アンは相手ごとに音を変えるなんて機能は使った事も無い。
が、以前サッチが遊びに来ていた時に勝手に設定をしていった。

それ以来サッチからのメールと電話だけは確認しなくてもすぐわかる。
案外この機能は便利なものだ。

というわけでアンはマルコではなくサッチだけは識別可能仕様という、
世間的に見ればいささか不思議な携帯を丸くなった中から探し当てる。


ローテーブルの上に置いてあったので、タオルケットよりは簡単に手元に持ってこれた。

パチンと開くと、新着メールのマーク。

開けばそこにはまるでいつもの調子でしゃべってるかのようなサッチの文章がある。
絵文字や顔文字がたくさんで、どこの女子高生かと最初は驚いたが今ではすっかり慣れたもの。

アンは少し気持ちが和んだものの、返事を打とうとして気力が萎えた。
面倒になってサッチの番号へ電話を掛けると、2コールで受話器の向こうから声がする。


『アンちゃーん、たまにはメールで返事ちょーだい。受信ボックスに潤いがないのよ俺』
「打つの面倒なんだもん」
「どっかのオッサンみたいなこと言わないの」
似て来たとかやめてー、とサッチが電話口で苦笑しているのが判る。
アンはこっちだって願い下げ、と普段なら言えるのに今日はマルコを引き合いに出されても身体がまた沈むだけ。

『どしたのアンちゃん、何か声こもってねぇ?』
「あー、うん、いま布団の中だから」
『・・・ってことはこれはピロートークか!?』
「何それ」
『ああ、いや、うん、まぁいいや』

サッチは適当に誤魔化して、メールの返答を聞く為にアンへもう一度同じ内容を問いかける。
アンはサッチへの来訪お料理リクエストには答えずに、遠慮がちに切りだした。

「あのさ・・・」
『?』
「サッチ、明日マルコに用事ある?」
『あー、まぁあるとすりゃ原稿早く寄越せって言う程度?ま、当然効力ゼロだから言うだけ無駄、よって俺超暇』
だからアンちゃんにメールしたんですよー?とサッチは笑う。

アンはサッチのこういう気の遣わせない上手なところがとても好きだった。
ホッとして、何でも話してしまいたくなる。


「だったらさ、あたしがサッチの家、行っちゃ・・・」
駄目かな?と語尾が小さく聞こえてくるのは何も布団の中で声がこもって聞き取りにくいからだけではなさそうだ。

うっわ!何この破壊力、そんな可愛いおねだり、こんなオッサンにしちゃ駄目!
しかも無自覚で!なんて恐ろしい子!

サッチは一瞬ウェルカム万歳を叫びそうになり、慌てて気持ちを宥める。

そしてマルコにお宅のお姫様もうちょっとちゃんと教育しなさいよ、と言いたくなった。
無自覚で男のお家に行きたい発言とか安易にするのは駄目だろう。
相手俺だからこれ穏便に済むのよ?
なんて危なっかしいのを抱えたんだかザマ―ミロ、じゃねぇご愁傷さまマルコ。

さらにアンには、そういう技はマルコにだけ使いなさい、とも言いたくなった。
てかそれは死ぬほど羨ましいじゃねぇかマルコのド畜生、とも・・・駄目だこれは終わらねェ。


さて、
しかし今までにこんなことを言いだした事の無いアンには何か理由があるに決まっている。
声に元気がないのだってそのせいなんだろう。


サッチは電話口でふっと笑うと、聞いた。

『マルコ忙しくて構ってくんねぇの?』
「そんなんじゃ・・・ない」

ふむ、とサッチは見えるはずはないが片眉を上げる。

『じゃ喧嘩したんか?』
「うぅん」

おや、外れた。

いよいよこれは何だろうとサッチが首を捻っていると、

アンからポツリと呟きが返る。

「・・・この部屋、ちょっと離れたい」

それっきりアンは黙ってしまった。

要するに、どっかへ行きたいと。


可愛い妹のようなアンが言うのなら、サッチがすることはただ一つ。

『よっしゃ!んじゃ明日昼前に迎えに行っちゃる!んでスーパーでしこたま買い出し!んでゴージャスにクッキング!
死ぬほど食わせてやるから覚悟しろ?何て素敵な雨のお休み遊び!とサッチはうきうきと声を弾ませてアンに提案した。

アンは美味しいもの三昧の予定よりも、
何より出かけられるその事にホッと息をつく。

「ありがとサッチ」
『礼はいいから明日ものすごい気合で芋の皮を剥け』
謎の指令をして、あ、とサッチは最後にひとつ付け足しをすると電話を切った。
アンはその付け足しには曖昧に返事をして同じく通話のボタンを切る。


何で芋?とアンは少しだけおかしくなって笑った。
点けっぱなしになっていたテレビの左上隅には、また小さい天気予報が出ている。

けれど明日を示す傘マークを、先ほどよりは体を沈めずに眺める事が出来た。






**




ガチャ、バタン、という重たいドアの開閉音。
聞こえたそれに、マルコは当然玄関のチャイム音が続くと思っていた。

マルコは時間の感覚が昨夜からおかしいよぃ、と時計を見る。
深夜まで書いて、少し寝て、なぜかすぐに目が覚めて、そこから気付けば今に至る。

筆が乗る時にはそれを止めないというよりは止まらないのがモノ書きの性なのか、なんと時刻は11時前。


夜・・じゃねェ・・・飯、より眠ぃ

そうぼやけた頭の隅で思い、そういえばチャイムが鳴らねぇな、と気付いた。


買いだしなり、様子見なり、必ずと言っていいほどひと声かかる日常で、
それは少し異質なことだった。


凝り固まった体を机から引き剥がしてドアを押せば、そこにはどこかに出かける恰好をしたアンが立っていた。

むわっとする湿気は当然雨が降り出したからで、マルコはまずその事に眉をひそめる。
そしてビクリと驚いたようにマルコを見るアンの態度にも眉根は寄った。

「・・・どっか出んのかよぃ」
「あ、うん」

こっちの都合を考えずにどこかへ引っ張り出そうとやってきたのかと思ったが、どう見ても変な態度で、
アンの身体は階段の方へ流れかけている。

「サッチと買い出し行って飯作る」

その名前に階下を見下ろせば、見慣れた車が雨の中停車していた。

そんな予定は聞いてねェ、と思いかけたが聞いてやる時間を作っていないのはこちらの落ち度だと思いなおし、
マルコはそうかよぃ、と頷いた。

ヤツは何だかんだとアンを構うが、
そもそも厭わしいというのは今に始まった事ではない。


「・・・俺ァ仕事が詰まってて」
「わかってる、眠くて死にそうって顔してるもん」

アンはピッとマルコの鼻先に指を示すと少し笑った。

とりあえず死なない程度に頑張ってね、と言うと同時にポンとワンタッチのビニール傘を開いて、
ひらひらと手を振ると階段を下りていく。

その何とも色気のない励ましに、よいと適当に相槌を打ちながら、マルコは違和感を感じた。



機嫌を損ねた、というわけでもない。
至っていつも通りの、普通のアンだ。


昨日飯を食ってる時も別に普通、
だったはず。


玄関まで見送った際に交すやりとりやらあれやこれやも別に普通、
だったはず。

別れ際にちょっかい掛けんな、といちいち照れて噛みつくのも、
最後だから構うのが普通だろぃ、と笑ってやれば、怒った様にバタンとドアが閉まる、
第三者が傍で見ていれば大層げんなりするに違いないやりとりも、

もはやここひと月での立派な『普通の日常』だ。


なのに、今のアンは・・・どこか


(俺がおかしいのかねぃ)


決してスッキリしているとは言い難い脳みそなので、
マルコはふ、と息を一つ吐くとちょうどそこにサッチの車のエンジン音が重なる


他の男と二人っきりでどこかにやるというのは、
非常に面白くない。

が、今日も明日も残念ながら自分がそれに応えてやれないのも事実だ。

数を増やした仕事は予想以上に面倒で、マルコはペースをつかむまで久々の缶詰め状態を味わっている。



(ま、買い出しじゃすぐに戻ってくんだろぃ)




隣の部屋でぎゃーぎゃーと賑やかに昼飯を作られるまえに、
マルコはあと少し筆を進めるかと部屋へ戻る。

車が走り去った後姿は最後まで確認しなかった。





そして1時間経っても二人は戻らなかった。



アンの携帯は繋がらない。


(・・・電波の届かない買い出し先ってのはどこだよぃ)




フランスパンは呼び出し音は鳴るくせに、一向に出る気配がない。






マルコの原稿が全く進まなかったのは言うまでも無かった。



ハナノリさんのあとがき

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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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