OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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オレのすべてを賭けた。
賭けていいと思った。
だがあんたは、最期の最期に、オレの手を拒んだ。
そういう人だった。
いつか去る場所
「グララララ!今日はいい日だ!なぁマルコ!!」
「あぁっ!オヤジっ!今日はオレひとりで敵倒したよいっ!」
「グララッ!やるじゃねぇかぁ!おめぇももう立派な海賊だなぁ!!」
分厚い手のひらが乱暴にオレの頭を撫で回す。
はじめこそ慣れなかったが、いつのまにかそれは心地いいものになっていて。
むしろオヤジに褒めてもらいたくて、撫でてもらいたくて、オレはただ強さを目指した。
「しかしマルコはいつまでたってもちいせぇなァ!」
「・・・そりゃあオヤジに比べたらちぃせぇよい」
「グララララ!違いねェ!オレァ思ったよりでかくなりそうだ!!」
豪快に笑い、杯から酒を水のように流し込む。
「・・・でもオレサッチよりはでけぇよい」
「グラララ!かわんねぇよ!!」
「変わる!!こんくらいオレのほうがでかかった!!」
指でその差を示すと、親父はこれでもかと言うくらい目を細める。そんな隙間から物が見えるのかどうか。
「でっかくなれよ」
とんと大きな指先がオレの頭を小突く。
オレはくしゃりと顔をゆがめて、オヤジの膝へと這い登った。
「なぁオヤジ」
「あぁ?」
「この旅が終わったらどこ行くんだい?」
「・・・そうだなァ、好きなところに行けばいい」
「オヤジはどこ行きてぇんだい?グランドラインはこれから行くから、他の海に行きてぇよなぁ。
オヤジは東の海とか行ったことあるんだろい?グランドライン一周したら連れてってくれよい」
見上げるようにしてそう言ったが、オヤジからの返事はない。
ただ、酒がのどに通る音ばかりが聞こえる。
「オヤジ?」
「・・・てめぇが、そのときの仲間と決めりゃあいい」
「そのときって、」
「グララララ!オレがいるたァ限らねぇしなァ!」
ちゃぷん、と杯から酒が零れ出る。
俺の左側に落ちた滴が跳ね上がってオレの頬を濡らした。
「・・・なんだよい、それ」
「マルコ?」
「意味わかんねぇよい!なんでオヤジがいねぇんだよい!一緒に行くに決まってんだろい!!」
はぁっ、と肩で息をする。
オヤジは静かにオレを見下ろした。
「マルコ、オレァいつかいなくなる。あたりめぇだろ、オレァ人間だ。
もしかしたらオメェが出て行くときも来るかもしれねぇ。理由がどうであれ・・・」
「そんなこと!!」
っく、とつばを呑み込む。
こんなことで泣きたくないのに、かっこわりぃのに、涙は止まってくれなかった。
「そんなこと、言うなよい!オレはずっとオヤジといるよい・・・!」
服の袖でぐしぐしと目元を拭う。ひりひりと痛かったけど、それよりも、怖かった。
考えられない。
考えたくない。
「だから・・・そんなこと言わないでくれよい・・・」
ふわりと臓器が浮かび上がる独特の感覚。
オレを包む温度に、今親父の腕の中にいるのだとわかった。
「・・・なぁマルコ・・・オレたちぁ海賊だ。
何時死んでもおかしいことはねぇ。
明日かもしれねぇ、その次かもしれねぇ。もしかすると数十年たってもまだピンピンしてるかもしれねぇ。
・・・そういう命の賭けに出る代わりに、オレたちぁ自由を、得るんだ」
「・・・じゆう」
「笑って歌ってメシ食って好きなことをして、仲間と愛する海の上で暮らせるんだ。
・・・グララララ、こんな楽しいこたぁねぇ・・・」
「・・・」
「だからなァ、マルコ。てめぇも自由が欲しけりゃ、覚悟決めろ。
いつ死んでもいいように、生きろ」
「グララララ!心配しねぇでもオレの次はテメェの番だ!!死んだってじきに会える!!」
「ああ・・・!」
すり、とその腕に頬を寄せると、それは嬉しそうに小さく震えた。
風にはためくのは、長いあいだ彼の人の背中を守り続けたコート。
その隣には眩しいほど白く光るオレンジのテンガロンハット。
「・・・マルコ、行こう」
ジョズが控えめにオレを呼ぶ。
オレは手を上げてそれに答えた。
「・・・すぐには、いけそうにねぇなぁ」
次に会うときまで、どれだけの日々を過ごさねばならないのだろう。
きっと、またひとり、またひとりとオヤジとの再会を果たす仲間は増えていく。
「・・・オレァ、しばらく会えなさそうだよい」
ゆっくりでいい、と凪いだ風がコートを揺らした。
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「~っ、こんのっアホがっ!!てめぇの脳みそは蟹味噌かよいっ!?」
「ひどいっ!マルコ!!」
「なんで火薬庫の整理が花火大会になってんだよいっ!?」
絶賛、ド叱り中。
理由は、上記の通り。
「だって、だってね?ジョアンが花火の作り方知ってるって言うから」
「だからって仕事中にしかも戦闘用の火薬使うか!?二番隊揃って遊びやがって!!」
「だって…」
「だってじゃねぇ!!」
しゅんと項垂れるアンの後ろでは、綺麗に揃って同じく項垂れる二番隊隊員たち約百名。
「ったく…二番隊は今晩から一ヶ月見張り当番だよい。あと火薬の分、二番隊の経費から抜くからな。
アンてめぇの食費も差し押さえだい」
アンてめぇの食費も差し押さえだい」
「そんなっ!!ねぇマル…」
顔色を変えてオレの腕にかけてきたアンの手を勢いよく振り払う。
その瞬間ちらりと目に映ったアンの顔が捨てられた子供のようで、ぐらりと何かが揺らいだが、威厳かなんかで持ちこたえた。
「…二番隊は甲板掃除してこい。遊ぶなよい。アンてめぇは始末書書いてこいよい」
「うーっす…」
すっかり気落ちした野郎どもの返事が、穏やかな日差しの中甲板に広がった。
眼鏡を外し、ぐっと背中を伸ばすとばきばきと縁起でもない音がした。
(…もう夜だねい…)
仕事中毒と称されるオレのことだ。
机に向かっているうちに太陽がいなくなっているなどよくあること。
仕事が一息ついたのでコーヒーでも飲もうかと部屋を出た。
自分の部屋にコーヒーメーカーはあるものの、自分で淹れるよりそれを得意とする奴に淹れてもらったほうが上手いのは当然というもの。
サッチかそのあたりがいるだろう。
机に向かっているうちに太陽がいなくなっているなどよくあること。
仕事が一息ついたのでコーヒーでも飲もうかと部屋を出た。
自分の部屋にコーヒーメーカーはあるものの、自分で淹れるよりそれを得意とする奴に淹れてもらったほうが上手いのは当然というもの。
サッチかそのあたりがいるだろう。
食堂の扉を開けると案の定、サッチはテーブルのまわりをせわしく動き回り片付けをしていた。
「あっ、マルコお前メシんときくらい仕事切り上げろよ!別にすっとめんどくせぇんだよ!」
「コーヒーよこせ」
「・・・てめぇ、」
明日南蛮チキンにしてやる、などとぶつぶつ言いながらも用意を始めるサッチをなんともなしに見ていると、突然そいつがおおーうと突飛な声を発した。
「なんだよい、」
「お前今日アンこっぴどく叱っただろ」
「・・・それが」
サッチは下がり気味の眉をくしゃりと歪めて笑う。
「アンの上だけ曇天だった」
「なんだいそりゃ」
「やべぇよ、あの落ち込みよう」
ふわりとカレーの匂いが漂う。
サッチはカレーのプレートとコーヒーを俺の前に置いた。
「・・・カレーいらん」
「お前昼も食ってねぇだろ」
「代わりにアンが食うからいいんだよい」
「はっ、一心同体ってか」
「てめぇリーゼントすり潰してやろうかい」
悪態つきながらもオレはスプーンを手に取る。
カレーだから・・・今日は何曜日だ?と海軍のようなことを考えた。
「慰めてこいよ」
「・・・甘やかしてどうする」
「アメとムチっつーだろ?」
「・・・別にオレはムチ打ったつもりはねぇ」
「ちょ、そのセンテンス危なく聞こえる」
「てめぇほんとに死んでこいよい」
かっこむようにカレーを腹に収め、コーヒーをすする。
オレの罵声を浴びても、サッチはいまだニヤニヤとオレの前に座った。
「気分の悪ぃ笑いかたすんじゃねぇよい、てめぇもうどっかいけ」
「メシだけ作らせて!?」
ひどいっっとひとしきり叫ぶサッチを尻目に、はたと思い出した。
「・・・そういやあいつ、まだ始末書出してこねぇ」
しまつしょぉ?とサッチが間延びした声を出す。
「昼間のだよい。あいつさっさと書けっつったのに」
「アンなら二番隊の奴らに支えられながら大部屋行ったぜ。慰め会でもすんじゃね」
「・・・ったく」
まったく不本意ではあるものの、オレは始末書の催促のために腰を上げた。
「あんま怒ってやんなよ」
「・・・ほっとけ」
二番隊の大部屋の戸を開けると、むんと男臭さと酒臭さが鼻をついた。
「あ、マルコたいちょ、」
「アンの奴いるかい」
「そこに」
隊員が指差す先には、床に仰向けに転がり真っ赤な顔で伸びるだらしない姿。
近づき、つま先でとんとわき腹を突くとううんと唸った。
「おいアンてめぇ始末書、」
「・・・マル、コ・・・ごめ、」
完全に酒に飲まれたらしいアンは、何度もごめんと口にした。
「・・・あの、マルコ隊長、」
振り返れば、数人の二番隊隊員。
「昼間はすんません、オレが言い始めたことなんです。だから、その、あんまりアン隊長を・・・」
「・・・わかってるよい」
「始末書は俺が書きますから」
「・・・いや、それはアンにやらせる。お前らあんまりこいつ甘やかすんじゃねぇよい」
しゃがみこみ、熱くなった肩を揺する。
「おい、アン起きろ」
「・・・うぅん・・・ごめ、マル・・・」
「もう寝かせといてやってくださいよ」
「・・・つってもねい、ここで寝かすわけにも、」
「なんでっすか?」
きょとんと小首をかしげる隊員たち。
「なんでって、ここ大部屋だろい」
「なんで大部屋だと駄目なんすか?」
そろってさも不思議そうな顔をする。
・・・まさかとは思うが、
「・・・アンの奴、よくここで寝るのかい」
「え、ああはい。酒盛りのときはいつも」
それがなにか?といわんばかりの顔つきで隊員は俺を眺める。
片やオレはと言うと、始まった頭痛に頭を押さえるばかり。
船に女を乗せてはいけないなどという古臭いことを言うつもりはさらさらない。
女でさえ海賊家業をする時代だ。
だが男ばかりの船に乗った女と言うのは、海の上でたまりにたまった男の性欲のはけ口になりかねない。
この船のナースはオヤジのために命を張った女ばかりだから、誰も道義に外れた行為を致そうとはしない。合意の上でなら別だが。
だがアンは、違う。
こいつに手を出そうなどと言うう大バカ者(または勇者)はそうそういないが、今夜のオカズにでもされていようものならたまったもんじゃない。
「・・・間違いは、なかったんだろうねぃ」
「まちがい?」
きょとんと小首をかしげる野郎ども(気味が悪い)は、本気で意味がわかっていないらしい。
なんだここは少年村か。なんだそりゃ。
「・・・もうここでアンを寝かすんじゃねぇよい」
「? うーっす・・・?」
いまいち切れの悪い返事をした隊員たちを尻目に、アンの肩を揺さぶった。
「おい、アン起きろ。部屋に戻れ」
「・・・んぅ・・・」
「・・・ったく、」
ぐいと腕を引っ張り上体を起こさせ、その脇に手を入れて持ち上げる。片腕に座らせるようにすると、だらんと肩から背中にアンの腕が垂れ下がった。
おおーう、と男どもから感嘆の声が漏れる。
「・・・なんだよい」
「いや、その滑らかな動作、いいっすね」
「やっぱマルコ隊長しかいないっすよ、アンの世話」
「・・・ふざけたこと抜かしてねぇでさっさと寝ろ」
「うーっす」
よいせとアンを抱え直し、オレはアンの部屋へと足を進めた。
足で扉を開け、無秩序な部屋へと足を踏み入れる。
そのままベッドにアンを落とすとううんと唸って猫のように背中を丸めて横になった。
「おいアン、始末書、」
なんとなくもうどうでもいい気がしてこないでもなかったが、一応事務的に聞いてみるとゆるゆるとアンの腕が上がり部屋の中にひとつあるデスクを指差した。
(・・・聞こえてんじゃねぇかい)
ぺらりとそれを手に取り、アンを脇にどけてベッドに腰掛ける。
紙の上にはミミズが数匹のたうち、ところどころ濡れてから乾きました的な痕があった。
「・・・ったく、」
ちらりと寝転がるその顔を見やると、頬の紅潮に混じって目の下もうっすら赤い。
怒られて泣くとかガキか。いやガキだ。
感情表現もろくにできなかったころを思うとまァマシかとも思うが。
「寝坊すんなよい」
沈めていた腰をふっとあげたが、くんと別の力がそれを引きもどした。
「おわっ、」
再びぼすりとベッドに沈む。
振り返るとむにゃむにゃと口元を動かすアン。
その手がしっかりとオレのシャツの前裾を握っていた。
「・・・おいっ、離せよいっ」
「・・・マル・・・」
ぎゅっと赤ん坊並の握力で握りしめられ、指に手をかけるがほどけやしない。
「・・・帰れねェだろ、」
「・・・ら、ないで・・・」
小さく口元を動かし何かを呟いている。
考えなしにそこに耳元を寄せると、今度ははっきりと届いた。
「・・・嫌いに、ならな・・・で・・・」
ふにゃりと歪んだ眉が今にも泣き出しそうに震えている。
酒のせいだとわかってはいるが、なんとなくいたたまれない感じになった。
・・・いやなんでオレが、
(・・・可愛い・・・)
・・・ちょっと待て違う違う、今日悪いのはこいつのほうで、
(・・・腕、ほっそいねい・・・)
・・・っんなことどうでもよくて、オレはまだ仕事が、
(・・・このまま寝たら風邪引くかねい・・・)
・・・そうじゃなくて、ああ、もう、疲れた・・・
数分葛藤に悶えるようにひとりベッドの上で頭を抱えていたらしいオレは、諦めてばたりとベッドに倒れ込んだ。
・・・シャツ、脱ぎゃいい話じゃねぇか・・・
気付いたものの、もういいんだもう寝転んだから知らんと、気付かないふりをした。
肩を押してアンをベッドの端に寄せ、自らもその隣に横たわる。
アンはオレのシャツを握ったままもぞもぞと動くと、本能か温もりを求めるようにすりよってきた。
ぴたりとアンの顔が鎖骨辺りにくっつき、くふくふと鼻を鳴らす。
・・・寝てると、本物のガキだな…
そばかすの散った顔はさらにあどけなく、顔にかかった髪を払ってやるとふるりと震えた。
「…ルコ…、」
再びオレの名を零した口に、ぐっと胸の奥辺りが鷲掴まれる。
隊長として、100人の命を背負うにはあまりに小さすぎる。
だがその力量が外からは見えないところに備わっている。
むしろその重みに耐えることが必要なのかもしれない。
(・・・甘やかしとかじゃねぇよい・・・)
甘やかすならそれ専属の奴らがいる(二番隊とかオヤジとかオヤジとか)。
だが今ぐらいなら、と柔らかな頬に手を伸ばしたそのとき、ふっとアンの顔に笑みが浮かんだ。
「・・・ルフィ・・・」
そんな嬉しそうな顔で
誰だ、それ。
「あっ、マルコお前メシんときくらい仕事切り上げろよ!別にすっとめんどくせぇんだよ!」
「コーヒーよこせ」
「・・・てめぇ、」
明日南蛮チキンにしてやる、などとぶつぶつ言いながらも用意を始めるサッチをなんともなしに見ていると、突然そいつがおおーうと突飛な声を発した。
「なんだよい、」
「お前今日アンこっぴどく叱っただろ」
「・・・それが」
サッチは下がり気味の眉をくしゃりと歪めて笑う。
「アンの上だけ曇天だった」
「なんだいそりゃ」
「やべぇよ、あの落ち込みよう」
ふわりとカレーの匂いが漂う。
サッチはカレーのプレートとコーヒーを俺の前に置いた。
「・・・カレーいらん」
「お前昼も食ってねぇだろ」
「代わりにアンが食うからいいんだよい」
「はっ、一心同体ってか」
「てめぇリーゼントすり潰してやろうかい」
悪態つきながらもオレはスプーンを手に取る。
カレーだから・・・今日は何曜日だ?と海軍のようなことを考えた。
「慰めてこいよ」
「・・・甘やかしてどうする」
「アメとムチっつーだろ?」
「・・・別にオレはムチ打ったつもりはねぇ」
「ちょ、そのセンテンス危なく聞こえる」
「てめぇほんとに死んでこいよい」
かっこむようにカレーを腹に収め、コーヒーをすする。
オレの罵声を浴びても、サッチはいまだニヤニヤとオレの前に座った。
「気分の悪ぃ笑いかたすんじゃねぇよい、てめぇもうどっかいけ」
「メシだけ作らせて!?」
ひどいっっとひとしきり叫ぶサッチを尻目に、はたと思い出した。
「・・・そういやあいつ、まだ始末書出してこねぇ」
しまつしょぉ?とサッチが間延びした声を出す。
「昼間のだよい。あいつさっさと書けっつったのに」
「アンなら二番隊の奴らに支えられながら大部屋行ったぜ。慰め会でもすんじゃね」
「・・・ったく」
まったく不本意ではあるものの、オレは始末書の催促のために腰を上げた。
「あんま怒ってやんなよ」
「・・・ほっとけ」
二番隊の大部屋の戸を開けると、むんと男臭さと酒臭さが鼻をついた。
「あ、マルコたいちょ、」
「アンの奴いるかい」
「そこに」
隊員が指差す先には、床に仰向けに転がり真っ赤な顔で伸びるだらしない姿。
近づき、つま先でとんとわき腹を突くとううんと唸った。
「おいアンてめぇ始末書、」
「・・・マル、コ・・・ごめ、」
完全に酒に飲まれたらしいアンは、何度もごめんと口にした。
「・・・あの、マルコ隊長、」
振り返れば、数人の二番隊隊員。
「昼間はすんません、オレが言い始めたことなんです。だから、その、あんまりアン隊長を・・・」
「・・・わかってるよい」
「始末書は俺が書きますから」
「・・・いや、それはアンにやらせる。お前らあんまりこいつ甘やかすんじゃねぇよい」
しゃがみこみ、熱くなった肩を揺する。
「おい、アン起きろ」
「・・・うぅん・・・ごめ、マル・・・」
「もう寝かせといてやってくださいよ」
「・・・つってもねい、ここで寝かすわけにも、」
「なんでっすか?」
きょとんと小首をかしげる隊員たち。
「なんでって、ここ大部屋だろい」
「なんで大部屋だと駄目なんすか?」
そろってさも不思議そうな顔をする。
・・・まさかとは思うが、
「・・・アンの奴、よくここで寝るのかい」
「え、ああはい。酒盛りのときはいつも」
それがなにか?といわんばかりの顔つきで隊員は俺を眺める。
片やオレはと言うと、始まった頭痛に頭を押さえるばかり。
船に女を乗せてはいけないなどという古臭いことを言うつもりはさらさらない。
女でさえ海賊家業をする時代だ。
だが男ばかりの船に乗った女と言うのは、海の上でたまりにたまった男の性欲のはけ口になりかねない。
この船のナースはオヤジのために命を張った女ばかりだから、誰も道義に外れた行為を致そうとはしない。合意の上でなら別だが。
だがアンは、違う。
こいつに手を出そうなどと言うう大バカ者(または勇者)はそうそういないが、今夜のオカズにでもされていようものならたまったもんじゃない。
「・・・間違いは、なかったんだろうねぃ」
「まちがい?」
きょとんと小首をかしげる野郎ども(気味が悪い)は、本気で意味がわかっていないらしい。
なんだここは少年村か。なんだそりゃ。
「・・・もうここでアンを寝かすんじゃねぇよい」
「? うーっす・・・?」
いまいち切れの悪い返事をした隊員たちを尻目に、アンの肩を揺さぶった。
「おい、アン起きろ。部屋に戻れ」
「・・・んぅ・・・」
「・・・ったく、」
ぐいと腕を引っ張り上体を起こさせ、その脇に手を入れて持ち上げる。片腕に座らせるようにすると、だらんと肩から背中にアンの腕が垂れ下がった。
おおーう、と男どもから感嘆の声が漏れる。
「・・・なんだよい」
「いや、その滑らかな動作、いいっすね」
「やっぱマルコ隊長しかいないっすよ、アンの世話」
「・・・ふざけたこと抜かしてねぇでさっさと寝ろ」
「うーっす」
よいせとアンを抱え直し、オレはアンの部屋へと足を進めた。
足で扉を開け、無秩序な部屋へと足を踏み入れる。
そのままベッドにアンを落とすとううんと唸って猫のように背中を丸めて横になった。
「おいアン、始末書、」
なんとなくもうどうでもいい気がしてこないでもなかったが、一応事務的に聞いてみるとゆるゆるとアンの腕が上がり部屋の中にひとつあるデスクを指差した。
(・・・聞こえてんじゃねぇかい)
ぺらりとそれを手に取り、アンを脇にどけてベッドに腰掛ける。
紙の上にはミミズが数匹のたうち、ところどころ濡れてから乾きました的な痕があった。
「・・・ったく、」
ちらりと寝転がるその顔を見やると、頬の紅潮に混じって目の下もうっすら赤い。
怒られて泣くとかガキか。いやガキだ。
感情表現もろくにできなかったころを思うとまァマシかとも思うが。
「寝坊すんなよい」
沈めていた腰をふっとあげたが、くんと別の力がそれを引きもどした。
「おわっ、」
再びぼすりとベッドに沈む。
振り返るとむにゃむにゃと口元を動かすアン。
その手がしっかりとオレのシャツの前裾を握っていた。
「・・・おいっ、離せよいっ」
「・・・マル・・・」
ぎゅっと赤ん坊並の握力で握りしめられ、指に手をかけるがほどけやしない。
「・・・帰れねェだろ、」
「・・・ら、ないで・・・」
小さく口元を動かし何かを呟いている。
考えなしにそこに耳元を寄せると、今度ははっきりと届いた。
「・・・嫌いに、ならな・・・で・・・」
ふにゃりと歪んだ眉が今にも泣き出しそうに震えている。
酒のせいだとわかってはいるが、なんとなくいたたまれない感じになった。
・・・いやなんでオレが、
(・・・可愛い・・・)
・・・ちょっと待て違う違う、今日悪いのはこいつのほうで、
(・・・腕、ほっそいねい・・・)
・・・っんなことどうでもよくて、オレはまだ仕事が、
(・・・このまま寝たら風邪引くかねい・・・)
・・・そうじゃなくて、ああ、もう、疲れた・・・
数分葛藤に悶えるようにひとりベッドの上で頭を抱えていたらしいオレは、諦めてばたりとベッドに倒れ込んだ。
・・・シャツ、脱ぎゃいい話じゃねぇか・・・
気付いたものの、もういいんだもう寝転んだから知らんと、気付かないふりをした。
肩を押してアンをベッドの端に寄せ、自らもその隣に横たわる。
アンはオレのシャツを握ったままもぞもぞと動くと、本能か温もりを求めるようにすりよってきた。
ぴたりとアンの顔が鎖骨辺りにくっつき、くふくふと鼻を鳴らす。
・・・寝てると、本物のガキだな…
そばかすの散った顔はさらにあどけなく、顔にかかった髪を払ってやるとふるりと震えた。
「…ルコ…、」
再びオレの名を零した口に、ぐっと胸の奥辺りが鷲掴まれる。
隊長として、100人の命を背負うにはあまりに小さすぎる。
だがその力量が外からは見えないところに備わっている。
むしろその重みに耐えることが必要なのかもしれない。
(・・・甘やかしとかじゃねぇよい・・・)
甘やかすならそれ専属の奴らがいる(二番隊とかオヤジとかオヤジとか)。
だが今ぐらいなら、と柔らかな頬に手を伸ばしたそのとき、ふっとアンの顔に笑みが浮かんだ。
「・・・ルフィ・・・」
そんな嬉しそうな顔で
誰だ、それ。
一万打企画
・リクエスト
しあわせなら手を繋ごう min様 (サンナミ/マルアン/麦わら)
馬鹿馬鹿しいけど愛してる リン様 (白ひげ+サッチ)
匿名様 (まることおふろ!続編)
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・一万打にかこつけてみんなで愛しちゃえよ、アン
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今日はまた別の日* (1/1)
白ひげ海賊団×アン (complete!)
我等が父は最強 (可愛い妹のためにみんながどったんばったん)
Please kiss me!① (みんながアンちゃんにキスを迫るお話)
Please kiss me!②
Please kiss me!③
Please kiss me!④
Please kiss me!⑤
Please kiss me!⑥
Please kiss me!⑦
Please kiss me!⑧
Please kiss me!⑨
Please kiss me!⑩
サッチ×アン (complete!)
ゲームオーバー (もろサチアン)
利害一致ってヤツ (サッチと馬鹿じゃないアン)
Please kiss me!⑪
世界は終末を迎え、そして始まる (マルアン連載を通してのサチ→アン)
イゾウ×アン (complete!)
燻る紫煙とともに煽れ (マルアン前提)
アンケ結果
1.もちろんマルコ (11p)
1.もういっそみんなで愛してしまえ(11p)
3.サッチ(4p)
4.イゾウ(3p)
5.その他(1p)
マルアンですが原作通りの未来です。
顔を寄せて、隠れるように笑い合う姿を知っている。
目を伏せるその瞬間まで、互いを捉えていることを知っている。
触れあったそのとき、柔らかくなる顔を知っている。
彼女は彼をとても信じていたし、彼は何より彼女を思っていた。
また、誰もにとって、彼らは大切だった。
周縁はかく言う
戦火は小火のようにちろちろと、ところどころでくすぶっているのみとなった。
黒く立ち上る硝煙のにおいと、生臭い人の血で鼻の奥がツンと痺れる。
海賊も、海軍も、多くが傷ついた。
生きるものはただ心臓が動いているというだけで、地面に横たわる死んだものと大した違いがみられない。
誰もが亡霊のように、黙々と、いっそ清々しいほど沈黙に浸って作業を繰り返している。
まだ亡霊の方が、未来のないぶん活気があるかもしれない。
未来があるというのは、今このときに関しては苦痛でしかなかった。
多くを失った未来。
先の見えない不安はいつだってある。
ただこのときだけは、その不安が何よりも濃く重く、誰もの胸にのしかかっていた。
広場の中心に、すすけた白い布が掛けられた部分がある。
ざわざわと遠慮がちな喧噪の中、灰色の石畳の上にぽっかりと浮かび上がった白は目立っていた。
誰もが一瞬そこに目を留めるが、すぐに目を逸らす。
気を抜けば零れ落ちる涙は作業の邪魔であった。
海賊とは、命を懸けた稼業である。
命を賭け、自由を得て、時には人のしあわせも奪い、できることなら自分も幸せになりたいと、そういうものである。
そのためには命が失われていく場面に遭遇することは珍しいことではない。
むしろ、何かの命を奪ったことのない海賊の方が少ない。
では海賊は軽々しく生きているのかと問われれば、けしてそうではなかった。
少なくとも今この広場にいる海賊たちは、そうではなかった。
できることなら生きたい。
できることなら生きてほしい。生きてほしかった。
白い布の周りには、それを囲むようにぽつぽつと人が立っている。
彼らはこの広場で数時間前まで繰り広げられていた闘いの、最前線に立っていた者たちである。
彼らはうつむきがちに肩を寄せ合い、何事かを相談し合う。
彼らの口から発せられる言葉は重たい瘴気をはらんでいるように見えた。
体内で生成されたわけではないその瘴気は、この広場中に蔓延していて、彼らはそれを闘いのさなかに吸ってしまったのである。
それを今、少しずつ吐き出していた。
男が一人、白い布に近づいた。
歩み寄った彼の足元は、白い布の奥からしみ出す黒々とした液体で濡れている。
男は布で包み込むように、その下に隠されていた身体を持ち上げた。
黒い頭が見えた。
埃で髪の色がくすんでいる。
男は動かない体の上半身をゆっくりと縦に起こした。
動かない体は座りが悪かった。
胸の半分がえぐれているので、バランスが悪い。
ぐずぐずと溶けた胸から、いまだ血が滴っている。
男はその血を掬うように、これ以上冷たい石畳に落ちてしまわないように、白い布をきつく巻いた。
男はその、座りの悪い、ぐずぐずと胸の溶けた、死んだ身体を布の上から抱きしめた。
男の背後にいる者からは、彼の肩から覗く小さな顔が、まるで生きているように見えた。
生きて、抱きしめられ、そのぬくもりに身を預けて目を閉じているように見えた。
口の端に滲む血さえ拭ってあげられれば、そうであってもおかしくなかった。
男は細い肩に顎を乗せ、力の入らない首に顔をうずめ、じっとしていた。
膝をついた彼の服には、布の下からしみ出した血が、黒く染みわたり始めていた。
白い布で巻き込まれた身体から、腕が伸びてくることはない。
伸びた腕が彼の背中に回されることもない。
白い布の下で、力なくだらりと垂れているに違いない。
本当は誰もがそうしたかった。
男がしたように、動かない体を立たせ、抱きしめ、頬を寄せたいと思っていた。
ただ今は、そうすることができるのは一人の男しかいなかった。
彼だけが生きた身体にもそうすることができたからだ。
顔を寄せて、隠れるように笑い合う姿を知っている。
目を伏せるその瞬間まで、互いを捉えていることを知っている。
触れあったそのとき、柔らかくなる顔を知っている。
そのすべてが、今白い身体を抱きしめる彼の姿に重なった。
力なく目を閉じるその顔が、今にも黒く光る瞳を覗かせ、いたずらっぽく笑うのではないかとか。
筋の通った鼻先を彼のそれに近づけて微笑むのではないかとか。
色のない唇にも、頬にも、花のような色が散るのではないかとか。
そして今にも白い歯を見せて、彼の名を呼ぶのではないかと。
男は埋めていた顔を持ち上げて、正面から目を閉じた小さな顔を見つめた。
左の腕で抱きとめるようにして動かない体を支え、空いている方の手で、彼女の頬に触れた。
そこにいる誰もがそうして欲しいと思っていた通り、男は親指で、ゆっくりと、彼女の口元を汚していた褐色の血を拭ってくれた。
彼の指圧が彼女の動かない頬をほんの少し動かした。
彼の指の動きが、ほんの一瞬だけ彼女の口角を上げたのである。
そのたった一瞬に、彼女のすべての笑顔が、底抜けに明るい笑顔が垣間見えた。
彼女が笑っている。
大きな口を開けて、何も隠すものなどないというように、あけっぴろげな顔をして笑っている。
両側の頬を膨らませて、大好きな食べ物を頬張って、嬉しそうに目元を緩ませている。
強気な黒目にいたずらな光を宿して、不敵に口の端を上げている。
彼女が笑っている。
きっとそれだけでよかったのだろうと、広場にたたずむ海賊たちはぼんやりと思った。
取り返したかったのはそれだけだ。
男の口がわずかに開いた。
乾いた木枯らしのような息の音に、ほんのすこしの言葉が混じった。
名前を呼んだ。
彼女は目を閉じている。
答えることはない。
微笑んだまま目を閉じる彼女は口を開けない。
もう一度、男が言葉を落とした。
「帰ろう」と言った。
*
男が彼女に、好きだとか、愛しているだとかを言っているのを聞いた者はいないだろう。
一方彼女は人目もはばからず、盛大に彼へ思いのたけをぶつけていた。
その温度差は一見傍観者をひやりとさせるが、実際の温度に大して違いはなかったはずだ。
彼女は彼をとても信じていたし、彼は何より彼女を思っていた。
顔を寄せて、隠れるように笑い合う姿を知っている。
目を伏せるその瞬間まで、互いを捉えていることを知っている。
触れあったそのとき、柔らかくなる顔を知っている。
二度とみることのないふたりの姿は、硝煙の舞う石畳の上に冷たく横たわったまま、いつまでも残像のようにまぶたの裏に焼き付いている。
顔を寄せて、隠れるように笑い合う姿を知っている。
目を伏せるその瞬間まで、互いを捉えていることを知っている。
触れあったそのとき、柔らかくなる顔を知っている。
彼女は彼をとても信じていたし、彼は何より彼女を思っていた。
また、誰もにとって、彼らは大切だった。
周縁はかく言う
戦火は小火のようにちろちろと、ところどころでくすぶっているのみとなった。
黒く立ち上る硝煙のにおいと、生臭い人の血で鼻の奥がツンと痺れる。
海賊も、海軍も、多くが傷ついた。
生きるものはただ心臓が動いているというだけで、地面に横たわる死んだものと大した違いがみられない。
誰もが亡霊のように、黙々と、いっそ清々しいほど沈黙に浸って作業を繰り返している。
まだ亡霊の方が、未来のないぶん活気があるかもしれない。
未来があるというのは、今このときに関しては苦痛でしかなかった。
多くを失った未来。
先の見えない不安はいつだってある。
ただこのときだけは、その不安が何よりも濃く重く、誰もの胸にのしかかっていた。
広場の中心に、すすけた白い布が掛けられた部分がある。
ざわざわと遠慮がちな喧噪の中、灰色の石畳の上にぽっかりと浮かび上がった白は目立っていた。
誰もが一瞬そこに目を留めるが、すぐに目を逸らす。
気を抜けば零れ落ちる涙は作業の邪魔であった。
海賊とは、命を懸けた稼業である。
命を賭け、自由を得て、時には人のしあわせも奪い、できることなら自分も幸せになりたいと、そういうものである。
そのためには命が失われていく場面に遭遇することは珍しいことではない。
むしろ、何かの命を奪ったことのない海賊の方が少ない。
では海賊は軽々しく生きているのかと問われれば、けしてそうではなかった。
少なくとも今この広場にいる海賊たちは、そうではなかった。
できることなら生きたい。
できることなら生きてほしい。生きてほしかった。
白い布の周りには、それを囲むようにぽつぽつと人が立っている。
彼らはこの広場で数時間前まで繰り広げられていた闘いの、最前線に立っていた者たちである。
彼らはうつむきがちに肩を寄せ合い、何事かを相談し合う。
彼らの口から発せられる言葉は重たい瘴気をはらんでいるように見えた。
体内で生成されたわけではないその瘴気は、この広場中に蔓延していて、彼らはそれを闘いのさなかに吸ってしまったのである。
それを今、少しずつ吐き出していた。
男が一人、白い布に近づいた。
歩み寄った彼の足元は、白い布の奥からしみ出す黒々とした液体で濡れている。
男は布で包み込むように、その下に隠されていた身体を持ち上げた。
黒い頭が見えた。
埃で髪の色がくすんでいる。
男は動かない体の上半身をゆっくりと縦に起こした。
動かない体は座りが悪かった。
胸の半分がえぐれているので、バランスが悪い。
ぐずぐずと溶けた胸から、いまだ血が滴っている。
男はその血を掬うように、これ以上冷たい石畳に落ちてしまわないように、白い布をきつく巻いた。
男はその、座りの悪い、ぐずぐずと胸の溶けた、死んだ身体を布の上から抱きしめた。
男の背後にいる者からは、彼の肩から覗く小さな顔が、まるで生きているように見えた。
生きて、抱きしめられ、そのぬくもりに身を預けて目を閉じているように見えた。
口の端に滲む血さえ拭ってあげられれば、そうであってもおかしくなかった。
男は細い肩に顎を乗せ、力の入らない首に顔をうずめ、じっとしていた。
膝をついた彼の服には、布の下からしみ出した血が、黒く染みわたり始めていた。
白い布で巻き込まれた身体から、腕が伸びてくることはない。
伸びた腕が彼の背中に回されることもない。
白い布の下で、力なくだらりと垂れているに違いない。
本当は誰もがそうしたかった。
男がしたように、動かない体を立たせ、抱きしめ、頬を寄せたいと思っていた。
ただ今は、そうすることができるのは一人の男しかいなかった。
彼だけが生きた身体にもそうすることができたからだ。
顔を寄せて、隠れるように笑い合う姿を知っている。
目を伏せるその瞬間まで、互いを捉えていることを知っている。
触れあったそのとき、柔らかくなる顔を知っている。
そのすべてが、今白い身体を抱きしめる彼の姿に重なった。
力なく目を閉じるその顔が、今にも黒く光る瞳を覗かせ、いたずらっぽく笑うのではないかとか。
筋の通った鼻先を彼のそれに近づけて微笑むのではないかとか。
色のない唇にも、頬にも、花のような色が散るのではないかとか。
そして今にも白い歯を見せて、彼の名を呼ぶのではないかと。
男は埋めていた顔を持ち上げて、正面から目を閉じた小さな顔を見つめた。
左の腕で抱きとめるようにして動かない体を支え、空いている方の手で、彼女の頬に触れた。
そこにいる誰もがそうして欲しいと思っていた通り、男は親指で、ゆっくりと、彼女の口元を汚していた褐色の血を拭ってくれた。
彼の指圧が彼女の動かない頬をほんの少し動かした。
彼の指の動きが、ほんの一瞬だけ彼女の口角を上げたのである。
そのたった一瞬に、彼女のすべての笑顔が、底抜けに明るい笑顔が垣間見えた。
彼女が笑っている。
大きな口を開けて、何も隠すものなどないというように、あけっぴろげな顔をして笑っている。
両側の頬を膨らませて、大好きな食べ物を頬張って、嬉しそうに目元を緩ませている。
強気な黒目にいたずらな光を宿して、不敵に口の端を上げている。
彼女が笑っている。
きっとそれだけでよかったのだろうと、広場にたたずむ海賊たちはぼんやりと思った。
取り返したかったのはそれだけだ。
男の口がわずかに開いた。
乾いた木枯らしのような息の音に、ほんのすこしの言葉が混じった。
名前を呼んだ。
彼女は目を閉じている。
答えることはない。
微笑んだまま目を閉じる彼女は口を開けない。
もう一度、男が言葉を落とした。
「帰ろう」と言った。
*
男が彼女に、好きだとか、愛しているだとかを言っているのを聞いた者はいないだろう。
一方彼女は人目もはばからず、盛大に彼へ思いのたけをぶつけていた。
その温度差は一見傍観者をひやりとさせるが、実際の温度に大して違いはなかったはずだ。
彼女は彼をとても信じていたし、彼は何より彼女を思っていた。
顔を寄せて、隠れるように笑い合う姿を知っている。
目を伏せるその瞬間まで、互いを捉えていることを知っている。
触れあったそのとき、柔らかくなる顔を知っている。
二度とみることのないふたりの姿は、硝煙の舞う石畳の上に冷たく横たわったまま、いつまでも残像のようにまぶたの裏に焼き付いている。
板作りの床にぺたりと座り込む。
冷えた感覚がゆっくりと下から登ってきた。
この部屋に広がる暗闇の様に、それは丸ごとあたしを包んだ。
このまま、溶け込んでしまえれば。
どんなにか楽だろう。
常に押し寄せてくる痛みも、哀しみも、全部ここに残して旅立つ。
沈下
徐に手を伸ばし、床の木目を撫でるとそこはまだしっとりとしているような気がしないでもない。
でもさすがにもう一日立ってしまったから、それは気のせいだろう。
色の違う、その場所。
消えることなく、この家のひとつの歴史としてそこにあり続けるのだろう。
顔を上げ、部屋を見渡す。
乱れたベッドはこの部屋の主が昨日まで使っていた証。
開けたままの書類は次に書かれる文字を待っている。
乱雑に積まれた雑誌はこのまま埃をかぶってしまうんだろうか。
「…アン」
音もなく、あたしの背後にマルコがいた。
気配にも気づかないほど、あたしはこの部屋の空気に沈んでいた。
それともすでにあたしのどこかは壊れてしまったんだろうか。
「…そんなとこに座ってると、身体冷えるよい」
ねぇマルコ、忘れちゃったの?
あたし、炎なの。
寒くなんかないんだよ。
寒くなんか、
それともマルコも壊れちゃったんだろうか。
「…サッチがいないの」
開いたままの窓から流れ込んだ風がカーテンをはためかせる。
あたしの髪も小さく揺れた。
「どうしよう、サッチがいない」
「アン、」
「いないの、もう、全部、何も、ない」
「…オレがいる、」
後ろから抱き込んできた温度はひどく冷たくて、あたしの冷たさと同調して溶け込んでくる。
「まだオレがいるよい」
そうだね。
まだマルコがいたね。
でも、サッチはいないの。
もう、いない。
へにゃりと緩んだ目元も
笑うたびに引きつる目の上の傷も
毎日気合とともに作り上げられるリーゼントも
だいすきな料理をあっという間に作ってしまう乾いた手のひらも
もう、全部、全部。
もう、全部、全部。
身体を反転させ、その身体に沈み込む。
いつもの匂いがあたしの心をどこまでもさらっていった。
「大丈夫だ」
サッチは帰っただけだ、だから大丈夫だと。
小さくあたしをゆすりながら穏やかな言葉が紡がれる。
「…でも、サッチはひとりだよ…淋しいよ…」
「あいつは強いから大丈夫だよい」
「…でもきっと寒いよ…サッチ寒いの嫌いだもん…」
「お前が照らしてやれば大丈夫だよい」
マルコはそう言うけど、届かない。
届かないよ。
それくらい遠くに、サッチは行ってしまった。
「…あ、ああっ…!」
黒い闇が、白い無が、侵食する。
すがりつくように目の前のシャツを掴むと、飛んで行ってしまいそうなあたしを繋ぎとめるようにさらに強い力が締め付けた。
「ああっ…!…サッ、チ…!」
「大丈夫、大丈夫だ」
あたしをゆっくり、ゆっくりと闇から引っ張り上げてくれるマルコは、強い。
その証拠に、顔を上げるとあたしを見下ろしたその口元は緩い弧さえ描いていて。
やっと気づいた。
マルコは絶対的に強いんじゃない。
弱いあたしがいるから、強くなければと自分を保っている。
彼は自分より弱い者がいる限り、それを守るために自分の強さを崩さない。
そんな人だ。
サッチ。
サッチの無二の親友は、仲間は、兄弟は、サッチに似て優しすぎたよ。
「…マルコ…泣いてる」
「…馬鹿言え。オレは泣いてねぇだろい」
「泣いてるよ」
痛いいたいイタイと、悲鳴を上げる心が聴こえる。
それは紛れもなくマルコの、
「マルコには、あたしがいるよ。あたしは絶対、どこにもいかない」
ぎゅっと、怒ったように眉根を寄せたマルコはさらにあたしを抱き寄せた。
「…もう、信じねぇよい…信じられるか、そんな言葉」
「信じて、あたしは」
「嘘だ。お前もいつかいなくなる」
「ならない。あたしはマルコを置いてなんかいかない」
「嘘だ…っ、嘘だ…!」
子供のように首を振ったマルコは、あたしの肩に噛み付く勢いで顔を沈めた。
「大丈夫。あたしがいるよ」
「…っ、」
あたしからぼろぼろと零れる液体はマルコの首筋を伝いシャツ一枚羽織っただけの背中を滑り落ちて行く。
あたしの背中は、マルコのそれが濡らしていった。
だけどあたしはそれをどこまでも気付かないフリをする。
互いに騙して、欺き合って、痛みをすり抜けようともがいていた。
この家族に落ちた大きな闇を、失った平和を、消えることのない黒い歴史を。
残されたあたしたちは救われない。
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