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「ある冬島ではね。明日、12月24日はクリスマスイブというの」
「クリス・・・って、なんだそりゃ?」
「昔から伝わるお祭りのようよ。25日がクリスマス。で、前日がクリスマスイブ」
どうかいつまでも清らかに
夜ご飯を食べながらのことだった。
オレは今日のシチューがいつもより美味しい気がして、サンジのところにおかわりを貰いにいっているときだったから、ロビンの話を聞き逃さないように慌てて席へと戻る。
「この日はね、聖なる日と言われていて、大切な人に愛を語らう日なのよ」
「へぇ、ロマンチック」
「でしょう」
ふふ、とナミとロビンが顔を見合わせて笑いあう。こういうときのふたりは綺麗で可愛くて、好きだ。
サンジが少しそわそわしてるのは気のせいじゃないと思う。
「それだけではなくてね、クリスマスには子供たちの元に素敵なプレゼントがやってくるのよ」
「ぷれぜんとぉ?」
「そう。サンタクロースといってね、私も本の挿絵で見ただけなのだけど。赤い服を着て白いひげを生やしたおじいさんなの。そりにたくさんのプレゼントを積んでね、そう、そのそりはトナカイさんが引くのよ」
「えっ、オレ!?」
「あんたじゃないでしょ」
トナカイがそんな役を引き受けていたとは。オレも鼻が高い。
「なんだその、サンタクロースって奴は慈善事業でもしてるのか」
「そうね、よくはわからないけど・・・夜子供たちの枕元に吊るされた靴下の中にプレゼントを入れていってくれるんですって」
「なんだサンタ・・・って、めっちゃいい奴じゃねえか!!!」
ルフィはそう器用に叫び、口の中のものをごきゅんと呑み込んだ。
「サンター!!オレにもプレゼントをくれー!!肉がいいぞー!!」
「オレは追加用の火薬が欲しいぜ!」
「オレァ新しいフライ返しが欲しい。焦げ付いてきた」
「はん、てめぇの欲しいモンを人に頼むなんざするもんじゃねぇぞクソコック」
「んだとこの芝生がァ」
あ、また始まった。
「私は部屋用のコーヒーメーカーが欲しいわ」
「金金金」
・・・ナミ、
苦笑していると、いつのまにか全員の視線がオレに集まっていた。
「で、チョッパーは?」
「・・・え、オレ?欲しいもの?」
うんうんと皆が一様にうなずく。
うーん、欲しいもの、欲しいもの・・・新しい本はこの前の島で買い置いたからまだたくさんあるし・・・薬品も切れていない。オレはみんなみたいに着ているものも多くないわけだし、飾るものは必要ない。
「へへ、オレは今ないや」
えー!!とルフィが叫ぶ。もったいねぇじゃねぇかとウソップ。
え、だってサンタクロースって一人なんだろ?それでいろんな子供のところを回るんだろ?そんな忙しい人がオレの所に来るはずがない。ましてやオレはトナカイだ。配る側なんだ。
「まあ、チョッパーらしいけどね」
その物欲のなさ、とナミが紅茶をすすった。
そのあとはルフィが紙に『肉肉肉』とたくさん書いて、届くようにと海に流していた。
サンタに届くといいな、ルフィも、皆のも。
オレはかちりと小さなランプを消した。
この男部屋で起きているのはもうオレだけだ。あちこちでいびきの大合唱が鳴り響く。
オレは読んでいた医学書を本棚に戻してハンモックへと飛び乗った。
船の揺れにあわせるように揺れるこの寝床にもだいぶ慣れた。
・・・あともう少しで、クリスマスイブ。
・・・それから、おれの・・・
ううん、いいんだ。そんなことは。明日はもっとすごい日なんだから。聖なる日なんだから。
そう頭の中で繰り返しながら、オレは眠りへと落ちていった。
・・・ッパー、チョッパー、
「・・・ん・・・何・・・」
かすかに俺を呼ぶ小さな声に引かれるように瞼を上げる。部屋は薄明るく、明け方だとわかった。目の前にはロビンが。
「おはよう」
「・・・ん、おはようロビン・・・何かあっ・・・」
ロビンの細長い指がおれの口を閉ざす。ロビンは微笑んだままオレにハンモックから降りるよう示した。
言われるがまま降りると、そのまま手を引かれる。
「???」
わけがわからずロビンに促されて男部屋のドアをあけた。
アレ、そういえば部屋に誰もいない。みんな朝が早いなあ。
「誕生日おめでとう、チョッパー!!!」
ぼんやりとした朝日の中、似合わないほど軽快な炸裂音と歓声。目の前で花火が上がり、オレの顔をかたどる火花が散った。
「・・・え?」
目をしばたかせるオレに、ウソップが呆れるように笑った。
「おいおい、自分の誕生日も忘れちまったのか」
え、誕生日…?ああそうだ、今日はオレの… でも、でも、昨日そんな話一度もしなかったじゃないか。昨日はみんなでクリスマスの話をして、オレの誕生日の話なんて、
「まったく、本当に欲がないんだから」
信じられないわ、とナミが呟く。
ぐるりとオレを囲むようにみんなが立っていて、背の高いみんなを見上げるようにすると朝日が目に入ってすごく眩しい。まだ、今の状況に頭がついていかないみたいだ。
「はい、私からはこれを」
ロビンが艶やかな紫のリボンを結んだ本を差し出してくれた。それはずっしりとオレの手になじむ。
「…これ…」
「以前から持っていたものだけど、医学について興味深いことがたくさん書いてあるのよ」
ふわりと古い紙の匂いが香る。それはロビンの匂いでもあった。
「…ありがとう」
「オレからはこれだっ」
そうウソップが差し出したのは、透明な酒瓶。…あれ、中に何か…
それを受け取って驚いた。すげぇっ!!
「瓶の中に船が入ってる!」
「へへ、すげぇだろ、ボトルシップっていうんだぜ」
瓶の中にはマストが何本も立つ船が、細かいところまでしっかりと組立てられている。
あれ、でもこの船見たことがないけど。そう口にすると、ウソップが誇らしげに腕を組んだ。
「よく見てみろ」
促されるまま視線を落とし船を見る。 …海賊旗がある。 …凛々しい髑髏と、その回りに散るピンク。
この旗は…
「…ドクターの…」
「お前が掲げる髑髏は麦藁海賊団のだけどな」
この旗はお前の信念だから、お前とお前のオヤジさんだけのモンだ、と。
忘れたことなんかなかった。いつもオレは心の中でこの旗に助けられていた。それが今、目の前にある。
「…ありがとう、ウソップ」
「あたしはあげるものが何もなかったから、あんたの今までの借金全部チャラにしてあげるわ」
そう言って、ナミはとんとオレの額を小突いた。ナミがお金に関して寛容になってくれるなんて。恐ろしくていくら貯まっているのか聞けないほどだったのに!
「ありがと、ナミ」
「それだけじゃないのよ」
そういってナミが顔を向けたほうを見遣ると、サンジが大きな台車を引いてきた。その上には、鮮やかにみかんが盛られたオレの背よりも大きなケーキ。
「…う、わあ…」
「オレからはこれ。変わり映えねぇけどオレには料理くらいしかねぇからな。みかんはナミさんから。このケーキのために30個もくれたんだぜ!」
そうなの?とナミを見上げると、すごく優しく笑ってくれた。
「サンジ、ナミ、ありがとう。みんなで食べたら食べ切れるよなっ」
「おいチョッパー。オレァお前にやるもんがねぇ」
そう言ってゾロは決まり悪そうに頭を掻いた。
「そんなのいいよ、ありがとな」
「ああ、だからチョッパー、一緒に風呂入っぞ」
風呂?意図が掴めずに首を傾げると、ゾロは少し口端を上げた。
「背中流してやる」
「え…いいの?」
当たり前だろ、と小突かれた。未来の大剣豪に背中を流させるなんて!
「…へへ、ありがとゾロ」
「チョッパー!!」
大きく澄んだ声が甲板に響く。ケーキをつまみ食おうとしてサンジに愛のキックをくらったルフィが頬を痛々しく腫らして叫んだ。
「今日一日、この船はお前のもんだ!!好きにしていーぞー!」
オレからのプレゼントだ!!
そう言って、にしし、と笑った。
じわり、じわりと温かな気が滲む。数年前のオレは知らなかった、すごく素敵なこと。
「…ありがとう…ルフィ、みんな」
ぐじゅ、と鼻がなってしまった。やっぱりオレは肝心なところで締まらないんだ。
やあね泣かないでよ、とナミに呆れられた。
クリスマスである明日には、ドクトリーヌに手紙を書こう。
オレのところには、サンタが6人もやってきたんだって。
チョッパーハッピーバースデー!!
マルコに、怒られた。昨日もその前も、怒られてたんだけどさ。
前までは、つまりあたしがマルコを好きだとか言い出す前は、ちょっと抱き着くくらいじゃ怒らなかったのに。
最近じゃ背後から忍び寄るだけで気付かれて、逃げられるか怒鳴られる。
あんな長い足でたったかと歩かれたら追いつけるわけがない。
なんだろう、この空回り感。
一方通行なのは初めからわかっていたのに、欲張りすぎたんだろうか。
気付かずに、ずっとマルコはあたしの兄ちゃんでいてくれたほうがあたしにとってもマルコにとってもよかったんだろうか。
めずらしく、後悔というものがちらりと頭をよぎった。
不意に、頭の上にずんと重みがかかる。
「サッチ」
「また怒られたのか。懲りねぇなあ」
サッチはあたしの頭に顎を置いたままそう言って、からからと笑う。
マルコの背中を見ながらそう言うから、一瞬まるでマルコに言っているように聞こえた。
「…マルコは、あたしのこと嫌いになっちゃったのかなあ」
そう呟くと、サッチはあたしの頭から顎を離して顔を覗き込み、緑色の目を子供のように丸くした。
「アンにしては弱気な発言じゃねぇか」
「あんまりマルコが嫌がるから」
「…んん、まあ。本気で欝陶しがってるのは確かだな」
わかってはいたけど、はっきりとそう示されると、さすがに気が沈む。
サッチがくしゃりとあたしの髪を撫でた。
「よし、可愛い妹のためにもここは兄ちゃんがアドバイスをくれてやろうじゃないの」
「…ほんと?」
サッチは得意げに鼻の穴を膨らませて、アンの背に合わせるように少し腰をかがめた。
「あのな、男っつーのは追い掛けられると逃げたくなるもんなんだ」
「そうなの?」
「そうなの。アンは追い掛けてばっかりだろ?だからマルコは逃げるんだ」
「なるほど」
画期的で、かつその通りに聞こえた。
「だからな、アン、今日は追い掛けるのやめろ」
「え」
「急にアンが迫ってこなくなったらマルコが心配するだろ?今度は逆にマルコが追い掛けてくれるぜ」
マルコが、あたしを?
想像してみたが、想像力が乏しいのか非常にぼんやりとしている。
しかし今の状況より良いことは確かだ。
サッチすごい!と称えると、サッチは誇らしげに笑う。
「さ、実践実践」
「よっしゃ」
*
食堂の戸を開けると、ふわりと食べ物の匂いが全身を包む。
クルー達が昼食をかきこんでいるテーブルの間を進んでいくと、あちこちから遅かったじゃねぇかと声がかかった。
あたしとマルコとサッチは、同じテーブルに座ることが多い。
別にジョズや他のクルーと食べたいときだってある、決まっているわけじゃない、毎日というわけじゃない。
でももう今は、マルコの隣で食べたいと素直な思いが形になっている。
(…いた。)
四角いテーブルに、マルコとサッチが向かい合って座っていた。
いつもならあたしは食事中のマルコの背中に飛び付いて、ひとしきり愛情表現をしたあとご飯を取りに行くのだけど。(ご飯よりマルコを優先することの重要性をマルコはわかってくれない)
サッチがあたしに気づいたようで、マルコに何か言っている。
マルコがゆっくり振り向き、警戒する動物のような目をこちらに向けた。
でもいつもなら走りよって飛びつくはずのあたしが悠々と歩いているからか、マルコは少し驚いたように目を見開いたもののすぐに視線を皿の中へと戻してしまう。
思いのほか反応が薄くて、思わず舌打ちが漏れた。
「よっ、アン」
「ごはん取ってくる」
マルコの後ろを通り過ぎる。
振り返ってマルコの反応を確かめたかったけどそんな余裕はなかった。
とりあえず、と大量のおかずをお皿に盛り付け、それを三皿もってテーブルへと戻る。あマルコの席を迂回するようにして、マルコの斜め前、サッチの隣に座った。
テーブルに皿を置きながらちらりと視線だけマルコに向ける。マルコは新聞を読みながら食後のコーヒーをすすっていた。
こっちを見もしない。
気づいてないの?
気づいてない振りしてるの?
もしかしていつもあたしが隣に座っているのも知らなかったとか?
「アン座れよ」
悶々と考えて立ち尽くすあたしに苦笑して、サッチはスプーンの柄でコツコツとテーブルを叩いた。
とりあえず席に着き、持ってきたおかずにスプーンを突き刺して口へ運ぶ。
少しサッチに頭を寄せるようにして囁く。
「ね、マルコ気づいてないのかな」
「さあ…気づいてはいるんじゃね、まあまだ様子見だな」
「ん…」
まだこれからだ、とぽんと背中を叩かれて少し気を持ち直す。
きっとそのうちあたしを追いかけてくれるんだろう、マルコも。
未だにあたしの想像力は微動だにしないが。
食事が終わると、ぱらぱらとクルーが食堂を後にする。
今日はあたしもマルコもサッチも午前中に仕事が終わっていて、午後は非番だ。
そういうわけで本当ならここでこうしてぐだぐだとサッチとくだらない話しをしながら、マルコのひげでも眺めていたいところだけど。
そんな思いを振り切って席を立った。
「お先っ」
出口へ歩を進めると、後ろから待ちに待った声。
「あ?もう行くのかい、珍しいねい」
キタッ
そう小さく心のうちで叫び、でも顔だけは努めて冷静に振り返る。
「な、んで?」
やば、噛んだ。
「別に」
マルコは再び手元の新聞に視線を落とした。
その顔には何の気持ちも浮かんでいないように見える。
あのポーカーフェイスが崩れたことなんてそうそう見ないのだけど。
思わず落胆の表情を浮かべたあたしを、マルコの代わりにサッチが見て、励ますように声を出さずに笑ってくれた。
サッチ、話が違うじゃんかとぶすくれる。
*
午後のおやつをもらいに食堂へ行く途中に一回、そして風呂前に一回、マルコに廊下ですれ違った。
あたしは飛びつくことも声を上げて駆け寄ることもせず、他クルーにするように軽い挨拶で済ませる。
「あ、マルコだ」とまるでアリの行列を足元で見つけただけのように興味の色を持たない声を出してみたりする。
それでもマルコはたいした反応も見せず、同じく他クルーに対するのと同じように接するだけだ。意味がない。
風呂で頭を洗いながらそんなマルコの姿を思い返しているとき、不意にハッとして顔を上げた。
垂れた洗剤が目に入って染みる。
いだだだだ、と声を上げて慌ててシャワーで洗い流すと、一緒に風呂に入っているナースの姉さんたちが優雅な笑い声を上げた。
しかしあたしは水と共に流れていく洗剤を見つめて愕然とする。
もしかして、マルコは、信じてない?
もしかしなくても、信じてない。
あたしがどんなにマルコが好きなのか、信じてない。
なんてこと、と思わず声が漏れそうだった。
好きだと思ったら伝えればいいのだと思っていた。
伝えたらすべてが丸く収まるのだと思っていた。
とんでもない。
あたしは空回りの日々を送って、マルコはそんなあたしに疲れ、まるで面白くない芝居のように毎日が過ぎていくだけだ。
あたしはそんな寸劇をマルコと繰り広げたいわけじゃない。
どうして、とそればかりが頭をよぎった。
あたしの伝え方が悪かったのだろうか。
それは一理あるだろう、ともう一人冷静な自分がどこかから声をかける。
うるさいな、と本能ばかりの自分が答える。
わからないことが多すぎるんだ、と諦めが冷たいタイルの床から足の裏を伝って登ってくるようで、頭から思いっきり水をかぶった。
わからないならわからないなりに突っ走るしか、あたしはやり方を知らない。
ましてや恋だとかなんだとか、そんな気持ちは持て余して仕方がない。
あたしは、ただマルコが好きだという思いしかわからないのだ。
はぁ、と深く深くため息をつくと、姉さんの一人が「あらぁしあわせが逃げるわよ」と明るくからかってくる。
しあわせもそりゃ逃げるよ、と口には出さずに答えた。
極めつけの、夕食後のマルコの一言を思い出す。
「ああなんか今日は肩が軽いよい。いい日だ」
話が違うよ!とあたしは叫ぶ。
→
海鳥の声が高く低く聞こえる。
ざんと波が船にぶつかりゆらりゆらりとベッドも揺れた。
現在冬島近くを周遊中で、肌寒い日が続いている。
目が覚めてしまったが、まだ日が昇り初めたばかりだろう、部屋に薄紫の光のすじが差し込んでいた。
自慢じゃないがオレは朝が頗る弱い。もうしばらく惰眠を貪ることにしようと再び瞼を下ろす。
身体が自然とぶるりと震えて掛け布団を肩まで上げ、腕の中にある熱を掻き抱くように胸に寄せた。
鎖骨のした辺りに少し涼しいような風が一定のリズムであたりこそばゆい。
ああでも。
(…あったけぇ…よい、 )
うつらうつらと思考が眠気に引きずられていく中。
ふと気付いた。
オレは何を"抱いている"って?
身体は動かずに、そっと目線だけを下ろした。
ふわりと柔らかな黒が首の辺りにうずくまっている。
神経を辿るように、いま自分が触れているものに力を込めてみる。柔らかい。
んぅ、と胸のあたりから小さな声が聞こえた。
「!!!!!」
手のひらの丸みにすっぽりと収まった柔らかな肌に触れたまま、身体は動かなくなった。
驚きすぎて息ができないというものを初めて経験する。
金魚さながらに口を半開きにした。
オレの右腕はアンの首の下に敷かれ、そのまま包むようにアンの素肌剥き出しの肩に手を添えている。
もう片方の腕はというと、アンの、その、腰あたりに回されていた。
なぜここにアンがいる?
…落ち着け、思い出せ。
昨日は確か13番隊の誰かの誕生日とかいう名目で宴が始まって、オレはサッチやこいつと飲んでいて、またこいつがやたらとくっついてくるもんで欝陶しがってはいたが、それなりに楽しい酒だったはず。
それからどうした?
ああそうだ、オレはやり残した書類を思い出して一足早く部屋に戻った。
アンはサッチとその後も飲んでいたはずだ。
それから、さっさと仕事を終わらしたオレは特に何をすることもなく布団に潜り込んだ…はず。
これほどはっきりと記憶が残っているというのに、アンがここにいる理由になるようなものはかけらも思いだせなかった。
一瞬、オレが連れ込んだというのが掠めないでもなかったが、有り得ない、有り得てたまるかと首を振る。
何よりこの船でも指折りの酒の強さを誇るオレが、酒に呑まれるなんてあるものか。
寝起き早々頭がフル回転する中、はっとして、しかし恐る恐る腕で布団を持ち上げて中を覗いた。
…ああ、よかった。服を着ている。
ここで、その、情事の後でもあったものならオレは精神的に粉になる。
オヤジに合わせる顔もない。
「…ん…」
すり、とアンがオレの胸に頬を寄せた。
おそらくアンはいつもの恰好、すなわち胸元に巻いた布とショートパンツという姿で無防備に惜しげもなく肌をさらして寝転んでいるはずだ。
剥き出しの足がこつんとオレのそれに当たった。
「だあっ!!」
アンの首の下に入っていた腕を持ち上げ、そのままアンを転がした。
その先にベッドはない。
つまりはベッドから落とした。
白い腕の先が視界から下へと消える。
「った!!」
どたんと腹から落ちたアンは驚いたように顔をあげ、オレを見たかと思うとあろうことか、さわやかに笑った。
「あ、おはようマルコ」
「おはようじゃねぇよい!!テメェなんでここにいる!なんでオレのベッドで寝ていた!」
「ん、夜這い?」
耳を疑った。思わず絶句する。
「・・・お前それ、一応聞いておくが、その言葉誰に教わった」
「サッチ!」
聞くまでもなかったと、これほどまでに思ったことはない。
アンはくああとあくびをし、眠たげに眼をこすった。
「あのな、あれからサッチと飲んでて、サッチが『好きなら夜這いくらい一度はしとくもんだ』って言うからさ」
夜這いって何?って聞いたら寝てるところに忍び込んでイイコトしちゃうことだって言うから、と。
悪びれることもなく罪状を告白してくれた。
頭が痛い。
「マルコもう寝てたんだけどさ、特に何すればいいのかサッチに聞き忘れたからふとんにもぐりこんでみたんだ。マルコ起きるかと思ったけどお酒飲んでたからか起きなくてさあ。あたしもあったかくて眠くなってきて」
「・・・で、寝たのかい」
「ううん、だから眠くなってきたからもう部屋戻ろうとしたんだよ。そしたらマルコが抱きしめてきたから」
「!!」
「動けなくて、まあいっかあと思って寝たの」
あたし悪くないよねえ、と笑う。
言うつもりだったあれこれの単語がざあーっと脳の奥底に沈んでいく音を聞いた。
就寝中の自分を踏みつけて燃やして粒子にして海にばらまいてやりたい。
「ああ、そりゃあ、その、悪かったよい。だがな、まず部屋に忍び込んできたお前に問題ありだよい」
「でもサッチが」
「あいつの言うことをこれ以上鵜呑みにするんじゃねぇ」
「? うん?」
わかったのかわかってないのか、おそらく後者だがアンは首をかしげながらも殊勝に頷く。
するとぎゅるりぐるると朝の合図。
「…おなかすいた。朝めし、サッチ起きてるかなあ。マルコ行こ」
「…あいつの飯を今後食うことはねえよい」
「? なんで?」
どゆこと?とオレを見上げるアンにさっさと食堂行って来いと追い払うと、にぱりと笑って駆けて行った。
その後ろ姿を見送って、オレは背中からベッドに倒れ込んだわけだ。
まったく、本当に、まったく!!
→
ぐりぐりぐりぐり────
船が揺れると部屋は傾く。どんと広い室内、向かい合う十六個の椅子、各々が手に持つ数枚の書類。
白ひげ海賊団の一日を締めるのは日課である十六人の隊長たちによる会議で、その日一日の反省、翌日の大まかな予定、または今後の停泊の算段等について話し合われる、いたって真面目な空間である。
ぐりぐりぐりぐり────
「あー、三番隊は見張りだよい。オヤジが飲み過ぎないようにも注意してくれ」
「おう」
「5、7番隊は武器庫の整理を頼む」
「ああ」
「4番隊は食料調達だい」
「了解」
「あとは」
マルコが一枚紙をめくると、他の男たちもバサバサと乱暴な手つきでページをめくった。そこには三週間ぶりである明日からの停泊の予定が綴られている。
ぐりぐりぐりぐり────
ちら、とブラメンコがマルコを見た。他の隊長たちを見渡すと、ハルタやイゾウなんかは涼しい顔をして書面に目を落としているがキングデューあたりはブラメンコと同じようにマルコを気にしている。
張本人のマルコはいたって無表情を貫き通しているが、その背中にぐりりと押し付けられているものは明らかに何かを主張しているし、二番隊の椅子は空いていた。
ブラメンコはたまらず口を開いた。
「なあ、アンの奴どうしたんだ」
「マルコのベッドの上で菓子食いながら寝てたら夢見て発火して、シーツ燃やしたらしい」
「ああ、それでど叱られたと」
「口聞いてもらえねェらしいぜ」
「てめぇら何無駄口叩いてやがる」
眉間に深く皺を刻んだマルコが、口を動かしていたブラメンコとラクヨウをくいと羽ペンで指した。いくら自分が隊長と言えど、こういう顔をしたマルコを刺激するのは適策ではない。
よって彼等は慌てて口をつぐんだ。
サッチだけはさも面白いというように肩を、そして自慢のリーゼントを揺らしてけらけら笑う。それに対してもマルコは不機嫌な視線を送った。
「何笑ってんだい」
「無視してやんなよマルコ、さすがに可哀相んなってきた」
サッチの言葉に、背中でうごめく頭がぴたりととまった。マルコの返事を待っているらしい。マルコは背中に受ける圧力に対してわざとらしいため息を存分に吐き出して、振り返るように首だけ動かし背中に纏わり付くものに視線を落とした。
「席に戻れ、アン」
「マルコ!」
声を発した瞬間顔を上げたアンの形の良い目からはぶわっと液体が溢れ出し、構わずマルコのシャツを濡らす。
アンはそのまま腕を回してマルコの胴体に巻き付いた。
「うおっ、てめぇ抱き着くんじゃねぇよい! 鼻水垂らすなっ!」
「うううマルコが口聞いてくれないから」
「わかったわかったもういいから離れろい」
顔面から出る液体を全てというほど流しながらアンはマルコに擦り寄ろうとしたが、マルコの角ばった手がアンの額を抑えて全力で阻止している。
残念ながらそんな光景も見慣れたもので、隊長たちはもはやどちらにエールを送るべきかわからないので会議が中断しようと黙ってため息を吐くだけだ。アンの味方をしてマルコに睨みつけられるのも面白くないし、マルコの肩を持てば可愛い妹に嫌われてしまう。
「アンは本当にマルコが好きなんだな」
ふいにナミュールが呟いた。今日寒いなとか、腹が減ったなとか、そんな一言と同じように。
「は?」
高低差のある声が綺麗にそろった。
アンを抑えたまま動きを止めたマルコは眉間の皺を深くして振り返り、アンはきょとんと見返した。
「あれ、違った?」
マルコの無言の剣幕に圧され、ナミュールは慌てて口をつぐむが遅い。
サッチは構わずにやにやと、マルコいわく気分の悪い笑い方で二人を見やった。
「馬鹿なこと言うんじゃねぇよい、なんでこのガキが」
「あたしマルコが好きなの?」
面倒臭げにぐりぐりとアンの額を擦りながら訂正をいれようとしたマルコの言葉は、アンが発した問い掛けに飲み込まれてしまった。
アンは珍しく深刻な顔をサッチに向けたまま静止している。
サッチはというと、零れでる笑いを抑えきれず口元を手で覆いながらアンの問いに答えた。
「なんだアン、自分で気付いてなかったのか」
アンはゆっくりと目線を変え、自分の額を抑え距離をとろうとするマルコを見上げた。
そうだ、なんではっきりとこの言葉に辿りつかなかったんだろう。引き攣り顔のマルコを見上げてアンはすとんと胸に落ちた言葉をそのまま口にした。
「すきだ、マルコ」
その言葉にマルコはぎょっとしたように片眉を上げ、慌ててアンの額から手を離す。
離れかけた手をアンは慌てて掴み引き寄せた。
「マルコ!好き!!」
「は?おわっ!」
そのままの勢いで抱きついてきたアンに、マルコは慌てて腰を引くがすでに遅く。細い腕は意外にも力強くマルコを引き寄せた。
「はなれろい!」
「い、や、だ!マルコ!あたしマルコが好きなんだって!」
「他人事みてぇに言うくせに何が!」
「マルコっ、すきっ」
「テメェ、サッチ!!余計なこと吹き込みやがって」
マルコの怒号が室内に響くが、サッチは涼しい顔をして他の隊長たちと視線を合わせた。
「今更じゃねぇか」
「ああ、まったくだ」
「アンがマルコを好きなことなんて」
「衆知の事実だな」
口々にとびだす言葉にマルコは細い目を見開いて、それからぎろりと鋭く隊長たちを睨みつけた。
「そんなことオレが知るかよい! おいこれどうにかしろ!」
一歩間違えばシャツの仲までもぐりこんできそうな勢いで背中に頬を寄せるアンを引き剥がそうとマルコは躍起になるが、一向にアンは好きだー!と叫びながら離れようとしない。コントのようなやり取りに、あははとサッチは笑って席を立った
「じゃ、明日の予定も決まったし、解散すっか」
サッチの一声で、おー、と隊長たちが腰を上げる。渦中のマルコだけが蚊帳の外である。
「おいっ!放ってくなよい!」
「アン、マルコよろしくな」
「うん!」
隊長たちがぞろぞろと部屋を後にしていく。何が「うん」だ、とマルコはやっとの思いでアンを引き剥がした。 名残惜しげにアンの腕が宙をかく。
「てめぇなんのつもりだい」
「なにって、だからマルコが好きなんだって」
「お前な、ありゃあサッチの誘導尋問じゃないかい」
「ちがう!」
「いいや違わねぇ。ガキが惚れた腫れたもわかんねぇくせに」
「わかるもん」
くいつくように見上げる強い視線に、マルコは一瞬たじろぐ。
ちゃんと好きだもん、と。
ぽつりと零された言葉に血流が早くなった気がした。
「もういい、部屋にもどれ」
「やだ」
「てめぇな」
「だってマルコがちゃんと聞いてくれない」
「お前、誰だってあんな言い方されてみろい、まじめに受け取れるかよい」
しばらく逡巡するかのような間があって、わかったとぽつりと呟いた。
「じゃあ明日から、頑張る」
は、何をと言いかけた時にはじゃあおやすみと逃げるようにアンは走り去ってしまった。
取り残されたマルコはしばし目を丸くしてから、その場にしゃがみ込んで深くため息をついた。
翌日から攻防戦は始まる。
マルコー!
うるせぇ寄ってくんな!
おはようマルコ今日もカッコいいね!
黙れさっさと仕事しろい!
ねぇマルコ好きだよ!
はいはいどっか行け。
もうっ、
「はやくこっち向け、このパイナップルが!」
「……テメェな」
→
2017.9.30加筆修正
思わず声が上がりそうなほど強い力で腕を掴まれた。
自分の眼の中に思わず不安の色がよぎったのが自分でも判った。
だがそれも振り払うように、ぐっと強い光を放って相手を睨みかえす。
「だれだよい。離せ」
しあわせの足音
男は波打つような長い髪を持っていて、小さく口端をあげていた。
笑っているが、目の光はつよい。
思わず手に持っていた本日の収穫を落としそうになった。
「ガキが。物騒なもん持ってんじゃねぇよ」
そういう男の視線はオレの薄汚れたジャンバーのポケットに走った。
ここにはオレの必需品が入っている。
男の腕を振り払おうとしたが、力を込めることもかなわぬほどの力がおれの腕を圧迫している。
「腹減ってんのか」
「・・・」
「親は」
「いねぇよい」
「・・・家族は」
「・・・いねぇ」
「そうか!!」
男はあっさりとオレの腕を離した。
じゅんっと掴まれていた部分に血液が戻って熱くなる。
次の瞬間、男の分厚い手が頭の上に伸びてきた。
掴まれる殴られる、そう判断したおれはとっさにポケットに手を伸ばす。
だがその手はポケットに入れられる前にとまった。
男の手は、オレの脳内をかきまぜるほど荒くオレの頭を撫でていた。
「そうかそうか!家族がいないのか!」
これでもかと言うほど目は弧を描き、口は大きく開かれている。
思わずあっけにとられて見つめ返した。
「お前、オレの息子になれ!!!」
・・・・・・・・・
思わずきょとんと見つめ返してしまい、はっとして次はちゃんとポケットからナイフを取り出した。
「・・・ばかじゃねぇのかお前!!な、何がもくて」
言葉が終わる前に、男はおれが持っていたナイフの柄を、よっ、と掴んでいとも簡単に取り上げると、近くのゴミ箱に放り投げた。
ホールインワン。
「言っただろ、物騒なもの持ってんじゃねぇ」
それだけ言うと、男は一歩おれに近づいた。
反射的に目を閉じてしまったおれは、ふわりと内臓が浮かぶ感覚に驚いて目を開ける。
地面が遠くにあった。
「なっ・・・!離せ!離せよいっ!!」
「まあ落ち着け。飯を食おう」
暴れまくるおれを容易く担いだ男は、そのまま意気揚々と飯屋へと歩を進めた。
がつがつと目の前のものを食い散らかしていくオレを、男は酒を飲みながら黙って見ていた。
無理やり座らされて、さあ好きなものを食えと言われたが素直に言うはずもない。
男はふっと笑ってから適当に注文をした。
目の前に出された料理はここ何カ月、いや何年と見たことのないごく一般の料理で、思わず喉が上下に動いた。
「食わねぇのか?」
男は至極面白そうにオレを見下ろす。
くるるるるとオレの腹は男に返事をした。
「グラララララ!!!」
突然上がった意味不明な声に男を見上げると、どうも笑っているようだ。
「くわねぇとオレが食っちまうぞ」
その言葉に、オレはスプーンを素早く握った。
何年かぶりに腹が満たされ、気分が落ち着いた。
それと一緒に疑問が再浮上した。
この男、オレに息子になれって言わなかったか?
「食ったか」
男は店のマスターに勘定をすますと、さあ行くぞとオレを促した。
狼狽するような視線を返すと、男はにっと口端を上げる。
穏やかな気分で考えてみると、こうやって人に笑い掛けられたのはすごくすごく久しぶりなんじゃないかと思った。
もう一度聞いておこう、と男は言う。
「おめぇ、オレの息子にならないか?」
じっと男を見上げると、男はひゅっと目を細めた。
「・・・なれるのか」
「あ?なんだって?」
「・・・『息子』って、なろうとすればなれるもんなのか」
男は一瞬ぱちくりとまたたきをし、また訳のわからない笑い声をあげた。
「なれるさァ!!お前がオレをオヤジと呼びゃあ、お前はオレの息子だ!!」
どくどくと、心臓が波打つ。
ぐっと、拳に力を込めた。
「・・・オ、オヤジ・・・」
「グララララ!!!」
オレの息子よ!
そう言って、男はオレを抱き上げた。
とても高くから見た世界は、オレの世界をひっくりかえした。
(そういやぁ、お前名前は)
(マルコだよい)
(そうかそうか!マルコ、お前も今日から海賊だ!)
(・・・海賊・・・!?)
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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