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↓新↑古(ですが、シリーズによっては追加したりしてるので新旧入り混じってます)
*……New!
●Sanji×Nami
【海賊版:長編】
・姫と王子の前奏曲 前編 後編
└協奏曲──コンチェルト──
└間奏曲──アントラクト──
└小夜曲──セレナーデ── 前編 中編 後編
└交響曲──シンフォニー──
└青のバラード
→→→続編をオフ本にて収録しました【小さな歩幅のアルペジオ】
・グッバイ夜のテロリスト…37……ハナノリさんに頂いたサンナミ小話からシリーズ化
└01 02 03 04 05 06 07
【海賊版:短編】
・反骨精神……サンジの昔話
・奇跡の海までもう少し……2013年サンジ誕
・宴のあと、逢瀬の夜……ほんのり大人め注意
・明日のためのグリューワイン
・唇にかすみ草 【′15 ナミ誕】
・真昼間に最初の一冊
・はるはそらまめ
・どこにでもいける
・ねがいごと三回
・ただより高いもの……#この絵にお話を付けてください 栗様のサンナミイラストで
・黄色い光
・ぜんぶほしい ・・・GLC7無配 konohaさんにいただいたイラスト付き
・船乗りのペン 【'18サンジ誕】
・サニーサイド
・朝がくるまで
・長く眠るとろくなことがない
・サンセット・マグノリア(R-18!)*
【現パロ:長編】
・恋は百万光年 前編 後編……現パロ、2011ナミ誕
└呼んでサファイア ……2012ナミ誕
└恋の振り子は僕に傾く……2014ナミ誕
└そんなことより会いたい ……2015クリスマス
・カンバスのある丘 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
・19時の電車 前編 後編
・シェアリング(仮)1 2 3 4 5 6(R-18!) 7 7.5 8 9 10 11*
・見えない窓 1 2 3 4 5 6
└窓の向こう(R-18!)
【現パロシリーズ:午後のプリマたち】
・午後のプリマたち(現パロ)
ジュエリーボックス(ウソカヤ)/並行線の人(ペルビビ)/ピロートークがしたい(ゾロビン)/夜中の虎のフルコース(サンナミ)
・午後のプリマたち2(現パロ)
アンティークテーブル(ゾロビン)/つぶれてしまいそう(ウソカヤ)/愛って痛いの(サンナミ)/サンダルウッド1オンス(ペルビビ)
・午後のプリマたち番外編
【春咲くツンドラ】(サンナミ)
・午後のプリマたち3(現パロ)
ホーリーテーブル(ゾロビン)/明日はいらない(サンナミ)/香りはカシス、色はボルドー(ペルビビ)/魔法の手(ウソカヤ)
【現パロ:短編】
・しあわせなら手を繋ごう……現パロ、+マルアン
・中毒にならない程度でよろしく……現パロ、2012年バレンタイン
・辞書を使わず意味を訳しなさい(頂き絵つき)……シンガポール旅行記を薄らかねて。
・花はふたりの食卓に……現パロ、2015年サンジ誕
・二度目のファーストコンタクト
・ 6畳一間和室のワンルームに住んでる貧乏大学生ナミさんの部屋に入り浸る財閥の御曹司(元)のサンジ(R-18!)
・序章、地下の店
・夢のふちから*
・一緒に暮らすサンナミシリーズ→→→続編を本にしました【暮らすみたいに息をして】
朝ごはん/洗濯物/物が壊れる/手当/お迎え/ペット/チャンネル争い/朝ごはん(一緒に暮らす前のサンナミ)
・食わば皿まで、君の声……2016サンジ誕
●サンナミプロットリレー企画
└実施要領 └完成プロット └作品公開ページ
●konohaさまとのコラボ集
●Zoro×Robin
・夜と月と花
・足音のオルゴール……2013ロビン誕
・パステルカラー
・木蓮の島(R-18!)*
~2016秋の剣華祭~
・カリカチュアの朝1/2/昼1/2/夕暮れ(R-18!)/夜 /翌日
●Franky×Robin
・毒と砂糖……ほぼCPなし。ロングリングロングランドでの青キジ戦のあと、ロビンの話
・twice as…FILM Z沿い
●peru×vivi
そうしていつか 空に還ってしまう日が来るのでしょうか
●Not Coupling
昼下がりのベゴニア……2011ロビン誕
どうかいつまでも清らかに……2010チョッパー誕
旗を掲げてひとつになって……ルフィが死んだ話
とあるやさしい海賊のはなし……猫と麦わらの一味の話
あの春の日まで/最期の最期の最期まで……ローとコラソンの道中の話/麦わらの一味の船に乗ったローとブルックの話
あるとしたらそれは浴室に……ロビンとルフィの話、あるいはミスオールサンデーとサークロコダイルの話
※…注意書き有
それは狂気に満ちている(マルアン攻防物語):第一部
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
第二部
0102 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
第三部
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
第0部(連載中)
#1 知らないことは/これから知ればいい/教えてあげるから/こっちにおいで
#2 The best way/to make children good/is to make them/happy
#3 ねがはくは花の下にて
─────────────────────
ハロー隣のクラッシャー(現パロ)
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12(捧げ物)
2.5(捧げ物)
ウェルカム恋のファンタジスタ(【ハロー隣の~】番外編)
01 02 03 04 05 06 07 08
大事なものは黒猫便で(【ハロー隣の~】番外編)
01 02 03 04 05 06
日常短編
Trick and Trick (10/31)
前哨戦付きにて注意 (2012 10/5)
Bless you
─────────────────────
Reverse, rebirth(パロ)
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25
アンドロメダのそのあとは 前編 後編
─────────────────────
その他マルアン短編
非番とは忙しくて目が回るという意味 ハナノリさんに二万打祝いを頂きました
まることおふろ! マルアンでミニミニシリーズから派生
立春 ※ (現パロ)
healer 【ホスト・兄妹パロ】より
カナリアの喉 / うなじにキス / 捕食者の口
満ちて、静かに※ 【それは狂気に~】第三部【あいのことば】の続編
Bless you
ゆりかごに贈り物 2014,1,1 アンBD
手紙 ※ 「立春」がベースの短いやつです
無花果*
─────────────────────
一万打企画
しあわせなら手を繋ごう 現パロ マルアン+サンナミ
恋愛ステップ初級編~夜這い~
恋愛ステップ初級編~押してダメなら引いてみろ~
恋愛ステップ中級編~煽情効果~
恋愛ステップ上級編~あたしを見つけて~
砂糖菓子で船を作る
あの喧騒に早く会いたい
いたいはやさしい
I'm Santa, the present is kiss, and you. (12/25)
今日はまた別の日 (2012)
我らが父は最強
Please kiss me! 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
ゲームオーバー サッチ×アン
利害一致ってやつ サッチ×アン
世界は終末を迎え、そして始まる サッチ→アン
燻る紫煙とともに煽れ イゾウ×アン
ふたりでしあわせに身を委ねよう イゾウ×アン
on the Moby … 惜しみない愛で家族を愛する家族のお話
provedence of affection(修復中…)
傷跡が消えるころ(修復中…)
彼に世界一の愛と祝福を(1.1公開)
愛した世界は美しい(修復中…)
拝啓不死鳥様 → 回線千里を繋ぐ
沈下(マルアン)
残響
もらう、あげる(修復中…)
馬鹿馬鹿しいけど愛してる(修復中…)
近すぎて見つからなかった(修復中…)
覚醒(修復中…)
ひびき 2012イゾウ誕
周縁はかく言う(マルアン)
家族に贈る10のお題
※短編の寄せ集めです。こっぱずかしいものが多いです。
01 上手な家族のつくりかた
02 しあわせの足音
03 未熟なのはお互いさま
04 些細なことが大事件!
05 夕焼け小焼けにはみ出た長ネギ
06 プライバシーは守りましょう?
07 柱に刻まれた想い出
08 "血"
09 いつか去る場所
10 おまえたちの未来を愛してる
配布元:TV
※ごまあえブログで妄想していた不倫ネタです。
細かい設定はこちらを参照してください。
受け付けない方は閲覧ご注意ください。
スクロールでどうぞ
雪が溶ける。春が来る。
春が、来てしまう。
立春
その日はアンの部屋でささやかなパーティーともいえぬパーティーをした。
参加者は二人きり。
オーブンで焼くだけのピザにスーパーで買ったシャンパン、そしてマルコが帰り際にわかに用意したケーキが小さな食卓を彩った。
マルコがグラスにシャンパンを注ぎその気泡がシュワシュワと上り詰めていく様にアンはぼうっと見入った。
「マルコッ、あたしもあたしも」
アンが自分のグラスを差し出してせがんでも、マルコはアホ、という言葉と共に瓶に栓をする。
「ちぇっ、こんなときまで『先生』すんの」
「高校生のうちは駄目だよい」
どこか的外れなその答えにアンが笑うとマルコも薄らと笑った。
シャンパンとジンジャーエールのグラスをぶつけて乾杯した。
「内定おめでとう」
「へへっ、マルコが推薦入れてくれたからだもん」
「それだけじゃねぇだろい」
労わるような、それでいて慈しむような視線に照れてアンは俯いた。
「これでもう卒業一直線だねい」
「あ、うん…あと一か月…」
「春の一か月なんてあっという間だよい」
「まだこんなに寒いのに」
「暦の上じゃもう春だよい」
立春ってあるだろい、とマルコが一通り立春と節分について説明するのをアンは聞くともなしに聞いていたのだが、やはり心はずっと別のところにあった。
卒業すれば、アンはマルコの生徒ではなくなる。
二人の間柄にしつこく絡み付いていた枷が外れるようでそれはすごく喜ばしい。
今更歳の差なんて気にすることでもないので、ただの男と女として付き合うことができる。
しかしアンの卒業はそれだけではない。
アンが高校からいなくなる。
マルコは残る。
二人の生活圏がずれるということが何を意味するか、アンはよくわかっているつもりだ。
普通の恋人なら当たり前のことに手が出ない。
手を伸ばしてはいけないのだと、思う。
「アン?」
なにボーっとしてんだいと怪訝な顔をされて、アンは慌ててなんでもないと首を振った。
「マルコが難しい話するんだもん」
「おま、どこが難しい話だよい」
呆れるマルコにアンはへへっと笑ってグラスに口づけた。
明るく、明るくと自分に言い聞かせて。
春が来る話なんてしないで。
*
それでも無情に時は流れた。
雪は水になり側溝へ流れ、足元を濡らす。
近所のおばあさんが芽吹いた梅の花を愛でる。
アンはあと一週間で卒業する。
マルコがアンの家に来て、同じ時を過ごすとき、今日はいつ帰るのと尋ねるたびに胸の中に落ちるしこりは大きくなった。
これ以上大きくなって、胸がいっぱいになって苦しくなったら、あたしはどうすればいいの。
「今日は十時までしかいられねェよい」
ごめんな、と頭の上に落ちる手を受け止めて、そう、となんでもないように呟いた。
マルコはネクタイを緩めて上着を脱いで狭い室内に座り、アンを手招く。
アンは慣れた仕草でマルコの脚の間に収まった。
背中を厚い胸板に預けて今日あったこと、互いが知らない互いのことを話していく。
二人分の衣服によって隔てられるほんのわずかな距離がもどかしい。
しかしそれは服を脱いで肌を重ねたところで同じだった。
皮一枚、この皮膚までもがマルコと触れ合うことを妨げる。
アンは体を反転させて、マルコの首元に鼻先を摺り寄せた。
いくらこの部屋でネクタイを外しても、上着を脱いでも、マルコは日も変わらぬうちにまたそれらを身に纏い出て行ってしまう。
今度こそ本当に帰るために。
帰りを待つ人のもとに帰って、また同じようにネクタイを外し上着を脱いで次はそれをクローゼットへ掛けるのだろう。
なんでもない日常が泣きたくなるほどうらやましい。
マルコは身を寄せてきたアンに黙ったまま腕を回した。
このまま溶けて一つになって苔むして誰にも思い出されない、そんな存在になってもいいからどうかこのままでと、口に出すことのない思いをのせてアンの髪に口づけた。
しかしそれでいいわけがないと口をはさむ理性がどこまでも邪魔をする。
マルコはアンの頭を両手で挟むように包んでキスをした。
顔を持ち上げるふりをしてアンの耳を塞いだ。
どうかアンには聞こえないように。
この恋の終わりが近づく足音が、聞こえないように。
*
教室はシャッター音の嵐だった。
最後だからクラス全員でと言われクラス写真を撮り、数人の友人に誘われて曖昧な笑顔でピースを向ける。
そしてまだまだ写真と寄せ書きに終わりの見えない教室からアンは静かに抜け出した。
昇降口まで歩く廊下で覚えのない男子に呼び止められ、ずっと好きだったと言われた。
靴箱の前では同じクラスの男子が追いかけてきて、同じように告白された。
あぁそうなんだ、とそのような返事をすれば、相手はその返事を予想していたかのように苦笑して、何を求めるでもなく去って行った。
卒業式ってこういうこともあるんだ。
コンクリートの三和土にローファーを放り投げるようにおろしてつま先を突っ込んだ。
「アン」
振り返ると、いつもよりきっちり固くスーツを身に着けたマルコがポケットに手を突っ込んだまま立っている。
「マル…コ、せんせ」
「もう帰んのかい」
「だっていてもすることないし」
相変わらず淡白な奴だよい、とマルコは特に可笑しくもなさそうに笑った。
「時間あるかい」
*
埃っぽいその部屋は、西向きの窓から差し込む光でぼんやりと白んでいた。
木造の棚にずらりと書物が並んでいるが、やはりどれも埃をかぶっている。
ここだけぽっかり時の流れから抜け落ちてしまったみたいな部屋だった。
「何の部屋?」
「数学科準備室」
「聞いたことないよ」
「先生らすら使わねぇからな。オレが鍵預かってて、一人になりたいときとかにここでコーヒー飲んでる」
サボりじゃんと笑うと、マルコも笑いながら2脚のパイプ椅子を奥から引っ張り出してきた。
「ん」
スーツのポケットからまだ熱い缶コーヒーを差し出す。
それを受け取って、乾杯した。
二人は向かい合って座った。
「卒業おめでとう」
マルコがゆっくりと笑う。
アンは黙ってうなずいた。
「早ェな」
「…三年長かったよ」
「オレくらいの歳の奴があっという間に成長しちまうガキといると、早く感じんだよい」
ふうん、と手の中の缶を両手で包みなおした。
っていうか、とマルコは言い直す。
「早いっていうより、速い、だな。early じゃなくてfast 」
「…?」
マルコは心底呆れたように口を開き、向かい合ったアンの手を取るとその手のひらに漢字で『早』と『速』を書いた。
「…どう違うの?」
「こっち、『早い』のほうは、卒業にはまだ『早い』とかの『早い』。で、こっちが、3年経つのが『速』かった、の『速い』」
「…また難しいこと言う」
難しくなんかねぇだろい、とまた呆れられるかと思ったが、マルコはそうだなと簡単に引き下がった。
マルコは缶を持つのとは逆の手で、漢字を書いたアンの手を取ったまま斜め左を仰いで窓の外に目をやった。
「…アン、お前一年の時の後半オレが数学持ってたの知らなかったろい」
「は?マルコが?あたしの?ウッソ」
「最初から最後まで寝てたし、中庭であったときオレのことしらねぇみたいな顔してやがったからそんなこったろうと思ってたよい」
「…そう、だっけ」
確かに思い返してみても、一年のころの数学の教師の顔は思い浮かばない。ついでに2年の時も。
つまりはぶっ通して寝ていたのだろう。
「起立礼が終わった瞬間から寝てチャイムが鳴ったら図ったように起きるから、妙な奴がいるもんだと思ってたんだよい」
「…へへ」
ごまかすように笑うと、マルコは俯いたがその顔は笑っていた。
長く節くれだった親指が、ゆっくりとアンの手の甲を撫でる。
「…じゃあマルコは、あのとき、中庭であったときからあたしのこと、」
「…知ってたよい」
ふうん、と鼻から抜けるような声が出た。
どうしよう、うれしい。
窓の外、校庭のほうが徐々に騒がしくなってきた。
写真も寄せ書きも堪能した卒業生たちが少しずつ帰り始めているのだろう。
アンもマルコもほぼ同時に、窓の外、薄い青に伸びる空を見た。
「…マルコ」
マルコはゆっくりと、アンを振り返った。
相変わらずマルコの親指はアンの手の甲を撫でている。
大きな手のひらの上でアンの手は不格好に固まったままだ。
話そうと口を開いても、出てくるのは声ではなく形にならない吐息だけで、アンは何度も浅い呼吸を繰り返した。
それをごまかすように、俯きがちになんども瞬きをする。
マルコはじっと、アンの手を緩く握ったまま待った。
「もう、会えないね」
もう、が震えてしまった。
会えないね、は呼気に交じった音になった。
そっと目の前の顔を見上げると、マルコの視線はアンの手、繋がった二人の手に落ちていた。
そんなことないと、マルコが言わないのはわかっていた。
それでもやっぱり少し悲しい。
もう限界だった。
人目を避けて、日の光の下も歩けず、帰りの時間ばかりを気にして、しあわせの余韻に浸る余裕もなく、決して手に入れることのできないひとと期待の出来ない約束をして逢瀬が終わる。
ふたりに未来はなかった。
「アン…」
「あたしが生まれてくるの、遅かったから、っていうか、遅すぎたから」
しょうがないよねえ、と笑ったのにマルコはすぐにアンの笑顔から目を逸らした。
手の甲を撫でる親指の動きはもう止まっていた。
代わりにぎゅっと握られる。
「これ」
アンは缶コーヒーを3本の指で握り、缶を握るマルコの薬指を指差した。
「あたしこれ大っ嫌い」
マルコの指に収まっているシルバーは、反抗するように日の光を反射した。
アンは黙ったままのマルコに、にいっと笑いかける。
「ねぇマルコ、これ捨てて、別れて?」
マルコはぼんやりと、アンを見つめた。
世の中には捨てられないものがありすぎて、大切なものがありすぎて、そのせいで何かを失うときがどうしてもやってくる。
けど決してそれは欲張りだからとかではなくて、そういうふうに、世界はできているのだ。
そうでなければならない。
それがどれだけ悲しくても。
「なんて、ね」
アンはぎゅっと缶コーヒーを握りなおした。
それと同時に、マルコの手に握りこまれていた逆の手を引き抜いた。
「お腹すいちゃった、もう帰ろっと」
コーヒーありがと、とアンは腰を上げた。
パイプ椅子が反動で軋んだ。
「アン」
「なーにー?」
勤めを終えようとしているスクールバックを肩にかけたアンはマルコに背を向けて返事をした。
「お前は強いよい」
アンの肩がきゅっと、ほんの少し、普通ならわからない程度すぼんだ。
マルコがどんな顔をしているのかアンにはわからない。
「オレは弱くて、ごめんな」
仕事、頑張れよい。
その言葉にアンは背中越しに頷いて、歩いて狭い教室を出た。
後ろ手で扉を閉めた。
気づいたら走り出していた。
空っぽのカバンの中で卒業証書の筒が跳ねる。
昇降口は帰りラッシュで混んでいて、アンは盛大に別れを惜しみあう卒業生の中に交じって靴を履いた。
外に出ると一瞬強い風が吹いて砂塵が舞った。
しかしそれはもう肌を刺さない。
春が来ていた。
それは突然のことだった。
白ひげ海賊団の明らかな優勢。
「おいその海賊とっ捕まえたらここまで引っ張ってこいよい、殺すな」
マルコの言葉に、据わった目で数人が頷いた。
「その前にうちの仲間だい。てめぇのコントロールもできねぇくせに一人で行って何するつもりだよい」
*
心配げに自分を見つめるクルーの視線とアンを串刺しにする冷たい視線に、羞恥でカッと赤くなった。
…マルコのお達し、ってやつかな・・・
だが実際は、放っておけと言われた二番隊隊員たちはアンの部屋付近に来ると無性に駆け込みたい衝動に駆られたため、自らを律して(それはもう舌を噛み切るほど)隊長部屋に近づかないようにしているのだった。
ふと右頬に手を遣ると、ピリッとした痛みが伴う。
覇気を纏ったマルコに殴られるのなんて、言ってしまえばしょっちゅうだ。
(・・・わかるかよ、)
あんな顔で殴られるほど悪いことだとは到底思えなかった。
誰もいない廊下を歩き続けてたどり着いたそこは医務室。
きぃと年季のある扉を押しあけると、つんと慣れた匂いが鼻をついた。
「…アン隊長、」
気付いたナースに目的の人物を尋ねると、そっと視線でそこを示してくれた。
長方形のベッドに横たわる大きな体。
自慢の筋肉はぐるぐると痛々しいほどに巻かれた包帯が埋め尽くしていた。
こんがりと焼けた肌は土気色をしていたが、帰ってきた時よりは増血剤のお陰で幾分マシのように思えた。
「全血液の三分の一を失っていたわ。普通なら持たなかったはず・…今夜が峠です」
アンにもわかりやすく説明し、最後はお決まりのセリフで締めた。
そっかと呟き、近くにあった椅子を引き寄せた。
「…ロールズ、」
あんたをやった奴らはあたしが始末したよ。
・・・殺しては、ないけど・・・
・・・あたしがもっと強かったら、もっと頼りがいがあれば、マルコもあたしに行けって言ってくれたのかな…
石膏のように色の悪い手をとると、しっかりと温度が伝わった。
アンはその手に頬を寄せたまま、消毒液の香りが沁みたシーツへと顔を埋めた。
*
「隊長、」
「謹慎、っつったんだがねい」
「7時ごろいらっしゃって、そのまま・・・」
「・・・持って帰るよい」
*
ふわっと唐突に意識が浮上した。
目を開けて一番に目に入ったのは見慣れた天井で、朝か?と首をかしげる。
しかし窓から見えた外の景色は暗闇に包まれていて、その黒さが今日の出来事を十分アンに思い出させた。
(・・・あれ、あたし医務室に、)
当然と言えば当然の疑問が湧いた瞬間、ふとドアの向こう側に人の気配を感じた。
それはもうすでにアンの体に馴染みつつある気配だったが、今日ばかりはその気配に体が強張る。
気配を隠そうともしないところを見ると、アンが起きるのを待っていたのだろう。
謹慎を告げた手前、部屋の外で。
「・・・起きたかよい」
向こうもアンが起きた気配を感じ取ったのだろう。低く落ち着いた声が届いた。
「・・・なに」
「頭冷えたかい」
「・・・別にあたしは、」
「熱くなってないって言うのかい」
「・・・」
「それじゃまだしばらくここからは出られねぇよい」
ぐ、と言葉に詰まると扉越しの気配も口をつぐんだ。
「…ロールズ、は」
「あぁ、峠は越えたってよい」
扉越しのマルコにも伝わるほど、アンは大きく息をついた。
「なぁアン」
呼びかけられても返事をせずにベッドに腰掛け床を睨みつけていれば、一度オレと手合せしねぇかい、と一風変わらず穏やかな声が聞こえたことによってアンは目を丸くして扉を見つめた。
*
「…能力、使ってもいいの」
「好きにすりゃあいい」
アンはふんっとマルコから顔を背けた。
選ぶ権利を渡すのはずるい、と思う。
マルコが能力を使わないとわかりきっているから、好きにしろと言われたらアンもそれに倣うほかない。
星の少ない夜だった。
見張りが見張り台から心配げに視線を送る。
誰もいない甲板はうら寂しく、二人の人間がそこにいても寂しいままだった。
今日はわからないことだらけだ、とアンはブーツを甲板にぶつけながら思う。
まだわからないのかとマルコに呆れられたところでわからないものはわからないし、ましてやなぜこんな夜更けに1,2番隊長が手合せしなければならないのかもわからないままだ。
ただ、甲板の中央で対峙したその時にはすべて忘れた。
マルコが動かないので、アンから飛びかかった。
振り上げた足は空を切り、力いっぱい床を叩いた。
代わりに背後から鋭い振動が伝わり、マルコの脚がアンの首をかすめるその瞬間に寸でのところで跳んで避ける。
そしてその着地をバネにして今度は腰あたりをめがけて重たいブーツを振りかざすがまた手応えはなかった。
かわりに頭のてっぺんに抑えつけられるような重みが一瞬だけ乗る。
アンの頭を中継して後ろへ翻ったマルコは、キッと振り返ったアンの目を見てこっそり苦笑した。
再びブーツが重く床を鳴らしてアンの体が飛び上がった。
「相変わらず正面からしか来ねぇのかよい」
呆れを浮かべた顔で攻撃をかわす。
振り返ったアンはうるせぇと悪態づいた。
「蹴りが遅い。そのブーツ、重たすぎんじゃねぇのかい」
「そんなわけっ、あるかっ」
言葉と同時に振り下ろされた踵を手のひらで受け止めて背後へ弾き飛ばす。
だがアンは弾き飛ばされるよりも早く自分から飛び退き、船室の壁をバネにして再び跳んだ。
「だからお前は馬鹿だってんだよい」
一瞬だった。
振り上げたこぶしを手のひらで叩き落とされたその瞬間肩と首を掴まれ、拙いと思ったその時には床へ叩きつけられていた。
かはっと肺から意図せずして呼気がせりあがる。
「まっすぐで、黒白はっきりつけたいおめぇのタチはいいことだよい」
アンが身をよじっても解放される気配は微塵もない。
身動きの取れないイラつきをぶつけるように、目の前の顔を目いっぱい睨みつけた。
「だがそれに馬鹿が足されると、愚直ってんだい」
「…クソッ」
「勝てると思ったかい、本気でオレに勝てると」
「うるさいっ…」
「力が及ばねぇのはわかってたよな。だがお前は途中でそれを忘れた」
「ちがうっ」
「挑発されて、正面切ってばっかなことを指摘すりゃあ絶対正面譲らねぇし、蹴りが遅いと言やあ蹴りしかださねぇ。挙句の果てに『馬鹿』の一言で顔面にこぶし振り上げてこのザマだ。ひねくれもいいとこだよい」
アンは息を詰め、夜目でもわかるほど顔を赤くした。
アンの手が、首を押さえつけるマルコの手首をつかむ。
爪が食い込んでもマルコは平然とその姿を見下ろしていた。
「どれだけ強くても周りが見えなくなるのは致命的だよい」
*
あのとき、隊員の負傷に動揺したのはアンだけではない。
同行していた隊員たちも、船にいた隊員たちも、自分が一番に駆けつけて敵を沈めてやりたいと誰もが思った。
しかし命令が下らない限り勝手な行動はできない、それはアンにとっても同じことである。
それならアンは二番隊のトップに立つものとしてその場を取り持つべきだった。
それをアンは我先にと一人船を飛び出した、そのことをマルコは言っているのだとアンはようやく理解した。
アンの目が不意に静まったからか、マルコはその手の力を緩めた。
感情のこもらなかった細い目の向こうに柔らかい光が灯る。
「お前が弱いから一人じゃ無理だとか、ましてや女だからだなんてこれっぽっちも思っちゃいねェよい」
アンの意地も矜持も理解しているからこそアンの気持ちはわかる。
わかるなんて言うとまたアンは怒るだろうからマルコは口にしないが、それでもマルコがわかっていることをアンにもわかってほしい。
マルコはアンの上から退くと、腰に手を当てて伸びをした。
オヤジくさい格好だと思いながらアンは上体を起こす。
言われるまでもなく、マルコに押さえつけられた瞬間から自分の非力さなんてわかっている。
叩きつけられた背中がひりひりと痛むのと同時にそれが身に染みた。
マルコは背を向けたまま言った。
「お前があの時一人で突っ込んで行って、もし帰ってこなかったら、オレはどうすりゃいいんだよい」
アンが息をのむ。
それと同時にマルコは振り返った。
小さく笑みを浮かべたマルコは哀しいほどに、もう二度と勘弁だとアンが思うほど、淋しい顔をしていた。
(ああマルコは、ずっとずっと、それが言いたかったの)
「…ごめん」
きまり悪さよりもその顔を見ていたくなくてアンが俯くと、静かに歩み寄ってきたマルコの手が何かを塗りこむようにゆっくりとアンの頭を撫でた。
逆の手が、まだ少し赤みの差す頬へと伸びた。
そして詫びる代わりにそこをやさしく包む。
「あんまりオヤジを心配させんじゃねェよい」
「…それってまんまオヤジのこと?それともマルコのこと、」
「アホウ、誰がオヤジだ」
オレらのオヤジのことに決まってんだろバカタレ、と赤くなった方と逆の頬がつねられる。
頬も背中もまだひりひりと痛むのに、小さな胸の中はとてもくすぐったかった。
いたいはやさしい
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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足りん
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