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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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汗で湿ったシャツを手に部屋を出た。
人の気配はすごく遠い。
もしかするともう夜も遅いころなのかもしれない、そう思いアンはいつものハーフパンツにホルターネックのトップ一枚で廊下を歩いた。
 
頭上でランプがじじっと音を立てて燃える。
羽虫が数匹飛んでいた。
すうっとどこからか冷たい風が肩を撫でる。
冷気が背中を駆け上がり、アンは体温を上げた。
便利な体、と我ながら思う。
しかし手足の先はなぜか冷えたままだった。
 
まだ船の構造がよくわからないので、なかば徘徊に近い形で船内を彷徨った。
広い船だ。
スペード海賊団の船をすっぽり飲み込んでしまうだろう。
しかしところどころで年季を感じさせる傷や、しみがある。
アンは同じ景色が続く廊下を思いつくままに歩いた。
食堂に行きたかった。
せめて食堂でなくてもいい、水のあるところへ行きたい。
喉もカラカラだし、ついでに顔を洗いたい。風呂なんて贅沢なことは言ってられなかった。
アンはもう何度目になるのかよくわからない角を曲がった。
 
 
「あら」
「!」
 
 
淡々と歩き続けていたためか、ぼうっとしていて不覚にも曲がったすぐ先の人の気配に気付けなかった。
ぶつかる寸前のところで互いが急ブレーキをかけて立ち止まる。
アンは飛び退いた。
 
 
「ごめんなさい、考え事をしていて」
 
 
ごつい体に対面することを予想していたアンは、目の前に現れたしなやかな体に目を白黒させた。
とても久しぶりに、女を見た気がする。
薄いピンクのナース服と、びっくりするほどかかとの高いニーハイブーツを履きこなした彼女はアンの顔を覗き込むように見た。
背の高い方だと思われるアンでも、彼女には見下ろされてしまう。
アンは何を言っていいのかわからず目を見開いたまま彼女を見つめ返した。
もし出会ったのが船員の男だったとしたら意にも介さずすり抜けていただろうけれど、なぜだかそうすることができなかった。
見つめてくる女の金色の瞳が綺麗で、半ば見入っていたのかもしれないと後になって思う。
 
ナースは口元に小さく笑みを浮かべた。
 
 
「ひさしぶりね」
 
 
アンはぎょっとして身を引いた。
形のいい唇から鈴のような高い声がまろびでてきたことにも驚いたが、なにがどういうわけで彼女と自分が久しぶりなのか見当がつかなかったからだ。
こんな美人と自分は知り合いじゃない。
 
そんなアンの心を読んだのか、ナース(服装からして多分そう)は一層笑みを深くした。
 
 
「お腹がすいたのかしら」
「…べつに」
「そーお?」
 
 
ふいと顔を背けたアンに気分を悪くしたふうもない。
なんでこの女はこんなまじまじと見てくるんだとアンは気が気でなかった。
 
 
「あなた…」
 
 
いつのまにかまるでアンを鑑識するかのような視線で見ていたナースは、少し眉を眇めて呟いた。
 
 
「悪いけど、少し…、いいえ、とても。汚いわね」
 
 
汚いと評されたアンは、思わず素直に自分の身体を見下ろしてしまった。
脚はすすけた汚れが付いていて貧相で、ズボンは擦り切れやほつれがひどい。
手にしたシャツは言わずもがなボロボロで、髪の毛もおそらく然り。
自分じゃわからないけど、きっとにおいもひどいに違いない。
黙って自分の身体を検分するアンを見下ろして、ナースは突然ぱんっと胸の前で手を合わせた。
その音にアンが驚いて顔を上げると、ナースは男なら目を回すほど綺麗な顔でにっこり笑って言った。
 
 
「お風呂に入りましょう!」
「ふ、」
「私もちょうど今から入るのよ。服は貸してあげるからそれに着替えなさいな」
「え、」
「大丈夫、男湯とは別に私たちの大浴場があるのよ。もちろん全然小さいけれど」
「ちょ、」
「それにしてもあなた、そんな恰好じゃ身体が冷えるわぁ。女の子に冷えは大敵よ。お風呂で温まりましょう」
「な、」
「人前じゃ恥ずかしいかしら?大丈夫、今日はまだ早いから他のナースはまだ仕事中。私は今日早番だから、今なら私たちだけよ」
「ち、」
「さあお風呂はこっち!ああその前に私の部屋によって着替えをとってこなくちゃ」
 
 
雨あられのようにアンに降りかかってきた言葉はアンがまともな言葉を返す前に完結してしまい、いつの間にかとられた腕を半ば引きずられるように引っ張られてアンはナースについていくしかなかった。
 
 
 
 
 

 
ナースが自室だと言ってアンを招き入れた部屋もそうだったが、この女湯なるものも海賊船とは思えない小奇麗さだった。
白いタイルはまぶしく、並べられた洗剤類やケア用品は装飾も美しい。
そしてなにより風呂場全体がいい香りで包まれている。
アンは始終きょときょとと視線を彷徨わせて落ち着かないが、ナースは平然とした顔のまま脱衣所でおもむろに服を脱ぎ去った。
 
 
「立ちんぼしてても仕方ないでしょ。諦めなさい」
 
 
そう言われ、アンもおずおずと布きれ同然の衣服を脱いでいった。
 
 
 
ナースに指示されるがままに頭を洗い顔を洗い体を洗い、これを使いなさいあれをああしなさいと言われてなぜだが従順にしている間に全身ピカピカになっていた。
頭を洗ってあげると言われたときはさすがに拒否したが、ナースに手渡された石鹸で体を洗ったら、腕やら脚やらつるっつるする。
そもそもこんなにも泡の立つ石鹸で体を洗ったことなんてあっただろうか。
全身くまなく洗ったことでべたついていた髪も体もさっぱりしたが、嗅ぎ慣れない花の香りがふんわりと漂うことには違和感しか感じない。
自分の肌の慣れない感触を確かめるようにアンが何度も自分の腕をこすっているのを、ナースは小さく微笑んでみていた。
 
 
 
浴槽は数人が手足を広げて入れるほどの広さで、アンはこんなに大きな風呂に入るのは初めてだった。
口の下あたりまで身体を湯に沈めてから、ああシャワーだけで良かったのにと気づいたが今更遅い。
熱い湯は傷に染みて全身がピリピリしたが、同時に張りつめていた何かがゆるゆるとほどけていきそうな感覚を味わう。
慌てて気を張り直しても、長くは続かなかった。
 
少し離れたところではナースの細い首から上が見えている。
金色の豊かな髪が上にまとめられて後れ毛から滴が落ちる様はこれまた目を回すほど美しいが、海賊船には似合わない。
静かな水面が少し傾いた。
静かに湯につかっていると、船体に波がぶつかる外の音がよく聞こえる。
波が唸る轟音は獣の唸り声のように空恐ろしい夜の音だった。
しかしナースの先程の「早番」という言葉からすると、まだそう遅くない時刻なのかもしれない。さらに彼女の口ぶりでは、ナースは他にまだ数人いるらしい。
スペード海賊団にも船医はいたが、ナースなんて洒落たものは当然いない。
そういえばまだアンが甲板の隅を陣取ってうずくまっていたとき、ちらりと何か医療器具が運ばれているのを目にした覚えがある。
運んでいる人間まで気にしなかったのでそれがナースだったかはわからないが、運ばれている医療器具がおそらく白ひげの物だと感づいて、そんな老いぼれに指先であしらわれる自分にむかっ腹が立ったのは覚えていた。
 
アンがナースを盗み見ていたのに気付いたのか、ナースはアンを振り向いてニコリと笑った。
慌てて目を逸らし、今度は鼻の下まで湯につかる。
ナースとはいえ、この船の人間と馴れ合ってしまった。
後悔のような罪悪感のような気持ちでいっぱいになった。
浮かんできたのはスペード海賊団のクルーたちの顔だ。
彼らはまだこの船の牢に入れられているんだろうか。
アンに食事が与えられたように、彼らにもちゃんと与えられているんだろうか。
ここは敵船の上、その望みは薄い。
アンに食事が与えられていることさえ、そもそもおかしなことなのだ。
いくら自分を仲間に引き入れようとているやつらだとはいえ、かたくなに拒み続けるアンにそろそろ白ひげ船員たちも愛想が尽きてきたはずだった。
 
 
──早くここを降りよう。
せめてクルーだけでも海へ逃がして、自分はここで白ひげに挑み続ける。
そのうち相手にされなくなるかもしれないけど、意味のないことかもしれないけど──
 
 
「ねぇ」
 
 
ちゃぷん、と水音が響いた。
ナースが動かした手のあたりから波紋が広がってアンにまで届く。
声をかけたナースはアンと視線を合わせることなく呟くように口を開いたので、アンもナースのほうを見ることはしなかった。
返事も、なんといっていいのかわからずだんまりを続けた。
 
 
「あなたいくつかしら」
 
 
いくつ?とアンは心の中で反芻した。
なに、かず?あ、歳のことかと納得がいくまで数秒かかる。
しかしナースの言葉を理解したものの、すぐに答えられなかった。
 
そのままの歳を言ったら馬鹿にされるだろうか。
ガキのくせに息巻いてと鼻先で笑われるかもしれない。
警戒心が水の中をつたって彼女に気付かせたのか、ナースが苦笑した雰囲気が湯気の向こうから伝わった。
 
 
「言いたくないならいいけど」
 
 
そう言われると黙っていられないのが性だ。
 
 
「…18」
 
 
ちゃぽん、とまた水音が鳴る。
どんな反応が返ってくるかと思えば、ナースはまあ、と間延びした嘆息の声を上げた。
 
 
「若いわねぇ」
 
 
しみじみとしたその声はなんとも呑気で、アンが想像していた張り詰めた雰囲気は微塵もない。
思わずちろりとナースを横目で見てしまった。
 
 
「洗ったらみるみる綺麗になるんだもの、女として妬けるわね」
 
 
やっぱり若さには勝てないのかしらとぶつぶつ呟く横顔はアンが今までまともに見たことのある女という生き物の中で一番きれいだと思ったが、それを上手に伝える語彙も方法もアンは知らない。
 
そもそも「女」であることを意識させる言葉は大嫌いだった。
性別の裏にくっついてくる附属的な意味は自分に損しかもたらさないと知っていた。
それなのに、この人の言葉には嫌な感じがなにひとつ滲んでいない。
なぜか懐かしい感じがした。
 
 
 
「服は洗ってあげましょうね。それまでは私たちのお古だけど、それを着なさい」
「…」
「それにあなた、お腹がすいたでしょう。今日のお昼はサッチ隊長がごはんを持って行かれたみたいだけど、それまで丸2日も寝ていたんだもの」
「ふっ…!?」
 
 
バカなと叫びそうになって、慌てて押しとどめた。
まさか、二日もあそこで寝ていたなんて。
そう、思い出した、最後の記憶。
明け方を狙って白ひげの部屋を襲撃した。
肌寒くなってきた朝に早く起こされた白ひげは不機嫌そうな顔で、寝ぼけ眼のままアンを張り飛ばした。
そのまま甲板に叩きつけられたアンは悪態をつきながらよろよろと立ち上がり、手ごろな船べりにもたれかかってうずくまった、確か。
そうして皆が起きだしてきて騒がしくなってきた頃、あのリーゼント男がアンに朝食を運んでくれた。
突き返して押し問答する段階はとうの昔に踏んでいたので、アンは大人しく受け取ってそれを食べる。
おなかが満たされたアンは甲板の、ちょうど日陰になっていたマストの下で横になったはずだった。
あれが二日も、いや三日も前のことだったなんて。
 
バカみたいに警戒も忘れて眠った自分を殴りたくなった。
というか、あれだ、ふとんおそるべし。
ちくしょう誰だあたしをベッドに運んだ奴は。
っていうかあたしは寝ている間に誰かに運ばれたのか!?
そんなことできる人間、いるはずない。
 
 
嵐の吹き荒れるがごとく混乱するアンを尻目に、ナースはアンを諭すようにゆっくりと言葉を続けた。
 
 
「人は疲れると眠るけど、眠るのもすごく体力のいることなのよ。おなかもすくわ。ここを上がったらごはんをもらいにいきましょうね。きっとまだコックさんたちは起きているから」
 
 
思わずうなずいてしまったのをごまかすように、アンは鼻先まで湯に沈めた。
それから少し顔を上げて、口を水面から出す。
 
 
「…今、何時?」
「時間?11時くらいかしら」
 
 
夜更けだとばかり思っていたが、そうでもないらしい。
しかしまだ深夜でもないというのにアンの部屋の周りに人気はなかった。
疑問が顔に出ていたのか、ナースは首をかしげるような動作でアンを促した。
アンがおずおずとその疑問を口にすると、ああそれなら、とナースはしたり顔で口を開いた。
 
 
「あなたが寝ていた部屋は1番隊の部屋群。1番隊は今日は見張り当番だから、全員船中にちらばってて誰もいなかったのよ」
 
 
なるほど、と言うしかなかった。
どうやらこの船には隊が組まれているらしいということも、その一つの隊が空っぽになるような仕事が割り振られているということも同時に理解した。
 
素直に感心する顔をしたアンに、ナースはさらに目元を緩めた。
 
 
「隊長は部屋にいたでしょうけどね」
「…隊長…」
「あなたがいた部屋の隣の部屋よ」
 
 
ぎょっとしたアンを見て、ナースはおかしそうにくすくす笑った。
 
 
「静かな人だから、隣の部屋でもいるのかいないのかわからないわ」
 
 
ナースはそう言ったが、静かだとかいう物音云々の話ではなかった。
気配が微塵もなかったのだ。
もしずっとあそこにいたのだとしたら、気配に敏感なアンに一ミリたりともそれを悟らせなかったということになる。
そのうえアンが足を痺れさせて悶えていたときも、いらだって枕を投げた時も、その音を聞かれていたかもしれないのだ。
 
アンはいたたまれずに頭まで湯に突っ込んだ。
ナースは驚いて目を丸めたが、湯の中からごぼごぼと上がってくる水泡を見ておかしそうに笑った。
 
湯の中でぎゅっと目をつむったとき、あ、と思い当った。
彼女から感じる懐かしさの所以をわかってしまったのだ。
金色の髪も華やかな香りも目立つ顔だちもなにひとつ似ていないけれど。
言葉が丸く縁どられているような優しさや、柔らかいのにまっすぐな視線が。
 
とてもマキノに似ていた。



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白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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