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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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「ついてねェなぁ」
 
 
イゾウは着物の裾に飛んだ赤色を忌まわしげに睨んだ。
足元に文字通り転がる男を跨いで、時には踏み、酒屋の扉に手をかける。
しかし古ぼけた木の扉を半分押し開けてから、「あ」と声に出して振り返った。
半分崩れたカウンターの向こう側で、店主の親父が呆然と立ち尽くしている。
イゾウと視線がかち合って、ヒクリと肩を揺らした。
 
 
「あぶねぇ忘れてた。ほい勘定」
 
 
イゾウはおもむろに懐から数枚の紙幣を取り出して、店主の目の前にぽいと放る。
飲んだのはたった一杯だったが、あまりは店の修理代だ。
ちらりと上に視線をやると、店の天井には一か所銃創がついて煙を上げていた。
イゾウが撃ったものではない。
 
海賊と言えどどこかのバカと違って食い逃げなど後味の悪い酒は飲みたくない。
しかしこの足元に転がる屑共のためにいくばくかの金を無駄にするのはつまらない。
だからイゾウは、足元にうつ伏せに倒れる男を軽く蹴って仰向かせ、その胸元からポロリと落ちた札束を拾い上げた。
あくどいイカサマで一般人から巻き上げた金だ、海賊のイゾウがもらったところでたいした違いはない。
 
 
「ごちそうさん」
 
 
イゾウはつやりと光る黒髪の後れ毛を撫でつけて店を後にした。
半壊した店の中で、イゾウが積み上げた男共と共に残された店主は何か言おうと口を開いたが、立ち去る男の服の肩口にあるマークを目に留めて、結局なにも言うことができなかった。
 
 
 
 
さびれた港町に停泊していた。
かろうじて酒場と娼館だけはある。
停泊の目的は食料の買い足しだと聞いていたが、こんなうらぶれた街にうまい食材があるとは思えなかった。
なんにせよ、我が家の末っ子が食料を非常食まで食いつくしたせいで急きょ寄港することになったのだ。
貧相な収穫であろうと背に腹は代えられない。
事の発端である末っ子は、既にコックの一団から目も当てられない仕置きを食らって今日も下っ端と一緒に腫れた顔をさらして甲板掃除をしている。
その目も当てられない仕置きに声を上げて笑った男がイゾウである。
 
さてなんともつまらなさそうな島だ、と船の上からは口々に不満の声が漏れたが、とはいえ陸が恋しいのは誰も同じ。
クルーはいそいそと街へ繰り出していった。
錨をおろしたのが朝も早いころ。
一日かけて食料の調達から積み込みまで済ませ、今日の夜更けにまた出航という慌ただしい寄港である。
 
非番のイゾウに仕事はなかった。
実際16番隊は、自隊の部屋群があるモビーとは別の船の見張り当番ではあったが、隊長のイゾウに実務は課せられない。
よって、イゾウがこの日目覚めたのは島についてからだいぶと経ち日も高く上った昼頃だった。
なんだよ誰か起こしてくれりゃあいいのに、とぶつぶつ文句を言いながら人けのない食堂で朝飯のような昼飯を食べ、ひまつぶしがてらイゾウも遅れて船を降りた。
とはいえ、島は予想以上の寂れ具合で特にめぼしいものもなく、店を覗こうにもその店は開いているのか閉まっているのかもわからないような様子で入る気も失せ、必然的に行き場所は酒場か娼館か船に戻るの三択となる。
船に戻ったところで自分にやることはない。
オヤジの顔でも見に行こうか、と思ったが今夜はモビーで過ごすつもりなのでそれは暗くなってからで事足りる。
 
さらに、女を買う気分でもなかった。
そういえば近頃買った女と夜を過ごした覚えがない。
酒場で適当にひっかかった女と過ごせば金はかからないし、そもそも女と過ごす夜自体少なくなっていた。
オレも歳だろうか、とぼんやり考えながらうら寂しい街の中を歩いていたら、細い路地を入ってすぐのところに「営業中」の看板を上げる酒屋を見つけて足を止めた。
船を留めた入り江のすぐ近くの酒場に行けば大勢の白ひげクルーが既に飲み食いしているだろうが、小さなところでひとりで飲むのも悪くない。
イゾウはほとんど気まぐれと言っていい気軽さで、目についたその店にふらりと入っていった。
 
 
店は予想を裏切らない小汚さと雑多さで、小さな男がカウンターの向こうでつくねんと立っていた。
店の隅のテーブル席では2つのグループが賭け事に高じている。
イゾウはカウンター席に座って、とりあえずこの店で一番うまい酒をと要求した。
 
日もまだ落ちていないようなこんな時間に海賊でもないバカたちが賭け事をする場所。
一人で酒を飲むのに適した場所ではなかったが、出された酒が案外うまかったのでイゾウは気をよくした。
下卑た男たちの笑い声もBGMだと思えば聞き流せる。
イゾウの前でおどおどしながら酒を作る店主が、話しかけようか迷った素振りを見せてから、意を決してイゾウに声をかけた。
 
 
「兄ちゃん、今日の朝南の岸に船付けた海賊船の人だろう」
「おう、なんだばれてんのか」
「なんにもない島でつまらんだろう」
「まったくだ、もう今日の夜中にゃ出てくよ」
「それがいい」
 
 
店主は島の人間のくせにやけにイゾウに同調して頷いた。
島民がこうじゃそりゃ栄えもしないわけだ、とイゾウは内心で頷き返す。
不意に、右肩に温かい重みが乗った。
 
 
「おにいさん旅の人?」
 
 
女の人かと思っちゃった、とイゾウの肩に手を乗せた女がふふっと笑うと、甘い香りがふわっと広がった。
イゾウは肯定も否定もせず黙ったまま、目だけで笑い返す。
よく酒場にいる種の女のように派手な服を着ているわけではなかったが、イゾウの肩から腕にかけてを撫でるその女の手つきは慣れた者のそれだった。
無視されなかったことに気をよくした女は、小さく一言断ってイゾウの隣に腰かけた。
 
 
「怒らないで、そこらの女よりずっと綺麗だったから」
「よく言われる」
「やだ」
 
 
女は甘いにおいをまき散らしながらくすくすと笑った。
安い娼婦のように下品に触りに来ないことに好感を感じ、好きにさせておくことにした。
イゾウはもう一口酒を飲む。
女は物珍しげな視線に少しだけ性的な光も絡ませて、隠すこともなくイゾウを見つめる。
ああ今日は船に帰るつもりだったんだがなァ、とグラスの中の氷を揺らしたそのとき、背後に近づく気配に気付いた。
楽しい気分もここまでだ。
イゾウはグラスの中身を一気に飲み干して、女の視線に応えるように顔を向ける。
女は大きな目を猫のように細くして笑い返そうとしたが、女のほうもそこでやっとイゾウの背後に立つ人影に気付いて怪訝な顔を上げた。
 
 
「おい兄ちゃん、新参者がでかい顔して飲む前にオレに断りは入れたか?」
「ちょっとなによアンタ」
 
 
女は思ったより気が強いタイプらしい。
背丈も身幅もたくましい男とその取り巻き数人を相手に、彼女は強く睨み返した。
狭い島だ、どうせ知った顔同士なのだろうとイゾウはぼんやりと観察する。
男たちは敵意を向きだす女を無視してイゾウに顔を近づけた。
 
 
「小さい店だからと思って油断したか? 残念、ここぁオレのナワバリだ。この店に入るにゃまず入場料、そんでもってオレへの貢物でも持ってくるんだな。どうせでかい酒場にゃ今朝の海賊共がいるせいでびびって入れなかったんだろう」
 
 
イゾウは男の言葉を聞き流して、ちらりと店内を見渡した。
ナワバリと言うには随分お粗末なものだ。
 
 
「おいお前この人には手ェださねぇほうがいい」
 
 
店主が面倒そうに口を挟んだが、男の「うるせぇ」の一喝で押し黙った。
イゾウは静かに口を開いた。
 
 
「入場料か、そりゃぁ知らなかった」
「ちょっとおにいさん、こんな奴ら相手にしちゃだめよ」
 
 
女は果敢にもまだぷりぷりと怒りながらイゾウの腕に触れた。
すると目の前の男がカッと目を見開いて怒りの形相をあらわにする。
なるほどそういうことか、とイゾウは心の中でハハハと笑った。
 
 
「テメェ何笑ってやがる!」
 
 
男が憤怒の形相でイゾウの襟首を掴みあげた。
どうやら笑い声は心の中だけで済んでなかったらしい。
あぁめんどくせェとため息が漏れる。
 
 
「悪いな姉ちゃん、せっかくだが別を当たってくれ。オレァもう飲む気分じゃねェ。あと危ねェから外出てな」
「でもおにい……」
「テメェいつまで掴んでんだよ汚ェな」
 
 
静かに酒を飲んでいたときとは打って変わって地を這って足元から昇ってくるような低い声。
イゾウに呼び掛けていた女の言葉が途切れた。
賢い女なのだろう、ハッと何かに気付いた顔をすると素早くイゾウに触れていた手を引いて静かに後ずさり、ぱたぱたと小さな足音を立てて店を出ていった。
 
これじゃまるでオレが逃がしたみたいじゃねェか、とイゾウの顔は自然と苦いものになる。
依然として男がイゾウの襟首を掴んだままなのもさすがに鬱陶しい。
 
 
「お前銃持ってるか」
「あ?」
「銃だよ銃。鉄砲」
 
 
バーン、と銃声を口真似る。
バカにされたと感じたのか、男は咄嗟に腰のあたりに手を伸ばした。
イゾウを囲む取り巻きたちもつられて同じ仕草をする。
やっぱりその上着に隠れたふくらみはあれか、秘密兵器か、とイゾウは隠すことなく口角を上げた。
 
 
「抜けよ」
 
 
な、と声を漏らした男は腰のふくらみに手を触れたまま固まっている。
挑発されて銃を出すのが悔しいのか、ただもったいぶっているのか。
バカの考えることはわからん、とイゾウはもう一度口を開いた。
 
 
「抜けよ。テメェのその御大層なモン抜いて撃ってみろっつってんだ」
 
 
返り討ちにしてやるよ。
その言葉のすぐ後、続けざまに鳴り響いた銃声は3発で、そのあとは一発たりとも銃声が鳴ることはなかった。
 
 
 
「不運だった」
 
 
イゾウは帰り道、またそうひとりごちた。
誰も聞いてはいない文句は紫煙とともに吐き出される。
イゾウは無意識のうちに、懐に入った二丁の銃の外郭をなぞるように着物の上から撫でていた。
腰に提げているのではあまりに挑発的すぎる、とサッチに指摘されたので仕方なく懐にしまい込んだ愛しい銃たちだが、結局絡まれたじゃねぇかと今この場にいない男に悪態をつく。
 
 
イゾウの胸ぐらから手を離して男が撃った一発目は、イゾウがことりと首をかしげたことでかわされて、かわりに背後の酒瓶が一本砕け散った。
至近距離でかわされて目を剥いた男の手をひねり上げ、落とした銃を受け止めた。
同時に鳩尾を蹴り上げて一人ダウン。
その銃を右側のもう一人に向けると、その男は見るからにすくみ上りながらもイゾウに銃口を向けた。
左側の男もイゾウの左のこめかみに銃を突きつける。
右側の男が引き金に力を入れるその瞬間、イゾウは手にした銃でその男の銃をはじいた。
はじかれた銃はぽんと男の手から離れ、その勢いで一発が天井に向かって放たれる。
それと同時に、イゾウは左のこめかみに触れる銃の銃身を二本の指でそっと前に押し出した。
左の男は両手でしっかりと銃を握っていたにもかかわらず、あっけなく逸らされた弾道は右の男に一直線で、放たれた三発目はイゾウの鼻先を通り過ぎて右の男の胸を貫いていた。
二人目ダウン。
残された最後の男は無様に涙目をさらして逃げようとしたことが癇に障って、適当に手を伸ばしたところにあった誰のものかもわからない酒瓶で頭をぶん殴ったら倒れた。
完勝である。
いつのまにか、絡んだ男たちと賭けをしていた他の客はさっさと逃げていたので店にはイゾウと店主、そして倒れた男たちのみであった。
 
 
イゾウは薄暗い薄暮時の道を歩きながら、出番がなくて悪かったなーと懐の二丁に話しかけた。
まぁ弾を無駄にせずに済んだのでよしとするか、とイゾウは船へと足を進める。
結局飲んだ酒は一杯だけ。
続きは船の上だ。
 
ぽつぽつと建っていた家や商店がまばらになり、次第にひとつもなくなる。
遠くの入り江に覗く小さな影がモビーだった。
ここから見るとちいせぇな、とイゾウは目を細める。
 
あそこでは100人単位で人間が動いている、と思うとぞっとした。
それは寒気のような、快感のような、イゾウにもよくわからない。
その100人単位のひとつを自分が動かしている、と言うのもまた現実味がなかった。
 
 
「イゾー」
 
 
どこかで名前を呼ばれた気がして、イゾウは視線を動かした。
気のせいにしてははっきりと、それも聞き慣れた声だ。
 
 
「イゾー」
 
 
おおい、イゾー、と呼ぶ声の主は、目印のつもりなのかメインマストの見張り台からちらちらとオレンジの光をちらつかせて手を振っていた。
火の粉が帆に飛んだらどうするつもりだ、と思いながらどうせ言ったところで聞こえないし学ぶ奴でもない。
イゾウは黙って手を振りかえした。
少しずつ、モビーの形がはっきりと、そして巨大になっていく。
どうも今夜は看板にいる人数が多い。
にわかに酒盛りでも始めるのだろう。
今から夜にかけて出港だというのによくマルコが許したものだ。
するとイゾウの目の端、暗がりに染まりつつある紺の空を、まるで今のイゾウの心を読んだように現れた青い光が彗星のように横切った。
煌めく金色を撒き散らしながら、幻想的な青の炎はモビーのメインマスト、エースのいる見張り台へと降り立つ。
エースの手に灯った赤い炎が一瞬大きく燃え上がり、それを包み浄化するように青の炎が飲み込む。
うちの1,2番隊隊長がたは、本人の見た目に似合わず荘厳で美しい能力の持ち主だ。
 
 
「イゾー」
 
 
マルコを出迎えたエースが、またイゾウを見下ろして手を振った。
もうずいぶんモビーが近い。
 
 
「遅ェぞイゾー」
「なんだよ、出港は夜中だろ」
 
 
もう声を張り上げなくとも、多少の大きめの声で聞こえる距離だ。
ちげェー、とエースは身を乗り出した。
 
 
「今日おまえのたんじょーびー」
 
 
タンジョービーってなんだっけ、と首をひねってから、ああ誕生日、と合点した。
 
 
「忘れてたのかよい」
 
 
呆れたようなマルコの声が降ってきた。
あの鳥野郎、たった一週間前の自分のこと棚上げしやがって。
 
 
「宴だぞー!」
 
 
タラップに足をかけると、下を覗き込むエースの腫れた顔がよく見えた。
男前が台無しだ。
 
 
「んじゃ飲むぞエース、降りて来い!!」
 
 
船縁から船内に飛び込むように降りると、隕石のように炎をたなびかせるエースが嬉しそうに落ちてきた。

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*【拝啓不死鳥様】をふまえています
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ぷるぷると電伝虫の震えが受話器越しに手のひらに伝わると、いやにドキドキした。
たった数秒のそんな緊張感が何分にも感じられて、じわりと汗ばむ手が受話器をぎゅっと握りしめた。
コール音がもどかしくて、少しいらいらして、同時にわくわくして、たまらなく切ない。
 
ガチャリと電伝虫が鳴いた。
 
 
 
 
 
回線千里を繋ぐ
 
 
 
 
 
「もっ、もしもし?」
「…エースかい」
「ああ」
 
 
聞こえてきたのは久しぶりの低い声で、早く出ろ馬鹿野郎と思いながらかけていたのにマルコが出たら出たでなぜか焦り、エースは汗ばんだ手で握っていた受話器を取り落しそうになった。
しかしそれと同時にとてつもない安心感がどしりと肩にのしかかって、腰の力が抜けた。
今この電伝虫は、我が家とつながっているのだ。
マルコに応えた「ああ」という声は、返事よりも安堵のため息のほうが比重が大きい。
 
 
「ひさしぶりだな」
「本当だよい」
「手紙届いた?」
「一昨日な」
「オレ3週間くらい前に出したんだけどな」
「疲れ切ったクーが運んできたよい」
 
 
やっぱりアイツじゃまずかったか。
頭悪そうだったもんなあ、遠いところまで運ばせて悪いことしたな。
そんなことを思いながら、まあ届いたならよかったよと呟くように言った。
 
 
「今部屋だろマルコ」
「お前がオレの部屋にかけてきたんだろい」
「へへっ、だってマルコが一番自分の部屋にいるだろ」
「オヤジでもよかったじゃねぇかい」
「オヤジに直通なんて、びっくりさせたら悪いだろ!」
「オレならいいのかよい」
 
 
ははっと笑ってごまかして、まあとりあえず、とエースは今いる場所、集めた情報、そして今後の予定を如才なく伝えた。
 
 
 
「…ああ、よくやったよい」
「よくって、たいした成果ねーじゃん」
「いや、成果なんてモン」
 
 
なくてもいい、とマルコは続けなかった。
エースが船を飛び出した行動そのものを否定する言葉を飲み込んでくれたのだと、わかった。
ほっと息をついたような心地がして、マルコがまだこの旅に反対していたら、まだ怒っていたらどうしようかと心配していた自分に気付く。
いつまでたってもこの家族のうちで自分は末っ子で、怒られることが常だったのだとあらためて思い出した。
 
 
 
「弟に会ったんだろい」
「! そう!!ちょっと聞けよ!」
 
 
ひなびた食堂の端の席に腰かけて、電伝虫の眠たげな目を空いている手でいじっていたエースは、もたれていた椅子の背からがばりと身を起こした。
電伝虫が表すマルコの目が、少し驚きで見開いた。
 
 
「もうオレァびっくりしたぜ、ほんと、ルフィが、なあ!おい!!」
「…喋りてぇならもうちょっと要領を得て話せよい」
「だって!なあ!もうオレ感動しちまってよぉ!」
「んな取り乱して、弟に引かれやしなかったかい」
「バカだなあマルコ、ルフィの前じゃしっかりオレァ兄貴だぜ?こんな、くぅ、ああ、また会いてぇ!!」
 
 
食堂の親父が絶叫するエースを迷惑そうな目でちらりと見た。
背中の刺青を惜しげもなくさらしたまま店で馬鹿食いをして目立ったため、その店の閑古鳥は輪をかけて鳴いてしまった。
しかしおかげで人目、というより人の耳を気にせず会話することができる。
エースは構わず大声で自分の見た弟の姿を幾分かの脚色付きでマルコに語り聞かせた。
もちろん問わず語りである。
 
 
「…でな、これがまた色っぽい姉ちゃんを連れててだな」
「へえ、そりゃまた若造のくせにやるじゃねぇかい」
「だろ」
 
 
マルコが笑った気配が受話器越しに伝わって、エースも返すようにへへっと笑った。
しかしなんでだか次の言葉が続かない。
エースが不意に黙りこくると、奇妙な沈黙が漂った。
 
そう言えば自分が喋ってばかりで、マルコの話を聞いていなかった。
 
 
 
「…みんな元気か」
「ああ、今のところな」
「航海は」
「順調だ」
「…ステファンはメシ食ってるか」
「心配しなくてもハルタが世話焼いてるよい」
「2番隊は、サボってねぇか」
「…まぁ、最初のうちは泣いたり叫んだりで邪魔くさかったがねい。今はオレの管轄下で上手いこと働いてくれてるよい」
「…そうか、あ、オヤジはなんか言って」
 
 
ああ、とエースの言葉を遮ったものの、マルコからすぐには言葉は続かなかった。
しばらくして、問題はねぇよいと返ってくる。
 
 
「おめぇのこと心配してるが、身体の方も今はこれといってまずいこたぁねぇし」
「そうか、よかった」
 
 
思わず、エースは受話器を口元にあてたまま頬を緩めた。
しかしすぐに、紡ぎかけた言葉に迷う。
落ちた沈黙をごまかすように意味もなく数回まばたきしてから、おずおずと口を開いた。
 
 
「…アンタ、は。元気か」
 
 
ふっと、電伝虫の目元が和らいだ。
 
 
「ああ、元気だよい」
「…メシ、食ってるか」
「言われたとおりお前の分まで食ってるよい」
「うそつけ…あ、よ、4番隊はどこが」
「ジョズが見てる」
「そ、うか、悪いな…」
「お前が謝ることなんざねぇ」
 
 
そうか、と聞こえないほど小さく呟いた。
またもや口を閉ざしたエースに、不意にマルコがくくっと笑った。
 
 
「なに、もうホームシックなのかい」
「バッ…!ガキ扱いすんじゃねぇ!」
「はいはい」
 
 
ムキになって反論した。
でも、こんなにも苦しいほど『家』が恋しいなんて、ホームシックと呼ばずに何と呼ぶだろう。
 
受話器の向こうでいまだ笑っているマルコは、電伝虫が伝えるエースの表情に気付いたのかゆっくりと笑いを飲み込んだ。
 
 
「マルコ」
「ああ」
「会いてぇなあ…」
 
 
その言葉を噛みしめるように、マルコが、マルコの表情を伝える電伝虫が、目を閉じた。
目的を果たさない限り口にできない「帰りたい」の言葉を伝える代わりに、これほど的確な言葉があるだろうか。
会いたいんだ、と強く思った。
クルーに、オヤジに、マルコに、サッチに。
 
 
「まったくだよい」
 
 
マルコは目を閉じたままそう言った。
 
 
「…オヤジにもいろいろ、話してやれよい」
「ああ…」
「隊員たちにも取り次ぐから、覚悟しとけよい」
「わかってる」
 
 
受話器を持ったまま、エースは叱られた子供のように俯いた。
今から続く言葉は、「それじゃあな」だ。
言いたくなかった。
 
 
「エース」
「ん…」
「早く帰ってこいよい」
 
 
 
ぎゅっと奥歯を噛みしめた。
そうしないと、思わぬ何かがいろんなところからこぼれ出そうだった。
うれしいのに、いとしすぎてかなしい。
 
エースが答える前に、マルコが口を開いた。
 
 
「このままオヤジの部屋繋いでやるよい」
「ああ…サンキュ」
「そんじゃあ、また」
「…また」
 
 
マルコが回線を回し電伝虫が保留のために目を閉じる一瞬の間に、自分でも聞き取れないほどの願いをどこかの誰かに猛烈な速さで願った。
 
 
どうかオヤジの身体が悪くなりませんようにこのオッサンがメシも食わずに病気になってぶっ倒れたりしませんようにサッチが海に還れていますようにどうかみんな無事に前へ進みますように。
 
 
電伝虫がまたぷるぷると鳴きだして、ああ生きて帰れますようにというのを忘れたと思ったが、まあそれはいいかと思った。
 
 
 

拍手[17回]

マルッコー、と幾分弾んだ声がカウンター越しに厨房から飛んできた。
夕食を終え食後のコーヒーを飲みほしさて部屋に戻ろうかというところだったマルコは、その声に怪訝な顔を上げた。
声の主サッチはマルコを見ることもなく、ジーと虫の鳴き声のような音を立てるオーブンに熱い視線を注いでいる。
サッチはそのまま再び口を開いた。
 
 
「明日何食いたい」
「明日ぁ?」
 
 
白ひげ海賊団の毎日のメニューは、サッチ率いる4番隊があらゆる食への知識を動員して立てられる最高の献立である。
なんでそんなことオレに聞く、と付け足したマルコにサッチはやっと顔を上げた。
呆れ顔である。
 
 
「なんでじゃないでしょ。たんじょーびだよ、たんじょーび」
「誕生日?」
 
 
誕生日ってなんだっけ、とでもいうような顔をして見せたマルコにサッチは本気で呆れたように肩をすくめた。
 
 
「そうだって、一番隊隊長不死鳥のマルコさん。あなたのたんじょーびですよー」
「…あぁ」
 
 
明日あなたの誕生日ねと言って、これほど気のない返答があるだろうか。
サッチは内心ガックシ、と頭を垂れた。
ガックシ、と声が漏れていた。
 
 
「ま、とりあえずいろいろ作るけどさ。お前の好きなもんはフルコースで、あと年代物の酒開けて…
あとはお前のリクエストに応えるけど」
「んな仰々しいことしなくていいよい。メシも適当で」
「バッカお前それで野郎どもが満足すると思ってんのか」
 
 
家族の生誕はみんなで祝うもの。
半ば刷り込みのように教えられたそれは、彼らがオヤジと慕う白ひげの教育方針の一つである。
無論マルコもそれに染められているので、クルーの誰かが誕生日だと聞けば無条件で嬉しいし、祝いの言葉も言いたい。
だがそれがいざ自分のこととなるとどうもピンとこないのだ。
マルコは面倒くさそうに後頭部を掻いた。
 
 
「任せるよい」
「…投げやりね」
 
 
ま、いっかと呟いたサッチは一度ぴうっと口笛を鳴らしてオーブンを開けた。
もわんと甘い香りが立ち上る。
 
 
「何焼いてんだい」
「ケーキ」
 
 
お誕生日ケーキを焼いてるんですよ、とサッチはオーブンの中身から目を離すことなく付け足した。
 
 
「これぁ試作品だけどなー。言やぁエースの夜食だ」
「お前甘やかすんじゃねぇよい。餌付けなんかしやがって」
「餌付けじゃねぇもん。夜中ここに食い物置いとくと勝手にエースが食うんだもん」
「余計駄目だろい!!」
 
 
刺々しい声を出したマルコを、サッチはまあまあと宥めた。
 
 
「明日は楽しめよー」
「はんっ、誰かさんがさっさと換金リストのまとめ出してくれたらそのほうがよっぽど楽しいよい」
「ひえぇ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
翌日、マルコはいつもどおりの時間にいつもどおり起きた。
近頃肌寒いため、一度むくりと起き上った体は再び生暖かい布団の中へもぐりこむ。
それを数回繰り返してマルコはようやくベッドから抜け出した。
いつものことなので、とくに生活に支障はない。
 
部屋で顔を洗い着替えて、マルコは部屋の扉を開けた。
と、ぱさりと足元に何か落ちる。
同時に視線も落とすと、鮮やかな幾つもの色が目に飛び込んできた。
青、白、黄色を中心に色鮮やかな花が連なって輪を作っている。
それが部屋の外側のノブにかかっていたのだ。
それを見てマルコは、今日と言う日の意味を再び思い出した。
 
モビーの上では誕生日が来るとその日の朝、部屋のノブに花輪がかかる。
隊長格であろうとナースであろうと下っ端の一隊員であろうと、誰にも平等に誕生日がやってくるように、その日になると誕生日の主役の部屋には花輪がかかるのである。
それを誰がやっているのか、そいつがどうやって全員の誕生日を把握しているのかはほとんどのクルーが知らない。
モビーディック号の化身、クラバウターマンがやってるんじゃないかとの噂もあるが、本当のところは謎のままだ。
 
細やかな野郎がいるもんだよい、とマルコはそれを拾い上げた。
その動作をするマルコの口元は自然とゆるく弧を描いていたが、それにマルコ自身が気付くことはない。
 
花輪を部屋の内側のノブに再びかけて、自室を後にした。
 
 
 
 
 
 
部屋を出て食堂に辿りつく数分の間、すれ違うクルーはもれなくマルコに祝いの言葉を告げた。
おめでとうございますと笑顔で言われて、ああありがとよいと返すと、マルコよりむしろクルーたちの方が明らかにうれしそうな顔をする。
 
そうも誕生日ってのぁいいもんかねい、とマルコは内心呟いた。
マルコにとって誕生日に起こるいいことは、酒が多く出て美味い物が食える、それくらいである。
 
 
「マルコ隊長!おはようございます!お誕生日おめでとうございます!」
「ああ、ありがとよい」
 
 
13番隊と思われるクルーは、マルコの返答に嬉しそうな顔で笑い返して去って行った。
まああいつらが嬉しそうならそれはそれでいいか、と曖昧な納得を抱えてマルコは食堂へと入っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
「マルコ、次の島の報告書だ」
「ああそこ置いといてくれ」
 
「マルコー、見張りの当番表廻ったぜ、チェックしてくれ」
「おう」
 
「悪いマルコ、これなんだが…」
「ああ、それぁ確かここに資料が」
 
 
 
 
仕事が来る。
じゃんじゃん来る。
マルコはめまぐるしく働いた。
といっても目まぐるしく動いているのは頭の中だけで、マルコ自身は自室の椅子から一日のうち数えるほどの時間しか離れていない。
 
いつも通りの日々だ。
頭の中は今後の仕事の算段でいっぱいで、余計なものはすべて仕事の邪魔にならないよう自ら頭の片隅に身を潜ましている。
そういう考えの配分を自然とこなしてしまうマルコは、怒涛の流れで進む仕事にも、忘れていく今日のイベントにも、特に違和感がなかった。
 
 
 
 
「マルコごめん!遅れ…た?」
 
 
エースが滑り込むように書類を掴んで入ってきた。
現在時刻午後四時。
いつもなら積もり積もった仕事に追われてマルコが最も根を詰めている時間帯である。
そしてそこに遅れた書類を叩きだすのがいつものエースの姿で。
 
しかし飛び込んだエースが見たのは、ちょうど煙草に火をつけたところのマルコだった。
 
 
「おう、やっと持って来たかい」
「マルコ、仕事終わった?」
「ああ、どれ貸してみろい」
 
 
エースの手から書類を受け取ったマルコはそれに一通り目を通す。
そしてさらさらと必要事項を書き込み、サインをし、丁寧にファイリングした。
 
 
「完了?」
「完了」
 
 
オウム返しのようにマルコが答えると、エースがにんまりと笑った。
目が三日月のようになっている。
 
 
 
「…なに気味悪い笑い方してんだい」
「なっ、ひどっ、おまっ」
 
 
 
心外だとでも言わんばかりの顔でエースがマルコをじとりと睨む。
マルコは煙草の煙を吐き出しながら笑った。
 
 
「んじゃ、行こうぜ!もう準備できてんだろ」
「あ?どこに。メシはまだ早ェだろい」
 
 
エースは踵を返しかけた足を止めて、肩ごしにマルコを振り返った。
呆れたようなその顔は、とてもサッチに似ている。
 
 
 
「あんたのための宴に決まってんだろ」
 
 
 
 
そこでマルコは再三忘れていたそれを、再び思い出したのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
乾杯の音頭は、なぜか既に酔っぱらっていたラクヨウとハルタがとった。
 
 
「われらがあー、一番隊のお、マルコの生誕を祝いましてえー!!」
「ふしちょーのおー、さらなる繁栄を願いましてえー!!」
 
「さらなる繁殖じゃねぇの!」
 
 
ギャッハッハという笑い声と、「乾杯!!」の叫びが重なって怒号のようになった。
乾杯してしまえばあとはもうただ飲むだけの野郎たちである。
本日の主役に一声二声かけて酒の一気飲みを煽り、嫌な顔をされて笑って逃げる男たちが後を絶たない。
 
いつもの馬鹿騒ぎに輪をかけて騒がしく始まった宴を、マルコは淀んだ色の酒が入ったジョッキを片手に呆れ顔で眺めていた。
眺めると言っても次から次に声がかかるのでゆっくり飲むこともできない。
しかも飲めるのは淀みきった各種の酒フルコースミックスで、純粋なものは期待できそうにない。
 
 
 
 
目の前に並べられた料理をつまんで、その美味しさにひとり薄らと笑う。
笑ったマルコを端目で確認して、サッチがまた笑う。
 
エースが花火を上げた。
悲鳴のような歓声が上がる。
 
誰かが海に落ちた。
誰かが服を脱いだ。
 
白ひげが彼のための席で旨そうに酒を飲む。
マルコと目が合うと、にやりといつもの顔で笑った。
気まずげに目を逸らしたマルコは少し逡巡して、それから自分を囲む男たちに一言告げて腰を上げた。
 
 
 
「いい夜だなあ、マルコ」
「…宴の大義名分なんてあってないようなもんだろい」
「どうだかな」
 
 
白ひげは大きな盃を指先で簡単に持ち上げ、ぐいっと一口飲んだ。
旨そうに、滴が端からこぼれていく。
マルコが白ひげの隣に腰を下ろすと、白ひげはマルコのジョッキに自分の酒を満たした。
そしてすぐ自分の杯にも注いだ。
 
 
「…オヤジ、あんまり」
「あぁ?今日は小言ぁ聞かねぇぜ」
 
 
独特の笑い声と共にマルコの窘めを一蹴した白ひげは、よかったなと呟いた。
 
 
 
ばれていた。
今この瞬間自分がとても満たされた気持ちでいることがオヤジにはばれていた。
そう思うと気恥ずかしいような、くすぐったいような、どちらにしろおっさんと呼ばれる年の男には似合わない気分になる。
 
 
 
いつ絶たれる命かわからないから、見るのは前だけでいい。
それゆえ生まれた日を顧みても、なんの感慨も起こらないのは仕方がないと思う。
 
それでも大切な日を大切だと惜しげもなく思うことはとても大切だ。
自分にとってなんでもないたった一日をこんなにも色鮮やかにしてくれる。
それを教えてくれる人が、とても大切だということも、わかる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ああ…悪くねぇよい」
 
 
 
白ひげの愛酒をぐいと飲み干すと、ほんのり視界が淡く滲んだ気がした。
 
 
 
 

拍手[10回]

一歩ずつ歩み寄ってくるように、夜は訪れる。
海よりも薄く淡い青色だった空が、だんだん赤みが増してきて、オレンジと紫と青のグラデーションを描く。
船べりに腰かけて足をぶらんと揺らしているうちにオレンジはどこかへ行ってしまって、気づけば紺一色の空になっていた。
 





覚醒





 
 
オヤジはまだかなあと空を仰げば風がそよいで、港に並ぶ住宅や飯屋から晩飯のにおいが届く。
 
あそこの家は焼き魚だろうか、香ばしいにおいがする。
あっちの飯屋では宴会を開いているらしい。
海の男たちの豪快な笑い声とジョッキがぶつかる音が、港に停泊するこの船の上にまで聞こえてきた。
 
 
 










 
 
とんと足場を蹴って船底へと着地する。
すでにあたりは顔の判別がつかないほど黒く暗くなっているが、あまり油は無駄にできないので灯りはつけないでおこうと、マルコは一度手に取ったランタンにふたをかぶせた。
 
 
 
 
暗闇に慣れてきた目を頼りに船室へと入った。
小さなキッチンが隅っこに備え付けられた小さなダイニング。
部屋の隅に置かれていた樽の栓を開けて、マルコは一杯の水を飲んだ。
 
自分の背丈ほどの高さのそれをマルコは上から覗くことができないので、ふたを開けて中身があとどれくらいかを見ることはできない。
明日にはきっと水の調達にマルコも駆り出されて、オヤジと一緒に街を歩くことになるだろうからあまり惜しまなくてもいいのかもしれないけれど、一応、無駄にはできない。
 
 
真っ暗なキッチンを見渡して、ふうと息をついたマルコは上へと伝う梯子に手をかけた。
 




 
 
ハンモックがひとつ。
そのとなりにも、二回りほど小さなハンモックが、ひとつ。
 
 
部屋の壁にぴったりと寄り添っている机の上には航海術のいろはが書かれた専門書が昨日眠る前の状態のままそこにあった。
 
文字が読めないマルコにとって専門書などどこが図式でどこが文字なのかすらわからない代物で、読み始めてひと月たった今でも本文はわからないことだらけだ。
オヤジがいないと読めないというのはひどく難儀で、時間がかかる。
しかしマルコが一文を一時間かけて読むだけで喜んでくれる人がいるので、苦にはならなかった。
 
 
「…しつどが、70いじょう、おんどが28いじょう…」
 
 
昨日読んだ一節を暗闇の中で諳んじて、マルコは本を閉じた。
 
 
 
 
 



 
 
 
 
 
ふたりの寝室の壁、大きなハンモックの頭側にはこれまたマルコの等身大ほどのサーベルが一本置いてある。
 
触るなと言われているので、触らない。
ただ、少し離れたところから見るだけだ。
 
 
不意にマルコは自分の手のひらを見つめた。
すっかり目が慣れて、ぼんやりと輪郭と共に手のひらが浮かぶ。
小さくて指も短くて、厚みのない手のひら。
この手では両手でサーベルを持ち上げることもできないだろう。
 
 
んっと声とともに力んでみても細い腕は細いままで、すとんと肩から指先まで一直線の腕は頼りない。
陸へ降りて同じ歳ほどの町の子供は、もう少ししっかりと肉がついていた。
自分は細すぎて、弱弱しくて、いっそ気持ちが悪いほど痩せている。
 
 
食べても食べてもいっこうに背は伸びないし、思うように肉もつかない。
だからトレーニングをしたところですぐにばてるので体力もない。
 
 
今までは、食べていないから背が伸びないのだと思っていた。
だから普通の量を食べられるようになればぐんぐんと背は伸びて、街の大人…は無理でも子供はすぐに見下ろせるのだと思っていた。
だってこんなにも大きくなりたいと思っているのだから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ダンッ、と重たいものが船底を叩き、マルコは俯いていた顔を上げた。
急いで梯子を下り、少し高い位置にある取っ手を体重をかけて押し開ける。
甲板には、マルコには抱えきれないけれどオヤジは楽々担げてしまう程の大きさの袋を、ちょうど下ろしたところのオヤジが立っていた。
 
 
「よう、マルコ。船番ご苦労さんだったなあ」
 
「お、おかえり!オヤジ!」
 
 
ああただいま、とマルコの頭上に手を置き、オヤジは船内へと入っていく。
そのあとに続くと、ぱっと室内に灯りが灯った。
 
 
「真っ暗ん中で灯りもつけねぇで、」
 
 
目が悪くなったらどうすると軽くいなされて、マルコは肩をすくめた。
オヤジはテーブルに置いた麻袋をごそごそと漁って、中から数枚の紙幣を取り出すと残りは金庫にしまった。
 
 
「よし、飯食いに行くぞ」
 
「船は?」
 
「グラララ!こんなボロ、誰もとりゃあしねぇよ」
 
 
 
じゃあなんでオレに船番させてたんだと言いかけたマルコを遮るように、オヤジはもう一度マルコの頭の上に手のひらを置いた。
 
 
大きくて、分厚くて、武器を握るから固くなった手のひら。
温かくて、ついでにさっきまで宝石類を触っていたからか少し金属くさい。
 
 
 
 
 
ほんとうは、どうしたらこんな手になれるのか知っている。
 
 
死ぬほど食べても、丸一日寝てても、吐くほどトレーニングをしてもこんな手にはなれない。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
既に船から港へと再び降りたオヤジは、早く来いと急かすようにマルコを見上げた。
マルコは慌てて船べりに足をかけ、オヤジの隣に着地する。
そして並んで歩きだした。
 
 
 
 
「オヤジ」
 
「あん?」
 
「オレ欲しいものがあるんだよい」
 
「おう珍しいな、言ってみやがれ」
 
どうにもできねぇかもしれねぇがな、とオヤジは口を曲げた。
 
 

 
「言わねぇよい」
 
 


 
そう言えばオヤジは細い目をひとつ瞬かせてから、そうかと呟いてまた笑った。
 
 
「内緒か」
 
「内緒だよい」
 
 
いっちょまえにと頭を軽く小突かれて、へへっと笑い声が漏れてしまった。
 
 
 
 
 
 
 
オヤジ。

オレも守るものが欲しい。

 

拍手[15回]


 

“血”












その日は抜けるような晴天で、海をずっと薄く引き伸ばしたような青が空高くどこまでも続いていた。
エースは見張り台の上、狭いスペースではあるが壁に背中を預けて空を仰いでいた。
 
 
(…すっげぇ、あったか…)
 
 
じんわりと体温が上がっていく。
温かいと眠くなる性質は誰だって子供の頃から変わらず、勿論エースもそれに洩れない。
重たくなってきた瞼に逆らわず目を閉じようとしたそのとき、今その瞬間までエースを包んでいた日差しが一瞬だけ消えた。
 
 
「お?」
 
 
ぱちりと目を開けば、ひゅんと鋭く風を切る音が後ろから聞こえた。
それが導くままに振り返れば、大きな青が金色を反射させながら後甲板の方へと羽ばたいていく。
 
 
 
(…マルコだ)
 
 
 
 
次の島への偵察は、たいてい単体行動の効くマルコかエースが行くことになっていて、今回はマルコの番だった。
そのマルコが帰ってきたらしい。
 
 
 
 
金の尾がふわりと波のように浮かんで、それから透き通るような、それでいて深い青色の羽が再び上下する。
 
 
 
エースは身を起こしてその姿が船の上を旋回しながら高度を落としていくのを見ていた。
 
相変わらず、綺麗だ。
以前、本当にそう思ったから『綺麗だなマルコ』と言ったら何故か殴られたからもう言わないが、本当は出し惜しみすること自体もったいないと思うほど、綺麗だと思う。
 
マルコは不死鳥で、それは誰もが知っていて、それがあいつの強みであって。
美しく、気高く、強く。
 
それなのに、本当にたまにだが、マルコが炎に変わった自身の腕を眺めているときにその瞳が無機質な色を宿すことがエースは気がかりだった。
 
 
 
「…綺麗なのになあ」
 
 
誰にともなくそう呟いて、揺れる金の尾を眺めていれば、後甲板へと降りていくマルコが突如一気に高度を落としたように見えた。
 
(!)
 
エースは思わず身を乗り出したが、すぐにマルコが何事もなかったかのように形成を立て直すので、気のせいかと詰めていた息を吐き出した。
それから見張り台の手すりに足をかけ、エースはとんと軽くその足場を蹴る。
ひゅんと甲板床に下り立ったエースは2週間ぶりに帰ってきたマルコを労わろうかと後甲板へと駆けだしたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「マールコッ」
 
 
甲板に下り立つと同時に人の姿に戻っていたマルコは、エースの声に素早く振り返った。
その様子にエースは首をかしげる。
 
「? おかえりマルコ」
 
「…あぁ、エース…ただいま、」
 
 
テンガロンハットのてっぺんを押さえてエースがにっと笑えば、マルコもいつものように少しだけ口角を上げて応えてくれる。
 
 
「…オヤジに、報告行くよい」
 
「ああそっか、じゃあ今日は宴だなっ!一番隊の奴ら喜ぶぞ!」
 
「…あぁ、じゃあ…」
 
 
朗らかに笑うエースにもう一度笑い返して、その横を通り過ぎる。
だがそれは、マルコがエースの隣に一歩を踏み出す前にマルコの身体が崩れ落ちたことによって叶わなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…え…?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ぐしゃりと、音もなく崩れ落ちたその身体を、エースは数秒の間呆然と見下ろしていた。
重なるように倒れた体はぴくりとも動かない。
白いシャツの下から盛り上がった肩甲骨がやけに目についた。
 
 
 
 
 
 
 
「…マ、ルコ…?っ、マルコ!!」
 
 
 
我に返ったエースが慌ててその肩を揺すり、俯いたマルコの顔を上向かせる。
 
 
「っ!!」
 
 
 
赤黒く酸化した血液がマルコの口から滴り甲板を染めていく。
一度大きくその身体が波を打ったかと思えば、またどろりとした血液を吐き出した。
 
 
 
 
 
「っあっ…!!だ、誰か!!マルコが!マルコが!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
じゃがいもが所狭しとひしめき合う籠を二つ両手に抱えて倉庫から出てきたサッチは、薄暗い倉庫に目が慣れていたため、一気に収縮する瞳孔に一瞬痛みすら覚える。
 
 
(おーおー今日もいい天気ってか)
 
 
 
グランドラインもやるじゃねぇかと言わざるを得ない青空ににやりと笑って、サッチはじゃがいもの籠を抱えなおす。
 
今日の昼飯用にこのジャガイモ全部を湯剥きして、家畜小屋から鳥四羽裁いて…と頭の中で今後の算段をしていると、ひらりと、ひと際眩しい光が目を刺した。
その方向へ顔を向ければ、大きく広がった羽がちょうど太陽を隠すところだった。
 
 
 
 
本日も無事不死鳥様ご帰還っと、
一人呟いたサッチは鼻歌を歌いながらマルコが飛んで行ったほうに背を向けキッチンへと歩き出す。
 
 
 
 
 
 
(…そういやあいつ、なんでわざわざ後甲板に)
 
 
 
普通偵察から帰ればすぐにオヤジに報告に行くわけで、それならば表甲板に降り立てば早いわけで。
たとえそうでなくてもわざわざ遠回りして後甲板に降り立つ意味はない。
それは、合理的なマルコの行動にしては不似合いなように思えた。
 
 
 
(…いっちょお迎えしてやるか、)
 
 
 
 
 
 
昔から、それはもう本当に昔から。
兄弟が帰ってきたならば出迎えるのが当たり前となっていた。
それは十年経っても二十年経っても、いつまでも当たり前であり続けたし、そうすることがサッチも好きだった。
 
 
 
おかえりと言えば、ただいまと言う。
こんなにも簡単に幸せになる方法が転がっているのだ。
捨てていてはもったいない。
 
 
 
 
 
 
 
 
くるりと身体を反転させたサッチは、籠の中のじゃがいもたちが落ちないよう軽く揺すりながら後甲板へと足を向けたのだった。
 
 
 
 
その数秒後引き攣った悲痛な声が進む方向から聞こえ、一瞬で宙に浮いたじゃがいもはサッチが跳ぶように駆け出すその後ろで雨音のような重たい音を立てて落ちた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ナースと船医の足音が重なり合う騒音は、いつの間にか止んでいた。。
その部屋の中にはひとりナースがいたが、他のナースに呼ばれて部屋を出ていく。
その際部屋の中にいたエースはじゃあマルコ隊長をよろしくと言われたが、何をどうよろしくすればいいのかわからない。
エースの脳内には未だ慌ただしい船医たちの悲鳴のような声が飛び交っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「エース」
 
 
座っていた回転椅子を少し回して振り返れば、膳をふたつ抱えたサッチがドアの傍に立っていた。
 
 
「マルコ、どうだって」
 
「…わか、ない…言ってること、よくわかんなくて…」
 
「…そか、」
 
 
まぁ食え、と差し出された膳の上にはまだ湯気をのぼらせるスープとピラフ。
半ば条件反射でスプーンを掴みそれを口へと運んだが、味なんかなかった。
サッチが珍しく失敗している。
 
「…なんか、まじぃぞ」
 
「…そりゃオレのせいじゃねぇよ」
 
 
確かに今砂を食べても同じ味がする気がする。
もう一つ椅子を持ってきたサッチは、エースと並んでベッドの前に座った。
その膝の上には、エースと同じ膳が置かれている。
二人は黙々と手を動かした。
 
 
「…ほんと、まじぃな」
 
「…だろ、」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
カツン、とスプーンがさらにぶつかった音がやけに響いた。
 
 
 
 
 
 
 
「…マルコの奴、帰ってきたとき、傷なんかなかったんだ」
 
「…」
 
「…外からじゃ、全然、普通の身体で…」
 
 
 
 
半分以上なくなった膝の上の食べ物を見つめたまま、エースがぽつりぽつりと零し始めた。
カランッ、と皿の上にスプーンが放り出される。
 
 
 
「…ッこいつっ、再生追いつかなかったくせに、外側だけ治して帰ってきたんだ…!
オレらに、気づかれねぇようにっ…!
だから傷口がどこかわかんねぇって、船医たちが焦ってて…
…だけど腹開けてみたら、内臓破れて、血の海だったって…!
…オレ、オレッ…全然気づかなくて…!!」
 
「当たり前だ馬鹿。しょうがねぇよ」
 
「…っどうしよう、サッチ…!マルコが死んだら、オレ…!!」
 
 
 
マルコは死なねぇよと、以前ならもっと軽く言えたのだろう。
だけど今、虫の息の兄弟を目の前にしてどうしてもその言葉が出なかった。
 
 
 
 
 
 
「…不死鳥も、不死身じゃあねぇんだな…」
 
 
息とともに吐き出すようにそう言ってから、その言葉が形になると想像以上に重たくてサッチは顔をしかめた。
 
わかっているはずのことだった。
マルコは不死鳥だが、不死身ではない。
傷は治るが痛みは残る人間の身体だ。
 
 
 
不死鳥の能力を手に入れて、無茶をするようになったマルコを何度もたしなめた。
 
 
 
 
(お前あんま突っ込んでくなよ、いくらなんでも危ねぇだろ)
 
(…オヤジのためなら、オレにしかできねぇこと、したいんだよい)
 
 
 
いいんだよいすぐに治るから。
そういってマルコは不敵に笑った。




 
 
いつだってそうだ。
今日のように外から見える部分の傷は綺麗に治して、痛みの形で残った傷は静かに蓄積させて、ひとりのときそれに耐える。
 
 
 
 
賢いフリしたとんだ馬鹿野郎の鳥頭は、わかっていない。
マルコが血を流せば痛いように、オレたちだって痛いんだ。
その血が繋がってなくても、たとえ赤の他人だろうと、苦しいときはいつだって一緒だ。
 
 
 
隠さないでほしい。
馬鹿げた矜持なんて腐らせて捨てちまえ。
いつだって一緒に苦しむ準備はできている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…エースほら、泣くな」
 
 
自分の髪をひっつかんでぎゅっと固く閉じた目の隙間からほろほろと涙をこぼすエースを、サッチが椅子ごと抱き寄せた。
目の前のコックコートにしがみつき、エースは恐怖に堪えるように震えながら泣いた。
 
 
 
そのとき、エースが鼻をすする音の隙間からごそりと布擦れの音が唐突に耳を打つ。
 
 
 
 
「…ん…」
 
 
 
ぴくっと眉を動かしたマルコは、いつものように眉間に皺を寄せてうっすらと目を開けた。
 
 
 
 
 
 
 
「…マルコ…?マルコ!!」
 
 
 
エースが飛びつくようにベッドの端に手をつくと、そこに寝そべっている当のマルコはいつものごとく鬱陶しそうにぐちゃぐちゃといろいろ入り混じったエースの顔を見上げた。
 
 
「なんだよい…きったねぇ顔しやがって…」
 
「きっ…!お前なぁ!」
 
 
絶句したエースがマルコに食って掛かろうとしたそのとき、唐突に部屋の扉が開いた。
 
 
「あ、マルコ隊長置きました?」
 
 
先ほど出て行ったナースは、目の前の出来事に特に動じることもなく間延びした声で良かったですねぇと笑った。
 



 
 
「…っておいおい、いいのか!?オヤジに知らせたり、その、なんかまだどっか診たりしなくて」
 
「え?はい、船長さんには知らせましたし」
 
「知らせましたって…」
 
 
ナースのあまりの冷静ぶりにサッチが言葉を失っていると、ナースは固まった二人の隊長を前に首をかしげる。
 
 
 



 
 
「私エース隊長に、マルコ隊長はそのうち起きますよ、って言いましたよね?」
 
 
 


 
 
 
サッチが答えを求めてエースの方を振り向けば、エースは呆けた顔でサッチを見つめて、それからナースを見つめた。
 
 
 
 
「…言われたっけ、」
 
「はい、『あぁ』って返事されましたよ」
 
「・・・」
 
「お前呆けてて聞いてなかっただろ!!」
 
 
つ、と一本エースの額に汗が流れた。
 
 
 
「…じゃあマルコは、」
 
「えぇ、はい。それも一応言いましたけど、もう大丈夫ですよ。マルコ隊長、私たちが治療してる傍からボウボウ燃えだして勝手に再生してくんだもの」
 
 
そうやってできるなら最初っからそうしてくださいよねぇ、と尻込みすることもなくあっけらかんとそう言い再び部屋を出ていくナースに、すまねぇよいとマルコが礼を返す。
 


 
淡々と進んでいく目の前の話に、サッチとエースはただ立ち尽くして目を丸めた。
 
 


 
 
 
「…こんの、バカマルコがぁ!!オレの美しい涙を返せ!!」
 
「痛っ!」
 
エースの平手がばしっとマルコの腹を叩くと、マルコは大仰に顔をしかめた。
 
 
「おまっ…!怪我人に手ぇ上げるんじゃねぇよい!それにてめぇが大事な話聞かねぇで、どうせ勝手な想像したただけだろい!」
 
「そうだとしても許さん!」
 
 
 
未だ寝ている状態のマルコの腹をびしばしと遠慮なく叩くエースに、マルコは軽く上体を起こして、その額を押し返したりそばかすの乗った頬をひっぱったりと怪我人らしからぬ応戦を始めた。
 
だがそれは、マルコがある一点に目を止めたことでぴたりと終わった。
 
 



 
 
 
 
 
「…サッ、チ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
下がり気味の眉をいつも以上に頼りなく下げたまま、それでも口はぎこちない笑みを浮かべるサッチの顔には、安堵に交じって未だ少しの恐怖が滲んでいた。
 
 
いつもふざけた風なサッチの初めて見る顔に、マルコもエースもぴたりとその動きを止めた。
 
 
 
 
「…サッチ、」
 
「…へへ…んとに、なんだってんだよ…」
 
 
 
カツ、と一歩踏み出したサッチは、唐突にマルコの額にチョップをかました。
あまりの不意打ちにマルコの上体は再びベッドへと沈む。
 
 
 
 
「痛ぁっ!!サッチてめぇ!!」
 
「アホウドリが!心配かけおって!反省なさい!!」
 
 
 
 
倒れ伏したマルコが額を押さえる手の隙間からサッチを除くと、その顔はいつものようで。
 
 
 
 
(…あぁ、嫌なもんを見た)
 
 
 
 
あんな顔をしたコイツなど二度と見たくないと、マルコは手のひらの下でこっそり笑う。
 
 
 
「…悪かったよい」
 
「ほんとにだぜ!」
 
「まったくだ」
 
 
偉そうに憤慨するエースとサッチを見上げて、マルコはいつものごとく口角を上げた。
 
 
 
 
「オレァそう簡単に死なねぇよい」
 
 
「はっ、どうだか」
 
 
 
今日のその姿じゃ説得力がねぇですぜマルコさん、と吐き捨てにやりと笑うサッチに、マルコも確かにと笑い返した。
 
 
 
 
「ま、一回くらい死にかけるのもいいんじゃね、マルコは」
 
「違いねぇ」
 
 
 
一瞬の間があいて、ふっと三人が同時に笑いを漏らす。
さっきまでの凍りついた空気が嘘のようで、あまりに嘘っぽすぎて今この時さえも嘘か、はたまた夢なんじゃないかと心配になる。
 
ただこの時が現実であることを、今さっき触れ合った場所からリアルに伝わる体温が告げていた。
 
 



 
 
 






(((・・・あぁ、)))









失いたくないと、心の底から叫んだ。 
 

 

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