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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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「ついてねェなぁ」
 
 
イゾウは着物の裾に飛んだ赤色を忌まわしげに睨んだ。
足元に文字通り転がる男を跨いで、時には踏み、酒屋の扉に手をかける。
しかし古ぼけた木の扉を半分押し開けてから、「あ」と声に出して振り返った。
半分崩れたカウンターの向こう側で、店主の親父が呆然と立ち尽くしている。
イゾウと視線がかち合って、ヒクリと肩を揺らした。
 
 
「あぶねぇ忘れてた。ほい勘定」
 
 
イゾウはおもむろに懐から数枚の紙幣を取り出して、店主の目の前にぽいと放る。
飲んだのはたった一杯だったが、あまりは店の修理代だ。
ちらりと上に視線をやると、店の天井には一か所銃創がついて煙を上げていた。
イゾウが撃ったものではない。
 
海賊と言えどどこかのバカと違って食い逃げなど後味の悪い酒は飲みたくない。
しかしこの足元に転がる屑共のためにいくばくかの金を無駄にするのはつまらない。
だからイゾウは、足元にうつ伏せに倒れる男を軽く蹴って仰向かせ、その胸元からポロリと落ちた札束を拾い上げた。
あくどいイカサマで一般人から巻き上げた金だ、海賊のイゾウがもらったところでたいした違いはない。
 
 
「ごちそうさん」
 
 
イゾウはつやりと光る黒髪の後れ毛を撫でつけて店を後にした。
半壊した店の中で、イゾウが積み上げた男共と共に残された店主は何か言おうと口を開いたが、立ち去る男の服の肩口にあるマークを目に留めて、結局なにも言うことができなかった。
 
 
 
 
さびれた港町に停泊していた。
かろうじて酒場と娼館だけはある。
停泊の目的は食料の買い足しだと聞いていたが、こんなうらぶれた街にうまい食材があるとは思えなかった。
なんにせよ、我が家の末っ子が食料を非常食まで食いつくしたせいで急きょ寄港することになったのだ。
貧相な収穫であろうと背に腹は代えられない。
事の発端である末っ子は、既にコックの一団から目も当てられない仕置きを食らって今日も下っ端と一緒に腫れた顔をさらして甲板掃除をしている。
その目も当てられない仕置きに声を上げて笑った男がイゾウである。
 
さてなんともつまらなさそうな島だ、と船の上からは口々に不満の声が漏れたが、とはいえ陸が恋しいのは誰も同じ。
クルーはいそいそと街へ繰り出していった。
錨をおろしたのが朝も早いころ。
一日かけて食料の調達から積み込みまで済ませ、今日の夜更けにまた出航という慌ただしい寄港である。
 
非番のイゾウに仕事はなかった。
実際16番隊は、自隊の部屋群があるモビーとは別の船の見張り当番ではあったが、隊長のイゾウに実務は課せられない。
よって、イゾウがこの日目覚めたのは島についてからだいぶと経ち日も高く上った昼頃だった。
なんだよ誰か起こしてくれりゃあいいのに、とぶつぶつ文句を言いながら人けのない食堂で朝飯のような昼飯を食べ、ひまつぶしがてらイゾウも遅れて船を降りた。
とはいえ、島は予想以上の寂れ具合で特にめぼしいものもなく、店を覗こうにもその店は開いているのか閉まっているのかもわからないような様子で入る気も失せ、必然的に行き場所は酒場か娼館か船に戻るの三択となる。
船に戻ったところで自分にやることはない。
オヤジの顔でも見に行こうか、と思ったが今夜はモビーで過ごすつもりなのでそれは暗くなってからで事足りる。
 
さらに、女を買う気分でもなかった。
そういえば近頃買った女と夜を過ごした覚えがない。
酒場で適当にひっかかった女と過ごせば金はかからないし、そもそも女と過ごす夜自体少なくなっていた。
オレも歳だろうか、とぼんやり考えながらうら寂しい街の中を歩いていたら、細い路地を入ってすぐのところに「営業中」の看板を上げる酒屋を見つけて足を止めた。
船を留めた入り江のすぐ近くの酒場に行けば大勢の白ひげクルーが既に飲み食いしているだろうが、小さなところでひとりで飲むのも悪くない。
イゾウはほとんど気まぐれと言っていい気軽さで、目についたその店にふらりと入っていった。
 
 
店は予想を裏切らない小汚さと雑多さで、小さな男がカウンターの向こうでつくねんと立っていた。
店の隅のテーブル席では2つのグループが賭け事に高じている。
イゾウはカウンター席に座って、とりあえずこの店で一番うまい酒をと要求した。
 
日もまだ落ちていないようなこんな時間に海賊でもないバカたちが賭け事をする場所。
一人で酒を飲むのに適した場所ではなかったが、出された酒が案外うまかったのでイゾウは気をよくした。
下卑た男たちの笑い声もBGMだと思えば聞き流せる。
イゾウの前でおどおどしながら酒を作る店主が、話しかけようか迷った素振りを見せてから、意を決してイゾウに声をかけた。
 
 
「兄ちゃん、今日の朝南の岸に船付けた海賊船の人だろう」
「おう、なんだばれてんのか」
「なんにもない島でつまらんだろう」
「まったくだ、もう今日の夜中にゃ出てくよ」
「それがいい」
 
 
店主は島の人間のくせにやけにイゾウに同調して頷いた。
島民がこうじゃそりゃ栄えもしないわけだ、とイゾウは内心で頷き返す。
不意に、右肩に温かい重みが乗った。
 
 
「おにいさん旅の人?」
 
 
女の人かと思っちゃった、とイゾウの肩に手を乗せた女がふふっと笑うと、甘い香りがふわっと広がった。
イゾウは肯定も否定もせず黙ったまま、目だけで笑い返す。
よく酒場にいる種の女のように派手な服を着ているわけではなかったが、イゾウの肩から腕にかけてを撫でるその女の手つきは慣れた者のそれだった。
無視されなかったことに気をよくした女は、小さく一言断ってイゾウの隣に腰かけた。
 
 
「怒らないで、そこらの女よりずっと綺麗だったから」
「よく言われる」
「やだ」
 
 
女は甘いにおいをまき散らしながらくすくすと笑った。
安い娼婦のように下品に触りに来ないことに好感を感じ、好きにさせておくことにした。
イゾウはもう一口酒を飲む。
女は物珍しげな視線に少しだけ性的な光も絡ませて、隠すこともなくイゾウを見つめる。
ああ今日は船に帰るつもりだったんだがなァ、とグラスの中の氷を揺らしたそのとき、背後に近づく気配に気付いた。
楽しい気分もここまでだ。
イゾウはグラスの中身を一気に飲み干して、女の視線に応えるように顔を向ける。
女は大きな目を猫のように細くして笑い返そうとしたが、女のほうもそこでやっとイゾウの背後に立つ人影に気付いて怪訝な顔を上げた。
 
 
「おい兄ちゃん、新参者がでかい顔して飲む前にオレに断りは入れたか?」
「ちょっとなによアンタ」
 
 
女は思ったより気が強いタイプらしい。
背丈も身幅もたくましい男とその取り巻き数人を相手に、彼女は強く睨み返した。
狭い島だ、どうせ知った顔同士なのだろうとイゾウはぼんやりと観察する。
男たちは敵意を向きだす女を無視してイゾウに顔を近づけた。
 
 
「小さい店だからと思って油断したか? 残念、ここぁオレのナワバリだ。この店に入るにゃまず入場料、そんでもってオレへの貢物でも持ってくるんだな。どうせでかい酒場にゃ今朝の海賊共がいるせいでびびって入れなかったんだろう」
 
 
イゾウは男の言葉を聞き流して、ちらりと店内を見渡した。
ナワバリと言うには随分お粗末なものだ。
 
 
「おいお前この人には手ェださねぇほうがいい」
 
 
店主が面倒そうに口を挟んだが、男の「うるせぇ」の一喝で押し黙った。
イゾウは静かに口を開いた。
 
 
「入場料か、そりゃぁ知らなかった」
「ちょっとおにいさん、こんな奴ら相手にしちゃだめよ」
 
 
女は果敢にもまだぷりぷりと怒りながらイゾウの腕に触れた。
すると目の前の男がカッと目を見開いて怒りの形相をあらわにする。
なるほどそういうことか、とイゾウは心の中でハハハと笑った。
 
 
「テメェ何笑ってやがる!」
 
 
男が憤怒の形相でイゾウの襟首を掴みあげた。
どうやら笑い声は心の中だけで済んでなかったらしい。
あぁめんどくせェとため息が漏れる。
 
 
「悪いな姉ちゃん、せっかくだが別を当たってくれ。オレァもう飲む気分じゃねェ。あと危ねェから外出てな」
「でもおにい……」
「テメェいつまで掴んでんだよ汚ェな」
 
 
静かに酒を飲んでいたときとは打って変わって地を這って足元から昇ってくるような低い声。
イゾウに呼び掛けていた女の言葉が途切れた。
賢い女なのだろう、ハッと何かに気付いた顔をすると素早くイゾウに触れていた手を引いて静かに後ずさり、ぱたぱたと小さな足音を立てて店を出ていった。
 
これじゃまるでオレが逃がしたみたいじゃねェか、とイゾウの顔は自然と苦いものになる。
依然として男がイゾウの襟首を掴んだままなのもさすがに鬱陶しい。
 
 
「お前銃持ってるか」
「あ?」
「銃だよ銃。鉄砲」
 
 
バーン、と銃声を口真似る。
バカにされたと感じたのか、男は咄嗟に腰のあたりに手を伸ばした。
イゾウを囲む取り巻きたちもつられて同じ仕草をする。
やっぱりその上着に隠れたふくらみはあれか、秘密兵器か、とイゾウは隠すことなく口角を上げた。
 
 
「抜けよ」
 
 
な、と声を漏らした男は腰のふくらみに手を触れたまま固まっている。
挑発されて銃を出すのが悔しいのか、ただもったいぶっているのか。
バカの考えることはわからん、とイゾウはもう一度口を開いた。
 
 
「抜けよ。テメェのその御大層なモン抜いて撃ってみろっつってんだ」
 
 
返り討ちにしてやるよ。
その言葉のすぐ後、続けざまに鳴り響いた銃声は3発で、そのあとは一発たりとも銃声が鳴ることはなかった。
 
 
 
「不運だった」
 
 
イゾウは帰り道、またそうひとりごちた。
誰も聞いてはいない文句は紫煙とともに吐き出される。
イゾウは無意識のうちに、懐に入った二丁の銃の外郭をなぞるように着物の上から撫でていた。
腰に提げているのではあまりに挑発的すぎる、とサッチに指摘されたので仕方なく懐にしまい込んだ愛しい銃たちだが、結局絡まれたじゃねぇかと今この場にいない男に悪態をつく。
 
 
イゾウの胸ぐらから手を離して男が撃った一発目は、イゾウがことりと首をかしげたことでかわされて、かわりに背後の酒瓶が一本砕け散った。
至近距離でかわされて目を剥いた男の手をひねり上げ、落とした銃を受け止めた。
同時に鳩尾を蹴り上げて一人ダウン。
その銃を右側のもう一人に向けると、その男は見るからにすくみ上りながらもイゾウに銃口を向けた。
左側の男もイゾウの左のこめかみに銃を突きつける。
右側の男が引き金に力を入れるその瞬間、イゾウは手にした銃でその男の銃をはじいた。
はじかれた銃はぽんと男の手から離れ、その勢いで一発が天井に向かって放たれる。
それと同時に、イゾウは左のこめかみに触れる銃の銃身を二本の指でそっと前に押し出した。
左の男は両手でしっかりと銃を握っていたにもかかわらず、あっけなく逸らされた弾道は右の男に一直線で、放たれた三発目はイゾウの鼻先を通り過ぎて右の男の胸を貫いていた。
二人目ダウン。
残された最後の男は無様に涙目をさらして逃げようとしたことが癇に障って、適当に手を伸ばしたところにあった誰のものかもわからない酒瓶で頭をぶん殴ったら倒れた。
完勝である。
いつのまにか、絡んだ男たちと賭けをしていた他の客はさっさと逃げていたので店にはイゾウと店主、そして倒れた男たちのみであった。
 
 
イゾウは薄暗い薄暮時の道を歩きながら、出番がなくて悪かったなーと懐の二丁に話しかけた。
まぁ弾を無駄にせずに済んだのでよしとするか、とイゾウは船へと足を進める。
結局飲んだ酒は一杯だけ。
続きは船の上だ。
 
ぽつぽつと建っていた家や商店がまばらになり、次第にひとつもなくなる。
遠くの入り江に覗く小さな影がモビーだった。
ここから見るとちいせぇな、とイゾウは目を細める。
 
あそこでは100人単位で人間が動いている、と思うとぞっとした。
それは寒気のような、快感のような、イゾウにもよくわからない。
その100人単位のひとつを自分が動かしている、と言うのもまた現実味がなかった。
 
 
「イゾー」
 
 
どこかで名前を呼ばれた気がして、イゾウは視線を動かした。
気のせいにしてははっきりと、それも聞き慣れた声だ。
 
 
「イゾー」
 
 
おおい、イゾー、と呼ぶ声の主は、目印のつもりなのかメインマストの見張り台からちらちらとオレンジの光をちらつかせて手を振っていた。
火の粉が帆に飛んだらどうするつもりだ、と思いながらどうせ言ったところで聞こえないし学ぶ奴でもない。
イゾウは黙って手を振りかえした。
少しずつ、モビーの形がはっきりと、そして巨大になっていく。
どうも今夜は看板にいる人数が多い。
にわかに酒盛りでも始めるのだろう。
今から夜にかけて出港だというのによくマルコが許したものだ。
するとイゾウの目の端、暗がりに染まりつつある紺の空を、まるで今のイゾウの心を読んだように現れた青い光が彗星のように横切った。
煌めく金色を撒き散らしながら、幻想的な青の炎はモビーのメインマスト、エースのいる見張り台へと降り立つ。
エースの手に灯った赤い炎が一瞬大きく燃え上がり、それを包み浄化するように青の炎が飲み込む。
うちの1,2番隊隊長がたは、本人の見た目に似合わず荘厳で美しい能力の持ち主だ。
 
 
「イゾー」
 
 
マルコを出迎えたエースが、またイゾウを見下ろして手を振った。
もうずいぶんモビーが近い。
 
 
「遅ェぞイゾー」
「なんだよ、出港は夜中だろ」
 
 
もう声を張り上げなくとも、多少の大きめの声で聞こえる距離だ。
ちげェー、とエースは身を乗り出した。
 
 
「今日おまえのたんじょーびー」
 
 
タンジョービーってなんだっけ、と首をひねってから、ああ誕生日、と合点した。
 
 
「忘れてたのかよい」
 
 
呆れたようなマルコの声が降ってきた。
あの鳥野郎、たった一週間前の自分のこと棚上げしやがって。
 
 
「宴だぞー!」
 
 
タラップに足をかけると、下を覗き込むエースの腫れた顔がよく見えた。
男前が台無しだ。
 
 
「んじゃ飲むぞエース、降りて来い!!」
 
 
船縁から船内に飛び込むように降りると、隕石のように炎をたなびかせるエースが嬉しそうに落ちてきた。

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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