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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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*会話文のみ










夕焼け小焼けにはみ出た長ネギ










 


「おー、見ろよでっけぇー!」


「エース!!感動していちいち荷物下ろすな!また忘れるよい!」


「だってマルコほら、後ろ見てみ!なあ、ジョズ!」


「ああ、すごいな。だがオヤジが待ってるぞ、とりあえず歩こう」


「お、そうだな。言われてみれば腹減ってきた。サッチ今日飯何?」


「今日はこの島で採れた野菜をたんまり仕入れたので、それぶちこんでグラタンにします。あとスープ」


「うお!グラタンとかいつぶりだよ!」


「…涎拭けよい、汚ぇ」


「しかしエース君は昨日燻製中のベーコンを食っちゃったので、今日は野菜のスープのみです」


「…!………!!」


(((…絶句してる…)))


「…サッチ、ラクヨウの衣装箪笥の下から二番目の引き出しにある例のアレで手を打ちませんか」


「よし乗った。エースにもグラタンを支給してやる」


「にししっ、やった」



「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「なー久しぶりじゃねー?」


「何が」


「1・2・3・4番隊が一緒に下船すんの」


「ああ、言われてみればそうかもな。俺の3番隊は荷運びが多いし」


「おれっちんとこは食糧確保だし」


「オレは倉庫の整理か船番か街の探索!」


「という名の食い逃げ」


「っ、うるせぇぞサッチ・・・!たまには金払う!」


「いやいつも払えよい」


「そういうマルコは部屋篭ってばっかで腐ってるくせに」


「じゃあてめぇが書類の整理やれよい」



「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「あ」


「なんだいエース君」


「影、超長ぇ」


「おお、」



「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「なあ!背の順で並んでみようぜ!ほら、こっちジョズ!」


「子供か」


「いーじゃん、あ、サッチとマルコどっちが背ぇ高ぇの?」


「「オレ」」



「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「はい、背中くっつけてー。あ、サッチ」


「ほれみろマルコ!!」


「リーゼントのぶんだろい」


「喧嘩すんなよー」


「あ、着いた」













「「「「ただいまー」」」」



 

拍手[12回]

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俺がさく、と地面を踏みしめれば少し遅れてさく、と後ろから同じ音。
たったった、と走ってみればまた後ろからたったった、と同じ足音。
ぴたりと動きを止めれば後ろの気配もぴたりと止まった。

「~~~!!」

キッと後ろを振り向けば後ろのそいつも…というわけにはいかず、俺の後を付け回していた影のような野郎は俺が振り返ったことに満面の笑みを見せた。









近すぎて見つからなかった










「ついてくんな!」

「いやだ!」


ぐっと睨みを利かせて突き放しても一向に応えず、振り切ろうと全力で走っても死にそうな顔で追いかけてくる。
鬱陶しかったんだ、本当に。


「なんで逃げるんだよ!」

「なんで追いかけてくるんだよ!」

「じいちゃんが!!」


はぁはぁと肩で息をして、そいつは深く麦わら帽子をかぶりなおした。


「じいちゃんが言ってた、兄弟は一緒に遊ぶんだ!」

「…っ、そんなもん知るかっ!」

「知らなくない!俺はエースと冒険も蝉捕りも川遊びもしたいんだ!」


そいつは突然オレの手を掴んだ。
少し湿ったようなそれにびくりと肩が揺れる。
そしてすぐ、思いっきり振り払った。


「…おれには関係ない!」


付いてくるんじゃねぇぞと吐き捨て、俺はさらなるスピードで奴を残し森を駆け抜けた。












びっくりしたびっくりしたびっくりした!
ばくばくと飛び跳ねるうるさい心臓は、走っているからだ、そうだ。
でも手にはしっかりとさっきの感触が残っている。
あいつの全部の指が俺の四本の指をきゅっと掴んだ。
ふに、と柔らかくてそこからじんわりと熱が広がった。

(…ちょっと気持ちよかったな)

って、

「うあああああ!!」


何考えてんだあんな全然知んねぇ奴に手ぇ握られたくらいで!
気色悪ぃオレ!!

けっと誰にでもなく顔をしかめてから、でも嫌じゃなかった、と考えている自分がいてそれも嫌じゃなかった。




















「ぐふぅっ!」

突然脇にイノシシが飛び込んできたくらいの衝撃を感じて俺は目が覚めた。
隣で眠る小さな体から伸びた足がオレの脇腹に食い込んでいる。

「こいつっ…!」

伸びた足をひっつかんでそいつの布団へ放り投げてやると身体ごとぶっ飛んだが、健やかな寝息は変わらない。
ついでにこっちに飛んで来ていた布団を身体の上に投げてやると、自分からもぞもぞと布団にすり寄っていった。

「ったく…」

泣きはらして赤くなった眼の下が痛々しい。
こすりすぎて人差し指の付け根まで赤くなっていた。













こいつは他の誰でもない、俺のために泣いた。
泣いたんだ。
涙を惜しみなく流してついでに鼻水も垂らしまくって、言葉にならない言葉を叫びながら泣いた。
震える肩は弱弱しくて丸まった背中は小さかった。
それでも、









「…ふっ…うぁっ…!」










嬉しかったんだ。
本当は嬉しかった、手を握られたことも腰に抱きつかれることも背中に飛びつかれることも全部全部本当は嬉しかったんだ。





「ううぅぅぅっ!」








こいつの目には薄っぺらい意地のバリアも何も見えていなかった、ただ俺だけを見ていた。





「っ、う、あああっ…!」


「…ん、エース…?」




むくりと背中が弧を描き持ちあがった。
俺は慌てて顔をそむけて手の甲で顔をこする。
ルフィはおぼつかない四つん這いでこっちまで這ってきた。


「…エース…?泣いてるのか?」

「泣いてねぇ!なんで起きるんだよ、早く寝ろ!」


言われるまでもなく、起きたというか意識だけ俺のうめき声に引っ張り上げられたらしいルフィは、んぅとひとつ唸ってからぐらぐらと頭を揺らしだした。

「…エース…」

ぼふんとルフィの頭が倒れ込んだ。
それは俺の脚の上で。

「おいっ、おい!」


肩を揺らそうと掴んだそこから、またじんわりと熱が伝わる。
ゴムの弾力がある頬が脛に当たり、子供独特の高い体温が伝わってくる。
オレのそれと混ざり合って、足元から温もりが昇ってきた。





「…っ、くそっ」









こんなの俺は知らない。
知らないものは怖い。
怖いから遠ざけた。
遠ざけるとやっぱり欲しくて、
求めたら簡単に手に入った。

手に入れてしまったら、次は失うことが恐ろしくなった。



















とても長い旅をした。
面倒事にも多く出会い、守り守られる家族とも出会った。
旅立ちの別れも死別も悲しみとともに経験し、新たな出発の仕方を身に着けた。
すべてはあの堂々巡りを断ち切るため、答えを探して、探して、たどり着いたのは俺の人生が色づき始めたあのときだった。

ただの一度だって俺を見捨てたりしないその事実であり真実だけが、すべての答えだったのに。

拍手[9回]


「ほらエース、こぼしてる」

「お、いけね」

「マルココーヒー飲むかー」

「よい」

「…お前それ全然可愛くねェんだかんな」







馬鹿馬鹿しいけど愛してる







棚に行儀よく並ぶカップを二つ手に取り、もう片方の手でコーヒーメーカーに豆をぶち込む。
ゆるやかに品のいい香りが立ち上った。
こぽこぽと茶色いしずくが落ち始めた頃、テーブルのほうではばたんぐちゃっぐーという三重奏が聞こえてきて、はぁとため息をつく。
入れたてのコーヒー二つを片手で持ち、よっという掛け声とともに壁に掛けてある布巾を手に取りテーブルへと戻った。
エースは誰よりも早く食事をはじめ、誰よりも長く食べ続ける。そしてその合間に小休憩が入るのだ。
突然死ならぬ突然睡眠。本日はナポリタンの中に顔を突っ込んでぐーすかやっている。
オレは末っ子が起きてトマトソースを乗せた顔のまま出歩かないよう、スプーンを握っていないほうの手に布巾を持たせてやった。

「ん」

「ありがとよい」

新聞片手にあくびをかますマルコのわきにカップを置き、向かいに腰掛ける。
眼鏡を外したマルコは再びあくびし、コーヒーに手を伸ばした。

「お前眼鏡ねぇと新聞読めねぇの?」

「読みにくいだけだい」

「老眼じゃね」

そう軽口をたたくと、マルコは嫌そうに顔をしかめた。
うへっ、怖。


「食堂は薄暗ぇんだよい」

「だから?」

「…鳥目なんだよい」

「ウソつけ」

くくっと笑いを零すと、マルコはきまり悪そうにずずっとコーヒーをすすった。





オレはこの匂いが好きだ。
みんなのために飯を作って、野郎どもがそれを食べて、食べ物と人いきれが混じったような。そんな匂い。
そして人もまばらになった頃、マルコの隣で皿に顔を突っ込む末っ子を眺めて、マルコが読む新聞を裏面から読むときに香る、二人分のコーヒーの匂いも。


「今日宴するってよい」

「なんの?」

「確か8番隊の誰かの誕生日だろい」

「あぁ、そりゃいいや」



そうと聞いたらじっとしていても仕方がない。
この時間が終わることに少しの名残惜しさを感じながらも、オレは宴のためのつまみの準備に取り掛かろうと厨房へと向かった。













「宴だァ!!」


ガチャンッといくつものジョッキがぶつかる音が船内を駆け回る。
オレたちの騒々しさに負けて夜の海の陰鬱さはどこかへ弾き飛ばされてしまったようだ。
モビーの明るさがその暗い海のど真ん中にぽっかりと浮かび上がっていた。


「オヤジー、つまみ持ってきたぜー」

「グララララ!悪りィなサッチ!」

「今日のは新作だぜ」


ウインク一つかましてオヤジの酒びんのわきにつまみの皿を置く。
オヤジは嬉しそうに目を細めてから喉を鳴らして酒を呷った。
すると騒々しい甲板の遠くで、わぁっと声が上がる。焦ったような、それでいて喜んでいるような。

「エースが海に落ちたー!!」

酔いどれたちはそれさえも嬉しそうで、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている。

「ったくしょうがねェの」

素面のおれが行くしかねェじゃねぇか、とひとつため息をつき足を踏み出した時、オヤジの低い声がオレを呼びとめた。


「後でまたオレのとこに来いよ」

「? わかった」


妙な誘いに首をかしげながら、本日もキマっていたリーゼントにサヨナラを告げてオレは黒い海に飛び込んだ。














だらしなく垂れ下がりぽたぽたとしょっぱい水滴を垂らす髪を絞りながら、再びオヤジの座る椅子へと向かう。
が、その道中14番隊の奴らが『つまみが足りねぇ!』と騒いでいるのを聞いて、オヤジは後でいっかと結論付けたオレは厨房へと方向転換した。







「ほらよ」

本当はつまみなんかなくたって飲み続けられるくせに、と思いながら野郎どもの前に皿をいくつか並べると、おおおお!と歓声が上がった。

「あざーっすサッチ隊長!」

「やべぇ!マジ旨ェ!」

「そりゃよかったよい」

ひとつマルコの真似でもしてみるとこれまた爆笑の渦が起こる。
これだけでネタになるマルコも素晴らしいと思うが、この酔っ払いたちも相当キているのだろう。
きっと箸を転がしても笑う。

そいつらの一人がオレにジョッキを手渡そうとしてきたが、オヤジに用があると断ってそこを立ち去った。








「オヤジー」

「おう、サッチ、…なんだオメェまだ飲んでねぇじゃねぇか」

「あぁ、忙しくってよー」


少し長くオレを見つめたオヤジは、ふっと目元を和らげた。
そしてぽんぽん、と自身の膝を叩く。

「え、あ、」

「なんだ、来ねぇのか」

膝に乗れと促されていることはわかるんだが。
いかんせんこの私サッチ君、悔しいが自他とも認めるおっさんである。
そんなおっさんがオヤジの膝の上と言うのは幾分寒くないか?
エースあたりがオヤジにじゃれついているのは違和感ないし可愛くもあるが。
あれ、そういやこないだマルコもオヤジの膝乗ってたな…

オヤジは諦め悪く膝をたたき続けるもんで、根負けしたオレはじゃぁ失礼とばかりによっと膝へ乗った。


「ほらよ」


オヤジがなみなみと酒が注がれたジョッキを手渡してきたのでそれを受け取る。
きっとオヤジの酒だ、キッツイんだろうなーと思いつつも一口飲んでみると、やはり喉がカッと熱くなった。



「…えらく働きモンじゃねぇかサッチ」

「ははっ、それマルコに聞かせてやりてぇ」

おどけた風にそう言ってもう一口酒を飲む。
オヤジはグララと小さく笑った。


「…いつもオメェは飲み始めが遅ェ。メシ作ってるからだろうが、少々サボリも必要だぜ」

「そ、りゃぁ仕事だし…それにオレ他のとこでサボってるからさ」

ひひ、と笑ってみるとオヤジも目だけで笑い返す。


「メシ作って回って、空いた皿がねぇか見て回って、またメシ作って。この船にゃぁザルばっかだからなぁ、つまみなんてもん作り始めりゃキリがねぇ。…ありがとよ」


ぼすんと重たい衝撃が頭に落ちてきて、崩れた髪形をさらにかき混ぜるようにしてオヤジの手が頭を撫でまわした。
久しぶりの感触に軽く頬に熱が上がったが酒のせいだとごまかす。
それでも緩む頬は隠せない。

オレは、人が飯を食う顔が好きで。旨いとでも呟く声を聞けばなおよし。
だからまさかオヤジに礼を言われるなんて微塵も考えていなかったわけで、オレは俯くばかりでまともな返事さえできなかった。


(あぁ、久しぶりだこの感じ)


いつから、オヤジの膝に先に登るのをマルコと競争しなくなったのだろう。
いつのまに、オヤジに撫でて欲しいとねだらなくなったのだろう。
それでもオヤジはオレの欲しいものをちゃんとわかっていた。



「…へっ、でも好きなんだよなぁ、メシ作るの」

「あぁ、知ってるよ」


やっぱりか。
そう言って笑うとするりとオヤジの手がオレの頭を離れて、くしゃりと顔を歪めて笑うオヤジの姿が見えた。












拍手[13回]





もらう、あげる






そのときオレはごろんと体を横倒しにして膝を抱えていた。
顔はふたつの膝の間に収めるというお決まりのポーズ。
あのときオレは何をしていたんだろう。
寝ていたのかもしれないし、ただ目を閉じて真っ暗闇とはどんなものかを考えていたのかもしれない。
もしかすると、泣いていたのかも。

そこへぬっとのばされた小さな手。
初めはふわふわと、オレの癖っ毛を軽く抑えるように。
今度はゆるゆると、髪の毛ごとオレの頭を撫でるおぼつかない手つき。
顔をあげれば、不思議そうに口を半開きにした弟の顔に出会った。


「・・・なんだよ」


低く唸るような声が出たのだけはしっかりと覚えている。
ルフィは一度首をかしげたと思えば、突然寝転ぶオレの上にのしかかってきた。


「うわっ!重てぇ!ルフィどけっ!」


いつもはうるさいルフィが、一言も口を利かなかった。
ただオレの上にうずくまるようにして、かたくかたくオレのタンクトップを握りしめていた。


「・・・なんなんだよ」


溜息といっしょにそう吐き出し、オレは諦めて仰向けに転がった。
ルフィはまだオレの上だ。

…温かい、な。

そう思って、オレは手のひらで両目を強く抑えた。















「おっかえり~!エースくん待ってたよー!」

「うぜぇ!サッチうぜぇ!!」


オレが敵船から、もしくは町から帰ると必ずと言っていいほどオレを抱きしめにきたおっさん。
スキップを軽やかにかましながら駆けよってくるからこれまた気持ち悪い。
サッチは逃げ惑うオレを簡単に捕まえて腕の中に閉じ込めた。この表現は誤解を生むかもしれない。


「1億の船落としたらしいじゃん、オレの弟はよくできるやつだなー!」

「うっぜ!頬ずりすんなよおっさんが!」

「ん~?いいだろこのひげの触り心地が」

「マッマルコ!助け…」


いつもの眠そうな顔でこっちを見ていたマルコに助けを求めると、サッチがにやりと笑った。


「あ~だめだめ、マルコに助け求めたって。だってこいつオレの順番待ちだぜ?」

「はっ?」

「わりぃねい、エース。次はオレだよい」


ほいっというサッチの掛け声とともにマルコに投げ渡されたオレ。
マルコの胸板に鼻をぶつけたところで、サッチほど暑苦しくない締め付けがやってきた。

「ぶわっ!マ、マルコッ!」

「ほんとよくやったよい」

がしがしと後頭部を撫でられる。
後にも先にも、マルコがこんなふうにオレを抱きしめたのも、サッチにノッてやるのを見ることもなかった。
オレを離した時に、慣れねぇな、と照れくさそうに呟いた顔も。



次々とオレの頭の上に乗せられていく大きな手たち。
よくやった、さすがオレの弟だと。
みんな一様に同じようなことを言う。
ひときわ大きな独特の笑い声が船を揺らした。


「よくやったじゃぁねぇか!さすがオレの息子だ!!」


分厚く大きな手のひらがオレを陰に隠す。
反射で一瞬目を閉じれば、頭に落ちてきた衝撃はどこまでも優しいもの。
撫でるというより、頭ごとかき混ぜるかのような乱暴なそれにオレは目をまわして、でもその手のひらの下でこっそり笑うのが好きだった。













甲板で昼寝をしていた時、よく見た夢がある。

夢の中でもオレは寝ていて、でも場所はいつも同じ場所。
見たこともない花が咲く、どこまでも続くような一面の花畑。
甘ったるい匂いがふわりふわりと鼻をくすぐり、その匂いが嫌じゃなかった。

そして次に遠くでオレを呼ぶ声が聞こえてオレは目を覚ます。
突き抜けるような青空の下でオレは声の主を求めて辺りを見渡す。

「オレを呼ぶのは誰だ?」

「…ス、エース」


はっきりと聞こえる声を感じてそちらに首を回せば、遠すぎて小さく見える人影。
なんとなくおおいと手を振れば、見えないはずの顔がしっかりと笑うのがわかる。
身体の感じからして女だと思う。
それに優しい声をしていた。

一瞬強い風が吹いてオレは目を細める。
薄く開いた目の向こうで、その女の長く柔らかそうな髪が横になびいた。

ふわりと包まれるような温かさがオレにまとわりついて、それを合図にオレはいつも目が覚める。
むっくりと甲板から起き上がると、あ、起きた、といくつもの声が聞こえた。














頼りないほど細く骨の出た肩に顔を預けると、胸から落ちた滴がぽたりと地面をたたく。
この世に二人っきりのような錯覚に陥るが、そんなはずはない。
ここにはオレを家族だと馬鹿みたいに繰り返す奴らがたくさんいて、戦っているのだから。

とくとくとくとくとくとく
命を刻む音が聞こえる。それも超速急。
ルフィの奴どんだけ動悸はえぇんだと思うとふっと鼻から息が漏れた。
おっとそんな場合じゃない。
オレには言うべきことがあった。



オレの背中にまわされた手にきゅっと力がこもる。
相変わらずあったかい奴だ。
モビーではオレが人間カイロとして扱われていたが、おれよりこいつのほうが温かいんじゃないだろうか。

ごめんなルフィ。
オレにはもう抱きしめ返す力が、



















花畑だ。あの、夢に出てきた花畑。
おぉ、やっぱ人って死ぬとまず花畑なんだなあ。あれ、川ってのも聞いたことあるな。
まぁ川じゃなくて良かった。川だとオレは溺れてたかもしれねぇからな。2回も死んじまう。


「エース」

「お?」

「…エース」

「誰?あんた」

「ふふっ、…会いたかった」

「あぁオレもだ」



おっと待てよ?なぜオレも会いたかったとか言ってんだ?オレァこの人を知ってるのか?
いやいや知らねぇなぁ。でも待てよ、どっかで会ったっけ…



「おかえり」


ふわりとその人のワンピースの袖がオレの頬を撫で、オレより小さなその人がオレを包んだ。
ほんとに、オレより小せぇのに、なんでこの人はオレの全部を抱き締められるんだ?


「…あんたは優しい声をしてる」

「そう?」

「あぁ、いい声だ」

「あなたもよ、エース」

「お、そうか?そんなこと初めて言われた」

「だってあの人にとてもよく似てるもの」



ふふっと春風のような柔らかい笑い声が首筋を撫でる。
あの人って誰?とかなんでオレの名前知ってんの?とか、いろいろ聞きたいことはあったが、おかえりと言われたら言わなければならない言葉をオレは知っている。
家族が教えてくれた。


「…ただいま」



オレはやっと、人を抱き締めることができた。
 

拍手[10回]

敵襲かと思った。
見張りの隙を狙って船内に侵入した敵がとりあえず転がり込んだのがオレの部屋だった、とかそういう話かと思った。
だが転がり込んできたのは、寝巻き姿のサッチだった。
 
 
 
些細なことが大事件!
 
 
 
 
「なにしてんだよい。てめぇだけの部屋じゃねぇんだ、ドア壊れたらどうする気だよい」
 
「…マッ、マッ、マルッ!」
 
 
扉が開くのと同じ勢いで部屋に飛び込み、床に這いつくばってぜぇぜぇ言ってるところをみると、どうも走ってきたらしい。
野郎の喘ぐ姿など、就寝前に見るもんじゃない。
 
 
 
「しっかり喋れよい」
 
「…っ、マルコ!!…どうしようオレ恋しちゃった!!」
 
「…」
 
「ちょ、なんで追い出そうとすんの!?蹴らないで!蹴らないで!」
 
「どうでもいいよい。おやすみ。灯り消すよい」
 
「え、ちょ、話聞けよ!うお真っ暗!本当に消すなよ!」
 
「じゃあ燃やしてやるから自分で照らせ」
 
「辛辣!!」
 
 
聞けー!オレの話を聞けー!と、どったんばったんするサッチはうざったくて、本当にうざったくて、オレは無視を決め込み自分の布団に潜り込んだ。
すると突如止んだ騒音。
諦めたか、と息を吐いたそのとき。そう、まるでぬるりとでもいうようにサッチがオレの布団の中に滑り込んできた。
 
 
「うおっ!てめぇ何してやがる!!入ってくんじゃねぇよい!」
 
「いいじゃん!聞けよ!」
 
「おまっ…!布団に男二人入った図想像してみろよい!気持ち悪りぃにもほどがあるだろい!」
 
「聞くか?オレの話聞くか?」
 
「わかった、わかったから早く出てけ!」
 
「よし」
 
 
頷いたサッチは、オレの掛け布団を剥ぎ取りながらベッドから降りた。
 
 
「…おい、てめぇ何布団取ってんだい」
 
「だってマルコオレを追い出してまた寝るつもりだっただろ!今日は寒いぞー、布団無いと寒いぞー」
 
だからオレの話を聞け、と鼻の穴を膨らませるサッチ。
疲れた。オヤジ、オレもう疲れたよい。
 
オレはベッドの上に胡座をかき、地べたに座り込むサッチを見下ろした。
 
 
「…話すなら簡潔に要点だけ述べろ」
 
「頑張る!あのな、」
 
 
 
 
 
 
 
 
結局話は数時間に及んだため、オレが要約しておく。
要するにこうだ。
 
 
寝る前に飲んだ、まだ慣れない強い酒のせいで水が欲しくなったサッチは、食堂へと向かった。
食堂で水を貰ったサッチは、どうせなら風に当たろうと、甲板に出た。
そこで、見たのだという。
 
船縁に肘を突き手の甲に顎を乗せ、この世の闇をすべてぶちまけたような夜の海を眺める、女。
 
 
「もー…やべぇよ!なんか変わった服着てたなー…、新しいナースなんだろうけど」
 
 
暗闇の中に浮かび上がるように白い肌と、高い鼻。
切れ長の目元はまっすぐに前を見据えていた…らしい。
 
 
「にしても今まで言ってたようなオンナとだいぶ違うじゃねぇかよい」
 
「そうなんだよなー、よく見えなかったけど胸もなさそうだし、キツそうだし」
 
オレ優しいおねぇさんがいいんだけどなー…と言いながらも、渦中の女を思い出しでもしたのか頬を赤らめるサッチは、見ていて本当に楽しくない。
 
「今日寄った島から乗ったんだろうなぁー、名前聞きてぇなぁー」
 
「…」
 
 
どうでもいい。激しくどうでもいい。
オレはサッチが包まっているオレの掛け布団を剥ぎ取った。
 
 
「あっ!」
 
「もう寝るよい。灯り消せよい」
 
「ちぇっ、もうちょっとさ、なんかないわけ?親友に恋のアドバイス」
 
「誰と誰が何だって?」
 
「あのさ、泣くよオレ。マルコさん酷いよいろいろ」
 
 
ぶつぶついいながらもオレの向かいにあるベッドに身体を滑り込ませたサッチは、しばらく一人でその女について喋り倒していた。
 
「なーマルコー、明日オヤジから紹介あるよなー?オレ彼女にカクテル持ってちゃろう」
 
「もう寝ろよい!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「新しい兄弟だ!野郎どもォ!!」
 
「兄弟!?」
 
隣でサッチが、オレと目の前の奴を交互に見やりながらオレの肩をバンバン叩く。
 
「なに!?ナースじゃねぇの!?戦闘員なわけ!?」
 
「…いや、つーかあいつ…」
 
「てことは強いわけ!?うわ、やべぇなんかぞくっときた」
 
「…いや、サッチあいつぁ…」
 
「何番隊かな!?一緒だといいなぁ…!女が隊にいるなんて最高じゃん!」
 
「…」
 
 
ノンストップなサッチに告げる言葉もなく押し黙ると、その「女」が艶やかに口角を上げて歩み寄ってきた。
 
 
「うわわっ!」
 
サッチは動転してさらにオレの肩を叩く。
「女」は黙ったままサッチの肩に手を置くと、するりとその腕を首に回した。
近づくと、サッチと同じくらいの背丈である。
サッチは、その「女」のある一点に釘付けになっていた。
 
 
喉仏。喉仏がある。
 
 
 
その喉仏が上下に動き、そいつはくっと笑いを漏らした。
 
 
 
「オレでよけりゃぁ、お相手やりんしょうか?」
 
 
 
 
 
後れ毛がサッチの頬を撫で、真っ赤な紅が乗った唇がそこに軽く触れる。
オレは、サッチの血の気がするすると引いて行く音を聞いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
(…お、おとっ…)
 
(…サッチ、息しろよい)
 
 




 

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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