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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です

ちらほらと白い埃のような軽い粒が曇天から降ってきた。
甲板に人気はない。
マルコは船べりに両肘を預けて細い煙草を吸った。
すうっとたよりない煙が空に昇って背景の灰色に混じる。
その景色がよりいっそう気温を寒く感じさせた。
 
 
背後で扉の開く音がする。
見なくてもわかる。
そいつは寒い寒いと腕をさすり手のひらをこすり合わせながらマルコに近づき、その隣に同じようにもたれかかった。
 
 
「お前も追い出されたクチか、マルコさんよ」
「そういうお前もだろい、サッチ」
「今日はしょうがねぇ」
「ああしょうがねぇ」
 
 
そう、クリスマスだから。
そう言って、マルコもサッチも微妙な顔つきでただぼんやりと海を眺めるしかない。
分厚い深緑のコートを羽織ったサッチは、襟元を片手で寄せ集めるようにして掴み外気を遮る。
そうすると幾分温かいような気がするのだ。
 
 
白ひげ海賊団にクリスマスと言う祝い事が持ち込まれたのはいつのころからだろう。
少なくとも、マルコとサッチがまだ今のアンの歳の時にはすでに定着した行事だった気がする。
もとは西の海に伝わる宗教的要素の強い祭りらしいが、詳しいことは誰も知らない。
ただ、クリスマスと名付けられたこの日は、すべてのクルーに無礼講が許される唯一の日だ。
いつもの宴の比ではない。
酒は飲み放題服は脱ぎ放題、海には飛び込む喧嘩も始まるで大喧騒の渦の中となるのだ。
無礼講と言うだけあって、隊長たちへの無体もこの日は許されるので、たった一晩だけこの船の上の秩序は崩壊する。
白ひげもナースが止めないのをいいことに飲み続けるため、次の日は部屋から出られなく(正確には出してもらえなく)なるのだが。
 
そんなしっちゃかめっちゃかな日であるため、このクリスマスとやらが西の海に伝わる聖人君子の誕生日だと知ったときにはマルコもサッチもそれは驚いた。
自分たちは見ず知らずの個人の誕生日をわけもわからず祝っていたのかと。
──すぐにそんな謂れなどどうでもよくなるのだが。
 
 
そして白ひげ海賊団のクリスマスはそれだけでは終わらない。
各隊の隊員たちから愛し敬う隊長たちにプレゼントが用意される。
それはめったに手に入らない銘酒だったり、欲しがっていた武器だったり、はたまた手の込んだお手製だったりと隊によって多種多様だ。
 
 
「オレァ去年アレだったな。土鍋」
「ドナベ?あぁ。あの妙な形の鍋かい」
「ワノ国の鍋らしくってさ、熱の伝わりすっげぇいいの!保温もできるし」
 
 
今年はなんだろナー、と水平線に視線を投げかけるサッチの声は、言うまでもなく弾んでいる。
隊員たちがそうであるように、隊長だってクルーが可愛くて仕方ないのだ。
そんな彼らからもらうプレゼントを楽しみにせずじっとしていろと言う方が土台無理な話だ。
 
 
「マルコは去年なんだったっけ」
「…羽ペン」
 
 
一年前のちょうど今日を思い出したのか、マルコは少し顔をしかめた。
サッチがけたけた笑い出す。
 
 
「そうそう、そうだったな、アレだろ『不死鳥の羽ペン』」
 
 
一番隊のクルーたちは、愛する隊長に彼自身の羽を用いて作った羽ペンをプレゼントした。
マルコが変化する時を見計らい、落ちた数少ない羽根の中から形のしっかりしたものを選りすぐったらしい。
その時のマルコの顔と言ったら。
 
 
 
「おっ、ここにもはじかれモンが二人」
 
 
背後から聞こえた声に振り返ると、ハルタとラクヨウがちょうど船室から出てきたところだった。
ふたりとも寒そうに、分厚いコートを着込んでいる。
ハルタはマフラーに耳あて、手袋の完全防寒だ。
小さな顔はすっぽり薄黄色のマフラーに埋もれていて、そこから大きな眼だけがきょろっと覗いている。
 
 
「食堂は使うなって言ったのに…」
 
 
ハルタが不満げに口を尖らせるが、今日は仕方ねぇよとサッチが宥めた。
食堂は今や12番隊と15番隊のプレゼント製作所と化しているらしく、当然隊長たちは立ち入り禁止だ。
どうやらその二隊のプレゼントは彼らのお手製であるらしい。
 
 
「サッチとマルコは何で外に出てんの?」
 
 
ハルタの問いに、あー、と二人同時に不明瞭な声を発する。
 
 
「オレんとこの奴らも自分たちの大部屋でなんかやってるらしくてよい、俺が近くをうろうろしてっとばったり出くわしてネタがばれると困るからどっか行ってろだとよい」
「オレらんとこも似たようなもんだぜー。部屋で大人しくしてろ大部屋には近づくなっつって」
 
 
ハハ、と乾いた苦笑いがみんなを包む。
いつの間にか甲板にはほかの隊長たちもちらほらと姿を見せだしていた。
みんな考えることは同じだ。
クリスマス前はオヤジの計らいで仕事が減る。
もちろんそのために前一週間は仕事の量は殺人的に増えるのだが、ともかくクリスマスとその前日に仕事のない隊長たちは暇を持て余して、なんとなく海でも見るかと言う気になるのだ。
 
 
「そーいやうちの仔猫ちゃんは?」
「缶詰めんなってるよい。明日ァオフだから今日のうちにやれるだけやっとけっつったら珍しく張り切ってたよい」
「そりゃまた珍しい」
 
 
いつの間にかサッチの隣で煙管を口に咥えたイゾウが、首の後ろの後れ毛を指先で撫でつける。
 
 
「二番隊も張り切ってんだろなあ、アンにとっちゃ初めてのクリスマスだろ」
「…あぁ、」
 
 
いまいち煮え切らない返答をしたマルコに、サッチがんん?と言葉を促す。
マルコは口の中で言葉を転がすように言い淀んで、首の後ろを荒く擦ってから口を開いた。
 
 
「…つーかアイツ、多分クリスマス知らねぇよい」
「は?」
 
 
特に大きくもないマルコの声に、それでも甲板にいた全員が振り返った。
 
 
「おいおいまじかよ、つーかお前そんとき教えてやれよ」
「でけぇ宴がある、っつったよい」
「伝わらねぇ!それじゃたいしていつもとかわんねぇ!」
「そうじゃなくてもっと他にいろいろあんだろ!プレゼントもらえるとか」
 
 
ぎゃあぎゃあと飛び出した非難に、マルコはふんと顔を背けた。
 
 
「当日んなりゃわかるだろい」
「…まっ、おれらもクリスマスっつって正直、よくわかってねぇしな」
「そういう祭りの日に乗っかってるだけだしな」
「つーかなんでクリスマスにプレゼントやったりもらったりすんのかも知らねぇな」
 
 
確かに、と全員が口をつぐんだ。
今や甲板に集まる隊長たちはアン以外全員だ。
 
 
「…そういやどっかで聞いたんだが」
 
 
本で読んだんだったか?と口を開いたのはジョズだ。
随分と昔読んだ西の海の古い本。
そこに記された西の海のとある冬島ではクリスマスの夜、全身真っ赤な装束を着てたっぷりとひげをはやしたサンタクロースという名の老人がこれまた真っ赤な乗り物に乗り空を駆け、夜な夜な寝ている子供の靴下の中にプレゼントを突っ込んでいくという事件が多発していたらしい。
 
 
「…んだそれ、怖ァッ!」
「なに、クリスマスってんな物騒な日の祭りだったのか!?」
「珍妙なことするジジイがいたもんだ」
 
 
さまざまな感想が飛び交うが、ともかくクリスマスプレゼントの謂れはそう言うものらしい。
 
 
「つーかその話だと、プレゼントもらうのは子供だけらしいな…」
「…そういや、」
「そうとなるとプレゼントもらえんのはアンだけってことか」
「ハルタもいけんじゃね」
「おれは大人だ!!」
「じゃあクリスマスはアンのための日だったのか」
「アンがプレゼントもらう日ってことか」
「いい日だな」
「ああいい日だ」
「──じゃあ、オレらどうする?」
 
 
寒空の下で頭を向き合わせた15人の男たちは、そろってにいと口角を上げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
25日その日の朝、二番隊の部屋が並ぶ廊下に、ほあああーー!!と絶叫ならぬ歓声が響き渡った。
 
 
「隊長!?」
 
 
時刻はまだそう遅くない、おそらく7時ごろ。
乱れいって寝ていた隊員たちは自身の布団をはねのけて慌ててアンの部屋へと駆けつけた。
そして躊躇なくドアを開け、数人が中に飛び込んだ。
後ろからはぞくぞくと二番隊隊員が走ってくる。
 
中は相変わらず飾りっ気のない部屋。
毛布は床の上へ落ちている。
ベッドの上にアンがいた。
ぺたんとそこに座り込んで、両手に包んだ手の中のものを食い入るように見つめている。
隊員のひとりが、おそるおそるアンに歩み寄り口を開いた。
 
 
「…隊長?」
「さんたくろーす!」
「は?」
「サンタクロース来た!」
 
 
隊員たちがその言葉に目を丸めると、アンは彼らの前にずいと手の中のものを見せつけるように突き出した。
緑色の、アンの手に収まってしまうような小さな箱。
赤いリボンがかかっていた。
 
 
「こりゃあ…?」
「さっき起きたら!ここに!」
 
 
そう言いアンは枕元を指差した。
隊員全員がアンの導くままそこへ視線を移し、また同時にアンへと戻す。
 
 
「すごい!イゾウの言ってたとおりだ!」
 
 
アンは小さな箱を胸に抱くように抱え直して、にかりと笑った。
こんなサプライズ聞いてないぞ、なんだイゾウ隊長の言ってたことって、とこそこそ言い合っていた隊員たちもその笑顔に思わずつられてにへりとだらしなく頬を緩めてしまう。
 
 
「なに入ってたんすか?」
 
 
ひとりの隊員がそう言うと、アンは思い出したようにぽんとベッドを打った。
 
 
「まだ開けてない」
 
 
かくっと拍子抜けした隊員たちにへへっと笑い、アンは箱のリボンに手をかけた。
昨日の晩、ふらりとアンの部屋にやってきたイゾウの言っていたことを思い出す。
サンタクロースと言うなんとも素敵な存在。
枕元にプレゼントを置いて行ってくれる、だから今日は早く寝ろと言ってイゾウはアンを寝かしつけた。
いつもは隊員が起こしに来るまで深く深く眠っているアンも、そのせいで朝早く起きてこのプレゼントを見つけたわけで──
 
アンは緑色の箱のふたをそっと持ち上げた。
 
 
「…なにこれ」
 
 
中にはぺらりと一枚の紙切れ。
欲しいものと言ったらおいしいもの、ごはん、肉、としか連想できずに自然と食べ物が入っているはずだと思い込んでいたアンは、箱の中に入っていた薄っぺらい一枚を覗き込んで目を細めた。
 
 
「…これだけ?」
 
 
いつのまにか隊員たちもアンと一緒に箱の中を覗き込んでいる。
よくよく考えてみれば、アンの手のひらに収まるサイズの箱の中にアンが望むような食べ物が入っているとは考えにくい。
アンは見るからにがっかりした顔で肩を落とした。
 
 
「…食えないじゃん」
 
 
何考えてるんだサンタクロースは、と呟いたアンをとりなすように周りの隊員が口を開いた。
 
 
「で、その紙切れなんなんすか?」
「ああ、紙…」
 
 
気乗りしない顔でアンが紙をとりだす。
四つ折りにされたそれを広げると、変わった字体で文字が並んでいた。
確かどこかで見たことがある。『フデ』というペンで書いた文字だ。
真っ黒の文字が光っている。
 
 
【空に一番近く】
 
 
「…そら?」
「どういうことっすか」
「…知んないよ」
「なんだ、空に一番近いって」
「場所の話?」
「空に一番近いっつったら…メインマストじゃね?」
「ああ、見張り台?」
 
 
アンはぽんと膝を打った。
 
 
「お前ら頭いいな!!」
 
 
褒められた隊員たちはそろいもそろって頬を赤らめて頭をかいた。
アンはその場にすっくと立ち上がる。
 
 
「ありがとう!行ってみる!わけわかんないけど!」
 
 
裸足の脚をベッドに下したアンは、サイドテーブルからひったくるようにいつものテンガロンハットを手に取りブーツに足を突っ込んだ。
隊員たちが慌てて道を開けると、今やアンの部屋に群がるようにして集まっていた隊員たちの間を擦り抜けるようにして一目散にメインマストへと駆けて行った。
 
 
「…なんだったんだ、あれ」
「さあ…でもあれ」
「…イゾウ隊長の字だよな…」
 
 
 
 
 
 
 

 
とりあえず上った。メインマストに上った。
ちらほらと舞い落ちてくる雪は昨日からだが、どれも埃のような小さなものなので船に積もりはしない。
冬島を通るたびに雪が積もるのを心待ちにしていたアンにとってそれは残念だが、今はそれどころではない。
 
 
「…で?」
 
 
上ったはいいものの、それからどうすればいいんだろう。
 
 
「空に、一番近い…」
 
 
アンはひっくりかえりそうなほど顔をのけぞらせて空を仰いだ。
一面灰色の空には、確かにこの場所が一番近そうだ。
アンは空を見上げたまま首をひねって考えた。
と、つい足元がおぼつかなくなって後ろによろけた。
 
 
「…っと、」
 
 
後ろに足を出して体を支えたその時、ぐしゃっと足元で嫌な音がして足の裏からなにか四角い感触がした。
慌てて視線を下ろし足を上げると、そこには先程枕もとで見つけたものと同じ色形の小さなプレゼント箱。
 
 
「うあああっ、踏ん、踏んじゃった…!」
 
 
思わずひとり叫んで慌てて足元のそれを拾い上げた。
無残にも、四角い角の一角がアンのかかとによって踏みつぶされている。
空に近いというから、上ばかり見ていて足元は気にしていなかったのだ。
 
 
(…誰のだろ、これ、どうしよ…)
 
 
不恰好につぶれてしまったプレゼントを手に、アンは右往左往した。
手の中でリボンは外れかかり、箱も浮いてしまっている。
アンは手の中のそれをしばらく見つめて、ついそっと開けてしまった。
アンのではないかもしれないが、もしかしたらそうかもしれないし、何より中身が気になった。
 
中にはまた、一枚の紙切れ。
確信した。これはあたしへのだ。
 
 
【海に一番近い】
 
 
「…次は海ぃ?」
 
 
先程とは異なる字体で書かれている言葉はまた謎めいている。
アンは今度こそ首をひねった。
またどこかへアンを導こうと言うのだろうか。
 
 
(…とりあえず、海か…)
 
 
海に一番近いなら、船べりや船の端ということかもしれない。
アンは帽子をかぶり直し、手の中の紙とりあえずポケットに突っ込んだ。
アンは見張り台の手すりに足をかけ、とんと蹴ってそこから一気に落下した。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
海、海、と呟きながらアンは船を縁取るように歩き回った。
視線はずっと足元に固定したままだ。
きっとまた、あの緑色の箱が落ちているはずだ。
モビーは広い。
船を一周しようとともなると、歩けば数十分はかかってしまう。
それでもアンは丁寧に、足元に視線を据えて船べりに沿って歩き続けた。
しかしあの箱は、アンが船を2周しても見つからない。
 
 
(おっかしいな…海に一番近いって、もしかしてここじゃない?)
 
 
元来考えるのも考え直すのも得意ではないアンは、すでに行き詰まってしまった。
もしかして船の外側か?そのほうが確かに海には近い、とアンが船の外壁を覗き込もうと半身を外に出したその時、うしろから穏やかな声が危ないですよとアンを止めた。
航海士の一人だ。手にいくつかの資料を持っている。
 
 
「どうかされました?」
「いやあ、それがさ」
 
 
こういうわけでとアンは事情を説明した。
朝プレゼントを見つけたところからメインマストに上り今に至るところまで、説明が苦手なアンの話は行きつ戻りつしたが、航海士は丁寧に相槌を打ちながら最後まで聞いてくれた。
最後に航海士はふむと眼鏡のふちを持ち上げた。
 
 
「『空に一番近い』が上なら、『海に一番近い』が下、ということはないですか?」
「下?」
「船の一番上がメインマスト、船の一番下は」
「船底?」
「…に一番近い、」
「操縦室か!」
 
 
航海士はにっこりと笑った。
 
 
「行ってみる!ありがと!」
 
 
航海士に礼を言ったアンの脚は既に駆け出している。
背中ではテンガロンがぴょこぴょこ跳ねていた。
おかげで、航海士のメリークリスマスと言う言葉をアンは聞き損ねた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
だかだかブーツを鳴らして、何段もの階段を転げ落ちるように駆け下りた。
謎解きは苦手だが冒険は好きだ。
その気持ちが無性にアンをわくわくさせた。
操縦室の扉をバンと開くと、中にいたどこかの隊の若い下っ端隊員がびくりと肩をすくめた。
 
 
「あ、アン隊長!?」
「よっ!なあプレゼント知らない!?」
 
 
開口一番そう言ったアンに、隊員は目を白黒させた。
 
 
「プ、プレゼントですか?」
「そう、こんくらいの大きさで、緑色の箱で、赤いリボンがかかってる…」
「ああ、それなら朝からそこに」
 
 
そう言って隊員が指さした先にはひとつの古い舵輪。
そしてそこには赤いリボンで、お目当ての箱がぶらさがっていた。
 
 
「これ!」
 
 
アンは即座に駆け寄り、舵輪を動かさないようそっとプレゼントを取り外した。
操舵は船長をしていた昔も、勿論今もアンにとっては無縁なものだったのでそのしくみはよくわからない。
わからないなら弄らないのが一番だ。
アンは舵輪から少し離れて、しかしその場でプレゼントを紐解いた。
隊員が舵輪片手に遠目にアンを見ている。
 
もう驚きはしない、中にはやはり一枚の紙切れだ。
 
 
【白い頭の上】
 
 
またどこかに近い、と言われたらどうしようかと思っていたアンだが、今度の言葉にもすぐにはてなマークが浮かんだ。
 
 
「…白い頭?」
 
 
いの一番に思い浮かんだのは白ひげの顔だ。
白と言われれば条件反射で彼の人の顔を思い出す。
 
(たしかにオヤジは(髭が)白いし…、頭の上にも登ろうと思えば登れると思うけど…、いやでもあそこにプレゼントは…)
 
 
頭をひねってひねって答えの見つからないアンは、今度も助けを求めることにした。
 
 
「なあ、白い頭の上ってどこだと思う?」
「えっ!?白?」
 
 
突然話を振られた隊員は、驚いたのか舵輪から手を離してしまいガラガラ音を立てて舵輪が勝手に回った。
うわあと慌てて舵輪を掴み直す。
アンが苦笑すると、隊員は心底恥ずかしそうに俯いた。
 
 
「…オヤジ…ですかね」
「だよなあ、やっぱそう思うよなあ」
 
 
うんうんしょうがない、としたり顔で頷いたものの、しかしそれでは話が進まない。
 
 
「でもそうじゃないっぽくってさ、どっか場所の話なんだけど」
「場所…ですか…」
「そう、空に近い場所がメインマストで、海に近い場所がここ。で、次が白い頭の上ってわけなんだけど」
 
 
隊員はしっかりと舵輪を握りしめたまま、少し考えるように目線を上にあげた。
 
 
「…それじゃあ、この船のどこかに白い場所があるってことですよね」
「ん?おお、そう、そうなるな」
 
 
白い場所…と隊員とアンは同時に呟いた。
そしてほぼ同時に、二人の頭上で豆電球がピカリと光る。
 
 
「モビーの頭!」
 
 
一緒に叫んだ二人は、しばらく顔を見合わせて静止し、それから小さく笑った。
 
「仕事邪魔してごめん!助かったありがと!」
「いえ、俺は」
「ナミュールにあんたが一生懸命働いてたって言っとくから!じゃ!」
 
 
つむじ風のように来たときと同じくどたばた去って行ったアンの背中を見送って、隊員はやはり照れて俯いた。
初めてアンと話したこと、アンが自分の隊をわかっていたこと、ありがとうと言われたこと、もうどれが嬉しいのかわからない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
アンは今度も一目散に船首へとむかった。
広い甲板を突っ切るアンを、何人もの隊員が不思議そうに目で追っている。
ようやく船首に辿りついたアンは、よじのぼるようにして白く広いモビーの頭の上へと出た。
 
雪景色よりも白い、本当の白。
広いその上にはただ白が広がるだけでアンの目当てのものは何もなく――
と思ったところで、ふと一点にアンの目が留まった。
モビーの口に近い、本当に本当に船の先。
そこにひとつだけシミのように、緑色の箱が置いてあった。
 
目を輝かせて近づきそれを拾い上げたアンは、今度も迷わずプレゼントを紐解く。
船は波に合わせて大きく揺れ、プレゼントもろともアンも転げ落ちてしまいそうだが今はそんなことに構っていられない。
箱の中からまた、紙切れを取り出した。
 
 
【ごちそうの匂いと】
 
 
「ごちそう!」
 
 
黄色い声を上げたが、ごちそうという単語に反応してしまっただけで特に意味はない。
アンは箱を手に握ったまま、じっと紙切れを睨む勢いで見つめる。
ごちそう、の匂い、がする場所。
ひとつしかないじゃないか。
 
今度こそ一人でひらめいたアンは、「危ないっすよー!」と甲板から声をかけてくるクルーに「もう降りる!」と叫び返して、甲板に降りたその足でそのまま食堂へと駆けだした。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
「はこぉ!」
 
 
目的の単語を叫びながら、まるで道場破りのように食堂の大きな扉を開けた。
中にはアンが想像していた以上の数の人がいる。
彼らは食堂の扉が開くと、びくりと身をすくめて一斉に扉の方に首を回したが、現れたのがアンだと分かると納得顔で力を抜いた。
アンがここに来ることをわかっていたという顔だ。
 
 
「はこっ、なあ、はこっ」
 
 
とりあえず近くにいた隊員に唐突にそう言ってみると、その隊員は苦笑いで黙ったまま厨房のほうを指さした。
 
 
(そうか、ごちそうのにおいは、厨房!)
 
 
アンはテーブルと人の間をくぐって食堂と厨房を仕切るカウンターへと身を乗り出した。
今夜は宴と言うだけあって、厨房の中は午前中の今も忙しげに多くのコックが働いている。
おおーいと呼びかけると、でっぷりとした貫禄のあるコック長が顔を覗かせた。
 
 
「お、アン来たな」
「プレゼント知らない!?」
「あれだろう、緑の…」
「それ!ちょうだい!」
「預かってるぜ」
 
 
コック長は、アンのあずかり知らぬ厨房の棚の下からアンが思い描く箱を取り出した。
ほいと渡されて、アンは嬉々として受け取るがそれと同時に首をひねった。
 
 
「…預かってるって、誰から?」
 
 
そういえばこの箱はいつもいつも、誰がどうしてアンのためにいろんな場所に置いたんだろう。
そんな疑問も同時にコック長に尋ねると、彼はいろいろ詰まっていそうな腹を撫でながらにやりと笑う。
 
 
「お前さんのサンタクロースたちからさ」
「…たち?」
「まあ開けちゃあどうだ」
 
 
コック長に促され、アンは思い出したようにリボンをほどいた。
コック長はカウンターに太い腕をついてそれを眺めている。
アンは箱の中の紙を取り出し、コック長にも見えるようカウンターにそれを広げた。
 
 
【大きな扉の】
 
 
「扉…?」
 
 
首をかしげるアンと一緒に、コック長も目を眇めて肉のついた顎をさする。
しかしアンは、今までこの謎解きを繰り返してきたときよりもすぐに、誰にヒントをもらうこともせずひらめいた。
 
この船の中で、食堂よりも大きな二枚扉。
 
 
「オヤジの部屋だ!」
 
 
コック長はほおと口を縦に伸ばし、感心した顔でアンを眺めた。
 
 
「成程、確かにあれが一番でけぇ扉だ」
「行ってくる!」
 
 
即座に踵を返し走り出そうとしたアンだが、それより早く背後から太い腕がにゅっと伸びてきてアンの首根っこをがっしり掴んだ。
捉えられた猫状態のアンは目をぱちくりさせてから、じれったそうに振り返る。
 
 
「なに?」
「まあ待て、いいモン持ってきてやるから」
 
 
そう言うとコック長はアンを離して喧騒の渦の中、厨房へと戻っていく。
大きな銀色の冷蔵庫の中を覗いていたかと思うと、そこから長方形の小さな箱を取り出した。
小さく見えるのは彼の分厚い片手のひらにちょこんと乗っているからで、実際近くで見てみるとアンの両手のひらにわたるほどの長さがある。
手を出せと言われて言われるままに差し出すと、アンの手のひらに、その紙箱はぽんと乗せられた。
ひんやりと冷気が手のひらに伝わる。
アンはくんっと鼻を一つ鳴らしてその中身に思い当り、すぐさま箱を開いた。
 
 
 
 
「ケーキ!ロールケーキ!」
 
 
茶色い生地に白い粉砂糖がかかったそれを、アンは覗き込みながら黄色い歓声を上げた。
コック長の大きな丸い顔も満足げに柔らかい笑みを浮かべる。
 
 
 
「ありがと!これ今日のおやつ!?ひとりいっこ?」
 
 
そう叫んでから、はたと動きを止めたアンはぺたりとお腹に手を当てた。
 
 
「…そう言えば今日朝ご飯も何も食べてない…」
「ハハッ、一生懸命宝探しでもしてたのか」
 
 
ちゃんととってある、とコック長はカウンターの脇から大きな皿をアンの目の前に引きずり出した。
こんもりとアン専用の食事が盛られている。
 
 
「んん、ん~、食べたい、けど、先にこっち済ましてくる!」
 
 
ぴっとコック長の目の前に謎解きのメッセージが記された紙切れを突き出した。
そして、残しといて!と言い置いて、今度こそアンは背中のテンガロンをひるがえして駆けていった。
手にはしっかりとケーキの箱を抱えている。
中身が振動で跳ねてしまわないよう、頭の上に掲げながら器用に走っていく後ろ姿を、アンのためにクリスマスケーキを締まりのない顔で作ったコックたちは満足げな顔で見送っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
「オッヤジッ!」
 
 
ノックもそこそこに、大きな扉に飛びつくようにして開けた。
まだベッドの上に腰かけたままの白ひげは、アンの登場に驚いたふうもなく細い目をさらに細めた。
 
 
「おはよっ、オヤジッ、オヤジッ」
 
 
ぴょんと大きなベッドの飛び乗ると、もらったケーキはサイドテーブルに置いてアンはよじ登るようにして大きな膝の上に乗りあがる。
興奮した様子のアンを、白ひげは始終楽しげに見下ろしていた。
 
 
「なんだアン、朝からちょこまかしてるらしいじゃねぇか」
「ちょこまかってか、オヤジッ、緑の箱、なんかよくわかんないけど誰かからあたしにって預かってない!?」
「ああん?さァな、どうだったかなァ…」
「ちょ、絶対知ってるじゃん!」
 
 
それちょーだい!と地団駄を踏む勢いでアンが叫ぶと、白ひげは身体を揺らしてあの特徴的な笑い声をあげた。
そしてひょいと手を伸ばし、ベッドサイドにおいてある大きな引き出しの中からアンのお目当てのそれを取り出した。
白ひげの指の先に乗ってしまうその箱はあまりに小さい。
白ひげは箱をつぶさないよう、そっとそれをアンの顔の前に差し出した。
コレー!と叫びながらも丁寧に、アンは箱を受け取った。
 
 
「随分熱心に宝探ししてるみてぇじゃねぇか」
「だってもうここまで来たら気になるし!」
 
 
そう、それにここまで辿って来たならゴールにはサンタクロースがいるかもしれない。
それがアンの目的だったのだ。
 
 
「オヤジがこれ預かってるってことは、サンタクロースがどんな奴か知ってんだよねえ!?」
「んん?あぁ、知ってる知ってる、オレァよく知ってるぜ」
 
 
グララと笑い声を上げる白ひげはアンと同じくらいどこか楽しそうで。
しかしそれに対して「やっぱり!」と期待を込めて白ひげを見上げるアンは、白ひげのからかうような声に気付かない。
 
 
「おめぇのサンタクロースたちぁな、どうやらお前が可愛くて仕方ねぇらしい。アンの初めてのクリスマスを成功させてやりてぇんだとよ」
「クリ…スマスってイゾウにもちらっと聞いたけど、よくわかんない。そんなにいい日なの?」
「あぁ、いい日だ。お前のためみてぇなもんだ」
 
 
なんたって子供のための日だからな、と白ひげが呟くとアンは見るからにふくれた。
 
 
「あたしだけ子ども扱いだから、サンタクロースはあたしんとこにだけコレ
持ってきたわけ!?」
 
 
なんだそれふざけんな!と先ほどとは打って変わって怒り出したアンに、白ひげはアホンダラァと頭を小突く。
 
 
「オレから見りゃあお前も他の野郎どももみんな、ガキにしか見えねぇよ」
 
 
そう言って、大きな掌がぐしゃぐしゃとアンの頭をかきまわす。
その衝撃を受けとめながら、アンはどことなくほっこりした気分でたしかに、と呟いた。
 
 
「そう、コック長にケーキもらったんだ!これ、オヤジも食べる?」
 
 
あ、ナースのねえちゃんに怒られるかな、と呟きながら自分は素手でつかみあげたロールケーキのかけらをぽいと口に放り込んでいる。
 
 
「うまーい!!」
「んなことよりアン。おめぇお目当てだったそれは開けなくていいのか?」
「あ」
 
 
忘れてた、とアンはぺろりと指の砂糖をなめてから、慌てて小さな箱のリボンをほどいていった。
そろそろゴールが近いにおいがする。
もしかしたらオヤジがゴールかな、とちらりと思った。
それはそれで嬉しいが、オヤジがそんな持って回ったことをするだろうかと考えるとうーんというところだ。
 
箱の中には紙切れが入っている。
そう思い込んでいたアンは特に何の疑いもなく、箱を持った方と逆の手に向かって箱を傾けた。
ひらりと落ちたのは、青い羽根。
 
 
「これ…」
 
 
ひときわ大きな笑い声が、船長室を満たした。
 
 
「どうやらサンタの奴も、正体あらわしやがったみてぇだなァ!」
 
 
見慣れた色合いのそれは、ふわりとアンの手のひらを撫でた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
ノックしないのはいつものこと。
アンはそうっと伺い見るようにマルコの部屋を覗いた。
目的の姿は見えない。
 
 
「マルコー…?」
 
 
思わず声がこわごわとしたふうに響いてしまった。
まだ驚きや、今の展開を頭が処理しきれていないのだ。
今までの謎解きのようなモビー内大冒険がまさかマルコの仕業だったなんて。
いや、コック長やオヤジのセリフからわかっている。
マルコだけじゃない、きっとジョズもサッチもみんなみんな、あのおっさんたちの仕業だ。
 
 
「…マルコー、いない?」
 
 
部屋の中に入って辺りを見渡し、後ろ手でドアを閉めたそのとき、突然頭に何かがすっぽりと覆いかぶさり同時に視界が真っ暗になった。
ぎゃ、とアンは小さく叫んだ。
 
 
「なっ、なに!?」
「メリークリスマスだよい」
 
 
頭にかぶさったのはどうやら帽子らしい。
慌てて外してみると、赤い生地に白いファーが縁どられた派手な帽子だ。
キッと振り返ると、マルコがにやりと笑って存外近くに立っていた。
 
 
「なにはっちゃけたことしてんの!気配隠すのはずるい!」
「いつまでたってもオレの気配を読めねぇお前が悪い」
 
 
痛いところを突かれて、う、とアンは押し黙った。
マルコはそれでもくつくつ笑っている。
 
 
「…なんなのさ、今日は…」
「楽しかっただろい」
「…うん」
 
 
素直に頷いてしまうのがアンのいいような困るようなところだ。
 
 
「…なにこの帽子」
「どっかの隊の野郎がふざけて持ってた奴を借りたんだよい。サンタクロースってのはどうやらこういうのをかぶってるらしい」
「…じゃあかぶんのはあたしじゃなくてマルコじゃん…」
「さっきまでオレがかぶってたけどお前に譲ってやるんだよい」
「…うそつけ」
 
 
そう言いながら、アンはきょろきょろあたりを見渡した。
 
 
「他の…サッチとか、ビスタとか隊長たちは?あのおっさんたちも噛んでんだろ」
「ああ、特にサッチとイゾウあたりが張り切ってたな。ここにはいねぇよい」
「ここもうゴールだよね?」
 
 
なんで、と言いたげなアンに、マルコはもう一度赤い帽子をかぶせながら言った。
 
 
「一番いいとこはオレに譲ってくれるってよい。これじゃ返しが高くつくがな」
 
 
マルコはしっかりとアンに帽子をかぶせると、プレゼントには満足したかよいと尋ねた。
 
 
「…まさか今までのアレがプレゼント?」
「みてぇなモンだ。宝探し、楽しかったんだろい」
「まぁ…」
「なんだ、不満かよい」
「だってあれはサッチとか、隊長たちがやってくれたんでしょ。あんな楽しいことマルコが思いつくわけない」
「…テメェ」
「マルコからはないの?」
 
 
一拍の間だけきょとんとアンを見下ろしたマルコは、欲張りなやつだと笑った。
 
 
「マルコ飛んで。あたし乗せて」
「サンタにでもなるつもりかい」
「! いいねそれ」



あたしサンタ!とアンは高らかに宣言する。
マルコはその隙にアンからキスをかっさらうと、呆気にとられるアンを抱き上げ部屋の窓から飛び出した。
 
 
 
 


I'm Santa, the present is kiss, and you.


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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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