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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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小さな水面に数滴水を垂らすと波紋は広がり水は波立つ。
しかし海に数滴の雨が落ちたところで海面に何ら大した変化はない。
スペード海賊団が白ひげ海賊団に吸収され従うべき船長を変えたのは、そういうことだった。
しかし数滴の雨は雨なりに、小さな波紋をいくつか作るわけで──
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アンを含むスペード海賊団のクルーたちが『白ひげ』に加わってまず行われたのは、16ある隊への振り分けだった。
これは15人の隊長が会議により話し合い、最終判断を白ひげに仰ぐことで決定する。
しかしアンが2番隊であることは、白ひげが会議の前から決めていた。
隊長席が空席のその隊は、これというまとめ役がおらずともひとりひとりの芯が太いので特に揺らぐこともなく保っている唯一の隊だ。
 
 
『アンは2番隊だ』
 
 
マルコが相談を持ちかけると、白ひげは一も二もなくそう言った。
随分と上方にある金色の瞳は淀みなくマルコを見下ろし、そしてどこか楽しそうで、マルコはただ黙って頷いた。
そして決めなければいけないアン以外の元スペード船員たちだが、彼らの中には専門職のものもいる。
手に職を持つ彼らは、同じく手に職を持つ白ひげ海賊団の職人たちによってサクサクと拾われていった。
コックはサッチの4番隊へ、航海士は航海士長のもとへ、といった具合である。
アンが白ひげに降伏を示した翌日、全員の振り分けが終わった。
アンを含む全員が静かに受けいれ、各隊長たちが彼らにあらゆる指示を与える。
そうして彼らが各隊長に従い去っていくと、中央甲板には自然と一人ぽつんとアンだけが残った。
アンを迎えに来る二番隊隊長は存在しないのだから当然だ。
アンは去って行った元スペードのクルーたちの背中を見て、少し首をひねり、そしてまた小さくなっていく彼らを見る。
どこか心許なさそうな顔つきは年相応だ。
アンが佇むのは甲板のメインフロア。そこは大きな円形にくぼんでいて、正面には白ひげの椅子。周りは3段ばかりの階段が囲んでいる。
白ひげの椅子の横でその陰に半ば隠れながらマルコはそんなことを思い、手元の書類に視線を落としたまま口を開いた。
 
 
「アン」
 
 
アンがぴっと顔を上げ、その視線がマルコを見つけた。
すぐさまとたとたと駆け寄ってくると、マルコの目の前でぴたりと止まった。
書類から顔を上げると、所在なげな表情でうつむきがちに立つアンの後頭部が見えた。
どこか釈然としない表情なのは、まあ昨日の今日だからということで黙認する。
アンはちらりと視線だけ上げてマルコを見上げた。
 
 
「…あんたが2番隊?」
「マルコ」
「え?」
「アンタじゃねぇ、マルコだ。最初に言ったろい」
 
 
きょと、と黒い瞳が丸くなった。かと思えば見る見るうちにむっと眉間に皺が寄り、アンは見上げていた視線をすぐさま外し「隊長」と呟いた。
まったく可愛げのない。
 
マルコは書類を筒状に丸め、ペンを尻のポケットに突っ込むとアンに背を向けて歩き出した。
「付いて来い」と後から言葉だけ投げられる。
アンは明らかにいやいやという様子でその言葉を受け取り、マルコの数歩後ろを歩きだした。
むすっとした顔つきが背を向けていてもわかるようだ。
 
 
マルコの長い足は船上を行き来し、一つずつ船の中を案内していく。
細かい生活のルールなど、覚える事はアンの頭の中に山となって積み重なる。
初めはマルコの説明に無言で頷きを返すか、あるいはわかったと不愛想に呟くだけだったが、そうして幾つもの説明を施して歩いていくうちに、ふとマルコが気付いた時にはアンはマルコのぴったり横へ、そしてマルコの声を一つも聞き漏らすまいとするかのように真摯な様子で頷きを繰り返している。
あいかわらず言葉少なだったが、それだけアンの必死さがうかがえる。
この船での生活に慣れようと、もしくは腹をくくったのかもしれない。
結構なことだとマルコはこっそり笑った。
 
 
「ここが大浴場とシャワールーム。野郎はここを使うがお前は違う」
「なんで?」
 
 
タンとシャワールームへと続く扉の背を手の甲でたたいたマルコは、ぽっかりと開かれたアンの口をしばらく見つめた。
なんで?ともう一度言葉が出てくる。
マルコは扉に手の甲を預けたまま、先の言葉を繰り返した。
 
 
「ここは、野郎共が使う」
「うん、じゃああたしも」
「お前は違う」
 
 
すると今度は、なんでだよと険を含む声が返ってきた。
アンの言わんとすることが何となくわかってきたマルコは、ああーと不明瞭な声を天に向かって発してからアンを見下ろした。
 
 
「お前はナース達の風呂場を使え」
「あたしはナースじゃないっ」
「んなこたわかってるよい、そうじゃなくてお前は」
「あたしは戦闘員だっ!」
 
 
マルコの言葉を遮り、アンは息まいてそう言った。
風呂場を誰が使うかのくくりは戦闘員かそうじゃないかは関係ないだろうと、この娘に言ったところで聞き入れられる気がしない。
マルコは半ば投げやりな気分になって、放り投げるように言った。
 
 
「じゃあ好きにしろい」
 
 
途端にアンは満足げに顔を緩めて、「次!」と案内を迫った。
もう知るもんか。
 
 
 
 
 
「食堂の場所はわかるだろい。飯は三食時間になれば鐘が鳴る。敵襲の鐘と間違えんなよい。席はまあ好きなところに座れ」
「わかった」
 
 
長い廊下を歩きながら、マルコは思いつくまま船の中での生活のルールを説明していく。
マルコがこぼすように話していくそれを、アンは丁寧に一つずつ拾いながら飲み込んでいるようだった。
 
 
「大所帯だからねい、気ぃ抜いてると食いっぱぐれるよい」
 
 
まんざら嘘でもないそれをついでのように言ってみると、隣を歩くアンからふっと息の音が聞こえた。
気のせいかと思ってちらりと横目で見てみると、気のせいじゃない、笑っている。
 
 
「そこんとこは心配いらない」
 
 
初めて見た、自身に溢れた顔。
きっとこれが何も着ていない、コイツの素顔。
そりゃあ結構と頷いた。
 
 
 
 
「雑多だがこれが船ん中の地図だ。今いるこの階の階下が1,2番隊の部屋群。その下が3,4番隊。一番下がナースたちの部屋と倉庫だ」
 
 
アンの手の中で広げさせた地図を指さしながら淡々と説明を加えていくと、アンは地図の視線を落としたままこてっと首をかしげた。
 
 
「なにかあるかい」
「…隊って…確か16こじゃ」
「そうだよい」
「なんで1から4番隊までの部屋しかないの?」
 
 
当然と言えば当然の疑問だが、マルコにとって当たり前すぎて考えたことがなかった。
 
 
「いくらこの船がでかくても、さすがに1600人全員の寝床はねぇよい。見たことねえかい、モビーのほかに白ひげの船はあと3つある」
「…まじか」
「その3つに5~8番隊、9~12番隊、13~16番隊の部屋があるんだよい」
 
 
そんじょそこらの海賊とは規模が違うのだ。
改めてそれを思わぬ形で知らしめられたアンは目を丸めたままぽかんと口を開いた。
 
 
「各隊の隊長どもはだいたいモビーに…この船にいるがな」
 
 
さあ次だ、とマルコがさっさと歩を進めると、後ろから慌てた足音がついてきた。
 
 
 
 
 

 
 
淡々と船内の説明をしていく男の声を一つも取りこぼすまいと思うと、自然と肩は横に並んだ。
ここで新しい生活を始めなければならないと腹をくくったのだから、覚えるべきことは全部頭に叩き込んで人の手を焼かせることはしたくない。
持ち前の意地が幸いして、マルコの説明はするすると頭に入ってきた。
それにしてもこの男の喋り方は、淡泊だが簡潔で要点をついていて、いかにも人の上に立ち説明を施すことに慣れているというタイプ。
 
 
「洗濯は当番制。大部屋の前に表が貼ってある。洗濯室はここ。やり方は適宜聞け。以上、次」
 
 
といった具合だ。
 
アンはちらりと横の男の顔を盗み見た。
変な髪型。揺れてる。
眠そうな目。ずっと不機嫌そうな顔ばかりしている。
分厚い唇はたくさん話していてもあまり動かない。それでも声はよく通るバリトン。
目のふちに刻まれた小皺が少し年齢を感じさせた。
 
マルコと言った。
この男が、これからあたしの上に立つ。
 
 
「照れるだろい」
 
 
マルコはアンの方を見ることもなく、事務的な説明の間に挟むようにそう言った。
ぎょっとして、思いっきりマルコの顔を見上げても当人の顔は至極平静としている。
 
見てるのばれてた。
 
不意を突かれたことに驚いて、ついでになぜか悔しくて、アンは思いっきりフンと鼻息付きで顔を背けた。
何が照れるだ、顔色一つ変えないくせにつまんねぇ顔しやがって!
 
 
 
 
 

 
 
そうして一通り船の中を巡り廻った頃には、廊下の丸窓から差し込む日の光がだいぶと赤くなっていた。
アンがその光にふと目をやっていると、マルコもそれに気付いたのか「ああ随分かかっちまったねい」と言った。
 
 
「まあ概略はこんなもんだろい」
 
 
概略にしては随分多い。
 
 
「そのうち晩飯だが、その前にお前さんの寝床だけ言っとかなきゃなんねぇな」
「寝床?ここの大部屋だろ?」
 
 
今二人が歩く廊下には、突き当りの隊長室からずらりと20ほどの部屋のドアが向かい合いながら林立している。
そこが数人ずつの隊員に割り当てられているのだと、アンは教わったばかりだ。
しかしマルコはアンの問いは無視して、並び立つ部屋の一番端、階段の隣にあたる部屋の扉を開けた。
 
 
「ここがお前さんの部屋だよい」
 
 
促された気がして、アンはひょいと首を伸ばして部屋の中を覗いた。
先程覗いた大部屋よりも随分と小さい。
大部屋が5,6人用だとすればここは明らかに一人用、頑張っても二人というところか。
 
 
「もともと空き部屋で倉庫代わりだったから空樽やら空き箱やらとっちらかってるが、その辺は自分で好きに捨てるなりしろい。片づけは飯の後だな、同じ隊の奴に手伝ってもらえよい」
「えっ、ちょっと」
 
 
待って、とアンはマルコを見上げた。
 
 
「あたし、ここで寝るの」
「不満かい」
「そうじゃねぇよ!」
 
 
どこか揶揄するようにひょいと片眉を上げながら言われたことにカッとして、声を荒げてしまった。
おっとっと、と慌てて俯きながら言葉を足した。
 
 
「その、別にもう今更寝首かいたりするつもりないんだけど」
 
 
ぼそぼそ言った言葉に返事が返ってこなかった。
怪訝な顔を上げると、目の前の男は、顔の下半分を大きな手で覆ってアンから顔を背けている。
アンが眉をひそめたままマルコの顔を覗き込むと、細長い指の隙間から見えた口元が笑っていた。
 
 
「おいっ!」
 
 
抗議の声を上げると、悪いと簡単に謝られた。それも悔しい。
 
 
「誰もお前が夜襲しかけてくるから部屋分けるなんて言ってねぇだろい」
「じゃあなんで」
「社会的配慮だ」
「しゃかいてきはいりょ?」
 
 
なんだそれはと問うと、マルコはあっさり
 
 
「船の上で男数人の中に女一人放り込むほど、うちは人道外れちゃいねェよい」
 
 
いくら海賊といえどな、と答える。
その返答にすかさず反駁の声を上げようとしたアンの眼前に、マルコはまるで『ストップ』というように手のひらをかざした。
 
 
「『女だから』は聞き飽きたかい」
 
 
今まさにアンが口にしようとしていたことを先に掬われて投げられた。
アンが言葉に詰まると、マルコは軽く口元を緩めた。
 
 
「別にお前さんの性別上、保身が必要だからっていうわけだけじゃねぇ。だが確かにお前は女で、それ以外は男で、飢えた男は据え膳の女をほっとかねぇ。いくら同じ船の仲間だとしても、だ。お前さんが自分の手で自分の身くれぇ守れるっつっても、いらねぇいざこざは起こさないに越したことはない。違うかい」
 
 
返す言葉はなかった。
アンが投げつけるはずだった文句も責め苦も全て綺麗に包装されてリボンまでついて帰って来たみたいな感じだ。
 
 
「お前の部屋はここ」
 
 
いいな、と無言で問われてアンは黙って頷いた。
 
 
「じゃあそのうち晩飯だ、食堂行くかい」
「あっ、ちょっと待って」
 
 
マルコが立ち止まり振り向くと、アンはずっと遠くに小さく見える突き当りの部屋を指さした。
 
 
「じゃあアンタ…マルコの部屋はあそこ?」
 
 
一応の確認に、と思って聞いたつもりで、すぐに肯定が帰ってくるとばかり思っていたアンは、マルコの「いや」という返答に目を丸くした。
 
 
「だ、だってアンタ2番隊の隊長だろ?」
「いや、オレァ1番隊だよい」
 
 
さらりと帰ってきた予想外の返答にアンがますます目を丸めると、マルコは「言ってなかったかよい」としれっとした顔で答えた。
 
 
「スペードの奴はたまたまオレの隊にこなかったし、2番隊には隊長がいねェ。そういうわけでオレがお前さんの面倒を見たってわけだ」
「そ…なの」
 
 
なんだ、同じ隊じゃないのか。
そんな声が頭の中をよぎって、慌てて振り払った。
だからなんだというのだ。
 
他に質問は、と問われて首を横に振ると、じゃあ食堂だとマルコは先に立って歩き出した。
アンは背中側に落としていたテンガロンハットを、ギュッと頭の上に押し付けて目深にかぶった。
 
 
 
 
 
マルコはアンを食堂まで連れて行くと、「野郎どもの中に交じってりゃあメシの仕組みは教えてもらえるよい」と言って目線でアンに進むよう促した。
 
 
「…マルコは行かないの」
「オレァちょっとやることがある」
「…くいっぱぐれるよ」
 
 
そう言うと、マルコは初めて声を上げて笑った。
 
 
「その分お前が食え」
 
 
そのまま踵を返したマルコは、食堂に背を向けて来た道を戻りだした。
もしかしてあたしを食堂まで連れてきただけだったのか、とアンが思い当った矢先、アンの視線の先でマルコに一人のクルーが歩み寄り何か言葉の応酬をしながら数枚の紙を手渡した。
そこでようやく、そうだあの男にはあたしを船中見て回らせる以外に、毎日の仕事があったはずだと気付いた。
書類を受け取ったマルコは、朝から変わらない気だるげな足取りでアンから遠ざかっていく。
 
いやだな、と思わず口の中だけで呟いた。
感謝してしかるべきかもしれないのに、それより早く悔しいと思ってしまう。
あの男はいつもアンの言おうとする言葉を先回りして解釈し、かみ砕いて返してきた。
ことあるごとにカッとしてしまうアンに反して、マルコはそのアンの熱を静かに冷ますようなことばかり言う。
まるでお前は子供だと言外に言われているような気がした。
けしてバカにしているような目はしていなかったのに。
 
 
アンは角を曲がっていったマルコの残像を振るい落とすと、いいかげん減って仕方のなかった腹を満たすべくいい匂いのする方へと歩き出した。
 

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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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