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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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布巾を握ってアンがカウンターへ戻ると、二人の男はかすかに頭を寄せ合って、互いの手帳を覗き込むようにぼそぼそ会話していた。
アンは二人分のコーヒー豆をメーカーにセットする。
セットしてから、あ、と呟いていた。
 
 
「コーヒーでよかった?」
 
 
振り向きながらそう問えば、「コーヒー以外もあるんだ?」とリーゼントが聞き返す。
 
 
「紅茶と、あとミルクとか」
 
 
野菜ジュースなんてのもあるけど、と言うとリーゼントはコーヒーよろしくと笑った。
男が笑ったとき、左目の上に薄く縫い痕があるのに気付いた。
だいぶ薄いので目立ちはしないが、笑ったときに少し引き攣ったのだ。
リーゼントはアンの視線の先に気付いたのか自分の傷を指でなぞった。
 
 
「これ?やっぱ縫い痕は見えるんだよなー」
「え、やっ、ごめん」
 
 
無遠慮に見ていたことに気付いて、慌てて詫びる。
しかし男は軽い笑いでいやいやと首を振った。
 
 
「おしごとで、ちょっとね」
「…なんの?」
 
 
少し迷ったが、思い切って白々しく尋ねてみた。
 
 
「おじさん刑事さんなのよ」
 
 
しかし続いた言葉は予想外のものだった。
 
 
「少年課担当でね」
「少年課?」
 
 
そう、不良少年少女をおうちに帰すおしごとです、と男は伸びをしながら気楽に言った。
隣の男が、べらべらしゃべるなと言いたげにリーゼントを一瞥する。
一方アンは何となく拍子抜けした。
このリーゼントも、「マルコ」と同じ部類の警察だと思っていたのだ。
 
 
「えと…じゃあ、そっちの」
「こいつはマルコ、オレはサッチ。覚えてね」
 
 
リーゼント、もといサッチのウインクを曖昧に受け取ってアンはマルコをちらりと見た。
マルコは言葉を探すように薄く唇を開いたまま少しかたまって、やっとのことでこれだけ言った。
 
 
「…こいつとは、別のところだよい」
 
 
こいつぁエリートなんだ、似非エリート、とサッチが隣でイヒヒと笑った。
 
 
「だからまぁさ、偉そうなことは言えないけど、困ったことあったら頼ってちょーだい。オレここ気に入ったし」
 
 
なっ! と明るく笑ったサッチの目を、アンはまっすぐ見られなかった。
 
 
 
 
 
これから遅い出勤なのだという二人が店を去ると、肩の上に乗っていた重しがすっと消えてなくなり、思わず深い息をついていた。
まだ緊張の名残がカウンターの上の方に溜まっているような、もやもやした空気が残っている。
秘密を抱えるのが元来得意ではないのに、重大な秘密を胸に抱えたまま警察と向かい合うなんてとんだストレスだ。
しかし一方で、アンはどこかドキドキと逸る胸で別のことも思っていた。
 
彼らがアンの正体に気付かないことを前提に、ここを気に入って、さっきのように少しでも仕事の話をしてくれるなら。
そしてそれを情報として役立たせられたら。
利用価値があるかもしれない。
 
そこまで考えて、後ろ暗いその考えに後ろめたさも感じたが、それも圧倒的な期待の前に掻き消えた。
 
 
「アン」
 
 
名を呼ばれて、ハッと店の奥を見遣る。
サボが微妙な顔つきのまま佇んでいた。
 
 
「どうした? アン」
「サボ…」
「ルフィが、アンが変な顔してるって言うから」
 
 
見にきたら確かに変な顔はしていたが、別段表には出ず客の誰も気付いていないようだったし、アンも気付いてほしくなさそうだったので遠くから様子を見ていたのだという。
歩み寄ってきたサボはアンを厨房の中の椅子に座らせて自分はカウンターに背中を預けた。
気のまわりすぎる兄弟たちのおかげで、アンはようやく頬を緩める。
 
 
「大丈夫、ごめん」
「さっきのオッサンたちが、どうかしたのか」
「…」
 
 
言おうか言わまいか、一瞬逡巡した。
しかし突然、むにゅ、と両頬が外側に伸びた。
 
 
「いひゃっ!?」
「隠し事はなし、秘密は共有。約束だろ」
 
 
こくこくっ、と涙目で頷くとサボはよしと手を離した。
ついでにアンの頭に巻かれた赤いバンダナを外してくれる。
肩に落ちた長い黒髪に、サボの指が丁寧に手櫛を通した。
アンはぴりぴりとする頬を擦って、目の前にあるサボのシャツのボタンを見つめながらようやく口を開いた。
店の中に客はおらず静かだが、外のざわめきが適度に溶け合ってちょうどいい。誰に聞かれることもないだろう。
 
彼らが警察であること、彼らのうち片方が『エース』のために設置された警察組織特別班の総監、「マルコ」であることを伝えると、アンの髪を梳くサボの手がぴくりと動いた。
 
 
「2週間前、結局なんにもしなかったけど、下見に行っただろ?あのとき張ってたのがあの男で…あとからニュースで「マルコ」って知った。あのオッサン、本部から送り込まれてきたみたい」
「…ってことは」
「エドワード・ニューゲートの手下だ、多分」
 
 
そうか、と呟いたきりサボは押し黙って宙をにらんだ。
絶句しているように見えないでもない。
少しの間沈黙を味わって、サボから口を開いた。
 
 
「黒ひげの奴らは知ってるのか?」
「「マルコ」のことは知ってると思う。でも「マルコ」が「アン」を知ってるってのは知らないと思う。なにしろ今さっき初めて会ったんだから」
「ああ、そうか」
 
 
サボは考えるように目を眇めてから、なあアン、と言いにくそうに言った。
 
 
「…お前が危ないと思うなら、無理しなくてもいいんじゃないか」
 
 
アンはその言葉を黙って聞いた。
サボが前々からそう思っていたのは、分かっていた。
アンの気持ちを汲んで、今まで言わなかったことも。
 
 
「アンが、その、捕まっちまったりしたら、元も子もないだろ」
「うん…わかってるよ。わかってるけど」
 
 
出来る限りやりたい。
サボの優しさを断ち切るようで心苦しかったが、それ以上に思いはきっぱりと決まっていた。
アンの返答にサボは困ったように笑ったが、驚きはしなかったのでサボもわかっていたのだろう。
 
 
「ルージュさんも、アンがこんなお転婆始めるとは思わなかっただろうなあー」
「ハハッ、分かってた気もするけど」
「案外そんなもんかな」
 
 
サボは「よっ」とカウンターに預けていた背中を戻した。
アンは座ったまま、目の前にある腰に腕を回した。
驚いたサボが少しよろめいたが、すぐにしっかりと立ってちゃんと抱きしめられてくれる。
肩に温かい手が乗せられて、そのままぽんぽんと叩かれる。
 
 
「サボだいすき」
 
 
サボのお腹に顔をうずめたままくぐもった声を出せば、頭上から穏やかな声が「オレもだよ」と言った。
 
 
 
 

 
 
初めて出会ったサボは、欠いたばかりの歯を握りしめて汚いなりをしていた。
しかし着ている服はどうもアンが知っている、アンと同じ年代の男の子が着る服とは少し違って、今ならそれがとても上等なものであったのだと分かる。
アンがまだ、普通の子供のように両親と生活していたとき。
アンの母ルージュが、モルマンテ大通りの隣の小さな通り、リトルモルマンテ通りで行き倒れているサボを見つけて拾い持ち帰ってきた、らしい。
そのときのことをアンは覚えていない。
サボは覚えているらしい。
 
 
「迎えが来たのかと思ったよ、あの世から」
 
 
つまりはルージュを天使だと思ったらしい。
アンの家に連れてこられたサボに食事を与えると、サボは不安げにルージュたちを見たが、すぐに勢いよく食べ始めた。
食事が終わり、薄汚れところどころ破れた衣服を脱がされ全身くまなく洗われ、きれいさっぱりになったところでアンと対面した。
突如現れた同じ背丈の少年を見ても、アンはぽかんとしていた。
今までたった3人しかいなかったアンの世界の中に、突然別のものが飛び込んできたのだ。
しかしもう、アンが維持している記憶の中のサボは兄弟としてそこにいる。
初めて出会ったあの時から、兄弟になるまでにあったはずのあらゆることをアンは覚えていない。
単に頓着していなかっただけかもしれない。
しかしサボはそうではないと言う。
「オレ結構覚えてるよ」と大きくなってから言っていたのを聞いたことがあった。
ルージュに拾われた時のこと、アンと初めて出会った時のことに始まり、アンの両親がサボを家族として受け入れるためにしてくれたこと。
 
 
「やっぱりさ、犬猫拾ったのと同じってわけにはいかないだろ? おれにも一応、おれを生んだ親はどこかにいるわけだから」
 
 
詳しいことはサボも成長してから自然と気づいたが、なおさら彼らに感謝したという。
 
 
「おれの名前からおれの本当の家、探してくれてたんだ。おれが勝手に飛び出してきた家出小僧だったら親がさぞや血眼で探してるだろうって」
「…でも結局」
「うん、ロジャーさんがさ、おれんちこっそり見に行って、怒って帰ってきた。んでその日おれに言ったんだ」
 
『お前は今日からうちの子だ』
 
 
野垂れ死に覚悟で、いるに堪えなかった生家を飛び出してきたサボにとって、たった5歳のサボにとって、アンの家に辿りつけたのは奇跡に等しい大成功の脱走劇だったわけである。
アンがその話を初めて聞いたのは15くらいの時。
その歳になって、サボが自分の出自を話すまで、アンはサボが兄弟であることに何の疑問も持っていなかったのだ。
ちなみに今も、何故サボが家を飛び出して、ロジャーがサボの家で何を見たのかアンは知らない。
ただ、それらのことがあったおかげで今サボはアンの傍にいてくれる。
その事実だけで十分すぎるほどだった。
 
アンはサボの手を引いて遊びに行き、サボもためらいなくアンの手を握り返す。
そんな毎日が続いたころ、二人の前にポンとルフィが現れた。
ルフィを連れてきたのは、アンとサボが見上げても逆光で顔が見えないほど大きな年寄りで、ルフィがじーちゃんと呼ぶので今は二人も同じように呼んでいる。
とにもかくにも、その年寄りとはいいがたい体躯の男が連れてきた小さな少年が、二人より3つ年下のルフィだった。
 
じーちゃん、名をガープと言う彼は唐突にゴール家を訪れ、ロジャーにルフィを託した。
その時のロジャーの顔だけは、今でもアンは覚えている。
まず、ガープがゴール家におとないを入れた際ロジャーが激しく抵抗した。
どうやらロジャーの仕事の上司だったらしいガープはいともたやすくそれを無視し、ルフィの手を引いて家の中に上がった。
 
『家屋侵入罪だガープ!あと権力乱用!パワハラだパワハラ!』
 
門前払いに失敗してわめきたてるロジャーを黙らせたのはルージュだった。
しかし上司に対する言葉とは思えない口調だったのを思うと、おそらく上下関係のうんぬんより強い関係が既に結ばれていたのだろうと、今ならわかる。
 
『というわけで、わしはちょいとこの街を離れにゃならん。可愛いルフィを連れていくにはちと都合が悪い。聞けばお前、子供が一人増えたそうじゃな。ついでにわしの孫も預かってくれ。ルフィは人見知りなどせんから、お前の子供らとうまくいかんこともないじゃろう』
『何が「というわけで」だ!』
『うちは、いいですけど』
『ルージュ!』
『アンもサボも遊び相手が増えれば喜ぶから。でも、この子はいいのかしら』
 
大人たちの話し合いを、部屋の外から少し身を乗り出して聞いていたアンとサボは、ソファに腰かけ床につかない足をぶらぶらさせる小さなルフィが、おれはへいきだ!と元気に叫ぶのを聞いた。
 
『決まりじゃな、頼むぞルージュ』
『オレにも言えよ!』
 
ガープはルフィの荷物を預け、一通りの連絡を告げるとルフィをそのままゴール家に残して、あっさりと帰ってしまった。
去り際、こっそりのぞき見るアンとサボの下に歩み寄ったガープは二人の頭上に大きな影を落として、皺だらけの顔をますます皺だらけにして大きく笑った。
 
『ルフィを任せたぞ、お前さんたちの弟じゃ』
 
大きく重たいガープの声を、アンは今でも思いだせる。
サボもきっと同じだろう。
 
そうしてゴール家に仲間入りしたルフィは、今現在も発揮している持ち前の人懐っこさですぐさま二人に馴染んだ。
年下のルフィは適度に二人の兄(姉)心をくすぐり、ちょうど良い緩衝剤にもなり、二人兄弟は三人兄弟へと発展した。
この時点でアンとサボは7歳、ルフィは4歳である。
その歳からアンとサボは学校へ通い始め、二人が学校へ行っている間はひとり留守番のルフィがおれもいきたいとルージュにごねたのはいい思い出だ。
 
いつもちょこちょこあとをついてくるルフィが可愛くて、いつでもサボがそばにいてくれるのがうれしくて、屈託なく笑う二人がいとしくて、アンが一番しあわせに満ちていたとき、両親が死んだ。
 
 
10年以上も前の記憶はおぼろげで、擦り切れた布のようにふわふわとおぼつかず穴も開いている。
その日のことをよく覚えていないのは、アンが記憶に蓋をしてしまったからかもしれないし、単なる時間の経過のせいかもしれない。
抱きしめる父の腕の強さや、笑う母の温かささえ忘れてしまった今となっては、もうわからないことばかりだ。
このことに関しても、アンには事実だけが残った。
 
 
 
 
軍人都市というものがあるように、アンたちが住まう街はいわば警察都市である。
つまるところ、警察が最も大きな権力を握ることで回る世界。
政治を執り行う機関はあるがその肩身は狭く、いわば形だけの行政府。
しかしそれが一面的に見てよいかどうかはともかく、この形でこの街はうまく回っていた。
その昔、腐敗しきった生臭い政治状況をひっくり返し一掃したのが警察幹部で、それから警察組織が今も権力を握り続けているというわけである。
当然この一見おかしな体系に、街の外から来たものは「警察組織がでかい顔をして支配する独裁国家の縮図だ」と笑うが、街に住まう当人たちから見ればそうではなかった。
彼らにとって行政など、上手く動くならだれが手にしてもいいのだ。
現にこの街の経済は多少の揺れ動きはありながらも安定しているし、治安のいいところがあれば悪いところも多少ある、『普通に』平和な町として機能している。
 
いま、警察組織本部の頂点に立つ男はエドワード・ニューゲートという。
現在この街の実質上のトップである。
「いま」というのは代替わりして彼になったという意味ではなく、トップが彼一人になってしまったということである。
警察組織は大きく4つに分かれており、その4つの権力は等しい。
4つに分けているのはただの権力分立のためであり、会社に総務課、営業課、人事課、その他諸々があるような感覚に近い。
その4つのうち1つのトップにエドワード・ニューゲートが位置し、一つのトップにロジャーがいた。
そのロジャーが死んだ。
隣に妻を乗せた車で、悪運転をした対向車をよけるために電信柱に突っ込んで、拍子抜けするほどあっけなく死んだ。
 
 
その日のことをアンは覚えていないが、サボは嫌になるほどよく覚えている。
いつだって、アンの忘れたことを代わりに記憶しておくのがサボだった。
 
ルフィがやってきて3年後、アンとサボは10歳でルフィは7歳、今年からルフィも学校だという年。
その日、庭で遊んでいた3人は買い物に出かけただけのはずの両親の帰りが遅いことに気付いた。
多少帰りが遅くとも、夕飯が遅くなるなぁと最初はその程度の心配だった。
しかしそれも、一時間、二時間と時が経つほどにおかしいという思いは大きくなっていった。
同じように不安な顔をするアンと、相変わらず無邪気なルフィ。
お腹は減り、あたりは暗くなり始め、夜の闇が家の中に忍び込むにつれて増していく不安。
たがいに抱きしめあうようにかたまって、いつまでたっても帰ってこない両親を待っていた3人のもとにはたくさんの大人がやってきた。
 
告げられた事実を知るにはサボもアンも幼すぎたが、それを理解するには十分大人だった。
 
街の最大勢力の幹部の一人として、私生活からは想像もできないほど大きな権力を握っていたロジャーの家は、警察によって機密秘匿のため一斉捜査の対象となり3人は警察の寮へと送られた。
泣き喚くルフィと、ルフィの泣く勢いにのまれて言葉も出ないアンを前に、サボもただ呆然とするしかなかった。
生まれた初めて好きになった大人が、一度に二人ともいなくなってしまったということに心は悲鳴を上げていた。
彼らが実の両親であるアンの心のうちは誰にも測ることはできない。
 
こうして4つの権力のうち1つのトップが欠けた警察組織は、バランスを保つために形を変えた。
いうなれば、今まではちょうど四角形の頂点として存在していた4つの権力。
それを、その中の一つ、つまりはエドワード・ニューゲート率いる部を“本部”と名付け、残りの3つを“支部”とした。
勢力均衡を絶対的なヒエラルキーに変えてしまえばそれもまた安定である。
 
これらの社会の動きなど、小さな3人にとっては目にも見えず耳にも聞こえず知ることもないずっとずっと頭上高くで行われていたことで、そういうことがあったのだとまるで歴史を習うような感覚で事実を知った。
そしてこのとき、もしかしたら3人はバラバラになっていたのかもしれないと思うと今でもゾッと背筋が冷たくなる。
 
全てあとから知ったことだが、まず両親を失ったアンは間違いなく孤児の施設に送られることとなった。
考えてみれば、サボとルフィの保護者は健在であり、何も最も弱い存在が3人で集まっていることはないのだ、とこれは大人の判断である。
そもそも、まずサボの存在が物議の対象となった。
ルフィは、ガープが預けたのだというまっとうな理由があるからいいとする。
しかしサボがなぜゴール家にいるのかは、ゴール家の家族しか知らないことだった。
迷子を保護していたのではないか、家を探せばいいことではないか、という応酬の末、もしやロジャー夫婦は何らかの思惑がありサボを家に置いていたのではないかといういわれのない中傷を示唆する意見まで飛び交った。
大人たちがこのような物議を醸していることも3人の知るところではなかったが、両親の死に引き続いて不穏なことが起こるかもしれないという予感が3人を包んでいた。
 
温かい家の灯り、人の温度で暖まった寝床、おやすみという優しい声。
それらすべてを欠いた四角いコンクリートのかたまりである警察寮で、3人は誰の入る隙もないと示すみたいに、ぎゅうと抱き合って眠った。
いつもルフィを真ん中に挟んで、アンとサボはそのぬくもりを分け合って、ルフィは二人の体温に守られて眠った。
 
大人はいつも、正しい判断を下す。
正しいことが当人たちにとってよいことであるかを顧みずに、いつも正しさだけを一番に求める。
孤児院へ送られるアンと、親元へ帰されるサボと、ガープが迎えにくるルフィ。
今離れてしまえばもう二度と会えないかもしれない。
そんな予感が、幼い3人の身体を電気のように走った。
 
「離れたくない」
「おれたちは兄弟だ」
「ずっと一緒にいたい」
 
3人のどの言葉も聞き入れることのない大人たちと、戦わねばならなかった。
アリと象のような戦い。
7歳と10歳がひねり出す言葉で勝てないと分かると、もう体で示すしかなかった。
てこでも動かない。
3人抱き合って、ぴたりとくっついて、近づくなと威嚇する動物のように目を光らせて唸る。
そうこうして大人たちが手をこまねいているうちに、アンたちに思わぬ援軍が現れた。
ガープがルフィを迎えに来るために帰ってきたのだ。
ガープは団子のようにかたまる3人を見て笑った。
 
 
『なんじゃお前ら、ノラ猫の子供じゃあるまいに』
『じーちゃん!おれじーちゃんとくらしたくねぇよ!』
『なんじゃとっ』
『まちがえた!おれサボとアンと一緒にいたい!』
『しかしなぁ、お前ら3人でどうやって生きてくというんじゃ』
『ルフィのじーちゃん!おねがいだ、アンを連れてかせないでくれ!』
『なに?』
『おれ、家に帰るから!本当の家に帰るから!3人ならだめかもしれないけど、2人なら…ルフィと一緒に、アンもじーちゃんのところに連れてってやってくれ!』
『サボ!?』
『なんだよそれ!じーちゃん、そんならサボもつれてってくれよ!おれら3人、一緒につれてってくれよぉ!』
 
 
おねがいだから、ばらばらにしないで、離さないで。
 
言葉少なのアンの代わりに、サボとルフィが祈るように頼んだ。
頑是ない子供に、他愛もないようで難しい願いを託されたガープはひとしきりぬううと唸ると、よしわかったと強く頷いた。
 
まずガープはエドワード・ニューゲート率いる本部に直接掛け合い、なんとサボの出自に関する問題をもみ消した。
ロジャーがサボを引き取っていたのは、サボの言い分によれば『かくまって』いたように聞こえる。
それはおそらく、ロジャーなりにサボの一番を考えてのことだったのだろうと判断した。
ガープが本部統帥に「サボという子どものことじゃがな、ありゃあもういいんじゃないか、帰さんで。本人が帰りたくないと言っておることじゃしなあ。ナシで!」と率直すぎる直談判を行い、それがなぜ通ってしまったのかはガープとニューゲートしか知らない。
 
次に、3人が3人で新しい生活を始めるにあたって、ガープはアンを養子として迎えた。
そうすればアンが孤児院に行く必要はなくなる。
ただし養子縁組はしない。そうすることでアンの両親はロジャーとルージュであるという紛れもない事実が戸籍として残るからだ。
そして問題の3人の居場所であるが、やはりガープが仕事に子供3人を引き連れていくのは難しかった。
そこで、3人の保護者としてガープは知り合いの名を上げた。
 
『ダダンっちゅう、まあ柄の悪いババアなんじゃがな。信頼はしとる。とりあえずはそいつの家に預けることにしよう。3人が自立できる時が来たなら、その時好きにすればよかろう、なあ』
 
こうして、他の警察官たちがガープのフットワークの軽さに目を回しているうちにあれよあれよと事を運び、すべてを丸く収めてしまったというわけである。
すべての解決を確認すると、ガープはそれじゃあとさっさと今の仕事場に戻ってしまった。
去り際に、ガープはルフィをロジャーに預けに来たときと同じ笑顔を見せてアンに言った。
 
『アン、お前はしあわせもんじゃ。自分がしあわせであることを忘れるな。お前の両親はお前を残して死んでしまったがな、卑屈になるな。そんなことを理由に自分を不幸だと思ってはいかん。味方は必ず近くにいると覚えておれ』
 
それからサボの頭を撫でた。
 
『守りたいと思うなら、守られてることもわからにゃならん。お前はしあわせになれる』
 
そしてルフィに拳骨という名の喝を入れて、『強くなれ』と言った。
 
 
 
 

 
ダダンの家に送り込まれた3人はまず、ダダンの見た目に圧倒されて、ガープの言うとおりの柄の悪さに驚き、そしてこれからも3人一緒の生活を送れる喜びをかみしめてその日も警察寮でしていたように3人ぎゅうとくっついて布団に入った。
そしてそのとき、3人が3人とも、言葉にすることなく誓った。
 
なにがあってもこの3人は離れない、兄弟である。
お互いを守って、ときには守られて、喜びも痛みも共有して大人になる。
たとえ世界が壊れても、共に生きるのだと。
 
 

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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一声いただければ喜んで遊びに行きます。

足りん
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