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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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じっとりと湿って蒸された空気は故郷の風を思い出して嫌いではなかったが、寝苦しい夜に変わりはなかった。
酒、と思って体を起こしたが、いや違う水か、と考え直して部屋を出た。
ベッドがあるのに床やソファで寝るのはメリーからの習性に近い。
無造作に転がる野郎どもを避け、時には踏み、部屋を出ると空は隅から隅まで深い紺色に染まっていた。
ぽつぽつと虫食いのようにところどころ星が小さく光っている。
月が明るい。不器用が書いたような丸だ。
月の隣に、展望台がにゅっと伸びていてそこは明かりがついていた。どおりで影がよく伸びるはずだ。
今日の見張り当番は誰だったろうと考えてあくびをし、まあどうでもいいとキッチンへ歩いた。
足元が海鳴りで震えている。
 
手探りで灯りをつけ、気付けば習性で酒瓶に手を伸ばしていた。
おっと違うと手を引っ込めて、グラスを手に取り水を注ぐ。
2杯ほど飲んで喉が潤うとちょうどよく身体は冷えた気がしたが、今度は眠気がとんでいってしまった。
自分のことだろうからきっと横になれば一二もなく眠れるのだろうが、なぜか、きっと大した理由もないだろうが、もったいねぇなと思ってしまった。
夏島へと向かうこの船は近頃平和な空気に包まれていて、誰もが安穏と穏やかに、そしてにぎやかに船での生活を楽しんでいる。
平和は結構だがそれでは剣が鈍って困る、とブルックと手合せをしたり鼻持ちならないクソコックとやり合ったりはしているが、どこか体が落ち着かないのはきっと騒ぎ足らないと内奥が疼いているのに違いない。
 
──少しだけトレーニングでもするか。
多少身体に負荷をかければ眠気もすぐに戻ってくるだろう。なんだったらジムで横になったっていい。
ゾロは重たい靴の底を鳴らすことなく、見た目に似合わない静かさで梯子を上っていった。
 
 
 

 
蓋のような扉を開けると灯りがついていたので、ああそうか、ジムは展望室と一緒になっているんだったと顔をしかめたがもう遅い。
今日の見張り当番は、ひょこりと顔を出したゾロの顔を眺めていた。
 
 
「あら」
「今日の見張りはてめぇか」
 
 
仕方がないので声をかける。
扉を開けて挨拶をしてまた閉めるというわけにもいかないので、これまた仕方がなく部屋に入る。
ロビンは展望室の壁に沿うよう取り付けられたソファに腰かけて、膝の上には分厚い本を乗せていた。
ぱら、とそよいでいたページが一枚捲れる。
 
 
「こんな時間にトレーニング?」
「いや…や、まぁ、眠れねぇついでに」
 
 
ロビンはふふっと声に出して笑った。
その笑い方が「嘘でしょう」と言っているようにも、子供を扱うような笑い方にも聞こえてむっとする。
おい、と呼びかけた。
 
 
「なに?」
「ページ」
「え?」
「本、捲れてってんぞ」
 
 
ロビンはゾロの視線の先を辿って、自分の膝に目を落とした。
ぱら、ぱら、ぱら、と見えない手がページを捲っていく。
あら、とロビンが手を差し込んだ。
 
 
「ありがとう」
 
 
そんなことで礼を言われてもこまる、と返事をしなかった。
広い窓から見えるのは紺。
空ばかりなのか海ばかりなのか、どこかにその境目があるのか全く分からない。
ウソップがこの景色を絵に描けば、きっとその違いをうまく表すんだろうと思った。
 
 
「ねぇ」
「ああ?」
「立っていないで座ればいいのに。それともトレーニングをするのかしら」
 
 
そう言われて、自分がまだ入り口のすぐそばに立っていることに気付く。
あぁー、と不明瞭な声を出して仕方がなく鉄の絨毯の上に腰を下ろした。
目についたダンベルを持ち上げる。
もう眠気など戻ってきそうにない。
 
 
「おい、お前、あのー、あれだ、おれぁここにいるから、寝ていい。代わってやる」
 
 
回らない舌は暑さのせいだ、と無理のある言い訳を自分に言い聞かせてそう言った。
手の中のダンベルに目を落としていても、ロビンがじっと見つめてくる視線がまっすぐ額辺りにぶつかる。
そうだ、おれはこの目が好きじゃない、といつか思ったことを思い出した。
 
いつまで経っても返事がないので、怪訝な顔つきで視線を上げた。
向かい合うロビンの顔を見て、ぽかんと口を開けてしまった。
 
 
「お前、なんて顔してやがる」
 
 
まるで菓子を買ってもらえない子供のような顔で、ロビンはゾロを見つめていた。
すねているような、怒っているような、哀しんでいるような。
ロビンはその表情を隠すことなく、ぱたんと音を立てて本を閉じた。
せっかく取り戻したページが無駄になる、とどうでもよいことが頭をよぎる。
 
 
「あなたはいつまで経っても私のことが嫌いね」
「は?」
「いいの、仲間だって認めてくれてるのはわかってるし、それはとても嬉しい」
「おい」
「じゃあ代わってもらうわ。おやすみなさい」
「ちょっと待て!」
 
 
本を片手に腰を上げたロビンは、声を上げたゾロを驚いたように見下ろした。
 
 
「お前、なんだ、その、嫌い、とか」
 
 
ぶつ切りの言葉が気持ちより先に転がり出てしまってまとまりがない。
おれのほうこそすねているみてぇじゃねぇかと嫌になる。
ロビンは腹が立つほどきょとんとした表情で立っている。
いつもすかした顔ばかりしているのに、さっきのごちゃまぜになった表情や今のようなあどけない表情は慣れないからやめてほしい。
だけどそう口にするわけにもいかず、結局「わけわかんねぇこと言うんじゃねぇ」と締めた。
 
 
「だって」
「だってとか言うな、子供じゃあるめぇ」
 
 
違う、そんなことはどうでもいい、と頭ではわかっているのにどうでもいいことに限って口走る。
ろくでもないこの口をえぐり落としてやろうか、と思わず腰に手が伸びたが残念、今は刀を差していない。
ロビンは相変わらず困った表情で立っていた。
 
 
「おれがお前を嫌いだなんていつ言った」
「言わなくてもわかるわ」
「妄想だ」
「ちがうわ、わかるもの」
「知ったようなことを」
「ほら」
 
 
顔を上げると、苦しげに眉を寄せてロビンは目じりを下げた。
笑っているつもりらしい。
 
 
「私はあなたのことも知りたいし、知っているつもりになりたいのにあなたはそれを許さない」
 
 
虚を突かれた。
違う、さっきのはそういう意味じゃないと否定しかけて、いや、案外そういう意味かもしれないと口を閉ざす。
しかしだからといっておれがこいつを嫌いだという理由にはならないはずだ。
 
 
「…お前がそう思っていようが、おれは誰にだってこんな感じだろうが」
「ちがうわ」
 
 
またきっぱりと否定する。
顔つきは曖昧なままなのに、言葉尻だけはやけにはっきりしているところがロビンらしい。
 
 
「あなたは私の名前を呼ばないし、目もあわさない。まるで私に見られることを避けてるみたい」
 
 
そうだったろうか。
思わず真面目に考え出して、返事を忘れた。
無言を肯定と受け取ったのかロビンは目を伏せた。
 
 
「ごめんなさい、どうでもいいのに。見張りお願いね」
 
 
ロビンが背を向けて、梯子へつながる床の扉に手を伸ばす。
気付けば立ち上がっていた。
すぐそこにある手首を掴む。
ロビンは切れ長の目を大きく開いて振り返った。
その目を見て、間違えたとすぐに手を離した。
近くで対峙すると、やっぱりまっすぐな視線が射抜いてきた。
なにか言わなければととりあえず口を開く。
 
 
「別に嫌ってなんかいねぇ」
 
 
ぶっきらぼうな言葉がぽとんと落ちる。
参ったこれじゃ思春期のガキだと思ったが出てしまったものは戻らない。
ロビンは、思春期のガキを宥める年上の女の役割を自覚しているように苦笑した。
 
 
「ありがとう」
「おまっ…口先だけじゃねぇぞ」
「いいのよ、なんだって」
「違うって言ってんだろ」
「わかったわ、大きな声出さないで頂戴、みんなが起きてしまったら、」
「お前がわかんねぇことばっかり言うからだろうが!」
 
 
怒鳴った拍子にもう一度手首を掴んだ。
ロビンは怒られた子供の仕草そのもので肩をびくつかせた。
泣くか、と身構えたがロビンはぐっと耐えるように唇を引き結んだ。
色の薄い唇がますます白くなる。
荒い自分の息だけが部屋の中に溶けていく。
顎を引いて押し黙ったロビンは、濁流を留めていた塀の留め具を静かに外すように、「あなたが」と声を絞り出した。
 
 
「あなたが悪いわけじゃないのに、悪いのは私なのに、忘れられないの、あなたが、私のこと、敵を見るときと同じ目で見てた頃のこと、忘れられないの。もうそんなことはないってわかっているけど、それでも、ちがうと思ってしまう。みんなと同じふうに見て、話しかけてほしい。私にも笑いかけてほしい…!」
 
 
歪んだ口元の動きを見ていた。
震えるそれは、エニエスロビーの頃を思い出させた。
今は泣いていないが、あの時と同じくらい、今ロビンが放った言葉は大きな衝撃となってぶち当たってきた。
ロビンの目を直接見ると、湿った瞳に吸い込まれるように引き寄せられた。
そうだ、この目の色は夜の海の色だと気付いた時には唇を重ねていた。
 
バサッと重たい本が落ちた。
ロビンが愕いて身を引く。
逃がさないよう腰に手を回した。
10センチも自分より背の高い女にキスをするのは初めてだ。
身体を引き寄せて腰をしならせる。
サブリナパンツの太腿が荒い生地のゾロのズボンに擦れて当たる。
脚の間に脚を割り入れると細くて頼りなかったロビンの身体が安定した。
唇全体を覆うようにかぶりついたので、歯がガツガツと何度もぶつかった。
かまわず何度もぶつけてやる。
目を開けると、丸く開いた紺色の瞳と目があった。
嫌いじゃねぇな、と思う。
見られるのが嫌なのはまっすぐすぎるからだ。
ルフィのまっすぐさとは違う、見透かそうとするかのような直視。
負けん気が働いて、対抗するようにロビンの目を見つめた。
困ったようにその目が泳ぐ。
そうだ、そういう迷った目もたまにはしてみやがれと場違いなことを思う。
しかしすぐにロビンの目がうつろになって、いかんこれは酸欠だと気付いて慌てて唇を離した。
 
 
「…あなたって…本当…」
 
 
呼吸を整えながらロビンが言葉を紡ぐ。
荒々しく口元を腕で拭って、ふんと鼻を鳴らした。
 
 
「わかったか、この理屈女」
「何もわかるわけないでしょう、ひどい人」
 
 
ひどいというわりに、目は笑っていた。
 
 
「見張り当番なのに…こんなことしていたら船長やナミに怒られるわ」
「ルフィの奴が見張りなんかするもんか、ナミだってクソコックが夜食だなんだって持ってきて見張りどころじゃねぇよ、気にすんな」
 
 
駄目な人たちね、とロビンが笑った。
ページが擦れるようなカサカサと細い笑い声だった。
 
 
「おい、やっぱりおれぁここで筋トレする。お前は外見張ってろ」
 
 
ロビンの返事を待たず背を向けて、冷たい鉄の絨毯に腰を下ろしてダンベルを手に取った。
後頭部に感じていた視線はすぐに外れて、ロビンは黙ってゾロの向かい、さっきまで座っていた元の位置に戻った。
手には落としたはずの分厚い本を持っている。
しなやかな白い手は、本のちょうど真ん中あたりを開いてぱらぱらと少しページを捲り、目的の箇所に辿りついたのか手を止めた。
 
 
凪いだ波の音。
寝ぼけた海獣の吠え声。
刀がなくても聞こえる鉄の呼吸。
紙をこする指の音。
自分とロビンの吐息。
 
すべてがちょうどよいバランスで配合されて、音楽のように心地よく部屋を満たしている。
そうだ、とゾロはダンベルを上下する手の動きを止めた。
言っておかなければ気のすまないことがある。
 
 
「おい、ロビン」
 
 
形の良い目がゾロを見た。
 
 
「お前…人のことああだこうだ言っておいて、お前こそおれの名前を呼ばねぇ」
 
 
ロビンは一瞬キョトンとして、言われたことを反芻するようにじっとしていたかと思うとふわっと笑った。
 
 
「そうね、ゾロ、ごめんなさい」
 
 
花が開くときというのはこんな感じだろうと思わせる笑い方だった。


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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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