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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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私には護衛がいる。
街に蔓延る悪党に私が不当な仕打ちを受けないように、常に光る目がある。
女の子はみなそうして守られるものだという可愛らしくも浅はかな勘違いに気付いたのは、十を過ぎて少しした頃だった。
少しお姉さんになったのにいつまでもついてくる護衛にうんざりし始めたのも、この頃だった。

「あれ、今日はひとり?」

文庫本から目を上げると、少し息を切らしたナミさんが立っていた。
シトラスの品のいい香りが彼女から流れてくる。

「えぇ、おつかれさま。走って来たの?」
「ううん、暑かったから早く店に入りたくて早足になっちゃった。他のふたりは?」
「まだ。ロビンさんからは少し遅れるって連絡が、あ」

私の視線の先を追ってナミさんが振り向く。
丁度店の扉をカヤさんがくぐったところで、私たちを探して不安そうにきょろきょろと辺りを見渡していた。
大きく手を振ってやると、目を留めた彼女が小走りで近づいてきた。

「ご、ごめんなさい遅くなって」
「遅くなんかないわよー。そもそもまだ約束の時間にもなってないし」
「よかった、少し電車が遅れていたから」

金色の細い髪を耳にかけながらカヤさんが羽根のような軽い仕草でナミさんの隣に座る。
そしてすぐ、少し遠慮がちに辺りを見渡して言った。

「今日、あの方は? ビビさんの」
「ペル? 今日は置いてきちゃった」
「黙って出てきたの?」
「んー、黙ってって言うか、言ってないって言うか」
「それを黙って出てきたっていうのよ」

ナミさんがからからと笑いながら店員を呼ぶ。
彼女が迷わずオレンジスカッシュを注文し、慌ててカヤさんがメニューに目を走らせてアイスコーヒーを注文した。
私の手元には既にアイスレモンティーが届いている。

「今頃お屋敷で慌てて探してんじゃないのー、あんたのこと」
「そんな大ごとじゃないわよ。黙って出かけることくらいよくあるし、ナミさんたちと会うわって確かテラコッタさん辺りに話したし」

そう言いながら、探してるんだろうなぁと思ってちくりと棘が胸を刺した。
ペルはいつも私の数歩後ろを歩いて付いてくる。
誰かと待ち合わせたときは、相手がやってきてしばらくするとそっといなくなる。
そして帰るころになるとどこからともなく現れて、「さ、帰りましょう」と私を促しやっぱり数歩後ろをついてきた。
隣を歩けばいいのに、と言ったことがある。
ペルはにっこり笑って「ありがとうございます」と言ったけど、隣には来なかった。
もちろんいつでも後ろにいるわけじゃなく、並んで話をすることもある。
でもいつそうするかは、彼が選んでいた。
わきまえている、と言ってもいい。

「すごいわね、とても大事にされてる」

カヤさんが白いハンカチでそっと汗を押さえながら言った。

「子供扱いされてるのよ。もしかしたら今更引けに引けなくなってるだけかも」
「ずっとペルさんなの? ビビ担当は」
「えー……別にペルが私担当ってわけじゃないのよ。ペルも父の仕事で忙しいし」

あ、でも。話しながら昔のことを思い出した。

「なんかね、小さいころまだ若かったペルとチャカ……もう一人の役員がね、私のお守をするように言いつけられたそうなんだけど。チャカは顔が怖くて、私が懐かなかったんだって。その点ペルは温和な顔をしてるから、どうしても私がペルにべったりだったみたい」
「やだーなにそれ可愛い」
「そんな小さな頃から一緒の方なのねぇ」
「強いし賢いし仕事もできて子供の頃から知ってるなんて、好きになっちゃいそう」
「好きよ、勿論」
「あんたのいうそれは家族の好きでしょ、そうじゃなくて」
「ううん、好きよ。ペルのこと。本人に言ったこともあるもの」

正反対のタイプのように見えるふたりがそろって目を丸める。
ときどきこうして誰かを驚かすのは面白い。
丁度そのタイミングで二人の飲み物が届いて、会話が途切れた。
ナミさんは店員から受け取ったスカッシュをゴッと一気に半分くらい飲んで、「え!」と大声を上げた。

「好きなの? 男として好きなの? そんで告白したの!?」
「えぇ、10歳の時に」
「なんだ」

がくっと頭を垂れたナミさんは、しかしすぐに頭をあげて楽しそうに「でもでも」と言葉を繋げた。

「今はどうなの、あんた彼氏ずっといないでしょ」
「えー……なんかもう今更そういうふうに見るのもなぁって。結局ずっと一緒にいるし」
「そ、その10歳のとき、ペルさんはなんて答えたの?」

遠慮がちに口を挟んだカヤさんは、なぜか胸を押さえている。
なんて言ったっけ、と私は目線を上げて記憶を引っ張りだした。

「普通に、『ありがとうございます私もビビ様が好きですよ』とか言われた気がする」
「えーがっかり、ってまぁそりゃそう言うしかないか」
「がっかり、した?」カヤさんはあくまでおそるおそる尋ねる。
「ううん、大喜び」

ばかよね、と笑うとナミさんもカヤさんも「かわいい」と言って笑ってくれた。

うそだ。
私はひとり部屋に帰って、大声を上げて泣いた。
たまたま私の部屋の前を通りかかったメイドにその声を聞かれてしまい、なにがあっただれがどうしたと夕食前の一騒ぎにさえ発展した。
「なんでもない」を突き通す私に、家の全員が困惑していた。
ペルだけがその理由を知っていて、でも誰にも何も言わなかった。
あのときペルはどんな顔をしていたのかよく覚えていない。
次の日にはただいつも通り私を起こしに来て、よく笑い、図書室に連れて行き勉強を教えた。
うやむやにされたわけではないのだ。
ただ私が彼のことを好きだと言い、彼も私のことが好きだと言い、あまりにもかけ離れたその意味に私が勝手に傷ついた。

「じゃあ今はもうそういう気持ちはないんだ」
「うーん、まぁねぇ」
「あ、なんか意味深」
「忘れちゃった」

グラスを手に取ると、カランと氷が音を立てた。
彼女たちには今の一言できっとわかってしまった。
いつまでも彼が私のそばを離れないように、私の気持ちも彼から離れないでいることを。
離れないっていうか、もうそういうものなのだ。

「ロビンさん遅いね」

店の外に目を遣って、背の高い彼女を探してみる。
釣られるようにナミさんも外を見たけど、カヤさんだけはテーブルを眺めていた。
 ふとカヤさんが耳に手を遣る。
 彼女の手で揺らされた小さなパールが金色の髪に溶け込むように光っていた。

「あ、かわいい」
「なに?」
「カヤさんの。ピアス? 綺麗ね」
「あ、ほんとだー。珍しいわね、アクセサリー付けてるの」
「あ、これ、うん。ちょっと、たまには」

急にもどもどと口ごもり始めた彼女は次第に耳から赤く染まっていった。
思わずナミさんと目を合わせ、あまりのわかりやすさにすぐに笑ってしまう。

「でもさー、ビビもカヤさんもいいとこのお嬢さんだからやっぱり厳しかったりするの? どこぞの馬の骨なんぞ許さーん! みたいな」
「そんなこと言われたことないわよ」
「私も」
「えーでも結婚は決まった相手と、とか」
「さあどうかしら」

肩をすくめながら、ちらりとカヤさんを盗み見る。
彼女は目を伏せて、冷たいはずのコーヒーを拭いて冷ますような仕草で飲んでいた。
恋愛、結婚、それらのことに私の家やカヤさんの家がどんな方針で臨んでいるのかはわからないけれど、あきらかに普通ではない自分の家の門構えを見ると自然と自由にいてはいけないのだと思わされる。
父が私になにかを押し付けるとは思えない。
思えないけど、私が自発的にそう考えられる人間になるよう育てられてはきた。

カヤさんと親しくなってすぐ、お互いの家のことが何となくわかってきて、少し親近感を覚えたことがある。
二人きりの時にそう思ったことを口にしたら、彼女は滅相もないと言った。
「私は食いつぶしてるだけだもの」と。

私の家は新しい何かを造り、守り、いずれそれを私が引き継いでいく。
しかしカヤさんはなくなる見込みもない程途方もない財産を、ひとり一生懸命小さな身体で削り取っている。
どちらの方が幸せで、どちらの方がそうではないのか私にはわからなかった。

「──でも、ペルさんもチャカさんも結婚してないのね」
「してないわねぇ」
「お忙しいんじゃないの」
「それはあるかも」
「実は相手がいたり」
「それはない」
「なんで?」
「始終うちにいるんだもの。会ってる時間なんてないわ」

じゃあやっぱり忙しいせいじゃない、と3人で笑った。
父に言ったら、二人まとめてバカンスでも取らせてくれるかしらと考えた。
そのときは私もふたりと一緒にどこかに行きたい。

「あ」

ぶぶっと鈍い音を立ててナミさんの携帯が震える。
「ロビンもうすぐ着くって」とナミさんが携帯の画面を見せてくれた。
店の中は次第と混んできて、テーブルとテーブルの距離が近いこのカフェではあんまり落ち着いて話ができない。
ナミさんも同じように考えたらしく、「じゃあちょうどいいし場所移動しない?」と言った。

店を出て、ロビンさんを迎えに駅への道を並んで歩く。
コンクリートがじりじりと熱を放っていた。
日は傾きかけてはいるけどまだまだ高い。
白い光の向こう、遠くの方に背の高い影が見えた。

「あ、ロビンだ」

おーいとナミさんが臆面もなく手を振る。
気付いたロビンさんも長い手を優雅に振って私たちに合図した。
彼女の隣を歩く、さらに背の高い影がある。

「わ、噂をすればだ」

ナミさんがにやりと笑って私を見た。
反射的にぎゅっと顔をしかめると、にゅっと手が伸びてきて私の頬をつねった。

「嬉しいくせに」
「……ひょんなことないひ」
「はいはい、あんたはもう帰ったら?」
「へっ」

ぱっと手が離れ、ナミさんは少し意地悪な顔で笑う。

「帰りたくなったくせに」

ロビンさんは私たちの目の前までくると、「遅くなってしまって」とあまり恐縮したふうもなく言った。
「お久しぶりですね」とペルがナミさんとカヤさんに言う。

「あんまりお久しぶりでもないけど」
「どうしてロビンさんと?」
「駅でばったり会って」
「駅? ペル、電車に乗ったの?」

いつもは車で私の送り迎えをしている。電車に乗る姿など見たことがない。

「いいえ、家から近いですし歩いて。駅の前を通りかかったときに偶然お会いしたのです」

ペルは浅く一礼して、では、と立ち去ろうとした。
また私を見送って(見送ったふりをして遠くから見守ってから)どこかに消え、帰り際にふっと現れるつもりらしい。

「待って」

ペルが足を止め、切れ長の目を少し見張って振り返る。

「ロビンさん来たばかりでごめんなさい、私帰らないと」
「えぇ、じゃあまた」

ロビンさんはあっさりとそう言って、ますます目を瞠るペルと手を振る私に薄く微笑んだ。
むふふ、と怪しく笑ったナミさんも、律儀に「気を付けて」と言ったカヤさんもどこか嬉しそうにしていた。
形のいい3人の影を見送って、「さ、帰りましょ」と今日は私から言ってみる。

「いいのですか? まだ帰るおつもりじゃなかったのでしょう」
「ううん、帰るつもりだったからいいの。ちょうどペルも来てくれたし」
「そうですか」

家の方向へ足を向けると、ペルも歩き始めた。
同じように歩いているように見せかけて、やっぱり少し後ろにいる。

「ペル」
「なんでしょう」
「横に来て」
「はい」
「そのまま歩いて」
「はい」
「言われたことならなんでもするの?」
「なんでもではありません」
「嘘。なんでもするじゃない」
「ビビ様の無茶に付き合ってばかりはいられませんよ」
「ふうん」

沈黙が落ちる。
砂の粒をひとつずつつまみ上げるみたいな慎重さで、私は息をした。

「今日は何故また黙ってお出かけになったのです」
「言い忘れただけよ」
「心配しました」
「ごめんなさい」
「もう、護衛は必要ないとお父上に進言されたらいかがです」

ぱっと顔を上げると、ペルはまっすぐ前を見ていた。

「煩わしいとお思いでしょう、ずっと」
「そういうわけじゃ」

煩わしく思ったことは何度もある。
でも、一度もいらないとは言わなかった。
ペルが私のそばにいる理由を一つたりとも減らしたくなかった。

「──煩わしくなんかないわ」
「そうですか」
「ペルはどうなの」
「私ですか」
「ずっと私のお守役でしょ。とっくにいやになってきてるんじゃないの」
「──大変な仕事ではあります」

ペルが少し目線を下げて、私を見た。
彫の深い目元が笑い皺を作る。

「ビビ様のお転婆はいつまでたっても治りそうにありませんし」
「そっ……んなことないでしょ!」
「いいえ、今日だって私がどれだけ捜し歩いたか」
「家のすぐ近くじゃない……」
「行先くらいおっしゃっていただかないと」
「ごめんってば」
「でも、誰にも譲れません」

息を呑んで顔を上げると、いつのまにかペルはもう前を向いていた。

「誰にも譲れない私の仕事です」

そう、と呟いた。
自宅が近くなると人通りが少なくなり、道幅も少し狭くなる。
歩道がなくなり、車も通らない一本道の真ん中を二人で歩いた。

「ペル」
「はい」
「好きよ」
「光栄です」
「大好きよ」
「私もです」
「昔もそうやって言ったの覚えてる?」
「覚えています」
「そのあと私が泣いたことも覚えてる?」
「覚えています」

おぼえています。
ペルの口調をまねて、同じように呟いた。

そんなこと覚えていなくていいのに。
忘れてしまって、もう一度まっさらなまま私の気持ちを聞いてくれたらいいのに。
積み重なりすぎた思い出が、いつまでも私たちをへだてている。

私がいつか他の誰かと結婚し、子を産んだら、ペルは泣きながらその子を抱くだろう。
私にそうしたようにおしめを替え、私にそうしたように食事を与え、私にそうしたように本を読み聞かせる。
私にそうしたように、その子の後を数歩下がって歩くのだろう。

「ビビ様」

唐突にペルが言った。

「また泣きますか」
「は?」
「あのときみたいに、家に帰ったらまた一人で泣かれるのですか」
「──泣かないわ」
「ならいいです」

困りましたから、とペルは言う。

「あのときはとても困りました」
「ざまあみろだわ」
「はしたないことをおっしゃらないでください」
「ペルを困らせるのが私の仕事だもの」
「とんでもない人だ」

「──先程」とペルは言う。

「なんでもではありませんと言いましたが」
「何が?」
「あなたの言うことを私がなんでも聞くのかという話です」
「あぁ、えぇ」
「確かになんでもではありませんが、ほとんど聞きます」

もう一度顔を上げ、ペルを見上げる。
横に並んだ顔には後ろから光がさし、影になって表情は見えない。でも確かに私を見ていた。

「あなたの言うことであれば、ほとんど聞いて差し上げます。だから」

もう家が近い。巨大な門扉がすぐそこに見えている。

「何を命ずるのかはあなたが選び、決めるのです」

私たちの姿に気付いた門番が、ゴォッと壮大な音を立てて門扉を開け始める。
聞きなれたその騒音をぼんやりと聞きながら、「いくじなし」と呟いた。

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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