OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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◆バカップルの友人なりきり100の質問。
バカップルに当てられている『苦労人』キャラになりきるそうです。
・・・ねぇ。
そんなこと言われたら、ねぇ。
彼しかいないよ!!
1.お名前は?
オレ?サッチってんだよ!
2.ご職業を
白ひげ海賊団4番隊隊長かつ厨房・食糧管理担当!
ご指名お待ちしております!
3.年齢は?
・・・く、くちがかってに・・・「おにいさん」
4.性別を
男
5.座右の銘は?
据え膳食わぬは男の恥
6.貴方の周りのバカップルに付いて質問させていただきます
おうよ、いるぜうちに。
7.バカップルのお名前は?
不死鳥と火の玉娘
8.バカップルの性別をどうぞ
もちろん男と女
9.奴らが付き合い始めたのを知ったのはいつ頃?
おれが焚き付けたみてぇなもんだし、最初から
10.素直に祝福できましたか?
おれ大人だし
11.そうでゲスか…(……)
なんだよ!信じてねぇな!
12.気を取り直して次の質問です!
さっさといけ!
13.バカップルの片割れから恋愛相談を良く受ける?
悲しいことに可愛い妹ちゃんからは。
おれがアクション起こした時はさすがにしばらく来なくなったけどな!
14.相談事の内容など詳しく教えてください
マルコがかっこいいどうしよう
マルコに無視されたどうしよう
マルコのメガネ壊しちゃったどうしよう
あーはーはー
15.その中で一番ムカついた事は?
マルコがかっこいいどうしようから惚気へなだれ込んだこと
でもムカつきはしねぇよ。
16.共感してしまった事
マルコに無視されるとかおれ、常日頃!
17.ノロケとしか思えなかった事
さっき言った通り、マルコの愚痴を聞いていたはずがいつのまにかマルコのどこがかっこいいかっていう話にすり替わってたこと。
あとマルコは酔うとアンの仕事の出来なさをここぞとばかりに責めるけど惚気てるようにしか聞こえない。
18.今ならバカップルどもを殲滅しても許されると思った事
そんなことおれっちしねぇよ?なんだかんだで楽しいからな
19.自分を巻き込まんでくれと思った事
マルコとアンが喧嘩すると、おれはふさぎこんだアンを慰めなならんし、マルコは不機嫌になってやつあたりするし。
まったくおれってなんていいひと。
20.何だかんだ言ってお前らラブラブだなぁと思った事は?
世間のラブラブとは程遠いかもしれねぇけど、ああだこうだいいながらいつも一緒にいること
21.貴方に相談を良く持ちかけるバカップルの片割れは誰でしょう?
言わずもがな、アン
22.その片割れは受or攻どちらですか?
攻めてたらそれはそれで興味深いけど、受けだな
23.最近相談聞くのが辛くなってきた
い ま さ ら !
24.そんなにヤツレた顔をしないでください…そのうちイイ事ありますよ(多分)
うるせぇな!ほっとけよ多分なら!
25.所で貴方はお付き合いしている方は?
ほら、おれが一人と恋仲になると世の中の女の子たちが可哀相だからさあ
26.………野暮なこと聞いてスイマセンでした…………
・・・わかってんなら聞くな!
27.まぁ…そんな貴方にバカップルが及ぼしている影響は?
おれにというより、船全体が苦笑に満ち溢れた感じになった
28.ラブラブバカップル台風接近中!!避難勧告発令!!主な被害内容は?
マルコがアンを腰にぶら下げたまま何事もなくおれの前を通り過ぎて行った。
まぁいつものことだ
29.バカップルがラブラブしているのを見て大変困った反応をする別の友人がいる?
新入りとかはびびってっかもなぁ
30.その人の主な行動内容は?
固まってんじゃね
31.その困った友人の尻拭いをよくさせられるのは自分だ
その辺にいるやつが説明するだろ
32.バカップルだけではなくその困った友人も「殺っちゃいたい」と思った事がある
そんな物騒なこと!あ、おれ海賊だった
33.今一番願うのは自分の心の平穏を保つことだ
船が穏やかならおれの心も穏やかだからさ
34.貴方の心の平和と安全を保つために消えて欲しい奴の名をこっそり教えてください
うん、モビーにはいねぇな
35.そうですか……強く生きてください…
いねぇって!お前さっきからちょくちょく気に障ることを!
36.奴らが巻き起こした事件で一番困ったことは?
アンの迷子事件もそうだけど、マルコが煮え切らなかった期間が面倒だった
37.微笑ましかった事
甲板で酔っ払って寝こけたアンをなんだかんだ言いながらマルコが部屋に持っていくときとか
38.思わず縁を切ってやろうと思った事
残念ながらおれら切れる縁は持ち合わせてねぇんだ
39.自分まで巻き込まれた事
マルコとアンが喧嘩したとき、結局おれとマルコの殴り合いになったこと
40.逆に自分が奴らを巻き込んだ事は?
ん、おれそんなことしねぇよ?こら、いつもだろとか言った奴出てこい!
41.大変!!バカップルに破局の危機が迫っています!!さて貴方はどうしますか?
あー大丈夫大丈夫。そのうちどっちかが我慢できなくなるからさ
42.そこで中を取り持つと言われた貴方…貴方の熱い友情に乾杯!!
仲なんて取り持ってたら身がもたねぇよ!
43.……スイマセン質問でも何でもない事をほざきまして……以後気をつけます……
ぜひそうしてくれ
44.さてそんな貴方をバカップルはどう思ってるんですかね?
マルコはちょっとくらいおれに感謝の気持ちを表してみろ!目に見える形で!
アンは気の利く優しい兄ちゃんくらいに思っててくれたらおれはしあわせ・・・
45.ココでいっちょ奴らに貴方の有難みを教え込んでおきますか?
おうそうしよう
46.貴方の事を自画自賛してみてください
へらへらしてっけど100人の隊員従えててそこいらの海賊には負けない腕っぷし!
んでもって料理させれば絶品仕上げる闘うコックさん!
甘いマスクと優しさは世の女を腰砕け!
こんないい物件いないぜそこのお嬢さん!
47.奴らの愚痴を思いっきり叫んでください
おまえら!そういうことはよそでやれ!船の風紀が乱れる!
48.長々と48問目ですが中途半端ですね……
ほんとだぜ
49.いっそ50質にしちゃ駄目ですかね?
おれはいいけどよ
50.……まぁ冗談はこのぐらいにして…次からバカップルを単体で検証していきたいと思います
冗談かよ、おれっちもう疲れてきたぜ・・・
51.バカップル受について…貴方はどう思っていますか?
アン?・・・妹だな。
すげぇすきだ。すげぇ。
52.受の属性を客観的に分析してみてください
馬鹿
53.バカップルになる前受と貴方はどんな関係でした?
おれはちょっといけないこと考えたりしたけど、アンは前も今もおれのことは兄貴だと思ってる
54.受の良い所は?
まっすぐであかるくて馬鹿なところ
55.悪い所は?
猪突猛進のくせに傷つかないふりして馬鹿なところ
56.実は受に淡い恋心を?
古傷がうずくねー
57.受とは何処で知り合いましたか?
アンがこの船に乗り込んできたとき
58.初対面の受の印象は?
据わった目ぇしてやがる
59.今受と友人で良かったと思うことは?
あんなに可愛い妹ほかにいねぇよ
60.逆に受と友人で後悔した事
妹じゃなかったらもしかして、とかは考えない
61.貴方と受との友人としてのお付き合い暦は?
アンが白ひげを背負ってからだな
62.攻といる時の受は貴方の目にどう映っていますか?
マルコだいすき!のオーラがアンの体のいたるところから出てる
63.受のノロケってどんなの?
マルコについて機関銃の乱れ撃ちトーク
64.攻と喧嘩した時の受の様子は貴方の目にどう映っていますか?
捨てられた子犬
または餌をもらえない子猫
65.貴方以外の周りの人間は受の事をどう思ってるんでしょう?
二番隊隊員たちぁ宗教作っちまいそうなほど陶酔してやがるし、ほかのおっさんたちはまぁ、可愛がってるな
66.バカップル攻について…貴方はどう思っていますか?
家族で仲間でときどきむかつくこというやつ
67.攻の属性を客観的に分析してみてください
冷製スープみたい
68.バカップルになる前攻と貴方はどんな関係でした?
ん?かわんねぇよ?
69.攻の良い所は?
なんだかんだいってあいつ面倒見いいからなぁ。基本放任だけど。
70.悪い所は?
おれを足蹴にしすぎ!
71.実は攻に淡い恋心を?
・・・え、ちょ、まっ・・・ぞわぁっ!
72.攻とは何処で知り合いましたか?
おれがオヤジの船に乗った時
73.初対面の攻の印象は?
ちびのくせにつんけんしてた
74.今攻と友人で良かったと思うことは?
今更言うような関係じゃねぇよ
75.逆に攻と友人で後悔した事
ねぇ
76.貴方と攻との友人としてのお付き合い暦は?
ガキん頃から
77.受といる時の攻は貴方の目にどう映っていますか?
冷めてるように見えっけど、アンでいっぱいになってるぜ
78.攻のノロケってどんなの?
アンの出来の悪さを語る
79.受と喧嘩した時の攻の様子は貴方の目にどう映っていますか?
超不機嫌。もうほんとやめて・・・
80.貴方以外の周りの人間は攻の事をどう思ってるんでしょう?
冷静沈着で頼りになると思ってんじゃね。
実際そうだけどさぁ…
81.彼らがカップルでよかった事は?
アンが幸せそうだからそんでいい
82.逆に悪かった事
ねぇよ。これからも
83.苦労した事は?
今まで言ってきたことでわかるだろ?オレの苦労を
84.貴方がこれからもバカップル達にしてあげようと思う事は?
飯なら任せろ!愚痴は海にでも垂れ流せ
85.逆にこいつ等にしてもらってもバチ当らねぇだろうと思う事
おれをいたわって・・・
86.彼らとの友情は永遠ですか?
おれっち永遠とかよくわかんねぇけどよ。
生きてるうちがそれだっつーなら、そうなんじゃね
87.自分も恋人が出来たら彼らに負けないバカップルになってやろうと思ってる?(もしくは恋人がいてバカップルだ)
・・・はは
88.世界が彼らを祝福しなくても自分は祝福してあげようと思う
祝福なんてされなくてもあいつら関係ねぇだろうけどよ。
まぁおれはするよ
89.誰がなんと言おうと彼らの味方であるつもりだ
おう
90.後10問です頑張っていきましょう!!
はいよー!
91.当てられると解っているのにバカップル達が悩んでいると手を差し伸べてしまう?
苦笑が似合う男サッチですから
92.お優しいのですね…そんな貴方に「苦労人」の称号を授けましょう
すっげぇいらねぇ!
93.何だかんだいって自分はお人よしなのかもしれない?
なんだかんだ言わなくてもそうだろうな
94.多分奴らはそこに付け入ってるんですよ?
マルコはわかってるだろうけどアンはそこまで頭回ってねぇだろうなぁ・・・
95.これからも当てられまくりの人生決定だと思う?
あいつらがいる限りな
96.とんでもないバカップルさんたちですが結局は迷惑掛けられても許してしまう
アンに笑顔でありがとう!とか言われたらもうどうでもいい
97.貴方にとってバカップルとは?
本人たちイチャついてるとか微塵も思ってないだろう奴ら。
マルコとアンだな
98.バカップル攻に一言
泣かすなよ馬鹿マルコ!
でも泣かされたらおれのとここいよ
99.バカップル受に一言
泣かされたら兄ちゃんがマルコぶん殴ってやるからなー
100.この質問の感想を一言
おれを痛めつける質問の数々どうもありがとよ!
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◆マルコがヤンデレ
もちろんアンちゃんに病んでる。
海賊設定でも現代パロでもいいな。
私的公式のマルアンは、マル→(→)←←←←アンだけど、
病みマルコ×アンは、マル→→→→→→→→→→アン。
海賊設定だったらやりにくいので、やっぱ現パロで。
コンビニでも居酒屋でも、バイト少女のアンちゃんにマルコが一目ぼれ。
っていうか直感で「こいつオレの」と勝手に決める。
そして鮮やかな手つきでアンちゃんに近づく。
サッチと飲みに行った居酒屋でアンちゃんがバイトしてたことにしよう。笑
マルコが心中でアンちゃんに所有宣言してるともしらず、サッチはバイト中の可愛いアンちゃんにちょっかいかける。
愛想いいアンちゃんは面白いおっさん二人組と仲良くなる。
「アンちゃーんこっちきてオレの酌してくれよ」
「残念、うち居酒屋だもん。女の子欲しいならそういう店行ってよね」
「じゃぁ一緒に飲みに行こうぜ!バイトいつ終わるの?」
ってサッチがいい具合にアンちゃんを誘ってくれる。
マルコは興味ないふりして、心中よくやったとサッチを誉めてる。
で、その日は普通に飲みに行って3人で馬鹿話して、気が合って、楽しくなっちゃって、普通に別れる。
んでもしばらくしたら次はマルコが一人で店来て、アンちゃんと約束つけちゃう。
アンちゃんは特にマルコに対して何の気もない。
普通におしゃべりしてさよならーみたいな二人飲みが数回続く。
でもそれから、アンちゃんが店終わって裏口から出るとマルコが待ってるようになる。
・・・怖ァッ!
「・・・どしたの?」
「遅かったねい、待ってたよい」
「・・・今日約束してたっけ、」
「オレらが理由もなく会うのは駄目かい?」
「・・・んなことないけど」
って感じで危機感薄いアンちゃんは気づかない色々。
んでもそれが数回続いてさすがにちょっとコイツヤバイて気づいたアンちゃんは、
マルコにもサッチにも言わずバイト変える。
で、新しいバイトの帰り道。
(なんかホラーみたいになってきた)
「アン」
「・・・っ!・・・マ、ルコ」
「バイト変わるのも教えてくれねぇとかさすがに酷ェよい」
「・・・、何の用・・・?」
「前も言っただろい。理由が必要かい?会いたかったんだよい」
「・・・」
「携帯の番号も変わってたが・・・最近会えなかったから連絡できなかっただけだよな?」
「・・・」
「今日はどこ行こうかねい、前アンが好きだって言ってた、」
「っマルコ!あ、あたしもう帰る・・・!」
「あぁ、疲れてるのかい。じゃぁうち来いよい。そこに車が」
「いい!うち帰る!!・・・っ!」
「帰さねぇよい。新しいバイト先見つけるのも一苦労だったんだ。今度こそ会えなくなったら困るだろい・・・?」
「っ、離して・・・!!」
アンちゃんお持ち帰りされまして。
マルコの住む(高級)マンションの一部屋に隔離されたりして。
親はもちろん親戚保護者その他のいないアンちゃんひとり社会から消えても気づかれなくて。
アンちゃん暴れて家具壊したりして。
怪我したらマルコがちょっと怒りながら手当してくれる。
「アンにはオレがいればいいだろい?オレはアンがいればそれでいい」
汗で湿ったシャツを手に部屋を出た。
人の気配はすごく遠い。
もしかするともう夜も遅いころなのかもしれない、そう思いアンはいつものハーフパンツにホルターネックのトップ一枚で廊下を歩いた。
頭上でランプがじじっと音を立てて燃える。
羽虫が数匹飛んでいた。
すうっとどこからか冷たい風が肩を撫でる。
冷気が背中を駆け上がり、アンは体温を上げた。
便利な体、と我ながら思う。
しかし手足の先はなぜか冷えたままだった。
まだ船の構造がよくわからないので、なかば徘徊に近い形で船内を彷徨った。
広い船だ。
スペード海賊団の船をすっぽり飲み込んでしまうだろう。
しかしところどころで年季を感じさせる傷や、しみがある。
アンは同じ景色が続く廊下を思いつくままに歩いた。
食堂に行きたかった。
せめて食堂でなくてもいい、水のあるところへ行きたい。
喉もカラカラだし、ついでに顔を洗いたい。風呂なんて贅沢なことは言ってられなかった。
アンはもう何度目になるのかよくわからない角を曲がった。
「あら」
「!」
淡々と歩き続けていたためか、ぼうっとしていて不覚にも曲がったすぐ先の人の気配に気付けなかった。
ぶつかる寸前のところで互いが急ブレーキをかけて立ち止まる。
アンは飛び退いた。
「ごめんなさい、考え事をしていて」
ごつい体に対面することを予想していたアンは、目の前に現れたしなやかな体に目を白黒させた。
とても久しぶりに、女を見た気がする。
薄いピンクのナース服と、びっくりするほどかかとの高いニーハイブーツを履きこなした彼女はアンの顔を覗き込むように見た。
背の高い方だと思われるアンでも、彼女には見下ろされてしまう。
アンは何を言っていいのかわからず目を見開いたまま彼女を見つめ返した。
もし出会ったのが船員の男だったとしたら意にも介さずすり抜けていただろうけれど、なぜだかそうすることができなかった。
見つめてくる女の金色の瞳が綺麗で、半ば見入っていたのかもしれないと後になって思う。
ナースは口元に小さく笑みを浮かべた。
「ひさしぶりね」
アンはぎょっとして身を引いた。
形のいい唇から鈴のような高い声がまろびでてきたことにも驚いたが、なにがどういうわけで彼女と自分が久しぶりなのか見当がつかなかったからだ。
こんな美人と自分は知り合いじゃない。
そんなアンの心を読んだのか、ナース(服装からして多分そう)は一層笑みを深くした。
「お腹がすいたのかしら」
「…べつに」
「そーお?」
ふいと顔を背けたアンに気分を悪くしたふうもない。
なんでこの女はこんなまじまじと見てくるんだとアンは気が気でなかった。
「あなた…」
いつのまにかまるでアンを鑑識するかのような視線で見ていたナースは、少し眉を眇めて呟いた。
「悪いけど、少し…、いいえ、とても。汚いわね」
汚いと評されたアンは、思わず素直に自分の身体を見下ろしてしまった。
脚はすすけた汚れが付いていて貧相で、ズボンは擦り切れやほつれがひどい。
手にしたシャツは言わずもがなボロボロで、髪の毛もおそらく然り。
自分じゃわからないけど、きっとにおいもひどいに違いない。
黙って自分の身体を検分するアンを見下ろして、ナースは突然ぱんっと胸の前で手を合わせた。
その音にアンが驚いて顔を上げると、ナースは男なら目を回すほど綺麗な顔でにっこり笑って言った。
「お風呂に入りましょう!」
「ふ、」
「私もちょうど今から入るのよ。服は貸してあげるからそれに着替えなさいな」
「え、」
「大丈夫、男湯とは別に私たちの大浴場があるのよ。もちろん全然小さいけれど」
「ちょ、」
「それにしてもあなた、そんな恰好じゃ身体が冷えるわぁ。女の子に冷えは大敵よ。お風呂で温まりましょう」
「な、」
「人前じゃ恥ずかしいかしら?大丈夫、今日はまだ早いから他のナースはまだ仕事中。私は今日早番だから、今なら私たちだけよ」
「ち、」
「さあお風呂はこっち!ああその前に私の部屋によって着替えをとってこなくちゃ」
雨あられのようにアンに降りかかってきた言葉はアンがまともな言葉を返す前に完結してしまい、いつの間にかとられた腕を半ば引きずられるように引っ張られてアンはナースについていくしかなかった。
*
ナースが自室だと言ってアンを招き入れた部屋もそうだったが、この女湯なるものも海賊船とは思えない小奇麗さだった。
白いタイルはまぶしく、並べられた洗剤類やケア用品は装飾も美しい。
そしてなにより風呂場全体がいい香りで包まれている。
アンは始終きょときょとと視線を彷徨わせて落ち着かないが、ナースは平然とした顔のまま脱衣所でおもむろに服を脱ぎ去った。
「立ちんぼしてても仕方ないでしょ。諦めなさい」
そう言われ、アンもおずおずと布きれ同然の衣服を脱いでいった。
ナースに指示されるがままに頭を洗い顔を洗い体を洗い、これを使いなさいあれをああしなさいと言われてなぜだが従順にしている間に全身ピカピカになっていた。
頭を洗ってあげると言われたときはさすがに拒否したが、ナースに手渡された石鹸で体を洗ったら、腕やら脚やらつるっつるする。
そもそもこんなにも泡の立つ石鹸で体を洗ったことなんてあっただろうか。
全身くまなく洗ったことでべたついていた髪も体もさっぱりしたが、嗅ぎ慣れない花の香りがふんわりと漂うことには違和感しか感じない。
自分の肌の慣れない感触を確かめるようにアンが何度も自分の腕をこすっているのを、ナースは小さく微笑んでみていた。
浴槽は数人が手足を広げて入れるほどの広さで、アンはこんなに大きな風呂に入るのは初めてだった。
口の下あたりまで身体を湯に沈めてから、ああシャワーだけで良かったのにと気づいたが今更遅い。
熱い湯は傷に染みて全身がピリピリしたが、同時に張りつめていた何かがゆるゆるとほどけていきそうな感覚を味わう。
慌てて気を張り直しても、長くは続かなかった。
少し離れたところではナースの細い首から上が見えている。
金色の豊かな髪が上にまとめられて後れ毛から滴が落ちる様はこれまた目を回すほど美しいが、海賊船には似合わない。
静かな水面が少し傾いた。
静かに湯につかっていると、船体に波がぶつかる外の音がよく聞こえる。
波が唸る轟音は獣の唸り声のように空恐ろしい夜の音だった。
しかしナースの先程の「早番」という言葉からすると、まだそう遅くない時刻なのかもしれない。さらに彼女の口ぶりでは、ナースは他にまだ数人いるらしい。
スペード海賊団にも船医はいたが、ナースなんて洒落たものは当然いない。
そういえばまだアンが甲板の隅を陣取ってうずくまっていたとき、ちらりと何か医療器具が運ばれているのを目にした覚えがある。
運んでいる人間まで気にしなかったのでそれがナースだったかはわからないが、運ばれている医療器具がおそらく白ひげの物だと感づいて、そんな老いぼれに指先であしらわれる自分にむかっ腹が立ったのは覚えていた。
アンがナースを盗み見ていたのに気付いたのか、ナースはアンを振り向いてニコリと笑った。
慌てて目を逸らし、今度は鼻の下まで湯につかる。
ナースとはいえ、この船の人間と馴れ合ってしまった。
後悔のような罪悪感のような気持ちでいっぱいになった。
浮かんできたのはスペード海賊団のクルーたちの顔だ。
彼らはまだこの船の牢に入れられているんだろうか。
アンに食事が与えられたように、彼らにもちゃんと与えられているんだろうか。
ここは敵船の上、その望みは薄い。
アンに食事が与えられていることさえ、そもそもおかしなことなのだ。
いくら自分を仲間に引き入れようとているやつらだとはいえ、かたくなに拒み続けるアンにそろそろ白ひげ船員たちも愛想が尽きてきたはずだった。
──早くここを降りよう。
せめてクルーだけでも海へ逃がして、自分はここで白ひげに挑み続ける。
そのうち相手にされなくなるかもしれないけど、意味のないことかもしれないけど──
「ねぇ」
ちゃぷん、と水音が響いた。
ナースが動かした手のあたりから波紋が広がってアンにまで届く。
声をかけたナースはアンと視線を合わせることなく呟くように口を開いたので、アンもナースのほうを見ることはしなかった。
返事も、なんといっていいのかわからずだんまりを続けた。
「あなたいくつかしら」
いくつ?とアンは心の中で反芻した。
なに、かず?あ、歳のことかと納得がいくまで数秒かかる。
しかしナースの言葉を理解したものの、すぐに答えられなかった。
そのままの歳を言ったら馬鹿にされるだろうか。
ガキのくせに息巻いてと鼻先で笑われるかもしれない。
警戒心が水の中をつたって彼女に気付かせたのか、ナースが苦笑した雰囲気が湯気の向こうから伝わった。
「言いたくないならいいけど」
そう言われると黙っていられないのが性だ。
「…18」
ちゃぽん、とまた水音が鳴る。
どんな反応が返ってくるかと思えば、ナースはまあ、と間延びした嘆息の声を上げた。
「若いわねぇ」
しみじみとしたその声はなんとも呑気で、アンが想像していた張り詰めた雰囲気は微塵もない。
思わずちろりとナースを横目で見てしまった。
「洗ったらみるみる綺麗になるんだもの、女として妬けるわね」
やっぱり若さには勝てないのかしらとぶつぶつ呟く横顔はアンが今までまともに見たことのある女という生き物の中で一番きれいだと思ったが、それを上手に伝える語彙も方法もアンは知らない。
そもそも「女」であることを意識させる言葉は大嫌いだった。
性別の裏にくっついてくる附属的な意味は自分に損しかもたらさないと知っていた。
それなのに、この人の言葉には嫌な感じがなにひとつ滲んでいない。
なぜか懐かしい感じがした。
「服は洗ってあげましょうね。それまでは私たちのお古だけど、それを着なさい」
「…」
「それにあなた、お腹がすいたでしょう。今日のお昼はサッチ隊長がごはんを持って行かれたみたいだけど、それまで丸2日も寝ていたんだもの」
「ふっ…!?」
バカなと叫びそうになって、慌てて押しとどめた。
まさか、二日もあそこで寝ていたなんて。
そう、思い出した、最後の記憶。
明け方を狙って白ひげの部屋を襲撃した。
肌寒くなってきた朝に早く起こされた白ひげは不機嫌そうな顔で、寝ぼけ眼のままアンを張り飛ばした。
そのまま甲板に叩きつけられたアンは悪態をつきながらよろよろと立ち上がり、手ごろな船べりにもたれかかってうずくまった、確か。
そうして皆が起きだしてきて騒がしくなってきた頃、あのリーゼント男がアンに朝食を運んでくれた。
突き返して押し問答する段階はとうの昔に踏んでいたので、アンは大人しく受け取ってそれを食べる。
おなかが満たされたアンは甲板の、ちょうど日陰になっていたマストの下で横になったはずだった。
あれが二日も、いや三日も前のことだったなんて。
バカみたいに警戒も忘れて眠った自分を殴りたくなった。
というか、あれだ、ふとんおそるべし。
ちくしょう誰だあたしをベッドに運んだ奴は。
っていうかあたしは寝ている間に誰かに運ばれたのか!?
そんなことできる人間、いるはずない。
嵐の吹き荒れるがごとく混乱するアンを尻目に、ナースはアンを諭すようにゆっくりと言葉を続けた。
「人は疲れると眠るけど、眠るのもすごく体力のいることなのよ。おなかもすくわ。ここを上がったらごはんをもらいにいきましょうね。きっとまだコックさんたちは起きているから」
思わずうなずいてしまったのをごまかすように、アンは鼻先まで湯に沈めた。
それから少し顔を上げて、口を水面から出す。
「…今、何時?」
「時間?11時くらいかしら」
夜更けだとばかり思っていたが、そうでもないらしい。
しかしまだ深夜でもないというのにアンの部屋の周りに人気はなかった。
疑問が顔に出ていたのか、ナースは首をかしげるような動作でアンを促した。
アンがおずおずとその疑問を口にすると、ああそれなら、とナースはしたり顔で口を開いた。
「あなたが寝ていた部屋は1番隊の部屋群。1番隊は今日は見張り当番だから、全員船中にちらばってて誰もいなかったのよ」
なるほど、と言うしかなかった。
どうやらこの船には隊が組まれているらしいということも、その一つの隊が空っぽになるような仕事が割り振られているということも同時に理解した。
素直に感心する顔をしたアンに、ナースはさらに目元を緩めた。
「隊長は部屋にいたでしょうけどね」
「…隊長…」
「あなたがいた部屋の隣の部屋よ」
ぎょっとしたアンを見て、ナースはおかしそうにくすくす笑った。
「静かな人だから、隣の部屋でもいるのかいないのかわからないわ」
ナースはそう言ったが、静かだとかいう物音云々の話ではなかった。
気配が微塵もなかったのだ。
もしずっとあそこにいたのだとしたら、気配に敏感なアンに一ミリたりともそれを悟らせなかったということになる。
そのうえアンが足を痺れさせて悶えていたときも、いらだって枕を投げた時も、その音を聞かれていたかもしれないのだ。
アンはいたたまれずに頭まで湯に突っ込んだ。
ナースは驚いて目を丸めたが、湯の中からごぼごぼと上がってくる水泡を見ておかしそうに笑った。
湯の中でぎゅっと目をつむったとき、あ、と思い当った。
彼女から感じる懐かしさの所以をわかってしまったのだ。
金色の髪も華やかな香りも目立つ顔だちもなにひとつ似ていないけれど。
言葉が丸く縁どられているような優しさや、柔らかいのにまっすぐな視線が。
とてもマキノに似ていた。
→
*
ふんわりと身体を包む素材のぬくもりに、アンはぼんやりした頭のまま本能的にそれに体をすり寄せた。
決して手触りがいい毛布ではないけれど、むしろ少しガサガサしているが、何故だろう安心する。
しかしすぐにその状況の「おかしさ」に気付いて、がばっと身を起こした。
どこだここは。
ベッド、ベッドだ。そんでどこかの部屋の中…
少し埃っぽいけど、不潔だとかすぎたないわけではない、小さな部屋。
アンは警戒する野生動物さながらの鋭い視線で辺りを見渡し、とりあえず危険がないと分かって肩の力を緩めた。
──本当は、危険なんてここにはないのかもしれないと薄々気づいてはいたのだけれど。
それを認めてしまえばこの『船』に屈してしまうことになるような気がして、なかなか簡単に認められることではなかった。
それに──船の上に女は御法度だと、古臭い考えを持つ輩がこの海にはまだゴマンといる。
『女は船に乗せてはいけない、海の女神が嫉妬して、船を沈めてしまうから』
そんな言い伝えの裏に隠された、船乗りの男たちの汚い欲望の塊をアンはよく知っていた。
(…それにこの船の船長はジジイだしっ…)
古臭さから行ったらピカイチだ。
『オレの娘になれ』
あの言葉の意味はまだ分からないけど。
不意に、アンは扉の外に人の気配を感じた。
身体を包むベールのようにアンの周りに張り巡らされた警戒心は、数メートル離れドアを隔てたところにあるヒトの息遣いさえ敏感に感じ取った。
アンは膝にかかっていた毛布を取り払うと、ベッドの上で跪くような形になって扉を睨んだ。
ドクンと心臓がはねる。
「もっしもーし、サッチの宅配サービスでーす。仔猫ちゃん起きてる?」
間延びした男の声がドアの向こうから聞こえた。
アンの口が小さく「は?」の形で開く。
お邪魔しマース、と扉が開いた。
「お、起きてる起きてる。おはようさん。ってなんて格好してんだ」
部屋の中に入ってきた男は、臨戦態勢のアンを目にしてぱちくりと瞬いた。
男がドアを開けた瞬間から、いろんな匂いがアンの鼻腔に飛び込んできた。
香ばしいパンの香り、温かいスープの湯気とスパイスの香り、甘いにおいもする。
アンの意識は自然とそっちに引っ張られた。
男はそれに気付いたのか、気さくな顔つきでにかりと笑った。
「腹ァ減ったろ?昼飯だ」
ベッドの上で固まったままのアンそっちのけで、サッチという男はサイドテーブルに大きな木のトレーを置いた。
匂いの発生源は言われずもがなこれだ。
アンの視線はトレーとサッチの間を行ったり来たりしてせわしない。
「すきっ腹に詰め込みたいのはわかるけど、それじゃ腹壊すといけねぇ。そういうわけで今日はサッチのスペシャルメニューだ」
アンの前に仁王立ちで腰に手を当てたサッチは、トレーの中身について堂々と説明し始めた。
パンは胃にやさしくふっくらやわらか、ビタミンを取るために人参が練りこんである。
スープは玉ねぎトロットロ、たまごでとじたあっさりめの味わい。
デザートはおなかにやさしいホットプリン。
アンの視線は、もはや動くことをやめていた。
トレーの中身に釘づけだ。
サッチは、まあごたくはいっかと小さく笑った。
「たんとお食べ!」
アンはサッチを見上げることもせず、というよりも湯気を立てる食べ物たちから目を離せずに、スプーンを手に取った。
スープ皿を手に取ると、じんとぬくもりが冷えた指先から手のひら全体に伝わって、スプーンですくって唇をつけると味うんぬんよりその暖かさに鳥肌が立つように体中が痺れた。
なにかを口にしてやっと気づいた。
おなかがぺこぺこだ。
「うまい…」
思わずこぼれた一言に、目の前の男が破顔した気配が伝わった。
それでようやく、アンはサッチの存在を思い出した。
サッチは、旨いかそりゃ当たり前だと一人頷きながらアンが座り込むベッドにすとんと腰かけた。
アンはぎょっとして身を引いた。
皿の中身が大きく波打つ。
「なっ…なんっ…!」
「いんや、構わず食ってくれ」
サッチはにこにこ顔を崩さずにアンを促した。
アンは怪訝な顔でサッチを横目に捉えたまま、スープ皿を置いてパンを手に取る。
かじるとほのかに甘い。
隣のサッチは鼻唄交じりにリーゼントを手で撫でつけていた。
アンが食事をするその間、何をするでもなくずっとそこに座っていた。
『出てけよ』と、アンののど元まで出かかった。
しかし結局、それが口からこぼれ出ることはなかった。
なんでだろう、と自分に尋ねる気持ちは、「これおいしい」「こっちもおいしい」そんな思いが覆いかぶさるように邪魔をするのでうまく考えられなかった。
「…おまえさあ」
アンがプリンの最後のひと口を口に含んだその時、サッチが口を開いた。
不意を突かれたアンは驚いて最後のひと口を味わう暇もなくごくんと飲み込んでしまう。
アンは黙ったままサッチのほうを見やった。
子供が怖いもの見たさに壁の向こう側を覗く仕草に似ている。
いつのまにかにこにこ顔を消したサッチは、腰かけたままベッドに後ろ手をついて自分のつま先を眺めていた。
唇を突き出しているのは拗ねているわけではなく、この男の子供くさい癖だ。
「呑めるほう?」
「は?」
今度こそ声に出して聞き返してしまった。
真面目な顔で何を言うのかと思えば、むしろ説教でも垂れ始めるのかと身構えていたにもかかわらず、サッチの言葉はアンの意表をついたところからでてきた。
アンが返事に窮してサッチの横顔を見つめていると、サッチはちらりと横目でアンを捉えた。
ぴくっとアンの小鼻が動く。
「いやだからさ、呑めるかって聞いてんの」
「…は?なに…酒?」
そうそうとサッチは頷いた。
「近いうちに宴すんだろうしさ、酒の好みくら知っとかねぇと」
「うたげ…?」
「おめーさんたちの歓迎会ってんだよ」
かんげいかい、と一句ずつその言葉を飲み込んで、アンは持っていたスプーンを目の前の男に投げつけてベッドの上に立ち上がった。
「かっ…!勝手なこと言ってんじゃねぇ!!誰がいつアンタらの仲間になるなんて…!!」
サッチは立ち上がり左肩にぶつかって転げ落ちたスプーンを拾い上げると、それと同時にサイドテーブルからトレーを持ち上げた。
壁に張り付いて息を切らすアンを静かに見上げた。
「鐘が鳴ったらメシだから、今度は食堂来いよ」
さっと掻き消えるように見えなくなった男の笑みは無表情に近くなり、そのまま扉の向こうに消える男の背中を、アンはただひたすら睨んだ。
ぱたんと丁寧に扉が閉まると、アンは壁に背中を預けたままずるずるとその場に腰を落とした。
なんであんなにも腹が立ったのか。
ごちそうさまも、ありがとうも言えなかった。
すごくおいしかったのに。
アンは跳ねるような動作でぼふんとベッドの上にうずくまった。
正座のまま腰を折って前に倒れ、両手で前髪辺りをわしづかむ。
先程食べたパンが喉元をせりかえしてきてもおかしくない体勢だったが、食べたものたちはすんなりと胃へ吸収されてしまったらしくその予兆もない。
ぽんと片手に乗ってしまうようなサイズのパンも、一皿のスープもアンの胃袋をいっぱいには満たさなかった。
それでも、あのときのように、もう一人の男が差し出した一杯のスープの時のように、胸だけはいっぱいになった。
あの男の料理には、アンの知らないものがたくさん詰め込まれていて、それでびっくりしたのだ。
当たり前のように受け入れてくれたって、こっちにはその準備ができていない。
アンはその日の夕方、食堂に行かなかった。
*
扉の横、壁に背を預けていたマルコは、部屋から出てきたサッチに何食わぬ顔で「怒らせてどうする」と言った。
「おっさん趣味わりぃなあ、盗み聞きかよ」
「てめぇの声のボリュームじゃ筒抜けだ、なにも盗んでなんざいねぇよい」
サッチは空になったトレーを左手のひらで支え、ほりほりと額を掻く。
「おれ早まった?」
「いいや、妥当だ」
サッチはちらりと横目でマルコを見遣ったが、マルコはまっすぐ前の壁を見ているだけでサッチの視線を受け流す。
部屋の中から、ばふんぼふんとベッドにとっては哀れな音が聞こえてきたが、暴れているわけではないのだろう。
興奮した猫が唸りながら悶えている様子が想像できた。
あの娘が一つ首を縦に振ればなんと簡単に事は済むことかなんて、思ってはいるが誰も口にはしない。
きっとそれが近い未来のことだろうといくら確信に近くても。
もはやひとりずもうで悩み悶えるあの娘を抱える準備は万端で、こちらはそれを望んでいるというのに。
ただその望みをうまく伝えることはマルコには難しくて、きっとサッチにも難しくて、まだ手が出せずにいる。
*
次にハッと目を覚ました時、アンは自分の目が開いているのか閉じているのかわからなかった。
一面真っ暗だったからだ。
しかしがばりと身を起こした瞬間、鮮烈な痛みが両足の膝から下を襲い、ぐあ、とカエルがつぶれたかのような声を上げてアンは倒れ伏した。
「つあぁっ…!」
ぴりりっと走った痛みの後に、ジーンと鈍い痺れが足先から太ももにまで伝わった。
どうやら奇妙な格好のままいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
アンは膝をついた四つん這いのような格好のまま、じんじんと音を立てて足を駆け巡る血の流れに歯をくいしばって耐えた。
痛いような、こそばゆいような痺れがアンに声も出させない。
(かっ、かっこわるっ…!)
しばらくそうしていると、痺れは少しの余韻を残してゆっくりと引いていき、アンはフッと詰めていた息を吐き出した。
すると考える余裕が出てきて、アンは未だ耐えの姿勢のままではあるが現実的なことに頭が回りだした。
今、何時だ?
夜、そう、夜だ。
少しずつ暗闇に慣れてきた目が小さな窓を捉えたが、そこから明かりが入ってこない。
ぬらぬらと黒い闇しか四角いそこからは見えない。
眠りにつく前にこなれたお腹がまたペコペコになっているから、数時間は眠っていたはずだ。
そこまで考えてはたと気づいた。
…ここはどこだ?
一度起きてリーゼント男が持ってきたスープやパンを食べた時、あれは何時のことだったんだ?
アンが自分の意思で行った行動は、ずいぶん昔のことのようで思い出せない。
分かるのは、少なくともアンは自分の脚でこの部屋へは来ていないということだ。
暗闇にすっかり慣れた目をしばたかせて、アンはゆっくりと上体を起こした。
「どこ行くんだよ」
何もない空間から突然聞こえてきた声に、アンはハッと身構えた。
しかしすぐに、あぁと肩の力を抜く。
なじみの声だ。
「どこにも行かないよ」
吐き捨てるように言ったつもりが、自分の口からこぼれ出た声は今にも消え入りそうで辟易とした。
「行く場所なんてないもんな」
からかうような、そして蔑むようなざらついたその声はどこまでもアンのカンに障ったが言い返すのもバカらしくて口をつぐんだ。
「図星でだんまりかよ」
「うるっさいな…」
声はきゃらきゃらと笑った。
「餌付けられて居座るの?スペード海賊団は終わるの?船員たちは」
「うるせぇな!わかってるっつって、」
「まさかあのジジイたちの情にほだされたの?」
アンは真っ暗な暗闇に、手元にあった枕を掴んで投げつけた。
白い塊はそのまま向こう側の壁にぶつかって、ぼとんと落ちた。
声はそれっきり聞こえなくなった。
苛立ちだけを残されたアンはベッドの上に膝立ちのまま落ちた枕を睨んだ。
わかっているけどわかりたくないことを、自分の声に告げられるほど腹立たしいことはない。
あぁ、とため息に交じって声が漏れた。
いつのまにか汗をかいている。
風呂に入りたいなあと霞がかった頭で思った。
→
風が凪いで空は青い。
暇を持て余した男たちは甲板の日陰で、日の高さには目もくれずに酒盛りを始めているそんな海賊船の上。
大きな、それは大きな衝撃音と何かがぶっ飛んだ爆発音がぐちゃぐちゃになったような、なんとも聞き苦しい音が船上に響いた。
「あれ、まだやってんのか」
「やってるやってる。懲りねえ上にしつけぇんだなアイツも」
「オヤジもよく相手してるぜ」
「まあオレアイツの顔まともに見たことねぇけど、まだガキだろ」
「ガキもガキ、まだ20も超えてねぇってよ」
「うっへぇ、よくやるぜ」
デッキブラシを顎置き代わりにして、掃除当番に割り当てられた男たちは音のした方に顔を向けて無駄口を叩きあった。
平和な船の上に一匹のノラ猫が入り込んだらしいという噂は、すでに船中に流布されている。
そのノラっぷりと言ったらもうピカイチで、とんでもない棘を持っているという噂だ。
ふと、男たちの視界に影が差した。
「口ばっか疲れさせてねぇで手も動かせよい」
陰の持ち主に目をやった男たちは慌てて姿勢を正し、すんませんっ! という言葉と共に忙しくデッキブラシを甲板にこすり付け始めた。
もうすぐ飯だから、という言葉にも威勢のいい返事を返し、床をまるで親の仇でも見るような顔で睨みながら必死で磨く。
その横を、声をかけた当の男が気だるげな顔つきで歩き去って行った。
マルコは先ほど爆音が鳴り響いた地点へと歩いていく。
また船大工どもに仕事が増えると小言を言われるのは壊した本人ではなく仲介役の自分なわけで、そう考えると頭が痛い。
まだ痛くはないがこれから痛むであろうこめかみを軽く指先で揉みながら角を曲がった。
散らかる木くず、倒れた扉、外れた蝶番と転がる人間。
また派手にやったもんだと眉間に皺が寄った。
ここしばらくマルコの両目の間には絶え間なく皺が刻まれている。
それと同時にため息も増えた。
まったくどうしてくれようかというほど、面倒で厄介な悩み事ばかりなのである、この船の上は。
足元に散らばった木くずを蹴散らし時には踏みつけながら転がる人間の元へと歩いていく。
真っ黒で、ぼさぼさに絡み合った髪の毛がくっついた頭がマルコのほうを向いていた。
うつぶせに倒れていた人間は、マルコが立てた足音を聞きつけたのか、ピクリと背中を揺らす。
そしてすぐさま上体を起こし飛び退くようにマルコと距離を取った。
背中を丸めて四つん這いになったようなその姿は本当に人を知らない野生動物のようで、驚き通り越して呆れてしまう。
よくもこうまで徹底して人を避けられるものだと。
薄黄色のシャツから頼りなく細い腕が伸びて、前かがみになった小さな身体を支えていた。
黒いズボンは少し擦り切れて、まるで街に浮浪する子供のようにみすぼらしく見える。
それに輪をかけて野生っぽく見せているのは、何をおいてもその目だった。
風呂に入らない上に海風にやられた髪の毛は油で光り潮気でかさつき、すっかりと顔を覆っている。
しかしその隙間から、大きな光がみえる。
暗闇の中で黄色く光る不気味な光のように、それはじっとマルコをまっすぐ照らした。
ギラギラと危なげに光る目つきは紛れもなく野生のそれだ。
マルコは臆することなく見つめ返した。
じっと視線を合わせて数秒もたたないうちに、そのノラ猫は血を吐いた。
げほっ、ごほっと数回むせかえって、乱暴に口元をぬぐう。
ああ、と今度こそ明らかなため息がマルコから漏れた。
「おいお前」
俯いていた目の光はギッとマルコを睨みつけたが、マルコが呼びかけたのは血を吐くほど弱りきったノラ猫にではない。
少し離れた甲板上を歩いていた一隊員を呼び止めたのだ。
「ナースから救急セット一通りもらって持って来い」
「うーっす」
従順な返事を返し、クルーは船室へと消えていく。
マルコはぐるると唸る動物をそこに残して、扉があった部分がすっかりさびしくなってしまった部屋、船長室へと入っていった。
再びぽっかり口を開いた出入り口からマルコが出てきたのはそれから十分にも満たないころだった。
あいかわらず散乱する木のかけらたちと、救急セットを抱えて所在なさ気にうろうろするクルーが一人。
ノラ猫はいない。
マルコは礼を言ってそれを受け取った。
中身が詰まってそこそこの重さのある箱を片手に、マルコは歩き出す。
少し行くと、すぐに小さな塊をふたつ見つけた。
ひとつはこれでもかというほど固く膝を抱えて小さくなっているし、もうひとつはその前でこぶしほどの白い塊を積んで遊んでいた。
白い塊? 包帯だ。
「ハルタ、何やってんだい」
「んー、怪我してたから、包帯を」
「用途はなしてねぇみたいだが」
「いらないって言うんだもん」
ていうかちょっと今いいところだから邪魔しないで、とハルタはマルコを見上げて少し睨むと、また目の前の包帯タワーに熱い視線をくれ始めた。
変なところで几帳面なハルタは、使いかけの包帯、少しよれた包帯、新品でまっさらな包帯を分けて綺麗に三角に積み上げていく。
こんなことを目の前で繰り広げられれば、へそ曲がりの頑固でなくても気が滅入るだろう。
また知らず知らずのうちにため息がこぼれていた。
「ほらハルタ、もう行けよい」
「邪魔しないでってばマルコ」
「包帯で遊ぶんじゃねぇよい、ねーちゃんたちに怒られんぞい」
「じゃあこのまま積んどいてもいい?」
「揺れで倒れたら散らばるだろい。片づけとけ」
ハルタは不満げに口を尖らせてマルコを見上げたが、やがて億劫そうな動作で積み上げた包帯を崩し始めた。
「災難だったな」
それは紛れもなくうずくまった者へと言われた言葉だったが、かたくなに縮こまったそれは動きもしなかった。
災難ってボクのこと?とハルタが口を尖らせてマルコを見上げた。
マルコは肩をすくめて、うずくまった脚の傍に救急セットを置いた。
*
冬島の気候に入った。
ノラ猫の襲撃は百回を超えた。
部屋にこもり書類を片していたマルコのもとに、困り顔の航海士が一人訪れた。
「すいません、私たちじゃどうしようもなくて」
何事かと彼に導かれるまま来てみれば、メインマストの真下で横になって膝を抱える子供がいた。
実年齢は子供と言うより大人に近いはずだが、膝を抱えてうずくまっていたのが何かの拍子にコテンと横になっただけ、という姿でじっと動かないそのカタマリは、寒さに震える子供のように見える。
「…これがどうかしたかい」
「マ、マストに上りたいんです」
「上りゃあいいじゃねぇかい」
「ムリなんですって」
「ああ?」
怪訝な顔を見せると、航海士は泣きそうな顔でいっぺん上ってみてくださいよとマルコを促した。
どういうことだと首をかしげながら言われたままに一歩踏み出して、すぐに気付いた。
気温がちがう。
足元から立ち上るすさまじい熱気が一気にマルコの顔を炙る。
視線を落とすと、すぐそこに発熱体が転がっていた。
その身体の周りの景色はぼんやりと歪み、陽炎が揺れている。
「ねっ?」
情けない顔でマルコに問いかける航海士は、これじゃ上に行きつく前にあぶり焼きにされてしまいますよと嘆いた。
確かに、と言わざるを得ない。
「観測ができません…」
困り果てた航海士がマルコに助けを求めたのも道理であった。
戦闘員ではない彼がこの発熱体をどうにかしようというのは至難の技だろう。
しかし、ふとマルコは思い当たった。
「こいつを起こしゃあいいじゃねぇかよい」
「そ、そんな」
ムリムリムリムリと首を振る男は、お願いしますからどうにかしてくださいとへこへこ頭を下げた。
目を覚ませばひとたび破壊の権化と化すとでも思っているのだろうか。
呆れたマルコはため息とともに再び足元を見下ろした。
しかしこのノラ猫、目の前でマルコと航海士がいくつも応酬を繰り返していたにもかかわらずピクリとも動かない。
顔は髪に隠れて見えないが、腹のあたりが微かに上下しているあたりから眠っているのだろう。それは深く。
まさしく死んだように。
マルコは静かにしゃがみこんだ。
途端に鮮烈な熱さが顔面を襲った。
(こりゃあ、)
熱から守るように片目をつむって、未だ眠りつづけるそれを起こそうと手を伸ばした。
しかしマルコは、あと一寸で肩に触れるというところで手を止めた。
背後では、航海士が遠巻きに見守っている。
マルコは上から伸ばしていた手をひるがえし、代わりに両手を横たわる身体の下に差し込み持ち上げた。
「ほらよい」
マルコは微動だにしないそのカタマリを胸の前に抱えたまま、メインマストを顎でしゃくった。
ノラ猫を起こしてくれるものだとばかり思っていたのだろう、航海士はぽかんと口を開けて、目の前の青い光を見つめた。
しかしすぐにハッとした顔で、ありがとうございますと頭を下げる。
マルコは航海士が顔を上げたころにはすでに荷物を抱えたまま歩き去っていた。
両腕に視線を落とすと、ノラ猫の体勢はあの鉄壁ガード姿勢から少し崩れていた。
あいかわらず脚はマルコの腕の中で小さく折りたたまれているが、両膝の間に収まっていた頭が今はマルコの腕の中からはみ出てカクンと垂れていた。
細くて白い喉がくっきりと目に焼き付いた。
船室に入ろうとマルコはドアの前で立ち止まったが、この両腕の荷物がどうしようもない。
片手を開けるために、マルコはゆするようにして小さな身体を肩に担ぎ直した。
そうしてやっと片手が開いたそのとき、横から現れた影がマルコの代わりにドアを開けた。
「いいモン持ってんじゃん」
「…んじゃあ代わってやるよい」
「馬鹿言え、焼け死ぬわ」
「テメェ、オレも熱いんだよい」
フン、と息を吐いてマルコはサッチが開けたドアの向こうへと踏み出した。
後ろからサッチは楽しげについてくる。
「カイロ代わりにゃもってこいってか」
「ガキの体温にしちゃあ可愛くない熱さだよい」
「違いねぇ」
サッチはクックと笑った。
で、どこ行くの?と呑気な声が続く。
「オレの部屋の隣、空き部屋あったろい。そこ放り込んどきゃいいだろい」
「隊長直々に面倒見てやるわけね」
「…冗談じゃねぇ」
マルコの呟きは意に介さず、サッチはマルコの肩口から両手と共にぶらぶら揺れているノラ猫の頭を覗き込んだ。
「…すっかり寝こけちまって」
「気絶してんのかい」
「いや、さっきオレの飯食ったから」
「ああ、だからかい」
闘いを挑んで、綺麗に負けて、疲れてボロボロになったところに温かい飯ときたら次は眠りしかやってこないだろう。
数日前マルコが何とかして餌付けに成功し、それからはサッチが餌付け当番となっていた。
額には、小さなガーゼが貼られていた。
自分で貼ったのだろう。
マルコは自室を通り過ぎ、開いている左手で隣室のドアを開けた。
埃臭いその部屋には幸いベッドが一つある。
マルコはその上に、荷物を放り投げた。
青い翼が溶けるようにして右手に変化した。
「荒っ」
「運んでやったんだ、上等だろい」
「あーあー可哀そうに子猫ちゃん」
ベッドのわきにしゃがみ込んだサッチは、それが発熱危険物であることを忘れて額に手を伸ばした。
アチッと聞こえるその背後で、マルコは部屋の隅に積まれた木箱の中から古ぼけた毛布を引っ張り出す。
サッチが指先にフーフー息を吹きかけながらマルコを振り返った。
「かけてやんの?やーさしーい」
サッチの軽口は無視して、マルコはノラ猫を放り投げたのと同じ要領で毛布をその上に投げかけた。
ぴくりとも動かない。
「…自己防衛本能だ」
寒さから身を守るため、自ら発熱して身体を守っていた。
そして他人が近づけば温度が上がる。
昏々と眠りつづける意識とは無関係に身体は必死に外的と闘おうとしていたのだ。
サッチは持ち前の下がり眉をさらに下げて、慈しむようにベッドの中を見下ろした。
「…難儀なもんだ」
近づいてやりたいのに、許してくれない。
本人もきっとそれを望んでいるはずだと思うのは、エゴだろうか。
二人の男は、小さくうずくまって眠るその娘を、しばらくのあいだ黙って見つめていた。
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