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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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騒がしい話し声やイゾウのものと思われる笑い声は、3つ先の部屋の前まで聞こえていた。
ナースの姉さんたちの鬼のように長い爪がきらりとひかって、アンの腕を妖艶に絡め取って上質な酒を次々とあけていくという男らしい女子会はお開きになったのだ。
ほろ酔い気味の身体をふらつかせて、アンは思うままに廊下を歩いていた。
そして気付いたら1番隊の廊下にいた。
もはや癖になりつつあるその行為に、あららとひとりこぼす。
アンの足はマルコのほうへと磁石のように引き寄せられる。
 
寝る前に顔が見たい。
できることならマルコのベッドにもぐりこみたいが、引きずりおろされるのが目に見えているので無駄なことはしない。
どうやら数人で飲んでいるらしいかの部屋は、アンがおぼつかない足取りで歩み寄っていくにつれて、声は抑えられていった。
どうやら馬鹿馬鹿しい話は終わったらしい。
 
少し顔を出して、マルコに小言を食らう前におやすみとだけ言えばいい。
それだけならマルコだって、普通に、以前のように、少し笑っておやすみと言ってくれるだろう。
イゾウたちがいるのなら、彼らにも同時におやすみと言えるし言ってもらえる。
ちょうどいいや、と赤くほてった頬を緩めてアンは突き当りのマルコの部屋に近づいていった。
 
ノックの習慣はないので、すぐさまドアノブに手を伸ばす。
そこまでやってくると、中の話し声はよく聞こえた。
ドアに近い床に座って飲んでいるのかもしれない。
 
 
「いつまでもアンがお前しか見てねぇと思ってっと、後悔すっぞ」
 
 
指先はノブに触れたが、回る前に動きが止まった。
あたしの、話してる。
この声、サッチ?
そのあとマルコとサッチが一言二言交わすのが聞こえた。
話の話題が自分であるという情報がすぐさま頭に染みわたって、こそばゆいような感覚が走った瞬間、鮮明にマルコの声が聞こえた。
 
 
「オレがあいつに惚れるこたぁねェ」
 
 
うわ、というような声が出そうになった。
なんと、核心に近い。
 
ドアに伸ばした手を引っ込めて、アンはすぐさま背を向けて歩き出した。
まるで逃げるようだが、そんな自分の姿に構ってはいられない。
酔っ払いの足取りで歩いていたのが嘘のように、すたすたと歩いた。
階段に差し掛かる角を勢いよく曲がる。
不意に目の前に現れた壁に、アンはつんのめるようにして立ち止まった。
その壁も同じように急停止して、おっとと声を上げている。
ビスタだ。
逞しい胸筋の上にある顔を見上げると、ビスタは「おおアン」と顔を綻ばせた。
しかしすぐ、何かに気付いたように眉を寄せる。


「アン、どうした?」
 
 
なにが? と問うと、いや顔が、と心配げに覗きこまれる。
その言葉に促されるように顔に手を持って行き、自分の頬に触れた。
上気していてほのかに熱い。
それに反して気分は高揚しているとはいいがたい、むしろ妙に凪いでいた。
 

「ビスタ…あたし、」



口を開いたそのとき、階段を軽やかに昇ってくる足音が聞こえた。
小柄な姿がひょこりと顔を出す。


「ビスター!寝る前に本貸してって言っただろ…って、あれ、アン」



ハルタはアンの姿を捉えて、ビスタと同じように目を細めて笑った。
 
 
「アンも飲んでたの?」
「うん」
 
 
そ、と頷いたハルタは、ビスタに視線を移したが、二度見するようにアンにまた視線を戻した。


「アン、何かあった?」


ビスタと同じように窺い見るような視線で、アンより少し低いところにある丸い眼が見つめてくる。
別に何もと首を振った。
ビスタに何を言おうとしていたのかもう思いだせない。
ビスタがそれを忘れていてくれるのを祈った。
 

「何もって顔してないぞ」



子どもをたしなめるような大人の顔つきで、ビスタはアンの肩に触れた。
そのまま歩くよう促される。
ひとまず私の隊長室に行こうか、とビスタは優しい声を出した。


 
 



その部屋は整理が行き届いた小奇麗な部屋で、男の、それも海賊の部屋とは思い難い。
片付けてもすぐに物の居場所がわからなくなるあたしの部屋とは大違いだ。
バラの香りがするのはビスタの風呂上りの香りか、それとも部屋の香りか。
マルコの部屋も綺麗に整頓されてたなあと思いだしてふるりと身体が揺れた。



「ほら」
「ありがと」


 
差し出されたカップを両手で受け取る。
熱いぞ、ぞビスタはそっと手を離す。
紅茶から立ち上る蒸気が鼻の先を濡らした。
ビスタは自身の仕事用の机に腰掛け、アンとハルタは並んでベッドに腰掛けた。
こくりと一口紅茶を飲むと、熱さでじわりと喉がしびれる。



「この前寄港した島が旨い紅茶の産地でな。葉を多く買い過ぎてしまったんだ」



そう言いカップを傾けるビスタがにっと口端を上げるので、アンもつられるようにして笑う。
んん、オレ紅茶苦手だなあと、ハルタは茶色い液体を舐めながら呟いた。


「落ち着かないときや困ったときは、とりあえず温かいものを飲むといい。息をつくだけで何かと変わるものだ」



そうだね、とアンは笑みを浮かべた。
紅茶のカップを膝の上に置いて覗き込むと、頼りない自分の顔がぼやけて見える。
 

「…あたし、そんなに変な顔してた?」
「変っていうか、いつものアンじゃないから」



ハルタが紅茶のカップをテーブルに置き、遠ざけるように手で押しやった。
気に入らないらしい。
ビスタはかける言葉を捜しているように押し黙っていた。


 
「本当にたいしたことじゃないっていうか」
 
 
軽く、与太話をするような口調で先程のことを言えば、ビスタはうむと唸ったきり考え込むように腕を組み、ハルタはきょとんとどんぐりのような茶色い目をアンに向けた。
 
 
「でもさぁ、マルコっていつもそんなんだろ」
 
 
ビスタが咎めるようにハルタを見るが、確かにその通りなので、だよねとアンは微かに笑う。
 
そうなのだ。
ゼロ地点から突っ走り始めたこの思いは、届かないという見込みの上で始まったも同然なのだ。
そのくせ何をいまさら、と馬鹿馬鹿しさが充満する。


「アン、悲しいの?」



ハルタが窺うようにアンを見上げた。
『悲しい』か、とアンは自分の内側に問いかけた。
返事はない。
 

「わかんない」
 
 
簡潔すぎる答えに、ビスタが困ったように眉を下げた。
 
 
「あたしバカだしなぁ」
「自分のことをバカだというのは感心しないな」
 
 
怒ったような声に、少し驚きをにじませてビスタを見ると、ビスタは大きな手を揺らしてアンを手招いた。


 
「なに?」
 
 
座ったまま首をかしげても、ビスタはアンを手招くのをやめない。
なんだなんだとアンは腰を上げた。
ビスタに手招かれるままその大きな体の正面に立つと、椅子に座ったビスタの顔は少し目線より低いところにある。
 
突如、背後から衝撃がぶつかった。
 
 
「うおっ…!」
 
 
その衝撃に押されるまま、ビスタの肩にぶつかるように乗りかかる。
肩に手をかけて後ろを振り向くと、衝撃の正体はハルタだった。
ハルタはアンの腰に抱き着くように体を寄せて、俯いている。
 
 
「なに、ハル」
 
 
タ、と最後まで続く前に、ビスタの太い腕がアンとハルタを丸ごと抱え込むように抱き込んだ。
小さい子供をあやすように頭を撫でられる。
 
 
「…ビスタ?」
 
 
返事はない。
これは、きっと、慰められているんだと気付いた。
 
別に落ち込んでないのに、子ども扱いしないで、といつもならすぐさまあらわるはずの腹立たしさがすぐにせりあがってこない。
ということは、きっとそれなりに自分は傷ついていたのだと、ようやく気が付いた。
 
ぽすん、とビスタの肩に頬を預けた。
目を閉じる。
マルコの顔を思い出す。
涙も出ない。



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酒くさい人いきれが蒸した部屋に充満する。
きっと男臭いとはこういうことだろうと思うが、慣れというのは恐ろしい。
サッチにジョズ、そしてイゾウはオレの部屋で好き放題酔っぱらっていた。
特に何があったというわけではないが、イゾウが手に入れたという良い酒を味わわせてくれると珍しく気前の良いことを言うので、部屋に入れた。
執念じみたものを感じる鼻のよさでかぎつけてきたのがサッチで、ついでに部屋の前を歩いていたジョズも呼び込んだ。
イゾウのバカ笑いがほどよく酒のまわった頭に響く。
酔ってはいない。

いつもならいるはずの姿がないのは、今日はナースたちと女子会などというものがあるようで。
そういうものにあいつが参加していると知ったときは少し驚いたが、当然といえば当然だ。あいつは女なのだから。
女というか、まだ少女的性質から抜け出せていない子供だ。
だからまたナース共から要らぬ知識を吹き込まれてオレに押し付けてくるのだろう。


「マルコほら、グラスが空んなってるぜ」



イゾウがちょいちょいと酒瓶をかざすので、悪ぃなと注いでもらう。



「なんだ、アンがいねぇからしょげてんのか」
「ちげぇ、つーかしょげてねぇ」



思わずムキになって反論すると、イゾウはそうかいそうかいと軽くあしらう。
腹が立って、そのいい酒をグイと一気に喉の奥まで流し込んだ。
ぴりぴりと咽喉がしびれる。


「あぁでも、アンも殊勝だな、こんな無機質男に惚れちまって」



イゾウはしみじみそう言いながら、猪口を傾けた。
 

「…あいつは、わかってねぇんだよい」


よくは知らないが、それなりに不遇な子供時代を送ってきただろうアンが同じ年頃の女のように誰かを思ったり思われたりなど出来ていたとは思えない。
この船に乗ってからも見ての通りいかつい野郎ばかりで、サッチなどの女好きもいるにはいるが、世間一般の恋愛常識などとは無縁な生活を送ってきたはずだ。

そんなアンが、突然オレのことが好きだとか言う。
いや、前からそんな類のことは口にしていたが、それは間違いなく今とは意味合いが違った。
あいつは家族として、オレのことが好きで。
オレのこともサッチのこともビスタもイゾウもハルタもジョズも、とみんなのことが好きで。
もちろんオヤジへの愛は際限ない。


アンは可愛い。
たとえアンが男でも、オレはそいつを可愛いと思うだろう。
だがそれでは今のアンは納得しないのだ。
何故ならあいつは女として、男のオレが好きなのだから。


「…オレ、アンに聞かれたぞ」
 

マルコには好きな女がいるのかって、だから振り向いてくれないのかって。
こういう話は基本的に聞き役のジョズが、控え目に口を開いた。

オレに、女?馬鹿かあいつは。
サッチはオレの返事を待つように視線を送っていた。



「…そんなもんいねぇのはわかってんだろい」
「ああ、だからそう言ったんだが」


 
アンはそれを聞いただけで去ってしまったのだという。
ねぇねぇマルコってさ、と手当たり次第に訪ねて回るアンの姿が容易く目に浮かぶ。
くっ、とイゾウが喉を鳴らした。
 

「もうお前から落ちちまえよ」
「…は?」
「アンにだよ、わかってんだろ?」
「なんでオレが」
「なあサッチ、オレら可愛い妹に幸せになってもらいてぇもんな」



イゾウが視線をやった先にオレも目をやると、サッチは酒瓶に口をつけたままちらとこちらを見遣る。



「…ああ」



ごくりと喉を鳴らしたサッチは酒瓶を置き、いつものように片眉を吊り上げるようにして笑う。


 
「オレなんか毎日だぜ、マルコの好きなタイプやらいろいろと」
「もとはといやあテメェが元凶じゃねぇかい」
 
 
そうだ、こいつが焚き付けたんだと、睨むように前の男を見ると、隣のイゾウがいやそりゃ違うと口を挟んだ。


「アンはだいぶと前からお前一本だったぜ」


 
本人の認識はさておきな、と。



「なんでお前がそんなのわかるんだい」
「はっ、わかってねぇお前のほうがオレにゃわかんねぇよ」


なんだと、と口を開いくと、ジョズがオレも思ってたとぼそりと呟いた。
ああオレもだとサッチもそっけない。
その反応にオレは細い目を丸くするばかり。

いつもわけのわからない形に纏められているイゾウの髪が、今日は肩の辺りでゆるりとひとつに括られている。
イゾウはその束を指先で弄びながらオレに視線を送った。


「アンの何が気に入らないんだ。あいつは良い女だ」
「…気に入る気に入らないの問題じゃねぇ。あいつは家族で、妹だ。今更そんな目で見れるかい」
「はっ、オレァアンなら抱けるぜ」



イゾウのその言葉に目を剥いた。
あけすけない口調はいつものことだが、それにしてもと思わないでもない。
イゾウはオレの視線を流すように猪口に口を付けた。



「抱かねぇがな」


 
あいつは妹だから、と。



「矛盾しすぎだろい、やっぱり妹なんじゃねぇか」



そう言うと、次は呆れたような切れ長の目がオレを睨んだ。



「だからお前さんは阿呆だっていうんだ」
「なっ」
「オレからしたらアンは妹だ。アンがオレを兄貴だと思ってっからな。だがマルコ、お前さんはどうだ、アンはお前をもう兄貴だなんて思ってねぇ」


すらすらと薄い唇から紡がれるものに、言葉が詰まる。
言い返す言葉が引っ掛かりながらでてきた。


「…なんでそうオレとアンがくっつく必要があるんだい」
「別に必要はねぇよ、オレが思ってるだけで」


もう言うことはないとでも言うように、イゾウは手の酒を飲み干した。


「マルコ」



サッチが真っ直ぐオレを見ていた。
こういう目をするコイツは得意じゃない。


「いつまでもアンがお前しか見てねぇと思ってっと、後悔すっぞ」


イゾウがちらりとサッチを見遣り、再び視線を下ろした。
ジョズは所在なげに首筋に手をやる。


「そんなこと思ってもねぇし、後悔もしねぇよい」
「あっそ」
「オレがあいつに惚れるこたぁねぇ」


ぐらんと頭が揺れる。
だめだ久しぶりに酔った。
手元にあった酒をひったくり、煽るように傾けると喉が火を噴くように熱かった。

オレは別に、 ごまかしてなんかない。



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したたかで明るいアンがまるで子犬のようにちょろちょろと、足元を動き回る様子を眺めるのが好きだ。
それこそ犬のように人懐こい、と思えるのはきっといいことだ。
昔のアンはこうではなかったと、おれたちは知っているのだから。
 
強いなぁ、と感心して眺めているととんでもないことをしでかすので、慌ててその後処理に回る。
このバカが、とげんこつを落としても、「ごめんごめん」とまるで信用ならない謝罪をしてくる可愛い妹は、どうやらオレの兄弟に恋というやつをしたらしい。
まるでその単語が似合わない鳥野郎に、恋というやつをしたらしい。


「サアッチイイイイ」
「うおっ、アンっ」

どすっと重たい衝撃と背中でなるぐじゅぐじゅという水音。
またマルコに怒られたな、と予測をつけて振り向くと、銃撃戦さながらの激しさでその顛末を語ってくれる。

それから数十分マルコの愚痴。
でもいつのまにかそれはマルコのどこがかっこいいかと言う話にすり替わっていた。

まったく、オレは何が哀しくて親友のかっこ良さについて妹と語らねばならんわけよ。
そう、妹と。
話は長くなる一方で、アンはオレの部屋に行こうと言う。



「…あー、いや、オレこのあと明日の下準備しなきゃなんねェからよ、食堂で聞くよ」
「そ?」
「ああ、それにオレの部屋今汚ェんだよ」
「はは、いつもじゃん」
「んだと」


バカ話。
とりとめがなく、オレにとっては意味もない。
それでもアンが嬉しそうに話すので、オレまで嬉しい気がしてしまって始末が悪い。
 

「でね、あたし二番隊の書類も全部期限守ったんだよ、見張りだってもちろんサボらなかったし、ちょっと居眠りはしたけど、頑張ったのに!マルコ、褒めるどころかめんどくさそうな顔であっそごくろうさんって、それだけ!!そりゃあ褒めてもらいにいったあたしもどうかと思うし当然のことだろって言われたらそうなんだけど!」
「そーだなあそりゃ哀しーなー」
「でしょ?それにね」


ああ哀しーな、オレ。


「なあ、アン」
「何?」



お前、本当にマルコがお前に惚れてくれると思ってるわけ?
こんだけしつこくして、本当に嫌われたら怖いとか思わないわけ?
っていうか、お前本当にマルコが好きなのか?

言いたいことは次々と風船のように浮かんでいくのに、頭の中のオレがそれを針で刺して消し割っていく。


「お前、可愛いなあ」



代わりにそう、ほろりと口にするとアンはきょとんと目を丸くしてから、はにかんでふふと笑った。

ああ、だめだ、だめだめ、とオレはアンから目を逸らす。


「マルコもそう思ってくれてたらいいんだけどなあ」
「…そうだな」


そうだな?
そんなわけねぇだろ思うわけねぇだろいや違う思うかもしれないそうじゃないんだってそうじゃなくてオレが思って欲しくないだけでだってオレはアンが、


「さてと、」



アンは椅子から腰をあげ、んんと伸びをした。



「いっぱい話すと口疲れるってほんとだな!ごめんサッチ、仕事あるのに」
「…ああ、かまわねぇよ」


明日の朝ごはんは何かなーと歌うように背を向けたアンに、思わず口をついていた。


「もし、さ。マルコが他の女とできてたらどうすんの?」



振り向いたアンは少し目を丸くして、ほんの、ほんの少しだけ眉尻を下げた。
そんな顔させたいわけじゃないのに、



「んんー、そうだなあ、でも、やっぱり」
好きなんだろうなあ。


うつむきがちにそう答えたアンの顔は、女のそれで。
オレは思わず苦笑を漏らした。



「そうだよな、はは、じゃいっちょ下準備始めるかねぇ」


 
オレもアンがしたように上半身を伸ばし、くるりと背を向けた。
ぱたぱたとアンが食堂を後にする。背中でドアが開き、閉まる音がした。


「何聞いてんだよ」



ひとり呟いた声は拡散して消えていった。
それが思いのほか弱弱しくて、辟易とする。
ほんとに、しょうがねぇな。

同じだけそばにいるのになんでだ、なんて聞くのは野暮ってか。


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マルコに、怒られた。昨日もその前も、怒られてたんだけどさ。
前までは、つまりあたしがマルコを好きだとか言い出す前は、ちょっと抱き着くくらいじゃ怒らなかったのに。
最近じゃ背後から忍び寄るだけで気付かれて、逃げられるか怒鳴られる。
あんな長い足でたったかと歩かれたら追いつけるわけがない。

なんだろう、この空回り感。
一方通行なのは初めからわかっていたのに、欲張りすぎたんだろうか。
気付かずに、ずっとマルコはあたしの兄ちゃんでいてくれたほうがあたしにとってもマルコにとってもよかったんだろうか。
めずらしく、後悔というものがちらりと頭をよぎった。

不意に、頭の上にずんと重みがかかる。



「サッチ」
「また怒られたのか。懲りねぇなあ」


サッチはあたしの頭に顎を置いたままそう言って、からからと笑う。
マルコの背中を見ながらそう言うから、一瞬まるでマルコに言っているように聞こえた。
 

「…マルコは、あたしのこと嫌いになっちゃったのかなあ」


そう呟くと、サッチはあたしの頭から顎を離して顔を覗き込み、緑色の目を子供のように丸くした。


「アンにしては弱気な発言じゃねぇか」
「あんまりマルコが嫌がるから」
「…んん、まあ。本気で欝陶しがってるのは確かだな」


わかってはいたけど、はっきりとそう示されると、さすがに気が沈む。
サッチがくしゃりとあたしの髪を撫でた。


「よし、可愛い妹のためにもここは兄ちゃんがアドバイスをくれてやろうじゃないの」
「…ほんと?」
 
 
サッチは得意げに鼻の穴を膨らませて、アンの背に合わせるように少し腰をかがめた。
 

「あのな、男っつーのは追い掛けられると逃げたくなるもんなんだ」
「そうなの?」
「そうなの。アンは追い掛けてばっかりだろ?だからマルコは逃げるんだ」
「なるほど」



画期的で、かつその通りに聞こえた。



「だからな、アン、今日は追い掛けるのやめろ」
「え」
「急にアンが迫ってこなくなったらマルコが心配するだろ?今度は逆にマルコが追い掛けてくれるぜ」


マルコが、あたしを?
想像してみたが、想像力が乏しいのか非常にぼんやりとしている。
しかし今の状況より良いことは確かだ。

サッチすごい!と称えると、サッチは誇らしげに笑う。


「さ、実践実践」
「よっしゃ」


 
 
 



食堂の戸を開けると、ふわりと食べ物の匂いが全身を包む。
クルー達が昼食をかきこんでいるテーブルの間を進んでいくと、あちこちから遅かったじゃねぇかと声がかかった。

あたしとマルコとサッチは、同じテーブルに座ることが多い。
別にジョズや他のクルーと食べたいときだってある、決まっているわけじゃない、毎日というわけじゃない。
でももう今は、マルコの隣で食べたいと素直な思いが形になっている。


(…いた。)


四角いテーブルに、マルコとサッチが向かい合って座っていた。
いつもならあたしは食事中のマルコの背中に飛び付いて、ひとしきり愛情表現をしたあとご飯を取りに行くのだけど。(ご飯よりマルコを優先することの重要性をマルコはわかってくれない)
サッチがあたしに気づいたようで、マルコに何か言っている。
マルコがゆっくり振り向き、警戒する動物のような目をこちらに向けた。
でもいつもなら走りよって飛びつくはずのあたしが悠々と歩いているからか、マルコは少し驚いたように目を見開いたもののすぐに視線を皿の中へと戻してしまう。
思いのほか反応が薄くて、思わず舌打ちが漏れた。



「よっ、アン」
「ごはん取ってくる」


マルコの後ろを通り過ぎる。
振り返ってマルコの反応を確かめたかったけどそんな余裕はなかった。

とりあえず、と大量のおかずをお皿に盛り付け、それを三皿もってテーブルへと戻る。あマルコの席を迂回するようにして、マルコの斜め前、サッチの隣に座った。
テーブルに皿を置きながらちらりと視線だけマルコに向ける。マルコは新聞を読みながら食後のコーヒーをすすっていた。
こっちを見もしない。

気づいてないの?
気づいてない振りしてるの?
もしかしていつもあたしが隣に座っているのも知らなかったとか?


「アン座れよ」

悶々と考えて立ち尽くすあたしに苦笑して、サッチはスプーンの柄でコツコツとテーブルを叩いた。
とりあえず席に着き、持ってきたおかずにスプーンを突き刺して口へ運ぶ。
少しサッチに頭を寄せるようにして囁く。



「ね、マルコ気づいてないのかな」
「さあ…気づいてはいるんじゃね、まあまだ様子見だな」
「ん…」


まだこれからだ、とぽんと背中を叩かれて少し気を持ち直す。
きっとそのうちあたしを追いかけてくれるんだろう、マルコも。
未だにあたしの想像力は微動だにしないが。


食事が終わると、ぱらぱらとクルーが食堂を後にする。
今日はあたしもマルコもサッチも午前中に仕事が終わっていて、午後は非番だ。
そういうわけで本当ならここでこうしてぐだぐだとサッチとくだらない話しをしながら、マルコのひげでも眺めていたいところだけど。
そんな思いを振り切って席を立った。



「お先っ」



出口へ歩を進めると、後ろから待ちに待った声。



「あ?もう行くのかい、珍しいねい」


キタッ
そう小さく心のうちで叫び、でも顔だけは努めて冷静に振り返る。



「な、んで?」



やば、噛んだ。



「別に」


マルコは再び手元の新聞に視線を落とした。
その顔には何の気持ちも浮かんでいないように見える。
あのポーカーフェイスが崩れたことなんてそうそう見ないのだけど。
思わず落胆の表情を浮かべたあたしを、マルコの代わりにサッチが見て、励ますように声を出さずに笑ってくれた。
サッチ、話が違うじゃんかとぶすくれる。
 
 

 

午後のおやつをもらいに食堂へ行く途中に一回、そして風呂前に一回、マルコに廊下ですれ違った。
あたしは飛びつくことも声を上げて駆け寄ることもせず、他クルーにするように軽い挨拶で済ませる。
「あ、マルコだ」とまるでアリの行列を足元で見つけただけのように興味の色を持たない声を出してみたりする。
それでもマルコはたいした反応も見せず、同じく他クルーに対するのと同じように接するだけだ。意味がない。
 
風呂で頭を洗いながらそんなマルコの姿を思い返しているとき、不意にハッとして顔を上げた。
垂れた洗剤が目に入って染みる。
いだだだだ、と声を上げて慌ててシャワーで洗い流すと、一緒に風呂に入っているナースの姉さんたちが優雅な笑い声を上げた。
しかしあたしは水と共に流れていく洗剤を見つめて愕然とする。
 
もしかして、マルコは、信じてない?
もしかしなくても、信じてない。
あたしがどんなにマルコが好きなのか、信じてない。
なんてこと、と思わず声が漏れそうだった。
 
好きだと思ったら伝えればいいのだと思っていた。
伝えたらすべてが丸く収まるのだと思っていた。
とんでもない。
あたしは空回りの日々を送って、マルコはそんなあたしに疲れ、まるで面白くない芝居のように毎日が過ぎていくだけだ。
あたしはそんな寸劇をマルコと繰り広げたいわけじゃない。
 
どうして、とそればかりが頭をよぎった。
あたしの伝え方が悪かったのだろうか。
それは一理あるだろう、ともう一人冷静な自分がどこかから声をかける。
うるさいな、と本能ばかりの自分が答える。
 
わからないことが多すぎるんだ、と諦めが冷たいタイルの床から足の裏を伝って登ってくるようで、頭から思いっきり水をかぶった。
わからないならわからないなりに突っ走るしか、あたしはやり方を知らない。
ましてや恋だとかなんだとか、そんな気持ちは持て余して仕方がない。
あたしは、ただマルコが好きだという思いしかわからないのだ。
 
はぁ、と深く深くため息をつくと、姉さんの一人が「あらぁしあわせが逃げるわよ」と明るくからかってくる。
しあわせもそりゃ逃げるよ、と口には出さずに答えた。
極めつけの、夕食後のマルコの一言を思い出す。



「ああなんか今日は肩が軽いよい。いい日だ」


 
話が違うよ!とあたしは叫ぶ。


拍手[26回]


 
海鳥の声が高く低く聞こえる。
ざんと波が船にぶつかりゆらりゆらりとベッドも揺れた。
現在冬島近くを周遊中で、肌寒い日が続いている。

目が覚めてしまったが、まだ日が昇り初めたばかりだろう、部屋に薄紫の光のすじが差し込んでいた。
自慢じゃないがオレは朝が頗る弱い。もうしばらく惰眠を貪ることにしようと再び瞼を下ろす。
身体が自然とぶるりと震えて掛け布団を肩まで上げ、腕の中にある熱を掻き抱くように胸に寄せた。
鎖骨のした辺りに少し涼しいような風が一定のリズムであたりこそばゆい。
ああでも。


(…あったけぇ…よい、 )


うつらうつらと思考が眠気に引きずられていく中。
ふと気付いた。


オレは何を"抱いている"って?


身体は動かずに、そっと目線だけを下ろした。
ふわりと柔らかな黒が首の辺りにうずくまっている。
神経を辿るように、いま自分が触れているものに力を込めてみる。柔らかい。
んぅ、と胸のあたりから小さな声が聞こえた。


「!!!!!」


手のひらの丸みにすっぽりと収まった柔らかな肌に触れたまま、身体は動かなくなった。
驚きすぎて息ができないというものを初めて経験する。
金魚さながらに口を半開きにした。

オレの右腕はアンの首の下に敷かれ、そのまま包むようにアンの素肌剥き出しの肩に手を添えている。
もう片方の腕はというと、アンの、その、腰あたりに回されていた。


なぜここにアンがいる?

…落ち着け、思い出せ。

昨日は確か13番隊の誰かの誕生日とかいう名目で宴が始まって、オレはサッチやこいつと飲んでいて、またこいつがやたらとくっついてくるもんで欝陶しがってはいたが、それなりに楽しい酒だったはず。

それからどうした?
ああそうだ、オレはやり残した書類を思い出して一足早く部屋に戻った。
アンはサッチとその後も飲んでいたはずだ。
それから、さっさと仕事を終わらしたオレは特に何をすることもなく布団に潜り込んだ…はず。

これほどはっきりと記憶が残っているというのに、アンがここにいる理由になるようなものはかけらも思いだせなかった。
一瞬、オレが連れ込んだというのが掠めないでもなかったが、有り得ない、有り得てたまるかと首を振る。
何よりこの船でも指折りの酒の強さを誇るオレが、酒に呑まれるなんてあるものか。

寝起き早々頭がフル回転する中、はっとして、しかし恐る恐る腕で布団を持ち上げて中を覗いた。


…ああ、よかった。服を着ている。
ここで、その、情事の後でもあったものならオレは精神的に粉になる。
オヤジに合わせる顔もない。


「…ん…」



すり、とアンがオレの胸に頬を寄せた。
おそらくアンはいつもの恰好、すなわち胸元に巻いた布とショートパンツという姿で無防備に惜しげもなく肌をさらして寝転んでいるはずだ。
剥き出しの足がこつんとオレのそれに当たった。


「だあっ!!」


アンの首の下に入っていた腕を持ち上げ、そのままアンを転がした。
その先にベッドはない。
つまりはベッドから落とした。
白い腕の先が視界から下へと消える。


「った!!」

どたんと腹から落ちたアンは驚いたように顔をあげ、オレを見たかと思うとあろうことか、さわやかに笑った。


「あ、おはようマルコ」
「おはようじゃねぇよい!!テメェなんでここにいる!なんでオレのベッドで寝ていた!」
「ん、夜這い?」


耳を疑った。思わず絶句する。



「・・・お前それ、一応聞いておくが、その言葉誰に教わった」
「サッチ!」


聞くまでもなかったと、これほどまでに思ったことはない。
アンはくああとあくびをし、眠たげに眼をこすった。



「あのな、あれからサッチと飲んでて、サッチが『好きなら夜這いくらい一度はしとくもんだ』って言うからさ」


夜這いって何?って聞いたら寝てるところに忍び込んでイイコトしちゃうことだって言うから、と。
悪びれることもなく罪状を告白してくれた。
頭が痛い。


「マルコもう寝てたんだけどさ、特に何すればいいのかサッチに聞き忘れたからふとんにもぐりこんでみたんだ。マルコ起きるかと思ったけどお酒飲んでたからか起きなくてさあ。あたしもあったかくて眠くなってきて」
「・・・で、寝たのかい」
「ううん、だから眠くなってきたからもう部屋戻ろうとしたんだよ。そしたらマルコが抱きしめてきたから」
「!!」
「動けなくて、まあいっかあと思って寝たの」


あたし悪くないよねえ、と笑う。
言うつもりだったあれこれの単語がざあーっと脳の奥底に沈んでいく音を聞いた。
就寝中の自分を踏みつけて燃やして粒子にして海にばらまいてやりたい。


「ああ、そりゃあ、その、悪かったよい。だがな、まず部屋に忍び込んできたお前に問題ありだよい」
「でもサッチが」
「あいつの言うことをこれ以上鵜呑みにするんじゃねぇ」
「? うん?」


わかったのかわかってないのか、おそらく後者だがアンは首をかしげながらも殊勝に頷く。
するとぎゅるりぐるると朝の合図。


「…おなかすいた。朝めし、サッチ起きてるかなあ。マルコ行こ」
「…あいつの飯を今後食うことはねえよい」
「? なんで?」


どゆこと?とオレを見上げるアンにさっさと食堂行って来いと追い払うと、にぱりと笑って駆けて行った。
その後ろ姿を見送って、オレは背中からベッドに倒れ込んだわけだ。


まったく、本当に、まったく!!



 

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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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