OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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グランと大きく身体が揺れた。ざんと聞き慣れた音がして、波が船にぶつかったのだとわかった。
それに揺り起こされるようにして意識が浮上してくる。
敷布とはまた違う暖かさが身体を包んでいて、またそれが眠気を誘う。
夢現を行ったり来たりしていると、くっと押し殺した笑い声がすぐ近くから聞こえた。
「半目になってるよい」
「…ん、マルコ…?」
薄く開いた目の隙間から見えたのは、そっちこそと言いたい程の眠そうな目。
くっと身じろぎして、あれ、と違和感を覚える。
が、すぐにそれはマルコの太い腕があたしの身体に乗っかかっているからだと気づいた。
「…なんでマルコがいるの…?」
「酔っ払いの配達ついでだよい」
「…よっぱら…イタッ、」
突然、頭の中で工事でもしてるんじゃないかという程の衝撃が響いた。
これは酷い。
「…頭いたぁ…」
「飲み過ぎだよい、アホ」
マルコはそう言って小さく笑ったので、ああマルコが大部屋から運んでくれたのかと漸く頭の整理がついた。
「で、なんでマルコはここで寝てるの」
「…自分の手に聞いてみろい」
手?
マルコの視線の先を追ってみると、そこにはしっかりとマルコのシャツを掴む手が。
「…あははー」
「あははじゃねぇよい」
ごつんと頭突きが降ってきた。
マルコの重い腕が乗っかって身動きの取れないあたしは防ぐ術もなくまともにくらった。
「…ったく、」
くああああ、と大きなあくびを遠慮なくかましたマルコの目の下。薄っすらと色が違う。
「…マルコここで寝てたんだよね?」
「ん?ああ、よい」
「寝れた?」
「……ぼちぼち、寝たよい」
「…ふーん」
その割には、昨日一睡もしてませんと主張するかのように薄く隈が出来ていた。
「…あたしがマルコのベッドで寝たときは爆睡だったんだけどな」
「おめぇと違って繊細なんだよい」
嘘だ、と笑いを零したとき、ふとマルコの細い目がさらに細くなった。
なんとなく、口元も怒っているかのように。
それを見て、昨日怒られた記憶がのっそりと上がってきた。
「…あ、…昨日、ごめん…」
慌ててそう口にすると、マルコは少し片眉を上げてからふっと笑ってくれた。
「別にもう怒っちゃいねぇよい。次したらマストから吊るすがな」
「ぎゃっ、もうやだ」
懐かしいが恐ろしい記憶が蘇り背筋が寒くなる。
そんなあたしを尻目に、マルコはくつくつと笑った。
ふいに近付いてきた顔に、またあたしは防ぐ術もなく。
生暖かいものが唇にあたった。
「おはよう」
「…あ、おは、よ…」
さも当然のように交わされたそれに目を丸めるあたしを知らんぷりで、マルコは上体を起こした。
小さく震えている背中が、また欠伸をしているのだと物語る。
「…なんか、変なの」
「…ああ?」
「マルコが優しい」
「どつくぞ」
マルコは手早くいつものグラディエーターサンダルを履き、ミーティング遅れるなよいとだけ行って立ち去ってしまった。
残されたあたしは未だに覗く違和感の正体に、首を傾げるばかりだった。
「あ、マルコお前昨日あれから何処行ってたんだよ、探したのに」
「んー、ああ…よい、」
曖昧すぎる返事を返すと、まだセッティングされておらず垂れ下がった髪を弄りながらサッチがおや、と口角を上げた。
「…お泊りですかマルコさん」
「…そんなんじゃねぇよい」
またまたぁ、とつついてくる野郎の足を踏み潰しながら自室へと向かう。
とにかく風呂に入りたかった。
熱い湯を浴びて頭を冷やしたい。
じゃあアンはもう起きてんのかー、と足の甲を摩りながら呟くサッチをつと見やると、ん?と眉を上げる。
「…あー、お前、よい」
「おう、オレも好きだぜマルコ」
「黙れ沈めるぞ。
…ルフィ、って奴、知ってるかい」
るふぃい?と首を傾げる。
「いや知らねェけど」
「…そうかい、」
それが?と続きを求める視線を無視して、オレは自室へと入った。
(聞くだけ聞いて目の前でドア閉めるってひどくない!?)
ルフィ、ルフィルフィルフィ。
その名前を聞いた瞬間から頭から離れなくなった。
頭の中で連呼しすぎて、顔も知らないのにもう知り合いの気分にさえなる。
…どう考えても、男、だよねい…
ざばっと頭に湯をかけてぶるぶると水気を飛ばす。
この拍子にそいつも飛んで行ってしまえばいいのにと思うがそう上手くはいかない。
しぶといやつだ。
…ひとつのベッドにいながら(何もいたしてないとは言え)、他の野郎の名を呼ぶとはいい度胸だ。
しかもそのつい前までオレの名を呼んでいたというのに。
年甲斐もねぇ、とは自分でも思う。
だがこのざわりとうごめく胸のうちは止まらなかった。
「ってなわけで、次の島だがよい。
あまりに情報が少ねぇ。着きにくい海域ってわけでもなさそうだが…
なんかクセぇ気がするが、この海域を抜けたらしばらく長期航海になる。寄らないわけには行かねぇ。
どうせ2日の寄港だ。ハメはずさねぇよう隊員に言っとけよい」
「了解」
「各隊の持ち場は…おいアン寝るな。…持ち場は、一番隊は午前中の見張り、二番隊が次の島の情報収集、三番隊が…」
かくっと頭が落ちたところでちょうどマルコの突き出た手の骨が脳天にぶち当たった。
はっとして眠気を吹き飛ばそうとかぶりを振ると、脳みそが揺れたように痛む。(中身が少ないからだったらどうしよう!)
気付けば隊長会議はおひらきな雰囲気になっていて。
「あれまっ、終わった?」
「…お前な、本気でマストに吊るされてぇのかよい」
「やっ、違う違う!ちゃんと聞いてたよ!二番隊は見張りでしょ?」
「……お前本当にその頭どうにかしてこいよい」
あれ、ちがった?と頬を引きつらせて笑うとマルコは顔をしかめたが、不意にその目が真剣な色を帯びる。
(あ、また、だ)
さっきみたいな、言いたい事を喉元につかえさせているような。
「…なに?」
「…いや、」
ふいと視線を逸らしたマルコは書類をくしゃりと握って、そのまま会議室を後にした。
またまた残されたあたしはさらに疑問符を浮かべまくるのだった。
着いた島は入り江が狭く、モビーはどう頑張っても入りそうにない。
ということで、港から少し離れた海上で錨を降ろして、ボートで上陸した。
「じゃ、行ってきます!」
「おう、面倒起こすんじゃねぇぞ。ふらふら飯屋に入ってくなよい。腹減っても金払って飯食うんだぞ。土産とか言っておかしなモン買うんじゃねぇぞ。食いモンくれるからって知らねェ奴にほいほいついてくなよい。あと、」
「っ、マルコ!!」
「大丈夫っすよ、オレらが責任もってアン隊長をちゃんとマルコ隊長のもとまで帰しますから!」
あたしと共に上陸する6人の隊員たちが、何故か胸を張ってそう告げた。
そんなにガキじゃないと騒ぐと、そういう奴にかぎってガキなんだと言われ。まったく。
よっとボートから陸に飛び降りると、なんと丁寧なことか島の住民が数人迎えてくれた。
白髪交じりの温厚そうなおじいさんがにっこり笑っていらっしゃいと言う。
もしかして、ちょっと遠いから海賊旗が目に入らないんだろうか。
「…あのー、あたしたち海賊、なんだけど、」
あ、別に襲うつもりとかはなくて、と慌てて付け加えても、住民たちはそろってにこにこ顔を崩さず、知ってますよと口を揃える。
「白ひげ海賊団、でしょう。次の島までは少し遠いはずです。ゆっくりして行ってください」
本当にわかってるんだろうかと疑わざるを得ない程のおだやかさ。
(海賊にごゆっくりってどうよ)
でもそれならそれでこっちもきがねがないというものだ。
「あたしたち次の島の地図とか、海図とかの情報が欲しいんだけど、」
「ええ、案内しましょう」
そう行って歩き出す島の住民に促されるままに、あたしたちは島の中央部へと進んだのだった。
「…うお、すご」
終始にこやかな住民に連れて来られたのは、あたしたちが上陸した港とはちょうど対岸あたりの小さな家。
小さな島だからそう歩かずとも島の端から端まで行けるらしい。
その小さな石造りの家の中は、まるで本屋の様な物凄い数の蔵書。
海図からはたまたどこかの要塞の内図まで、様々な書物がうず高く積まれていた。
(マルコなら一日篭りそうな所だ…)
「ここにあるもの、すべてご自由にどうぞ」
「あ、ありがと。幾つか貰いたいんだけど…売ってくれる?」
未だ目の前の書物にくらりと眩暈さえ覚えながらそう提案したが、おじいさんはにこりとしたまま首を振る。
「御自由に持っていってくださって結構ですよ」
「えっ!タダ!?」
再び頷くおじいさん。
その言葉に、隊員たちはやたらと浮き足立った。
「経費余りますよ!」
「隊長!帰り飲んできましょうよ!」
お前らそればっかだな!と窘めるものの、あたしも知らずにゆるゆると、期待で頬が緩む。
では帰りにいい酒場を紹介しましょう、と言い残し、おじいさんはその家を出て行った。
「っはー!なんかやたらと気前のいい島っすね!」
「さっきいたねぇちゃんも超美人だった!」
「本当に2日で出るんすかー?」
「んー、マルコはそう言ってたけど、あ、そこの資料取って」
「ログが早いからって出港まで早くしなくていいのになー、うぉっ埃臭っ」
「ちょ、こっち飛ばすな、って、これ…」
隣で海図を漁っていた隊員が、ふとひとつの冊子に目を留めた。
なになに、とあたしたちも頭を寄せる。
まだ新しい紙の束が乱雑にまとめられたようなそれ。
隊員が目を止めたのは、その中身。
それはつらつらと並ぶいくつもの海賊団の名とその海賊旗の写真だった。
ページが進むにつれて紙は古くなり、写真も古ぼけていく。
「? なんだろ」
「ひたすら海賊の名の旗の写真ばっかっすよ…ん、この海賊団どっかで聞いたな」
「ああ、あれだろ。最近まとめて海軍にとっ捕まった奴ら」
「ああ、新聞乗ってたな…」
「ん、あたしこの名前も知ってる。てか昨日の書類で見た。確かもう捕まったから手配書から抜いとけって…」
「…ってことは、こいつら全部御用になった海賊ばっか?」
パラパラとさらに紙をめくっていくと、最後のページに辿り着いた。
それはぎゅうぎゅうにすし詰めにされた文字の羅列。
いや、よく見るとそれは海賊団名のリスト。
タイトルのように記されているのは、『未捕獲』の文字。
「…なに…?」
その最後の列の1番端っこ、遠慮がちに記されていた。
『白ひげ海賊団』
え、あ、お、と各々の口から声が漏れたとき、あたしたちが背中を向けたドアが、がちゃんと重い音を立てた。
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「~っ、こんのっアホがっ!!てめぇの脳みそは蟹味噌かよいっ!?」
「ひどいっ!マルコ!!」
「なんで火薬庫の整理が花火大会になってんだよいっ!?」
絶賛、ド叱り中。
理由は、上記の通り。
「だって、だってね?ジョアンが花火の作り方知ってるって言うから」
「だからって仕事中にしかも戦闘用の火薬使うか!?二番隊揃って遊びやがって!!」
「だって…」
「だってじゃねぇ!!」
しゅんと項垂れるアンの後ろでは、綺麗に揃って同じく項垂れる二番隊隊員たち約百名。
「ったく…二番隊は今晩から一ヶ月見張り当番だよい。あと火薬の分、二番隊の経費から抜くからな。
アンてめぇの食費も差し押さえだい」
アンてめぇの食費も差し押さえだい」
「そんなっ!!ねぇマル…」
顔色を変えてオレの腕にかけてきたアンの手を勢いよく振り払う。
その瞬間ちらりと目に映ったアンの顔が捨てられた子供のようで、ぐらりと何かが揺らいだが、威厳かなんかで持ちこたえた。
「…二番隊は甲板掃除してこい。遊ぶなよい。アンてめぇは始末書書いてこいよい」
「うーっす…」
すっかり気落ちした野郎どもの返事が、穏やかな日差しの中甲板に広がった。
眼鏡を外し、ぐっと背中を伸ばすとばきばきと縁起でもない音がした。
(…もう夜だねい…)
仕事中毒と称されるオレのことだ。
机に向かっているうちに太陽がいなくなっているなどよくあること。
仕事が一息ついたのでコーヒーでも飲もうかと部屋を出た。
自分の部屋にコーヒーメーカーはあるものの、自分で淹れるよりそれを得意とする奴に淹れてもらったほうが上手いのは当然というもの。
サッチかそのあたりがいるだろう。
机に向かっているうちに太陽がいなくなっているなどよくあること。
仕事が一息ついたのでコーヒーでも飲もうかと部屋を出た。
自分の部屋にコーヒーメーカーはあるものの、自分で淹れるよりそれを得意とする奴に淹れてもらったほうが上手いのは当然というもの。
サッチかそのあたりがいるだろう。
食堂の扉を開けると案の定、サッチはテーブルのまわりをせわしく動き回り片付けをしていた。
「あっ、マルコお前メシんときくらい仕事切り上げろよ!別にすっとめんどくせぇんだよ!」
「コーヒーよこせ」
「・・・てめぇ、」
明日南蛮チキンにしてやる、などとぶつぶつ言いながらも用意を始めるサッチをなんともなしに見ていると、突然そいつがおおーうと突飛な声を発した。
「なんだよい、」
「お前今日アンこっぴどく叱っただろ」
「・・・それが」
サッチは下がり気味の眉をくしゃりと歪めて笑う。
「アンの上だけ曇天だった」
「なんだいそりゃ」
「やべぇよ、あの落ち込みよう」
ふわりとカレーの匂いが漂う。
サッチはカレーのプレートとコーヒーを俺の前に置いた。
「・・・カレーいらん」
「お前昼も食ってねぇだろ」
「代わりにアンが食うからいいんだよい」
「はっ、一心同体ってか」
「てめぇリーゼントすり潰してやろうかい」
悪態つきながらもオレはスプーンを手に取る。
カレーだから・・・今日は何曜日だ?と海軍のようなことを考えた。
「慰めてこいよ」
「・・・甘やかしてどうする」
「アメとムチっつーだろ?」
「・・・別にオレはムチ打ったつもりはねぇ」
「ちょ、そのセンテンス危なく聞こえる」
「てめぇほんとに死んでこいよい」
かっこむようにカレーを腹に収め、コーヒーをすする。
オレの罵声を浴びても、サッチはいまだニヤニヤとオレの前に座った。
「気分の悪ぃ笑いかたすんじゃねぇよい、てめぇもうどっかいけ」
「メシだけ作らせて!?」
ひどいっっとひとしきり叫ぶサッチを尻目に、はたと思い出した。
「・・・そういやあいつ、まだ始末書出してこねぇ」
しまつしょぉ?とサッチが間延びした声を出す。
「昼間のだよい。あいつさっさと書けっつったのに」
「アンなら二番隊の奴らに支えられながら大部屋行ったぜ。慰め会でもすんじゃね」
「・・・ったく」
まったく不本意ではあるものの、オレは始末書の催促のために腰を上げた。
「あんま怒ってやんなよ」
「・・・ほっとけ」
二番隊の大部屋の戸を開けると、むんと男臭さと酒臭さが鼻をついた。
「あ、マルコたいちょ、」
「アンの奴いるかい」
「そこに」
隊員が指差す先には、床に仰向けに転がり真っ赤な顔で伸びるだらしない姿。
近づき、つま先でとんとわき腹を突くとううんと唸った。
「おいアンてめぇ始末書、」
「・・・マル、コ・・・ごめ、」
完全に酒に飲まれたらしいアンは、何度もごめんと口にした。
「・・・あの、マルコ隊長、」
振り返れば、数人の二番隊隊員。
「昼間はすんません、オレが言い始めたことなんです。だから、その、あんまりアン隊長を・・・」
「・・・わかってるよい」
「始末書は俺が書きますから」
「・・・いや、それはアンにやらせる。お前らあんまりこいつ甘やかすんじゃねぇよい」
しゃがみこみ、熱くなった肩を揺する。
「おい、アン起きろ」
「・・・うぅん・・・ごめ、マル・・・」
「もう寝かせといてやってくださいよ」
「・・・つってもねい、ここで寝かすわけにも、」
「なんでっすか?」
きょとんと小首をかしげる隊員たち。
「なんでって、ここ大部屋だろい」
「なんで大部屋だと駄目なんすか?」
そろってさも不思議そうな顔をする。
・・・まさかとは思うが、
「・・・アンの奴、よくここで寝るのかい」
「え、ああはい。酒盛りのときはいつも」
それがなにか?といわんばかりの顔つきで隊員は俺を眺める。
片やオレはと言うと、始まった頭痛に頭を押さえるばかり。
船に女を乗せてはいけないなどという古臭いことを言うつもりはさらさらない。
女でさえ海賊家業をする時代だ。
だが男ばかりの船に乗った女と言うのは、海の上でたまりにたまった男の性欲のはけ口になりかねない。
この船のナースはオヤジのために命を張った女ばかりだから、誰も道義に外れた行為を致そうとはしない。合意の上でなら別だが。
だがアンは、違う。
こいつに手を出そうなどと言うう大バカ者(または勇者)はそうそういないが、今夜のオカズにでもされていようものならたまったもんじゃない。
「・・・間違いは、なかったんだろうねぃ」
「まちがい?」
きょとんと小首をかしげる野郎ども(気味が悪い)は、本気で意味がわかっていないらしい。
なんだここは少年村か。なんだそりゃ。
「・・・もうここでアンを寝かすんじゃねぇよい」
「? うーっす・・・?」
いまいち切れの悪い返事をした隊員たちを尻目に、アンの肩を揺さぶった。
「おい、アン起きろ。部屋に戻れ」
「・・・んぅ・・・」
「・・・ったく、」
ぐいと腕を引っ張り上体を起こさせ、その脇に手を入れて持ち上げる。片腕に座らせるようにすると、だらんと肩から背中にアンの腕が垂れ下がった。
おおーう、と男どもから感嘆の声が漏れる。
「・・・なんだよい」
「いや、その滑らかな動作、いいっすね」
「やっぱマルコ隊長しかいないっすよ、アンの世話」
「・・・ふざけたこと抜かしてねぇでさっさと寝ろ」
「うーっす」
よいせとアンを抱え直し、オレはアンの部屋へと足を進めた。
足で扉を開け、無秩序な部屋へと足を踏み入れる。
そのままベッドにアンを落とすとううんと唸って猫のように背中を丸めて横になった。
「おいアン、始末書、」
なんとなくもうどうでもいい気がしてこないでもなかったが、一応事務的に聞いてみるとゆるゆるとアンの腕が上がり部屋の中にひとつあるデスクを指差した。
(・・・聞こえてんじゃねぇかい)
ぺらりとそれを手に取り、アンを脇にどけてベッドに腰掛ける。
紙の上にはミミズが数匹のたうち、ところどころ濡れてから乾きました的な痕があった。
「・・・ったく、」
ちらりと寝転がるその顔を見やると、頬の紅潮に混じって目の下もうっすら赤い。
怒られて泣くとかガキか。いやガキだ。
感情表現もろくにできなかったころを思うとまァマシかとも思うが。
「寝坊すんなよい」
沈めていた腰をふっとあげたが、くんと別の力がそれを引きもどした。
「おわっ、」
再びぼすりとベッドに沈む。
振り返るとむにゃむにゃと口元を動かすアン。
その手がしっかりとオレのシャツの前裾を握っていた。
「・・・おいっ、離せよいっ」
「・・・マル・・・」
ぎゅっと赤ん坊並の握力で握りしめられ、指に手をかけるがほどけやしない。
「・・・帰れねェだろ、」
「・・・ら、ないで・・・」
小さく口元を動かし何かを呟いている。
考えなしにそこに耳元を寄せると、今度ははっきりと届いた。
「・・・嫌いに、ならな・・・で・・・」
ふにゃりと歪んだ眉が今にも泣き出しそうに震えている。
酒のせいだとわかってはいるが、なんとなくいたたまれない感じになった。
・・・いやなんでオレが、
(・・・可愛い・・・)
・・・ちょっと待て違う違う、今日悪いのはこいつのほうで、
(・・・腕、ほっそいねい・・・)
・・・っんなことどうでもよくて、オレはまだ仕事が、
(・・・このまま寝たら風邪引くかねい・・・)
・・・そうじゃなくて、ああ、もう、疲れた・・・
数分葛藤に悶えるようにひとりベッドの上で頭を抱えていたらしいオレは、諦めてばたりとベッドに倒れ込んだ。
・・・シャツ、脱ぎゃいい話じゃねぇか・・・
気付いたものの、もういいんだもう寝転んだから知らんと、気付かないふりをした。
肩を押してアンをベッドの端に寄せ、自らもその隣に横たわる。
アンはオレのシャツを握ったままもぞもぞと動くと、本能か温もりを求めるようにすりよってきた。
ぴたりとアンの顔が鎖骨辺りにくっつき、くふくふと鼻を鳴らす。
・・・寝てると、本物のガキだな…
そばかすの散った顔はさらにあどけなく、顔にかかった髪を払ってやるとふるりと震えた。
「…ルコ…、」
再びオレの名を零した口に、ぐっと胸の奥辺りが鷲掴まれる。
隊長として、100人の命を背負うにはあまりに小さすぎる。
だがその力量が外からは見えないところに備わっている。
むしろその重みに耐えることが必要なのかもしれない。
(・・・甘やかしとかじゃねぇよい・・・)
甘やかすならそれ専属の奴らがいる(二番隊とかオヤジとかオヤジとか)。
だが今ぐらいなら、と柔らかな頬に手を伸ばしたそのとき、ふっとアンの顔に笑みが浮かんだ。
「・・・ルフィ・・・」
そんな嬉しそうな顔で
誰だ、それ。
「あっ、マルコお前メシんときくらい仕事切り上げろよ!別にすっとめんどくせぇんだよ!」
「コーヒーよこせ」
「・・・てめぇ、」
明日南蛮チキンにしてやる、などとぶつぶつ言いながらも用意を始めるサッチをなんともなしに見ていると、突然そいつがおおーうと突飛な声を発した。
「なんだよい、」
「お前今日アンこっぴどく叱っただろ」
「・・・それが」
サッチは下がり気味の眉をくしゃりと歪めて笑う。
「アンの上だけ曇天だった」
「なんだいそりゃ」
「やべぇよ、あの落ち込みよう」
ふわりとカレーの匂いが漂う。
サッチはカレーのプレートとコーヒーを俺の前に置いた。
「・・・カレーいらん」
「お前昼も食ってねぇだろ」
「代わりにアンが食うからいいんだよい」
「はっ、一心同体ってか」
「てめぇリーゼントすり潰してやろうかい」
悪態つきながらもオレはスプーンを手に取る。
カレーだから・・・今日は何曜日だ?と海軍のようなことを考えた。
「慰めてこいよ」
「・・・甘やかしてどうする」
「アメとムチっつーだろ?」
「・・・別にオレはムチ打ったつもりはねぇ」
「ちょ、そのセンテンス危なく聞こえる」
「てめぇほんとに死んでこいよい」
かっこむようにカレーを腹に収め、コーヒーをすする。
オレの罵声を浴びても、サッチはいまだニヤニヤとオレの前に座った。
「気分の悪ぃ笑いかたすんじゃねぇよい、てめぇもうどっかいけ」
「メシだけ作らせて!?」
ひどいっっとひとしきり叫ぶサッチを尻目に、はたと思い出した。
「・・・そういやあいつ、まだ始末書出してこねぇ」
しまつしょぉ?とサッチが間延びした声を出す。
「昼間のだよい。あいつさっさと書けっつったのに」
「アンなら二番隊の奴らに支えられながら大部屋行ったぜ。慰め会でもすんじゃね」
「・・・ったく」
まったく不本意ではあるものの、オレは始末書の催促のために腰を上げた。
「あんま怒ってやんなよ」
「・・・ほっとけ」
二番隊の大部屋の戸を開けると、むんと男臭さと酒臭さが鼻をついた。
「あ、マルコたいちょ、」
「アンの奴いるかい」
「そこに」
隊員が指差す先には、床に仰向けに転がり真っ赤な顔で伸びるだらしない姿。
近づき、つま先でとんとわき腹を突くとううんと唸った。
「おいアンてめぇ始末書、」
「・・・マル、コ・・・ごめ、」
完全に酒に飲まれたらしいアンは、何度もごめんと口にした。
「・・・あの、マルコ隊長、」
振り返れば、数人の二番隊隊員。
「昼間はすんません、オレが言い始めたことなんです。だから、その、あんまりアン隊長を・・・」
「・・・わかってるよい」
「始末書は俺が書きますから」
「・・・いや、それはアンにやらせる。お前らあんまりこいつ甘やかすんじゃねぇよい」
しゃがみこみ、熱くなった肩を揺する。
「おい、アン起きろ」
「・・・うぅん・・・ごめ、マル・・・」
「もう寝かせといてやってくださいよ」
「・・・つってもねい、ここで寝かすわけにも、」
「なんでっすか?」
きょとんと小首をかしげる隊員たち。
「なんでって、ここ大部屋だろい」
「なんで大部屋だと駄目なんすか?」
そろってさも不思議そうな顔をする。
・・・まさかとは思うが、
「・・・アンの奴、よくここで寝るのかい」
「え、ああはい。酒盛りのときはいつも」
それがなにか?といわんばかりの顔つきで隊員は俺を眺める。
片やオレはと言うと、始まった頭痛に頭を押さえるばかり。
船に女を乗せてはいけないなどという古臭いことを言うつもりはさらさらない。
女でさえ海賊家業をする時代だ。
だが男ばかりの船に乗った女と言うのは、海の上でたまりにたまった男の性欲のはけ口になりかねない。
この船のナースはオヤジのために命を張った女ばかりだから、誰も道義に外れた行為を致そうとはしない。合意の上でなら別だが。
だがアンは、違う。
こいつに手を出そうなどと言うう大バカ者(または勇者)はそうそういないが、今夜のオカズにでもされていようものならたまったもんじゃない。
「・・・間違いは、なかったんだろうねぃ」
「まちがい?」
きょとんと小首をかしげる野郎ども(気味が悪い)は、本気で意味がわかっていないらしい。
なんだここは少年村か。なんだそりゃ。
「・・・もうここでアンを寝かすんじゃねぇよい」
「? うーっす・・・?」
いまいち切れの悪い返事をした隊員たちを尻目に、アンの肩を揺さぶった。
「おい、アン起きろ。部屋に戻れ」
「・・・んぅ・・・」
「・・・ったく、」
ぐいと腕を引っ張り上体を起こさせ、その脇に手を入れて持ち上げる。片腕に座らせるようにすると、だらんと肩から背中にアンの腕が垂れ下がった。
おおーう、と男どもから感嘆の声が漏れる。
「・・・なんだよい」
「いや、その滑らかな動作、いいっすね」
「やっぱマルコ隊長しかいないっすよ、アンの世話」
「・・・ふざけたこと抜かしてねぇでさっさと寝ろ」
「うーっす」
よいせとアンを抱え直し、オレはアンの部屋へと足を進めた。
足で扉を開け、無秩序な部屋へと足を踏み入れる。
そのままベッドにアンを落とすとううんと唸って猫のように背中を丸めて横になった。
「おいアン、始末書、」
なんとなくもうどうでもいい気がしてこないでもなかったが、一応事務的に聞いてみるとゆるゆるとアンの腕が上がり部屋の中にひとつあるデスクを指差した。
(・・・聞こえてんじゃねぇかい)
ぺらりとそれを手に取り、アンを脇にどけてベッドに腰掛ける。
紙の上にはミミズが数匹のたうち、ところどころ濡れてから乾きました的な痕があった。
「・・・ったく、」
ちらりと寝転がるその顔を見やると、頬の紅潮に混じって目の下もうっすら赤い。
怒られて泣くとかガキか。いやガキだ。
感情表現もろくにできなかったころを思うとまァマシかとも思うが。
「寝坊すんなよい」
沈めていた腰をふっとあげたが、くんと別の力がそれを引きもどした。
「おわっ、」
再びぼすりとベッドに沈む。
振り返るとむにゃむにゃと口元を動かすアン。
その手がしっかりとオレのシャツの前裾を握っていた。
「・・・おいっ、離せよいっ」
「・・・マル・・・」
ぎゅっと赤ん坊並の握力で握りしめられ、指に手をかけるがほどけやしない。
「・・・帰れねェだろ、」
「・・・ら、ないで・・・」
小さく口元を動かし何かを呟いている。
考えなしにそこに耳元を寄せると、今度ははっきりと届いた。
「・・・嫌いに、ならな・・・で・・・」
ふにゃりと歪んだ眉が今にも泣き出しそうに震えている。
酒のせいだとわかってはいるが、なんとなくいたたまれない感じになった。
・・・いやなんでオレが、
(・・・可愛い・・・)
・・・ちょっと待て違う違う、今日悪いのはこいつのほうで、
(・・・腕、ほっそいねい・・・)
・・・っんなことどうでもよくて、オレはまだ仕事が、
(・・・このまま寝たら風邪引くかねい・・・)
・・・そうじゃなくて、ああ、もう、疲れた・・・
数分葛藤に悶えるようにひとりベッドの上で頭を抱えていたらしいオレは、諦めてばたりとベッドに倒れ込んだ。
・・・シャツ、脱ぎゃいい話じゃねぇか・・・
気付いたものの、もういいんだもう寝転んだから知らんと、気付かないふりをした。
肩を押してアンをベッドの端に寄せ、自らもその隣に横たわる。
アンはオレのシャツを握ったままもぞもぞと動くと、本能か温もりを求めるようにすりよってきた。
ぴたりとアンの顔が鎖骨辺りにくっつき、くふくふと鼻を鳴らす。
・・・寝てると、本物のガキだな…
そばかすの散った顔はさらにあどけなく、顔にかかった髪を払ってやるとふるりと震えた。
「…ルコ…、」
再びオレの名を零した口に、ぐっと胸の奥辺りが鷲掴まれる。
隊長として、100人の命を背負うにはあまりに小さすぎる。
だがその力量が外からは見えないところに備わっている。
むしろその重みに耐えることが必要なのかもしれない。
(・・・甘やかしとかじゃねぇよい・・・)
甘やかすならそれ専属の奴らがいる(二番隊とかオヤジとかオヤジとか)。
だが今ぐらいなら、と柔らかな頬に手を伸ばしたそのとき、ふっとアンの顔に笑みが浮かんだ。
「・・・ルフィ・・・」
そんな嬉しそうな顔で
誰だ、それ。
「マルコ隊長!オヤジが呼んでましたよ」
「ああ、ありがとよい」
いつもの日常業務が一息ついた頃、オヤジからの急な呼び出し。
だが別に珍しいことでもなくオレはぼんやりとしながら船長室へと向かった。
「オヤジ、入るよい」
「ああ、マルコか」
大作りの扉を開けると、つんと鼻を突くアルコール臭。
思わず顔をしかめた。
「オヤジまた昼間から飲んでたのかい」
「グララララ、堅ェこと言うな。これが最後だ」
そういいぐびりと喉を鳴らして酒を口内に注ぎ込んでいたが、そのジョッキにはなみなみと液体が注がれていて、思わずため息が零れた。
「…で、オヤジ、話ってなんだい」
「ああ、最近おめェアンと仲良くやってるようじゃねェか」
「!」
予想だにしなかったオヤジの言葉に自然と目が見開かれる。
思わず狼狽したような視線を送ってしまった。
所在なさ気に首元をさすると、グララといつもの笑い声が響く。
「まずは女のオヤジに顔見せるっつーのが筋ってもんじゃあねェか?」
「…ああー、よい…」
あんたはオレのオヤジでもあるだろがとも思ったがわざわざ反論しないでおく。
オヤジの気持ちもなんとなくわかるからだ。
「…悪かったよい…」
首元に手をやったままそう言うと、オヤジは小さく笑ってジョッキの中身を飲み干した。
「オレァてめェらのことにとやかく言うつもりはねェけどな。アンの奴ァオレの一人娘だ」
「ああ…」
「守ってやれよ」
オヤジの細い目は慈愛に満ちていて、それでいて男親の厳しさを垣間見せていた。
思わずオレの目もキツくなる。
「わかってるよい。…ってかあいつは守らなくても十分強ェ」
「グララララ!違いねェ!」
豪快に笑いもう一つの酒樽に手を伸ばしかけるオヤジを視線で制しながら、ふつと浮かんだひとつの考え。
「…だが、オレァこの船にいる限りあんたが1番だ。
オヤジを守ることをおれは何より優先する。
悪いがこれだけは譲れねェよい」
高い位置にあるその顔を見上げながらそう言うと、オヤジはしばらくの間目をぱちくりさせて、また豪快に笑ったのだった。
「お前ェは息子にするにゃァ最高だがいい男たァ言えねェなァ!」
くしゃりと顔を歪めて笑うオヤジに返す言葉も無く、オレは相変わらず首元の手をもぞもぞと 動かす。
オヤジはそう言ったが、きっとそれはアンにとっても同じこと。
それをオヤジもわかっているからこうして笑っていられるのだ。
「話ってのはそれだけかい」
「ああ、わざわざ悪かったな」
「…いや、」
オレも悪かったよいと口にして、オレはその部屋を後にした。
正直内心複雑だった。
息子の女が娘で娘の男が息子なオヤジも相当複雑な心中だろうとは察するが、オレの脳内では先ほどのオヤジの言葉が軽く渦巻いていた。
もし、本当にもしも、2人を選ばねばならない時が来たとしたら。
オレは迷わずあいつを捨ててしまう。
そしてオレはそれをきっと後悔する。
いや、あいつの強さを信じているからこそできることなのだが。
どちらも守ればというのは、オレが生きる世界では無理だ。
そんなのは所詮甘えだ。
だからそのときがなるべく遅く来るようにと、オレはそんなもやもやとした視界の悪い思考を勢いよく振り払ったのだった。
「オヤジっ!」
「ああ、アン来たか」
よじよじとオヤジの膝を登り、いつもの場所に身体を落ち着かせる。
オヤジは手を添えてあたしを支えてくれた。
「オヤジまた酒飲んでる」
「グララララ!今日はオレァ怒られっぱなしだなァ」
ぐびりと気持ち良さげに酒を煽るその姿はオヤジらしくて好きだけど、ナースやマルコが言うようにあまり身体に良さそうではない。
ので、彼らがするように注意してみたのだが、あたしが言ったところでオヤジは酒を置こうとはしなかった。
「で、話って?」
「ああ、アンてめェマルコのこともオレに話してくれねェったァ寂しいじゃねェか」
「!」
途端に全身の血が顔に集まり、熱が灯る。
そんなあたしをオヤジは至極楽し気に眺めた。
「グララララ!女の顔しやがって」
「…うう」
オヤジはまた一口ジョッキに口をつけ、ニヤリと笑う。
「てめェは初めっからマルコの奴を気に入ってやがったからなァ。
よかったじゃねェか」
そういいあたしの頬を大きな親指でぐいと撫でる。
あたしは嬉しいのと照れ臭いのとで、意味もなく小さな笑いを零したのだった。
「マルコに泣かされたらおれに言えよ」
その太い指に頬ずりをして、うんと頷く。今のところそんな予定無いけどね。
あ、でも、
「じゃああたしがマルコに振られたら慰めてくれる?」
そう言うと、オヤジはぱちくりと瞬きをひとつ。
「だってマルコあんなにかっこいいもん。あたしよりマルコに合う人が絶対いつかマルコを連れてっちゃう。だからそのときは慰めてね」
オヤジは少し目を細めて、何かを考える様にひげに手をやる。
オヤジの輸液パックを取り替えていたナースは眉を寄せてあたしを見た。
ぴょいとオヤジの膝から飛び降り地に足をつける。
「話って、それだけ?」
「ん、ああ、」
「じゃあ行くね、あたし昨日の書類溜めててマルコに怒られたばっかなの」
ひらひらと片手を振りながら船長室を後にする。
あたしの背中は、顔を見合わせるオヤジとナースを見ていた。
「…ユリア…どう思う」
「同じことを考えてると思うわ、パパさん」
「グララララ…手放せなくなるのはあいつの方のように思うがなァ!」
だって息子ってそういうヤツ
(ちょっとパパさん、お酒はそこまでよ)
(アホンダラァ!)
覗き込んだその顔があり得ないくらい真っ赤だったこととか、見開いた瞳が恥ずかしさか何かのために軽く潤んでいたこととか、オレの脳髄を揺さぶるには十分すぎる程の要素が揃っていた。
こいつはこんなにも可愛かった。
他の野郎が気づいていたことに、オレは今になってやっと気づいたのだ。
「・・・アン」
その名を呼ぶとぴくりと小さく肩が跳ねた。
「…そんな顔されると調子狂うよい・・・」
がしがしと頭を掻きながらそう零すと、アンは少し顔を上げた。
特に何を考えたわけじゃない。
ただ本当に自然と、手がその顔に伸びていた。
片手でその顔の片側を包み親指で頬を撫でる。
アンは相変わらず固まったままで、不安気に揺れる瞳をこちらに向けた。
ぷくりと色づいた唇に目が留まる。
触れたいと、素直に思った。
「…マ、ル…」
雰囲気の変わったオレに気づいたのか、アンは掠れた声でオレを呼んだ。
少し腰を屈め、顔を近づける。
目ェ閉じろよいと思ったがまあいい。
アンの呼吸の匂いまでわかりそうな程近くまできたとき、コツ、というちいさな音。
それに続き、あ、と漏れた声。
事態の想像が容易に付いたオレは、険しい顔を音のした方に向けた。
薄く開いたドアの隙間。そこから覗くリーゼント。
「…てめェ」
「あ、やべ」
その声に気づいたアンもそちらに顔を向け、驚いたようにそいつの名を呼んだ。
「出歯亀たァいい度胸じゃねェかい」
まんまとお預け食らったオレは自分でも物騒な顔だとわかる程、面をしかめて見せた。
しかしサッチは眉間に皺をよせるオレにお構いなしに、少し開いていたドアをさらに開け、中に入ってきて、へラリと笑った。
「いやあ、覗くつもりなかったんだけどさ」
「じゃあ早く出てけよい」
間違えばぐるると威嚇の声が出るんじゃないかという程低く喉を鳴らすと、サッチは肩をすくめてぴらりと一枚書類を出した。
「机に置いとくぜ、お二人さん」
そういい、そのとおり書類を机に置いたサッチは以外にもあっさりと部屋を出て行った。
…が、すぐにひょこりと顔を覗かせたかと思うと、にやりと笑った。
「超柔らかいぜ、アンの唇」
なっ、とアンから声が漏れた。
「てめえ燃やしてやろうかい」
オレの威嚇をもろともせず、ふははと笑いながら次は本当に部屋を出て行くサッチ。
「なんなんだよい…」
奴の去った方向に呆れた視線を送り、ひとつ深いため息をつく。
それから仕事机へと向かうべくアンに背を向けた。
仕事の用ならさっさと済ませってんだ、あいつは。
ぺらりと書類を手に取ったその時、つんとシャツが引っ張られる感覚。
振り向くと、アンがまだ真っ赤な顔をして俺を見上げていた。
「...つ、続き…は…?」
息が、止まるかと思った。
だが次の瞬間には、こいつの息を止める勢いで口付けていた。
書類ごとアンの頭を抱えると紙がぐしゃりと鳴ったがそれも気にならなかった。
薄く開いた目の隙間から開いたままのアンの瞳を見つめ返すと、アンは慌てて目を閉じた。
可愛すぎる。
この年になって女に悶えるとは思わなかった。
アンならしょうがないかとも思う。
頭を抱えた方と逆の手を腰に回して引き寄せると、二人の隙間はゼロに等しくなる。
何度も角度を変えてついばむようにすると、可愛らしく音が立ったのが恥ずかしかったのか、アンはオレのシャツを強く握りさらに固く目を閉じた。
「…んっ、はぁ…」
少し解放するとその隙間から懸命に呼吸しようとするが、それさえ許さずまたすぐに口付ける。
あまりの甘さにくらりと思考が霞む。
アンはすでに酸欠で頭が霞んでいるところだろう。
腰に回した手をゆるりと上へ持って行くと、アンから直に戸惑いが伝わった。
音を立てて唇を離し、目の前の瞳を見つめる。
上気した頬にオレが好きだと書いてある。
気を良くしたオレは、背中を上っていた指先をアンの胸を纏う布の中に忍び込ませた。
「マッ、マルコッ…」
「…」
へにゃりと情けない顔で涙を浮かべられては、さすがのオレもそれ以上する気にはならず。
名残惜しいことを分からせるようにやたらゆっくり指を引き抜いた。
「子供にゃぁ刺激がキツかったかねい」
触れるか触れないかギリギリのところまで顔を近づけそう言うと、アンはむっと顔をしかめた。
そんな真っ赤な顔で睨まれたところでどうともないのだが。
腰に回していた手をするりと解いて2人分の唾液がついたアンの口元を拭ってやる。
大人しくしていたかと思うと、突如くふふと笑みを漏らした。
「なんだよい」
「ふふ、嬉しい」
キスがそんなに嬉しかったならばもう一度、とそう言いかけたオレにアンはにかりと笑いかけた。
「マルコの顔に『嬉しい』って書いてある」
もう一度くふ、と笑ったアンはするりとオレから離れた。
「もうすぐごはんだね!食堂行……マルコ?どうかし」
「なんでもねえよい!」
オレの顔を覗き込もうとするアンの頭をぐいと押し返し、部屋の外へと歩かせる。
片やオレは、思わぬ一撃に手で口元を隠すのが精一杯だった。
堕ちたのはどっち
(ねぇさっきあたしお腹鳴ったの聞こえた?)
(ばっちり聞こえたねい)
「はい、水」
「……ありがとハルタ」
船縁の手摺りに上半身をだらりとぶら下げていると、ひやりと頬に冷たい感触。
ハルタが背伸びしながらあたしに水の入ったグラスを差し出していた。
それを受け取り一口飲むと、ひんやりと甘い。
ハルタはとんと手摺りにもたれ、少し笑った。
「ちょっとは落ち着いた?」
「…うん」
「あれじゃマルコが可哀相だよ」
「だって!」
勢い込んでがばっと起き上がると隣でハルタの肩が小さく跳ねた。
「マルコの顔見たら昨日のこといろいろ思い出して!そうじゃなくてもマルコかっこいいし!!気付いたら顔から火が!っていうか顔が火に!!」
「わ、わかったから!アン水沸騰してる!」
「あ、」
ごぽごぽと手の中で水が茹だっていた。
少し考えただけでこのザマで。
あの眠そうな顔を見てしまったら最後平常心ではいられないのだ。
ハルタは眉を下げて苦笑した。
「前はあんなに突っ込んで行ってたのに」
それは自分でも思う。
でもそれはそれで、これはこれというやつなのだ。
しゅんと俯いたあたしを下からちらりと覗いてから、ハルタはぽつりと零した。
「…でもよかった」
「え?」
「…ほら、アンが落ち込んだとき。どうしようかと思った」
元気になってよかったよ、と。
にこりと笑うハルタにぐっと言葉がつまる。
ずっと、見ててくれたんだ。
「…ごめん、ありがと」
へへっとハルタは鼻を鳴らした。
「マルコも大人になったってことだよ!」
「?マルコは最初から大人じゃん」
「マルコはね、大人すぎて素直になれないんだよ。本当は自分だってアンに構ってもらいたいくせに」
「そんなわけ・・・あ、」
あたしはハルタの背後で渦巻くどす黒いなにかに目が止まった。
だけどハルタはそんな雰囲気に気づいた風もなく喋り続ける。
「だいたいマルコはさあ、かっこつけなんだよ。
おっさんだからかなあ。
知ってた?マルコ自身無意識みたいだけどいっつもアンのこと目で「なにベラベラ喋ってんだい」
おっさんだからかなあ。
知ってた?マルコ自身無意識みたいだけどいっつもアンのこと目で「なにベラベラ喋ってんだい」
節くれだった大きな手がハルタの頭をぐわしっと掴んだ。
片手で楽々と頭を鷲掴みされたハルタはさっと顔色を変え、顔を歪める。
「っマルコ‼痛い‼痛いよ‼」
「ここぞとばかりに話してんじゃねえよい」
「だってマルコが」
「ガキが首突っ込むことじゃねえ」
「俺はもう大人だ‼」
そんな騒ぎをぽかんと見ていると、マルコの視線がハルタからあたしに移った。
「ちょっと来い」
そう言いあっさりとハルタの頭を離したため、ハルタはバランスを崩しつんのめる。
綺麗な髪がぐしゃぐしゃだ。
黙って踵を返したマルコはスタスタと船の中へと歩いていった。
「アン行っておいで」
「う、ん」
髪を整えながらそうハルタが促すので、あたしは言われるがままに歩を進めた。
マルコは一度も振り返ることなくたったかと歩いて行く。
船内の廊下を進み幾つも角を曲がった。
その突き当たりは、マルコの部屋。
マルコは一度も話さなかった。
まあ怒ってるんだろうな、というのはあたしだってわかる。
ハルタに好き放題あることないこと言われ、さっきのあたしの態度も原因だろう。
やっぱり行き着いたのはマルコの部屋で、マルコが黙って入ったのであたしもその後に続く。
あたしのすぐうしろでドアが遠慮したような音を立てて閉じた。
マルコは室内を数歩進んだところで、突然振り返った。
びくりと肩が跳ねてしまう。
「あのよい、」
「ご、ごめん」
何故か自然と口をついたのは謝罪の言葉で、マルコはそれを聞くとすぐに目を細めた。
「なんで謝る」
「だって、あたしさっき変な」
「おれは、よい」
あたしの言葉を遮ったマルコは一拍おいてからまた口を開いた。
「おっさんだからよい、お前がどうしたいとかどうしてほしいとか、わかんねえんだよい。
もしそういうのが言えなくてさっきみたいに能力制御できねえなら、言えよい。溜め込むんじゃねえ」
マルコはまっすぐにあたしをみたままそう静かに言い切った。
あたしはただぽかんとそれを聞いていたのだが、はっとして、それから慌ててしどろもどろになりつつさっきハルタに話したようなことを説明する。
するとマルコは首元を摩りながらあーとかうーとか言った言葉を発した。
「それならよい、いいんだが」
いや、いいのか?とか自問するマルコをあっけに取られてみていると、マルコは眉間に皺をよせてなに見てんだいとあたしを見下ろした。
「いや、だってマルコがそんなこと考えてるなんて、びっくりっていうか、その、いろいろ慣れて、そうだから」
視線を泳がせたままそう言うと、マルコは呆れたように口元を歪めた。
「そこらの女と同じなわけねえだろい」
…んん?
…んんん?
真意を図り兼ねて固まってしまったあたしにマルコは不審な目を向け、どうしたよいと顔を覗きこむ。
働きの悪いあたしの脳細胞がさっきの言葉をやっと理解した瞬間、かっと顔に熱が灯った。
あたしに爆弾を投下するのがうまいらしい。
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