OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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※あてんしょんぷりっ※
今後のおはなしについて。
今後はアンちゃんとマルコがもだもだする予定(予定は未定であり決定ではない)なわけで、あだるてぃなことをするかもしれないししないかもしれない。
そういうお話には!がつきますが、いちいち注意は設けませんので。
以上です。
よいよいと言うかたはスクロールでどうぞ↓
「ああアン、おはようさん」
「マ、ルコっ、おはよ!じゃ!」
「アン、次の島なんだが…」
「あああああたしごめん仕事がっ」
「おいアンてめ」
「ハルタアアアアア!ちょっと話があああああ!」
なんなんだ、一体。
オレが不機嫌を隠そうともしないまま食堂の席に着くと、隣でイゾウが気持ちよさ気に煙管を吸い、ちらりとこちらに目をやった。
「おうマルコさんよ、ご機嫌ななめかい」
「…はんっ」
「アンとなんかあったんだろ」
…だからこいつはイヤなんだ。
「何がご不満なんだかねぇ。生娘捕まえといて」
「生娘言うな」
「で、何があったんだ」
「…アンが、オレを避けるんだよい」
そう言うと、イゾウは珍しく目をぱちくりとさせる。
「昨日の今日じゃねぇか」
その通り、昨日、まぁ、その、そういうことになったのだが。
今日の朝特に変わり映えもなく挨拶したら、逃げられた。
そのときは逃げられたとは思わなかったのだが、今日一日過ごしてよくわかった。
あいつはオレを避けている。
隣からふわりふわりと紫煙がくゆる。
「なんだ、昨日無理矢理でもしたのか」
「ばっ…!そんなことしてねぇよい!」
そうかいそうかいと、イゾウはくつくつと笑い肩を揺らす。
またこいつの話術というかそういう類の何かに嵌められたような気分になり、オレはますます眉間の皺を深くした。
キィ、と食堂のドアが音を立てる。
「あ、アン」
イゾウの声に釣られるようにしてそちらに顔を向ければ、確かにドアを引くアンの姿が。
だがアンはおれにパチリと視線を合わしたその刹那、無言でドアを閉めた。
「……」
「…くっ…ははっ…!本気で避けられてんのかっ…!あぁ腹いて」
イゾウが爆笑し続けるその横で、オレは思わず深い溜め息をついたがすぐにそれを飲み込んだ。
出してしまったものはどうしようもないのだが。
…別にアンがオレを避けようと、オレにゃぁなんの被害もねぇじゃねぇかい。
そう、そうだ。
アンの奴がまたくだらないことを考えているだけのこと。
…しかし、だ。
理由もわからず避けられ続けるというのは、大層気分がよろしくない。
それだけの理由だ、と言い訳めいたことを考えながらオレは席を立ち食堂の入り口へと歩を進めた。
もう部屋へ戻っただろうと思いドアを開けたのだが、驚くことにまだアンはその場に突っ立っていた。
「わっ」
「ちょい待てい!」
慌てて逃げようとしたその腕を掴むと、ぴたりとアンは動かなくなった。
「おいテメェなんでオレを避けてる」
「…べ…つに、」
「嘘付けそっぽ向くな」
「…リ…」
「あ?なんて言っ…」
「もうムリっ!!」
そう絶叫したかと思うと、次の瞬間、ゴウッとすさまじい音と熱風が巻き起こった。
「熱っ…!」
激しい熱の中薄く目を開けると、あろうことか、アンの顔が、無い。
つまり、炎となっている。
その、首から上の部分が。
それはもうメラメラと。
「おまっ…!」
オレが口を開いたときにはもうアンは廊下を走り出していて、もちろんその状態のままで。
「ア、アン隊長!?」
「うぉおっ!服に引火したァッ!!」
「おい誰かアンを消火しろォォ!!」
すれ違う隊員はその姿に目を剥き、奴が走り去った廊下は何故か地獄と化していた。
ぽつんとその場に残されたオレは、食堂から聞こえるイゾウの爆笑にただ眉を潜めるばかりだった。
超自然発火現象
(だってなんかもうムリなんだもん!)
Thanks to さくら様!/三つ葉様!
今後のおはなしについて。
今後はアンちゃんとマルコがもだもだする予定(予定は未定であり決定ではない)なわけで、あだるてぃなことをするかもしれないししないかもしれない。
そういうお話には!がつきますが、いちいち注意は設けませんので。
以上です。
よいよいと言うかたはスクロールでどうぞ↓
「ああアン、おはようさん」
「マ、ルコっ、おはよ!じゃ!」
「アン、次の島なんだが…」
「あああああたしごめん仕事がっ」
「おいアンてめ」
「ハルタアアアアア!ちょっと話があああああ!」
なんなんだ、一体。
オレが不機嫌を隠そうともしないまま食堂の席に着くと、隣でイゾウが気持ちよさ気に煙管を吸い、ちらりとこちらに目をやった。
「おうマルコさんよ、ご機嫌ななめかい」
「…はんっ」
「アンとなんかあったんだろ」
…だからこいつはイヤなんだ。
「何がご不満なんだかねぇ。生娘捕まえといて」
「生娘言うな」
「で、何があったんだ」
「…アンが、オレを避けるんだよい」
そう言うと、イゾウは珍しく目をぱちくりとさせる。
「昨日の今日じゃねぇか」
その通り、昨日、まぁ、その、そういうことになったのだが。
今日の朝特に変わり映えもなく挨拶したら、逃げられた。
そのときは逃げられたとは思わなかったのだが、今日一日過ごしてよくわかった。
あいつはオレを避けている。
隣からふわりふわりと紫煙がくゆる。
「なんだ、昨日無理矢理でもしたのか」
「ばっ…!そんなことしてねぇよい!」
そうかいそうかいと、イゾウはくつくつと笑い肩を揺らす。
またこいつの話術というかそういう類の何かに嵌められたような気分になり、オレはますます眉間の皺を深くした。
キィ、と食堂のドアが音を立てる。
「あ、アン」
イゾウの声に釣られるようにしてそちらに顔を向ければ、確かにドアを引くアンの姿が。
だがアンはおれにパチリと視線を合わしたその刹那、無言でドアを閉めた。
「……」
「…くっ…ははっ…!本気で避けられてんのかっ…!あぁ腹いて」
イゾウが爆笑し続けるその横で、オレは思わず深い溜め息をついたがすぐにそれを飲み込んだ。
出してしまったものはどうしようもないのだが。
…別にアンがオレを避けようと、オレにゃぁなんの被害もねぇじゃねぇかい。
そう、そうだ。
アンの奴がまたくだらないことを考えているだけのこと。
…しかし、だ。
理由もわからず避けられ続けるというのは、大層気分がよろしくない。
それだけの理由だ、と言い訳めいたことを考えながらオレは席を立ち食堂の入り口へと歩を進めた。
もう部屋へ戻っただろうと思いドアを開けたのだが、驚くことにまだアンはその場に突っ立っていた。
「わっ」
「ちょい待てい!」
慌てて逃げようとしたその腕を掴むと、ぴたりとアンは動かなくなった。
「おいテメェなんでオレを避けてる」
「…べ…つに、」
「嘘付けそっぽ向くな」
「…リ…」
「あ?なんて言っ…」
「もうムリっ!!」
そう絶叫したかと思うと、次の瞬間、ゴウッとすさまじい音と熱風が巻き起こった。
「熱っ…!」
激しい熱の中薄く目を開けると、あろうことか、アンの顔が、無い。
つまり、炎となっている。
その、首から上の部分が。
それはもうメラメラと。
「おまっ…!」
オレが口を開いたときにはもうアンは廊下を走り出していて、もちろんその状態のままで。
「ア、アン隊長!?」
「うぉおっ!服に引火したァッ!!」
「おい誰かアンを消火しろォォ!!」
すれ違う隊員はその姿に目を剥き、奴が走り去った廊下は何故か地獄と化していた。
ぽつんとその場に残されたオレは、食堂から聞こえるイゾウの爆笑にただ眉を潜めるばかりだった。
超自然発火現象
(だってなんかもうムリなんだもん!)
Thanks to さくら様!/三つ葉様!
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カツカツと自分の足音がやけに大きく耳を打つ。
オレと目があった隊員はすぐに目を反らすか、青ざめた顔で固まりやがった。
それがますます気に障り、唸るように威嚇すると知らず知らずに覇気が出ていて後ろでばたりと倒れる音がした。
食堂の戸を開けると中は人も疎らで、イゾウがひとり離れたところ新聞を読んでいた。
オレを見つけて、おっと声をあげたイゾウはすぐにぶっと噴き出した。
「…何笑ってんだい」
「…くくっ…お前さんなんて顔してんだ」
人の顔見て笑うとは失礼極まりない奴だ。
憮然としてオレはイゾウの向かいに腰を下ろした。
「…そんな顔して、何があった」
「どんな顔してるってんだい」
「そうさなあ…言うなれば、般若、だな」
「…」
イゾウはばさりと新聞を畳み、陶器の湯飲みから茶をすする。
「珍しいんじゃねぇの、お前ェにそんな顔させるったァ」
「…はんっ」
「オレの目星じゃあ…アンかサッチ辺りだな」
「!!」
「はっ、当たりか」
思わず息を呑んでしまい、それがまたこいつの笑いを誘う。ちっと舌打ちが漏れた。
「お前さんあの夜からいろいろ考えてんだろ」
「…」
「大人っつーのはよ、本当に面倒なもんだなァ」
まったくだ。このぐつぐつと煮えるはらわたを抑える術を知っているが、あえてそれを使わず忘れる狡さを持っている。
…サッチの考えていることなど、わかっていた。何年の付き合いだってんだ。
サッチなら、オヤジだって文句ないだろう。
この船の兄たちだって、サッチをいいかげんな奴だがいざとなれば頼りになるとわかっている。だからこそ、あいつは今も4番隊を背負っているのだ。
わかっている、わかっているのに。
何故こうも腹が立つ?
サッチにではない。アンにだ。
ムカつく。いらつく。アイツ。
何より、さっきオレを見たときのあいつの目がオレを苛立たせる。言わば諦念、のような。
カシャンと目の前で何かが音を立てた。
顔を上げると、机にはゆらゆらと湯気を立てるコーヒー。
どかりとサッチが横に座った。
サッチは自分のコーヒーを音を立てて啜る。
イゾウはじゃあオレはこれで、と新聞を持ち席を立った。
沈黙が落ちる。
目の前に置かれたコーヒーに手を付ける気にもならなくて、それが冷めていく様子を眺めていた。
「…お前何してんだよ」
突如発せられた不可解な言葉。
眉を寄せてサッチを振り向くと、奴はいっそ憐れんだような顔でオレを見ていた。
「…お前本当ムカつくわ」
「…」
「ったく、変な顔しやがって」
先程からオレの容姿について失礼な言葉が飛び交っているが、手元のコーヒーを覗き込むとそこに写った自分は成る程醜い顔だった。
「…やだね、おっさんは。歳は取りたくねぇよ」
「…ああ」
「…大人んなるとさァ、欲しいもんも欲しいって言えずにさァ、大人ぶって」
「…」
「で、本当に失くす瞬間に駄々こねんの」
いやだ欲しい、って。
オレはこいつの考えていることくらいわかる。
何年の付き合いだと思ってんだ。
だが裏を返せば、こいつにとっても同じこと。
「…早く行けよ」
オレは腰を上げた。
木の扉を叩くと、少し間があってから誰?と返ってきた。
「オレだよい」
息を呑む音が聞こえて返事がないので勝手にドアを開けた。
アンはベッドの隅で壁に背を付けて座っていた。
オレと目が合うとすぐにえへへと無意味な笑い声をあげたが、その目は赤い。
「あっ、包帯!包帯持ってきてくれたんだっけ?今日の朝さあ、ステファンに飛び付かれたとき血が滲んできちゃっ」
「オレは」
思いの外低く出た声に、アンの言葉が途切れた。
「お前に惚れるこたァねェ」
そう言うとアンは少し驚いてから目を伏せた。
「知ってる」
「だが」
カツ、と一歩歩み寄るとアンは視線を上げオレの顔を見た。
泣きそうな顔。
もしかするとオレもかもしれない。
「お前ェが他の誰かのモンなのは、すげぇ嫌だよい」
っ、とアンは息を呑んだ。
ゆっくりと口を開く。
「…マ、ルコは…あたしが好きなの?」
どうしようもないガキだと思った。
言うことは聞かねぇ、仕事はしねぇ、よく食べよく飲みよく寝る本能に忠実なガキ。
少し成長したと思えばやっかいごとを笑顔で持ち帰ってくるし、人の気も知らず好きだと思えば好きだと口にする。
うるせぇ黙れ向こう行け、とオレは何度口にしただろう。
だが本当にアンがオレから離れようとしている今、オレは非常に焦っている。
大馬鹿野郎だ。救いようがない。
黙ったままのオレに、アンは口を開いた。
「…ねぇ、さっき、見てた?あたしと、さ、サッチ」
「ああ」
「…き、きす、した」
「…初めてかい」
こくりと頷く頭。
舌打ちが漏れた。
あのリーゼント、あーだこーだ言いつつ奪うもんはちゃっかり奪いやがって。
今頃オレはあいつやイゾウたちの笑いの種になっているに違いない。
ベッドの側まで足早に歩み寄ると、アンはオレを見上げる角度を上げた。
膝立ちでベッドに乗り上げると、ふたりぶんの重さにスプリングが悲鳴をあげる。
足だけでサンダルを抜き取った。
「…マ、ル…」
壁にぺったり背を付けて動かないアンは掠れた声を絞り出した。
とんとアンの顔の横に肘をつく。
アンは壊れてしまったかのようにオレしか見ない。
それでいい。
息がかかるほど近くで。
「…あの野郎のは、忘れろ」
唇を重ねた。
薄く開いた目の間から見たアンは、これでもかと言うほど目を見開き、それからぎゅっと閉ざされた。しかし閉じた目の隙間からほろほろと液体が零れ出る。
オレは壁に着いた腕を離しアンの背に回した。
ゆっくりと、アンの腕が伸びてきてオレの背中のシャツを掴んだ。
触れるだけだったキスをゆっくりと深いものにする。
上唇を軽く噛み、少し離してはまた口付ける。
少し開いたままの口に舌を差し込むと、アンの身体が震えた。
アンは膝立ちのまま上から口付けるオレにすがりつくよう抱き着いている。
奥に引っ込んでいた舌を見つけて吸い上げると、やわやわと答えるように絡み付いてきた。
唇を離すと銀が糸を引き、二つの唇を繋いだ。
一度べろりとアンの唇を舐め、その肩に顔を埋めた。
オレの胸元に押し付けたアンが流す涙がシャツを湿らせていく。
「…マルコ、」
マルコマルコ、とオレの名を呼び続けるその声に心臓が痛いほど高鳴っているのがわかった。
「アン」
とりあえず、この気持ちに名前を付けようか。
「好きだ」
狂おしい恋
オレと目があった隊員はすぐに目を反らすか、青ざめた顔で固まりやがった。
それがますます気に障り、唸るように威嚇すると知らず知らずに覇気が出ていて後ろでばたりと倒れる音がした。
食堂の戸を開けると中は人も疎らで、イゾウがひとり離れたところ新聞を読んでいた。
オレを見つけて、おっと声をあげたイゾウはすぐにぶっと噴き出した。
「…何笑ってんだい」
「…くくっ…お前さんなんて顔してんだ」
人の顔見て笑うとは失礼極まりない奴だ。
憮然としてオレはイゾウの向かいに腰を下ろした。
「…そんな顔して、何があった」
「どんな顔してるってんだい」
「そうさなあ…言うなれば、般若、だな」
「…」
イゾウはばさりと新聞を畳み、陶器の湯飲みから茶をすする。
「珍しいんじゃねぇの、お前ェにそんな顔させるったァ」
「…はんっ」
「オレの目星じゃあ…アンかサッチ辺りだな」
「!!」
「はっ、当たりか」
思わず息を呑んでしまい、それがまたこいつの笑いを誘う。ちっと舌打ちが漏れた。
「お前さんあの夜からいろいろ考えてんだろ」
「…」
「大人っつーのはよ、本当に面倒なもんだなァ」
まったくだ。このぐつぐつと煮えるはらわたを抑える術を知っているが、あえてそれを使わず忘れる狡さを持っている。
…サッチの考えていることなど、わかっていた。何年の付き合いだってんだ。
サッチなら、オヤジだって文句ないだろう。
この船の兄たちだって、サッチをいいかげんな奴だがいざとなれば頼りになるとわかっている。だからこそ、あいつは今も4番隊を背負っているのだ。
わかっている、わかっているのに。
何故こうも腹が立つ?
サッチにではない。アンにだ。
ムカつく。いらつく。アイツ。
何より、さっきオレを見たときのあいつの目がオレを苛立たせる。言わば諦念、のような。
カシャンと目の前で何かが音を立てた。
顔を上げると、机にはゆらゆらと湯気を立てるコーヒー。
どかりとサッチが横に座った。
サッチは自分のコーヒーを音を立てて啜る。
イゾウはじゃあオレはこれで、と新聞を持ち席を立った。
沈黙が落ちる。
目の前に置かれたコーヒーに手を付ける気にもならなくて、それが冷めていく様子を眺めていた。
「…お前何してんだよ」
突如発せられた不可解な言葉。
眉を寄せてサッチを振り向くと、奴はいっそ憐れんだような顔でオレを見ていた。
「…お前本当ムカつくわ」
「…」
「ったく、変な顔しやがって」
先程からオレの容姿について失礼な言葉が飛び交っているが、手元のコーヒーを覗き込むとそこに写った自分は成る程醜い顔だった。
「…やだね、おっさんは。歳は取りたくねぇよ」
「…ああ」
「…大人んなるとさァ、欲しいもんも欲しいって言えずにさァ、大人ぶって」
「…」
「で、本当に失くす瞬間に駄々こねんの」
いやだ欲しい、って。
オレはこいつの考えていることくらいわかる。
何年の付き合いだと思ってんだ。
だが裏を返せば、こいつにとっても同じこと。
「…早く行けよ」
オレは腰を上げた。
木の扉を叩くと、少し間があってから誰?と返ってきた。
「オレだよい」
息を呑む音が聞こえて返事がないので勝手にドアを開けた。
アンはベッドの隅で壁に背を付けて座っていた。
オレと目が合うとすぐにえへへと無意味な笑い声をあげたが、その目は赤い。
「あっ、包帯!包帯持ってきてくれたんだっけ?今日の朝さあ、ステファンに飛び付かれたとき血が滲んできちゃっ」
「オレは」
思いの外低く出た声に、アンの言葉が途切れた。
「お前に惚れるこたァねェ」
そう言うとアンは少し驚いてから目を伏せた。
「知ってる」
「だが」
カツ、と一歩歩み寄るとアンは視線を上げオレの顔を見た。
泣きそうな顔。
もしかするとオレもかもしれない。
「お前ェが他の誰かのモンなのは、すげぇ嫌だよい」
っ、とアンは息を呑んだ。
ゆっくりと口を開く。
「…マ、ルコは…あたしが好きなの?」
どうしようもないガキだと思った。
言うことは聞かねぇ、仕事はしねぇ、よく食べよく飲みよく寝る本能に忠実なガキ。
少し成長したと思えばやっかいごとを笑顔で持ち帰ってくるし、人の気も知らず好きだと思えば好きだと口にする。
うるせぇ黙れ向こう行け、とオレは何度口にしただろう。
だが本当にアンがオレから離れようとしている今、オレは非常に焦っている。
大馬鹿野郎だ。救いようがない。
黙ったままのオレに、アンは口を開いた。
「…ねぇ、さっき、見てた?あたしと、さ、サッチ」
「ああ」
「…き、きす、した」
「…初めてかい」
こくりと頷く頭。
舌打ちが漏れた。
あのリーゼント、あーだこーだ言いつつ奪うもんはちゃっかり奪いやがって。
今頃オレはあいつやイゾウたちの笑いの種になっているに違いない。
ベッドの側まで足早に歩み寄ると、アンはオレを見上げる角度を上げた。
膝立ちでベッドに乗り上げると、ふたりぶんの重さにスプリングが悲鳴をあげる。
足だけでサンダルを抜き取った。
「…マ、ル…」
壁にぺったり背を付けて動かないアンは掠れた声を絞り出した。
とんとアンの顔の横に肘をつく。
アンは壊れてしまったかのようにオレしか見ない。
それでいい。
息がかかるほど近くで。
「…あの野郎のは、忘れろ」
唇を重ねた。
薄く開いた目の間から見たアンは、これでもかと言うほど目を見開き、それからぎゅっと閉ざされた。しかし閉じた目の隙間からほろほろと液体が零れ出る。
オレは壁に着いた腕を離しアンの背に回した。
ゆっくりと、アンの腕が伸びてきてオレの背中のシャツを掴んだ。
触れるだけだったキスをゆっくりと深いものにする。
上唇を軽く噛み、少し離してはまた口付ける。
少し開いたままの口に舌を差し込むと、アンの身体が震えた。
アンは膝立ちのまま上から口付けるオレにすがりつくよう抱き着いている。
奥に引っ込んでいた舌を見つけて吸い上げると、やわやわと答えるように絡み付いてきた。
唇を離すと銀が糸を引き、二つの唇を繋いだ。
一度べろりとアンの唇を舐め、その肩に顔を埋めた。
オレの胸元に押し付けたアンが流す涙がシャツを湿らせていく。
「…マルコ、」
マルコマルコ、とオレの名を呼び続けるその声に心臓が痛いほど高鳴っているのがわかった。
「アン」
とりあえず、この気持ちに名前を付けようか。
「好きだ」
狂おしい恋
オレは消えたアンを探して町中を徘徊した。
この街には山賊という面倒な奴らがいる。
海賊なら白ひげと聞いただけで逃げてくれるからいいのだが、無知というのは恐ろしいもんだ。山賊はオレたちを知らない。
アンのことだからあまり心配することもねぇだろとは思うが、まあ一応女の子なわけで、オレとマルコはこうして探しているのだ。
「…いねぇな」
メシ屋のごみ箱の蓋を開け中を覗き込んだとき、頭上からばさりと羽音がひとつ。
どうやら姫の御帰還のようだ。
降り立ったアンは足から血を流し白い顔をして、頬には涙の痕がある。たまらずぐっと抱き寄せた。
「このバカ娘が。心配しただろ」
ごめんなさいと弱々しく返ってきた返事に、オレはさらに抱き寄せる力を強めたのだった。
モビーに戻り、船に残るナースにアンの手当てを頼んだ。
傷はまだ浅いほうだが範囲が広く、しばしは安静とのこと。
不安やらいろいろ感じていたんだろう、処置が終わった途端そのまま医務室でアンはことんと寝てしまった。
健やかな寝息を立てるアンの顔をオレはなんともなしに見ていると、ふわりとアンが浮かび上がった。
アンを抱き上げたマルコは、部屋に戻してくるよいとひとこと。
助かりますとナースが答えた。
医務室をあとにするマルコの背中を、オレはぼんやり眺めていた。
「ごめんねサッチ」
「んー?なにがー?」
「酒、飲みに行く約束」
「ああ、アンこの島のログがどんだけで溜まるか知ってるか?」
「ううん」
「4ヶ月だとさ。ログが書き換えられる前に出航しなきゃなんねぇけどさ、まだ100日以上いられるんだぜここに」
読んでいた雑誌を置きニヤリと笑うと、寝たままのアンもつられるようにして笑った。
あれから丸一日寝て、まだ歩けないアンのために、こうして部屋に来て喋り相手をしているのだ。
怪我をしようとも食欲は衰えないので大量の食事も運ばねばならん。
「サッチ、街行ってきていいよ」
「んー、オレァ別に行くとこねぇし」
「ほら、ナンパしなくていいの?」
「…ああー、今は、ね」
正直目の前に転がるこいつに手を出すわけにはいかない今、ものすげぇ女が恋しい。
スタイル抜群で柔らかい女に触れたくてしょうがねぇのは事実だ。
実際、昨日の夜は女を買いに夜の街へ出た。
しかし俗に言う「そういうところ」に入ったはいいが、目の前に裸で転がる好みの女を見てもどうも気分が乗らず金を置いてすぐに出てしまった。
寝転んだまま鼻歌を歌うアンにちらりと目をやる。
ああ、オレは末期だ。
ガキだし、胸もケツも乏しいこいつにしかもう欲情しないらしい。
まったくおっさんのくせに、何盛ってやがるんだ。
「なあ」
ぎしりとベッドが軋む。
オレの重みでさらにアンが沈んだ。
「まだマルコが好きか?」
俯せのアンの表情は見えないまま、オレはアンの両肩の横辺りに手を着いた。
しばらく間があって、こくりと頭が縦に振られた。
ふっと笑いが口から漏れる。
オレはアンの足の傷を痛めないよう気配りつつアンをひっくり返した。
オレのほうを向いたアンは案外近くにいるオレに驚いたように目をぱちくりさせた。
「なあアン、オレのこと好きか」
え、と小さく口が開いたあと、いつものようにアンは目を細めた。
「すき!」
予想通りの返事に内心苦笑する。
でもな、それじゃダメなんだよ。
マルコのときはオレが言うまで気付かなかったくせに。
なんでオレのときは簡単に好きだなんていうんだよ。
その意味合いが違うことなんて、わかっている。
「オレもアンが好きだよ」
頭の中では危険信号がビンビン鳴っている。
ダメだやめろ、いやしてしまえと葛藤するのに疲れたオレはそのままアンの口を口で塞いだ。
この部屋に近づいてくる足音になんて、気付いていた。
「アン入るよい。替えの包帯…を…」
手元に落としたままだった視線をあげたマルコは、目の前のこの光景をどう捉えただろう。
アンのこれでもかというほど開かれた目がマルコを捉えた。
助けを求めるだろうかという予想は外れ、アンは何もしないし言わない。
「…邪魔したねい」
ぱたんと閉じられたドアを、アンは冷めた目で見ていた。
まだオレとアンの唇は繋がったままだ。
アンの背中とベッドの間に手を滑り込ませると、近すぎてぼやける視界の中でもアンの目がさらに見開かれるのがわかった。
胸に巻かれた布の中に手を入れ、下から肩甲骨を撫で上げる。
ぶるりとアンが震えた。
「…んんぅー!!!」
オレとの間に入り込んだ細い腕がオレの胸板を押し返す。
その代わりに、固く閉ざされた唇を割るようにして、自分の舌を差し込んだ。
そのとき、
ごすっ
「くっ…はっ…て、てめぇ…容赦しろよ…」
「…っはあっ…」
すっかり気の抜けていたオレの鳩尾に刺さるような拳が入った。
うずくまるオレの下からはい出たアンはベッドの隅で壁に背を付けこちらを見ている。
「アン」
びくりと細い肩が揺れた。
にじり寄ると、いやいやと言うように首を振った。
「もう何もしねぇよ」
ぐいと手を引っ張ると、簡単にこちらに倒れ込んで来た。
そのままその細い身体をこれでもかというほど抱きしめる。
「好きだ、好きなんだ、アン」
お前これであたしも、とか言ったらぶん殴るぜと言うと、こくりと頷きが帰ってきた。
オレたちの妹は、いつからこんなに女になったんだろう。
「おれが嫌いになったか?」
恐る恐る尋ねると、ゆっくりと背中に腕が回された。
その手がやわやわと背を撫でる。
「嫌いになんて、なれないよ」
アンの首元に顔を埋め、そっかと呟く。
顔をあげてアンと目を合わせると、その目には涙がにじんでいた。
なにが優しいお兄ちゃんだ。
とんだ狼じゃねぇか。
ぐいとその水滴を拭ってやり、ベッドから降りる。
この部屋に持ってきていた雑誌を手に取りドアノブに手をかけた。
「サッチ」
背を向けたまま、オレは部屋を後にした。
聞こえないふりなんて子供染みたこと、
小さく島影が見えてきた頃から、アンは船べりにしがみついて、ショーが始まるのを待つ子供のような顔でそれを見つめていた。
どんと船は大きく揺れて、島の裏海岸に接岸する。
一斉に大勢の男たちが動き出し、タラップをかけ錨を下ろし、と自分たちの仕事を遂行していく。
遊びにきたわけではなく、とはいえ遊ぶなというのも海賊には無理な話で、全員どこか浮き足立っている。
アンも一日目は仕事がある。
非番のクルーが勇み足で街へ降り立っていくのを、そわそわしながら眺めていた。
そして待ちに待った翌日、アンは船べりの上に立ち上がって、大きく叫んだ。
「しっまーーっ!!」
「るせっ」
「…耳元で叫ぶなよい」
ぴょいと船縁から陸へと降り立つと、両脇にマルコとサッチも降りてくる。
アンはきっとマルコを横目でにらんだ。
「マルコ!昨日大変だったんだからねこのヤロウ!」
「へぇそうかい」
「昨日ってアン、二番隊は武器庫の整理だけだったろ?」
マルコはまったく気にした風もなくアンの話を聞き流すので、それも気に入らない。
あぁマルコのそっけない顔も、などと思うのはきりがないのでやめておく。
一昨日言い渡された仕事はサッチの言うとおり武器庫の整理、調達等。
それが終われば後は自由だと言われて素直に喜んでいたのに。
昨日の朝、じゃあ頼んだよいとマルコに渡された一枚の紙切れ。
銃が30丁、剣が10本、短剣30本、火薬が150キロ、その他まだまだ続くといったような紙。
まさかと見上げたその顔は、おなじみのニヒルな笑いを浮かべていて。
「それ調達したら全武器庫の片付け一通り、頼んだよい」
「ぜっ…全部!?二番倉庫だけじゃなくて!?」
「あたりめぇだろい、そもそもなんで今日ログが示していないこの島に立ち寄ったのかわかってんだろうねい」
「うぁ…あたしが冷蔵庫食い荒らしたから…」
「わかってんなら四の五の言わずにやるこった」
ほら行けと追い払われたアンはすごすごと甲板に戻り、二番隊を召集。
本日の仕事を言い渡すと、予想通り烈火の如き非難を浴びた。
そういうわけで、二番隊は昨日島じゅうの武器屋を駆けずり回り、埃臭さが漂うそこで一日を過ごすはめになったアンは鬱憤がたまっていた。
「ああ、昨日のせいで肩ごりごりする」
「オレが揉んでやろう」
「いいサッチはセクハラだから」
どこでそんな言葉覚えたんだ!?と歎くサッチを後ろ目に、あたしたちは街へと歩きだす。
昼前の街は明るく喧騒に溢れていて、活気あって見ごたえがある。
両脇の強面に挟まれて、とにかくいっぱい食べるのみ、と意気込んだ。
*
「あ!ねえアレなにかな」
「特産品?」
「いいにおい」
出店が立ち並ぶ通りはまるで祭りだ。
今日ってなんかの祭り?と街の人間に尋ねたが、いや、毎日こんなもんだと笑われた。
アンはふらふらとにおいの源泉に寄っていく。
店の初老の女性が愛想よく笑う。
鉄板の上で、こんがりと香ばしいにおいを醸しながら焼けているパンを見下ろして、アンは「これ中なに入ってんの!?」と歓喜の声を上げた。
「この島特産の牛肉だよ」
パンはうちの特製さ、と言われ、アンの緩んだ口元からよだれがこぼれそうなのをサッチが指摘した。
うまそうだねいとマルコが横から顔を覗かせる。
「おばちゃんっ、4つちょーだい」
はいよと準備するおばちゃんの手際を見つつ、自然とアンの足元は浮足立っている。
サッチが口をはさんだ。
「なんで4つ?」
「マルコとサッチとあたしとあたし!」
「…なるほど」
はいと手渡して貰ったそれに払うお金を、ズボンのポケットから引っ張り出していると、まいどー、とおばちゃんの明るい声。
顔をあげると、釣銭を受け取るマルコの無表情が見えた。
「わ、マルコあたし今日はちゃんとお金持ってる!」
「別にこれくらいいいよい」
早く受け取れよい、と女性の差しだすパンを顎で指し示す。
アンはにやっと笑い返して手を伸ばした。
「いいねぇ優しいお兄ちゃんたちで」
女性はほのぼのと3人を見渡した。
サッチが「だろーっ!?オレってばまったくいいお兄ちゃん!」と一人悶える。
サッチが買ってくれたわけではない。
「行くよい」
背を向けたマルコの背中を追いかけて、アンはまだ温かいそれに噛り付いた。
*
…しまった。非常にしまった。
ついふらふらとあっちやこっちに目を奪われているうちに、マルコたちと逸れてしまった。
しかもどんどん人通りも店も少なくなっていく。
木や茂みのほうが多くなってきた。
あたりは薄暗く、道もどっちがどっちだかわからない。
島の半分が山になっていると確か昨日航海士が行っていた。ここはすっかり、山の麓なんだろう。
背の高い木々が西日を遮って、あたりは薄暗い。
不気味な鳥の鳴き声が甲高く響いた。
早く合流しないと、せっかく夜は飲もうと言っていたのに。
焦るほど道もわからなくなり、日の傾きは進んでいく。
嫌な汗が肌を伝う。
アンはとりあえず坂を下れば街だろうと踏んで、微かな勾配を下っていくことにした。
おっかしいな、どこで迷ったんだろうと頭をひねりながら足を動かす。
ふと背後、そう近いわけではない背後に人の気を感じて振り返った。
同時に後ろでジャリと砂が鳴った。
*
舐めまわすようにアンの体をつま先からてっぺんまで見る、ヘビのようないくつもの目に囲まれて、アンは肩をすくめることも首を縮めることもなかった。
ただ、ああ鬱陶しいことになりそうな気がすると、ぼんやり思う。
ねぇちゃん迷ったのか、とねっとりとした声が尋ねた。
「うん、迷子」
「そうか、じゃあ送ってってやるよ」
その言葉に、後ろの男たちが顔を歪めて笑う。
あたしはふるりと首を振った。
「いい、帰る」
「んなこと言って、道わかんねぇんだろ?」
「じゃあ教えてよ」
「帰るより、」
オレたちに楽しいこと教えてくれよ、と男はアンの細い腰に伸びた。
その手が触れるか触れないかの寸でのところで、アンの拳があやまたず男の顔にめり込んだ。
「触んな」
ぐしゃりと崩れ倒れる男にそう吐き捨てる。
一瞬呆気にとられた男たちは、たじろぐように一歩下がったものの、次の瞬間には腰のサーベルを抜いた。
薄暗い夕方の空気の中で冷たく光る。
だから上着は嫌いなんだ、とため息をつきながらアンはその手に炎をともした。
*
数人が火の付いた服をそのままに逃げるように山を下って行くのを、アンは黙って見送った。
しゅう、と人が焼けた独特の臭いの中火が収まる。
自ら転んで気絶した者もいれば、顔を焼かれた痛みに悶える者もいたが、とにかく残った男たちも既に戦える状態ではなく地面に転がっていた。
「あ、もう空が」
見上げた空は、ずいぶん紺色が濃くなってきた。
無駄な時間だったと倒れる男を跨いだとき、目の端できらりと銀が光った。
刃。
最後の力とでも言わんばかりに、膝立ちの男がそれを振り下ろした。
ひょいと避けるには近すぎる、しかし飛んで避けるのは面倒だ。
どうせ刃物じゃ切れない体なのだから。
一息にそう考えて、アンはかまわず歩を進めた。
ざくりと肉の切れる音が振動で伝わった。
「え」
じんと痺れが左の足元から駆け上り、一瞬で燃えるような熱が灯った。
男がニヤリと笑う。
海楼石だ。
「クッソ」
アンは反対の足で、男の頭を踏みつぶした。
頭蓋が固い地面にぶつかる。
男はその衝撃で今度こそ完全に気を失ったが、アンは傷ついた足を軸にしたためよろりと左にふらついた。
痛い。切り傷なんて久しぶりだ。
男が握る刃に触れると、へにょんと力が抜けた。
なんで山賊が、なんて思いながらもどんどん熱がそこに集まってくる。
「かっこわる…」
隊員には絶対見られたくない姿だ。
自分の血を見るのは久しぶりだった。
左太ももの外側から膝の側面を伝い、後ろのまわってふくらはぎの裏のふくらみを赤い筋が辿っていく。
汗よりも濃い液体が肌を伝う感覚にぞっとした。
止血ってどうやってするんだっけ? とアンはとりあえずその場に座り込んだ。
「アン!」
座った矢先、遥か上空から聞こえてきた声に、弾かれたように顔を上げた。
空の色より数段鮮やかな青が揺れている。
「…マル、コ」
ばさっと羽音をさせ降り立ったマルコは座り込むアンを見下ろし息をついた。
深い眉間のしわが影を作る。
これはげんこつがくる、そう察しぎゅっと目をつむったが、なかなかいつもの衝撃がやってこなかった。
そっと目を開けると、目の前にはマルコの顔が。
「心配したよい」
怒るのでもなく小言を言うのでもなく、心底心配していたのだと、その声を聞くだけでわかった。
哀しくはないのに、ほろりと涙が零れる。
泣くなよいと無骨な指先が頬を拭う。
アンは泣くまいと唇を噛み締めた。
「ああ、怪我してんのかい」
アンの足に目をやったマルコは、それからちらりと倒れ伏す山賊たちを流し見る。
「ごめん」
「何謝ってんだい、ほら乗れ」
マルコは背を向けた。
アンは鼻をすすって、その首にしがみついた。
*
ボボボッとアンの炎とは質の違うそれが二人を纏う。
ひゅんと飛び上がった空はもう真っ暗に近かった。
あ、海が見える。
呟くと、島だからと当たり前の答えが返ってきた。
あの小さな粒はモビーかな。
そうだろうねい、と律儀に答えてくれる。
水平線近くだけが淡く紫がかり、ぼんやりと港を照らす。
「探して…くれてたの?」
「ん、ああ、サッチは街ん中探してるよい。オレはお前の炎が上から見えたんでねい」
ぎゅっとマルコの首に抱き着くと、マルコは窮屈そうに身をよじったが何も言わなかった。
迎えに来てくれてありがとうと、言いそびれてしまった。
代わりに、ここ最近ずっと、アンをいっぱいにしている感情が喉元までせりあがる。
マルコに出会って気付かされるまで知らなかったその感情は、いいことよりも面倒なことの方が多かった。
ふわりとアンをしあわせにしたかと思えば、まっさかさまに突き落として暗闇に一人ぼっちにする。
それでも手放せないのは、とても大事なものだと自分がわかっているのだろう。
それともマルコだからかな、と温かい羽根を握る。
「マルコ、すき」
ほろりと零れたそれに、慌てて口をつぐむ。
しかし言ってしまったものは無かったことになんてならないのはわかっている。
言わないと決めたのに。
早くも自ら打ち砕いた決心に嫌気がさして、ため息が漏れないようギュッと唇をかみしめた。
「…知ってるよい」
帰ってきた、予想外の返事。
淡泊で、相変わらずなそれ。
でも、はじめて、ちゃんと聞いてもらえた気がした。
→
うと、と船を漕ぐ。
ビスタが、そろそろ眠るといいとアンを離した。
アンの背中に頬を寄せるハルタがふわあと可愛らしい欠伸をする。
つられてアンも欠伸した。
*
ビスタの部屋から自分の部屋へと階段を下りて、角を二回曲がる。
アンの部屋へとつながる最後の角を曲がったとき、ビスタとぶつかったときとまったく同じ光景で人影に出くわした。
「っと」
悪い、と断って顔を見上げたアンは、その人物に仰天して目を丸めた。
マルコの細い目にも、少なからず驚きが滲んでいる。
目の前に現れた身体に、思わず反射で抱き着こうと手が伸びた。
「おい」
マルコが嫌そうな声を出す。
手が止まった。
めずらしく自制の効いたアンの行動に、マルコが訝しげに目を細めた。
ついさっきあんなにしんみりしただろうが、とアンは自分を叱咤する。
なんでこんなとこにいるの、とつとめて何でもないように声をかけた。
「お前の部屋に月末提出の書類、置いておいたよい」
「げぇ」
「つーか部屋に鍵くらいかけろ」
鍵かけたらマルコが入ってこられないだろ、と冗談じみた口調で言えば、入るか阿呆といつもの返事が返ってくる。
「あー、ナースたちとのは、終わったのかよい」
「あ、うん。ビスタのとこ行ってた」
「ビスタ?」
「紅茶飲んでて」
「ああ、よい」
適当な相槌を打ったマルコは、ふと首筋を摩る手を止めてアンを見下ろした。
その表情に、アンは既視感を覚えた。
「なんか、あったのかい」
細い目の隙間から、微かに優しい光が届く。
ビスタやハルタと同じ顔をする。
なんかって、あんたのことだよなんて言えるはずもなく、別に何もと首を振った。
「そうかい」
ならいい、と。マルコはふっと口元を緩めた。
笑い返してその脇を通り過ぎる。
マルコが背を向け歩き出した音を背中で聞いた。
きゅううと、その音を聞いて、言いようのない締め付け感に襲われる。
それは空腹感に似ていると、ぼんやり思った。
*
「アン隊長ーっ!起きろーっ!!隊長会議っすよーっ!」
どどどど、と激しくドアを叩かれる。
うるっさいなと悪態づいて布団をかぶりなおした。
「…あと2時間…」
「なげぇよ!!」
ドアを壊す勢いで隊員はドアを叩き続ける。
ああもううるさい!とアンは布団を跳ね飛ばして上体を起こした。
「たーいちょー!起きましたかコノヤロー!」
「起きた起きた!」
「よし」
満足げな足音を聞きながら時計に目をやると、まだまだいつも起きる時間にはほど遠い。
「なんだよまだ早いじゃん…あ、会議か」
ぼりぼりと腹を掻きながらベッドから下りる。
遅刻でマルコからげんこつを喰らうのはごめんだ。
枕元のテンガロンをひったくるように掴んで部屋を出た。
会議室にひょこりと顔を出すと、強面の顔がずらりと並んで圧巻の雰囲気である。
しかしみな一様に、アンを見ると表情を緩めておはようという。
挨拶を返しつつ、アンは自分の隣の席がまだ空席であるのに気付いた。
「あれ、マルコまだ?あたしセーフ?」
「ああ、マルコがこねぇんだ。あいつに限って忘れるわけねぇと思うんだが」
寝坊か?とあちこちから揶愉が飛ぶ。ケラケラと笑いが起こるが、すぐにマルコは姿を現した。
「悪い、遅れたよい」
マルコはぐしゃぐしゃの書類をひっつかんだまま席へ座ると、ふうと息をついた。
「マルコ寝坊?」
「…いや、よい」
「考え事でもして夜更かししたんですかマルコさん」
サッチがからかいまじりにそう言うと、ぎんと睨みながらも決まり悪そうに頭を掻いた。
*
始まった会議の内容は、明日の朝島に着くということ。
普通の街がある島だが、面倒なのは山賊がその街を闊歩しているということ。
いつも通り、その島での各隊の動きを割り振られたのだが、マルコが遅れてくれたせいで怒られずに済んだアンは見張りを免れ、一日目の武器の整理が終われば自由だと言い渡された。
島への上陸というのは、意味もなく胸が踊る。
いくら海が好きだとはいえ、オカも恋しい。
「じゃあ各自、仕事は隊の中で割り振ってくれよい。以上」
マルコが締めると、隊長たちはぱらぱらと席を立ち始めた。
アンは書類を手元にかき集めて揃えながら、美味しいものの多い島だといいなぁと思いを巡らす。
季節はなんだと言っていたっけ、とすっかり意識は寄港へ飛んでいる矢先、頭の上にぽんと重みが乗った。
上から声が降ってきた。
「アン明後日自由だろ?オレとマルコも仕事ねぇから一緒に飲みにいこうぜ」
「ほんと!?やった!」
目を輝かせて頭を反らせると、頭上でサッチがにっと歯を見せて笑う。
「マルコも既に了承済み」
サッチは親指を立てて、わざとらしくアンにウインクを飛ばす。
アンの親指もつられて立ちかけたが、不意に思いだした昨夜の出来事に邪魔をされて、机の上で上がった手は中途半端に空中で止まった。
あたしの心はあれきしで折れてしまったの?と自分に問いかける。
返事のない呼びかけや答えのない質問は大嫌いだ。
サッチがアンの顔を覗き込み、行くだろ?と返事を促す。
曖昧に頷くと、どうしたんだよと頬をつねられた。
いひゃいよとその手を掴む。
「行くけどさ」
「けどなんだよ」
「マルコかぁ…」
思わず渦中の人物の名を口に出していた。
マルコ?とサッチは尋ねるが、思い当たる節があるのか、考え込むようにアンの頬を離した手でサッチは自分の頬を掻くのが見えた。
振り向かないマルコの背中ばかりを追いかけて、なんになるというの、と声が聞こえた。
あたしはどうしたいの? と問いかけたアンに対してやっと帰ってきた自分の声だ。
アンの頭上で髭に手をやるサッチは、アンをけしかけた張本人である。
サッチはどうして、あたしがマルコのことをすきだと分かったの。
自分でも気づかないことをどうして分かったの。
そもそもどうしてマルコなの。
「諦めんの?」
「あき…?」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
サッチの声を反芻して、反芻して、3回目でやっと意味を汲み取る。
諦めるとは、つまり、マルコがアンのことを好きになるわけないという前提のもとに、マルコを好きでいることをやめるということだ。
やめることなんてできるの? とまた自分に問いかける。
サッチがこの気持ちを教えてくれたのに、それを崩す選択肢もあるんだよと教えるのもまたサッチだ。
「わかんない」
口にしてから、同じことを昨日も言った気がすると思った。
「考えることも大事だぜ、アンちゃんよ」
珍しくまじめな顔つきで、サッチがアンの顔を覗き込む。
アンは頭を反らせてサッチを見上げたまま、そうだねと言った。
考えなければならない。
あたしが、あたしの、この気持ちを。
サッチは再びアンの黒髪を掻き交ぜた。
額にかかる前髪を後ろに流すように撫でる。
つやりとしたアンの額の上を、サッチの手が滑る。
跳ねた毛先が太い指に絡まるのが心地いい。
大人しく撫でられて、そうか、これが潮時か、と気づいた。
「よし」
がたんっと音を立て立ち上がると、サッチは驚いて手を引いた。
「考えはまとまりましたか、アンさん」
「うん。これをもって最後だ」
最後? とサッチが眉を寄せる。
わけがわからないとその目が言う。
「最後って、何」
「マルコへの突撃」
まじで、と音にならないサッチの声が紡がれる。
アンはくるりとまわってサッチに向かい合った。
「たとえばさ、アイスがあるとするだろ」
「アイス? は?」
「アイスがあるの、サッチが作ったヤツ、あたしがもらうの」
「お、おう」
サッチは呑み込みが早い。わからないながらも相槌をくれる。
アンは話を続けた。
「サッチが作った牛乳のアイス。すぐできるヤツ。でも一晩凍ってて、すごく固いの。あたしはスプーンで思いっきり突っつくんだけど、削れない」
「たまにあるな」
「でしょ。あたしはめんどくさいとフォークを刺して噛り付いたりもするけど、今回はそれはナシ。頑張って削るの」
「うん」
「溶けるのを待てば食べられるのに、あたしがガツガツつつくから、アイスは滑ってなかなか削れなかったりするじゃん」
「おう」
「今、そんな感じ」
なるほど、とは言ってくれなかった。
わかったようなわからないような、とサッチは腕を組んで考え込む。
「…えーと、つまり、マルコがその固ぇアイスで、つつく行為がアンの押しであって」
「そうそう」
わかってるじゃん、と頷くと、サッチはひらめいた顔でアンを見下ろした。
「じゃあ、マルコが溶けるのを待つってわけか」
「…一生溶けないかもね」
なんだよ、とサッチが鼻白んだ声を出す。
「じゃあ今の話はなんだったんだよ」
自分でもわからない、とアンは軽く肩をすくめた。
アイスの比喩はなかったな、と思ったとき、出ていったはずのマルコが会議室に戻ってきた。
アンとサッチの姿を捉えて、なんだお前らまだいたのかいと気だるげに言う。
サッチがちらりとアンを見下ろした。
最後なんだよ、とサッチに小さく呟いた。
「隊員に掃除させるからよい、ついでだ、その辺の椅子上にあげといてくれ」
マルコは会議室の様子を見に来ただけのようで、そう言ってすぐに背を向けた。
なんとも言えぬ顔するサッチの横で、アンは床を蹴る。
マルコの広い背中めがけて走りだす。
マルコはアンの気配に気がついて、顔をしかめて、さっと避けるに違いなかった。
からぶったアンの身体は何もない宙を抱きしめて、ああ避けられたと悔しがるはずだった。
10メートル足らずのその距離はアンの足であっという間に埋まり、気配を察して気が付いたマルコの少し驚いた顔が一瞬見えた。
どすんとぶつかる。
「…なんだよい」
あれ? と顔を上げた。
アンの腕はしっかりと、マルコの腹に回さされている。
マルコは避けなかった。
「あれ?」
声にも出して尋ねる。
マルコが変わらず眠たそうな目をして、アンを見下ろしていた。
「避けないの?」
「…ぼーっとしてたよい」
ああなんだ、それだけか。
ぐりっとマルコの腕に額を擦り付けると、いつものように手で押し返された。
最後だからとここぞとばかりにマルコの匂いを目一杯吸い込む。
煙草臭さにむせると、失礼なヤツだといやがる声がした。
これは理屈じゃない、と思った。
そうだ、あたしは難しいことや考えることが苦手なのに、どうして理解しようと頑張っていたんだろうと、質問が一周回って回答を持ってやってきた。
マルコがたまらなく好きだ。
この人の顔も体も髪も爪も声も口調も息遣いさえ、全部を取り込んでしまいたいくらい好きなのだ。
そうだ、好きという気持ちは欲求だ。
マルコが欲しいんだよ、と声には出さずに呟く。
「ねぇマルコ」
いい加減離れろ、とアンの腕に手をかけていたマルコに負けないよう、一瞬腕の力を強くした。
溶けるのを待つ気はないが、つつくのはやめだ。
「すきだよ」
なるようにしかならない。
アンを動かすのは頭ではない。
全ては、アンの心がわかっている。
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