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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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また雨だ・・・。



アンはどんより気分に輪を駆けるニュースを眺めながら、
テレビに背を向けるようにして転がる。

昨日までは雨で、今日は一日降りそうで降らなくて、
そして天気予報が外れないなら、あすからの週末二日ともが雨らしい。
土曜日のバイトはシフトの調整で丸々休み。
日曜日はもともと休み。
ので、2日連続の休みと言う非常に素敵な具合なのに・・・



アンは床に寝そべったまま適当に手を伸ばして、酷い体勢のままベッドの上のタオルケットを探す。
何度もやるのにちっとも手が届かない。グキッと肩が変な風にねじれて、痛っと声を上げた。

横着をしただけ損だったことにより一層苛立ち、アンは意地でもその体勢のままタオルケットを引きずり下ろすと、
それに包まって丸くなった。



心臓がじくじくする。

お腹の辺りもモヤモヤする。




滅多に調子を崩すことなんてないのが売りの自分だったはずなのに
一体どうしたっていうんだろう。



アンはマルコの部屋で夕飯を食べて、そして今日は早々に自分の部屋に戻ってきている。
このところマルコは異常に忙しそうなのだ。








(この辺、重い)


アンは繭の中で体を一層縮めながら胸のあたりを抱きしめるようにして眉を寄せた。



最近、ちょくちょく感じるこの重さ。

最初に感じたのはいつだろう。



ああ、あれだ、


マルコに好きだと言われる前、
この部屋に、あたしが来る前に住んでいた人の事を聞いた時、

それがマルコの彼女だと知った時。



勘違いだと分かって、マルコの大事にしたい相手が自分だと聞かされて、

それからもうひと月近く経つのに・・・・



アンがずっとずっと気付いていて、
そして気付かないフリをしていることがひとつ。




あの紅茶のティーバックは相変わらずマルコのキッチンのところに置かれたままだ。






紅茶全般が嫌いになってしまいそうなそれ。
中身がどれだけあるのかもしれない、ただの小さな紙の箱。


たとえマルコが清算済みの関係だと整理をつけていても、

過去ここに誰か別の女の人が、自分と同じようなポジションで存在していた証なんて、




(あれ、もう、・・・・見たくない)



捨ててしまおうかと思った。

マルコはコーヒーしか飲まないのだから、
別段これが無くなったとして何も困らないだろう。


けれど、どうしてもできなかった。


マルコがどういう意図でそれを残しているのかが分からない以上、
アンには迂闊に手が出せない。
それに飲食物を気軽に破棄することは躊躇われる性質なので余計だ

手を出して、捨ててしまえば、
その行動自体が些細な嫉妬か子供っぽい駄々だと思われそうで。



このひと月、嬉しい事がいっぱいあった。
落ち着かなくて、でも顔がにやけるようなこともあった。
得意じゃないけど、でも嫌じゃない。そんなことが沢山。



けれどそれ以上に面倒で、投げ出したくなるような事もいっぱいあった。


紅茶の事だけじゃない。




ふとした瞬間、アンはマルコの昔の彼女の影を見る。


それは完全に妄想で、マルコには恐らく何も見えていない影。





同じ部屋に住み、同じように暮していれば、
同じシチュエーションが前にもあったんだろうか。

その時もやっぱりマルコは今みたいに笑ったり、
その人の頭を撫でたり、
ご飯を食べたりしていたんだろうか。


この部屋で。



そんなことを一度考えれば、
その日はもう止められなくなる。



マルコはよくアンを丸めこもうとするけれど、
正面からの告白と、
そして半年以上も前に終わって未練のみの字も無いと言ったことは掛け値なしで本当だろう。

それを疑うのはマルコに酷い。
そのくらいアンだってちゃんとわかっている。


だから、勝手に見える彼女の影が嫌だなんて、


・・・・・マルコには言えない。






「でも、・・・・ヤなんだよ」




頭を撫でてもらうのも、
ご飯を食べるのも、
低く笑ってしょーがねぇよぃって言われるのも、
抱きしめられるのも、キスをされるのも、

この部屋とマルコの部屋でされること全て、

前例があるのかもしれないとそう思う環境が嫌で、


そう思ってしまう自分がもっと嫌で、


ここに引っ越さなければマルコと会えてもいないのに、
アンは最近ここから別のどこかへ逃げてしまいたい気持ちになっている。






てってれれー、と携帯がアンの気持ちとは裏腹に、間抜けな音を出した。

この音は・・・・


(サッチからのメールだ)

アンは相手ごとに音を変えるなんて機能は使った事も無い。
が、以前サッチが遊びに来ていた時に勝手に設定をしていった。

それ以来サッチからのメールと電話だけは確認しなくてもすぐわかる。
案外この機能は便利なものだ。

というわけでアンはマルコではなくサッチだけは識別可能仕様という、
世間的に見ればいささか不思議な携帯を丸くなった中から探し当てる。


ローテーブルの上に置いてあったので、タオルケットよりは簡単に手元に持ってこれた。

パチンと開くと、新着メールのマーク。

開けばそこにはまるでいつもの調子でしゃべってるかのようなサッチの文章がある。
絵文字や顔文字がたくさんで、どこの女子高生かと最初は驚いたが今ではすっかり慣れたもの。

アンは少し気持ちが和んだものの、返事を打とうとして気力が萎えた。
面倒になってサッチの番号へ電話を掛けると、2コールで受話器の向こうから声がする。


『アンちゃーん、たまにはメールで返事ちょーだい。受信ボックスに潤いがないのよ俺』
「打つの面倒なんだもん」
「どっかのオッサンみたいなこと言わないの」
似て来たとかやめてー、とサッチが電話口で苦笑しているのが判る。
アンはこっちだって願い下げ、と普段なら言えるのに今日はマルコを引き合いに出されても身体がまた沈むだけ。

『どしたのアンちゃん、何か声こもってねぇ?』
「あー、うん、いま布団の中だから」
『・・・ってことはこれはピロートークか!?』
「何それ」
『ああ、いや、うん、まぁいいや』

サッチは適当に誤魔化して、メールの返答を聞く為にアンへもう一度同じ内容を問いかける。
アンはサッチへの来訪お料理リクエストには答えずに、遠慮がちに切りだした。

「あのさ・・・」
『?』
「サッチ、明日マルコに用事ある?」
『あー、まぁあるとすりゃ原稿早く寄越せって言う程度?ま、当然効力ゼロだから言うだけ無駄、よって俺超暇』
だからアンちゃんにメールしたんですよー?とサッチは笑う。

アンはサッチのこういう気の遣わせない上手なところがとても好きだった。
ホッとして、何でも話してしまいたくなる。


「だったらさ、あたしがサッチの家、行っちゃ・・・」
駄目かな?と語尾が小さく聞こえてくるのは何も布団の中で声がこもって聞き取りにくいからだけではなさそうだ。

うっわ!何この破壊力、そんな可愛いおねだり、こんなオッサンにしちゃ駄目!
しかも無自覚で!なんて恐ろしい子!

サッチは一瞬ウェルカム万歳を叫びそうになり、慌てて気持ちを宥める。

そしてマルコにお宅のお姫様もうちょっとちゃんと教育しなさいよ、と言いたくなった。
無自覚で男のお家に行きたい発言とか安易にするのは駄目だろう。
相手俺だからこれ穏便に済むのよ?
なんて危なっかしいのを抱えたんだかザマ―ミロ、じゃねぇご愁傷さまマルコ。

さらにアンには、そういう技はマルコにだけ使いなさい、とも言いたくなった。
てかそれは死ぬほど羨ましいじゃねぇかマルコのド畜生、とも・・・駄目だこれは終わらねェ。


さて、
しかし今までにこんなことを言いだした事の無いアンには何か理由があるに決まっている。
声に元気がないのだってそのせいなんだろう。


サッチは電話口でふっと笑うと、聞いた。

『マルコ忙しくて構ってくんねぇの?』
「そんなんじゃ・・・ない」

ふむ、とサッチは見えるはずはないが片眉を上げる。

『じゃ喧嘩したんか?』
「うぅん」

おや、外れた。

いよいよこれは何だろうとサッチが首を捻っていると、

アンからポツリと呟きが返る。

「・・・この部屋、ちょっと離れたい」

それっきりアンは黙ってしまった。

要するに、どっかへ行きたいと。


可愛い妹のようなアンが言うのなら、サッチがすることはただ一つ。

『よっしゃ!んじゃ明日昼前に迎えに行っちゃる!んでスーパーでしこたま買い出し!んでゴージャスにクッキング!
死ぬほど食わせてやるから覚悟しろ?何て素敵な雨のお休み遊び!とサッチはうきうきと声を弾ませてアンに提案した。

アンは美味しいもの三昧の予定よりも、
何より出かけられるその事にホッと息をつく。

「ありがとサッチ」
『礼はいいから明日ものすごい気合で芋の皮を剥け』
謎の指令をして、あ、とサッチは最後にひとつ付け足しをすると電話を切った。
アンはその付け足しには曖昧に返事をして同じく通話のボタンを切る。


何で芋?とアンは少しだけおかしくなって笑った。
点けっぱなしになっていたテレビの左上隅には、また小さい天気予報が出ている。

けれど明日を示す傘マークを、先ほどよりは体を沈めずに眺める事が出来た。






**




ガチャ、バタン、という重たいドアの開閉音。
聞こえたそれに、マルコは当然玄関のチャイム音が続くと思っていた。

マルコは時間の感覚が昨夜からおかしいよぃ、と時計を見る。
深夜まで書いて、少し寝て、なぜかすぐに目が覚めて、そこから気付けば今に至る。

筆が乗る時にはそれを止めないというよりは止まらないのがモノ書きの性なのか、なんと時刻は11時前。


夜・・じゃねェ・・・飯、より眠ぃ

そうぼやけた頭の隅で思い、そういえばチャイムが鳴らねぇな、と気付いた。


買いだしなり、様子見なり、必ずと言っていいほどひと声かかる日常で、
それは少し異質なことだった。


凝り固まった体を机から引き剥がしてドアを押せば、そこにはどこかに出かける恰好をしたアンが立っていた。

むわっとする湿気は当然雨が降り出したからで、マルコはまずその事に眉をひそめる。
そしてビクリと驚いたようにマルコを見るアンの態度にも眉根は寄った。

「・・・どっか出んのかよぃ」
「あ、うん」

こっちの都合を考えずにどこかへ引っ張り出そうとやってきたのかと思ったが、どう見ても変な態度で、
アンの身体は階段の方へ流れかけている。

「サッチと買い出し行って飯作る」

その名前に階下を見下ろせば、見慣れた車が雨の中停車していた。

そんな予定は聞いてねェ、と思いかけたが聞いてやる時間を作っていないのはこちらの落ち度だと思いなおし、
マルコはそうかよぃ、と頷いた。

ヤツは何だかんだとアンを構うが、
そもそも厭わしいというのは今に始まった事ではない。


「・・・俺ァ仕事が詰まってて」
「わかってる、眠くて死にそうって顔してるもん」

アンはピッとマルコの鼻先に指を示すと少し笑った。

とりあえず死なない程度に頑張ってね、と言うと同時にポンとワンタッチのビニール傘を開いて、
ひらひらと手を振ると階段を下りていく。

その何とも色気のない励ましに、よいと適当に相槌を打ちながら、マルコは違和感を感じた。



機嫌を損ねた、というわけでもない。
至っていつも通りの、普通のアンだ。


昨日飯を食ってる時も別に普通、
だったはず。


玄関まで見送った際に交すやりとりやらあれやこれやも別に普通、
だったはず。

別れ際にちょっかい掛けんな、といちいち照れて噛みつくのも、
最後だから構うのが普通だろぃ、と笑ってやれば、怒った様にバタンとドアが閉まる、
第三者が傍で見ていれば大層げんなりするに違いないやりとりも、

もはやここひと月での立派な『普通の日常』だ。


なのに、今のアンは・・・どこか


(俺がおかしいのかねぃ)


決してスッキリしているとは言い難い脳みそなので、
マルコはふ、と息を一つ吐くとちょうどそこにサッチの車のエンジン音が重なる


他の男と二人っきりでどこかにやるというのは、
非常に面白くない。

が、今日も明日も残念ながら自分がそれに応えてやれないのも事実だ。

数を増やした仕事は予想以上に面倒で、マルコはペースをつかむまで久々の缶詰め状態を味わっている。



(ま、買い出しじゃすぐに戻ってくんだろぃ)




隣の部屋でぎゃーぎゃーと賑やかに昼飯を作られるまえに、
マルコはあと少し筆を進めるかと部屋へ戻る。

車が走り去った後姿は最後まで確認しなかった。





そして1時間経っても二人は戻らなかった。



アンの携帯は繋がらない。


(・・・電波の届かない買い出し先ってのはどこだよぃ)




フランスパンは呼び出し音は鳴るくせに、一向に出る気配がない。






マルコの原稿が全く進まなかったのは言うまでも無かった。



ハナノリさんのあとがき

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