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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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「た」
 
「遅い」
 
 
ただいまの言葉とともに開きかけたドアは、内側からの力によって勢いよくアンの方へと迫ってきた。
よって続くはずだった言葉は、逃げ帰るようにアンの喉の奥へと戻って行く。
ぱちくりと丸めた目を少し上げれば、悲惨な顔色の、そしてなんとも人相の悪い顔がじとりとアンを見下ろしていた。
 
 
「言って渡して戻ってくんのにどんだけ時間かかってんだよい、もう夕方じゃねぇか。電話も出やしねぇしサッチの野郎は泣きべそかいて電話してくるしイゾウは…あいつ、くそ、」
 
「ちょ、マル、なかっ、中はいろっ」
 
 
玄関口ではかんべん、と説教と悪態を吐きはじめたマルコの胸を両手で押して、アンはやっとのことで部屋の中に足を踏み入れたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
うげ。
念願のシュークリームを口に詰めていたアンは、久しぶりに開いた携帯が一生懸命示していた着信数を見て思わず口の端から欠片を落とした。
 
 
『どした、アン』
 
『いや、何か、携帯が』
 
『携帯が?』
 
『マルコでいっぱい』
 
 
 
てん、とアンを見つめたイゾウは、次の瞬間には盛大に噴き出した。
 
 
大事なんがなかなか帰ってこねぇとなりゃそりゃあ仕事も進まねぇってか』
 
 
あっはっはと笑い続けるイゾウはごそごそと尻のポケットを探り、自身の携帯を取り出した。
そしてその背をアンに向けた。
 
 
『ほれアン、笑え』
 
『は?』
 
『笑うんだよ、ほら』
 
 
こうやって。
イゾウはにぃと自身の口端を持ち上げた。
つられておずおずとアンもクリームの乗った口角を釣り上げると、てろりろりーんと間の抜ける音色が二人の間に流れた。
 
 
『…なに』
 
『マルコに送ってやろうかと思って』
 
『なにを?』
 
『何って、今の写真』
 
『今写真撮ったの!?』
 
 
身を乗り出して目を丸めるアンに、イゾウのほうこそ目を丸くした。
 
 
『…アン、携帯のカメラ使ったことねぇのか』
 
『携帯にカメラ付いてたんだねぇ…』
 
 
ねぇあたしのにもついてる、とアンは自分の携帯をイゾウに差し出した。
見るまでもなくついているのはもちろんで、イゾウはアンの世離れっぷりが尋常とは言い難い様子に、こりゃあほっとけねぇわなとひとりごちる。
 
 
『ついてるよ。ほらここ、レンズあんだろが』
 
『おおこれ…』
 
 
教えてやるよと手招けば、どこの子犬かと言いたくなる顔で寄ってきた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「で?」
 
「…でぇ…、サッチに渡してぇ、3人で喋っててぇ…」
 
「シュークリームで餌付けられたってわけかい」
 
 
ううん最初はクッキーだったと、マルコの言葉を訂正する気にはさすがにならなかった。
 
 
「ってなんでシュークリーム貰ったって知ってんの?」
 
「…イゾウの野郎が写真送ってきたよい」
 
 
そういってマルコがかざした携帯の画面には、口端にぽってりと白いクリームをのせて歪に口元を引きつらせるアンの顔。
 
 
「ったく言いつけてもききゃしねぇ…」
 
 
呆れと苛立ち(その半分はサッチとイゾウへだが)の混じった顔で携帯をたたむマルコに反して、アンはぱぁと顔を明るくし、しかもどこか誇らしげにねぇと呼びかけた。
 
 
「マルコ!携帯にカメラ付いてんの知ってた!?」
 
「ああ?」
 
 
当たり前、と口を開いたその矢先、パシャッと『シャッター音』というより人の『声』に近い音がマルコを遮った。
 
 
「へへー、『マルコ』」
 
「・・・てめぇ、」
 
 
瞬間的に湧き上がった苛立ちも、無邪気な顔に当てられてしまえば勢いも失ってしまう。
タチの悪いことこの上ねェとマルコは口の中で毒づいた。
 
 
「ったく、どんだけ喋りたくって来たってんだ」
 
 
結局一日つぶしやがって、と言う言葉にアンの心臓は跳ねる。
 
 
帰り際、イゾウに言われたのだ。
 
 
『今日モデルしたことは、しばらくマルコには内緒な』
 
『内緒?』
 
『まあしばらく、な』
 
 
意味ありげに口角を上げたイゾウに、アンはとりあえず頷いた。
内緒かぁ、ちゃんと内緒にできるかな、とアンがもやもやしていれば、唐突に伸びてきた長い中指の腹がするんとアンの頬を撫でた。
 
 
『約束、な』
 
 
切れ長の目が綺麗に弧を描いた。
 
 
『約束か!わかった!』
 
 
それでヨシと満足げに頷くイゾウに手を振って、アンは強くペダルを踏み込んだのだった。
 
 
 
 
 
 
 
(約束だし)
 
内緒の話、秘密のこと、はいやにドキドキして黙っているのは辛いものだけど、約束なら守らなきゃと、そんな信条染みたものを胸にアンは渋い顔のマルコを前にして「約束」にしっかりとふたをしたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
二週間後、イゾウの言っていた『しばらく』がようやく終わった。
 
その時お馴染みの部屋で子鳥をあしらった黄色い小鉢に植えられた観葉植物(それは部屋の主に似ていた)に水をやっていたアンは、突如耳に届いた不吉な音と水音に、慌ててそちらへと目をやった。
 
仕事机の前、いつもの席に腰掛けていたマルコは自身が吹いたコーヒーにまみれた右手を持て余し、視線を左手の雑誌へしっかりと注いでいた。
 
 
「うわっ、なにやってんのマルコ」
 
 
慌てて机に置かれたらしいコーヒーカップからは机の上に茶色い輪を作り、宙に浮いたままの手の先からも顎の先からもコーヒーはポツリポツリと滴ってマルコのズボンに茶色い円を描いていく。
しかし当の本人は口元を拭おうともせず、細い目を目いっぱい開いて雑誌を凝視している。
 
台所から布巾を手に取り戻ってきたアンが依然固まったままのマルコを不審に思いその視線の先を辿っていく。
そして、ぎゅあっと蛙が潰れたような声を出した。
 
 
 
「わ、あ、それ、その、」
 
「…なんでお前が載ってんだよい…」
 
 
布巾を取りこぼし意味もなくわたわたと手を動かすアンを見ることもなく、マルコの視線は雑誌の中、頬を赤らめて小ガモの置物を手に取る少女から外れない。
紛れもなく、アンである。
 
 
ちらりとかすめた思考はある意味『予想』で、それがマルコにとって嫌なものであるとしたら、そういう予想と言うのは大抵外れないものだ。
マルコはコーヒーに濡れた手のまま次のページをめくった。
 
 
右ページの右上一角には、日の光の差し込むリビング全体の写真。
そしてそこ以外には、あらゆる角度から移された部屋とともに映るあらゆる表情のアンの姿。
 
壁にかかる人形に手を伸ばしていたり、両手でぎゅうとクッションを抱きしめていたり。
今この家にあるものと同じ観葉植物を両手で包んだアンは、ページの中でもとびきりの笑顔だ。
 
 
 
 
 
「…どういうことだよい」
 
 
マルコは腰かける椅子から一歩も動きはしないのに、じりっと眉間のしわが、鋭い視線がアンに詰め寄った。
アンはひたすら視線を泳がせ逃げていたのだが、唐突につねられた頬の痛みに負けて、慌てて口を開いたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「そういうことかよい」
 
「ね、しょうがないでしょ」
 
「どこが」
 
 
丸められた雑誌が、とすっとアンの額を突いた。
そしてそのままねちっこく、ぐりぐりと押し付けられる。
 
 
「あだっ、だだだだ」
 
「渡したらすぐ帰ってこいってあんときさんざん言ったよな、それがくっちゃべってくるどころかまんまと餌につられてホイホイついてきやがって」
 
「つられたんじゃなくて、イゾウが困ってたんだもん」
 
「黙れ」
 
 
ぼふっ、と再び雑誌がアンの頭上で跳ねた。
 
理不尽だ、と漏らしたアンの呟きはマルコの人睨みに吸い込まれた。
 
 
 
「ていうかマルコなんでそんなに怒るの。撮られたのはあたしなのに」
 
 
 
む、と不満を口で表してアンがそう言うも、マルコは渋い顔のままアンから目を逸らす。
気に食わないものは気に食わないのだなんて、そんなアンでも言わないようなガキくさいこと口が裂けても言えない。
 
 
人目になんて触れさせたくない。
できることなら、ガラスケースなんて柄ではないから、せめてこの部屋の中だけに押し込めて自分だけの視線でアンを塗り固めたい。
そんな不毛で欲にまみれたことを口にするわけにはいかないので、こうしてアンに制裁を加え、自分は押し黙ることしかできないのだ。
 
 
 
 
 
マルコは不平不満を垂れ流すアンを無視して、溜息と共に何気なく雑誌を捲った。
パララ、と数枚のカラーページが流れていく。
だが不意に、マルコがその手の動きを止めてページを戻した。
 
 
「…おい」
 
「なに」
 
 
まだなんか文句あんのと言いたげな視線を送ると、マルコはちらりとアンを仰ぎ見て、再び雑誌に視線を戻した。
 
 
 
「髪、」
 
「髪?」
 
 
アンはマルコの手元を覗き込み、ああそれ!と手を打った。
 
 
「イゾウがね、いっぺん付けてみろっていうから!長いの付けてみた!」
 
 
こう、首のあたりがもぞもぞってこそばかったんだけど、ふわふわして結構楽しかったー、とアンは首筋の自分の髪を指先で遊ばせた。
 
 
アンがメインのコーナーとは別に組まれた、1ページのみの特集。
胸から上のみが大きく映されたアンの姿。
ただ実際の姿と違うのは、ゆるくウェーブがかかり艶を放つ黒髪が胸のあたりまで伸びていること。
 
 
小さな、細い緑色の葉を覗かせる小鉢をその手に掲げ、それに頬を寄せてくしゃりと笑っている。
綺麗な笑顔ではない。
ポーズ自体先ほどの特集ページと違って造られた風はあったけど、どの写真よりもとびきりの、アンらしい笑顔だ。
 
 
 
「長いのもね、あんまり邪魔じゃなかったら伸ばすのもいいかな、なんて」
 
「・・・」
 
 
冗談じゃねェよい、とは言えなかったので返事はしなかった。
見慣れないからだろうが、心臓に悪いことこの上ない。
お前はオレをどうしたいんだと舌の先まで出かかった言葉を何とかして押し戻す。
 
 
 
 
「…これ」
 
「? ああそれ?」
 
「あれだろい」
 
「そうそう!」
 
 
 
 
マルコが交互に指差した「それ」を、アンは顔を綻ばせて手に取った。
 
 
「これすっごい気に入って、そったらイゾウがこの子と一緒に撮ってやるって。絶対自分で買おうとも思ってたんだー」
 
「なんでまた」
 
「だってほら」
 
 
 
黄色い小鉢を、アンはマルコの顔のすぐ横に並べて見せた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「マルコにそっくりなんだもん!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
fin.
 
 
 
 
 
 











 
(おまけ)
 
 
 
『おうマルコ』
 
『てめぇよくも好き放題やりやがって』
 
『ああん、所有者の印鑑でも要ったか』
 
『・・・ふざけたもんまで送り付けやがって』
 
『おう、それいいだろ。アンの原寸大パネル。一番イイ顏選んだつもりだぜ』
 
『オレにこれをどうしろってんだよい』
 
『さあ。部屋ン中にでも飾りゃあいいだろうが』
 
『できるか』
 
『とか言って、返せっつっても返さねぇくせに』
 
『・・・はんっ』
 
『まあ宝箱にでも大事にとっとけよ』
 
『ほっとけ』
 
『・・・抜くなよ?』
 
『死ね!!』
 
 

 

拍手[22回]

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白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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