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※ごまあえブログで妄想していた不倫ネタです。
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雪が溶ける。春が来る。
春が、来てしまう。
立春
その日はアンの部屋でささやかなパーティーともいえぬパーティーをした。
参加者は二人きり。
オーブンで焼くだけのピザにスーパーで買ったシャンパン、そしてマルコが帰り際にわかに用意したケーキが小さな食卓を彩った。
マルコがグラスにシャンパンを注ぎその気泡がシュワシュワと上り詰めていく様にアンはぼうっと見入った。
「マルコッ、あたしもあたしも」
アンが自分のグラスを差し出してせがんでも、マルコはアホ、という言葉と共に瓶に栓をする。
「ちぇっ、こんなときまで『先生』すんの」
「高校生のうちは駄目だよい」
どこか的外れなその答えにアンが笑うとマルコも薄らと笑った。
シャンパンとジンジャーエールのグラスをぶつけて乾杯した。
「内定おめでとう」
「へへっ、マルコが推薦入れてくれたからだもん」
「それだけじゃねぇだろい」
労わるような、それでいて慈しむような視線に照れてアンは俯いた。
「これでもう卒業一直線だねい」
「あ、うん…あと一か月…」
「春の一か月なんてあっという間だよい」
「まだこんなに寒いのに」
「暦の上じゃもう春だよい」
立春ってあるだろい、とマルコが一通り立春と節分について説明するのをアンは聞くともなしに聞いていたのだが、やはり心はずっと別のところにあった。
卒業すれば、アンはマルコの生徒ではなくなる。
二人の間柄にしつこく絡み付いていた枷が外れるようでそれはすごく喜ばしい。
今更歳の差なんて気にすることでもないので、ただの男と女として付き合うことができる。
しかしアンの卒業はそれだけではない。
アンが高校からいなくなる。
マルコは残る。
二人の生活圏がずれるということが何を意味するか、アンはよくわかっているつもりだ。
普通の恋人なら当たり前のことに手が出ない。
手を伸ばしてはいけないのだと、思う。
「アン?」
なにボーっとしてんだいと怪訝な顔をされて、アンは慌ててなんでもないと首を振った。
「マルコが難しい話するんだもん」
「おま、どこが難しい話だよい」
呆れるマルコにアンはへへっと笑ってグラスに口づけた。
明るく、明るくと自分に言い聞かせて。
春が来る話なんてしないで。
*
それでも無情に時は流れた。
雪は水になり側溝へ流れ、足元を濡らす。
近所のおばあさんが芽吹いた梅の花を愛でる。
アンはあと一週間で卒業する。
マルコがアンの家に来て、同じ時を過ごすとき、今日はいつ帰るのと尋ねるたびに胸の中に落ちるしこりは大きくなった。
これ以上大きくなって、胸がいっぱいになって苦しくなったら、あたしはどうすればいいの。
「今日は十時までしかいられねェよい」
ごめんな、と頭の上に落ちる手を受け止めて、そう、となんでもないように呟いた。
マルコはネクタイを緩めて上着を脱いで狭い室内に座り、アンを手招く。
アンは慣れた仕草でマルコの脚の間に収まった。
背中を厚い胸板に預けて今日あったこと、互いが知らない互いのことを話していく。
二人分の衣服によって隔てられるほんのわずかな距離がもどかしい。
しかしそれは服を脱いで肌を重ねたところで同じだった。
皮一枚、この皮膚までもがマルコと触れ合うことを妨げる。
アンは体を反転させて、マルコの首元に鼻先を摺り寄せた。
いくらこの部屋でネクタイを外しても、上着を脱いでも、マルコは日も変わらぬうちにまたそれらを身に纏い出て行ってしまう。
今度こそ本当に帰るために。
帰りを待つ人のもとに帰って、また同じようにネクタイを外し上着を脱いで次はそれをクローゼットへ掛けるのだろう。
なんでもない日常が泣きたくなるほどうらやましい。
マルコは身を寄せてきたアンに黙ったまま腕を回した。
このまま溶けて一つになって苔むして誰にも思い出されない、そんな存在になってもいいからどうかこのままでと、口に出すことのない思いをのせてアンの髪に口づけた。
しかしそれでいいわけがないと口をはさむ理性がどこまでも邪魔をする。
マルコはアンの頭を両手で挟むように包んでキスをした。
顔を持ち上げるふりをしてアンの耳を塞いだ。
どうかアンには聞こえないように。
この恋の終わりが近づく足音が、聞こえないように。
*
教室はシャッター音の嵐だった。
最後だからクラス全員でと言われクラス写真を撮り、数人の友人に誘われて曖昧な笑顔でピースを向ける。
そしてまだまだ写真と寄せ書きに終わりの見えない教室からアンは静かに抜け出した。
昇降口まで歩く廊下で覚えのない男子に呼び止められ、ずっと好きだったと言われた。
靴箱の前では同じクラスの男子が追いかけてきて、同じように告白された。
あぁそうなんだ、とそのような返事をすれば、相手はその返事を予想していたかのように苦笑して、何を求めるでもなく去って行った。
卒業式ってこういうこともあるんだ。
コンクリートの三和土にローファーを放り投げるようにおろしてつま先を突っ込んだ。
「アン」
振り返ると、いつもよりきっちり固くスーツを身に着けたマルコがポケットに手を突っ込んだまま立っている。
「マル…コ、せんせ」
「もう帰んのかい」
「だっていてもすることないし」
相変わらず淡白な奴だよい、とマルコは特に可笑しくもなさそうに笑った。
「時間あるかい」
*
埃っぽいその部屋は、西向きの窓から差し込む光でぼんやりと白んでいた。
木造の棚にずらりと書物が並んでいるが、やはりどれも埃をかぶっている。
ここだけぽっかり時の流れから抜け落ちてしまったみたいな部屋だった。
「何の部屋?」
「数学科準備室」
「聞いたことないよ」
「先生らすら使わねぇからな。オレが鍵預かってて、一人になりたいときとかにここでコーヒー飲んでる」
サボりじゃんと笑うと、マルコも笑いながら2脚のパイプ椅子を奥から引っ張り出してきた。
「ん」
スーツのポケットからまだ熱い缶コーヒーを差し出す。
それを受け取って、乾杯した。
二人は向かい合って座った。
「卒業おめでとう」
マルコがゆっくりと笑う。
アンは黙ってうなずいた。
「早ェな」
「…三年長かったよ」
「オレくらいの歳の奴があっという間に成長しちまうガキといると、早く感じんだよい」
ふうん、と手の中の缶を両手で包みなおした。
っていうか、とマルコは言い直す。
「早いっていうより、速い、だな。early じゃなくてfast 」
「…?」
マルコは心底呆れたように口を開き、向かい合ったアンの手を取るとその手のひらに漢字で『早』と『速』を書いた。
「…どう違うの?」
「こっち、『早い』のほうは、卒業にはまだ『早い』とかの『早い』。で、こっちが、3年経つのが『速』かった、の『速い』」
「…また難しいこと言う」
難しくなんかねぇだろい、とまた呆れられるかと思ったが、マルコはそうだなと簡単に引き下がった。
マルコは缶を持つのとは逆の手で、漢字を書いたアンの手を取ったまま斜め左を仰いで窓の外に目をやった。
「…アン、お前一年の時の後半オレが数学持ってたの知らなかったろい」
「は?マルコが?あたしの?ウッソ」
「最初から最後まで寝てたし、中庭であったときオレのことしらねぇみたいな顔してやがったからそんなこったろうと思ってたよい」
「…そう、だっけ」
確かに思い返してみても、一年のころの数学の教師の顔は思い浮かばない。ついでに2年の時も。
つまりはぶっ通して寝ていたのだろう。
「起立礼が終わった瞬間から寝てチャイムが鳴ったら図ったように起きるから、妙な奴がいるもんだと思ってたんだよい」
「…へへ」
ごまかすように笑うと、マルコは俯いたがその顔は笑っていた。
長く節くれだった親指が、ゆっくりとアンの手の甲を撫でる。
「…じゃあマルコは、あのとき、中庭であったときからあたしのこと、」
「…知ってたよい」
ふうん、と鼻から抜けるような声が出た。
どうしよう、うれしい。
窓の外、校庭のほうが徐々に騒がしくなってきた。
写真も寄せ書きも堪能した卒業生たちが少しずつ帰り始めているのだろう。
アンもマルコもほぼ同時に、窓の外、薄い青に伸びる空を見た。
「…マルコ」
マルコはゆっくりと、アンを振り返った。
相変わらずマルコの親指はアンの手の甲を撫でている。
大きな手のひらの上でアンの手は不格好に固まったままだ。
話そうと口を開いても、出てくるのは声ではなく形にならない吐息だけで、アンは何度も浅い呼吸を繰り返した。
それをごまかすように、俯きがちになんども瞬きをする。
マルコはじっと、アンの手を緩く握ったまま待った。
「もう、会えないね」
もう、が震えてしまった。
会えないね、は呼気に交じった音になった。
そっと目の前の顔を見上げると、マルコの視線はアンの手、繋がった二人の手に落ちていた。
そんなことないと、マルコが言わないのはわかっていた。
それでもやっぱり少し悲しい。
もう限界だった。
人目を避けて、日の光の下も歩けず、帰りの時間ばかりを気にして、しあわせの余韻に浸る余裕もなく、決して手に入れることのできないひとと期待の出来ない約束をして逢瀬が終わる。
ふたりに未来はなかった。
「アン…」
「あたしが生まれてくるの、遅かったから、っていうか、遅すぎたから」
しょうがないよねえ、と笑ったのにマルコはすぐにアンの笑顔から目を逸らした。
手の甲を撫でる親指の動きはもう止まっていた。
代わりにぎゅっと握られる。
「これ」
アンは缶コーヒーを3本の指で握り、缶を握るマルコの薬指を指差した。
「あたしこれ大っ嫌い」
マルコの指に収まっているシルバーは、反抗するように日の光を反射した。
アンは黙ったままのマルコに、にいっと笑いかける。
「ねぇマルコ、これ捨てて、別れて?」
マルコはぼんやりと、アンを見つめた。
世の中には捨てられないものがありすぎて、大切なものがありすぎて、そのせいで何かを失うときがどうしてもやってくる。
けど決してそれは欲張りだからとかではなくて、そういうふうに、世界はできているのだ。
そうでなければならない。
それがどれだけ悲しくても。
「なんて、ね」
アンはぎゅっと缶コーヒーを握りなおした。
それと同時に、マルコの手に握りこまれていた逆の手を引き抜いた。
「お腹すいちゃった、もう帰ろっと」
コーヒーありがと、とアンは腰を上げた。
パイプ椅子が反動で軋んだ。
「アン」
「なーにー?」
勤めを終えようとしているスクールバックを肩にかけたアンはマルコに背を向けて返事をした。
「お前は強いよい」
アンの肩がきゅっと、ほんの少し、普通ならわからない程度すぼんだ。
マルコがどんな顔をしているのかアンにはわからない。
「オレは弱くて、ごめんな」
仕事、頑張れよい。
その言葉にアンは背中越しに頷いて、歩いて狭い教室を出た。
後ろ手で扉を閉めた。
気づいたら走り出していた。
空っぽのカバンの中で卒業証書の筒が跳ねる。
昇降口は帰りラッシュで混んでいて、アンは盛大に別れを惜しみあう卒業生の中に交じって靴を履いた。
外に出ると一瞬強い風が吹いて砂塵が舞った。
しかしそれはもう肌を刺さない。
春が来ていた。
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麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。
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足りん
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