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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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「おいこれ誰かオヤジんとこに」
 
 
持って行ってくれよ、という言葉は、かすめとられた書類が風を切る音に邪魔されて続かず、ことばの尻はぽとりとどこか下の方に落ちた。
 
 
「あたしが行く!」
 
 
書類を掴んだアンは、既にシャツの裾を翻らせて駆け出していた。
ブーツが床を叩く音は、太鼓のように高らかにその場に響く。
書類を手にしていたクルーと、その周りにいた数人は一瞬ぽかんとその後ろ姿を眺めるが、すぐに小さくなっていく黄色いシャツの背中に向かって朗らかな笑い声を上げた。
 
 
 
 

 
 
「オヤジっ」
 
 
船長室にぴょこりと顔を出すと、白ひげはいつものベッドの上で少し不機嫌そうに眉根を寄せて上体を起こしていた。
不機嫌の理由はその巨体から伸びる2,3本のチューブらしいと、パッと見ただけで簡単にわかる。
昨日は検診の日だった。
しかし白ひげはアンを捉えると、くいと眉と口角を上げて応える。
 
 
「おうアン、えらくご機嫌じゃねぇか」
「オヤジは、その、つまんなさそうだね」
「見ての通りだ」
 
 
こんな面白くないことはねぇ、と白ひげは大きく鼻を鳴らした。
その姿に苦笑しながらどこどこどこっとブーツの重い音を鳴らして白ひげに近づく。
白ひげのための大きなベッドはアンの身長3つ分くらいあるので、ドアから枕元まで非常に遠い。
さらに床の上に立つアンから、ベッドの上に腰かける白ひげの顔までもこれまた遠い。
アンは零れそうになるため息を飲み込んで、白ひげを見上げた。
憂鬱なため息ではない。感嘆の、ため息だ。
 
 
「これっ、オヤジにって、書類」
「あァ」
 
 
白ひげは薄黄色のチューブを嫌なものを見る目で一瞥してから、それを鬱陶しそうによけてアンに手を伸ばした。
アンから書類を受け取った手は、そのままアンの頭上へと伸ばされる。
 
 
「ありがとな、アン」
 
 
アンの頭なんぞすっぽりと包みこんでしまえるほど大きな手のひらが、アンに影を作りながらぽんぽんと軽くアンを撫でた。
同時に書類がガサガサと鳴る。
白ひげの手が離れると、アンは両手を後ろに回してもじもじと後ずさりした。
下唇を軽く噛んで、赤く頬を染めながらはにかむアンの姿は唯一このときしか見られない。
 
 
「あ、あたし今から、用事、ある」
「あァ、行ってきな」
 
 
こくこくっと頷いたアンは、最後に白ひげの顔をちらりと仰ぎ見て、一瞬交わった視線を大事そうにゆっくりと外してから、一目散に駆け出して部屋を後にした。
 
顔が熱い。息が上がる。
アンは目的の場所、医務室へと走りながら頬に手を当てた。
すれ違う隊員たちが、訝しげにアンを振り返る。
 
ああ、今日もオヤジがかっこいい!!
 
 
 
 
 

 
 
「もったいない」と数人の船医は何度も零したが、船医長である老人は黙って施術の準備を始めた。
彼はおそらく白ひげと同じくらい、もしくはそれ以上の年配のように見える。
年季の点で言えばこれ以上に信頼できる医者はいない。
本当にいいのかと何度も念押しする彼らを一喝して黙らせたのも彼だった。
 
 
「そこにうつぶせで寝ろ」
「なあ、背中じゃなくてもいいんじゃないか。その、反対の腕とか…首とか」
「うっさいなあ、いいの背中が」
 
 
アンはおもむろにシャツを脱ぎ捨てると、言われた通りのベッドにうつ伏せになった。
ベッドというより木のテーブルに薄いクッションとシーツを引いただけのような代物で、固い。
アンはドキドキと高揚する胸を自分の身体で圧迫して押さえつけた。
そうすると、余計に鼓動が内側で響く。
 
 
「それで、マークはどれにするんじゃ」
「え?みんなと同じの」
「みんなと同じっつったっていろいろあるんだよ、ホラ」
 
 
その場にいる船医たちは、それぞれ腹やら肩やらの服を捲りそのしるしをさらした。
なるほど、たしかに一種類ではない。
アンはひとりの船医の肩を指さして、それって、と呟いた。
 
 
「一緒だ、あの…一番隊の」
「ああ、マルコ隊長の?そうだぜ」
 
 
ふーん、と鼻を鳴らした。
交わる十字はおそらくどくろとぶっちがいを模したもの。U字に反り返ったしるしはいわずもがな。
抽象的なしるしもいいけれど、もっとはっきりと白ひげを示すものがいいと思った。
マルコの胸にあるあの目立つマークはマルコにしっかり馴染んでいるけど、それはマルコだからのような気がした。
ああそうだとアンは顔を上げる。
 
 
「オヤジは、しるし入れてないの」
「オヤジ?もちろんいれてるぜ、背中にでっかくどどーんとな」
「ああ、ありゃあ格好いい、壮観だ」
「どのマーク?」
「旗と一緒のだ」
 
 
アンはメインマストの上で風に翻るどくろを頭に浮かべた。
特徴的な白いひげと、その下で不敵に笑う口元がまさしくオヤジそのものだ。
アンはバタバタと両手足を動かして「それ!」と叫んだ。
 
 
「あたしもオヤジと同じの彫って!」
「あのどくろか?」
「そう!まったく一緒のな!」
「しかしありゃあ細けぇから痛みも長ぇぞ」
 
 
そんなのいいから、とアンはもどかしさに歯噛みしながら訴えた。はやく、はやくと白い背中をさらしている。
船医の老人はため息とともに、ガーゼに消毒液を垂らした。
とたんにツンとするどい匂いが充満する。
他の船医たちはしぶしぶといった顔で器具の消毒を始めた。
 
 
「これじゃな」
 
 
わくわくと弾む胸に自然と顔がほころんでいたアンの前に、ピッと一枚の紙が示された。
たしかに、海賊旗と同じどくろ。
アンは大きくうなずいた。
背中にひやりとした感触があって、絵を転写するための紙が貼られる。
アンは顎の下に置いた両手に顔を伏せて、緩む口元を隠す。
ぺらりと紙がはがれる音がした。
彫るのは手練れの老船医で、いる必要のない他の船医たちは遠巻きにうつ伏せのアンを見守っている。
怪我人が出ないただの航海中、船医というのは暇なものらしいとアンはこっそり思った。
いれるぞ、とドスの聞いた老船医の声にアンはまた大きくうなずく。
途端に、火の粉が一点集中したような熱い痛みが右の肩甲骨の下あたりを貫いた。
痛みを逃がすために浅い息を繰り返しながら、アンは嬉しくてシーツを強く握った
 
 
 
 
 

 
指にインクのにおいが染みつくほどの長い時間、それも強く、島の地図を手にしてしかめ面を継続させていたマルコのもとにノックの音が届いた。
遅い昼食の知らせだ。
この場合遅いのは昼食の準備ではなく食堂に赴くマルコのほうで、いつまでたってもやってこない一番隊隊長を案じてクルーが呼びに来るのだ。
そうでもしないとマルコは一食だろうと二食だろうと平気で抜く。
マルコは手にした地図が表す島にすっかり飛んでしまっていた意識を、ノック音で引っ張り戻された気がしてしばらく呆然とした。
机に向かって斜め右前にある四角い窓に目をやると、白い大きな鳥が呑気に横切ったところだった。
昼から夜になるのであれば明るさで時間の経過がわかるが、朝から昼になるのは同じ時間の経過でもまったくわからない。
自分はどれだけの間ここに座っていたのだろうと、どうでもいいことを考えながらマルコはメガネをはずした。
そういえば腹が鳴る。
時計を確認して、マルコは立ち上がった。
ドアの方へ歩きかけて、そう言えば新入りの書類に手を入れたのだったと思いだしてそれを取りに踵を返す。
隊長のいない2番隊は、『全員が交代でその日の日記のように』というのを自分たちで決めて報告書を書いている。
昨日は、まわりまわって新入りが初めてその報告書を書いたのだった。
 
「活動内容」
「朝めし、そうじ、ひるね、昼めし、やすみ、手合せ(4番隊)、ひるね、姉さんの手伝い、ひるね(すぐサッチに起こされたので10分)、晩めし、これを書く、ふろ(予定)、ねる(予定)」
 
全員が交代制で書くのだから、個性が出るのはわかる。
だがこれは出すぎだ。
「消耗品」の欄に、「甲板の後ろの方」という文字と、少し小さめに書かれた「ごめん」。
マルコが後甲板に確かめに行くと、既に補修されていたが大きくへこんだ跡があった。
やっぱり2番隊にも隊長が必要だろうかと思ったが、それはオヤジの采配に寄るのでマルコがどうすることでもない。
 
 
 
 
 
開きっぱなしの扉をくぐると、食べ物と男のちゃんぽんのような匂いの食堂の中はすでに人もまばら、非番のクルーが食後の一服をふかしている姿がぽつぽつとみられる。
厨房のカウンターへ歩いていくと、奥からサッチが遅いだの呼ばれる前に来いだの口うるさく叫んでいた。
そして、一番右端のテーブルに突っ伏した黒い頭を見つけて、ぎょっとした。
思わず足が止まる。
マルコの視線の先に気付いてサッチが苦笑した気配が伝わった。
 
 
「…なんであいつ裸なんだよい」
「やー、残念ながら素っ裸ではねぇよ」
 
 
むき出しの肩につながる薄っぺらい手はフォークを握ったままだ。
おそらく飯の乗ったままだろう皿に顔面を突っ込んだアンの姿はもう見慣れたもので、船の上では笑いの種になっているし、マルコも気が向けば頭をはたいて起こす程度だ。
しかしだな、とマルコがざらつく顎に手をやったそのときアンはがばりと顔をあげた。
 
 
「ああ、寝てた」
 
 
睫毛の上に米粒をのせたままアンはぱちぱちと数回瞬きをして、近くにあった布巾で顔を一度拭う。
そして何事もなかったかのように食事を開始した。
アンはすっかり気を抜いて、斜め前に立ってアンを凝視するマルコの視線には気付かない。
そしてマルコは、サッチが「素っ裸ではない」と言った意味を飲み込んだ。
なるほど、いつも着ているシャツを羽織っていないだけで、水着のようにも下着のようにも見える心もとない布を胸元にくっつけていた。
しかし、なぜ。
 
 
「おいマルコさんや、見過ぎ」
 
 
サッチの呆れた声にハッとして、それから的を得たその言葉に幾分ムッとしながらカウンターの上に置かれた自分の昼食を手に取った。
目に嬉しい格好をした年若い娘を見つめるなら鼻の下の一つでも伸びているべきだろうが、マルコの頭は「シャツはどうした」に支配されているので怪訝な顔になるだけだ。
マルコは皿を手にアンの向かいに座った。
 
 
「…ども」
 
 
マルコに気付いて、随分控えめな挨拶をする。
アンは上目遣いにマルコをうかがいながらマグカップの中身をすすった。コーンスープ。
マルコの昼食には付いていないところを見ると、コックの誰かがアンに貢いだものと思われる。
 
 
「今日はそんなに暑いかよい」
「は?」
「シャツ」
 
 
言外に「なぜ着ていない」という意味を含めたつもりだったが、何故かアンは途端に目を輝かせた。
ドン、と音を立ててマグを置く。
 
 
「じゃんっ」
 
 
跳ねるように立ち上がったアンは、机を挟みマルコの前でくるんと背中をさらして見せた。
幾つもの死線をくぐり抜け、偉大なる航路の後半の海の上で、それも世界最強とうたわれる男の下についてこの歳になり、もう驚くこともそうそうなかろうと高をくくっていたマルコは、眼前の背中に目を丸めた。
アンの背中でオヤジが不敵に笑っている。
 
 
「…こりゃぁまた」
 
 
でかく彫ったねい、とだけ言うと、アンはマルコの反応が不満だったのか少し口を尖らせた。
しかしすぐにいひひと笑う。
 
 
「いいねぇ、アン。それでこそ白ひげ海賊団って感じ」
 
 
サッチがおだてるように遠くから声をかけるとアンは素直にうれしそうな顔をした。
なるほど、だからシャツを脱いでいるわけか。
アンは限界まで首をひねって自らの背中を見下ろした。
緩くS字を描く腰のカーブが際立つ。
 
 
「昨日の朝彫ってもらって、昨日はずっとガーゼ貼ってたから今日がお披露目なんだ」
 
 
背中に大きく描かれた刺青を、宝物を自慢する子供のようにマルコに見せつける。
ここのところアンを笑わせるのは、いつだってオヤジだ。
 
 
「似合ってるよい」
 
 
そう口にすると、アンは少し驚いた顔を見せてマルコを見た。
そして変に口元を引き結んだ顔で再び椅子に腰を下ろす。
にやけてしまいそうな顔を引き締めるときのアンの常套手段だ。効果はゼロに等しい、ばれている。
 
 
「だが明日は上、羽織ってから降りろよい」
「なんで」
 
 
アンと視線を交わさず昼食のピラフを口に運ぶ。
目の前のアンが一気に不機嫌になったのが手に取るようにわかった。
 
 
「あたしもう上は着ないって決めた」
「男前な意気込みは船の上だけにしとけよい、明日は駄目だ」
 
 
む、と眉を寄せて反駁の声を上げようとしたアンは、途中でどこか引っかかったのか口を開いたまま、ん? と首を傾けた。
 
 
「…あした?降りるってどこに?」
 
 
気の抜けるアンの問いにガクッと目には見えない肩を落とし、アホウとたしなめた。
 
 
「昨日の夜、お前が報告書持ってきたときに言っただろい。明日は上陸だよい。寄港するから準備しとけっつったろい」
 
 
気付けば子供を叱るような声を出していた。
子供を叱ったことなんかないので実際のところ分からないが、その時はきっとこんな声が出る気がする。
基本、立ち回り的に叱る側の位置が多いマルコだが、他の隊員をたしなめるのとはどこか勝手が違った。それがどこかはわからない。
しかし叱られている当のアンには叱られているという自覚はてんでないらしく、のんきに「そうだっけ?」と首をかしげた。
 
 
「準備って、なにすればいいの?」
 
 
それも昨日言っただろうがこのバカタレがと、サッチあたりを叱るときのお決まりのセリフが飛び出しかけたが、それもこの娘には何の効果もない気がして思いとどまった。
エネルギーは大切に。
 
 
「…お前さんたちゃあ、身ひとつで白ひげに加わっただろうが。だから明日の島では自分の服やら身の回りのものやらを揃えるんだよい。部屋もからっぽだろい」
 
 
何がいるかわかんねぇならナースたちに聞きゃあいい、と昨日とまるで同じセリフを口にした。
「ああなるほど」とアンが昨日と同じようにうなずく。
 
 
「刺青を隠せとは言わねぇ。だがそんなデカデカと主張してわざわざ一般人を刺激すんのは考えモンだってことだよい」
 
 
だから明日はシャツを羽織れ。
しばし考えるように口をすぼめて両目を真ん中に寄せていたアンは、しかし神妙にわかったという。
刺激も何も、どうアングル変えても一般人には見えない輩ばかりの中で今更、という気もしたが口にはせず頷いた。
 
 
「じゃ、早速ねーさんたちのとこ行ってくる」
「ああそうしろ」
 
 
ガタゴト、騒々しく椅子を鳴らして立ち上がったアンは綺麗になった皿をカウンターまで運びサッチに声をかける。
 
うまかったありがとー。
はいよ、おそまつさん。
 
カウンターから踵を返したアンは、マルコの方を振り返らずに一直線に出口へと歩いていく。
歩幅は大きく、重そうなブーツが床を叩く。
扉の少し手前でアンは背中に垂らしていたテンガロンハットを掬い上げて小さな頭に深くかぶせた。
白く、背骨のラインがくっきりとわかる背中の上で白ひげが笑っている。
マルコの胸の刺青が、さわりと疼いた気がした。




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白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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