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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です

【わがままな男】
 
 
港町というのは魚市場が多く、ゆえに集まる動物は決まっている。
今回麦わらの一味が停泊した街も、絶えずどこからか猫の鳴き声が聞こえていた。
しかしいざログもたまったさあ今夜出航だというその時になって、その鳴き声が彼らの足を引っ張った。
悪いのは猫ではなく彼らの船長である。
ルフィは両手のひらで囲うように黒い毛玉を抱いて船に登った。
 
 
「ダメよ」
 
 
ぴしゃりとナミの声がルフィの嘆願を断ち切った。
 
 
「なんでだよ!」
「当たり前でしょう、動物なんて飼えるわけないわ。エサ代だってバカにならないし…それにいったい誰が世話するのよ。敵襲だってあるのに」
「オレが全部面倒見るぞ!」
「子供はみんなそういうの。さ、早くもといたところに返してきなさい」
 
 
ナミはそれっきりふいとルフィに背を向けて、雲行きを読みに甲板先へと歩いて行った。
ルフィはむっと顔をしかめて、手の中の毛玉を見下ろした。
ルフィの足元でチョッパーが飛び跳ねた。
 
 
「ルフィっ、おれにも見せてくれっ!」
「おぉ、ほら」
 
 
ルフィがしゃがみこんで手の中の毛玉をチョッパーの眼前に示す。
にう、と小さく鳴いたそれはルフィの手の中でもぞもぞと動いて、ぴくんと小さな耳を震わせた。
 
 
「小さいなー…ルフィ、この猫まだ赤ん坊だ!」
「近くに親いなかったんだ。はぐれたのかもしれねぇ。なんか言ってねぇか?腹へったとか」
 
 
チョッパーは小さな黒猫に顔を寄せて耳をそばだたせた。
しばらくのあいだそうしていたが、んん?と唸って首を横に振る。
 
 
「まだ赤ん坊すぎるのかなあ、何言ってるのか全然わかんなかった。でもこんな仔猫だし、腹は減ってるかも」
「そうか!」
 
 
ルフィはパッと顔を明るくすると、きょろりと辺りを見渡してナミの隣でしきりと腰をくねらせているサンジを呼んだ。
 
 
「サンジ!この猫になんか食うもんやってくれよ!」
「あぁ?猫?」
「ちょ、ダメよサンジくん!餌付けたりしたら離れなくなっちゃうわ!」
「いいじゃねぇか、なぁー?」
 
 
ルフィは手の中の猫を危なっかしい手つきで甲板の上にそっと下した。
猫はぽろんと転がるように甲板に尻もちをついてから、ふにゃふにゃとした足取りで立ち上がった。
 
 
「あ」
「あ」
「あ」
 
 
その場にいる3人が同時にまぬけな声を上げた。
とてとてと歩き出した仔猫には、左の後ろ脚がなかった。
 
 
 
【冷たい女】
 
 
「ちょっと、この猫足が」
「ルフィ気付かなかったのか?」
「丸くなってんの拾ってきたから、全然気づかなかった。でもすげぇ、ちゃんと歩いてる!」
「へぇ、可愛いもんだな」
 
 
3本足の猫はサンジの足元へと歩み寄り、何人もの輩を弾き飛ばした黒い足にすいと顔を寄せた。
サンジはすっとしゃがみこんで猫の小さな顎の下を指で擦る。
するとノラとは思えない人懐っこさで、仔猫はその指に頬を擦りつけた。
サンジの頬は知らずと緩む。
それを見て、ルフィは満足げにうなずきナミはさらに顔を険しくした。
 
 
「よし、やっぱこの猫飼うぞ!」
「バカルフィ、ダメって言ったでしょう!?」
「じゃあメシだけいっぱい置いてってやる!」
「懐かれたら困るじゃない!」
「でもナミさん、」
「サンジくんも!飼えるわけじゃないんだから餌なんかやっちゃダメ!だいたい親がいたかもしれないんだから、ノラ猫なんか拾ってきたらいけないのよ」
 
 
サンジはう、と言葉に詰まって眉を下げたままナミを見上げた。
ルフィがフンと鼻息を荒くして仔猫を掬い上げた。
 
 
「ナミはケチだ!つめてぇ!オレはこの猫にメシをやる!」
 
 
ナミはルフィをキッと睨みつけると、ルフィと同じようにフンと息をついて顔を背けた。
 
 
「勝手にしなさい!」
 
 
ぷりぷりと湯気を立てながら、ナミは船室の中に足音高く入っていった。
ドアが荒々しい音を立てて、甲板の床が少し震えた。
 
 
 
【見境のない男】
 
 
「あぁー、ナミさぁん…」
 
 
サンジが情けない声で、ぴっちりしまったドアの向こうへ呼びかける。
そしてはぁと浅いため息をついてズボンのポケットからお決まりの精神安定剤とマッチを取り出し、火をつけた。
 
 
「むやみにナミさん怒らせるようなこと言うんじゃねぇよ」
「オレは悪くねぇ!サンジ、コイツの飯作ってくれよ!」
「あーあー、分かってるよちょっと待ってろクソザル」
 
 
よし!と素直に笑ったルフィは、手の中の仔猫を高く持ち上げて見せた。
黒い毛はノラらしくぼさぼさと毛羽立っていた。
 
 
「じゃあ今からお前のエサ入れ、ウソップかフランキーにでも作ってもらうか!」
「オ、オレもいくぞ!」
「おいちょっと待て、そんな仔猫べたべた触るもんじゃねぇ。人間の力なんざそんなちびた猫にとっちゃあすげぇ衝撃なんだぞ」
「お、そうなのか」
 
 
ルフィは慌てておたおたと仔猫を床に下ろした。
仔猫はのんきにあくびをし、ぱちぱちと黄色い目をしばたかせている。
 
 
「んじゃあおれらがウソップたちのところ行ってる間、コイツのこと任せたぞ!」
「は?」
「よしチョッパー行くぞ!」
「おー!」
「おい、ちょっと待っ」
 
 
サンジの続く言葉は、さっさと駆け出してしまった二人の背中に届くことなくぽとんとそのまま床に落ちた。
仔猫がみうみうと高い声で鳴く。
それがまるで自分を呼んでいるように聞こえて、サンジはため息とともに仔猫をそっと掬い上げた。
 
 
 
食堂の扉を開けると、テーブルにはナミが座っていたので一瞬足を止めてしまった。
それに目ざとく目を止めたナミは、何よと剣呑な声で聞く。
サンジは苦笑でごまかした。
片手に問題の仔猫を持っているのが何とも気まずい。
 
 
「いやあ、ナミさん部屋戻ったのかと思って」
「いいでしょ別に。喉乾いたの」
「すぐに何かお作りしますっ」
 
 
サンジはせかせかと歩いて、食堂の隅にあったじゃがいもの空き箱に仔猫を入れた。
しばらくここにいなおちびさんと小声で言いつけると、応えるように猫が鳴く。
サンジはすぐさまナミのためにみかんを絞りにかかった。
 
絞りたてのオレンジスカッシュを差し出すと、ナミは小さくありがとうと言って受け取る。
ナミのほうも幾分気まずそうな顔つきである。
その様子に少しほっとしながら、サンジは小皿にミルクを注いだ。
それをじゃがいもの空き箱の中に置くサンジの横顔を、ナミは小さく音を立てて冷たい飲み物をすすりながら眺めた。
 
 
「…サンジくんが猫好きなんて知らなかったわ」
「へ?や、別にそういうわけでもないんだけど」
「お腹すかせてたら放っておけないって?」
 
 
サンジは困ったように眉を下げて笑った。
 
 
「…ほんっと、デレデレしちゃって…」
「なに、ナミさん妬いた?」
「調子にのんじゃないわよバカ」
 
 
それでもサンジはデヘデヘとだらしなく目元を緩めて、そうかそうかと満足げにうなずきながら仔猫を撫でる。
ナミが否定する気も失せてため息をついたとき、食堂の扉が開いた。
 
 
 
【苦手な男】
 
 
「おや」
「あらブルック、」
「よう」
 
 
サンジとナミが現れたブルックに声をかけたにもかかわらず、ブルックは第一声を発したきり再び扉を閉めようとした。
 
 
「え!?ちょっとブルック、」
「おいおいなんなんだよ」
 
 
慌てて二人が声を上げると、狭く開いた扉の向こう側からブルックが少し顔を覗かせた。
 
 
「ヨホホ、いや、若いお二人の邪魔をしてしまったのかと思って」
「ああ、気が利くなブルック」
「バカ!ブルックも、変な気遣うんじゃないわよ」
「いいんですか?」
「いいもなにも、当たり前でしょ!」
 
 
ホラ早くとナミに急かされて、ブルックは「それでは」と扉をくぐった。
 
 
「んで、どうしたブルック」
「いえ、紅茶でもいただこうかと」
「ああ了解、座ってな」
 
 
すいませんサンジさん、と続こうとした言葉は、みゃうとか細い声が部屋の隅から聞こえたことにより飲み込まれた。
サッとブルックが身を固くした。
 
 
「ちょっと、今なんか聞こえませんでしたか」
「ああ、それならそこに猫が」
「ご冗談を。海賊船に猫がいるはずありませんでしょう」
「いやいやそれがな、さっきルフィの奴が」
 
 
みゃうみゃう。
 
ブルックがヒッと小さく声を漏らして骨の身体を文字通りますます固くした。
 
 
「…もしかしてブルック、猫嫌いなの?」
 
 
ナミが意外気に尋ねると、ブルックはこくこくこくと懸命にうなずいた。
 
 
「ね、猫だけはどうも昔から苦手で、というかアレルギーなんです、猫アレルギー」
「え、ほんと?大変、」
「ええ、猫が近くにいると体中痒くって痒くって…」
 
 
そこまで言って、本人も気付いたのか「あ」と声を漏らした。
 
 
「お前痒くなる皮膚ねぇだろ」
「ヨホホホホそうでした!!」
 
 
陽気に笑ったブルックは、しかし猫の潜む箱には近づこうとせず、一番遠い席に腰を下ろした。
 
 
「とはいえやはり、数十年苦手としてきたものと突然和解するのは難しい」
「そうね」
「今でもまだ気持ち的に痒いです」
「なんだよ気持ち的に痒いって」
 
 
サンジが呆れた声と共にブルックの前にティーカップを置いた。
ありがとうございますとブルックが深々頭を下げてカップを手に取ったとき、また台風のように騒々しい男がネコー!と叫びながら食堂の扉を開けた。
 
 
「うるっさいわねぇ」
「サンジッ!猫は?」
 
 
バタンと大きな音と共に部屋の中に飛び込んできたルフィは、顔をしかめたナミを気にも留めずきょろきょろと床の辺りを見渡した。
 
 
「バタバタすんじゃねぇ、埃が立つだろうが。猫はオラ、そこにいる」
「お、ほんとだ」
 
 
ルフィはひょこひょこと猫のいる箱まで近づくと、よいせと箱ごと持ち上げた。
ブルックが心なしかほっとしたような顔をする。
猫はルフィの到来に、びっくりしたように目を丸めた。
 
 
「どこ持ってく気?」
「ウソップがな、飼えねぇなら街で代わりの飼い主を探せばいいって言うからよぉ。ちょっくら探してくる!」
「探してくるっつったってお前、んな簡単に見つかるかよ。ただでさえ猫の多い街だ」
「いいんだ、おれはやる!」
 
 
猫の箱を抱えたまま、勇んで出かけようとするルフィをナミがちょっと待ってと呼び止めた。
 
 
「そういえばアンタ、まだ服出してないでしょう。ほつれたところ直してあげるから出しなさいって朝言ったのに」
「えぇー、いいよぉめんどくせぇ」
「バカ言ってないでさっさと選んで持って来なさい。他の奴らのはもうみんな直しちゃって、アンタのだけなのよ。ただでさえ無茶するからボロボロなのに」
「新しいの買えばいいだろ」
「冗談」
 
 
ハッと吐き捨てたナミの顔を見て、ルフィは反抗する言葉を飲み込んだ。
新しい服も靴も装飾品も、男連中より圧倒的に買う頻度が多いナミにそれについて反論することは無駄だとさすがのルフィも学習済みである。
ルフィはぶすくれた顔で、「じゃあこいつはウソップに預けてくる」と不満げに言った。
 
 
「そうしてちょうだい」
 
 
あーあつまんねぇ、とこぼしたルフィは渋々と猫の箱を抱えたまま食堂を後にした。
仔猫は箱の中で振動に揺られてコテコテ転がっていた。
 
 
 
【本当を言わない男】
 
 
「というわけで、だ」
 
 
ウソップは猫の箱を抱えて、ひとり波止場に突っ立っていた。
ルフィに押し付けられて、つい「お、おう」と受け取ってしまうのはいつものことだ。
ウソップはいつだってルフィの勢いに巻き込まれてしまう。
それを見ていたチョッパーが、オレもいくとウソップについて一緒に船を降りた。
行くかと互いに頷き合って、二人は街へと歩き出した。
 
 
「飼い主、みつかるかな」
「さあなぁ…親がいりゃあ一番いいんだけど」
「黒猫の親は黒猫か?」
「やー、そういうわけでもないんじゃねぇの」
 
 
チョッパーは、「オレがちゃんと言葉分かればいいんだけど」と心なしかしょんぼりと耳を垂らした。
ハハッとウソップは明るく笑う。
 
 
「人間だって赤ん坊が何言ってるかなんてわかんねぇだろ。気にすんな」
 
 
さあ一軒目だ、とウソップは適当に目を付けた家の戸をノックした。
 
 
「猫なんて飼わなくてもそこらじゅうにいるしねぇ」
「あら黒猫じゃない、だめよ黒猫は」
「まだこんなに小さい猫、どうして拾ったんだ」
「足がたらないんじゃ、ネズミも取れないから」
 
 
手当たり次第声をかけた家の主は、みな口を揃えてこのようなことを言って渋い顔をした。
箱を抱えて歩くウソップも、そのあとをついていくチョッパーも次第に士気が下がってくる。
こんなことをしていると自分が海賊であることを忘れてしまいそうだ。
箱の中の猫は自分が渦中にいるとは知らず、ミルクで満たされたおなかを抱えて丸くなっていた。
 
 
「よし、次こそ決めるぞ」
「おぉ、ウソップなんか作戦があるのか!?」
「あぁ任せとけ」
 
 
ウソップは町のはずれの大きな一軒家の戸を叩いた。
扉を開けた使用人らしき若い娘の鼻先に、ウソップはずいと猫を突きつけた。
使用人はぱちぱちと瞬いた。
 
 
「突然すまねぇオレはとある旅の男なんだが、この子猫の親猫と一緒に旅をしていてな。少し前にその猫からこいつが生まれたんだが、生まれながらにして足が一本足りてねェ。そんなこいつを薄情な親猫は見捨てちまって育てなかったんでおれがここまでこいつを育てた。しかし足の不自由なこいつを旅に連れていくことができねぇんだ。どうかこいつをオレの代わりに養ってやってくれないか。こんな大きなお屋敷のご主人ならさぞ心も広かろうと思ってこうして頼んでるんだ、どうか頼むよ」
 
 
とウソップが一息に喋るのを、使用人の娘も隣のチョッパーもぽかんと見つめて聞いていた。
よくもここまでぺらぺら口が動くものだとチョッパーが感心したその時、使用人の娘はふと目元を緩めながら猫の顎を擦った。
 
 
「かわいい」
 
 
仔猫はごろごろと喉を鳴らす。
これはきた、とウソップとチョッパーがぐっと拳を固めたそのとき、娘は「でもごめんなさい」と悲しそうに眉を下げた。
 
 
「うちのご主人は、猫がお嫌いなんです」
 
 
猫を敷地内に入れたら私が怒られてしまいます、と使用人は何度も頭を下げつつも早々と大きな扉を二人の目の前でぴしゃりと閉めてしまった。
ウソップもチョッパーも、ぬか喜びのむなしい余韻を握りしめてしばらくの間呆然と玄関口に立っていた。
 
 
「…帰るか」
「うん…」
 
 
ウソップは猫を箱の中に戻して、チョッパーと二人、とぼとぼ港の方へと下っていった。
 
 
【子供すぎる男】
 
 
船のタラップを上がると、日陰になった芝生の上でゾロが大いびきをかいていた。
船を降りたときにもここにいた気がする。
まったく平和なヤツだとウソップは隠すことなく大きなため息をついた。
チョッパーは箱の中から猫を取り出すと、芝生の上にそっと下ろした。
 
 
「ナミが飼ってもいいって言ってくれればなー…」
「そりゃあねぇよ。多分」
 
 
そういうと、チョッパーは少しむっとした顔つきでウソップを仰ぎ見た。
 
 
「なんでだよっ」
「だってナミの言うことは全部もっともだ。うちは貧乏だし、敵襲のときとか猫がいたら大変だろ」
「でもこんな小さい猫、ここにおいて行ったらすぐに死んじゃうぞ」
「…弱肉強食ってやつかなぁ」
 
 
チョッパーは納得のいかないと言った顔でうつむいた。
断固として飼わせてくれないナミも、早々と諦めてしまったウソップもみんなみんな冷たい。
船室で飼えばいいじゃないか。
おれたちが守ってやればいいじゃないか。
こんな小さな仔猫一匹くらい、人間離れした奴らが集まるオレたちなら簡単に守ってやれるじゃないか。
 
 
「アァ?なんだこいつ」
 
 
むすりと口を引き結んでいたチョッパーは、少し先から聞こえてきたゾロの声にハッと顔を上げた。
上体を起こしたゾロは仔猫の首元をつまんで顔の前まで持ち上げていた。
いつのまにか仔猫が自分で歩いて行ってしまったらしい。
 
 
「うあっ、ゾロっ、そんな持ちかたしちゃだめだ!」
「なんだ、こいつお前のかチョッパー」
 
 
チョッパーが慌ててゾロのもとへ走り寄ると、ゾロはぱっと猫をつまんでいた手を離した。
チョッパーがひっと息を呑む。
しかし仔猫は空中でひらりと身を返して、3つの足ですたりとゾロの膝の上に着地した。
 
 
「ルフィが拾ってきたんだ」
 
 
ウソップがチョッパーの後ろから声をかけた。
ゾロは興味なさそうに膝の上の黒い毛玉を見下ろしている。
 
 
「ナミが…飼っちゃダメだって」
「あたりめぇだ、こんなちいせぇの」
 
 
ゾロは固い指先で仔猫の頬に触れた。
ここでも猫は物おじせず、ゾロの指にすり寄っている。
しかしチョッパーはゾロの例に洩れない言いように、やはりむっと眉を寄せた。
 
 
「んで、コイツぁどうする気なんだ」
「それがよ、代わりの飼い主探しに行ってたんだけど見つからなくて」
「てめぇらも大概暇だな」
「年中寝太郎のお前に言われたくねぇよ」
 
 
サンジだったら食って掛かるところをウソップの言葉であればゾロは必要以上に波立たせない。
ゾロは「違いねぇ」と笑った。
 
 
「じゃあちょっとゾロ、その猫預かっといてくれよ。みんなにどうすればいいか相談してくるから」
「おぉ、そうしてくれ。そいつもお前の膝の上が寝心地良さそうだし」
 
 
ハッ?と怪訝な顔をするゾロを残してチョッパーが、そしてウソップがひらりと手を振って歩き去っていく。
仔猫はゾロの膝の上であくびを一つして、くるりと身体を丸めて眠りの体勢に入った。
ゾロは去っていく二人の背中を眉を眇めて見つめ、それから膝の上の黒い毛玉を見下ろして、まぁいいかと再び身体を倒したのだった。
 
 
 
【言葉の足りない男】
 
 
潮風がさわさわと髪を撫でる。
すっかり寝落ちていたゾロの顔の上に、軽い重みがとさりとのしかかった。
埃臭いような獣くさいような何とも言えない匂いが鼻を塞ぐ。
ゾロはアァン?と不機嫌な声を発して目を開けた。
とたんに瞼の上に弾力のある小さな肉球がのしかかる。
 
 
「うおっ、なんじゃぁこいつは」
 
 
ゾロが慌てて上体を起こすと、仔猫はコロコロとゾロの身体の上を転がって再び膝の上に着地した。
そういえばこんなのいたな、とゾロは寝落ちる前の出来事を思い返した。
あたりを見渡しても誰もいない。
いい天気だというのに全員船室に引きこもりと見た。
ルフィでさえいないのは珍しいな、とゾロはそこはかとなく考えながら大きな欠伸を一つした。
 
 
「あら、可愛かったのに」
 
 
起きてしまったの、と鈴のような声が左側から聞こえた。
少し離れたところで、ロビンは欄干にもたれて本を広げていた。
 
 
「…テメェいたのか」
「あなたがあんまり気持ちよさそうにそのこと寝てるから、うらやましくて」
 
 
いい天気ねとロビンは空を仰いだ。
つられてゾロも顔を上げた。
海鳥が旋回している。
 
 
「他の奴らは」
「部屋でその子について会議でもしてるんじゃないかしら」
「会議っつって…こんなもん置いてくしかねぇだろ」
「そうね」
 
 
ロビンはゾロの言葉を淡泊に受け止めて、ぺらりと本のページを捲った。
ゾロは何となく、その白い指の動きを横目で追う。
 
 
「心配だものね」
「何の話だ」
「その子の話よ」
 
 
オレはなにも言ってねぇ、というとそうかしらとロビンはゾロのほうを見ることなく微笑んだ。
なんとなくゾロは舌打ちを漏らす。
 
突然仔猫がすっくと立ち上がった。
転がるようにゾロの膝の上から芝生へと降り立つと、ぽてぽてとロビンの方へと歩いていく。
 
 
「あら」
 
 
ロビンが本を閉じた。
仔猫は何か言うように、ロビンの顔を見上げてみゃあと鳴いた。
ロビンは仔猫に手を伸ばして、しかし触れる寸前で少しためらう。
ゾロが目を細めた。
 
 
「…お前、猫嫌いなのか」
「いいえ、違うわ。少し…小さすぎるから」
 
 
怖いわ、と小さく呟いてからそっと猫を抱き上げた。
その指の動きは、本を触っている時のようになめらかで柔らかい。
 
 
「悪魔の女が猫にびびんのかよ」
「あら、酷い言いようね」
 
 
ロビンは抱き上げた仔猫を、鼻と鼻がくっつくくらい近くまで持ち上げた。
 
 
「でも黒猫は魔女につきものよ。似合うでしょう」
 
 
ゾロが口を開いたそのとき、ドカドカと荒々しい足音が甲板にいくつも降り立った。
 
 
 
【鉄でできた男】
 
 
ある男は手にサーベルを、またある男はハンマーを、とあらゆる武器を手にした海賊風情の男たちが下卑た笑いと共に甲板に足を下ろしていた。
その数ざっと30人ほど。
芝生の上に座り込んでいたゾロとロビンは、きょとんとその男たちを見つめた。
 
 
「海賊かしら」
「同業者だな」
「もう出航だって言うのに」
「こりゃ夜まで待ってられねぇな」
「ゾロひとりでお願い」
「テッメェ、いっつもいっつも押しつけやがって」
「平気でしょう」
「一人たのしそうに傍観するなと言ってんだ」
 
 
ゾロとロビンがまったく腰を上げようとせずにふたりでぽんぽんと会話を進めていく様子に、敵襲を仕掛けたはずの海賊たちは一瞬虚を突かれたようにたじろいだ。
しかし次の瞬間には熱気を振りまいて威勢のいい声を上げた。
無視するな、相手しろ、と騒ぐ声は大きさを増し、船室の扉がばたんと開いた。
 
 
「ぎゃぁっ、敵襲だ!」
 
 
大きな物音を不審に思ったらしいウソップが、目の前に突如現れた30人のむさくるしい男たちの姿を見て叫びを上げた。
なんだなんだとルフィたちが船室から飛び出す。
ロビンがふふっと笑った。
 
 
「取られちゃうわよ、獲物」
「おかしな言い方すんじゃねぇ。ったく、真正面から突っ切ってきやがってあいつらバカか」
 
 
たとえ寝込みを襲ったところで切り捨て御免なのは確実であろうが、ゾロは呆れたように息をついた。
ロビンは抱き上げていた仔猫を芝生の上に下ろす。
 
 
「それじゃあさっさと片付けてしまいましょう」
 
 
ふわりと花の香りが鼻腔をかすめる。
ゾロが柄に手をかけたのと、ルフィが「戦闘だぁ!!」と嬉しそうに叫んだのは同時だった。
 
 
 

 
 
ルフィが殴り飛ばした男が飛んで行った先は、ちょうど買い出しから帰ってきたフランキーのちょうど鼻先だった。
 
 
「ウォウ!あっぶねぇなルフィこの野郎!」
「おうおけーりフランキー!」
 
 
ルフィが陽気に手を上げる。
フランキーが甲板に足をつけたころには、既に名もなき賊たちはボロボロで、感心なことにまだ数人が何とか立っているだけだ。
フランキーは担いでいた大きな木箱を足元に下ろして戦況を見渡し、ん?とある一点に目を止めた。
 
 
「オイっ、なんだその猫はっ」
 
 
フランキーが指さした先に、全員が視線をやる。
ロビンがあらと呟いた。
甲板の隅にいたはずの仔猫は、いつのまにか奔放と闘いの中を歩いていた。
 
 
「おいお前っ、危ねぇぞ!」
 
 
チョッパーが慌てて走り寄るが、満身創痍の敵の一人が気付く方が早かった。
 
 
「んだぁこのチビは、邪魔くせぇ!」
 
 
男が足を振り上げる。
みっ、と鳴き声ともつかない声が全員の耳に貼りついた。
小さな黒い点が、ひゅんと真横に飛ぶ。
その身体はちょうどフランキーの腹部にぶつかった。
フランキーが呆気にとられて固まった間に、仔猫はフランキーの身体からぽとんとはがれ落ちた。
動かない。
 
 
「っあああ」
 
 
仔猫へと手を伸ばしかけていたチョッパーは、そのまま人型へと変わり大きな拳で男を殴り飛ばした。
男は声を発する隙もなく、欄干を超え海へと落ちる。
リーダー格らしいその男の姿が消えると、残っていた男たちは蜂の子を散らしたように慌てふためき始めた。
逃げようと自ら海へ飛び込む者もいる。
彼らの足はゾロの飛ぶ斬撃によって掬われ、あっという間に船の外へと吹き飛んだ。
残るのは一味と、甲板の上に横たわる手のひらほどの大きさしかない小さな死骸。
フランキーは腹にぶつかった小さな衝撃の原因を、唇を引き結んで見下ろしていた。
 
 
 
【慣れすぎた女】
 
 
ナミがすたすたと無言で歩み寄り、フランキーに向き合うように立ち止まった。
視線は足元に落ちている。
ナミの手がふらりと揺れる。
その手は横たわる黒猫に向かって伸びたかのように見えた。
しかしナミはしゃがみこむことなく、伸びかけたその手もぎゅっと握りしめた。
 
 
「…だから言ったでしょう」
 
 
ナミの背中を見て、チョッパーがぽろぽろ涙をこぼした。
食いしばる歯に伝わる震えから悔しさがにじみ出る。
ウソップがチョッパーの頭を軽く撫でた。
 
ナミは迷いのない足取りで、猫の死骸から踵を返した。
 
 
「その辺で伸びてる残った奴ら、適当に海へ捨てといてちょうだい。その猫も、グロテスクな内臓なんて見たくないわ」
 
 
ナミさん、とサンジが迷うような声をかける。
横たわる猫の口からは確かに、衝撃で飛び出た臓器が覗いて血が滲みだしていた。
ナミはサンジの声を無視して足を止めない。
そうしてロビンの隣を横切り船室へと引っ込もうとしたその時、ナミの髪を花の香りがする風が揺らした。
 
 
「こういう血には慣れてるし」
 
 
ナミが振り向くと、ロビンの背中とフランキーの足元に生えた白い手が二本、猫の身体を持ち上げているのが見えた。
つうっとその白い肌を下へ下へと赤い筋が伝う。
 
 
「私にはたくさん手があるから、汚れても平気なの」
 
 
お墓を作りましょうね、と穏やかに微笑むロビンの背中に、ナミは子供のように泣きついた。
 
 
 
 

 
小さな街の、猫がたくさんいる港。
そこで唯一護岸工事のされていない狭い浜辺に小さな穴を掘った。
木の枝で組まれた十字の横で、みかんの枝がかさかさと潮風に揺れている。
 
 

 
 
とあるやさしい海賊のはなし

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