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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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夜風が心地よい冷たさで頬を撫でて過ぎ去っていく。
ベランダの手すりに肘をついて顎を支えると、金属のそれから風とは質の違う冷たさが這い上ってきた。
乾かしたつもりでもまだ湿り気の残っていた髪が冷えて、ぶるっとひとつ体を震わせた。
それでもなんとなく、中に戻る気にはなれない。
 
今日の昼間は梅雨の中休みで暑かったけれどいい天気だったから、夜空に星は多く見えた。
少し高台にあるあたしの家からは余計たくさんの星が見つけられる。
よっと身体を手すりの向こうに少し乗り出して右側を仰ぎ見ると、ぺらぺらに薄く細くなった月がほのかに光っていた。
月の光が少ないと、星がたくさん見える。
その月のすぐそばをかすめて言った薄い雲の動きを見て、明日もいい天気だけど少し風が強いかもしれない、と誰に言うわけでもないのに一人天気予報を告げる。
唇を少し開くと、冷たい空気が口内にも流れ込んできた。
その冷たさに少し怯んで、それでもおずおずと音を舌先に乗せた。
 
 
サンジ君サンジ君、あたしの声は聞こえてる?
 
 
 
 

 
 
「明後日?」
『そう、明後日の、14時半着だから』
 
 
携帯電話は、数千キロの距離を一気に縮める魔法の箱だ。
いつもいつもどこかに置き忘れたりコンクリートに落としちゃったりしてごめんね、と思いながら電話の向こうで『ナミさん聞いてる?』と訝しげに聞こえた声に、慌てて「聞こえてるわよ」と返事をした。
 
 
「じゃあ空港、迎えに行くから」
『え、いいよいいよ。ナミさんとこから遠いだろ?オレがバスでさっさとかえるよ』
 
 
せっかくの出迎えの提案を、彼はあっさりと否定してみせた。
まったく、いつもは会いたい会いたい早く会いたい帰りたいナミさんに会いたい!!と電話口でわめきたてているくせに、いざ帰るとなると至極あっさりしているのだから、あたしが今までのサンジ君の言葉を疑ってしまうのも仕方のない話だと思う。
 
 
「いいから、行くの!」
『…そ?わかった、ありがとう』
 
 
否定したくせに、ありがとうと言った言葉がひどくうれしそうで、ふわりと跳ねるように耳に届いてあたしはくすぐったくなる。
くすぐったいくせに素直になれないのはあたしの悪い癖だけど、そういうところも好きだといってくれる人がいるのでなかなか治せない。
耳にぴったりくっつけた携帯電話のスピーカーの向こう側で微かに聞こえる彼の吐息にさえ、あたしは瞼を震わせてすぐに反応してしまうというのに。
 
 
『…ナミさんナミさん』
「なによ」
『空港で抱きしめても怒んないでね』
「怒るわよ!バカ!」
 
 
恥ずかしい奴、と口では言いながら、見えてないからいいものの、頬はあたしだってきっとサンジ君に負けず劣らず緩んでいる。
サンジ君はそれに気付いているのか気付いていないのか、まるで絞り出すような声で『会いてぇ』と呟いた。
あたしは震える瞼をぎゅっと瞑った。
 
 
 

 
空港のざわめきは外とは異質な興奮を秘めていて、結構好きだ。
国内線より俄然国外線の方がその度合いは大きくて、だから国外線出口の真ん前のベンチに座りながらもあたしは何度もキョロキョロあたりを眺めていた。
 
腕時計に視線を落とす。
ちょうど14時半。もう飛行機は着いただろうか。サンジ君は降りただろうか。
彼の乗る飛行機が日本から発つときも、逆に日本へ来るときも、いつもいつも飛行機が空を飛んでいる間はそわそわして落ち着かない。
何度もテレビのニュースを確認して、たとえ無関係のニュースだろうとテロップが流れると一々びくびくして、何度も安堵の息をつく。
だから今日も、彼が乗ったはずの飛行機が経ってから今の今までびくびくしていたわけだが、何の知らせもないのできっと無事についたのだろう。
今頃はスーツケースの受け取りをして、入国審査に向かっているのかもしれない。
 
今回の帰省は少し長くて、サンジ君は2週間近く日本に留まる。
彼が修行させてもらっているお店に許しをもらって帰ってくるのだ。
そしてその2週間の間には、あたしの誕生日が含まれている。
彼が帰ってくると言ったときからすでにそのためだろうと気付いていたし、サンジ君はすぐに「今年はナミさんの誕生日、まるごと一日近くで祝えるぜ」と言ったのであたしも期待して少し、いやすごく、嬉しい。
 
右手の薬指で水面のように光る青色の表面を反対の指先で撫でて、サンジ君の姿を脳裏に思い浮かべた。
前に会ったのはもう一年前の、あの時帰って来たきりだ。
髪は伸びているだろうか。
服装は私服か、まるで普段着のように着こなすスーツだろうか。
背は…伸びているわけないか。彼はもう20歳を過ぎている。
でもあたしだって、もうすぐ20歳だ。
あたしってば足は長いし腰は細いし胸はそこそこあるしで我ながら悩ましい身体だから、今までは下品にならない程度に魅せられる服を選んできた。
そのせいか、わりと体のラインに沿った服が多い。
それでももう20代になるわけで、見せるばかりが魅力じゃないと気付いた。
だから今日は少し大人っぽい服を選んだ。
柔らかい素材のクリーム色の生地で、裾の方に茶色と水色の糸でアラベスク調の刺繍が施されたロングスカートと白のブラウス。
空港の中は空調が効いていて涼しいので上に紺色のカーディガンを羽織っている。
あたしの明るいオレンジ色の髪がその大人しさの邪魔になる気がして、わざわざロビンに見せに行ったりしたけれど、ロビンは「アクセントになってちょうどいいじゃない」と言って褒めてくれた。
 
大人っぽい服はずっとロビンを見て憧れていた。
服だけ見れば無地で野暮ったくさえ思えるセーターでも、ロビンが着れば驚くほどスマートな印象に映る。
そしてそれをサンジ君が褒めるたび、あたしはなんとなく羨ましいような悔しいような思いを感じてしまうのだ。
もちろんサンジ君はあたしを頭のてっぺんからつま先まで褒め倒すけれど、褒めてほしいわけでもないあたしはひたすら拗ねていた。
今思うと恥ずかしいくらい子供だった。
 
だから今日はリベンジだ。むしろ挑戦に近い。
サンジ君はあたしを見て何か言ってくれるだろうか。
いつものように、まるで機械音声のようななめらかで美しい褒め言葉を並べるのではなくて、今のあたしを見て何か思って欲しかった。
まるで初めてのデートの待ち合わせのときのようだ。
いやむしろ、この昂揚感はそれ以上かもしれない。
だってあの頃あたしは根拠もなく自分に自信があったし、彼が常にそれを教えてくれていたので必要以上に心配していなかった。
それでも今は、目に見えるきらびやかなものや人が褒める美しいものがすべてじゃないのを知っている。
あたしはあたしの中にある澱んだ思いを知っている。
そういうマイナスもまるごとひっくるめて好きだと言ってくれるサンジ君を手放さないためにも、あたしは努力が必要なのだと知った。
 
 
もう一度腕時計に視線を走らせる。
14時40分。
入国審査が混んでいなければ、日本の審査は拍子抜けするほど簡単だからそろそろやってくるだろう。
そう思っていると、国外線出口の自動扉が開いた。
どきりとして顔を上げたが、出てきたのは初老の夫婦。
一組目の帰国者らしい。本当にそろそろだ。
そう思うと、一気に胸の鼓動がスピードを増した。
髪は変なふうになっていないだろうか。もう一度化粧室に行って確認してきた方がいいかもしれない。
ああでも、もう彼が出てきてしまうからそんな時間はない。
服はおかしくなっていないだろうか。スカートの皺を確認して、パタパタと用もないのにはたいた。
 
(サンジ君サンジ君、)
 
 
服装だとか髪型だとか、本当はそんなこと些末なことなのだ。
会いたくて逸る胸は期待に押しつぶされて、圧迫されたぶんが形を変えて涙になって目からこぼれそうだ。
 
1年前、フランスへ帰ってしまったサンジ君が乗る飛行機を見送って、彼が安心していられるよう強くあろうと決めたのに、すぐにへこたれた日々を思い出す。
会いたい会いたいと現実味のない願いをかけるたびにむなしさに息がつまった。
つい名前を口ずさんで、返事がないという当たり前のことに何度も落ち込んだ。
 
どうして返事しないのよ。
あたしの声が聞こえないの?
あたしは何度も、あんたを呼んでるのに。
 
かなり無茶苦茶な言い分だ、自分でわかっている。
それでもこのどうしようもない思いが原動力となってあたしという歯車を回している。
 
(サンジ君、)
 
 
早く早く、名前を呼ばせて。
それで返事をして、あんたもあたしの名前を呼んで。
すきだと言って抱きしめて、飽きるくらいキスをして。
あたしに会えてうれしいと笑って。
 
 
 
出口の自動扉は次から次へと吐き出される人人人で開きっぱなしだ。
その人波の中で、ひと際眩しい金色の髪が揺れた。
人が左右に捌けていくと、ただひとりだけがあたしの前に立っていた。
 
 
(サンジ)
 
 
あたしの右薬指と同じ青を宿して、変わらない垂れ目がゆっくりと微笑む。
 
 
「ただ…うぉっ、」
 
 
「ただいま」と続けられるはずの言葉はあたしが邪魔をした。
立ち上がった勢いそのままにサンジ君の胸にぶつかって、冷房のせいで冷えたシャツの背中側を握りしめる。
見えないけれど、サンジ君が両腕をホールドアップして、あたしを見下ろし固まっている姿が目に浮かぶ。
「ナミさんここ空港だけど」と若干おろおろした声に、このヘタレとこっそり悪態づいた。
 
 


 
 
 『空港で抱きしめても怒んないでね』
 『怒るわよ!バカ!』
 
 
 そうよ、あたしが先に抱きしめるんだから。

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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