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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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道案内を頼む、とその男は大層不愉快そうに申し出た。
 
 
「私に?」
「そうだ」
「道案内を、と?」
「テメェはいちいち確認しなくちゃ済まねェのか」
 
 
ゾロの右手は、何度も居心地悪そうに腰のあたりをふらふらしている。
 
 
「刀を取りに行かねェと」
 
 
あぁ、と私は頷いた。
 
 
「わかったわ。鍛冶屋さんね」
 
 
チョッパーにもらったしおりを丁寧にページの間に挟み、読みかけの本を閉じる。
ゾロは静かにその様子を眺め、待っていた。
パラソルの下から出ると、透き通った日光が肌に沁み込む感覚がした。
 
 
「ナミ、少し出かけてくるわ」
 
 
みかん畑に向かって声を上げる。
すぐさま、はあいと明るい声が降ってきた。
軍手をはめた手を、こちらを見もせずにひらひら振っているに違いない。
ナミの代わりにみかん畑からひょっこり顔を覗かせたのは、眩しい金髪のコックさんだ。
 
 
「ロビンちゃんおでかけかい? お供の従者か荷物持ちは必要ねェかい?」
「えぇ大丈夫、ゾロが一緒よ」
 
 
私がちらりとゾロに目を移すと、ゾロはフンと顔を背けてさっさと歩きだしてしまった。
上からはサンジの非難たっぷりの声が聞こえる。
 
 
「なにがどうなってマリモなんぞがロビンちゃんとお出かけできることになってんだ! ロビンちゃんやめよう、オレが一緒に行くから、ちょっと待ってくれ!」
「バカ、あんたはあたしの手伝い!」
 
 
いてっと小さく聞こえたかと思うと、サンジが奥へと引っ込んだ。
それと入れ替わりに、ナミの小さな顔が現れる。
 
 
「迷子の監督、頼んだわよ!」
 
 
聡明な大きな目を猫のように一度細めてから、男であればコロリといってしまいそうなウインクを飛ばしてナミは大きく手を振った。
 
 
「行ってきます」
 
 
私は彼女に手を振り返し、ゾロの後を追った。
タラップを降りたゾロは、既にあらぬ方向へ進んでいる。
 
 
「ゾロ、こっちよ」
 
 
声をかけると、ゾロは至極不本意と言った顔で方向転換をした。
 
 
鍛冶屋は街の東の果てにある。
西の海岸に泊めた私たちの船からは、少し歩く。
不揃いの石畳の上を、不揃いの足音が響いた。
 
肩を並べて歩き始めてすぐ、ゾロはぽつりと「悪ィな」と言った。
 
 
「どうして?」
「手間ァかけさせる」
 
 
ゾロがそのことに対して謝ったことはわかっていた。
私が聞きたかったのは、どうして謝る必要があるのかということだ。
だがそれを聞き直してもきっとゾロは面倒くさそうな顔をするに決まっているので、私は言葉を飲み込んだ。
代わりに笑って、言う。
 
 
「私を選んでくれてうれしいわ」
「それァ」
 
 
ゾロは何かを言いかけて、言葉を探すように一度口を閉ざした。
チョッパーがいなかった、ウソップが忙しそうだった、何でもいい。理由はいくらでもある。
まるで言い訳のように、私を誘ったわけを探してくれたことがうれしい。
ゾロは結局、続く言葉を言わなかった。
 
私たちは人の行きかう街並みの一部になる。
喧騒に呑み込まれて音になる。
平べったく重たい足音に、私の細い靴音が重なる。
ざわめきの中からその音を探す作業は心地いい。
 
 
「おい」
 
 
不意にゾロが足を止めた。
その顔は、立ち並ぶ店の一つに向かっている。
 
 
「なに?」
「食うか」
 
 
ゾロの視線を辿った。
行きかう人の間を縫うようにその先を見遣る。
カラフルな色合いが周りから浮いたその店は、ジェラートを売っていた。
私が何かを言う前に、ゾロは店に向かって歩き出していた。
ガラスケースを覗き込む彼の背中を追って、同じように中を覗いた。
 
 
「どれがいい」
「買ってくれるの?」
「あぁ」
 
 
ゾロはじっと目を凝らして、ケースの中のジェラートを見ていた。
まるで敵を見るかのようにこらした目がおかしくて、私はくすぐったい笑い声を洩らしてしまった。
ゾロが不機嫌そうに私を見る。
 
 
「何笑ってやがる、さっさと選べ」
 
 
じゃあ、と私が笑いの余韻を残したまま一種類を指差すと、店の若い男性が太い腕を伸ばしてたっぷりとジェラートを掬ってくれた。
 
 
「あなたは?」
「おれはいい」
「せっかくだから食べればいいのに」
 
 
私がせっつくと、彼は眉を眇めて再びケースに視線を戻した。
彼のこの顔はもう見慣れてしまった。
けして不機嫌なわけでも不愉快なわけでもない。
何かを考えたり複雑なことを思ったりしているときのくせなのだ。
この場合は、ジェラートの種類を考えている。
ゾロは明るい黄色を指差して、「これを」とぼそりと言った。
 
 
手渡されたジェラートを受け取ると、ゾロは不思議そうにそれを見下ろして、一言「丸くねェのか」と言った。
 
 
「ジェラートだもの、こういう形よ」
「そうか」
 
 
彼は子供のように私の言葉をのみこんだ。
スプーンでジェラートを口に運ぶと、ミルクの濃厚な甘みが舌の上で溶ける。
私たちは店のわきに立ったまま、並んでジェラートを食べた。
街並みをぼんやりと眺めながら、立ち尽くしてジェラートを食べるいい歳の男女はさぞ滑稽に映っているにちがいない。
そう思うと、もうここを離れたくなくなった。
ゾロと一緒に、この景色の一部になりたいと真剣に思った。
 
 
「ありがとう、ゾロ」
 
 
言い忘れていたお礼を口にすると、ゾロはめんどくさそうに一度だけ私を見て、すぐにそっぽを向いた。
そして大きな口を開けて上からジェラートに齧り付く。
全てを飲みこむ怪獣のような食べ方だ。
その姿を見て、私はハッと息を呑んだ。
 
自分たちのことを「いい歳の男女」だと思ったが、いい歳をしているのは自分だけだ。
ゾロはこうやって大口を開けて物を食べ、鼻の頭にジェラートをつけていてもおかしくない若さなのだ。
今気付いたわけではない。
それは常日頃小さなつぶてとしてコツコツと私にぶつかってくる。
たまたま今、思い出してしまっただけだ。
 
 
「おい、溶けてんぞ」
 
 
ゾロが私の手元を指差した。
あ、と慌てたその一瞬で、私の手の甲にポタリの白いしみが落ちた。
 
 
「ちんたら食ってるからだ」
「あなたが速すぎるのよ、3口くらいで食べてしまったでしょう」
 
 
言葉を返しながら、手の甲に落ちたものを舐める。
ゾロが紙くずをくしゃりと丸めたので、私は急いでジェラートをつつき始めた。
涼しくなった、とゾロが呟く。
 
 
 

 
 
鍛冶屋の中は、歴史を感じる埃臭さと鉄の凶暴なにおいがした。
少なくとも前者は私にとっても身近で、落ち着きを感じる。
 
 
「できてるか」
 
 
ゾロは堂々と店の真ん中を歩き、つっけんどんに店主にそう言う。
無愛想な店主はひとつ頷いて、三本の刀をゾロに突き出した。
彼が御代を支払っている間、私はならべられた骨董品のような刀を見て回る。
精緻な彫り込みのある鞘は、老人のようにどっしりと落ち着いたものもあれば、触れたら切れそうな若さをにじませる、精悍な男を思わせるものもあった。
 
 
「つまんねぇだろ、こんなもん見てたって」
 
 
いつの間にかゾロがそばに立っている。
腰にはいつものように、三本の刀が行儀よく揃っていた。
 
 
「いいえ、面白いわ。よく見ればひとつひとつ美しいのね」
 
 
あなたのそれも、と私は彼の腰に下がった一本を指差した。
不気味ともいえる危険さをにじませる怪しい刀と、背筋を伸ばした男のように凛とした黒い刀。
そのどちらとも雰囲気の異なる白い鞘の刀を私は指差した。
2本に比べてこれだけ少し短い。
あぁ、とゾロは撫でるように刀の柄に手をやった。
 
 
「持ってみるか」
 
 
え、と彼を見上げた。
 
 
「いいの?」
「別に、問題はねぇ」
「あんたらうちの用が済んだなら外でやってくれよ」
 
 
店主の迷惑そうな声に押し出され、私たちは慌てて外に出た。
埃臭さから解放された新鮮な空気の下で、ゾロは刀を一本腰から外した。
凛とした男のようだと思った黒い刀だ。
私がはっきりと指を指したのは白い刀だったのだが、どうやらそれは持たせてもらえないらしい。
いつかその理由も教えてもらえるだろうか。
そんなことを思いながら、差し出された刀を受け取った。
 
 
「あ」
 
 
ずっしりと重量のあるそれは私の予想よりずいぶんと重く、支えきれなかった腕ががくんと下がった。
おい、とゾロが下から支えてくれる。
 
 
「しっかり持て」
「驚いた、こんなに重いものだなんて」
「慣れれば大したこたぁねェ」
「これをあんなふうに振り回せるものなのね……」
 
 
両手で支えた刀の柄を、片手で握りしめる。
もう片方の手をそっと放して、彼がするように右手だけで刀を支えた。
二の腕が攣りそうだ。
ふはっと空気を吐き出す音がした。
 
 
「震えてんぞ、おい」
「っ……」
「おら、無理すんな」
 
 
私がぷるぷると震えながら持っていたそれを、彼はひょいと取り上げた。
刀のほうも私に持たれてさぞ落ち着かなかったことだろう。
彼の腰に戻って、はあと安堵の息を吐いている気がする。
あんな重さの刀を3本も腰にぶら下げて、この男の身体はいったいどうなっているのだろう。
 
 
「おい何考え込んでやがる。帰んぞ」
 
 
じっと彼の腰を見つめて首をひねる私に呆れて、ゾロは歩き出した。
私はその広い背中に思わずついていきそうになり、慌てて足を止めた。
 
 
「ゾロ、そっちじゃないわ」
 
 
帰り道はこっち、と道を指差すと、相変わらず不本意そうな渋顔が振り返った。
 
 
 

 
帰り道はとても短い。
すぐにあのジェラート屋の前を通り過ぎ、港が見える位置までさっさと着いてしまった。
あんなに楽しく響いたゾロと私の足音も、今はただただ不揃いなだけだ。
 
 
「おい」
 
 
ゾロが足を止めた。
もう波止場が目と鼻の先にある。
 
 
「帰るか」
「今もう帰ろうとしてるじゃない」
「んなこたわかってる」
 
 
私がじっとゾロを見つめると、彼はぎゅっと眉根に皺を寄せた。
 
 
「帰らないの?」
「それはおれが先に訊いたんだ」
「どういうことなの、ゾロ」
 
 
本当にわからなくて、私はただうろたえて彼を見つめた。
うろたえているように見えないところがたまにキズであると、自分でわかっている。
ゾロは、ギュッとしかめていた顔を少し緩めて、私を見返した。
 
 
「帰りてェか」
 
 
潮のにおいを含む風が、さっと私たちの間を走り抜けた。
流れた横髪に視界を邪魔されて、私は目を細める。
薄く唇を開くと、海の味が口内に、微かに広がった。
 
 
「まだ帰りたくないわ」
「よし」
 
 
ゾロは変わらない真剣な顔のまま、私の手を取った。
くるりと向きを変え、街の方へと私を連れて行く。
 
 
「どこに行くの」
「どこに行きたい」
「わからないわ」
「テメェでもわからないことなんてあるのか」
「あるわ。たくさんあるのよ、実は」
「そうか」
 
 
そう言ったゾロの手は汗ばんでいた。
滑る手で、しっかりと私の手を掴んでいる。
硬い手の握る力は強かった。
その強さが痛い。痛いことがうれしい。
 
不揃いの足音が、再び喧騒に溶けていく。
私はその音を、まるでオルゴールのように心地よく聴いていた。
まだ見ぬ場所に連れて行ってくれる、迷子癖のある、武骨な手に引かれながら。
 
 
 

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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