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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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どでかい空間の真ん中に立つと、どこからともなく風が吹いてえりあしの髪を揺らした。
平日のパンテオンは数人の観光客がちらちらと歩いているだけで、とても静かだ。
一番広い空間のつきあたりには、白い彫像が立っている。
右側には、馬上の騎士とその取り巻き、彼を鼓舞するように太鼓をたたく鼓笛隊。
左側には手を差し伸べてその先を見上げる群衆。
そして中央に、刀を持った女性像。
似ても似つかないくせに、そのたおやかな顔はナミさんを思い出させた。






恋の振り子は僕に傾く





休みをもらった。
「明日は休みだ、サンジ」そう言われて、えっ、と思わず声が跳ねる。
しかしチーフは、相変わらずの強面にほんの少しの憐憫をにじませて、首を横に振った。


「明日だけだ。悪いが、明後日には出てもらわないと」
「あぁ……そうっすよね、了解」


去り際に肩を叩かれ、照れくさくなった。
同時に、やはり期待してしまったぶん残念で、少し肩が落ちた。
1日で日本へ帰ることはできない。
仕事終わりの午前2時、コック帽を脱いで階上の自室へととぼとぼ昇った。





翌日目が覚めて、時間を確認してからすぐさま電話を手に取った。
短いコール音の後、ぷつんと接続音が小さく響く。


『もしもし?』
「んナミさんっ!おはよう!誕生日おめでとう!!ごめんな、昨日仕事終わったらもう夜中でさ、本当は電話したかったんだけどもう寝てるだろうと思って。メール見た?」
『おはよ、見た見た。ありがとね』


数千キロの距離をつなぐ頼りない電波は、少し呆れた彼女の声を伝えてくれた。
彼女の返事にほっとすると同時に、たまらなく愛しさがこみ上げる。


「ごめんな…帰りたかったんだけど」
『いいわよ、前々から帰れないって言ってたんだし。今は仕事前?』
「いや、今日は休みなんだ。今日1日だけ休みもらえた」
『ふうん、なにするの?』


……なにをしよう。
おれが黙り込むと、ナミさんがふふっと笑う息遣いが聞こえた。


『仕事人間だから、休みもらってもなにしたらいいかわからないんでしょ』
「そうかも」
『観光でもしたら?』
「観光か…そういやこっち来てからしたことねェな」
『えっ、一度も?』
「うん、フランスパンは死ぬほど食ったけど」


もったいない!とナミさんは叫ぶ。


『せっかくだからいろいろ見て回ってきなさいよ』
「えぇ…一人で?」
『意外と息抜きになるかも』


ナミさんがそういうなら。
そう言うと、彼女は「いってらっしゃい」と笑った。
そのときのナミさんは、きっとびっくりするくらいやさしい顔をしていたはずだ。





部屋着以外の私服に久しぶりに袖を通した。
自室を出ると、向かいの部屋からちょうどアランが顔を出したところだった。
これから仕事へ向かうアランは、私服のおれに目を留めて、「珍しい、休みか?」と片眉を上げた。


「あぁ、急にな」
「へぇ、出かけるのか。デート?」
「黙れクソ野郎」


ナミさんの存在を知っているくせに軽口を叩く男を睨むと、アランは涼しい顔で肩をすくめて、おれの前を通り過ぎて行く。
出ばなをくじかれたような気分で、部屋を後にした。


煙草をくわえて歩きなれた道を行く。
呆れるくらいそこらじゅうにあるパン屋とカフェの中から適当に一つを選び、コーヒーとパニーニを買った。
歩きながらパニーニをくわえ、むしゃむしゃと食べる。
ドレッシングが少し濃い。
しかしレモンの酸味が効いている。
口の中に、ゴロンと大きなオリーブの実が転がった。
噛みつぶすと、じゅわりと瑞々しく美味かったが、オリーブが苦手なナミさんは食べられないだろう。
ナミさんは、おれがサラダに和えたものしかオリーブを食べない。
カフェのサンドウィッチやサラダに入っているオリーブを、眉をしかめていつもおれの方へ寄せていた。
「オリーブはお肌にいいんだぜ」と促すと、彼女は「じゃあサンジ君が料理してよ」となぜか怒った顔で言っていたことを思い出す。

食べ終わった後のパニーニの包み紙をくしゃくしゃと潰し、おれはメトロに乗るために階段を降りた。



パリの街中を入り乱れて錯綜するメトロをいくつか乗り換えて、かの有名な塔を目指した。
メトロの駅から地上に顔を出すと、もうすぐそこに塔の上半分くらいが見えている。
その足元を目指してぶらぶらと歩いた。
塔に登るつもりはなかった。
ひとりで街を上から見ていたって、高ェな、とか、あの辺が店だな、とか、至って無機質な感情しか芽生えないことがわかりきっていたからだ。
塔の正面には、だだっぴろい芝生の広場が広がっている。
平日の午前、人は多い。
学生、子供連れ、若い夫婦。
芝生の上になにも敷かずに座り込み、飲み物や食べ物を広げてわいわいとやっていた。
誰もたいして塔を見上げてやしない。
飲み干したコーヒーの紙コップをその辺のゴミ箱に捨て、煙草に火をつけた。
これがナミさんの言う、観光なのか?と改めて考えると、何か違う気がした。
せめてここに彼女がいればな、と恨めしく塔を見上げた。
離れた距離と思いの大きさは比例も反比例もしない。
わかっているが、会えない時間は無情にも刻まれていく。
ナミさんが耐えると決めたのだ、おれも耐えねばならん。

結局塔の下周辺をうろうろとして、煙草を3本ほど灰にした。
足が疲れたが、この際だから行ってしまえとメトロに乗ることなく歩き続けた。

この街には、一本大きな川が蛇行している。
街を半分に割るその川沿いを、相変わらずぼんやりと歩いた。
平日の真昼間でも、カフェのテラスにはビールやワインを飲む連中がちらほら見られる。
時折知った顔に出会い、飯をどうだと誘われたが丁重に断った。

ナミさんの誕生日に、たとえ野郎とであれ、他の誰かと一緒に過ごすことに不義理を感じたのかもしれないし、ちがうかもしれない。
ただ今日はひとりでいたかった。
傍にいるのは彼女がよかった。


何度か橋を横目に通り過ぎた。
橋の両側の柵は、金銀の南京錠で埋め尽くされている。
上手いこと言ったもんだ。
恋人と一緒に、南京錠を橋の柵に取り付け、鍵をかける。
そしてその鍵を川に捨ててしまうのだ。
そうすればその恋人たちは永遠に一緒と、そんな噂ともまじないともつかないジンクスがある。
橋の中央には南京錠を売る露天商の姿が見えており、観光客がいい金づるになっていることはあからさまであるにもかかわらず、南京錠はどんどん増えていく。
川の中に沈んだ鍵も、どんどん増えていく。
いつか錠の重さで橋が落ちてしまうかもしれない。
その場合、鍵をかけた恋人たちはどうなるのか。


気付けばずいぶん歩いていたようで、目の前に有名な大聖堂がそびえたっていた。
さすがに疲れたのでどこかへ入ろうと辺りを見回した。
学生街が近い。
相変わらずパン屋もカフェもアホほど多いが、学生街には安くてウマい店が多い。
そういや欲しい本があるんだったと思い出し、最後の煙草に火をつけて学生街へと足を踏み入れた。




なじみの本屋へ顔を出すと、愛想のいい老婦人が声をかけてくれた。
毎月出版される料理雑誌を買い、婦人と立ち話をする。
観光しているのだと言うと、あんた何年ここに住んでるのと笑われた。


「パンテオンには行った?」
「いや、行くつもりは」
「もうすぐそこなんだから、見てきたらどう?」


パンテオンか、と店の外に目をやった。
偉人が眠る巨大な廟のようなそれ自体に興味はない。
しかし時間はある。


「近いんだっけ」
「ほんの5分程度歩けばつくよ」
「んじゃ、行こうかね。ありがとうマダム」


店を出ると、大学の校舎やアパルトマンの隙間から、どでかい石造りの屋根が覗いていた。
なるほどすぐそこだ。
ちらりとのぞくそれを目印に、横断歩道を2つほどわたり、パンテオンを目指した。
近くまで来ると、なるほどさっきの塔ほどの高さはないが、立派なもんだ。
建物前の真っ白な階段が、照り返しでひどく眩しい。
受付で金を払い、中に入った。
入り口付近は薄暗かったが、中はわりと明るい。頭上から光が入っている。
数枚の絵画が、壁に飾られていた。
ぼんやりとそれを見上げながら、通路を進む。
だだっぴろい空間が広がっていた。
床には円形の文様が彩られており、正面には絵画と彫像が立っている。
たしかここに、有名な実験に使われた振り子がそのまま残されているはずなのだが、見当たらない。
見当たらないような大きさのモンじゃねぇはず、と受付で受け取った冊子をぱらぱらとめくっていると、背後からおれを追い抜いて行った観光客が「振り子は修理中だ」と話しているのが聞こえた。
なるほど、まぁそんなもんだ。

なめらかに続く床の中心に断ち、真上を見上げると目が回りそうだった。
遠くから細々と人の話し声が聞こえる。
世界の偉人達がこの地下に眠っている。
足の裏がひんやりと冷えた。
とても心もとない。
ナミさんに会いたいな、と思った。


「お兄さん、ひとり?」


不意に背中に声がかかった。
振り向いて、ふらりと足元がよろめく。
上を見上げていたから立ちくらんだのだ。
頭上から降り注ぐ日の光の下、ナミさんは少し得意げな顔で立っていた。


「え?」


ナミさんはにまにまとおれを笑っている。


「お兄さん、おひとり?」


彼女は確かに、フランス語でそう言った。


「……ナミさん?」
「来ちゃった。びっくりした?」


そう言って歩み寄る彼女はとても身軽で、Tシャツにショートパンツ、肩から小さなショルダーバッグを一つ提げているだけだ。
いつまでもぼうっとしているおれに、ナミさんが「ちょっと」と口を尖らせる。


「せっかく来たのに何よその反応は。嬉しくないの?」
「えっ、いや……え?本当にナミさん?」
「じゃなかったらなんなのよ」
「いやいや……いやいや待って」


ごくりと生唾を飲み込み、乾いた咥内が余計にかさつく。


「な、なんで?」


おそるおそる問いかけると、ナミさんはにまーっと可愛らしく口角を上げた。


「サンジ君にお休みくださいってお店に電話したの」
「えっ、うちの?」
「そう。そしたらいいよって」
「いいよ……」


突然舞い込んだ休日の真相があまりにあまりだったので、思わず言葉を失う。
ナミさんはするりとおれの腕を取った。


「さっ、どこ行く?私もう明日帰るの。サンジ君も明日は仕事でしょ」


おれと腕を組むナミさんを呆然と見下ろすと、彼女はまた顔をしかめた。


「いい加減シャキッとしなさいよ!半日しかないって言ってんでしょ!」
「ハイッ!」


思わず背筋を伸ばしたおれに、ナミさんは満足げな顔でヨシと言う。

どうしてナミさんがここまで来てくれたのかとか、なんでこの場所で出会ったのかとか、そもそもおれの休みはそんな簡単に取れるもんだったのかとか、いろいろ不可解なことは多かったが、腕に当たるナミさんの柔らかさにそんなものはすべて吹き飛んだ。

「そうだ」と呟いて、ナミさんはごそごそとカバンから雑誌を取り出した。


「私ね、これ見たいの。別に観光地じゃないんだけど。橋にいっぱい鍵がついてるんでしょう?」


別に私たちもしたいとかじゃなくて、と小声で言い添えた顔はほんのり赤い。


「こりゃ、橋が落ちるどころの騒ぎじゃねェな」
「なに?」
「いやいや」


行こうか、と彼女の身体を引き寄せた。

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 麦わら一味では基本オールキャラかつサンナミ贔屓。
白ひげ一家を愛して12416中心に。
さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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