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OP二次創作マルコ×アン(エース女体化)とサンジ×ナミ(いまはもっぱらこっち)を中心に、その他NLやオールキャラのお話置き場です
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入り組んだ入り江の端に船を泊めていた。
港町は酒盛りの時間を過ぎて静まり返っている。
散歩でも、という下心が見えるような見えないようなおれの言葉にナミさんはきまぐれに乗り、一緒に船を降りた。

しばらく海辺を歩くと、漁港らしい海産施設が見えなくなり、代わりに森というより雑木林のような木々が生い茂る一帯に行き着いた。
他愛無い話をしていたはずだ。
この間停泊した島でルフィが起こした珍騒動や、ウソップが釣り上げた奇妙な魚の調理法や、そんなことをかわるがわる話していた。

不意に彼女が足を止めた。
横を歩くおれの肩が彼女のそれに軽くぶつかり、「あ、ごめん」と反射で口にしかけたおれをきつく短い声が遮った。


「黙って」


彼女のその言葉に吸い込まれるように、静寂がすっと広がった。
風のない夜だ。
虫や鳥のささめく声がどこか遠くから聞こえるようでもあり、とても近くから感じるようでもある。
コップに入ったひたひたの水が表面張力でぷっくりと膨らんでいるときみたいな、妙な緊張感がナミさんからおれにダイレクトに伝わっていた。
そして、そのときに聞こえた。
ずっ、と何か大きく重たいものが短い距離を這うような音。
同時に、本当に小さく、がさっと葉や枝がこすれあった。
そして何より、押し殺したような息遣いがたしかに聞こえていた。

ナミさんは突然、猛然と走り出した。
暗闇を怖がりおれに半歩近く歩いていた彼女の姿は嘘のように、今はおれのことなど忘れて一目散に音のする方へと駆けていく。
牝鹿のように鋭い足音で走る彼女をおれもまた慌てて追いかける。
距離はたった50mほどだったと思う。彼女が立ち止まるのと、追いかけたおれが立ち止まるのはほとんど同時だった。

複雑に重なり合った背の低い木々の生い茂った茂みの中、うずくまる人の背中があった。
いや、うずくまるというより四つん這いになっている。
そして四つんばいになった脚の間から、また別の足が伸びていた。
半分欠けているとはいえ、月の光がその醜悪な光景をあきらかにしていた。

四つん這いになっているほうが、ハッとおれたちを振り返る。
二回りは歳が上だろうかという冴えない男のツラが光にさらされた。
そしてその隙間から、男の手が押しつぶすように小さな顔を覆っていた。
長い髪が四方に広がり乱れている。

男が何か言葉を発したり、ましてや逃げるようなそぶりをするよりもはやく、おれの右隣りで二回ほど金属が噛み合うような短い音が響いた。
ナミさんのサンダルがやわらかい海辺の土を削る。
コーラ瓶のようにくびれた腰を斜めにひねると、彼女の手にしたタクトは風を切ってあやまたず男の横っ面にめり込んだ。
男は声も出さずにただ鈍い音だけを立てて文字通り吹っ飛んだ。
素早くその身体をナミさんが追いかける。
ようやく「う」と一言男が呻いたところでまたもやタクトが男を襲った。
今度は腹を一突き。
男は身体をくの字に折り曲げ、うずくまるように座り込んだ。
そこをまた彼女のタクトは振り子のように大きなカーブを描いて男の頭頂部を殴りつける。

おれはその場から動くこともできず、ただひたすらタクトを的確に動かして男を殴りつけるナミさんの顔を見ていた。
健康的に焼けている肌が今ばかりは月の光に照らされ青白い陶器のようで、少しばかり歯を食いしばった真剣な顔は美しく、どこかでみた教会の女性像を思い出した。

そのとき、ハッと短い息遣いが耳に飛び込んできて、ようやくおれは倒れたままのもう一人の存在を思い出した。
見ると、襲われていた長い髪の持ち主はまだ年端もいかない少女で、彼女はボタンのないシャツを胸の前でかき寄せてずり下がった長いスカートをもう一方の手で必死に握りしめていた。
ああ、と思わず呻きながらジャケットを脱ぎ、細い肩にそれを羽織らせようと近づいた。
しかし少女は、短い悲鳴を上げて逃げるように後ずさる。
──おれが怖いのか。
ストレートにおれを拒絶した少女に、おれまでがひるみ手が止まってしまった。
助けを求めるようなつもりはなかったがおもわずナミさんの方を振り向くと、仁王立ちする彼女のタクトから細い針のような光が男に突き刺さり、男がビクッと大きく痙攣する。そしてそのまま動かなくなった。

戦闘のとき、大勢を相手に彼女が作り出す雷雲から降り注ぐような稲光は、浴びると強烈な電撃でその身体は黒く焼け焦げる程だった。
正直彼女がタクトを振りかざした後は身の毛もよだつような黒焦げの山ができあがり悲惨な光景になるが、今目の前で大きく身体を跳ねあげて動かなくなった男を少し荒くなった息を吐きながら見下ろす彼女の後姿の方が、ずっと背筋を冷たくするものがあった。

おもむろに振り向いたナミさんは、おれを見ることなく少女にまっすぐ視線を注いでずんずんと歩み寄ってきた。
おれの手からジャケットをもぎとると、風呂敷を広げるような仕草で少女を覆った。
片腕で小さな少女の肩を抱き、「サンジ君」と言う。


「あとお願い」
「──了解」


ふたりを残し、伸びた男の方へと近づく。
顔を覗き込むと、両頬は青く膨れ上がりまぶたも腫れて、さんざん彼女に殴られたひどいありさまのまま血の混じった液体を口の端から滴らせていた。
ちょい、と靴の先で脇腹をつつく。
触れたらおれまで感電しやしないかと少しびびったのだ。
どうやらその心配がないらしいので、手首を取って脈を確認した。

──ああ、こりゃ死にかけだ。

ということはまだ生きている。
ちらりと足の方に視線を走らせると、だらしなくベルトが緩みズボンのチャックが開いていた。

かわいそうに。
おれを見上げて引き攣った顔であとずさった少女の身体が、間に合ったのか間に合っていなかったのかはわからない。
種火から炎があがるときのようにひらっと怒りが立ち上がったが、天誅は十分彼女からくらっている。
おれは伸びた男の上体を起こすと、男を肩に担ぎあげて歩き出した。


5分も歩かないうちに、港町の入り口に辿りついた。
入り口にはアーチがあり、そのすぐ下に男を乱雑に振り落す。
町に入ってすぐのところに確か駐在所があった。そこの人間がいずれ男を見つけるだろう。
町のはずれでいやしく若い娘を襲っていた男だ、きっと前科か何かあるはずだ。
腹立ちまぎれに一蹴りしてやりたくなったが、馬鹿馬鹿しくて踵を返した。

振り返ると、ナミさんと、その横を頼りない足取りで歩く少女がおれのジャケットに腕を通さない状態できっちり前のボタンを留めているのが見えた。
少女が目の前に立つおれに気付くと、表情の薄い顔でナミさんを見上げ、ジャケットを脱ごうともがく。
おれは首を振り、「あげるよ」と言った。
少女は掬い上げるような目でおれを見上げ、ほんの少し頭を下げた。
そして、手のでないてるてる坊主のような格好のままおれの横を通り過ぎ、街へと走り去って行った。
ナミさんはとても静かな顔をして、その後ろ姿を黙って見送っていた。

彼女と向かい合う格好のまま、おれはどうしたもんかと空を見上げたが、どうしようもないので「帰ろうか」と声をかける。
ナミさんが小さく「うん」と答えてくれたことに、思いのほかほっとしていた。

船までの数分の距離を並んで歩いた。
ナミさんの足取りはいつもより少し遅く、おれはその風下側で煙草を咥えながら付いていく。
手を繋ごうかと考えたが、結局手を伸ばすことができないまま船についた。

タラップを上がったすぐそこにチョッパーがいて、おれより先に上がった彼女が驚いて名前を呼んでいた。
確か船を降りたのは日付が変わるころのはず、チョッパーにしては随分なよふかしだ。


「あれ、ナミ、サンジ」


寝ぼけ気味の声でチョッパーはおれらを見上げ、首をかしげる。


「どっか行ってたのか? さんぽ?」
「うん。チョッパーこそどうしたの」


ナミさんが尋ねると、チョッパーは大きな頭をふらふらと揺らしながら答えた。


「トイレに起きたんだ。ロビンが甘いワインをあっためてくれて……それ飲んだらしたくなちまって。部屋から出たら月が綺麗だったから、見てた」


そう、とナミさんがうなずく。


「うん、でももう寝るよ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ」


ふらふらと蹄を振って、チョッパーはとことこ男部屋へと戻っていった。
チョッパーが去ると、まるで毒気が抜かれたような気分になってぬるい夜の空気が身体を弛緩させた。
ナミさんを見ると、彼女も同じようでおれと目が合うと少し口の端に笑みを見せた。


「何か飲む?」


尋ねると、特に考えた様子もなくナミさんは頷いた。
キッチンの扉を開けると甘いワインの香りが開いた扉から外へと溢れていった。
コンロにかけたままの鍋には、赤ワインが少し、ちょうど二人分は残っている。
おそらくロビンちゃんがおれたちが帰ってくることを見越して、少し多めに用意してくれていたのだろう。
彼女の気の利いた厚意に甘えておれは鍋に火をつけた。
ナミさんはカウンターの端の席に座り、ゆったりと肘をついている。
壁にかかったスパイスの瓶からクローブの実とシナモンを取り出し、小さく薄い布の袋に詰めて鍋に放り込んだ。
少し味見をすると、ワインのアルコールはほとんど飛んでいた。
チョッパーが飲んだのだからお子様仕様になっているのだろう。
おれはとても飲む気分ではなかったのでよかったが、一応ナミさんに確認するとかまわないと一言かえってきた。

ことことと、ワインが煮える音が足音のようにキッチンに響いた。
時折大きな波の音が覆い被さり、足元を揺さぶる。
ナミさんはその動きに身を任せるみたいに目を閉じていた。


「眠い?」
「──少し」


そっとナミさんが剥き出しの腕を擦った。


「寒い?」
「ううん、だいじょうぶ」


赤く染まったスパイスの袋を取り出し、ワインを鍋からカップに移しているとナミさんが立ち上がった。


「アクアリウムバーに行っててもいい?」
「いいよ。持っていくから先行ってる?」
「うん」


ナミさんがキッチンを出ると、すっと部屋の中が暗くなった気がした。
トレンチにカップを二つと、残しておいたおやつのクッキーを皿に移しておれも後を追った。

アクアリウムバーの中は水槽だけがぼんやりとした光に照らされて、青く染まっていた。
ソファにぽつんと座るナミさんまで全身が青く照らされ、水に溶けたように見える。
ワインのカップを差し出すと、ナミさんは慎重に両手で受け取った。


「おいしい。ワインの香りはするのに……アルコールの味がしない」
「あっためると随分飛んじまうからな。酒の方がよかった?」


ナミさんは悩まず首を振り、また一口カップに口を付けた。
隣に腰を下ろし、おれも熱いそれを口に含む。
とん、と肩に小さな重みが乗ったのは、黙って飲み始めて数分経った頃だった。


「殺しちゃうかと思った……」


ぽつりと零した物騒な言葉に、思わず笑いそうになるがぐっとこらえて飲み込んだ。


「自分のことでも、仲間のことでもないのにあんなに腹が立つなんて」
「おれがトドメ刺しといたほうが良かった?」
「ううん」


どうでもいい、とナミさんは呟く。
少し顔を傾けると、鼻先に彼女の頭頂部の髪が触れた。
おもいがけずといったふうにナミさんの濃い香りが鼻腔をくすぐった。


「サンジ君がいてくれてよかった……」


頬擦りをするように、ナミさんがおれの肩に頬を押し付けた。
その仕草を見て、彼女があんなありふれた犯罪を目の当たりにしてひどく傷ついているのだと気付き、驚いた。
知らないはずがない、海のほかにも、陸にも山にもどこにでもあんな暗く汚い場面があふれていることを。
でもおれは、それを知った頃の彼女にジャケットを掛けてあげることはできないのだ。
その代わり、カップを持たない方の手で彼女の背中側に腕を回し、指の腹で小さな頭を撫でた。
おれの肩に頭を預けていた彼女が、おもいだしたようにカップを口に運び、ホットワインを飲む。
それを繰り返し、彼女が「美味しい」と呟くたびに生きた心地とでもいうべき温かい血が足の先まで広がる感じがした。
そして彼女が少しでも明日に傷つかないように、おれはメシを作り続けるんだろうと思った。

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さらにはエース女体化でポートガス・D・アンとマルコの攻防物語。



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